―――――
頭が真っ白になった。また、失敗…? また沙都子に知られてしまっていた?
沙都子が家を、出る?なんで?どうして?答えは分かってる、けど分かりたくない。
「どうして、って聞いてもいい、のですか…」
「どうして? 梨花は私の親友ではありませんか…、だから、ですわ」
「…言ってることが、よく分からないのですよ…」
――分からないわけない、私が沙都子を追い詰めたって事くらい分かっている。
「…ごめんなさい、梨花」
「ごめんなさい…?何がごめんなさいなのですか…? 何か沙都子謝らなくてはならないことをしてしまったのですか? にゃーにゃーなのですか…っ!? だったらボクが一緒に―」
――雛見沢での事なら御三家である私が何とかすることが出来る、沙都子を助けられる。だからいなくならないで。
「ごめんなさい」
「だから! 何がごめんなさいなのかって聞いてんのよ!! 親友だから家を出るって、何で!? 私のこと嫌いになった!? 何か悪いことした!? ねえ! 沙都子!!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
壊れたレコードのように何度も何度もごめんなさいと言う沙都子にいい加減恐怖を超えて怒りを覚えた。
「ちょっと! 何よ、沙都子! 言ったじゃない、私の事すきだって! あれは嘘だったの!? ねえってば!」
「嘘なんかじゃありませんわ…嘘なわけありませんもの」
「じゃあなんで!? 私の事一人にしたっていいってこと!! 私の事どうでもいいってことなの!?」
「そんなわけ、ある、…はずも…な…」
沙都子が何を言いたいのか分からない。何で沙都子がすすり泣くのか分からない。
「何泣いてんのよ! こっちが泣きたいくらいよ!!」
「ううっ…ごめんなさい…梨花ぁ…っく…うううううぅぅっ」
「出て行くならちゃんと理由を言いなさいよ! …北条沙都子ッッ!!!!!」
もういつもの口調なんてどうでもいいくらい取り乱してる。でも止まらない。沙都子がいなくなる生活なんて強いられるくらいならこうやって駄々こねて意地でも沙都子と離れないようにしてやる!
「だって!!! 梨花は嫌でしょう! 私の事なんて!!!」
「はっ!?」
「私が梨花に思っている好きは、梨花が思っているような好きじゃないんですのよ…」
――…え? 何?
「沙都子、何言って…」
「梨花を親友としてではなく…一人の人間として、恋愛対象として…好き」
「………………え…?」
「こんな、こんな感情おかしいって分かってるんですのよ、伝えたらきっと梨花に嫌われてしまうって事も分かってるんですの。だから梨花には知られたくなかったんです…」
――何?沙都子…あなたもしかして私の心が読める…わけじゃないわよね…?
「え、沙都子、ごめ…もう一度言って…くれない? …なのですよ」
少しでも自分を取り戻そうといつもの口調に戻してみるも、どう考えても変な文法。ああ頭が上手く働かない。
「だからだから! 私、北条沙都子は!他の誰でもない梨花が、今目の前にいる女の子の古手梨花が好きなんですのよ!!!」
「………………………………え…っと…」
「ほら! やっぱり梨花も気持ち悪いってお思いなんでしょう!? おかしいですわよね、同性を好きになるなんて。だから伝えたくなかったんですわ、梨花に嫌われたくなくて、梨花と離れるのが…、何よりも、こわく…」
――沙都子が、私を…好き? え、私今夢見てる、わけじゃないわよね…
「今まで冷たく当たってしまってごめんなさい、梨花が他の方と一緒にいるのが嫌だっただけなんですの。子供っぽいですわよね…気持ち悪いですわよね、親友だと思っていたモノに恋愛感情を抱かれていただなんて…嫌ですわよね、私の事…だから私」
「………」
――100年も思い続けて、諦めようとして諦めきれないその想い…伝わってるっていうの?
