「はぁぁぁぁぁ…ん…っ!」
細く小さな指先が、繰り返し、繰り返し執拗に淫裂をなぞりあげる。
ともすれば暴力的な激しさ。
でも、それは切ない程に絶妙な力加減で私を絶頂の高みへと押し上げていく。


時は夜。
月が狂ったように綺麗な夜の事。
夏の暑さに浮かされたムシ達の姦しい声は、まさにこの夜に相応しいのだろう。
この小さな部屋に何時もならばある電灯の灯りはなく、ただ淡い月光と古い畳の香り、そして凶声が薄暗い部屋を満たしている。
否、微かに/幽かに嗅ぐ事ができる匂いは。
血。
さっき、彼女がその指で散らした私の純潔の鉄錆めいた赤い臭いだろうか。
そんな事をボンヤリと思う間も、彼女の責めは続いていた。
弱く/焦らし/激しく淫核を擦り/ギリギリの距離を背中で舌が行き来し/…/内股を優しく撫で上げ//

「……あ…っ…くぅん…っ…は…はああっ!!!!」
段々と高く大きくなる私の声に、乳首を瑞々しい木の実を啄む鳥のように吸っていた彼女が顔を挙げた。
青ざめた月光が顔を浮き上がらせる。
見慣れた、その顔。
でも、その瞳には光はない。
そんな優しく狂った笑顔を、私は知らない。
にこり、と黒い聖母のように
沙都子は
ワラった。


ひぐらしのなく頃に 外典・花散し編




第一話


「沙都子、お風呂に入るのですか?なら、ボクも一緒に入るのですよ。」
「…え。あ…あの、き…今日は一人で入りますわ!」
顔を真っ赤にして、とてとてと慌ただしく沙都子は風呂場へ。
「あ…」
とっさに伸ばした手が、行き場をなくして宙をさまよう。
「あぅあぅ…梨花、避けられてます」
「…ふん。そんなの分かってるわよ」
普段は何とも思わないくらいの羽入の情けない表情に少しイライラ。声も自然と
固くなる。
「あぅあぅあぅ…」
益々情けない、というか泣きそうな顔の羽入を見て、ほんの少し心が癒される私
は相当根性が曲がっているんだろう。
「…悪かったわ、羽入。何も貴女に当たる事はないのだものね。…ホント余裕無い
のよ、私…」
「梨花…」
そう、今の私には全く気持ちの余裕がない。綿流しが終わると私の死亡確率は各
段に増す。絶望的な程に。

今回は比較的静穏な繰り返しだった。
私が知る限りで暴走する人物は全くその兆候を見せず、詩音は沙都子に悪意を持
たなかった。レナのお持ち帰りの恐怖におののき、圭一は適度に場をかき回し、
魅音は皆の良きリーダーだった。
恐れていた沙都子の意地悪叔父も帰って来なかった。

この繰り返しから脱する糸口は見えないけれど、本当に平和な日々。

ただ一つ。
沙都子が私を避けている事以外は。

最近、沙都子との間に強い隔たりを感じる。学校に行く時一人だけ先に行ってし
まうし、学校でも余り私の側に寄らなくなった。お昼を皆で囲む時も私から一番
遠い席(つまり真向かい)に座る。先程のようにお風呂も一緒に入らなくなった。
その癖、時々こっちをチラチラと盗み見たりするのだ。
目を合わせてにぱ~☆とかしてみると、途端に真っ赤になって顔を背けたり、慌
てて隠れたり…全く意味が分からない。
確定された死のストレスと抜けない棘のような沙都子との不仲が、私の心を真綿
で絞めるように苛む。

「…今日“は”じゃなくて今日“も”、じゃない…」
「梨花は…沙都子に何かしたのですか?明らかに態度がおかしいのです」
軽く疑いの目で私を睨む羽入。
沙都子は羽入のお気に入りだ。何でもコロコロと変わる表情がいいらしい。よく
一緒にテレビを見たりしている。といっても羽入は沙都子には見えないので、沙
都子の言葉に伝わらない相槌を打つくらいなのだけれど。

「知らないわよ。こっちが聞きたいくらいだわ…」
こうなってみると、普段どれだけ沙都子の存在が私を支えているかを実感する。
私も羽入と変わらない。次から次へと忙しい沙都子に生きる気力を与えられる。
果てのない輪の中で磨耗する心を癒やして貰っている。たぶん沙都子が側に居な
かったら、私はもっと早く気力を失っていただろう。

