白い肌が、華奢な身体が、女の子らしいところが、羨ましかった。









「…おじさん、完璧に負けてるねぇ…」
私、―――園崎魅音は、そう呟いた。

視線の先にいるのはクラスメートの竜宮レナ。
かぁいいものが大好きで、料理が上手で、優しくて、しっかりしてて……
そして何より、圭ちゃんの心を射止める事が出来た女の子。

圭ちゃんとレナが付き合い始めてもうしばらく経つけど、未だに心の傷は癒えない。
2人が笑い合ってるのを見るたび心がチクチクと痛む。
性格が悪い、なんて自分でも思うけど、心の中の黒い感情は一度芽生えたらなかなか収まらないものだ。

ふとレナと交わした約束を思い出す。
“どっちが選ばれても恨みっこ無し!正々堂々と勝負しようね!”

その約束通り、私は正々堂々戦った。そして、敗れた。
圭ちゃんはレナを選んだのだ。
…私は恋愛対象どころか、女の子としてさえも見てもらえなかった。


「…うん、大丈夫。気にしない、平気!」
そう自分に言い聞かせるように呟く。
辛くない、といえば嘘になる。
けど、圭ちゃんを好きなのと同じくらいレナも好きなのだから。


―――大丈夫。応援出来る。
うまく笑える。
今までのように、そしてこれからも普通に接する事が出来る。

…そう、思っていた。
あんな現場を見るまでは。




その日は珍しく部活が無かった。
梨花ちゃんと沙都子が、夕飯の買い物をすると言ったからだ。
ちょうど私もバイトがあったから、ダッシュで帰った。
…レナと圭ちゃんを、置いて。





猛スピードで廊下を走り抜けて、階段を飛び降りて、下駄箱に上靴を押し込んで。
校門を出ようとしたちょうどその時、ふと鞄がいつもより軽い事に気付く。
……まさか。
ごそごそとカバンを探る。やっぱり無い。

「お弁当袋、置いてきちゃった…」

ポツリと言葉を漏らす。
言ったところでどうにかなるわけでもなく、魅音は大きく溜め息を吐いた。

ああ、もう、せっかくここまで来たのに!
ぶつくさと文句を垂れながら魅音は回れ右をした。
このままでは完璧に遅刻だ。
詩音、怒るかな…そう思いながら教室のドアに手をかける。
と、そこでドアが少し開いてることに気づいた。
「もー、最後の人はドアくらいちゃんと………、…」



そこで見た光景。
最初はよく見えなかった。
それがだんだんと輪郭を帯びてくるにつれ、私の心臓の鼓動は速くなっていく。


「あ、ま、待って圭一く…ッ! は、ふ…っ…あうっ、あぁぁあぁあッ!!!」
「レナ、レナ、レナッ…!俺、も…出る……ッ!!」



一瞬にして頭が真っ白になった。
チカチカと、頭の中に閃光が走っている。

そこにいたのは顔を真っ赤にして小刻みに震えるレナと、無心に腰を降り続ける圭ちゃんだった。


「あ、……  圭ちゃ… れ、な…?」

驚いた私の声も聞こえないほど2人は行為に没頭していた。
だらしなく口を開け涎を垂らすレナ。普段の清楚なあの子からは想像もつかないほどいやらしい顔。
それは圭ちゃんも同じで、2人して獣のように深く、深く、交わりあっている。
いけない事だとは分かっているが、目が反らせない。


「あ、ふ…」
くちゅり。
おもむろに自分の下着の中に手を入れた。
そこはほんのりと湿っていて、ずくずくと疼いている。
指を縦に擦るように数回往復しただけで、そこからは液が溢れてきた。

「っふ、…… んっ…  ぁ」

あまり大きな声を出すと聞こえてしまう。
そう思い片手で口を塞いだ。くぐもった声がかすかに聞こえるが、あの2人にはきっと聞こえないだろう。
「ん、あふっ… は、ふぁ… っ」
そのうち秘部だけでは満足出来なくなり、同時に胸も弄った。
その大きい豊かな乳房に手を沿え、やわやわと揉みしだく。
時折固くいきり立った頂点をピンと指で弾くと、電撃でも走ったかのように身体を反らした。

