前回までのお話



「おい。魅音、大丈夫か?もう外は真っ暗だしさ、そろそろ帰ろうぜ?」

そう言う圭ちゃんの声が耳に微かに届く。
ボーッとする頭で、さっきまでの事を思い出す。

ああ、そうだ・・・私は圭ちゃんのペットになったんだよね?
いや彼女かな?
それとも両方だっけ?分かんないや・・・。
悲しい、悔しい、嬉しい、どれか分からない涙が一滴頬を流れた。

力の入らない手を支えにして、ゆっくりと身体を起こし、足首にかかっているショーツを履き、乱れた制服を直しながら口を開く。
「うん。そうだね・・・。早く帰らないと圭ちゃん怒られちゃうね」
ちなみに婆っちゃは今日からお母さんとお父さんに連れられて北海道に旅行に行っている。
確か三泊して帰って来る予定だったはずだ。
だから遅く帰っても大丈夫だが、圭ちゃんの両親が心配するだろう。
「それは大丈夫だ。俺の両親は、昨日から一週間程東京に行ってるんだ。何か大きなイベントに作品を出品するらしいから、落ち着いた環境で仕上げたいんだとさ」

なんだ。圭ちゃんも似た様な状況か。
そして深い意味も無く婆っちゃが旅行に行った旨を話した。

「くっくっく!そうか、そうか!じゃあ明日は俺の家で泊まり込み調教だな!」

内心、しまったと思った。
だが、それ以上に何か期待してしまう自分がいた。
たった数時間で、こんなに濃密な体験をしたのだ。丸一日も一緒にいたら、どうなってしまうのだろう?
恐らく私に拒否権は無いだろうし、圭ちゃんと一緒に居たいという気持ちの方が強い。
「分かったよ。おじさんは明日の何時頃に行けば良いの?」
そして何か考えてた圭ちゃんが開口一番こう言った。
「そうだなあ、朝の九時に来てくれるか?」
「了解!んじゃ帰ろう?」

「おう!その前に済ましておく事が有るけどな!」
「へ?・・・っ!?」

私は急に抱き締められ、思考がフリーズする。
「魅音に俺の印を付けておいてやるよ」
そう言い、私の首元に圭ちゃんが吸い付く。
くすぐったくて、少し痛い。でも全然嫌じゃない。

一分程、そうしていただろうか。
圭ちゃんが私の身体を解放した。
「これでよしっ!ああ、それとこの体操服洗っといてくれ」
と言われ、体操服の入った袋を渡された。



そこからの事は、よく覚えていない。
気が付いたら自分の部屋の布団の上で、以前圭ちゃんがくれた人形を抱き締めていた。
圭ちゃんと途中まで一緒に帰りながら、色々話した気がする。
そして帰ってきて、ボーッとしながら夕食を食べ風呂に入ったのだろう。
寝間着代わりにしている白い着物まで着ていた。

ふと横を見ると圭ちゃんの体操服の袋が目に入る。
「そうだ洗濯しなきゃ。明日の朝までに乾くかな?」
時間を見ると夜の九時を周った所だった。
今から洗って干せば朝には乾くはずだ。
袋を持って洗濯機のある脱衣所に向かう。
そして袋から体操服を取り出した時、汗臭い男の体臭が鼻をつき、無意識の内に体操服のシャツに顔を埋めていた。

「んっ・・・」
濃厚な圭ちゃんの匂いに包まれ、私の『女』の部分が熱を帯びる。

ゴクッ。

生唾を飲み込み、自分に言い聞かすように口を開く。
「す、少しだけなら良いよね?・・・うん。ほんの少しだけ・・・」
体操服を洗濯機の上に起き、私は恐る恐る胸に手を伸ばす。

「んっ・・・はぁ・・・」
胸元の隙間から手を差し入れ胸をまさぐる。
匂いを嗅いだだけで興奮したのだろうか?
手の平にコリコリとした感触があり、乳首が早くも硬くなっていた。
親指で転がす様に刺激すると甘い吐息が口から洩れる。
洗濯機の上に置いた体操服に顔を埋め、胸をまさぐる私は圭ちゃんの言う通り『匂いフェチの変態』そのものだ。

「はあはあ・・・圭ちゃん・・・。んっ・・・ひぅっ!」

私はショーツの上から指でクリトリスを擦った。
その瞬間ピリピリした刺激で腰が抜けそうになる。

そしてハッと我に帰った。

急に自分が情けなくなり涙が溢れ出すのを感じる。
「ふぇ・・・。グスッ圭ちゃんゴメンね・・・。私、変なのかな・・・?うっうっ・・・ふわああああん!!!!!」
床にへたりこみ、激しく泣いた。

その後落ち着いた私は洗濯機で体操服を洗った後、外に干して布団に入った。
泣き付かれたのか、目を閉じるとすぐに意識が遠くなっていくのを感じた。



ピピピピ!

