前回




鬼畜王K1 〜鬼し編・其ノ拾〜<嫉妬>

その49からその54まで収録





  愛の力で男性は無条件の女奴隷を求め、
  女性は無条件の奴隷状態を求める。

   フリードリッヒ・ニーチェ『生成の無垢 上』「Ⅶ 女性/結婚」より


  友情はほかのことには信義を守るが、
  色恋沙汰となると、たちまち豹変する。

   シェイクスピア『から騒ぎ』第二幕第一場より


「遅かったね、圭一くん」
レナが圭ちゃんに声を掛けた。
私たちは教室で裸身を晒したままだ。…しかも、大好きな圭ちゃんの前だというのに。
なのに、レナはそれを気にかける様子も無い。それどころか、圭ちゃんが現れたことを心底喜んでいるかのような表情。
そして、圭ちゃんは…満足げな顔で、私たちの裸身を眺めていた。
「…くくく」
圭ちゃんが小さく笑った。レナと私の両方を丹念に眺め、そのままゆっくりと私たちに近付いてきた。
その時、私はあることに気付いた。
背中にある、『鬼の入れ墨』…。それは、園崎家次期当主としての証であり、誰にも――特に圭ちゃんや仲間達には――見せてはならない、私の秘密。
このままでは、圭ちゃんにも、レナにも見られてしまう…!
私は慌ててブラウスを羽織り、入れ墨を隠す。幸い、レナにも背中は見られていない。
…いや。レナは『見ていない』と言うべきか。圭ちゃんが近付いてくるのを今か今かと待ち焦がれているような顔。
今のレナには、圭ちゃんの存在しか目に入らないのだろう。…心底、圭ちゃんを好きだから?…それとも、レナは既に『篭絡』されているから…?
「待たせたか、レナ…とは言っても、俺がいない間に魅音と『仲良く』やってたなら…退屈はしなかったんじゃないのか?ククク…」
圭ちゃんはレナの前にしゃがみこんで、まっすぐにレナを見つめた。
「ふふ…圭一くん、良く分かってるね。魅ぃちゃんがあんまりかぁいかったから、レナ…早くお持ち帰りしたくてしょうがなかったんだよ?はぅ☆」
レナがかぁいいモードで答えるが、やはりただのかぁいいモードではなかった。
あくまでもかぁいいモードで誤魔化すかのような、演技じみたやり取り。
…この二人は、私の前であくまでも演技を貫いているんだ。でも…そんな演技でも、信頼しあっているからこそ出来るやり取り。
そう思うと、私は圭ちゃんにとっては未だレナと同じ位置にいない存在であることを痛感してしまう。
レナと圭ちゃんは一線を越えたことで…ここまで信頼し合っているのだろうか…。
「はは…得意のお持ち帰りを封印してまで、『俺のために』魅音を取っておいてくれたんだな?…感謝するぞ、レナ…」
圭ちゃんはレナの顔を引き寄せ、唇を重ねた。
レナは圭ちゃんの求めに応じるかのように、圭ちゃんの首に手を回し、時々息継ぎをしては再び唇を重ねる。
激しく、舌を絡める音まで響くほどのキス。見ている私の方が恥ずかしくなるほどの、淫らなキスだった。
あの圭ちゃんとレナが、こんなことをしている…普段の私なら、茫然とする事態だ。
だが、今の私には、ふしだらな圭ちゃんとレナを咎める気など無い。二人のキスにさえ、『羨み』の感情が先にあった。
突然、レナが圭ちゃんと唇を重ねながら、流し目で私を見た。…その視線は、私を一瞬だけ凍りつかせた。

『ふふ、魅ぃちゃん、どう?…レナはもう圭一くんのモノだし、圭一くんも、レナのモノなんだよ?
魅ぃちゃんには悪いけど…やっぱり圭一くんは既にレナを選んでるの。諦めてほしいな、魅ぃちゃん…あははははは』

そう言っているような、勝ち誇ったようなレナの視線。
私の勘違いかもしれないけれど…胸がズキリとした。
『…レナは、魅ぃちゃんも、圭一くんも大好きだから…そのどちらも失いたくないよ。
…圭一くんがレナと魅ぃちゃんのどっちを選ぶかはまだ分からないけど…どんな未来でも、みんなが『幸せ』なら、レナはそれでいいよ』
さっきの、レナの言葉を思い出す。…レナは確かに、自分だけの『幸せ』より、仲間の…私の『幸せ』を優先させると言った。

…もしも、それが演技なら?
…もしも、それが偽りなら?
…もしも、それが嘘なら?
…私を裏切るとしたら…この娘につけてもらわねばならない、『けじめ』は何だろう…?

