私が自分の弱さに後悔したのは、これで何度目だろうか?
確かに私は、初めて六月を超えた。
でも、これは私の望んだ七月ではなかった。
みんなが私を探してる。
私がみんなを求めてる。
人はきっと、寂しさで死ねる。

裏山の茂みの中、私は何度、こころの中で沙都子を呼んだだろう。
七月の猛暑、水は豊富にあったけど、
食料は底を尽きかけていた。
用意周到に一ヶ月の食料を用意していたけど、
一ヶ月生き延びたところで、
私はどうなるというのだろう。

そんな時、何度目かの私を呼ぶ声が聞こえた。
「梨花ちゃーん、おーい! 梨花ちゃーん!」
「梨花ぁ! 居ませんのー!」
「梨花ちゃん! 梨花ちゃん!」
「みんな! あっちのほうで何か動くのが居たよ!」
魅音の指示で、私とは逆の方向へと、
みんなが行ってしまう。

そう、それでいい。
もしかしたら……みんなの中にも、
私の殺害にかかわっている人が居るかもしれないのだ。
簡単には信じられない。

でも……私は、何かを期待して……みんなの居るほうへと、
そろりそろりと近づいていった。
そこには、作業服姿の男が数人と、
みんなが対峙していた。
魅音が代表して、何か話している。
私を見なかったか、ということだろう。

私は、さらに近づくことにした。
みんなの会話の内容が気になったからだ。
「そうか……お前たちも知らないということは、
どこに居るのかわかんねぇってことだな?」
「おじさんたち……なんで梨花ちゃんを探してるの?」
「おい、こいつら何か知ってるぞ。拘束しろ」
一番大柄な男がそう指示すると、
脇についた二人が、沙都子とレナを常人とは思えないすばやさで拘束した。
「痛っ! 何するの!」
魅音は一番大柄な男に取り押さえられ、
圭一は突然のことに固まっていた。

「あぁ? お前ら、本当は何か知ってんだろ?」
「ちょ、何言ってっ!」
「お、おい! やめろよ!」
圭一が魅音を抑えている男につかみかかろうとしたが、
足で軽く蹴られただけで、圭一は吹っ飛び、
背後に木に体を打ちつけ……そのまま、圭一はがっくりとうなだれた。

「きゃ、きゃああああああ!」
みんなが一斉に叫ぶ。
「縛っとけ」
後ろに控えた二人は、レナと沙都子をロープで拘束する。
「な、何をしますの!」
「何でこんなひどいことするの!」
口々に今の理不尽な状況に対する文句を言うが、
そんなものが届くはずも無かった。

「はっ……もうくるところまで来ちまったんだ。
姫さんはキレるし、俺たちはもう、組織の庇護も無いときた。
逆に番犬に追われる身よ……お前たち、その二人は好きにしていいぞ。
俺はこいつに尋問する。なぁ? 部長さんよ?」
「へい、わかりました」
レナと沙都子は、ロープで縛られたまま、担ぎ上げられた。
二人とももがくが、体格のいい男たちにとって、
拘束された少女の抵抗など、無いも同じだった。

魅音はただ、男をにらみつけている。
「おい、”部長”さんよ。俺たちは古手梨花を見つけて生きたまま連れて行けば、
とりあえず生活は安泰するんだ。
素直に口割ったほうがいいぜ。
今なら部下に中止させることもできる」
「……あんたら、何者?」
「質問してんのはこっちだよ……次は殴るぞ」
「殴ってみなよ!」
ぱん、という平手が炸裂する音が聞こえた。
顔を赤く腫らした魅音は、それでも男をにらんでいる。
「ほう、こいつは……なかなかだな」

男は、馬乗りの体制を止め、魅音の腕を極めたまま、
ロープを取り出して後ろ手に縛った。
「こっちも縛っとくか、よっ!」
男は懐からナイフを取り出し、少しあまった魅音のロープを断ち切った。
そして、そのあまりで圭一を縛り付ける。
ロープは、足と手を縛るのに十分な長さがあった。

「なぁ、あんたもこんな小さいとはいえ、
集団の長だろう? 悪いことはいわねぇ。
さっさと言え」
「だから、知らなッ」
また、平手が炸裂する。
後ろでに縛られているせいか、ろくに衝撃を和らげることもできず、
魅音は少しなみだ目になっていた。
でも、魅音はにらむのをやめない。

「お前……俺は一人だがな、向こうは四十人ぐらい居んだ。
めちゃくちゃになっちまうぜ?
あいつらも切羽詰ってる……抵抗はお勧めしない」
「だって、だって……本当に知らないんだもん」
まただ……
今度ばかりは、魅音もないてしまった。
「うぐっ……ひっく……なんで、こんな……ひっく……」
「もう、決めちまったんだ。お前らは場所を知っている。
その命令は覆せない」
魅音は芋虫のように、這って逃げようとする。
すかさず男はそれを捕まえ、近くの木へと投げつけた。
魅音が背中から木にぶつかるが、
手がクッションになったおかげか、気絶せずに済んだようだ。

