――風が鼻をくすぐる感触に、圭一は目覚めた。
ぱちぱちと瞬きしてぼやけた視界のピントを合わせると、

「……あ、起きた? 圭ちゃん」
「……ん、魅音?」

こちらの目にさかしまに映る、魅音の顔があった。
ちょうど膝枕されている姿勢で、じっと目が合う。なんとなく気恥ずかしくなって視線を逸らすと、

「けーいちゃんっ」

同じように寝転んでいる魅音と目が合った。

「……詩音か?」
「えへへー」

ぎゅむ、と背後から抱きついてくる腕に、首だけを巡らせて振り返る。
すると、こちらの背中に頬ずりする魅音の頭が見えた。

「おー」

まだいるのかー、と気楽に声を上げる圭一に、視界の外から次々に無責任な声が上がる。
見れば、地平線の果てからわらわらと魅音軍団がメ○ルク○ラの如く大挙してこちらに進軍中だった。

「おじさんもいるよー」
「こっちにもいるよー」
「それで足りないならここにもいるよー」
「圭ちゃーん」
「けいちゃーん」

けいちゃーん、けいちゃーん、けいちゃーん、けーいちゃーん……
フカーイーナゲーキノーモーリー ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン



「うわああああああっ!!」

叫びながら、圭一はがばと布団を跳ね除けた。同時に、裸の胸を撫でるひんやりとした外気に身震いする。

(……なんつー夢見てんだ、俺ぁ……)

頭をばりばりと掻きながら、ため息をつく。
惚れた女とはいえ、あそこまで大挙してわらわら来られると、それはちょっとというか。しかも園崎姉妹という特殊なファクターがある以上、実は鬼ヶ淵の底には魅音シリーズが大量に培養されてるんだよナンダッテーとか勘ぐってしまうし。

「……んー」

横から聞こえてきた声に視線を巡らせると、傍らに寝ている魅音と目が合った。もっとも、あちらはまだ眠っているままだったが。
布団の上からはみ出した肩の華奢なラインが、妙に艶かしい。その無垢な寝顔を眺める自分に何やらムラムラとと凶暴な衝動を感じて、圭一はつ、と視線を逸らす。

(そういや、俺、昨日は……)

たしか、園崎家の面々が軒並み村内会の旅行に行くとかで、詩音のお膳立てで、独り残った魅音の様子を見に単身訪れたのだったか。
となるとまあ、屋敷の中に二人っきりとなるわけで、ウワーときてキャーとなって、ガバッ、ドピュッ、オギャーと……いや最後は違うか。
たぶん。

「……あ、圭ちゃん。おはよー」

と、そんなことを考えている内に魅音が目覚めたらしい。普段からは想像もできないほどふにゃふにゃとして無防備な声に、圭一は苦笑しながら返す。

「おう、おはよう」
「うん、おはよー……ってうわ!? 何? おじさん裸!?」

そこまで来てようやく自分が何も着ていないのに気づいたらしく、顔を赤くしながらいそいそと布団の中深くに潜り込む。
その初々しい様子に笑みがこぼれそうになるのを堪えながら、圭一は何かからかってやろうかと口を開き――

「っほぉぉおぉおぅっ!?」

突如爆発した衝撃に、ガクンと仰け反って悲鳴を上げる。

「ど、どうしたの圭ちゃん!?」
「ほうっ、なっ、なにか、あうっ、何かが股間にぃっ! にょほうぅぅぅぅっ!」

エビ反りながらビクンビクンと痙攣する圭一に、おろおろと魅音は首を巡らせて……

「でやーっ!」

気合一閃、布団を一気に振り払った。

最初に目に付いたのは緑だった。
圭一の股間を覆い隠して、まるで腰ミノのように緑の滝が伸びている。
ただ、その腰ミノには身体がついていた。
魅音と同じような華奢な肩口からは腕が伸び、圭一の腿を抑えている。なめらかな曲線を描く腰の先には、ふりふりと揺れる尻と、その先に伸びる足があった。