「…ッ」
急に、自分の中に芽生えた負の感情に寒気を覚えた。
『けじめ』などという、恐ろしいことを考えてはいけない。今の私は、園崎家次期頭首の園崎魅音ではない。
…前原圭一が大好きでたまらない、一人の女の子である園崎魅音なんだ…!
レナが、私を騙すわけはない。レナは、私の大切な親友であり…正々堂々と勝負すると宣言した、恋敵でもある。
私は、レナを疑わない。圭ちゃんと唇を重ねているのを見て、少し羨んだだけなんだ。
…『羨む』…?ああそうか…やっぱり私は、本心から圭ちゃんに抱かれたがっているのだろうか…。
大好きな圭ちゃんに、レナがしてもらったように、圭ちゃんと、圭ちゃんと…

「…魅ぃちゃん?…ねぇ、魅ぃちゃんってば」
レナと圭ちゃんが、いつの間にかキスを終え、私の目の前にいた。
私の意識は二人から離れていたが、ようやく感覚を取り戻す。
「ふぇっ?…あ、そ、その、えと…」
私は言葉を出そうとするが、上手くいかない。
二人が不思議そうな表情をしているが、顔をお互いにぱちくりと見合わせた後、「ははは!」「あはは!」と笑った。
「ははは、レナ!お前、アレを強く嗅がせたんじゃないのか?魅音のヤツ、ボーっとし過ぎだぜ」
「あはは、そんなことないはずだよ、だよ?確かに圭一くんの持ってきたアレは効果抜群だったけど、すぐに魅ぃちゃん目を覚ましたし」
楽しげに笑い合う二人。…それは、いつもの部活で見せる、とびっきりの罰ゲームを思い付いた時のような顔だった。
ん?ちょっと待って。
「…ねぇ、『アレ』って、なに?」
私が問うと、圭ちゃんとレナが同時に『にぱあ』と笑い、声を合わせて答えた。

「「メホホ・ブルササンK」」

…。
教室が、水を打ったように静まり返る。
が、その静寂はすぐに私の大音声で破られた。
「何なの、それーーーーッ!!?」
圭ちゃんとレナは、私の渾身のツッコミに一瞬ビクっとなった。
「な、なんだよ魅音…そんなにでかい声でツッコむなよ」
「はぅ~…魅ぃちゃん、びっくりさせちゃ嫌だよ…だよぉ…」
一番びっくりしているのは、おじさんの方だよ…。
その反応が想定外だったのか、圭ちゃんとレナは私に聞こえないようにヒソヒソ話をする。
「…まずいな、やっぱりマーガリンの量が多かったせいか…?(ヒソヒソ)」
「…でも、レナが買ってきたブリは新鮮だったし、あと『もけ』…(ヒソヒソ)」
「馬鹿!それ以上は魅音の前で言うな!(ヒソヒソ)」
「あ、ご、ごめんなさい!…そうだ、『草』!『草』が足りなかったんだよ、だよ!(ヒソヒソ)」
「おお、それだそれだ!やっぱなぁ、『草』が足りないとアレだもんなぁ!わっはっはっはっは…(ヒソヒソ)」
…。
「何の『草』なの、それ…」
「知らない」
「草なんて『なかった』」
即座に真顔で否定する二人。…なにもそこまでぴしゃりと拒絶しなくてもいいじゃない…。
「…はぁ…」
私は思わずため息をつく。
「…圭ちゃん。レナ。…二人とも、おじさんに隠し事なんかしなくていいし、ヘンなモノに頼らなくていいんだよ?」
圭ちゃんとレナが、シリアスな表情を崩す。私は恥ずかしさを抑えながら、次の言葉を紡いでいく。
「…そんなモノに頼らなくたって、私は…。
け、圭ちゃんに…あの、そのぅ…か、『かぁいくされたい』って気分になっちゃってるんだからさ…」
…かーっと、耳元まで赤くなっていくのが分かる。今の私の顔は、きっと茹で蛸のような色をしているに違いない。
圭ちゃんとレナの前で、私は自ら身体を開くことを、事実上宣告してしまったのだから。
「…」
二人は呆けた顔で私を見つめている。だが、私は圭ちゃんと目線を合わせるのが恥ずかしくて、上手く顔を上げられない。
もじもじと胸の前で指を絡めながら次の言葉を考える。…私は圭ちゃんに、抱かれたい。でも、今の言葉じゃ、圭ちゃんに上手く伝わらないかな…。
「…だ、だからさ。私は…レナみたいに、圭ちゃんと、ここでさ…。エ、エッチなことしてもいいかな、って…おも」
圭ちゃんが突然、私の身体を抱き締めた。
薄いブラウス越しに、圭ちゃんの体温が伝わる。
「ふぇ?…あ、け、圭ちゃ…」
今度は私の方が呆けてしまった。さらに強く、圭ちゃんがぎゅっと抱き締めてきた。
…圭ちゃんの身体って、意外と筋肉質なんだ…。
皮膚がそれを敏感に感じ取る。私の鼓動はさらにドクドクと脈打ち、加速していく。
「…あ、あはは。圭ちゃん、いきなりおじさんに抱きつかないでよぉ…おじさん、身動き取れないじゃない」
「魅音」
圭ちゃんが耳元で私の名を呼ぶ。
「魅音…すまなかった。…お前が、俺のことをそこまで想っていてくれたなんて」
「…圭ちゃん」
「俺は怖かった。魅音がもしも、こんな俺たちを拒絶したら?魅音がもしも、こんな俺たちを信じてくれなくなったら?
…魅音が、こんな俺たちから離れていってしまったら…」
「…そんなことはあり得ないよ。私は…圭ちゃんも、レナも信じてる。二人とも、私にとっては…かけがえの無い『仲間』だから」
「…『仲間』…」
今度は私が圭ちゃんを抱き締める。私の鼓動が、圭ちゃんにも伝わるように。…私の想いを、直接伝えるように。
「ねぇ、分かる?私の心臓…こんなにドクンドクン言ってる。…圭ちゃんのことがキライなら、こうはならないよ」
「…ああ、分かるぜ…」
「…モノに頼らなくったって、こうすれば分かり合えるんだよ、私たちは…。だからね、圭ちゃん」
私は圭ちゃんの顔を笑顔で見つめた後、ぱたんと仰向けに倒れる。
「…お、おい?魅音…?」
心配しないで、圭ちゃん。私の覚悟を…聞いて。