「何とか言ってくださいましな、梨花…それとももう私と話したくもありません、か…そうですわよね、ごめんなさ―」
「好き」
「…え?」
「私、沙都子の事好き」
「―――梨花?」
「好き…好き…、私、も……っ沙都子の事が……っ大好き…!!!」
――…夢じゃないわよね?ちゃんと私起きてるわよね…!ここにいる沙都子は本物よね…?!
「り、梨花ぁ? 私を思っての慰めだったら結構ですわよ……!」
えぐえぐと泣きながら抱きついている私の言葉に反抗する。ああ…もうバカ、バカバカバカバカ!!!!
「どうして信じてくれないの…どうやったら沙都子は信じてくれるのよ!」
「ぇ、ど、どうやったらって…わ、私人を好きになったのが初めてで…あのっ」
「何よ! この期に及んでまた私の事弄ぶつもり!? 私だって人を好きになったのはあんたが初めてなの!」
「…ち、ちが…え? 私が初めて…なんですの?」
「そうよ! 私は貴方がいなければもうとっくに死んでいたわ! 毎日が退屈でつまらなくてどうしようもなかった!私が今の今まで生きてきたのは、他の誰でもない沙都子がいてくれたからなんじゃないのよ! どうして気づかないの!」
「…ふぇ!? …ぇっと、梨花は赤坂さんが好きなのではございませんこと…?」
「誰がそんな事言ったの? 私? 私はそんな事言ってない、あんな温泉刑事沙都子になんか全然及ばないわよ!」
もう沙都子の言葉一つ一つ半狂乱になりながら答えるしかなかった。
「だって、だって…梨花…だって…」
「ああもう! 沙都子のバカ! 大バカ!! こんなにこんなに…あああーもうっ!!!!」
「り、梨花?」
突拍子もない声で私の名を呼ぶこの愛しいアクマの頭を抑える。きょとんとした顔付き、ああもうなんでこんなに可愛いんだろう…!
「こうしたら、信じてくれる?」
「ぇ?梨―ンッ」
唇を強引に押し付けるだけの、ムードのカケラもないキスをする。ある世界ではこれを無理矢理沙都子にしたら突き飛ばされたのよね…それを思い出して、どうか突き飛ばさないで欲しいと切実に祈った。ホント切実に。シュークリーム5個分くらい。頼むわよ!羽入!
*
恐る恐る唇を離すと、祈りが通じたのか沙都子は俯いていた。
「さ、沙都子…どう…?私が沙都子をすきだって事…伝わった?」
「…え、えぇっと…あのその、えっと…」
「それとも嫌だった?」
「そんな!嬉しい、ですわ…とても、嬉しくて信じられませんのよ梨花」
「…私だって同じよ、まさかここでループというかもうなんかよくわからないけどとりあえず勝ち取れるなんて思ってもいなかったから」
「り、梨花の言っている事がイマイチ分かりませんけど、本当はこれは夢だったんじゃないのかってちょっと今は心配ですわ」
「これが夢だったら永遠に目覚めたくないわね…」
沙都子が照れ笑いのような不思議な笑い方をする。つられて私も笑う。
「…えぇ同感ですわ。ですから確認したいのですが、よろしいのでございましょうか?」
「確認て、なに―」
私が訪ねるか早いか、私の両頬に沙都子の両手が添えられる。ああ、気持ちいいな沙都子の肌はどこも…。
「私、梨花に触れるのが怖くて今までこうすることが出来なかったんですの」
「怖かった? どうして? 別に噛み付きやしないわよ、そりゃちょっとは今気が立ってるけど」
「…だって、触れてしまったら私」
「な、ん……ぅ…」