「あ、見つかっちゃいました?」

圭一の股間に吸盤のように吸い付いていたソレは、悪びれた様子もなく顔をあげるとさっと髪をかきあげた。

「し、しししししししししし――」
「お、お前は……」

こちらを指差して戦慄く二人に、くすりとソレは小悪魔めいた笑みを漏らす。

「魅音シリーズ28号!?」
「……は?」

思わず目を点にするソレ。一方魅音はといえば、まだ愚直に「し」の音を繰り返していた。

「……じゃあ、妖怪腰ミノ女?」
「……あのねえ」

こめかみに静脈を浮き出させて半眼になるソレに、やべ、と圭一は身構えて――

「ししししししし詩音!!」
「な、なにっ!? 詩音だと!?」
「……今になるまで気づかなかったんですか、圭ちゃん」

半眼のままこちらを睨んでくる詩音に、う、とだじろぎながらも、圭一はかぶりを振る。

「し、詩音っ。お前昨日は興宮にいるって言ってたんじゃあ」
「あはは、やだなあ。私が圭ちゃんなんかに簡単に本当のことを教えると思います?」

実に見事な自己分析だった。



「……そもそも、なんであんたこんな所にいるのよ?」

むーっと眉間に皺を寄せて、魅音が詩音を睨む。体育座りの上からくるまった毛布が、鎧じみているのもそれを手伝っていた。
対して、それを何処吹く風と受け流し、飄々として笑う詩音。

「そりゃま、昨日圭ちゃんとお姉が世にも珍しく夜通し二人っきりと聞きましたので、こりゃとうとうイッたかー? と思っていても立ってもいられず」

まあ、これでも進展しないようならお姉と圭ちゃん諸共私が押し倒すつもりでしたけどねー、などと危険なことを口走りながら、ちゃはーと笑う。
じっとりとこめかみに嫌な汗をかきながら、魅音は我知らず一歩後ずさった。

(……コイツならやりかねん)

「で、どうでした?」
「へ?」

ずい、と急に身を乗り出してくる詩音に対応しきれず、思わず魅音は身を仰け反らす

「だから、どうだったんです? 圭ちゃんの味は」
「なっ――」

ぎくりと身を硬直させる魅音に、ですから、と詩音はさらに追従する。

「上手でしたか下手くそでしたか剥けてましたか太かったですか長かったですか早かったですか?」
「え、えーと、あのー」

質問一つごとにぐいぐいと身を乗り出していく詩音から逃れるように、ずりずりと魅音は後ずさる。
やがて、バランスを崩し、ぽふん、とベッドに倒れこんだ。

「ちゃんと濡らしてくれましたかゴムは着けましたかまさかお尻からなんてやってませんか?」
「ううう」

大の字に倒れこんだ魅音に覆いかぶさって、維持でも質問――というか詰問――をやめない詩音に、魅音は涙目を圭一に向けた。
うるうるとこちらを見つめてくる魅音の瞳に、やれやれと嘆息しながら圭一は口を開く。

「……あー、詩音? その、俺には聞かないのか?」

魅音に好奇心半分、加虐心半分のにやにやとした笑みを浮かべていた詩音が、へ? とこちらを向いた。

「何をです?」
「いや、だから、魅音の……その、具合はどうだったのか、とか」

自分で言ってて赤くなる圭一に、詩音はぱちくりと不思議そうに瞬きした。

「良くなかったんですか?」
「あ、いや。そんなことはない……けど」
「でしょう?」

満足そうに微笑んで、詩音は腕組みしながらうむうむと頷いた。

「毎晩々々々々々々、レナさんと二人でみっちり仕込んだんですから、そうでなきゃ私も面目が立たないってものです。いやー、大変だったんですよ? バージン残したままきっちり調教するのって斑○を全ステージDOT EATERプレイする的なもどかしさがあるというか――むぐっ」
「わーっ! 何言ってるのよ詩音ーーー!!」

