厚手の布、豪勢なフリルとレース、それでいて華美すぎないどこか禁欲的な感じさえする服。
メイド服を着た人物がベッドに座っているのを鏡で見る。似合わない。
見ていたくなくて視線を再びスカートに落とす。縫製の良い物だ。
生地も良い。レースも下品にならない程度に付いている。
その裾から覗く自分の足をたどる。
細いが女性らしさとはほど遠いその足に、入江はため息をついた。

この足がもう少し柔らかであれば…何度そう思った事だろうか。
黒いソックスに包まれたふくらはぎにそっと触れる。
足だけでない、腕も、胸も、女性らしい柔らかさからはかけ離れている。
この体が女性の様であれば…幼い頃から何度思っただろう、悔いただろう。
その度に自分の体を見てため息をつき、時には涙したのだった。

似合わない。似合っていない。
鏡の中に写る自分を横目で見てもう一度ため息をついた。

顔立ちは整っていて女性的な優しさをたたえているし、
色素の薄い髪の毛が流れるうなじや指先や繊細さは間違いなく女性の物なのだが
その体つきは女性の物である。と断言できるほど柔らかではない。


例えばこの胸。
豪勢なフリルに飾られた別珍の生地を撫でる。
膨らみのない平らな胸ではこの服は似合わない。
例えば鷹野の様に豊かな胸を禁欲的なこの衣装に隠すから良いのであって、
入江の膨らみのない胸では全く、滑稽ですらある。
生地の感触を楽しむように胸元に手を這わせる。
平らな胸ではあるが布越しに胸の突起が感じられる。
足に逆の手を這わせる。
女性らしい柔らかい曲線とは違う筋張った足。
黒いソックスに包まれてはいるが女性らしさは感じられない。
昔から、昔からこうだった。
骨と筋、手に伝わる感覚も柔らかい物ではない。
子供の頃から痩せ気味だった。食べても太らない体質なのだろうか、
羨ましがる女友達の豊かな体のラインをこっそり隠し見た学生時代の記憶が読みがえって来た。
太股も余り肉がない。筋っぽくガーターベルトが不釣り合いだ。
その奥、唯一自分が女性である証拠の器官に触れるとそこは既に潤っている様だった。

どうしてこうなのだろう。何度女性らしくなりたいと思ったか。
豊かな乳房や柔らかな尻に憧れ、その都度涙してきた。
女性らしくない自分を嫌い男らしく振る舞い研究に精を出した。
研究の分野では研究内容が重視され、自分の性別など誰も気にせず居心地が良かった。
もう、誰にも女性として見て欲しいと思わない様になっていた。
高ぶる熱は時々こうして自分で処理すれば良いのだから。

下着の上から濡れそぼった秘所をまさぐる。
滑りを使い秘裂に指を沿わせその奥を浅く抉る。
皮を上げ敏感な突起に触れると愛液がまたあふれ出した。
胸元のボタンを空けささやかな膨らみの上にある淡い色の乳首に触れると甘いしびれが走る。
幼女の未発達な胸の様な入江の乳首は酷く敏感だった。

診察用のベッドに座り、メイド服を着て自慰に耽っている己の姿を思うとまた一段と滑りが増した。
誰もいない深夜の診察所で淫猥な行為にふける自分。村の人間は想像しないだろう。
それ以前に皆自分を男だと思っているに違いない。
その自分がメイド服に身を包み患者用の寝台で自慰をしている興奮。
背徳感とも言える感覚に快感が増す。




「…っく…あ、ふ…」
食いしばっていた口元から吐息が漏れる。息が熱い。
右手で胸元をまさぐり、左手で秘裂を抉る。
人差し指でクリトリスを下からつつく様に刺激し、中指と薬指でぬかるんだ秘裂を擦る。
あふれ出した愛液を掬い肉の隙間にそっと指を進める。
第一関節まで差し入れると中は熱く濡れていて掻き回しても抵抗はない。
もう一本、指を差し入れ浅い位置で掻き回すと下半身に血が集まったような切ない感覚になる。
入江は我慢できなくなり胸を触っていた手を下に伸ばす。
もうスカートは乱れ、ガーターベルトと品のいい黒いストッキングに飾られた太股の辺りまで下着も下ろされていた。


「んっ…あっ…こんな…もう…っ」
堅く目を瞑り己の体だけに意識を集中させる。
刺激を与え続けたクリトリスは堅く勃起し、触れるだけで体が高ぶる。
胎内に二本の指を深く突き入れ限界はもうそこまで来ていた。
強い刺激を与えると切なくなり半身を起こしているのも辛くなる。
両手を太股で挟むように足に力を入れ胎内を抉り肉芽を抓む指に力を入れ、
絶頂はもうそこまで来ていた。
寝台の上で正座する様に座り、熱くなった体を絶頂に追いやる様に一気に責め立てる。
「あっ……っ…んっ…っ」

