あれ? あれれ?
何かおかしいな、おかしいな。
レナどうしちゃったのかな、かな?
「あんっ、あっ、け、圭ちゃんっ! 気持ち、いい、よっ!」
「俺もだっ! 魅音! くっ」
教室から変な声が聞こえてる。誰の声? 人間? 獣みたい。あはっ。
誰もいないはずなんだよ、だよ。だってもうほら、こんなにお外は暗いもの。
先生たちもいないから、本当はレナもいちゃいけなかったはずなんだよ。
でもしょうがなかったの。忘れ物しちゃったんだもん。だからしょうがないよね、よね。
「はっ、あっ、ふぅんっ」
ああ、頭が痛い。首が痒い。なんなんだろう、これ。手がぬっとりしてる。
今まで宝の山に居たから虫にでも刺されちゃったのかな、かな。
「み、魅音っ!」
痛いな痛いな。苦しいな苦しいな。
でも、気持ちいいな。気持ちいいな。
気持ちいいって?
ああ、何だか変な気持ち。何かが昇ってくる。股の間から、得体の知れない何かが。
目の前で刃先が揺れてる。暗闇の中で歪んでる。ああ、勝手に教室の中にいこうとしないで。
痛い、痛い。気持ちいい、気持ちいい。
「い、イクっ! 圭ちゃんっ」
「お、俺もだっ! 魅音っ」
あ、あ、手が震える。中が震える。わかる。
圭一くんと魅ぃちゃんの声に呼応するように、堪えきれない何かがレナの中で弾けた。
空気が足りない。肺が酸素を求めてる。荒々しい呼吸が真っ暗な廊下に響いている。
あれ? あれれ?
今、圭一くんって……、魅ぃちゃんって……、レナ言ったよね、よね?
どうしてかな、どうしてかな? 二人がこんなところにいるわけもないのに。
「魅音……」
「圭ちゃん……」
でも声は聞こえる。耳がずきずき痛む。胸がずきずき痛む。
レナの中心が、なぜか痛む。
なに、これ?
目の前にかざした鉈。柄の部分に血が付着していた。ぽたり、ぽたりと滴が落ちていく。
ショーツも同じ色で滲んでいた。透明な液が見えづらくても、その周りに飛び散っていた。
あ、レナ……どうし、て? 汚れちゃったのかな、かな……? でも、誰に?
「セックスってこんなに気持ちいいんだな……」
「うん、そうだね……」
え? 今なんて? セック……ス?
誰と誰が? 
教室の中には声の主しかいないんだよ、だよ。
でもレナはここにいるよ。
あはは。つまりはそういうこと。
どういうこと? 
……。 
ドアの隙間から、二人が重なりあっているのが見える。結合したままの状態で。
冷たい月の光が、レナに見えるようにそこを照らして、同じように血が出ているのが見えた。レナと同じように。
ああ。なんだ、そうだったんだ。
レナの処女を奪ったのは圭一くんだよ、だよ。
だって私の大事なところからも血が出てるもの。 
あれ? でもなんで魅ぃちゃんと……。
そっか、そっか。レナと魅ぃちゃんは一心同体だったんだよ、だよ。
そういえば前にそんなことを笑いながら言ってたような気がするかな、かな。
もう、魅ぃちゃん、駄目だよ、だよ。勝手に入れ替わるなんて。
急だったからレナ困っちゃったんだよ、だよ。後でお仕置きだね、だね。
あれ? でもどうやったら入れ替わるんだろう。
……漫画みたいに、頭をぶつけ合えばいいのかな、かな?
ああでも、痛いのはレナやだよ、嫌いだよ。
さっきとっても痛かったもの。どこが? どこだっけ? まぁいいや。
だったら今度は魅ぃちゃんの番かな、かな。
魅ぃちゃんが痛い思いすれば、入れ替われるよね、きっと。絶対。
峰ならそんなに痛くもないだろうし。
あれ? さっきより柄に血がたくさんついちゃってるよ?
手にもにじんでる。皮膚が裂けてる。何気なく手をやった首もぼろぼろだ。
まぁいいか。今はこの扉を開けることから始めよう。
レナは、真っ黒な扉に手をかけた。
扉が開いて世界が壊れたような音。ひどく耳障り。でもそうしたかったからいいよね。
「れ、レナ……」
圭一くんが凄い顔してる。今まで見たこともない形相。可笑しい。
またレナの知らない圭一くんが知れたと思って嬉しかったから。ふふ。でも、なんでかな。
なんで、射抜くように避けるように窺うように疑うように恐れるように、視線を眼差しを瞳の奥をレナに向けてくるのかな。
なんで脚が震えているのかな後ずさろうとするのかな転んでしまいそうになるのかな。
「こんばんは。圭一くん、魅ぃちゃん」
レナこんな声だったかな? 頭の中でいつもより低く声が響いてる気がするよ。
「お…前、なんだ、その鉈、は……っ」
なにそのかすれ声。なんだかとても情けないよ。圭一くんってこんな人だったかな?
なんで鉈がそんなに気になるの? レナいつも鉈持ってたじゃない。今更驚く必要もないと思うのに。
あ。握った柄から血が垂れてる。……誰の血だっけ? 忘れちゃったな。
あ。そっか。圭一くん、これがレナの血だと思って心配してくれてるんだね。
ありがと、圭一くん。レナ嬉しいよ。レナ、一番の笑顔で応えるね。
「ひっ…!」
そうだよね、そうだよね。だからそんなにぶるぶる震えてるんだよね。
レナの血だったら大変だもんね。少ししか垂れてないけど、もしかしたら致命的なものかもしれないし。
だったら圭一くんが青白い顔でレナのことを気にかけてくれるのも納得だな。
でも、どうしてじりじり離れていくのかな? 本当に、レナが死にそうな怪我してたら怖いからかな。
うん、愛してる人が今にもこの世から消えるなんて知ったら、きっとすごく怖いよね。
優しい圭一くん。でもレナ大丈夫だよ。これが何の血かは分からないけど、レナはすっごく元気だよ。
だから、こうして、何のぎこちなさもなくて机に鉈を突き立てることもできるし。
圭一くん、安心して?
