見てはいけないものを見てしまったことがあるだろうか。
見てはいけない、すなわちタブーとされる物事を見てしまうということがその定義であるとするならば、私は今、その見てはいけないものを見てしまっているということである。
「お、や、じ・・・。」
「あ、圭一くんの、お父さん、かな、かなぁ・・・?」
私の目の前には二人の人影がある。
一人は私の愛すべき家族であり、一人息子の圭一。もう一人は、その女友達である竜宮礼奈ちゃんだ。
驚いたようにこちらを振り向き、完全に固まっている。
二人とも膝をつき、圭一の手は礼奈ちゃんの両肩に優しく置かれていた。

キス・シーン(はぁと

おお、おおお、おおおおおおおっっっっつ!
テレビと漫画以外で、初めて見たっ!!
しかも、あどけなさが残る、自分の息子のキスシーンだぞッ!
私の心にズキュゥゥーン!とか、ドォーーーン!とかいう効果音が聞こえてきた。
もしこの場面を漫画的表現で表すと、私の背景にそんな文字が飛んでいるに違いない。
藍子に頼まれて、しぶしぶ差し入れに上がったところが、とーんでもないものを見つけてしまった、どーしよー。
と、何処かの警部さんみたいな台詞を吐いてしまったが、どうしたものか。
個人的には、このまま固まった二人の顔を見続けているのも一興なのだが、この年頃の少年たちは、恋愛事情に親が介入してくるのを極端に嫌う。
見ると、圭一の顔が真っ赤に染まり、目線が見る見るうちに釣り上がってきた。逆噴射5秒前といったところだろう。
しかし、甘いぞッ、息子よ!
私は圭一から「出てけぇーっ!」という声が飛び出すその前に、素早く駆け寄り、力強くその肩を叩いた。
無論、エンジェルモートで買ってきたチーズケーキと、セイロン紅茶が置かれているお盆は、足元に置いてある。
電光石火の動きを何事かと思い、仰天する二人の顔を横目に、私は目を閉じて首を振った。
そして次の瞬間!私は無言で目を見開くと、満面の笑みで右手の親指を『ビシッ!』と伸ばした。

・・・・・・・・・。

数秒間の沈黙。
そして私は身を翻し、颯爽と息子の部屋を後にした。

クソ親父ぃぃぃぃぃぃ!!

息子の絶叫が家中に響いたのは、階段を下り終えた直後のことであった・・・。

「あら?圭一の声がしたけど?」
食卓に戻ると、妻の藍子が紅茶を入れ終えているところだった。
食べ終えて空になっていたデザートの皿は片付けられ、部屋にはセイロン紅茶の馨しい香りが漂っている。
「ん、あぁ。紅茶でもこぼしたんじゃあないか?」
私は笑みを浮かべて席に座った。
藍子の入れてくれた紅茶に口をつけると、先程の光景が思い返され、再び笑いがこみ上げる。
「どうしたの?そんなに笑って。」
「いや、それがね・・・。」
私は先程の顛末を面白可笑しく、多大な脚色を交えて話した。
息子に恋人が出来たと知った時、母親がどんな顔をするのか見てみたいという気分があったが、以外にも藍子の表情は変わらなかった。
「あら、知らなかったの?」
むしろ、私が二人の仲を知らなかったことが意外らしい。くすりと笑って、藍子は紅茶に口をつけた。
「最近、遊びに来るレナちゃんが、どんどん綺麗になっていっているのよ。恋する女の子って、雰囲気まで変わるものなのよ。」
「そうなのかぃ?」
「えぇ。それに、シャンプーもエメ○ンに変わったり、透けて見える制服の下着も、良い物になっていたしね。」
ミステリーマニア恐るべしといったところか、それにしてもよく見ているものだと、私は今更ながら妻の推理力に舌を巻いた。
「初恋、か・・・。私にもそういう時期があったわ・・・。」
藍子が遠い目をして窓の外を見る。窓の外には中天の太陽が赤々と輝いていた。
強い日差しが藍子の頬を照らす。

その時、私は今更ながら妻の美しさに心を奪われた。
圭一を産んで十数年。三十も半ばの藍子だが、その外観は、大学時代に比べても変化に乏しい。
ワンピース越しに見える肢体も、女性らしくメリハリがつき、オバサンなどとは到底呼べないだろう。
・・・・・・・・・。
そういえば、ここに越してきてからは仕事で忙しく、ご無沙汰だったな・・・。
久々にもたげる男としての欲望。しかも、私はその欲望を高い形で昇華出来る、魔法のアイテムを手に入れているのだ。
それは、この雛見沢に越してきて見つけた理想郷へと至る崇高な品物。
そうか、使えというのか。
この私に、あのビックリ・ドッキリメカを!!