死を意識せざるを得ない時期だけに、余計、今の関係はつらい。
「ちょっと探ってきてよ…羽入。私はもうお手上げ」
ぐったりとちゃぶ台に身を投げ出し、顔だけを羽入の方へ向けて投げやりに洩らす。
「あぅ…イヤなのです、と言いたいけど、そうも言ってられないのですよ…」
羽入はいつものあぅあぅ顔で困る。
「沙都子は、いつから変になったですか?僕が覚えている限りでは…二週間前くら
いなのです?」
「…そうね、沙都子の前の発作の後くらいから…かしらね」

先月、沙都子が久しぶりに大きな発作を起こした。
風邪気味だった沙都子は部屋で大人しく休んでいた。新しいトラップに圭一を
どうかけてやるかとか、その日に学校であった事を話してみたりと他愛もないお
喋りに費やす何でもない時間が流れていた。

熱も随分と下がってきたし明日は学校に行けますわね。そうなのですか。では明
日は早く行ってトラップを仕掛けるのですよ。圭一はにちゃにちゃにゃーにゃー
でかわいそかわいそなのです。にぱ~☆おーっほっほっほ!…なんて言い合って
いた。今思えば、この時はまだ普通に話ができていた気がする。
寝る前にいつもの薬を沙都子が使って二人で眠りについたのが十時頃だったか。

…それから二時間後に発作が起こった。

直ぐに入江に電話して来て貰ったので大事には至らなかったけれど…本当に沙都
子の発作には肝が冷える。何回か前の繰り返しで沙都子が発作中に目の前で自殺
した事があってからは…尚更。あの時だけ、忌まわしいリセットが待ち遠しく思
えた。
入江達が来るまでの時間、沙都子を堅く抱き締めていた。暴れる沙都子の爪で幾
つもの傷ができたけれど、冷え切った沙都子の体に少しでも温もりが伝わるよう
に。悪い幻から守ってあげたかった。震えを止めてあげたかった。…でも、震え
ていたのは私も同じだった。怖くて仕方がなかった。

そういえば、今回は沙都子の発作が起こる回数が多いような気がする。

それに伴って薬の量も回数も増えているのも気になるところだ。沙都子自身が被
験者だから思わぬ副作用が出てきてもおかしくない。これまではなかったけれど…。

「全く…静かな時には静かな時の煩いが用意されているなんてね」
「梨花、気を落とさないで下さいです」
励ますように声を掛けてくる羽入。
「取り敢えず探ってみるですよ。…時には見えないというのも便利なものです」
節目がちに薄く笑んでそう付け加える。
「羽入…ごめんなさい。貴女、気にしてるのに」
「いいのですよ。沙都子のことは僕も気になるですし。…それに、梨花がしおらし
いのは気持ちが悪いのです。早く元に戻って、強気で不敵で僕をイジメるイジワ
ルな梨花に戻るのですよ」
「…なによ、それじゃ私がいつも羽入をイジメてるみたいじゃない…」
「気付いてなかったですか?…あぅあぅあぅ~…ですよ」
ニッコリと笑う羽入の顔を見てると、何だか無性に泣きたくなった。
「さて、僕は早速探偵しに行くのです。お風呂覗きで変態さんなのですよー」
そういうと羽入は立ち上がり、風呂場の方に消えていった。
「…馬鹿」
…御礼言えなかったじゃない。
ありがとう、羽入。
死ぬ前までに、シュークリーム五つくらいは付き合うわ。


====================


一気に湯船に入り込むと、溢れたお湯が縁からざあざあと流れ出す。
お湯の熱が身体の芯に向かってジワジワと染み渡ってくるのを感じる。

それはまるで、今のわたしの中にある疼きに似た感覚。

知られてはいけない。悟られてはいけない。梨花には。梨花だけには。
疼きの中心へと手を伸ばしてみる。お湯の中にも拘わらず、ぬるりとした感覚からそこが濡れているのが分かった。
そして恐る恐ると…わたしは'そこ'に目を向ける。

ああ…。
知られてはいけない。悟られてはいけない。梨花には。梨花だけには。
湯気の中でわたしは、のぼせそうな頭の中で刻み込むように、戒めるようにそう繰り返す。

月は雲に隠され、所々に明かりが洩れ出すのみの夜空。
ムシ達の声も今は微かに聴こえるだけだった。
今は。
…そう。今は、まだ。




第二話


「…どういう意味なの、それ…?」
羽入が何を言っているのか、とっさに私は解らない。

「…あぅあぅ…言った通りなのです。梨花、今回は沙都子から離れるのです…」

真剣な、しかし酷く沈んだ表情をして彼女はそのワカラナイコトバを繰り返す。
「だから、それが解らないのよ。いきなり過ぎて何がなんだかサッパリ…」
羽入が沙都子を観察し始めて三日目の夕方、何か悩んだ顔をした羽入から伝えら
れた話は、私が全く予想しなかったものだった。
「……梨花、何も聞かずに言う通りにして貰えないですか?」
縋るような眼で私を見ている羽入だけれど、私はそれに真っ向から立ち向かう。
「…無理よ。沙都子の発作が頻繁なのに、放っておくなんてできない」
そう、いくら残り数日の世界だとしても沙都子を見捨てるなんて私に出来るわけ
がない。それは…羽入にも解っている筈なのに。
「何か…わけがあるのね?私の知らない方が良い理由が」
羽入は少し押し黙った後、ゆっくりと口を開いた。