「あぁう…  んぅ、 っ…!」
股間と胸をまさぐりながら、圭ちゃんとレナの嬌声をBGMに1人よがっている自分。
…無様だ。カッコ悪くて恥ずかしくて変態だ。…そして、何よりみじめ。
そんな状況にも関わらずこんなにも興奮してしまうなんて。

「あ、あぅ、…ん、ふぅ…っ!や、ダメ、止まんな…!」

だんだんと指が加速していく。止まらない止められない。
口を塞ぐのも忘れ、両手で乳首を強くつまむ。ねじる。ひっぱる。
ドア越しからレナの喘ぎ声が聞こえてきた。

「け、圭一くん、レナ、もうイくっ、イっちゃうッ、ッあぁ―――っ!!」
「ふぁぁああぁああっ!!!」





イく、と言ったのはレナだったのだろうか、それとも私だったのだろうか。
どちらかは定かではないが、恐らく同時にイったのだろう。
壁にもたれてハァハァと息を荒げる。ひんやりしていて気持ちいい。
頭がボーっとする。廊下には小さな水溜りが出来ていた。

…やった。やってしまった。
圭ちゃんとレナ。2人がしているのに興奮したとはいえ、まさかこんなところで―――



「レナ、立てるか?」
「…うん、だいじょぶ… ありがと、圭一君」

「!」
やばい―――
圭一とレナが魅音のいるドアの方に向かってきた。
咄嗟に隠れ場所を探すが隠れようにも場所が無い。
魅音は隣の教室に飛び込んだ。ドアを閉める余裕なんてない。
かと言って今更閉めにもいけないので、必死に身を丸めて隠れた。見つかったらどうしよう…!

「あったぜレナ。ホラよ」
「ありがと、圭一君」

…どうやら圭一たちは散らばった衣服を集めていただけらしい。
安堵の溜息が漏れた。
…何も隠れる事、なかったかな。
そろそろとドアから顔を出す。
…このまま流れで中へ入ってって、弁当袋を取れないだろうか。
おじさんモードで、ごめーん見ちゃったデヘヘ☆なノリでいけば、なんとか…


そう思い、魅音は教室をチラリとのぞく。
そこで見た光景に凍りついた。




お互い無言で、だけど微笑みを浮かべて心地良さそうに。
唇を重ね合わせ、ぴったりと抱きしめ合っている圭一とレナ。
2人は本当に幸せそうに寄り添いながら、笑っている。
言葉なんていらない。
気持ちが通じ合ってるもの。
……2人の顔が、そう言っている気がした。


なんだ、最初から私の入る隙間なんてありゃしなかったんだ。



先程のシーンを見るのもなかなかキツいものではあったが、なんとか我慢する事が出来た。
…我慢するどころか2人をオカズに自慰までしてしまったぐらいだ。
だけど、今この目の前にある光景は……もう耐えられない。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

ぷつんと、何かが切れたような音がした。

なんで圭ちゃんとレナのこんなシーンを見なくちゃいけないの。なんで2人が愛し合っているところなんて見なくちゃいけないの!?
だいたい学校なんかでするのは間違ってる。私じゃなくて先生や他の生徒が通りかかったらどうするつもり?!
……ああそうか。レナの作戦なんだね。こうやって2人がバカみたいに夢中でセックスしてるところを見せつけて、公認のカップルになろうって魂胆?!
すごいねーレナは。策士だよホント、かなわないわ!
すごくて策士でずる賢くて、汚くて卑怯で浅ましい!


くっくっく…。
気づけば自然に笑みがこみ上げてきた。
握りしめた拳に爪が食い込み、血が流れる。


そうだよ。
入り込む隙間が無いのなら。






………壊せばいい。
ただ、それだけのこと。









魅音は薄く微笑みを浮かべ、歩き出した。
………2人のいる教室へと。

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最終更新:2007年03月25日 21:03