「そろそろ晩御飯の用意を」
藍子が席を立とうとするその瞬間、私はその手をしっかりと握り締めた。
「どうしたの・・・?」
「あ、うん。ちょっと、いいアイデアが浮かばなくてね。『打ち合わせ』しないか?」
我が家での『打ち合わせ』とは、無論腰の打ち合わせのことである。
藍子の顔が、真っ赤に染まる。
「え、うん、良いけど・・・。」
視線を逸らして答える。藍子も少し欲求不満だったらしい。
「今夜?」
「いや。」
そう言って、私は藍子の耳元に口を近づけて囁いた。
「今から。」
「え、でも、圭一も、レナちゃんもいるじゃな・・・」
文句を言う唇を自分の唇で塞ぐ。
「アトリエでするから大丈夫だよ。」
私のアトリエは防音加工してあるため、物音が響き渡ることはない。しかも、私たちはちょくちょくそこに篭るため、急に姿が見えなくなったとしても圭一が怪しむことはないだろう。
「それに、いいモノもあるから・・・。どうだ。」
藍子が戸惑いに視線を泳がせる。しかし、この顔をする時の彼女には既に答えが出ていることを、私は経験上知っていた。
「はい、あなた・・・。」

広い板張りのアトリエは、空調が効いているためか、夏だというのにむしろ寒々としていた。
私は仕事机の傍にある、大きな籐の安楽椅子に座り、腕を組んでいた。
私のアトリエはカンヅメ状態にも耐えることが出来るよう、一部屋にバス・トイレ・シャワーが付いている。
『打ち合わせ』は私の作品ジャンルにも影響する重大事項だ。
絵画だけでなく、同人世界にも生きているこの私にとって、新ジャンルの開拓は生命線の確保に等しい。
だが、作品を作る上において、リアリティを欠かす事はできない。
そのため、私は最愛のパートナーである藍子の体を張った『打ち合わせ』により、常に新ジャンルに挑戦しているのである!
看護婦・メイド・スチュワーデス・OL・仲居さん・・・。
食堂のおばちゃんから果ては電撃鬼娘まで、その挑戦は飽くことを知らない。

先にシャワーを浴びた私は、白いバスローブに身を包み、脱衣所で着替えているであろう藍子が来るのを心待ちにしていた。
もうすぐだ、もうすぐ、私に理想郷が訪れる・・・!
「で、できました・・・。」
恥ずかしそうな声で、藍子がドアの向こうから声をかける。
「ああ、入ってくれ。」
私は意識してぞんさいに答えを返す。
返答を聞いて、ドアがゆっくりと開かれる。

キタキタキタキター!!

濃紺の水着。いや、各所にフリルの着いた制服に身を包んだ藍子が、ドアの向こうに立っていた。
羞恥心のために顔を真っ赤に染め、もじもじと胸元を隠すように左手を持ってきている。
お盆に乗せられた残りのスイーツであるチョコレートパフェが、右手に支えられていた。

藍子が身を包んでいるのは、エンジェルモートの制服である。
通い倒して数ヶ月。
店長の園崎氏を口説き落とし、破格の値で購入したこの最終兵器!
想像通り、いや、想像以上の破壊力である。
ドレスと水着の核融合。人類の辿り着いたエロスとフェティズムの境地。
誰もが「お~持ち帰りぃ~☆」を夢見てやまないこの制服を、私はッ!私はアァッ!!

