校長の鐘が鳴り響き、一同起立と礼のあと、知恵先生が教壇を去る。雛見沢分校に、今日も平和な昼休みが訪れた。
 部活メンバーは待ってましたとばかりに机を寄せ合い、自慢の弁当を景気良く並べ立てていく。
「っしゃー、ハラ減ったぁー! 喰うぜ喰うぜ喰うぜーっっ!!」
「はう! 今日はレナ、いっぱいリンゴ切ってきたんだよっ!」
「へへっ、そいつぁ楽しみだな――って。な、何ィ!?」
「し、詩音さん!? これは一体……しょ、正気ですの!?」
 だが、今日。
 いずれ劣らぬそれらの中で頭抜けた威容を誇るのは、園崎詩音が持参した大量かつ多彩、そして豪華なカボチャ弁当群だった。
「お、おおー……。詩音、アンタ今日はいつになく気合入ってるねえ……!!」
「はぅ……今日の詩ぃちゃんのかぼちゃセットはすごいかな、かな」
「ふふふふ。事前調査三ヶ月、構想二週間、総製作時間半日、調理動員数二名の超大作! 沙都子の好みを徹底的に分析して作り上げた、満漢全席全米震撼のこのフルコースで今日という今日こそ! 沙都子の好き嫌いを、完膚なきまでに撲滅してみせますッ!!」
「みー。朝から教室に漂っていた匂いの正体はこれだったのですね」
 梨花が小さな鼻をひくひくと蠢かせながら、六人分の机を合わせた広大な領域の過半を占領するカボチャ料理群を見渡した。詩音を見上げて微笑む。
「とってもおいしそうなのです。沙都子よりボクが食べたいのですよ」
「ダメです梨花ちゃま。まずは沙都子が平らげてからです!」
「みー……」
「ふ、ふぇぇ……」
 残念そうに引き下がる梨花を横目に、沙都子は怯えきった表情で身を引いていく。その真正面に詩音が立ちふさがって影を落とした。
「さぁ沙都子! カロチン豊富で栄養満点、鮮やかな赤や黄色で食卓に彩りを添え、甘い煮つけで食材の幅を広げるカボチャを、この機会にこくふ――、」
 詩音は栄養価をはじめとするカボチャの有用さを力説しながら、沙都子へまっすぐに迫らんとした。
 だが詩音の進撃は、その半ばで停止させられる。
「ホラ、食えよ沙都子! せっかく詩音が作ってきてくれた超大作なんだぜ。これで食わなきゃ失礼ってもんだろーが」
 圭一が――前原圭一が詩音よりも先に沙都子を抱きすくめて捕らえ、互いに息のかかる間近から、笑顔で囁くように語りかけていたから。
「だ、だって圭一さん……。私、私……カボチャは。カボチャだけは、本当にダメなんですのっ……!」
 圭一の腕の中でうっすらと涙ぐみ、身を守るように両手をかざす沙都子。その堅さに、詩音も思わず一瞬後退りそうになる。
「、あ――」
 だがそのとき、圭一の手がそっと、沙都子の前髪と額に触れた。
「好き嫌いは体によくないぜ。健康の大切さは沙都子がいちばん良く分かってるだろ? 俺はずっと、沙都子に元気でいてほしいんだ。だから、……沙都子」
「……圭一、さん……」
 沙都子はさっと頬に朱を差して俯く。圭一は何も言わないまま、優しい瞳で真っ直ぐに見つめあいながら、ひどく愛おしげに沙都子の頭を愛撫していた。
 圭一は同時に、もう片手で詩音のカボチャスープを一匙すくう。
「沙都子。ほら、あーん」
「……あ、あーん……」
 沙都子の口元へ、優しくスプーンを寄せる圭一。沙都子はきつく目を閉じ、一瞬の躊躇のあと、おずおずとそれを口に含んだ。
「……っ、う……」
「どうだ? 沙都子」
 うっすらと緊張を孕んだ、しばしの沈黙。
 誰もが押し黙り、じっと沙都子の表情を見つめる。襲い来る苦痛へ向かって身構え、強張っていた沙都子の表情。その、次なる動きを。
「おい……しい。おいしいですわ、圭一さん!」
 それまで、どこか苦しみを堪えるようだった沙都子の表情に――そのとき突然、ぱっと花のような笑顔がこぼれる。
 そこから動揺と喜びの渦が、教室全体へ広がっていった。
「は、はう……! 沙都子ちゃん、かぼちゃ食べられるようになったの!?」
「あっ、あはっ、あははははは……! おじさんびっくりしちゃったなあー! し、詩音もなかなかやるじゃない!」
「みー。沙都子も詩ぃも、二人ともすごいすごいなのですよ」
「これも詩音の研究の成果だな! ありがとよ詩音、沙都子に代わって礼を言うぜ!」
「も、もう圭一さん! お礼ぐらい言えますわよ……いつもありがとうございます、詩音さん……とってもおいしいですわ」
「え? あ……え、ええ……」
 沙都子は自ら箸を動かして詩音のカボチャ弁当を摘み取っていき、誰もが口々に詩音の小さな偉業をたたえる。今日の計画は大成功といえた。
 にもかかわらず、詩音はなにか言いようのない居心地の悪さを感じてしまっていた。

 不意に胸の中で生じた、得体の知れないもやもやとしたもの。どうにもそれを持て余して、数秒の逡巡ののち、詩音は椅子を引くとおもむろに立ち上がった。梨花が訊ねる。