「・・・・・・んん~っ?」

目覚ましの電子音で目が覚め、重たい瞼を開いて目覚ましを止める。
時計を見ると朝の6時。普通の休日なら二度寝タイムに突入する時間だが、今日は九時までに圭ちゃんの家に行かないといけない。

「ふわあ~~~・・・」
大きな欠伸をして布団から抜け出す。
圭ちゃんの家にお泊りするのだから、身体は綺麗な方が良いだろう。
それに調教と言いつつ、その・・・あの・・・。
あ、あああ愛してもらえるかもしれないのだ!
でも、その場合私の背中の鬼は見られてしまう・・・。

期待と不安と恐怖で混乱しそうになるのを堪え、替えの下着を持って風呂場へと向かった。

念入りに髪と身体を洗った後、風呂からあがった。もちろん歯磨きもした。
そして自分の部屋の鏡の前で悩みだした。
「軽めに御化粧した方が良いのかな?」
少し考えた後、リップだけ塗る事にした。
そして詩音から貰った香水を少し付け、服を着る。
時計を見ると八時半前だったので、着替えを適当に見繕い、財布やお泊りセット、乾いた体操服と一緒にトートバックに詰め込み、圭ちゃんの家へ向かった。



圭ちゃんの家に向かいながら、私って単純なヤツだなと思った。
圭ちゃんに一喜一憂して喜んだり落ち込んだり・・・。
ポジティブな考え方をすれば『過程はどうあれ、結果は圭ちゃんと恋人になれた』
ネガティブに考えれば『玩具の様に弄ばれる』

そんな事を考えてるとダウナーな気持ちになってくる。
そういえば、レナにはどう説明すればいいのか?
レナも圭ちゃんの事が好きだと言っていた。
そんなレナに『圭ちゃんの体操服でオナニーしてたらバレちゃって、紆余曲折を経て彼女兼ペットになっちゃった☆てへ☆』と説明しろとでも?

・・・・・・駄目だ、馬鹿にしてると思って確実に怒るだろう。
私はアホの子じゃない、一般常識くらい分かる。
ましてやレナは私にとって親友だ。
相手を怒らせたり悲しませる様な真似はしたくない。

気が付いたら圭ちゃんの家の玄関先に着いていた。
私は深呼吸をして、気持ちを切り換える。女は度胸!なるようになれ!!
そう自分に喝を入れてチャイムを鳴らした。

ガチャ。

「お、おおおひゃようっ!!圭ちゃん!!」
恥ずかしい。噛んでしまった・・・。
圭ちゃんは気にして無いのか
「おはよう。まあ魅音、立ち話もなんだ。入ってくれ。」
と私を促し家の中に入っていった。

その後「部屋に行っててくれ」と言われたので、部屋の中で圭ちゃんを待ちつつ辺りを見回す。
ちなみに圭ちゃんの家に入るのは二度目である。
前回は皆と来たので気にして無かったが、今日は引きっ放しの布団がやけに生々しく感じる。

数分後、麦茶を持って来てくれたので美味しく頂く。
圭ちゃんは麦茶を啜った後、喋り始めた。
「今日は調教の前に興宮に行くぞ。ちょっと買い物したいんだが良いか?」
「別に良いけど、何買いに行くの?」
「まあ食材やら色々だ。魅音の手料理も食べたいしな」
「ふぇ?て、て手料理!?む、無理だよ!」
「何で?」
「・・・失敗したら恥ずかしいよ・・・」
私は俯きながら話す。
「大丈夫だ。俺はどうしても魅音の手料理が食べたいんだ。」

少し考えた後
「・・・作ったら全部食べてくれる?」
と私は聞いてみた。

「当り前だ!むしろ残す訳無いだろ?」
「・・・ん。じゃあ、おじさん頑張って作るよ!」
素直に嬉しかった。
圭ちゃんの優しい言葉が私の胸を暖かくしてくれる。
「楽しみにしとくぜ!んじゃ行くか!」



