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鬼畜王K1 〜鬼し編・其ノ拾弐〜<暗雲>

その61からその63まで収録





それ獣は三を群と為し、人は三を衆と為し、女は三を粲(さん)と為す。
それ粲は美の物なり。
小醜(しょうしゅう)物を備ふれば、終(つい)に必ず亡ぶ。

【小人が美しいものを独占すれば、必ず破滅が訪れる】

『国語』巻第一「周語 上」より


汗と唾液まみれの身体をようやく離して、魅音を支えながら立ち上がる。
散らばった衣服を整え、身なりを元に正した時に、ハッと気付いた。

「レナは――どこに行った」

魅音も俺の声に気付き、蒼白になって辺りを見回す。教室の中には、俺たち以外の人影は無かった。
ということは、俺と魅音が抱き合っている間に、ここから去ったのか。

――今さら、悪いことをした、という思いがこみ上げて来た。
俺の方からレナをいいように使いつつ、待たせた挙げ句に、魅音と交わることに我を忘れるとは。
レナもまた、俺の牝狗で――いや、俺を好きでいてくれている。
あいつにも、心が有る。肉体は別にして、俺のことを思いやる心が。
――そういうものに思いが至るようになったのも、数日前の俺なら信じられんが。

「…!け、圭ちゃん…」
魅音に呼びかけられて振り向く。彼女は未だに半裸のまま、震えながら床を指差した。

「なんだ、これは。――まさか…血!!?」

紛れも無く、レナの血痕だった。魅音の破瓜時のものではなく、量も違う。
血溜まりというほどではないが、ところどころに飛び散っていて、レナの手形までついている。彼女がここを拭き取ろうとしたのか。
さらに、それは廊下の方までぽつぽつと続いていた。
「――レナが、通った足跡だ」
俺は堪らず、それを辿る。教室の外に出ようとした時、魅音に声を掛けた。
「魅音!俺はレナの後を追ってみる。お前はここを元通りにしてくれ!
――レナの足跡を見失ったら、また戻ってくる!」
魅音が頷いて、俺はそのまま廊下に走り出る。
足跡は廊下から下駄箱まで続き、レナの靴箱にまで付着していた。そのまま外に出たに違いない。
靴を履いて出たなら、足跡は発見しづらいかもしれない――と思っていたが、幸か不幸か、血痕が赤い点となって校門まで続いていた。
これは普通じゃない。何かレナの身にあったに違いない――と、空恐ろしくなった。

校門から出ると、さすがに灰色のアスファルトに垂れている分、色が混ざり始めて血痕が発見しづらかった。
なんとか注意深く見つけるが、その時ようやく閃いた。
「――レナがまず向かうとすれば、自宅しかない」
気が動転して気付かなかったが、連れ去りでも無い限り、まず帰宅したと考えるべきだ。
見えにくい血痕を辿るのは切り上げてレナの家を目指す――というか、登下校の道を下ることになった。――当然、焦る気持ちから、全速力で。

だが、途中の坂道で、俺は思わぬ人を見つけた。

「…ッ!!知恵先生ッ!!?」

坂道の真ん中に座り込んだ知恵がいた。俺は走り寄って、彼女に問いただした。
「どうしたんです、知恵先生ッ!こんなところで、どうして座り込んで…ッ!?」
すぐに、彼女の異常に気付いた。
知恵は両肩を抱えながらがたがたと震え、恐ろしいものでも見たかのように、焦点の定まらぬ目で虚空を見つめていた。
「どうした、知恵ッ!!なにがあったッ!?なにを見――って、お前、その腕ッ!!?」

彼女の右腕に、紅い血痕があった。

知恵はどこも怪我をしていない。誰かに腕を掴まれたか、触れた時に血が付いたのだろう。今は少し渇き気味になっていた。
さらによく見ると、首筋にも同じように血が付着している。誰かに首筋を撫でられた時に付いたということか。
――いや、もう『誰か』なんて言い方はよそう。

「――レナに、会ったのか?」

知恵はビクリと身体を震わせた。
「…前原、く…ん…」
「…ここでレナに会ったんだな、知恵…。下校するあいつを呼び止めたか?」
「前原くん…駄目、駄目です…!」
「…駄目、とはなんだ?」
「駄目です、あの子を追いかけてはいけません!あの子は…あの子は…」
知恵は再びガタガタと震え、俺の胸にうずくまるように身体を預けてきた。
涙まで浮かべるほど弱り切っている彼女を、これ以上問いつめるわけにもいかなかった。
俺は知恵を伴い、一旦教室へ戻ることにした。魅音を一人にしておくのもまずいだろう。
二人でゆっくりと歩き出しながら、俺は思案を巡らせていた。

――レナは、いったいどうしたというんだ?
――知恵がレナをここまで恐れる理由は何だ?
――こいつはレナの何を――見たんだ?
――魅音も、知恵も、レナも、そして俺も――これから、どうなるんだ?

答えは出るはずもない。答えられる人もいるわけがない。
暮れ行く夕闇の中に響く、ひぐらしたちの鳴き声しか聞こえなかった。



もう私の居場所は無いんだね、圭一くん。

『私の』圭一くんは、どこかに行っちゃった。

私もどこかに行きたいな。ここは、もういいや。

圭一くんが好きな場所なら、私はどこでもいいよ。

私はついてくから…圭一くんと一緒なら…どんなところだろうと…

二人なら…二人なら…

そう、私と圭一くん以外はいらない。
誰も要らない。何も要らない。必要無い。
何も…何もかも。
私と圭一くんがいる世界だけでいい。

居場所は作るもの。奪われたら、取り戻す。
居場所は護るもの。邪魔するモノは、削除する。

なぜなら。
『ソコ』は――元々、レナの場所だから。
『アレ』は――元々、レナを選んだから。
『ソレ』は――元々、レナしか見てなかったから。
『カレ』は――元々、レナの『モノ』だから。

――竜宮レナハ、戦ウ。
圭一クン、きみノタメニ。

…あはははは、それを邪魔するんだね?
あなたも、アナタも、貴方も…レナの『モノ』に近付くんだね?
――仕方ないなぁ。それじゃあ――




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<続く>

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最終更新:2008年02月11日 23:41