「みー? 詩ぃ、どこへ行くのですか?」
「ええ。沙都子にも無事に気に入ってもらえたことですし、ちょっとお化粧直しを」
「へ? なんだそりゃ。詩音、お前化粧なんてしてねえだろ?」
「くっくっく、それは違うんだなぁ圭ちゃん! 了解了解。詩音はゆっくりブリブリしておい――ぎゃふんッ!」
 余計なことを口走ろうとした魅音の腹と頭へ同時に、詩音とレナの鋭い一撃が突き刺さる。
「アハハハハハハ、魅ぃちゃん。食事中に何を言おうとしたのかな、かな?」
 ナイスですレナさん。
 ビシィッ! と互いに親指を立てて戦友同士の視線を交わしあうと、食卓に崩れ落ちた同胞をあっさりと見捨てて、詩音は今度こそ教室を出て廊下の冷たい空気に触れた。
 少しだけ歩いて、軽く半身で壁にもたれる。
「ふう……」
 何だか最近、沙都子と圭一の仲が妙に良い。
 ただそれだけのことなら、詩音も大して気にはしなかっただろう。タイプこそ大きく違うが、前原圭一にはどこか北条悟史と共通する部分がある。何せ過去には詩音自身が、その面影を悟史と重ねてしまいそうになったほどだった。
 だから部活メンバー、ひいては雛見沢分校で唯一の年上の男子たる圭一に、沙都子が特別になつくのも当然のこと。今までは、詩音もそう考えていた。
 だが詩音は最近、二人の様子に微妙な違和感を感じている。
 たとえば昼食時、圭一と沙都子がお弁当のおかずを交換しあうとき。
 たとえばふとした弾みに、圭一と沙都子の手と手が触れ合うとき。
 そして今日の昼食。かぼちゃ弁当をめぐる二人のしぐさ、感じ取れた心の動き。
 それらは例えるなら、……例えるなら――仲間や友人、兄妹としてのそれではなく、まるで――
「はっ。……バッカみたい。そんなこと、あるわけないじゃないですか――」
 考えすぎだ。
 女子トイレの鏡の前で自分の両頬を叩き、もやもやした感情を振り払う。ついでに顔も洗って振り向いたとき、詩音はそこに小さな、見慣れた少女の姿を発見した。
「――梨花ちゃま?」
 用を足しに来たようには見えない。その大粒の瞳から放たれる視線は、まっすぐに自分へ向かって据えられている。
 この幼い古手家当主は明らかに、自分に対して用があるのだ、という顔をしていた。
「みぃ……。実は、詩ぃに折り入ってお話があるのです。……ここでは何なので、校舎裏まで付き合ってもらえますですか?」
「なッ……!? さ、沙都子と圭ちゃんが……付き合っている!?」
「詩ぃ、声が高いのですよ」
 休み時間の喧騒を離れた、人気のない分校裏。そこで梨花からもたらされた情報に驚愕する詩音を、梨花は顔の前に人差し指を立ててたしなめる。
 周囲を見回して誰にも聞かれていないのを確認し、話を続けようとする梨花に詩音が食って掛かった。
「り、梨花ちゃま……そ、それは確かなんですか? 急にそんなこと言われても、すぐには信じられません……!」
「みー……二人の関係は日々どんどんエスカレートしているのです。ボクも認めたくないのですが、もうこの目で見てしまったのです。
 圭一は毎日のように青い性欲の獣となって沙都子の身体を貪り、沙都子は圭一の指先の魔術でめちゃめちゃのぽーにされてしまっているのです」
「なッ……!? ななな何ですか、その、ゆ、『指先の魔術士』っていうのは!?」
「昨日なんか、沙都子は上半身を裸に剥かれてお胸をいいように捏ね捏ねされた挙句、パンツの下にまで手を入れられて、くちゃくちゃ水音を立てさせられてしまったのです……!」
 梨花は血を吐くように言葉を吐きだし、ぎゅぅっ、と両拳をきつく握りしめて俯いた。
 詩音は思わず詰め寄り、そんな梨花の両肩をつかんでがくがくと揺さぶる。
「そ、そんな! それじゃあ……それじゃあ沙都子は、もう!?」
「おそらく、……おそらく圭一は……今日にも沙都子の処女を奪うつもりなのですッ!!」
「な……なんですってええええ!?」
 己が標準装備である改造スタンガン。その最大出力を脳天から受けたかのような電撃が、詩音の全身を貫いていた。
 そこへ向かって顔を跳ね上げ、拳を振り上げて梨花が叫ぶ。
「逃れ得ない死の運命を金魚すくいの網みたいに破る圭一は最高でしたが、沙都子の処女を金魚すくいの網みたいに破る圭一はただのロリペド変態野郎なのですよッ!!」
「さ、さ、さっ……悟史君が帰ってくる前に沙都子の処女が奪われてるなんて、許さない! 絶対に許さないッ!!」
「詩ぃ……決戦は今日なのです」
 強烈な興奮に、ふうふうと息を荒げる二人。
 日本人形のようにきれいに切り揃えられた前髪が、梨花の整った無表情な面立ちへ不気味な影を落としていく。
「ボクはあらゆる手段を尽くして、この圭一による沙都子凌辱作戦……悪魔のシナリオについて調査したのです。
 そして、すべての情報を吟味した結果……圭一は今日!