「ひぃいいい、な、何、何?」
男が魅音の服を……ナイフで裂いた。
「これ以上辱めを受ける前に、降伏をお勧めする」
「こ、降伏します……だから、皆を助けて!」
「駄目だ。降伏した場合、長はこちら側に投降しなければならない。
虚を突かれるかもしれないからな」
男の口元が、いやらしくゆがんでいた。
「あっ、や、やめっ! ああっ!」
今度はゆっくり……魅音の胸を包む下着を裂く。
「なんだ……お前、中学生じゃねえのか? そこら辺の大人より大きいぜ?」
男は、口をゆがめたまま、魅音の胸を下から掬う。
魅音のやわらかい胸が、男の手の甲に乗るように変形した。

「あ、あ、あぅ……やめてください……やめてください……ひっく、
やめて……うっく……やめて……」
男はゆっくり魅音の胸をこね回す。
魅音は羞恥の表情を浮かべて、男から目を逸らした。
「ああ、てめぇ、好きな男でも居るのか?」
魅音は、黙ったままだった。
「おい、居るのかッ!?」
男が腕を振り上げた。

「ひっ、い、居ます……」
「誰だ……やつか?」
男は親指で、背後の圭一を指した。
魅音は、ただこくりと、首を縦に振る。
それを見届けると、魅音をその場に放っておいて、
圭一のほうへと歩き出した。

圭一は覚醒したばかりらしく、
状況を飲み込めないで居た。
ただ、男に引っ張られるのに抵抗していたが、
ずるずると引きずられてしまっていた。

「おい、こいつ、お前のことが好きなんだってよ!」
男は圭一の背中をばんとたたき、魅音を指差した。
「うっく……ひどい……」
「て、てめぇ! 魅音に何をしたッ!」
「あぁ? 見てわかんねぇ? レイプだよ。
お前の目の前で、こいつを犯してやるよ」
「んだとぉ!」

圭一は跳ね起きようとするが、芋虫みたいになった圭一には、
無理なことだった。
「ああ、そうだ、お前には準備をしてもらおう。
そうだな……こいつを舌だけでイカせられたなら、お前は解放してやろう」
男はそう言って、魅音の股の間に、圭一を無理やり引きずった。
「知ってるだろ? 女はここを舐められると、感じるんだ。
お前は何歳だったかな……まぁ、そういうことを知りたい盛りだろうな。
ありがたく思え」

男は魅音のスカートをまくりあげ、
下着をずらした。
魅音の大事な部分が、あらわになる。
「その話は……本当なんだな? 俺を解放するってのは……」
「ああ、だがな、こいつを口外しちゃなんねえぜ?
俺の仲間はたくさん居る。
こいつを通報したところで、まず助けは来ない。
反撃もやめときな。
俺は軍隊上がりだ。お前の細い首なんざ、一発でこうよッ!」

男は近く似合った木の枝を、ぽきりと折った。
それは、常人には折れるはずも無い、腕ほどもある太さの木だ。
「……わかった、魅音……ごめん」
圭一は、舌を突き出したが、届かない。
「お、わりいわりい」
男は圭一を、魅音に思いっきり接近させる。
ほとんど密着する状態だった。
圭一は、むさぼるように魅音を舐めた。

「け、圭ちゃッ! やめて、やめてょぉ……いやだよ、こんなの、こんなのぉぉぉ!
見ないで、見ないで、汚いよ! 舐めないで!
ねぇ、私はどうなってもいいから! やめさせて!」
魅音の必死の訴えを、男はにやにやした顔で黙殺した。
「魅音のここ……綺麗だ……」
「何言ってッ! 圭ちゃん! ああ、やめてぇ! やめてぇ!」
魅音は体をこわばらせ、圭一の顔をはさみこむような形になってしまった。
……魅音は、失禁してしまったのだ……
「かふっ……くふっ!」
至近距離で尿を浴びた圭一は、呼吸ができない。
魅音はただ、嗚咽とうめきをあわせて、
顔を上気させていた。
目から、しずくがぽろぽろと零れ落ちる。
「おっと、漏らしちまったか」

男は圭一の頭をつかんで、空気を確保してやった。
「ま、そろそろいいだろう」
男は圭一を放り投げ、圭一の拘束を解くべく圭一に近づいた。
「いいか、まっすぐ走れ。後ろを振り返るなよ。
ここで見ておく。変な真似はするな?」
圭一はただ、こくりと頷き、走っていった。

「さぁ、レイプってぐらいだから、入れないとな?」
「! や、やめっ!」
男はそれ以上何も言わず、いきり立ったものを魅音に突き立てた。
「痛っ! あああああああっ! 痛いぃ!」
魅音は泣き叫びながら、男の律動に身を任せた。
体から力が抜けきり、あごが開きっぱなしだった。
男の動きが、だんだん激しくなっていく。
「ひぃぃぃ! やめて、抜いてぇえ!」
魅音の秘所から流れ出る血液が、痛みを物語っていた。