「み、魅音……!」
どうしてそこで魅ぃちゃんの名前が出るのかな。
「うわぁ!」 
あ~あ。ズボン刷り下げたままで走ろうとしたら、そうなっちゃうよね。
おまけに打ち所が悪かったみたい。受身もとってなかったしね、圭一くん。頭抱えてるけど、平気かな、かな?
介抱してあげないと。レナの圭一くんが傷つくところなんて見たくないもん。
よく見たら、額に血が滲んでる。これは止血したほうがいいよね。あ。どくどく流れ出した。結構深いのかもしれない。
でもどうしよう。一体何で止血したらいいんだろう。
見回しても、それっぽいものが見当たらない。暗いから電気をつけてみようかとも思ったけど、なんとなく嫌だった。
……机に座った魅ぃちゃんのシルエット。やっぱりいやらしい身体してるね、魅ぃちゃんは。
それ、制服かな。身体を隠してるんだろうけど、横から見たらおっぱいもおま○こも丸見えだよ。
でも綺麗だから許してあげる。すごく綺麗だから許してあげる。すごくすごく綺麗だから。
レナがお持ち帰りしたくなっちゃう。なっちゃうな。
「痛っ」
……? え? 掌がぐちゃぐちゃに裂けてる……?
うう、痛いな痛いよ。どうしてレナの手が怪我してるのかな、かな。レナ何もしていないのに。
鉈の柄にもひびが入ってるみたい。みしみし音を立ててる。血がさっきよりずっと多い。
気になったけど、今はレナより圭一くんのことのほうが心配したほうがいいよね。
ううぅん……。レナのお気に入りの服だけど、しょうがないかな、かな。圭一くんのためだもんね。
びりびりびり。
思ったより簡単に破けちゃったな。何だかバランス悪いから左の裾も破っちゃおう。
びりびりびり。
おかしいな、おかしいな。何でこんなに細くしか切れないんだろう。包帯よりもずっと細くなっちゃった。
これ、二本編んだら縄みたいになっちゃうかな、かな。あ、そんなことはどうでもいいんだった。
「圭一くんっ」
「……っ! うわぁあああっ!」
どうして逃げるの? レナ、圭一くんの怪我の応急処置しようと思ったんだよ、だよ?
少し短いから、額に巻くには力入れないといけないかもしれないけど、止血だからちょうどいいよね。
圭一くんがじっとしさえしていてくれれば、すぐに終わるよ。うん、きっとすぐに終わると思うよ。
だから、レナの近くにきてくれないかな、かな? 圭一くん?
「こっ、こっちに来るんじゃねぇっ!」
……うん。圭一くんがそういうなら、レナ近づかないよ。
だって、圭一くんがレナの方に来てくれるってことだもんね?
どれだけ待てばいいかな、かな。
「……」
「……」
もうレナ待てないよ。
圭一くんの傍に行きたいな。レナの傍にきてほしいな。
「っ! く、来るなよっ!」
大丈夫。少し悲しいけど圭一くんに近づかなければいいんだよね? レナ、ちゃんと約束は守れる女の子だよ?
よく見て、圭一くん?
レナが行こうとしているのは、圭一くんが背中にかばっている魅ぃちゃんのところだよ?
「ひっ、や、やめろっ……レナぁっ! な、鉈を、下ろせよぉおおおお!」
うん、下ろすよ。振り、下ろすよ。
がきぐがっ。
どすん。
「……」
圭一くん、どかないから。
どいてって思ったんだけど、うまく伝わらなかったみたいだね。
あれ? 鉈の方向がおかしいな。血がついてるのは峰のほうだよ?
いつの間にか、持ち替えていたのかな。知らないけど。
でもよかった。大好きな圭一くんが死ななくて。峰ぐらいなら何でもないよね? 圭一くん強いもん。
ひょっとして。
圭一くん、レナに教えてくれたのかな? 刃が逆に向いてるぞって。
レナがそれに気づいてなくて、教えようとしたんだね。そういえば、笑ってたような気がする。
ありがとう、圭一くん。レナ馬鹿だったね。鉈なんてずっと持ちなれていたはずなのに。
心の中で笑ってたよね、圭一くん。何やってんだよ、レナって。ふふ。
次は、間違わないよ。
「魅ぃちゃん」
「……」
さっきから一言も喋らないのはどうして?
ねぇ魅ぃちゃん。
「ふ、ふふ」

「ふふ、あは、あーっはっはははははははは!」
……なにがそんなにおかしいのかな、かな。
大口開けてみっともないったらないよ。魅ぃちゃんに似合わない。
レナが閉じさせてあげるね。
「あ、と。そこまでです」
ばちばちっ。
う……?
……夜なのに、なんで一瞬明るくなったの? ん……今度はさっきよりもずっと暗くなっちゃった。
あれ? 力が……入らない? あ、レナの鉈が……。
がちゃん。
膝が……? …う、机、手…え、支えられない……。
どすっ。
黒板……、天井に、なっちゃっ、た……?
どすん。 
「今日は私だと分からなかったんですか? ふふ」
詩ぃ…ちゃん……?
ああ、また、視界が明るくなっていく……よ。

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最終更新:2021年10月24日 22:05