 沙都子を北条兄妹の隠れ家であった山小屋に連れ込み、処女を奪うつもりだと判明したのです!!」
「なななななっ、なぁんですってぇーーー!!」
 山狗の閃光音響手榴弾を軽く上回る衝撃が、またしても詩音の全身を貫いていた。
「あ、ああああああああ。そんな。沙都子。沙都子。沙都子――」
 詩音はあまりの事実に打ちひしがれ、わなわなと全身を震わせながらも途方に暮れる。
 その詩音へ、梨花が鬼ヶ淵沼のように底知れぬ、よどんだ昏い瞳を向けた。
「詩ぃ……ボクに協力してくれますですか?」
「……え? わ、私……に……?」
 予想外の申し出にたじろぐ詩音を、梨花は有無も言わさず畳み掛けた。
「魅ぃには園崎のしがらみがありますし、何より肝心なところで打たれ弱いヘタレの魅ぃは、圭一が沙都子を選んだと聞けばもう泣き寝入りしかできなくなってしまうのです。
 といってレナは沙都子より圭一への想いが強いですから、めちゃめちゃに暴走した挙句、沙都子にまで矛先を向けて巻き添えにしかねないのです。
 だから、詩ぃ……部活メンバーの中でこの惨劇・ルールKから沙都子を守れるのは、ボクと詩ぃしかいないのですよッ!!」
「――是非も無しッ!!」
 ガシィッ! と力強く、二人の少女が拳を交わしあう。
 彼女たちの双眸は共通の目的へ向かって熱く火花を散らし、全身から立ち昇る独特の黒い闘気は女子トイレの空間そのものを歪めていくようだった。
「園崎詩音。……敵に回せば恐ろしいが、味方にすれば実に頼もしい女なのですよ。放課後はよろしく頼むのですよ。にぱー……」
 うっすらと口許を歪ませ、沙都子死守同盟の締結に梨花は微笑む。しかし細められたその目は、決して笑ってはいなかった。

 決戦の時が来た。
 何事もなくホームルームが終了し、生徒たちは三三五五と家路に付いていく。
 そして今日の部活がないことは、最初から決まっていたことだった。何も知らない魅音は興宮へバイトに、レナはゴミ山へ宝探しに向かう。
「俺さあ、親父に用事頼まれちゃってるんだよな~。興宮の本屋にこの前頼んだ仕事道具が届いたから、取ってきてくれだってさ」
「私は興宮のスーパーへ買い物に行ってきますわ! 特売を制する者は日々の食卓を制しましてよー!」
「……へえー、そうなんですかー。圭ちゃん、気を付けて行ってきてくださいね~」
「……沙都子、暗くなる前に帰ってくるのですよ? 最近はボクたちみたいに小さくてかわいい女の子を狙う、特殊性癖な変態さんも出るらしいのです。気を付けるのです」
「オホホホホ、梨花は心配性ですのねぇ! そんな身のほど知らずの痴漢ふぜいは、私のトラップの錆にして差し上げますわ~!」
「そうだぜ梨花ちゃん、心配しすぎさ! まあ沙都子の悲鳴が聞こえたら、俺がすぐに駆けつけてそんな痴漢なんざ1500秒で地球上から存在抹消してやるけどな!」
「みー……」
 圭一、テメーのことなのですよ。
 薄っぺらなうわべだけの笑顔を貼り付けたまま、梨花と詩音は二人を見送る。
 その背中が見えなくなったころ、二人はどちらからともなく呟いた。
「……梨花ちゃま」
「詩ぃ」
 物陰から特別チューンナップ済みの改造スタンガンと、しっかりと刃を研ぎ直した祭事用の鋤をそれぞれ取り出し、昏い瞳で二人は微笑む。
 いざ、出撃。
梨花と詩音はは北条兄妹の隠れ家に先行し、絶好の潜伏監視ポジションを確保することに成功していた。
 倒木や枝を利用して見つかりにくい偽装と隠蔽は十分、山小屋の中を窓から見下ろせ、かつ、いざとなれば十秒足らずでその窓から突入できるだけの近距離である。
 沙都子のトラップ群をくぐり抜けてここまでたどり着けたのは、この日のためにと梨花が繰り返していた事前偵察の成果であった。
 そして、ひぐらしのなく頃に。
「……来たっ……!」
 獲物を待ち受ける狩人のごとく陰に伏していた二人が、双眸に異様な輝きを走らせる。
 黄昏時の赤い光の下、互いに寄り添うようにしながら買い物袋を提げ、連れ立って現れた圭一と沙都子。
 それは詩音にとって、未だにどこか信じられずにいた悪夢が真実となった決定的瞬間だった。
「ぜぇ、はぁ……っ。やっと、着いたか……」
「ありがとうですわ圭一さん。でも荷物、全部持ってもらわなくても結構でしたのに……」
「何言ってるんだよ沙都子。これしきのことで弱音は吐けない。俺はな……もっと強くなるって決めたんだ。これからずっと……お前を守りつづけるためにな!」
「け、圭一さん……」
 木々からの隙間から漏れる夕焼けの光の中で、沙都子はかすかに恥じらうようにして俯く。
「あ、ありがとうですわ、圭一さん。まずは冷たい飲み物で体を冷やしましょう」
「ああ、喉乾いたからな。さっきの特売のパックジュース、さっそく飲むか!」
 両手いっぱいに重たげな買い物袋をぶら下げた圭一を、沙都子が山小屋の扉を開けて導き入れた。
「く、くく……く。くけ、くけけけけけけけけ――」
 スタンガンを握りしめ、幽鬼のようにゆらりと立ち上がろうとした詩音の裾を、梨花がぎゅっと掴んで制する。
「……梨花ちゃま?」
「詩ぃ、まだ時ではないのです。……まさに沙都子が圭一によって犯されてしまう寸前、その外道行為の決定的瞬間を押さえるかたちで突入しなければ、ボクたちは圭一の口先の魔術で煙に巻かれてしまうのですよ」
「クッ……。それも、そう……ですね。でも――」
 改造スタンガンを掴んだ手を緩め、詩音は再び地面に伏す。
「あの異常性欲に狂った淫獣・Kと雛見沢の至宝沙都子を、こんな人気のない山小屋で二人っきりにさせてしまうなんて……!!