荷物を部屋に置いて外にでて気付く。
「・・・あ!おじさん歩いて来ちゃったよ。興宮に行くなら自転車持って来ないと」
「俺のMTBの後ろに立ち乗りで良いなら乗るか?」
「う、うん・・・。けど良いの?おじさん重いかもよ?」
「昨日抱え起こした魅音は軽かったぞ。大丈夫だから乗れよ?」
そう言われた私は、圭ちゃんの肩に手を乗せて、後輪のシャフトを固定している長いナットに足を乗せた。
「乗ったか?じゃあ行くぞ!」



一時間後、私達は興宮に到着した。
途中『あらあら?デートかしら?若いっていいわ~♪』と生暖かい視線で何回も見られて照れてしまった。

「遅いな~。何してるんだよ。」
ちなみに今、今日の買い物でアドバイスをくれる助っ人という人を待っている。
「ねえ、助っ人してくれる人て、どんな人?」
「ん?お前の良く知っているヤツだ。」
「?」
「お!来た!来た!」
私は顔を上げた後、ビックリした。
「し、詩音っ!?」

助っ人とは私の双子の妹の詩音だったのだ。
「はろろ~ん☆お姉に圭ちゃん☆お待たせしました♪」
「おう、おはy「な、なな何で詩音がここに来るのさ!!」
「お姉~そんな酷い言い方ないじゃないですか?私は圭ちゃんに昨日、ある事を頼まれたから来ただけですよ?」
「・・・ある事って何よ?」
「内緒です☆じゃあ圭ちゃん行きましょうか?私、お昼からバイトなんでサクサク終わらせちゃいましょう♪」
「ああ。分かった。それとな魅音。このメモに書いてある物を買って来てくれ。終わったらここで待っててくれよ?」
そう言って、二つ折りのメモ用紙と一万円札を私に渡した後、二人は何処かへと行ってしまった。

圭ちゃんが詩音に頼む買い物って何だろう?
まあいいや。
それよりもメモの方が気になる。
私はメモを見てみて、そして固まった。
書いてある内容を理解した瞬間、その場に倒れてしまいそうになる。

ははは・・・。これを買って来いと?
しかも親類の経営する店で?
うん。無理。
しかし買って来なければ恐ろしい事になりそうだ。
私は重い足取りで商店街へと向かった。



私は今、親類の経営する薬局のレジで叔母さんと世間話をしている。
これはある話を切り出す隙を窺っているのだ。
そして、その時が訪れ私は叔母さんの耳元に口を近付け小さい声で話した。
「お、叔母さん。そ、そのコ、コココンドームとマ、マッサージ・ローションか、買いたいんだけど・・・」
顔から火が出そうになる。恥ずかしすぎて逃げ出したくなる。
「フフフ♪魅音ちゃんにも、とうとう彼氏が出来ちゃったか~☆両方一個づつで良いのかな~??」
とニヤニヤしながら紙袋にブツを入れてくれる。
「あとこれはオマケだよ。頑張りなさい!」 と何か入れて渡してくれた。
私は代金を急いで払い、その場から逃げる様に早歩きで店を出て、待ち合わせ場所へ向かった。

ここまでに二時間近く掛かっている。
待ち合わせ場所では、圭ちゃんが既に待っていた。

「よう。ご苦労様。ちゃんと買って来たか?」
私は圭ちゃんに紙袋を押し付けながら言った。
「おじさん本当に恥ずかしかったんだから・・・」
圭ちゃんは紙袋を開いて中身を確認した後、私の頭を撫でながら言った。
「くっくっく!よしよし、ちゃんと買って来た様だな。これも調教の一環だ。しかし御主人様を気遣って栄養ドリンクまで買ってくるとはな?早くも肉奴隷としての自覚が付いてきたのか?ん?」
圭ちゃんは、そう言いながら頭を撫でていた手をお尻に移動させ、やらしく撫でてきた。
「ひゃっ!し、知らない!お、おじさん栄養ドリンクなんて買って無いよ!ちょ・・・。こんな所でお尻触らないでよ!」
「可愛いヤツめ!そうそう詩音からの伝言だ『今度、感想聞かせてくださいね♪言わなかったら【腸】流しちゃいますから♪』だとよ?」
と言い終わると、お尻を撫でるのを止めて紙袋を、大きめなオレンジ色の袋の中に入れる。
さっきまで持っていなかった物だ。
ブティック店の名前が入っている。
「ハァ、ハァッ・・・ん・・・。ねぇ圭ちゃん?その袋が朝言ってた買い物ってヤツ?」
私は乱れた呼吸を整えつつ、そう問い掛けた。
「まあな。これは帰っての御楽しみって事で。そういや腹減ったな。俺、朝飯食って無いんだよ」
そういえば私も朝食は食べて無いので、お腹が空いた気がする。
圭ちゃんに預かったお金の釣り銭を渡して、近くの喫茶店に向かった。