「……あぅ……梨花、沙都子の事は好きですか…?何をされても好きでいられますですか…?」

不意の質問。虚を突かれた私は一瞬、頭の中が真白に染まる。
「何…を?好きに決まっているわ。でも…何をされてもって…?」
「それが大切なのです。…梨花、沙都子の全てを受け止めれる自信はありますか?
どんな沙都子も受け入れることができますか?」
これまで見た表情の中で、恐らく一、二を争うくらい真剣な顔をして私を見据え
る羽入。

「…難しいわね。例えば腹を麻酔なしで裂かれたりしたら、分からない。やっぱり
憎む事もあるかもしれないわ。痛いのはイヤだもの」

安堵の中に微かな落胆が混じったような表情をした羽入は、恐らくそれが当たり
前なのです、とか慰めの言葉を言おうとしたのだろう。口を開きかけた。

「でも」
私はそれを遮って続ける。
「沙都子になら何をされても受け入れたいと私は思う。分からないとは言ったけれ
ど、きっと私は沙都子に殺される結末を迎えて死ぬ時に痛みから恨む事があって
も、次に合う時には笑って抱き締める事ができるわ。…そういう自信はある」
そうだ。繰り返される永い永い生活を沙都子と一緒に生きてきて、そういう沙都
子がイレギュラーなものだと私は知っているから。

まだ私の知らない沙都子がいるというけれど、それでも私は…

「だって、沙都子が好きだもの。だから…聞きたい。沙都子に何があるのか」

羽入は…なんとも微妙な表情だった。嬉しそうであり、しかし悲しそうでもあり
…彼女の考えが読めない。
「……そう、なのですか。では、分かる事だけ話しますですよ?」
羽入の眼が私を捉える。
「これだけは覚えていて下さい…。沙都子は悪くないのです。…本当に」
そう念を押した羽入は、ようやく重い口を開いた。

「梨花はこのまま一緒に居ると、沙都子に犯されるのです」

「…え」
今、羽入は今ナニヲ言ッタノカ。
「順を追って話すのです。…以前に似たような事があったのです。あれは…」


あれは、梨花が生まれるずっとずっと前の事。永い間、赤ちゃんが出来ない古手
の巫女がいたのです。その時までに既に何代か女の子が続いていたので、なかな
かに期待もあったのですが…とうとう次の巫女が生まれないまま、三十後半にな
ってしまったのです。
ある日突然、あの悪夢が始まりました。
毎夜、巫女を村の男達が襲い始めたのです。

村の男の人達は夜になると、まるで発情期になったように巫女を皆で犯していき
ました…。濁った目と、普段と全然違う顔をして発情したモノで…泣きわめくあのこを…襲ったのです。
身籠るまで、それは続きました。すっかり心の壊れた巫女は…子を生むと直ぐに
亡くなりました。


羽入は、その時の事を思い出すように、ほんの少し唇を噛み締める。
私の知らない、壮絶な歴史。
「…問題なのは、襲った人は誰もその事を覚えていなかった事なのです」
「覚えていない…それだけの事をしたのに…?」
「そうなのです。色々な人を見て回ったのですが、皆、昼はいつもの村の人だった
のです。夜になると、人が変わったように発情して襲っていたのですよ」
本能、なのだろうか?だとしたら何の?
「…そして沙都子の今の状態は、その時の村の男の人たちに顔の感じや、雰囲気が
よく似ているのです」

それは、かすかな違和感。

「…ちょっと待って。沙都子は…"女の子"なのよ?発情したのは"男の人"たちだっ
たのでしょう?」
話の流れからすると、巫女を襲ったのは男の人たちだけの筈。

「あぅあぅ…それが僕にも解らない所なのです。どうして女の子の沙都子がそうなってしまったのか。だから"似ている"と
言ったのです」
実際に梨花を見る沙都子がそうだ、と羽入は付け加えた。
「つまり…沙都子は私に…何というか欲情しているって事?」
「そう思うのです。かなり…た、溜まっているみたい…なのです」
あぅあぅ…と真っ赤になる羽入。
溜まるもなにも、溜まるモノ自体は無いと思うのだけれど。