 ああ、沙都子ッ!!」
「耐えるのです……試練なのです……!!」
 自らもまたギリギリと歯噛みしながら、梨花は食い入るように山小屋の窓を覗きこんでいた。
「……ぷはっ! おいしいですわね、圭一さん! はい」
「おう、ありがとな」
 パック入りのジュースを沙都子と回し飲みしながら、圭一は微笑んだ。
 二人はいま小屋の中に置かれた古いベンチで、窓に向かって掛けている。だが西日差す窓の外に潜む、怨念の襲撃者たちには気づく由もなかった。
「ぷはーっ! やっぱ夏はコレだな! 沙都子、今度は何が飲みた――」
「…………」
 じっと自分を見上げる少女の視線に気づいて、圭一は言葉を止めた。
 満たされた幸せと、微かな恥じらいと恐怖、そしてこれからのことへの期待が織り混ぜられた沙都子の表情に、圭一は穏やかな笑みを浮かべる。
 圭一は沙都子へぐっと身を寄せると、ひょいと彼女を抱き上げて自分の膝へ乗せた。
 そしておもむろに、慣れたしぐさで――沙都子の唇を奪う。
「ん……!」
 接吻の中、圭一は沙都子のセーラー服を大きくたくし上げ、清楚な白いブラジャーに包まれた丸いふくらみを優しく愛撫した。
 まだ幼い沙都子の容姿には不似合いにも思える、将来性を感じさせるだけの大きさを備えた乳房。
 純白のカップ越しに、圭一はその内側の青い果肉を集めるように揉み摘まんだ。
「あっ……け、圭一さん……っ!」
 優しい愛撫、圭一の巧みな指使いに曝され、カップの内側で沙都子の乳房がしだいに堅く張りはじめる。
 圭一の指はしばらくの間焦らすようにその頂を避けていたが、やがて人差し指と中指の間に挟むと、カップの上から軽く引っ掻いた。
「ひっ、ひゃうッ!」
 愛らしい悲鳴をあげて、沙都子は腰からいやいやをするように身をよじる。
 しかし圭一は膝上の恋人を逃すことなく、両手で両乳房を攻めながら、沙都子の耳たぶを甘噛みし、首筋へ浅く舌を這わせた。
「あっ、ああああっ……け、圭一さん。圭一さん……熱いの。私の身体が熱くて、おかしくなってしまいそうなんですの……!」
「沙都子……」
 そして圭一は、いよいよ沙都子のスカートをたくし上げる。
 黒のハイソックスに包まれたしなやかな太股に指を滑らせ、少女の大切な部分を守る布地に手を掛けた。
 それは可愛らしい動物柄ではなく、清楚な純白の下着だった。今日のために梨花に隠れ、精一杯背伸びして一着だけ買ったものだ。
 その布地は今や内側から濡れそぼり、やがて訪れる圭一の男を待ち望んでいる。
「け、……圭一……さん……?」
 ここを圭一の目の前に、これほど近くで晒すのは初めてだった。言いようのない羞恥心が沙都子の全身に溢れ、スカートの中に屈み込んだ圭一を心配そうに見つめる。
「沙都子のにおいがする。……綺麗だな、沙都子」
「け。圭一、さ……ひあうっ!」
 圭一はその膝の上で、沙都子の身体をぐるりと回す。真正面から、たくし上げられたスカートの下へ頭を入れ、沙都子の股間に舌を這わせた。
「沙都子……」
「……は、はい……」
 片腕で沙都子の体重を支えながら、圭一は沙都子のパンティをゆっくり、優しく引き下ろした。
 秘所から愛液が滴り落ち、独特の熱気が圭一にかかる。
 早熟な乳房や腰の豊かな肉付きと裏腹に、沙都子の秘所を守るべき恥毛は、僅かにすらも生えてはいなかった。
 そのアンバランスさも、圭一はひどく愛しく感じていた。
 圭一はスカートの中で、沙都子の秘所に舌を侵入させた。電気に撃たれたように沙都子がのけぞる。
「ひっ、あっ、いっ嫌ぁっ!! 圭一さんっ、そんなところ汚いですわっ!!」
「そんなことないぜ。すごく綺麗だよ、沙都子」
「ああっ……!!」
 淫靡な水音が小屋に響き、首を振る沙都子の瞳に涙が滲む。
 その間にも少女は、自分の身体に初めての男を迎え入れる準備が整えられていくのを感じていた。
 その圭一が陰核から舌を離し、沙都子の背と腰へ腕を回して呟く。