喫茶店で軽めだが昼食を食べて、帰りにセブンスマートに寄って買い物をした後、圭ちゃんの家に着いたのは昼の二時過ぎだった。
一休みした後、少し早いが夕食の準備をする。
メニューは和風ハンバーグとサラダ。そう手間が掛かる訳では無いので下拵えして冷蔵庫に入れておく。
圭ちゃんは部屋の掃除と、お風呂の準備をしてくれている。

さて休憩しよう。リビングのソファーに座って、今宵行われるだろう痴態について考える。
調教なのだから普通にSEXして終わりな訳無い。
その証拠に避妊具はともかく、マッサージ・ローションは何に使うのか分からない。
名前のごとくマッサージでもさせられるのか?
ローションを使ったマッサージなんて性知識が人並みな私には想像がつかない。

あとはブティックの袋だ。
そのブティックは何度か買い物した事がある店なので、調教に関係するような物は無かったはずだ。
よって、これは考えから除外する。

一番の問題は、今夜は『恋人』としてなのか『主従関係』としてなのか。どちらの関係が強くなるか、だ。
私だって女だ。初めては好きな人に捧げたい。
いや、それ以前にキスすらしていない。
決めた。キスすらしてくれずに何かしようとしてきたら、この関係をキッパリ清算しよう。
そのかわり、ちゃんとしてくれたらペットでも恋人でも何だってなってやる。
私の全てを捧げてやる。
これが私の覚悟である。
私は賭けに出たのだ。
その瞬間まで自然体でいよう。
そこまで考えたところで、圭ちゃんが顔を出す。
「部屋の掃除もしたし、風呂の準備も出来たぜ!晩飯にしようぜ!」
「あ、うん!じゃあ準備するね!」
私は料理を仕上げるため台所に走っていった。



夕食が終わり後片付けをしている。
約束通り圭ちゃんは残さず『美味しい』と言いながら食べてくれた。作った甲斐があったと思う。

そして件の圭ちゃんは今、お風呂に入っている。
そして後片付けが終わる頃、圭ちゃんはお風呂からあがった。
私にも入る様に促し、リビングでテレビを見始めた。

私は圭ちゃんに一言声をかけ、着替えとお泊りセットを持って風呂場へと向かった。
熱いシャワーを浴びた後、備え付けの鏡で昨日圭ちゃんに付けられたキスマークを見つけ、手でそっと触れてみる。
この印が嘘じゃなかったら圭ちゃんは、きっと優しくキスしてくれる筈。
「大丈夫。圭ちゃんを信じろ園崎魅音。私は賭けに勝つんだ」
そう呟いた後、私はボディーソープを手で泡立て両手を使って全身に優しく擦込む。

自分で言うのも変だがスタイルは悪くないと思う。
豊満な胸部、薄く陰毛の生えている陰部、程よい大きさの尻部。
私は女の武器たるこれらの部位を重点的に綺麗にする。
そして泡を洗い流し、自慢の長い髪を洗う。ここも身体と同じく優しく丁寧に洗ったあと、唇のリップを洗顔して落としてゆく。

その後、熱めのお湯がはってある湯船に身体を沈め、これから酷使されるだろう身体をほぐす。
三十分ほど湯船に浸かっただろうか、私は浴室を出てバスタオルで水気を拭き取り、下着を身に着け、白い着物に袖を通し帯を締める。
そしてお泊りセットの歯ブラシで歯磨きし、化粧水を肌に浸透させた。
準備は完璧だ。
あとは覚悟を決め圭ちゃんの所に向かうだけ。
だが覚悟は既についている。
私は圭ちゃんの所に向かった。



<続く>



後編

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最終更新:2007年11月09日 12:05