さっきの唇を強引に押し付けるようなものではなく、ただ優しいだけのキス。
「…こういう事、したくなってしまって自分を止められそうになかったんですもの」
「沙都子…」
沙都子ってこんな子だったっけ…どうしよ、可愛すぎる…。
「病院で暴れてしまってごめんなさい、怪我はありませんでしたか?」
「う、うん…それは別に…」
「もう、あのときから既に私は戻れないところまでいたのでございますわ」
「…え」
「私、梨花のこと誰よりも…好きですわよ」
そう優しく微笑む沙都子は今までで見たことがないくらい美しくて、言葉すらも出なかった。改めて惚れ直してしまった目の前にいる少女が愛しくてもうどうにもならなかった。
「梨花、…あの」
沙都子の口が私の名前を呼ぶだけで身体が疼いた。
「沙都子、好き…」
「ん、梨花ぁ…私も…好き、ですわょ…んむ」
最初はちゅっちゅっと音がなるくらいの軽い口付け。次第にその口付けは濃度を増す。触れるだけだった手と手が絡みあいお互いの間にある距離を少しでもなくそうとお互いの頭、背中に腕をかき抱く。
「ぅ、ふ…んぅ…っ」
―くちゅり、と澄んだ水音が鳴る。
お互いの口でお互いの口に隙間を作らないかのように唇を、下を、歯茎を、口内にある相手の存在を意味するものを貪った。息が荒くなってもその勢いは止まることを知らずまだ足りないと言わんばかりにお互いの唇を欲した。
不意に梨花の左手が沙都子の背中をなぞる。
「んぅっ!?」
ビクッと電撃が走ったかのように身体を強張らせる沙都子。
「どうしたの、沙都子」
濃厚すぎる口付けをぷはっという息と共に止める。
「ど、…どうした…というのは…?」
「身体が跳ねたから、何か痛いところでもあったのかと思って」
「いえ、そんなわけではありませんの…ただ―」
「ただ?」
「り、………梨花の…その、あの…手が」
「私の手が?」
「気持ちよくて…その、えっと…私嬉しくて」
この子はどうしてこんなにも可愛いんだろう…いつもは強がりな女の子だというのに、こんな恥ずかしがっている姿を見れるなんて。
「嬉しい?」
「ええ…こんなにも、梨花に触れて欲しかったんだと実感していただけの事なんですのよ…」
「沙都子…」
「…って言ってしまってなんだか恥ずかしいですわn…きゃっ!?」
強く強く沙都子を抱きしめる。
「ごめんなさい沙都子、今まで生きてきて私の想いを貴方に受け入れてもらえたのが初めてだから私どうしたらいいのか分からない」
「…梨花」
100年も繰り返した中で試してみたのはたった一度だけ。でもその一度の失敗が怖くてもうそれを試すのが怖かった。沙都子が私に冷たくなるなんて考えたくもなかったから、もうこの想いは永遠に私の中で閉じ込めてしまうしかないんだって諦めてた。それでも跡取りのために沙都子より好きになれない誰かと結婚して子供を身篭って血を引き継いでいかなくてはならないんだと諦めていた。
…でも、沙都子を信じていた。あの日、レナに言われていたように…。
「私、…沙都子がいなくなるのが怖かった…諦めないで、良かった…うぅっ」
「梨花? 泣いていますの?」
「な、泣いてなんか…って沙都子も泣いてるじゃないの」
「え? 本当ですわね…くすくす、これは梨花が泣いてるからですわ」
「どういう…?」
「梨花が笑ってくれるなら私も笑いますわ、ですが梨花が泣くなら私も泣きますわよ」
――なんなのこの子の可愛さは。今までよく誰も手を出さなかったわね…!