「…いいよ。ここで…私を抱いて。圭ちゃん…」

胸元がはだけたブラウス一枚で、男を誘うように寝そべる姿は、知らない人が見れば娼婦のように思えるだろう。でも、そんなことはもはや気にならない。
圭ちゃんの前でなら、惜し気も無く肌を晒せる。レナにもらった勇気を、私は自らの覚悟とした。
「…魅音。…いいんだな?」
圭ちゃんと私は、再び目線を交わす。
改めて見ると、今日の圭ちゃんの目は情熱的だ。見つめるだけで身体が痺れてしまうような、虜にされるような…。
「くく…圭ちゃん。おじさんをここまでさせといて、今さら怖じ気づいてるわけじゃないよね…?
…男ならこういう時に覚悟決めてくれなきゃ、嫌だよ?」
「…ふ。魅音に言われるまでもねぇよ。…天下御免の園崎魅音を、じっくり堪能させてもらうぜ…?」
「ふふ…圭ちゃん。お気に召すまま…私を召し上がれ…」

圭ちゃんがゆっくりと覆い被さってくる。
その首に手を回し、私は圭ちゃんの顔を引き寄せて、唇を重ねた…。

     ×  ×  ×     

「…いいよ。ここで…私を抱いて。圭ちゃん…」

 計 画 通 り  
その言葉を心底待っていたぜ、魅音…。

知恵を抱いて時間を潰した後、俺は密かに教室へと近付き、ドアの隙間からレナと魅音の絡みを眺めていた。
女同士、しかも無二の親友同士で身体を重ね合っている——美しい光景じゃないか!
淫蕩に耽るこいつらが、もう少しすれば俺の所有物として完成に向かう。
忠実な僕にして、俺を毎日悦ばせてくれるであろうかぁいい牝狗たち。
雛見沢を支配する新しき『神』にとっては、かけがえの無い『戦力』。
…感謝するんだな、二人とも。俺のような素晴らしい男に出会えたことを。
レナ、そして…魅音。お前たちは俺の両脇に侍り、俺と一緒に新しい雛見沢を創っていくんだ…!
『神』の恩寵を与えてやろう、肉体の結びつきがもたらす恍惚でな。
…くっくっく、と笑みがこぼれる。
ドアの向こうでは、レナと魅音が同時に達したらしい。
そのまま抱き合い、口付けを交わす二人を見ながら、俺は『転校生・前原圭一』としての偽りの仮面を脱ぎ捨てた。
魅音…お前に教えてやろう。この世には、一度味わってしまえば二度と忘れられないほどの『快楽』があることを…くくくくく、あっはっはっはっはッ!!