嫌悪感は全く無かった。
ただ、成る程というスッキリとした納得と…不思議な高揚を感じている。

「それで…もしそうだったとしたら、私は確実に犯されるのね」
「…必ずとは言えないのです。現に今まで沙都子はその衝動に耐えているのです。
でも…」
言い澱む羽入は、目を伏せる。
「…分かっている事は、話してくれるんでしょう?」
少し卑怯かなと思いつつ、先を促した。

「沙都子は…梨花を傷付けたくないから、意識が飛びそうになると…腕を切るので
す。痛みで我を保つために。袖で目立たない二の腕を…声が漏れないように、必
死に歯を食いしばりながら…傷付けるのです」

「…なんて…事を」
もっと早く気付けたら良かった。一緒にお風呂に入らなかった理由は…恐らくそ
れが分かるからだという事もあるのだろう。
「…沙都子も梨花の事が好きなのです。だから嫌われたくなくて…」
目の奥が、熱い。
「梨花…どうするのですか?…僕は、沙都子の気持ちを汲んで離れるのも有りだと
思うのです。…でも、それだと沙都子は…」
あついみずが、ほほをつたうのをかんじる。
「…私が、この体を沙都子の好きにさせれば…沙都子は楽になるのね」
「あぅあぅあぅ…恐らくそうです。でも」

「じゃあ、話は簡単。私を沙都子にあげるわ」

「梨花…」
羽入は…もはや何も言う言葉を持たないように、ただ私を見つめていた。


====================


痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイ痛いいたい切りつける痛い痛いい
たいいたいイタイタリナイイタイ痛いイタイオカセ痛いいたい痛いイタイ痛い痛
いいたい!!!!!!!!!!!!

捲り上げた二の腕から腕に、そして手、指先と鮮紅の雫が伝うのを感じる。
焼け付くような痛みが、わたくし自身の脈と連動した波になって脳を灼く。

…やっと、落ち着いた。
薄暗い部屋の中、わたくしは身体の強ばりを少しずつ解いていく。
梨花は用事があるとかで家には居ない。
静かな密室に、ただひぐらしのなく声だけが夕暮れを伝えている。

この前から感じる、自分が何か別のモノになりそうな感覚。
ただはっきり分かるのは…梨花を…メチャクチャにしたいという黒い衝動と…そ
して、下半身の疼きだけ。
日が経つにつれて、だんだんと強くなっているようだ。昨日など…背を向けた梨
花に、危うく襲いかかりかけた。
腕を何となしに眺める。無数についた切り傷の中で、先程つけた新しいものの中
で細かいのでは血が止まりかけているものもあった。
何故こうなってしまったのか解らない。
最初は梨花にもっと触れたいと思うくらいだったのに。
今では…こんな黒い気持ちを梨花に向けている。
それが情けなくて…いつの間にか涙が溢れていた。
「…梨花…ごめんなさい…わたくしは…」

「何故…謝るのですか、沙都子…?」

ハッとして後ろ振り返る。
そこには…梨花が立っていた。




第三話


何時からだったのだろうか。
梨花の蒼黒の艶やかな髪に無性に触れたいと思った。
梨花の玉雫の散った白い肌をお風呂場で見ると…顔が熱くなった。
梨花の小さな桜色の唇に、わたくしのそれを重ねてみたいと思った。
梨花の華奢なうなじに、舌を這わせたいと思った。

そして何時からか。
梨花が…とてモトテモ欲シクテ堪ラナクナッテイタ。


====================


「沙都子、お風呂に入るのですか?なら、ボクも一緒に入るのですよ。」

にぱ~☆と、梨花が微笑みながらわたくしをお風呂へと誘う。
顔が、熱を持ってくる。
心臓が、ばくばくと耳に五月蝿い。

「…え。あ…あの、き…今日は一人で入りますわ!」

何とかそれを告げて、二の句を継がせないように、わたくしは急いで風呂場へと
向かう。

「あ…」

背後から聴こえる残念そうな梨花の声が追ってこないように、わたくしは戸をピ
シャリと素早く閉めた。
そうしてから初めて、自分が服を来たまま風呂に入っていることに気付く。
「全く…何をしているのでございましょうか…」

自分の慌て加減に呆れながら苦笑する。
のろのろと着ている物を脱いで、風呂に改めて入り直した。


====================


気持ちを落ち着ける為に、少し長風呂をして上がった時、梨花は卓袱台に頭を預
けて居眠りをしていた。
無防備な梨花の姿を見ていると、鼓動が高鳴っていくのを感じる。
起こさないように横に座り、梨花に顔を向けて同じ様に頭を預けてみた。
(…睫、長いですわね…)
起こさないように、そっと人差し指で梨花の顔に触れる。
柔らかい。吸い付くような柔らかさに、ついぷにぷにと頬を何度も指でつついて
しまった。
その指が唇に届いて止まる。
やっぱりそこも柔らかくて、一層胸がどきどきと脈を打つ。