やがて、男の律動が収まった。
「あっ……あ……ああ……」
魅音は、ただうつむいていた。
終わってしまったのだ。
私は、何にもできないまま、魅音の人生は終わってしまった。
女は殺さなくても、殺されるのに等しい行為がある。
それが、強姦だった。

「ふぅ、なかなか良かったぜ。あいつなら一瞬で終わってただろうな。
あっはっは! これで俺も最低の変態ヤローだ!」
男は雄たけびをあげ、魅音を突き放した。
瞳にはしずくをため、それが頬を伝う。
その時だった。

「こっちを向きやがれッ! クソ野郎!」
ぱすっ、という安っぽい音とともに射出された何かが、
男のむき出しの腕に当たる。
「ごぉっ!」
男は転がり、すぐに木の幹に隠れた。
圭一が、魅音の改造エアガンで射撃したのだ。
圭一が近づいていく。

「くそっ、てめぇ!」
男が木の枝を投げた。
圭一はそれに対して、エアガンで応射する。
「け……ちゃん?」
魅音がわずかに、つぶやいた。

私は何をしてるんだ?
私が何とかできるのは、
今この瞬間だけ。
この瞬間に腰を上げなければ、
私は一生ここで、泣きながら、死ぬことも許されずに生きていくのがふさわしい。

圭一が示してくれたじゃないか。
戦う方法を。
相手は人間なのだ。

圭一はさらに近づき、必中の一撃を叩き込もうとする。
私は、その極限の状態へと走りだしていった。
「て、てめぇ! どこに!」
「梨花ちゃん!」
私は、今飛び出すべきじゃなかったのかもしれない。
……圭一の……胸に……白刃が刺さっていた。

「か、かぁ……ぉぉおおお!」
圭一は胸のそれを抜き取り、
男に突き立てた。
「ぐぉぉっ! ……! ……!」
男ののどに刺さったそれが地面に落ちたとき、
男の首筋から噴水のような血が噴出した。

圭一はその場に座り込んで、
胸を押さえている。
「梨花ちゃ……よか、くふぅ!」
圭一は血を吐き出した。
「圭一! しゃべっちゃ駄目です!」
「も、おれ、だめだよ、梨花……ちゃ、今度は……最初から……言ってくれよな……
逃げる必要が……ある……なら……なか、ま……こふ」
圭一は……大きな血の塊を口から出して、息絶えた。

「圭……ちゃん……」
「行って来るですよ、魅音」
「梨花……ちゃん?」
うつろな目をした魅音は、私たちの名前をつぶやいた。
自分の起こした惨劇の……落とし前をつけに。
私は、ナイフと改造エアガンを持って、
レナと沙都子が連れて行かれた方向へと歩いていった。

それは、意外とすぐの場所だった。
男たちがかなり居たから、すぐに分かった。
ざっと見て、四十近い人間が居る。
その中心には……二人が居た。
たぶん、二人だ。
二人だった……ものだ……

沙都子とレナは、白濁にまみれて倒れこんでいた。
衣服はすべて近くに打ち捨てられ、
体中にあざを作り、
関節という関節は脱臼し、骨は折れ……
それでも男たちは、まだしつこくレナと沙都子を責め立てていた。

「おいおい、もうめくれあがってるぜ?」
「こいつ……十二歳ぐらいじゃねえの?」
「もうこんだけ入れたら年齢とか関係ねぇだろ」
「それもそうか」
最低で最悪の場所で、最低で最悪な会話をする男たちを、
私は気配を消して、狩っていく。

まず指を切断し、こちらに注意を向けた瞬間に、のどをかききる。
簡単な作業だった。
切れなくなったナイフはすぐに捨て、
新しいナイフを補給する。
五人もやっただろうか。
私は、取り押さえられていた。

「てめぇっ! 何したかわかってんのか!」
「あんたらこそ、何したのかわかってるの?」
「おいおい、あんまり荒く扱うなよ?
まだのやつも居るんだ。
そいつを使わせてもらおうぜ?」
下品な笑いの輪唱がこだました。
こいつらは、仲間が死んでもどうでもいいのだろうか?

「隊長もいねぇ、番犬は追ってくる。
もう、俺たち死亡確実だよな」
「ああ、でもこいつを生きて連れて帰れば、
助かるかもしれねぇぜ?」
「じゃあ、死なない程度にやりますか」

「全員くたばれ。あいにく私は、死ぬのに慣れてるの」

私はわずかの隙に……自分ののどを引き裂いた。


暗い暗い、井戸の中。
上からは銃に取り付けられた電灯の光が、
底を突き刺すように降っていた。
「羽入、私は戦うわ。
あの時みたいに、逃げるのはもうごめんなの」
私のつぶやきに、羽入はこくりと頷いた。

決意―完―

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最終更新:2007年03月25日 20:16