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鬼畜王K1 〜鬼し編・其ノ壱〜

その1からその3までを収録




  「お前は彼の気に入ろうとおもうのか?
   そうなら、彼の面前で困惑した様子を見せるがよい——。」

    フリードリッヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』「第四章 箴言と間奏曲」より


竜宮レナと親しくなるのに、それほど時間はかからなかった。
レナは俺のことを甲斐甲斐しく世話してくれていた。俺と登下校を共にし、手作り料理を俺の家まで届けてくれた。
クク…これだけ献身的な心を持っていれば、そう苦労はせずに済むだろう。
竜宮レナを忠実な下僕とするのもそれほど時間はかかるまい。
さて、どうやってレナの『弱点』を探り、そこを攻めて追い落としてやろうか…。

そこでまずは、レナの過去を興宮署の大石に調べさせた。
大石は捜査費と称し、多額の不正な金をマージャンに費やしていた。それを親父のコネで突き止めた俺は、
その不正に目を瞑る代わりに大石を顎で使っている。
奴は奴で「あんまり手荒く扱わないで下さいよ前原さぁ〜ん?んっふっふ」とか言いながら、それなりに緻密な捜査をしてくる。ふん、使えるじゃねーかブタ野郎め。
ほどなく、大石が報告書を見せてきた。興宮にあるエンジェルモートで目を通した俺に、ある単語が飛び込んできた。
『オヤシロさま』…!
人喰い鬼を退治し、村人と鬼を共存させた雛見沢の守り神。
レナは太古より雛見沢に伝わる戒律を信じ、それを破った者に降り掛かると言われる『オヤシロさまの祟り』に脅えているらしい。
そして見逃せないのが…レナは過去に「オヤシロさまを見たことがある」と証言していること。
これだ…!こいつを利用すれば、レナは簡単に堕ちる。
「私の報告書はお役に立ちましたか前原さぁ〜ん?んっふっふっふ。
ところでここの店員さんって可愛らしい方ばっかりですよねぇ〜、前原さんも何人かはもう手をつけてらっしゃったりするんですか〜?んっふっふ」
るせーぞブタ野郎、お前ちょっと最近馴れ馴れしいぞ。
俺は返事もせずにテーブルの下にカップを持っていき、向かいに座っている大石の股間にコーヒーを浴びせてやった。
金的を押さえてのたうち回るブタに構わず、エンジェルモートを出る。
…その時の俺の顔は、きっと『鬼』の笑みを浮かべていたに違いない。
「全ては俺の計画通り…レナ、お前をオヤシロさまから解放してやるよ!くっくっくっくっく」

そして、綿流しの祭りを迎えた。

竜宮レナを攻略するチャンス、それは綿流しの祭りの晩…つまり、今夜だ。
あらかじめブタ(大石)の話から『オヤシロさまの祟り』についての知識は得ていた。
なにかが起こるとすれば、今夜…そういう不安が、レナの中でピークを迎えるだろう。
オヤシロさまの祟りに脅えるレナを救う…まさに『神』じゃあないか…くっくっく!
さて、部活メンバーとの露店制覇を除けば、綿流しのお祭り自体は特に刺激的でもなく平穏無事に終わった。
だが、本当の『祭り』はこれからだ…俺は平静を装いつつ、景品のクマさんのぬいぐるみを抱えたレナと家路についた。

レナと別れて数十分後、俺は雛見沢ダム工事現場跡に着いた。
ここは、レナがかぁいいものを収集するための、レナの城だ。打ち捨てられた廃車の中で、レナは自宅に戻らず孤独な時間を過ごすことがあるという。
なんでそんなことをするのかまではブタには分からなかったようだが、まぁいい。
俺はレナの隠れ家に辿り着き、コンコンとドアをノックした。

「…レナ。俺だ。前原圭一だ」
「…ッ!!圭一くん!?」
レナは驚いて、ドアを開ける。別れた時と同じ、白いロングスカートと紫の大きいリボン、それに黒いオーバーニーソックスという服装。
レナは俺の突然の訪問をまったく予想していなかったのだろう、俺の顔を見つめて呆けている。
「ど、どうしてここに?お家に帰らなかったのかな?…かな?」
「それはこっちのセリフだぜ。レナこそ家に帰らないで、こんなところにいるなんてよ」
「レ、レナは…そ、そう!かぁいいクマさんをここに置いてから帰ろうと思って」
「嘘だな」
「え…」
「レナ、俺は知っている。お前が今夜、どうしても不安なことを」
「な、なんのことかな?…かな?」
「オヤシロさまの祟り」
「——ッ」
レナが息を飲んだのが分かる。「なぜ圭一くんが?」そう顔に書いてあるぜ…ククク!
俺は車内に滑り込みつつ、後ろ手でドアを閉めた。
「今夜起こるかもしれないオヤシロさまの祟り…それが恐くてたまらないんだろ、レナは。
家にいるより、かぁいいものに囲まれた自分の城の方がまだ安心出来る。そう思っているんだろ。
だがな…それだけじゃダメだ。オヤシロさまの祟りを防ぐには、まだ…」
「…ど、どうしてそこまで知ってるのかな…かな…。わ、私…」
「俺も一応雛見沢の住人だ…興味があって調べたことがあったんだ。
そして知った。オヤシロさまの祟りと、その恐怖…そして、それを回避する方法を」
「…ッ!!!」
レナが驚愕に目を見開く。
俺はレナを見つめつつ、不安を押さえ込むかのようにスカートの裾を掴んでいるレナの手に、そっと自分の手を重ねる。
レナは一瞬ハッとするが、俺の目に体の自由を奪われたかのように動かない。
手首を掴み、こちらにぐいと華奢な体を引き寄せながら、顔を近付けて俺は囁いた。

「今夜…俺がオヤシロさまの祟りから、お前を守ってやる」
「…け…圭一、くん…」
「レナに祟りなど起こらない…俺が側にいるのだから…」
言葉が終わると同時に、俺はレナを両手で抱きしめる。
レナはその言葉で、一気に感情が溢れたらしい。俺の背中に手を回し、胸に顔を埋めて泣いていた。

チェックメイト…!竜宮レナはこれから、俺無しでは生きられなくなる。心も、そして躯もな…!

「レナ…俺は、俺の全てを賭けてお前を守る。だからお前も見せてくれ、お前の全てを」


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最終更新:2008年02月06日 21:55