(……美味し…そう…ですわね…)

何となしに、そんな事を思っていた。
気が付くと、吐息がかかるくらい近くに梨花の顔にわたくしは自分の顔を寄せて
いた。

唇と唇の距離は、無い。

そんな自分自身に、ふと気付く。
わたくしは慌てて梨花から離れる。

…今、わたくしは何を…梨花に何をしたのか。
罪悪感と共に感じる…そこで終わってしまったという残念な感覚に、余計に罪悪の念が強くなる。

もし、こんなわたくしの想いを梨花が知ってしまったら…梨花は、きっとわたく
しを軽蔑する。

ずっと姉妹のように過ごしてきたわたくし達には、当然親愛の情みたいなものがお互いにあった。
でも、今のわたくしの梨花に対する感情は、それより別の…何かもっと黒くて暴
力的な何か。
梨花をが欲しい。
梨花を支配したい。
そういった様な乱暴な想いだと解っている。
時には理性のたがすら外れかけるようなこれは、一体何なのだろうか。
頭が変になってしまったとしか考えられない。親友に…欲情するなんて。
そう、欲情、という言葉が一番良くわたくしの今の状態を表すのだ。
生憎、環境が環境だけに年齢にしては耳年増な方だから、男の子の生理としてそ
ういう事があるとは知っている。
祭囃しの裏でその…イロイロしている大人たちを梨花と覗いてしまった事があっ
たけれど、その時の男の人の様子や雰囲気と今の自分が似ているように思えた。

…やはり、あの事も関係あるのだろうか。

恥ずかしくて梨花にすら知らせていないけれど…早めに監督に相談した方が良い
だろうか?

そんな事を思い始めた矢先。
最悪の事態になった。


====================


「梨…花…」
弾かれたように、沙都子は後ろを振り返る。そして目の前に居る私を、まるで信
じられないモノがいるみたいに見て、絶え絶えに名前を呼んだ。
捲り上げられた左の二の腕には無数の傷痕が刻まれ、今も紅い糸のように幾筋か
流れを作っている。
「あ…あぁ……あの、梨花…これは…」
纏まらない思考で、何か言い訳をしようとする沙都子を遮り、私は彼女の隣にス
トンと腰を下ろした。
びくん、と身を震わせた沙都子の右手の中にある小刀を、一本一本の指を解すよ
うにして奪い、鞘に仕舞ってから卓袱台の上に置く。
その間、私たちはお互いに無言のまま向き合う。その作業中、沙都子は幾度とな
く私から離れようとしたけれど、掴んだ手がそれを許さない。
小刀を奪ってから、改めて私は沙都子の横に座り直す。

そして…沙都子の腕を取ると傷痕に口を付けた。

「あ?!…やっ…ん!…な、何をなさいますの、梨花…?」
俯いていた沙都子は慌てて顔を上げた。
「…消毒、するのです。バイキンが入ったらいけないのです」

「し…消毒って…ひぁ?!…舌を…傷口に入れないで…ぇ…。痛…いのですわ…」
舌先を傷の筋に沿って這わせると、沙都子が細かく震えたのが分かった。
時々、間違えて…というよりワザと傷口に入れると、その度に沙都子は小さく悲
鳴をあげて身をよじる。
その悲鳴の中に艶めいたものを感じるのは気のせいではない筈。
「…ふっ…んんっ……や…やめて下さい…まし!!」
沙都子は私を振り解くと、窓際の隅まで一気に身を引いた。息は荒く、俯いた顔
は熱を持ち朱が散っている。
私は、口の周りに付いた血をぺろりと一舐めして拭うと、沙都子を軽く睨む。
「…駄目なのですよ、沙都子。まだ終わっていないのです」
私は沙都子を追って、四つ足でにじり寄っていく。
「駄目…っ!近寄ってはダメでございますわ!!」
沙都子は、私の伸ばしかけた手を強く払いのける。
「…あ…」
まずい事をしてしまった、という表情を沙都子はした。でも数瞬の後、意を決し
たように口を開く。
「…梨花…っ。お願いですから…放っておいて下さいまし…。今のわたくしに近付
かないで…」
身を堅くして縮こまっていた沙都子を、私は無理やり抱き締めた。