「沙都子」
「はい……」
 圭一は沙都子を抱きかかえて立ち上がり、タオルケットを敷いた机の上に彼女を横たえた。
 セーラー服と下着を中途半端な半裸に剥かれ、乳房も秘所も、女として隠すべき部分をすべて剥き出しにされている。
 圭一はそんな沙都子を見下ろしながら、ベルトを外し、ズボンを下ろし――トランクスを堅く押し上げていた肉棒を取り出した。
「すご……大きいん、ですのね……」
 初めて見る、恋人の男性器。
 それが本当に自分の中に入りきるのか、沙都子は思わず戸惑いを浮かべる。
 今からいったい何が行われ、その結果として何が起こりうるのか。
 性知識などほとんど持たない沙都子だったが、雛見沢分校でもいちおう配布だけはされていた保健体育の教科書を読んで、彼女はそれを調べていた。
圭一さんと、ひとつになる。
 私と圭一さんの互いに欠けた部分を、二人で一緒に埋め合わせる。
 それはとても神聖な行為。
 信じあい愛し合う男女が新しい未来、新しい命をつくる、未来を築く崇高な行為。
 前原圭一と、北条沙都子の築く、未来。
「圭一、さん……」
 沙都子は目を閉じ、祈るようにそのときを、待った。
「十分……ですね?」
「十分……すぎるのです。ボクですらなし得なかったこれほどまでの乱暴狼藉、まったく万死に値いしやがるのですよ……にぱァ」
 鬼。
 人の世の、鬼。
 西日を背負いながら、そんな言葉がこの上もなく似合う凄絶な笑顔で、それぞれの凶器を手に、二人の少女が、いや二体の夜叉がゆっくりと身を起こす。
 惨劇を乗り越えたはずの雛見沢に、今まさに新たなる惨劇の嵐が吹き荒れようとしていた。
 だが二人による凶行を阻止すべく、果敢に割り入らんとする影があった!
『あぅあぅあぅ梨花! いけないのです、人の恋路を邪魔したりしてはいけないのです!!』
 今は梨花だけにしか見えない、ステルスモードの羽入である。
 そもそも梨花が今回の事態に気づいたのも、沙都子の態度を不審に思った梨花が彼女に偵察を命じたからであった。
 ゆえに、羽入は責任を感じていた。今度こそ、新たなる惨劇を阻止せねばならない……!
 だが先祖であり育ての親であると同時に、百年の輪廻をともに過ごした親友である羽入へ対して、梨花はつまらないものでも見るかのような視線を向けただけだった。
「うるさいわね」
『えっ?』
 ガリッ、というつまらない音がして、羽入が倒れた。
 警告の言葉すら発さず、梨花は懐から取り出した唐辛子を噛んでいた。
 悲鳴のひとつも上げられずに即死した羽入が、ビクンビクンと痙攣しながら落ち葉に転がる。
「? どうかしましたか、梨花ちゃま?」
「何でもないのです。突入前に少し気合を入れただけなのですよ。にぱー」
 そこにいたのはオヤシロ様の生まれ変わりにして古手家当主、皆に愛される雛見沢のマスコット・古手梨花ではなかった。
 ただ最愛の少年と少女によって同時に裏切られ、嫉妬に狂った少女がいるだけだった。
 祭事用の鋤を低く構え、梨花が呟く。
「こちら古手1。突入準備完了なのですよ」
「園崎2、突入準備完了。……圭ちゃんは地下祭具殿で枯れ果てるまで強制公開オナニーの刑に処するとします」
「心ゆくまで鑑賞したなら、後腐れなく綿流しするのです」
「3,2,1――GO!」
 詩音が最後のタイミングを図り終えると、だっ、と獣のように二人は駆け出す。最短距離を走った。
 祭事用の鋤で窓を叩き割って一気に突入、圭一を詩音のスタンガン一撃で昏倒させる。あとは園崎家地下祭具殿まで一直線だ。
 1500秒も必要ない、15秒あれば十分に過ぎる! 沙都子の純潔を汚す許可……それを今この瞬間、自分たちが取り消すッ!!
「「沙都子おおおおおおおッッ!!」」
 いま、助けに――
 世界が裏返り思考が反転する。重力のくびきをいとも簡単に振り切って、梨花は祭事用の鋤を振り上げながら、山小屋の窓へと跳躍する!