「あ、あの・・・あなた・・・?」
すっかり陶酔しきっていた私に、藍子の声が当惑した様子で声をかけた。いかん、いかん。
私は正気に戻って藍子の姿を見た。
成熟した大人の女性しか似合わない制服のはずだが、藍子の大きな胸のせいか、胸元がきつく見える。
下手に肉が付いていると途端に魅力を失うビキニラインもしっかりと整い、フリルが可愛く揺れていた。
「うん、綺麗だよ、藍子。」
正直にほめると、藍子は顔を伏せて恥ずかしがった。
「でも、ここでは『あなた』じゃない。ここはお店なんだ。『お客様』じゃないとね。」
「はい、お客様・・・。」
この『お客様』というのが重要なところだ。
メイドならば『ご主人様』・『旦那様』。女生徒ならば『先生』と、そのジョブに合わせた呼び方をしなければ魅力が薄れるというものだ。
「じゃあ、ウェイトレスさん。そのパフェをもらおうか。」
「はい。どうぞ、お客様。」
藍子が私の前にひざまづき、パフェをスプーンで掬う。
おずおずと差し出したパフェを、私は口に含んだ。さすがはエンジェルモート、味にも手抜かりはない。
二・三度同じことを繰り返すと、私はスプーンを優しく藍子の手から奪った。
「お客様?」
「ウェイトレスさん。これじゃ冷たい。口移しで食べさせてくれないかな?」
一瞬、藍子は驚いたようだが、この要求が意味することを察してか首を縦に振った。
茶色のパフェを一口含み、唇を私に近づける。
「んん・・・。」
唇が触れ合って、冷たい感触が広がった。藍子が舌で押し出すパフェを受け取り、飲み込む。
私は全て注挿された後も、藍子の口腔へ向けて強く口を吸い、舌を伸ばした。
「ふ、う・・・っ。」
藍子の舌が絡まり、私のそれと絡み合った。お互いを求めて強く引かれ合い、口腔内で踊り狂う。
「・・・ウェイトレスさん。」
私は藍子の顔を離して指を下に差した。見ると、茶色のパフェの一部が、バスローブの股間の位置に落ちている。
「綺麗にしてくれないか?」
「はい・・・。」
藍子の手が股間に触れる。私の分身は既にいきり立ち、ローブの中で自己主張していた。
お絞りで茶色の液体を拭き取ろうとすると、自然に硬くなったその部分に当たる。
強すぎないよう、藍子が慎重に周りをぬぐっているのがもどかしい。
生殺しのようなその感覚に耐えられず、私は藍子の耳元に囁いた。
「今度は、口でしてくれないか?」
藍子は上目遣いで私を見ると、上唇をそっと、舌で舐めた。
瞳には淫らな光が宿り、欲望の火が体に灯ったことを、私に告げていた。
ローブの前がはだかれ、分身が晒される。その分身に藍子は口付けし、うやうやしく口に含んだ。
「うっ・・・。」
瞬時に駆け抜ける射精への欲望。
性感帯を知り尽くした藍子の動きに、私は翻弄されていた。
口で含むだけでなく、手でもてあそび、舌を入れ、歯で甘噛みをする。
貞淑な妻が淫乱なメス犬に変わるこの瞬間が、男としての征服欲をそそるのだ。
私は藍子の頭を両手で押さえつけ股間に固定すると、その顔を撫で回した。
愛撫に興奮しているのか、藍子は驚くことなく行為に集中し、更に口の動きを強めた。
「くおおぉぉぉっ!」
敏感な部分を舌でもてあそばれ、私は限界を迎えようとしていた。
自ら腰を動かし、最後の瞬間まで導く。
「出、出るっ!出るぞっ!!」
先端から出る欲望の液体が、藍子の口腔を犯した。凄まじい勢いに、藍子がむせる。
しかし、藍子は顔を引くことなく、私の全てを飲み干した。押さえきれなかった残滓が糸を引いて、唇から流れる。
手を離しても藍子は分身から離れず、私の全てを飲み干そうと舌を動かしていた。
「もう、いいよ。ウェイトレスさん。」
十分に分身が硬さを取り戻したことを確かめると、私は藍子の口から分身を引き抜いた。
「あ・・・。」
名残惜しそうに藍子が呟く。
「今度は、ウェイトレスさんを頂くよ。」
宣言して藍子を体の上に抱き寄せると、私は制服の布をずらして、分身を一番敏感な部分にあてがった。
思ったとおりに、その部分には見なくてもぬめり気があった。
「ふああぁぁっ!」
一気に刺し貫く。二・三度律動するだけで、最奥まで至った。
「思ったよりも、すんなりいったな。ウェイトレスさん、こういうのに慣れているんじゃないか?」
「い、いや・・・。そんなこと・・・。」
「でも、ほらッ!こんなに濡れて、咥え込むなんて、一度や二度じゃ出来ないモンだぞっ!」
「あ、ふうっ!そ、それは、お客様、があっ・・・!」
「くっくっく。そうだよなぁ、出来の悪いウェイトレスに、俺がたっぷり教え込んでやったんだからなぁ!!」
「は、はひぃ・・・。わ、わたしは出来の悪いウェイ、ト・・・レスですぅ!!」
「じゃあ、もっと、もっと教えてやらないとなぁ。男の味ってやつを!」
「お、教えて、教えてくださいお客様ぁぁ!」
いつの間にか創造していた役割に、私たちは没頭していた。
私の求めたものに、創造以上のの反応を返してくれる最高のパートナーである藍子。
改めて、私は彼女の全てを欲しいと思った。
制服の前をはだけさせて豊かな胸に唇を這わせる。
藍子も私の頭をしっかりと抱いて、話さない。
安楽椅子がきつそうにギシギシと音を立てる。その音と私たちが生じる粘着音が、不思議なハーモニーを奏でていた。
「あ、あなたぁ・・・!わ、わたし、もう、もうダメ、もうダメええっ!!」
快楽によって素に戻った藍子が、限界を告げる。
私も同じく限界だった。強く腰を動かして、最後まで密着した。
「藍子、藍子!私もいくぞ!」
「あなたっ!あぁ、あぁ、あぁぁぁぁ!ダメええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」
「あいこおおおおおおおおっっっっ!!」
再び大量の白濁液が、藍子の中に打ち込まれた。
『打ち合わせ』の終わりを告げるその流れはいつまでも名残惜しく、私の意識が途切れるまで続いた・・・。