「嫌なのです。沙都子をぎゅーでぎちぎちでぐにぐににゃーにゃーにするのです」
「…や…っ…ダメだと言っておりますのに…駄目…ぇ!」
凄い力で、沙都子は私から逃れようと暴れてくれる。
離してやるもんか、この…大バカ沙都子め。我慢なんかして、こんな痛い事…するなんて。
私も必死で沙都子にしがみついた。
「ぇ…?」
何分くらい格闘しただろうか。途中で、沙都子がピタリと動きを停める。
そして恐る恐る私の頬に熱い手のひらで触れ、何度か撫でた。
「…ぁ…梨花……泣いて…ますの…?」
「泣いてなんかないのです…!お馬鹿な沙都子は、もっともっと消毒してやるので
す!…頭の中も殺菌消毒して、こんなバカな事をしでかす脳も真っ白洗脳するの…
です…!!」
自分でも支離滅裂なのが分かるけれど、一度決壊した理性の堤からは、止まる事
なく感情が溢れ出てくる。
「…ばかなのです、沙都子は」
そう言ってから、私は無理やり沙都子の顔目掛けて自分の顔を落とした。
かちん、と勢い余ってお互いの歯と歯が軽い音を鳴らす。
「??!…んんっ…ふ…む……むぅ…ぅ!!」
いきなりのキスに、目を白黒させる沙都子は離れようと必死になる。

無論、私は逃さない。まるで雰囲気も何もない喧嘩みたいなキスを、私たち二人
は長い間交わした。
その内、沙都子は抵抗に疲れたのか、私の為すがままになる。
十分くらいそうしていたのか。
私は彼女の口唇から、ゆっくり舌を引き抜く。沙都子の息は相変わらず粗く、頬
の朱はより赤みを増していた。そして、異様なほど潤んだ瞳が私を映している。
「…り…りか……はな…れて……もう…だ……め……」
「…何度も言ったのです。嫌なのですよ、沙都子」
…にぱ~☆と笑いかけてやった。
「ぁああ…!!」
沙都子は物凄い力で私を振り解いて、一気に私から跳び退くと床にうずくまる。



「り…か……い…やぁ……ぁ……ぁぁ…ぁぁあ…あああ…ああああああアアあAA亜
亞あああ亞亜阿あAAアぁぁあア唖あアアアあああアアあAAAああぁあアア!!!!!」



一瞬見えた沙都子の涙が紅かったのは、果たして夕闇の色だったのか。

沙都子は地を震わせるような叫びをあげて、私に襲いかかる。
私は逆らわず、沙都子に押し倒された。
異様に血走った眼をしている沙都子に、理性の色は全く見えない。ただはっきりとした本能が、そこにあるだけ。

すなわち、犯せ。
すなわち、蹂躙せよ。

分かりやすい、人の欲望がそこにはあった。
ああ…こんな風になるのか。
覚悟はしていたけれど、今まで見たことのない沙都子の表情は、私の知る彼女の
どんな顔とも違い過ぎて、何となく悲しい。でも…これも彼女の一つの形なのだから。
「…さぁ、好きにしていいのですよ…沙都子…」
私の言葉に反応を返さない所を見ると、既に欲望に飲み込まれてしまったのだろ
うか。ただ、未だ見つめ合うだけの状態が、沙都子の頭の中の争いを感じさせる
ように思えた。
「ボク…いいえ、私の声も…届かない。…仕方のない子ね…」
私は沙都子の頭を両腕で抱え込んで顔を引き寄せ、そのまま口を付けた。
さっきの乱暴なキスとは違って、ゆっくりと中を探るように舌先で沙都子の口腔
内を愛撫する。
それが引き金になったのだろう、沙都子自身も徐々に私の動きに自分の舌を合わ
せてきた。
「ん…ちゅ……くちゅ…んっ……ん…?…んんっ…うむぅ…っ……!」
少しずつ、でも確かに沙都子の舌の動きが強く濃厚になる。動きが付いていけな
い。時々、溢れ出した二人の混ざり合った唾液が隙間から零れて糸を引く。

体位の通りに主導権が沙都子に移ってゆくのを、朦朧としてきた頭のなかでぼん
やりと感じていた。
ちゅぽんっ!と小気味の良い音を立てて沙都子が口唇を離す。しかし、沙都子と私
のお互いの口唇からは名残惜し気に細い唾液の糸が繋がっている。
「はぁっ…はぁっ……」
軽く酸欠気味で頭がフラフラする。
離れた沙都子の表情は、誰彼の薄闇の中に埋もれてしまい伺う事は叶わない。
「…はっ…はぁっ……ふ…ふっ…」
ただ速く浅い息遣い、そしてのし掛かられた腿の熱と感触で沙都子の存在は充分
に感じている。
ふっ、と静止していた空気が動いた。
次の瞬間。首筋に触れる熱くて柔らかいモノを感じた。
沙都子は浅い口付けを首元から耳の裏まで繰り返す。さっきのキスで気持ちが高
まっているせいで、啄まれる度に皮膚の上を軽く電気が走ったようにピリピリと
刺激される。
「…ん……く…っ……!…」
沙都子は同時に、空いた手でワンピースの下から脚の間に手を入れてくる。流石
に一瞬力を込めて侵入させまいとしてしまうが、予想に反して、入ってきた手は
下着には触れずに内股の辺りを触れるか触れないかの距離で何度も何度も愛撫し
た。