がばと詩音に抱きついて口を塞ぐ魅音を、圭一はぼんやりと眺めていた。

そうかー。ここ最近魅音がMIBに連行される宇宙人みたいに詩音とレナに連れて行かれるなぁと思ったら、そういうことだったのか。
まあ魅音がエロくなってくれるというのは俺的には万々歳なのですが、そういうのは俺にも一言言ってからヤッて欲しい。
ビバ乱交。

「だ、だいたいそんなの理由になってないじゃん! なんで詩音が圭ちゃんにふぇ、ふぇ、フェラなんてやってんのよー!」
「そりゃもちろん、圭ちゃんがどれくらいの器量持ちなのか確かめるために」
「するなぁー!」

半泣きの表情で、ぐわぁー、と吠える魅音。
対して詩音は目を細めると、しんみりとした表情で口を開く。

「いいですか、お姉」
「なんで私の時はいっつもいっつもムードないのよー! ……ふぇ?」

その瞳に込められた静かな迫力に、ぎゃんぎゃんと叫びそうだったのを中断して、魅音は詩音の瞳に見入った。

「お姉は私の大切な人なんです。誰よりも、何よりも、お姉には幸せになってもらいたいんです」
「う……うん」
「だから、お姉が見初めた圭ちゃんが、本当にお姉を幸せにできるだけの人なのかどうか、この目で確かめたかったんです。……でも、お姉の気持ちなんて考えてない、ただの私の独りよがりだったみたいですね。ごめんなさい」
「そ、そんなことないよ! 詩音がそうやって私のことを想ってくれるは、その……嬉しいよ」

あわあわとする魅音を横目に、詩音は顔を横に向けると、

(なーんて、悟史くんがリハビリで忙しくて構ってくれないから、最近欲求不満気味だったんですよねー☆)

などとチェシャ猫笑いをする辺り、やはり詩音は一筋縄ではいかないんだなあと思う。

「えー……と。結局、どうなったんだ?」

完全に蚊帳の外状態だった圭一が、かりかりと頬を掻きながら呟く。

「さ、というわけで圭ちゃん、覚悟を決めてくださいね」

いやまあ、覚悟っつーか期待の方なら主にマイサンの方がみなぎりまくりなのですが。
と、そんな事を考えてる内に、詩音の裸体がこちらにしなだれかかってきた。

ちゅ、と触れた唇を割って、つるん、と心太(ところてん)のような感触と共に詩音の舌が口内に侵入してくる。魅音のおっかなびっくり這い回るような、じれったくも初々しい動きとは違って、せわしなく、そして妖艶に踊る。舌根の奥から立ち上ってくる吐息は甘ったるく、そして温かかった。

「んむ……は……ん、ちゅる、ちゅ」

てらてらと圭一の口内を蹂躙した後、ぷは、と詩音は唇を離す。物足りなさげにちろりと唇を舐めながら向けてくる、ねっとりとした視線が艶かしい。

「ふふ、お姉が初の彼女にしてはなかなか上手いじゃないですか。もしかして経験あるとか?」
「阿呆、毎晩欠かさないイメトレの成果に決まってんだろうが」
「よろしい。お姉以外の女性とこっそりエッチするなんて、この私が許しませんからね」
「じゃあ、お前は何なんだよ」
「私とお姉は一心同体ですから」
「……いまいち返答になってないような……」
「まあ、それはそれとして」

眼前に迫っていた詩音の顔が突如消え失せて、白くて柔らかいものがぷるぷるとこちらの顔面に押し付けられた。そして、鼻先の辺りに、ころころくりくりとした感触が、二つ。

「ほらほら、いかがですか? 食べごろですよー」

くすくすと笑いながら、詩音はぽよんぽよんぴたんぴたんと乳房を圭一の顔にこすりつける。
先端が鼻や唇を掠める度に立ち上る甘い痺れに、ん、と声を漏らしながらも、なおも胸を揺らす。

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最終更新:2007年08月29日 21:23