 梨花は飛んだ、高々と――地面から突如として噴き上がった、荒縄の網に全身を捕われて。
「「へっ?」」
 二人は空中に吊り下げられていた。
 身動きすらもままならない。明らかに一人用の網はぎゅうぎゅうで、指先ひとつ動かすことさえ難しかった。
「な、な、な、ななななな……なああああーーーっ!?」
「し……新設トラップ!?」
 少女たちの白い肌としなやかな肉へ荒縄が食い込み、ボンレスハムのように淫靡な陰影を浮きだたせる。
 倒錯的な美がそこに体現されたが、少女たちにとっての問題意識はそこにはなかった。
「さっ、沙都子! 沙都子が、沙都子がっ!!」
 ちょうど視界に入る位置に山小屋の窓が、そしてその内部で、今まさに事に至らんとする二人の姿がはっきり見えている。
 絶妙の観戦位置。完全な生殺しだった。
 そして、梨花が持参した祭具用の鋤と、詩音の改造用スタンガン――対圭一戦のみに特化したそれらの装備は、この荒縄に対して悲しいほどに無力だった。
「んぎぎぎぎぎぎぃ! こここここ、こんのぉ~~~!!」
 それでも何とか網を破ろうと、二人は全力で必死に足掻いた。しかし足掻けば足掻くほど肌に赤みが走るだけで、脱出の望みは万に一つも見出せそうにない。
 窓の外、上空でそんな攻防戦が行われているとは知る由もなく。
 沙都子は恋人のぬくもりを素肌に感じながら、いよいよ突きつけられたその男性の象徴を間近に見ていた。
「ああ……これが、圭一さんの、……オットセイ……なんですのね……」
「お、オットセイかよ」
 この期に及んで妙に可愛らしい言い草に、圭一が調子を狂わせる。しかし沙都子は柔らかく微笑む。
「とっても大きくて、温かくて、強そうで……素敵ですわ。圭一さんのオットセイ」
「沙都子……」
「私たち。やっと、ひとつに……なれるんですのね……」
 恥じらいに頬を染めたまま、沙都子は組み敷かれた毛布の上で脇を向く。その頬を圭一が優しく愛撫し、二人は再び唇を重ねた。
 求めあう舌と舌とが絡みあい、圭一の手に侵入されている秘所とともに、熱い水音を二人に聴かせた。
 やがて圭一も身を起こす。堅くいきり立った己の分身に手を添え、ほどよく濡れた沙都子の入り口に尖端をあてがう。
「行くぞ、……沙都子」
「はい。私の中に来てくださいまし、圭一さん……」
 きゅっ、と沙都子は目を瞑って肯き、その瞬間を待った。
 そして圭一が、ゆっくりと腰を推し進めていく。
「あ……ッ! ああぁっ……けっ、圭一……さんが私の中に……私の、お腹の中に……入って、くるぅ……っ!」
「沙都子。沙都子……ッ!!」
 ぎゅッ、と沙都子はタオルケットをきつく握り、身をよじって甘く切ない痛みに耐えた。圭一も自分を締め上げる沙都子の圧力に、沙都子の臀部を傷つけぬよう、しかし強い握力で握りしめる。
 沙都子の狭く慎ましやかな未踏の花園へ、圭一の肉棒が優しく、しかし力強く踏みこんでいく。
 覆い被さる圭一の肉体に圧されながら、沙都子の発育の良い、それでいて若鮎のようにしなやかな四肢が跳ねる。
 そして圭一はすぐ、沙都子の中でその抵抗に遭遇した。沙都子の純潔の証に。
 これを破れば、沙都子は――
「けいいち、さん……!!」
 圭一の一瞬のためらいを、沙都子は自ら奥へ迎え入れた。
 圭一の腰に自らの両足を絡め、ぎゅっと抱きすくめて推し進めさせる。
 突き破った。
「、あ――!」
 今までと異なる痛み。
 沙都子の瞳に、うっすらと涙がにじむ。
 圭一も同時に、自らの尖端が沙都子を本当に貫いたことを知った。
 二人の結合部から溢れる愛液と先走り汁に混じって、沙都子の腿を伝い落ちる赤い鮮血が、少女の破瓜を告げていた。
「あ、あああああ……沙都子。沙都子。沙都子おおおおおおおお……」
「守れなかった……守れなかったよ、沙都子のこと……頼まれてたのに……頼まれてたのに、ごめんね……悟史くん……」
 空中に吊り上げられ、身動きもできないままの無力な姿勢で、その一部始終を見せつけられた二人の少女。
 梨花は精神を焼くあまりにも衝撃的な事実に、しばらく声を発することも出来なかったが、やがて手の届く範囲に、やり場のない悲しみと怒りの矛先を見つけていた。
「かーっ、ぺっ!」
「うわっ!? り、梨花ちゃま!?」
 ちょうど詩音の胸の谷間に頭を突っ込む形で網に捕われていた梨花が、普段のしぐさからは想像もつかない荒さでタンを吐き捨てた。
「やはり所詮はグギャ詩音、やることなすことただ勢いだけで何も考えちゃいねぇのですよ!
 よりにもよってこんな単細胞DQNと組んじまったのがボクの唯一にして最大の失敗だったのですよ、カーッペッ!」
「な、なんですってぇぇ!? そもそも先に罠踏んだのは梨花ちゃまでしょうがぁぁああ!!」
「詩ぃがあんなに無駄にくっつかずに二人で離れて突入してれば、まとめてやられることもなかったのですよ! 無駄といえばそもそも何よこのムカつく脂肪の塊は?