決して直接的ではない責め。しかし私は徐々に妙な気持ちにさせられていた。
…考えてみたら、実際にこんな状況になるのは初めてで。
何度か大人たちの、いや、何度か圭一と魅音だったりレナだったりしたけれど、
そういった現場を見てはいる。
でも…どんな気持ちになるのかは、当然だけれど分からなかった。
正直な話、まだちょっとくすぐったい。
でも、沙都子が触れる度にまるで筆で絵を描いたような感覚の線が残るのを感じ
る。それは時間が経つと無くなるのだけれど、徐々に消えるまでの時間が長くな
っているみたいだ。
それと比例して躯が熱を帯びてゆく。
薄暗く殆ど周りが見えないせいで、触れる感触が、より鮮明になっている気がした。
いつの間にか、下にあった手が移動してきて肩紐を抜かれ、上半身を裸にさせら
れていた。
そのまま胸全体を手のひらで包まれた。
初めは、全体をマッサージするように強弱をつけて。
徐々に、ポイントを定めて転がすようにしたり軽く甘噛みしてみたり。
「は……ぁぁ!………ぁ………っ…」
リズムが速いせいか少し痛いけれど、それでも先程とは比べ物にならない量の快
感が私の中を走る。

私が高まってきたのを察したのか、沙都子は再び下から手を入れると、脚の間に
指を割り込んで両の足を開かせた。
その指は内股をなぞりつつ、そのまま上に上がってきて、私の中心を下着の上か
ら捉える。
その細くて柔らかい指先で、くりくりと廻すように刺激したかと思うと、割れ目
を探り当てて、ゆっくりと焦らしながら何度も往復を繰り返す。時々爪を立てて
谷の形を浮き彫りにするかのように、少しずつ先をクレバスの中に沈めていく。
「ふ…ぁ…ぁんっ……あっ…あっ…く…うぅ……ん……っ…」
布のザラザラした肌触りが擦れて心地良い。
下を責める間も、沙都子は口をつかって主に胸を中心に愛撫を続けていた。
ちゅ…ちゅく…っ。
そのうち、私自身が濡れている事に気付く。
割れ目の辺りで湿り気を帯びてきた布地が素肌に張り付いてくるのが、少し気持ち悪い。
…直に触れてくれたらいいのに…。
浅い律動の中で、そう思っている自分がいた。

その瞬間。
ぴたり、と沙都子が動きを止めた。

「…ぁ………?」
突然止まった快楽供給に戸惑って、間の抜けた声が出る。

時は何時の間にか宵の口を越していた。

夏の暑さは、雛見沢には珍しく衰える事を知らず、蒸し暑い空気がお互いの汗の
熱気を持った匂いと混ざって濃密な空間を作り出している。
空には綺麗なキレイな真円月が登っていて、蒼白く頼りない光を下界に注ぎ続け
る。

その光に映し出された沙都子の顔は。
私の知らない、妖しく艶めいた顔。
もはや、ここにいつもの沙都子は居ない。



くん


「…!!!!っ…い……いた……ぁぁ…!!!」
ぽたり、と雫の垂れる音を聴いた気がした。
突然の激しい痛みに叫びを上げる。
「……っ…あ…あ………」
沙都子の指が、私の中に深々と割入っていた。
痛い。もの凄く痛い。一瞬刺されたと勘違いしたくらいの激痛が、しかも敏感な
部分に荒れ狂っている。
「…ぃ…たい……沙都…子…」
しかし沙都子は構わずに指を入れたままで、わずかずつ指を動かす。
その度に裂孔から割広げるようなピリピリした痛みが全身に走っていく。
永遠に感じられた時間。
やがて、私の反応が良くないのを感じ取ったのか、沙都子はゆっくりと指を裂目
から抜き出した。