     ×  ×  ×     

「…感謝するぞ、レナ…」
そう言って私を引き寄せ、圭一くんがキスしてくれた。
圭一くんが私を褒めてくれた…それだけでレナは嬉しいんだよ、はぅ☆
じゃれつくように首に手を回し、さらに舌をジュルジュルと絡め合う。
圭一くんの唾液が、レナのお口の中に流れ込んで…ごくん、と飲み込む。
…また、オマンコがヒクっと疼く。圭一くんに触れられるたび、レナの身体はどんどんエッチになっちゃうんだよ、だよ?
でも、今日は…まだ圭一くんのオチンポは食べさせてもらえない。レナはお預けなの。…今日は魅ぃちゃんがいるから。

そういえば、私と圭一くんがかぁいいことをしているところを見るのは、魅ぃちゃんが初めての人になる。
…どんな顔で、私たちを見てるのかな、かな?
ふと思い、横目で魅ぃちゃんを見る。
…茫然としているか、もしくは目を背けているか。
そのどちらかだと思ったけど、魅ぃちゃんは意外にもしっかり私たちを視界に収めているらしかった。
さすがに平然とはしていないようだけれど、動揺は最小限。むしろ、興味津々というか、私たちの行為を羨んでいるかのような目…?

『羨み』…か。…ふふふ…。
そうだよねぇ、魅ぃちゃん。大好きな圭ちゃんが、先にレナを抱いたのは事実だもんね。
二人が圭ちゃんを想う気持ちに優劣は無いけれど…順序で言えば、レナの勝ちだね…!
レナはね…どんなことにだって、勝ち負けっていうのはあると思うの。もちろん、誰だって負けて惨めになっていいはずはないよ?
でも、勝ち負けがあるからこそ、いい結果を出そう、頑張ろうって思うし、さらにより良い未来を目指せるってものじゃないかな、かなぁ?
そして、レナはね…負けず嫌いなの。
かぁいいものを誰かに取られたくないし、部活の時だって、レナは一位目指して毎日頑張ってるんだよ?
…魅ぃちゃんは部活でいつも一位だし、園崎家っていう恵まれたお家に生まれたから、負けることなんてあまり意識しないだろうけど。
圭一くんを巡っての勝負なら、レナ…ちょっとだけ本気を出させてもらおうかな、かな?…あはははははは。

…そう思っていたら。
魅ぃちゃんと圭一くんの様子が…違ってきた。
「ふふ…圭ちゃん。お気に召すまま…私を召し上がれ…」
なんて甘い言葉。なんて甘い状況。なんて…羨ましい二人。

…首の辺りが、再び痒くなってきた。
ポリ、と指で絆創膏の上から一掻きした。

…圭一くんが、魅ぃちゃんを抱くことに、確かに私は賛同した。
『三人で楽しい部活にしようぜ、レナ』
その言葉を私は忠実に守り、言われた通りに魅ぃちゃんを引き留め、そして圭一くんにこの状況を用意した。
さっきのキスは、圭一くんからのご褒美。それだけでも、レナは嬉しかった。
…でも、これから魅ぃちゃんは、それ以上のご褒美をもらおうとしている。
私の目の前で。竜宮レナが見ている前で。…圭一くんと、まるで恋人同士のような会話を交わした後で…!

…ガリッ、と音がした。
あれ?いつの間にか、絆創膏が剥がれちゃってる。
指には血。首の痒みは治まらず、ズキズキとした痛みに代わってきた。
でも、さっきより気にならない。かゆい。かゆいけど、掻くのを止めたらいけない気がしてならない。
かゆいかゆい。だけど掻き続けなきゃ。そうしなければ、もっと苦しくなるだろう。
かゆい、かゆい、かゆい、かゆい。…あぁ、魅ぃちゃんに付けてもらった絆創膏、全部剥がしちゃった。

…魅ぃちゃんに…魅ぃちゃんに…魅ぃちゃんに…魅ぃちゃん…魅ぃちゃん…

その時。
圭ちゃんの肩越しに、目を潤ませ愛撫されている魅ぃちゃんの顔を見た。

…魅ぃちゃんめ…魅ぃちゃんめ…魅ぃちゃんめぇ…ッ!!

そこで、かゆみがプツリと途絶えた。
思考はクリアになって、落ち着いている。
クールになる、というのはまさにこういう状態なのだろう。
もう一度、魅ぃちゃんの顔を見る。圭ちゃんに愛撫され、忘我の彼方にいる女の表情。
あははは、魅ぃちゃん、涎垂らしちゃってるよ?足もさぁ、カエルみたいに開いちゃってさ。あはははは、そんな魅ぃちゃんもかぁいいよぅ、はぅ~☆
…せいぜい今のうちに楽しめばいい。…快楽に縛られた『家畜』め。
でも魅ぃちゃん、さっきも私、言ったよね?

女はね…好きな人のためなら、なんだって出来るの。…そう、『あらゆる手段』をね…!

あはは、あははははは、あはははははははははははは!!!


続く

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最終更新:2008年02月11日 23:37