細い喉を逸らせ堅く目を瞑った。絶頂を迎えたのだ
体が少し震え、それから力が抜けた。
息を整え、酷く敏感になった体からのろのろと指を抜くと両の手ともぬらぬらとした液体で濡れそぼっていた。
ため息をつく。何だか分からないが罪悪感と、酷い虚脱感があった。
軽く頭を振り、シャワーでも浴びようと思考を切り替える。

「あら、もういいんですか、入江先生」

鷹野が扉の枠にもたれ掛かるようにして立っていた。
ねっとりとした視線が絡みつく。いつもの白衣に身を包んだ姿は美しかったが、
いつからいたのか、腕組みをして婉然と笑う様を入江は恐ろしいと感じた。


「勝手に入ってしまってすみません。何度も声かけたんですけど、夢中だったみたいで」



「た、鷹野さん…」
情けない事に声が上擦っていた。
そうだろう。誰だって自慰の現場を見られれば動揺する。
それが恋人や親しい者ならまだしも相手は同僚だ。それにここは診療所である。
診療所、そう何故今ここに鷹野がいるのだろうか。
「鷹野さんは、何故こんな時間に…?帰られたはずでは」
確か今日診療所を閉める際に鷹野は帰宅すると言っていた。
なにせ誰も残っていないのを確認して自慰行為を行っていたのだから。
入江の顔が赤くなる。
そうだ、自慰行為を見られていたのだ。
いつからかはわからないがあの様子だとしっかり見ていたのだろう。鷹野の顔が見られない。

「入江先生って、随分と素敵な声でいらっしゃるのね」
くすり、と小馬鹿にした様な声で言われ鷹野を見上げると楽しそうに笑っていた。
髪をかきあげる。長い髪がさらさらと流れる様子に思わず見とれる。
見られていた、聞かれていたと言う動揺よりも鷹野の女性らしい仕草に意識がいった

「あんな風に押さえた声も素敵。…興奮しちゃうわ」
笑うように細められていた目が薄く開き、唇が耳まで裂けたかの様に薄く開かれる。
剥き出しの腕に鳥肌が立つのが見ないでも分かった。
どんな口紅を使っているのだろう、舌なめずりをする鷹野の真っ赤な唇を肉厚の舌がなぞる様子は酷く淫猥で下品ですらあった。
ぬめぬめと光る唇を薄く開いてうっそりと笑う。

一歩、また一歩とこちらに歩いてくる。
ヒールがゴム張りの床を鳴らすくぐもった音を入江にはどこか他人事のように感じられた。
目の前に迫っている鷹野の行動がわからない事には対応もできない。
「た、鷹野さんっ」
ベッドの横に立たれ見下ろされると流石に焦る。一体どう言うつもりなのだ。
「あら、まだ分からないのかしら、そんな素敵な格好しておいて」
入江は自分の格好を再確認した。
はだけられた胸元にスカートはめくり上げられ太股までが露出されている。
丸まった下着が足首辺りに絡まっているこの状態では言い訳もできない。
尤も鷹野は随分と前から自分の自慰を見ていたようだから言い訳の余地もないのだろうが。


「もう満足してしまったかしら…まだだったら、私がしてあげても良いのよ」
屈んだ鷹野が耳元でささやくとそこからざわざわとした感覚が広がっていく。
先ほど吐き出したばかりの熱が集まっていくの感じた。
「た、鷹野さん、一体何の話をしてらっしゃるんですか…」
声のふるえは隠せなかった。鷹野が笑うと耳に息がかかり、髪の毛の流れる音が聞こえた。

「あら、そんな事もわからないのかしら、私がしてあげるって言ってるのよ」

耳に熱を感じた。鷹野はベッドに片手をつき入江の耳を犯す。
耳朶にそっと触れられ、柔らかい部分を唇ではまれる。舌でなぞられると体が震える。
邪魔なのか髪の毛をかき上げられる際に触れた爪の感触にまでゾクリとする。
「あっ…鷹野さんやめて下さいっ…」
鷹野の熱い舌が耳の奥深くまで進入してきた。
脳を直接犯される感覚。ぐちゃぐちゃと厭らしい音が鼓膜に響く
背筋に走る悪寒と紙一重の快感。両の手でシーツを掴むが体を起こしているのがやっとだった。

一体何故こんなことに、考えてみても答えは出ない。
ただ、股間がもう濡れて来ている事は確かだ。自分で触りたい。
しかしシーツを掴んでいないと体が崩れ落ちて仕舞いそうだった。
開きっぱなしになっていた口元から唾液がこぼれる。
「もう…やめて下さい…んっ…鷹野さん…っ」
濡れた音をさせて、耳が解放される。
額を当てる様にして見つめられる。
これほどに至近距離で鷹野を見たのは初めてだったが、整った造作を感じるより、
その奇妙な笑い顔に意識がいってしまう。背筋に冷たい物が伝った。
「本当に、やめて欲しいと思ってるのかしら」
綺麗な優しく指が頬から顎をたどり顔を持ち上げられる。

「一人で浅ましく声を上げていたあなたに私は必要なんじゃなくて?」

そう笑った鷹野の熱い舌に唇をなぞられる感触を、どこか他人事のように感じていた。

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最終更新:2007年03月27日 01:47