そのまま沙都子は、一旦身を引く。
…?
訝しく思いながら僅かに身を起こしてみると、丁度脚と脚の間に頭を沈めるのが
見えた。
ぴちゅ……ちゅ…ちゅ…ぴちゃ…。
「はっ…んん…っ…!」
沙都子は躊躇わず破瓜したソコに口をつけた。血の朱を拭うように丁寧に丁寧に
舐り回す。
最初はそれすら痛みの元だった。
しかし何度も舌が往復するうちに、痛みの中にくすぐったいような、気持ち良い
ような感覚が芽生えてくる。
例えるなら、瘡蓋を剥ぐ時の感じに似ているだろうか。痛いと分かっていても止
められない、あの感じに。
初めては相当痛いと聞いていたけれど…こんなにも早く痛みが無くなるものなの
か…?
怪訝に思いながらも、その快楽に自然と躯が同調してゆく。
…ぴちゅ……くちゅり…ちゅ…る…。
淫靡な音が高くなると共に私自身の性感が再び頭を擡げてくる。
「……あっ…あ…ああ……あああ…!」
裏腿の当たりをさすりながら激しく、柔らかく舌を縦横に、緩急付けて動かすそ
の舌使いに振り回される。
時折、淫核の外周をぐるりと舐め回したり、ちゅくちゅくと音を立てて吸い付い
たりする責めは効果的に私を追い詰めた。

少しずつ。
少しずつ、戻れないような高みへ快感が登ってゆく。
「…あっ…あ!…ぁう……は…ぁぁ…あああああ…!!!!!!!」


あたまのなかが
しろくそまる


====================


意識を取り戻した時、まず感じたのは預けられた沙都子の体の重みと熱。
そして…絶える事のない快楽の波があった。

くちゅくちゅと淫らな水音を立てながら沙都子の指先は、再び私の中を犯していた。

「はぁぁぁぁぁ…ん…っ!」
細く小さな指先が、繰り返し、繰り返し執拗に淫裂をなぞりあげる。
ともすれば暴力的な激しさ。
でも、それは切ない程に絶妙な力加減で私を絶頂の高みへと押し上げていく。

時は夜。
月が狂ったように綺麗な夜の事。
夏の暑さに浮かされたムシ達の姦しい声は、まさにこの夜に相応しいのだろう。
この小さな部屋に何時もならばある電灯の灯りはなく、ただ淡い月光と古い畳の香り、そして凶声が薄暗い部屋を満たしている。
否、微かに/幽かに嗅ぐ事ができる匂いは。
血。
さっき、彼女がその指で散らした私の純潔の鉄錆めいた赤い臭いだろうか。
彼女の責めは続いていた。

弱く/焦らし/激しく淫核を擦り/ギリギリの距離を背中で舌が行き来し/…/内股を優しく撫で上げ//

「……あ…っ…くぅん…っ…は…はああっ!!!!」
段々と高く大きくなる私の声に、乳首を瑞々しい木の実を啄む鳥のように吸っていた彼女が顔を挙げた。
青ざめた月光が顔を浮き上がらせる。
見慣れた、その顔。
でも、その瞳には光はない。
そんな優しく狂った笑顔を、私は知らない。
にこり、と黒い聖母のように
沙都子は。
微笑った。


ぞくり、と背中が震えた。

アルカイックな微笑みを形作っている口元は、沙都子の唾液と私の淫水、そして
破瓜の血で紅く彩られていて、そのてらてらと光る斑紋様は、何かの呪い事の化
粧みたいな感じを与えている。
表情だけなら、それは穏やかな微笑みだろう。
でも、目を見てしまった。
深淵の闇に続くような、虚無の瞳。
蛇に睨まれた蛙、捕食者と獲物。
私の知っている沙都子では、絶対に有り得ない。

沙都子は、すっ…と自分の下着を膝元まで下ろす。
まだスカートが覆っていて、沙都子の膝から上は隠されている…のだが…?

…なんだろう、あれは?

脚の付け根辺りの布地が不自然に膨らんでいる…?
今まで下の方に意識が向かなかったけれど、明らかに異様な光景だった。

…ちょっと、待って。

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「つまり…沙都子は私に…何というか欲情しているって事?」
「そう思うのです。かなり…た、溜まっているみたい…なのです」
あぅあぅ…と真っ赤になる羽入。
溜まるもなにも、溜まるモノ自体は無いと思うのだけれど。


====================

羽入との会話が不意に蘇る。
溜ま…るモノ。
ま…さか…。

私がその部分を凝視しているのに気付いたのだろう。沙都子は僅かに口蓋を上げ
ると、そろりとスカートとの布地をたくし上げた。


羽入、変な事言ってると勘違いしてごめん。
溜まるものは、ちゃんとあったのだ。

沙都子の脚の付け根には。
オトコのコの…あれがあった。

<<未完>>

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最終更新:2006年09月06日 14:06