「親父、話がある。」
数ヵ月後のある日、圭一が真剣な面持ちで、私と藍子を食卓に呼び出した。
隣には礼奈ちゃんが、同じように真剣な表情をして立っている。
「どうしたの?藪から棒に。」
藍子が怪訝な顔で、それでも優しい微笑を浮かべて答えた。
あの日の事を気にすることなく、礼奈ちゃんは我が家に来て一緒に食事をしたり、圭一の部屋で過ごしていた。
私もあの日の話題は避けていた(と、いうより触れようとすると圭一が噛み付かんばかりに起こるのだ)のでこれまでどおりの関係だったのだが、何か大事なことでもあったのだろうか。

はっ!
私は最悪のケースを想定した。
最近の学生の進み具合は半端ではないらしい。しばらく前にあった「3年○組」では、中学生同士の妊娠がテーマとなっていたではないか・・・!
自然と、私の顔はこわばった。
KOOLになれ、前原伊知郎・・・!
息子の全てを受け止めるのが父親じゃあないか。モデルガン事件の時と同じだ。痛い目に合わせて自分の過ちを後悔させた後、助けてやればいい。
しかし、それに反して圭一の口から出たのは拍子抜けする言葉だった。
「俺、前原圭一は、ここにいる竜宮レナさんと付き合っています。」
一瞬、力が抜けた。
そ、そうか・・・。考えすぎだったか。
「わ、私、竜宮レナです。圭一君、いや、圭一さんとお付き合いをさせて頂いています。今日は、圭一さんのご両親に、交際を認めてもらいたく、お伺いしました。」
恥ずかしそうに、圭一の隣で控えていた礼奈ちゃん、いやレナちゃんが顔を赤くして頭を下げた。
その瞳を見ると、圭一を見つめていた。
圭一のことを信頼しきっている。その意思が強く感じられる良い瞳だった。
わざわざ、交際宣言に来てくれたのか。そう思うと、二人の律儀さと初々しさに、自然と頬が緩んだ。
藍子を見ると。同じように微笑んでいる。

これならば、告げてもよさそうだ。

私は藍子の手を握る。
「うれしいわ。それなら、レナちゃんは私たちの娘になるのね。」
「歓迎するよ、レナちゃん。こちらこそ、圭一を頼むよ。」
そして、私は藍子のお腹をさすり、二人に告げた。
「ほら、お前も挨拶しなさい。お兄ちゃんとお姉ちゃんだよ・・・。」


終わり  

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年10月02日 00:14