 姉妹揃って無駄にこんなのブラ下げてるからあんたら双子はダメなのよ! 百年生きた私の知恵を半分やるから、この五分の一でも私によこせぇッ!!」
「あっ! 梨花ちゃ、や、やめっ――!」
 荒く吐き捨てるやいなや、捨て鉢になった梨花は詩音の制服のシャツの前ボタンを噛みちぎった。
 梨花の顔面に擦られてシャツがずらされ、その内容で大きく押し上げられるフロントホックのブラジャーが露わになる。
 そのまま梨花はホックもくわえ、首を捻りながら舌技を決めてフロントホックまで外してのけた。
 あとは押さえ込まれていた乳房の反発力だけで、二つのカップが弾けて外れる。
 初雪のように白く大きな詩音の乳房が剥き出され、梨花は布越しでない直接の柔らかさに頭を埋めた。
「ほ、ほっかほかのふっわふわー……。あああああすげぇ、本当にすげぇよコレ……。こんな必殺凶器を持っていながら圭一を落とせなかった魅ぃは、やはり雛見沢史上最低最弱のヘタレ女に違いねぇのですよ……!!」
「りっ、梨花ちゃまああああああ!!」
 網の中で零距離格闘戦が開始された頃、眼下の山小屋では、涙ぐむ沙都子が真上の圭一を見つめていた。
「嬉しい。圭一さん……やっと、やっと……私たち、ひとつになれましたのね……」
「ああ。沙都子……もうこれからは、ずっと一緒だ……もうお前を離したりしない! この俺がずっと、沙都子を守りぬいてやる……!」
 沙都子の小さく華奢な身体に覆い被さる圭一は、まだ幼い恋人を押し潰してしまわないよう微妙に身体を浮かせながら、薔薇色に染まる沙都子の頬をそっと撫ぜた。
「沙都子、……動くぞ」
「……はい。あっ……!」
 堅く反り返る圭一の分身が、血と愛液に濡れた沙都子の中で動く。
 狭く張りつめた沙都子の内側も、往復運動を繰り返すうち次第になじみ、圭一は運動を早めていく。
 張りつめた乳房が上下動に合わせて震え、愛らしい桃色の乳首がその頂に軌跡を残して飛び交う。
 その間も二人は手をつなぎ、何度となく唇を重ね、舌を絡めた。
「くっ――、くけけけけけけけけけけけっ!! コラいい気になってんじゃねぇぞ梨花、ブチ撤けられてぇかぁッ!!」
「みぃッ!?」
 詩音が、キレた。
 梨花のスカート近くの位置にあった右手を、詩音は容赦なく梨花の股下へ突っ込む。そのままパンティを引きずり下ろし、梨花の敏感な部分を直接指で捉えた。
「みっ、みいぃっ! そ、そこはダメぇ! そんなところ直接触ったら嫌ぁ!」
「うるせえんだよこんガキャア! 黙ってさっさとイキさらせぇ!」
 詩音の指先が嵐のように梨花を襲い、幼い秘所と陰核を縦横無尽に凌辱する。
 耐えがたい快楽の波に襲われて、梨花は膝から砕けるように詩音へ崩れた。
「こっ、こんなのらめぇ! あっ、あんたなんかに! グギャ詩音なんかに、百年生きひゃ、このわらひがイカはへひゃうひゃんてぇ!」
「何が百年じゃこんボケぇ! こちとらルチーアで女子百人斬りの詩音お姉様じゃあ!!」
「何それ!?」
 梨花も初めて知る詩音衝撃の過去。だが身体は正直なもので、詩音の指先でいいように弄ばれる梨花の秘所は濡れそぼり、意識も熱にかすんでいく。
「あっ、あああああっ……こんな……ひゃ、ひゃとこぉ……っ!」
「おらおら、このままイッちまいなぁ! 恥ずかしい汁を窓の外へブチ撤けてねぇ!!」

 仮借なく加えられる詩音の猛攻。
 巧みな指技でとめどなく押し寄せる快楽の波に、またもや返り討ちにされた梨花の意識はあえなく吹き消されそうになってしまう。
 そんな性の悦びに溺れそうになる梨花を見下ろし、詩音が嘲笑う。
「それにしても、沙都子も本当に可哀想ね。
 同居人がこんな不甲斐ない子じゃなかったら、あんな淫獣Kなんかの手に落ちることもなかったっていうのに。少なくとも、私ならそうしたわね。
 ――そうだ! 今度から沙都子は興宮の私の隠れ家へ連れこんで、もう二度と淫獣Kの魔の手に落ちることのないよう、私が徹底的に教育してあげます!」
「――!」
 その一言が、梨花の内なる闘志を呼び覚ます。
 まだだ。
 まだ、終われない――!
 キッ、と梨花の瞳に意志の光が再び宿る。
「ひゃ、百年の魔女なめんなー! なのですよッ!!」
 梨花はおもむろに詩音の乳首を口に含むと、スカート越しに詩音の陰核を探り当てた。
「ひぅっ!? ……へ、へぇ。面白いじゃない……私とヤろうっての!?」
 詩音の乳首を甘噛みしながら舌で転がし、たっぷりとした乳肉を淫靡な音で吸いたてた。
 同時に右の手指で陰核を弄び、百年試した手慰みの技を詩音へ向ける。
「に、にぱー……。詩ぃ、さっきからエラそうなこと言ってたわりには……もう、すっかりお股がグチョグチョなのですよ?」
「……うっ!?」
 梨花はその細腕で詩音のベルトからスカート、そしてパンティの内側へ侵入し、直接秘所を捉えていた。
「おやおや、すっかり大洪水なのですよ。ボクが詩ぃのデカ胸を攻める前からこうだったのですか?
『あぁん沙都子、ねーねー☆ って呼んでぇ~☆』とか普段さんざん沙都子へ言っておきながら、肝心の今日はよりにもよって、圭一の慰みものにされる沙都子を見ながら濡らしてたのですか!
 カーッペッ! とんだ淫乱メスワンワンなのですよッ!!」
「な、何をーーーッ!?」
「沙都子との同棲を許されるのは、三千世界でこのボクだけなのです! 圭一もグギャ詩音も悟史も監督その他大勢も、全然お呼びじゃねぇのですよォーーーッ!!」
「くっ、……うっ、はぁ! 圭一さ……圭一、さん……っ!」
「沙都子……沙都子、沙都子……っ!!」
 くちゃくちゃと水音を立て、結合部から鮮血混じりの愛液を滴らせながら、圭一は極限まで高められた欲望が限界に近いことを感じていた。
「沙都子……イクっ。俺、もうイッちまう……ッ!」
「はっ、はああっ……け、圭一さんっ、来て、来てくださいまし。わ、私も、もう……っ!!」
「さ、沙都子ぉぉっ!!」
「ああっ!!」
 最後の瞬間、圭一は沙都子から陰茎を一気に引き抜き、熱い大量の白濁液を沙都子の胸に射ち放った。
 だが初体験の射精は大きく勢い余り、大きく上下する沙都子の胸を飛びすぎて、快楽の余韻に震える沙都子の顔を汚した。
「、あ……! ご、ごめん。沙都子」
「ん……」
 慌てた圭一が拭い取ろうとする前に、沙都子は顔面に注がれた精を手に取り、口にしていた。
「にが……。これが……圭一さんの、お味なんですのね……?」
「……沙都子」
「うふふ……。圭一さん、来て。もっと……圭一さんを、近くで感じさせてくださいまし……」
「ああ。そうだな、沙都子」
 タオルケットを被りながら、二人は互いに手と手を取り合い、身を寄せ合って横たわる。
 心地よい疲労感に包まれながら、やがて二人の意識は闇へ沈んでいった。

「……はぁ、はぁ、はぁ……っ。な、なかなかやるじゃないですか、梨花ちゃま」
「くっ、うふふふふ……詩ぃもなかなかどうして、やってくれるのですよ……こんなに濡れたのは、ボクも初めてなのです……」
 戦い済んで日が暮れて。
 とっぷり落ちた夜の帷。夜の森の上空へ宙釣りにされたまま、延々数時間もの大激闘の末、二人の少女はさすがに果てた。
 制服も下着も網の中でむちゃくちゃに乱れて、普通では絶対ありえない特殊な半裸を曝している。
「ふふ……っ。梨花ちゃま、本当に……沙都子のことが、大切なんですね……」
「みぃ……。沙都子はボクの半身、比翼なのです。沙都子を失ってしまっては、もうボクは飛ぶ能力も飛ぶ意味も、何もかもなくしてしまうのですよ……」
「……ふふふ。沙都子は本当に、いい友達に恵まれましたね……」
 穏やかに微笑む詩音の胸に抱かれながら、梨花が呟く。
「ボクは……ボクは、詩ぃが……詩ぃがこんなに沙都子のことを思ってくれるとは、ボクは思っていなかったのです。悟史との、約束だから……なのですか?」
「それもありますけれど……もう、それだけじゃないんです。
 沙都子は……あの子は、とても崇高な強さを持っています。どこだかは忘れてしまって、もう思いだすこともできないけれど……私はそれをきっと、誰よりもよく知っている。
 本当の強さの意味を、人を信じることの意味と尊さを、あの子は私に教えてくれた。
 だから、私は……あの子を守りたいんです」
「詩ぃ……」
 暖かく柔らかな詩音の胸に包まれて、梨花は穏やかな笑みを浮かべた。
「良かった。あなたは幸せね……沙都子……」
 眠るように目を閉じ、自分の胸に安心しきって頭を預ける梨花を抱きながら、詩音もまた優しい笑みを浮かべる。
「……さあ。なんだか、とんでもない格好になっちゃったからアレですけど……二人が出てきたら呼びとめて、ここから出してもらわないといけませんね」
「圭一に助けてもらうのは癪だけど……仕方ないわね。大声で呼んで、って……」
 久しく意識を離していた、山小屋を窓から見下ろす。
 いない。
「アレ?」
 沙都子も、圭一も、二人の買い物袋も、何も……室内に、ない。
 人の気配はいつの間にか、完全に消えていた。
 視界にあるのは、未だに復活できずにいる羽入の残骸だけ。
「…………」
「…………」
 他にやることもないまま、網に捕われた二人の少女は、ただ呆然と見つめあった。

「…………。詩音さんと古手さんは、欠席ですか……?」
 翌朝、雛見沢分校。
 出席簿を片手に、頭を悩ます知恵。昨日まで元気だった仲間の突然の欠席に、部活メンバーもざわめく。
「ゆ、昨晩も心当たりを探したんですけど、どこにも見つかりませんでしたの……!」
「梨花ちゃん、詩音……クソッ、どうなってんだ! まさかまた、山狗の奴らが!?」
「お、落ちついてよ二人とも! 今から知恵先生に話して、もう一度心当たりをしらみ潰しに探そう。それでダメなら、町会の連絡網で!」
「魅ぃちゃん、グズグズしてなんかいられないよ。嫌な予感がする……今すぐみんなで探しに行こう!」
 そして、その数時間後。
 部活メンバー全員の目の前にあられもない痴態を曝され、雛見沢分校に公認百合カップルが一組誕生した。

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最終更新:2007年05月21日 12:24