「今のうちに謝っておく、ごめん」
「え、ちょ…梨―」
抱きしめながら沙都子を押し倒す。何が起こったか分からない沙都子の顔をじっと見つめる。
「…出来るだけ優しくするけど、私、止まらないかもしれない」
「…えぇ、肝に銘じておきますわ。今日という日を忘れないために―――」
―――――
時は夕暮れ、夏の終わりに伴い部屋の灯りもつけず薄暗い部屋の中に想い合う二人が重なる影、そしてひぐらしの鳴く声だけが聞こえる―――。
「…ま、分かってはいたけどやっぱり…ね」
目の前の少女の裸を見て溜息と共にしみじみと呟く。
――そりゃぁ確かに前からちょっとは沙都子の方が発育がいいなぁなんて思っていたけど…まさかここまでの差があるなんて誰が予想しただろう…いや出来るわけもない。(←反語)
「…ぁ、あんまり見ないで下さいましな…恥ずかしいですわ」
落胆というか羨望というか複雑な発育途上の乙女心が入り混じった視線を少し勘違いして捉えた沙都子はこんなに薄暗くても分かるくらいに、顔が朱に染まっていた。
そういや沙都子は自分の発育の良さに関してあまり快く思ってなかったみたいだった…きっと男子の目とかがあって恥ずかしいのかもしれない。…私みたいのも需要はあるけど、根強い人気はきっと沙都子みたいな子なんだろう…ってあれ何の話だ。
とにかく、沙都子が沙都子である限りどんなに私より優れた身体つきをしていても関係ないわけで…わ、私だってループの世界から抜け出したんだからこれから成長するはず!と願いたい。
「そんな事言ったって仕方ないじゃない。今まで見たくても見れなかったんだし」
「お風呂に一緒に入った時とか着替えてる時とか見てたじゃありませんかっ!」
「それとこれとは別。そんな事言ってると部屋の電気つけちゃうわよ」
「そっそれだけは…! ………うぅ~…梨花は意地悪なんですのね…」
「沙都子には特別なのですよ、にぱ~☆」
「一般的に好きな子には優しくするもんじゃないんですのっ!?」
「ボク達は一般から少し外れているのです、みー」
「…っ」
口にしてから、あ、と思ったけど、やっぱり同性同士がこういう関係になるって言うのは常識から逸脱していると思う。多分私か沙都子かどちらかが男と言う性別なら私も沙都子もあんなに頭を悩ますこともなかったと思うのだけど…。返す言葉が見つけられない沙都子はただ目を伏せて俯いてしまうだけ。こんな顔させたかったわけじゃないのに、失言。
「みー、でもボクは幸せなのです」
「梨花…」
「実る確率が男女に比べて大分低いのに、それでも実ったボクたちなのですよ? 少しズレていてもボクは満足なのです」
「………」
「ボクは沙都子がいてくれたならそれだけで幸せなのですよ」
やはり少し自分の気持ちに、そして今この状況に戸惑いがある様子でいたけれど、その言葉を聞いて何かを思ったのか覆い被さっている私の手を取り自分の頬に触れさせ伏せていた目が私を射る。潤んだ綺麗な緋色の瞳に吸い込まれそうになる。
「そうですわよね…、折角梨花に受け入れてもらえて嘆くなんて贅沢すぎますわね…」
「みー! 沙都子は欲張りなのです」
「全くですわねぇ…ごめんなさ―むっ!?」
―突然のキス。あまりに勢いづきすぎて二人の歯がカチンとぶつかる。
どうにも私からのキスは強引なものが多いような気がするけど…気のせいよね?みー☆
「…りっ梨花ぁ!?」
「謝ったら罰としてちゅーしてにゃーにゃーなのです」
「どうしてですの?」
「ボクは沙都子が笑っていてくれた方が幸せなのですよ」
「…っ、………………ゎ…わかりました、わ…」
我ながらなんともこっぱずかしい発言が出来るものだなぁと自分で自分を褒めてあげたい。
でも素直に口に出てきちゃったんだからこれはきっと私の本心なんだろうな、…こんなにクサイ台詞吐くとは思わなかったけど。今まで愛の言葉なんて囁かれた事のない沙都子の顔は100年一緒にいてもみた事がない顔。可愛い。
「そ、それでですね…えっと…これからどうするんですの?」
「へ?」
「あの…だからこれからどうするんですの?」
「これから? …いつまでも仲良く一緒に暮らして生きましょう…?」
「ち、違っ…! そういう事じゃなく…って、梨花!もしかしてわざと?わざとなんですのっ!?」
「え…えぇええええっと…ごめん、何?」
「だからその…何もないんでしたら…私、服を着たいんですけども……ぁの…」
沙都子の言いたい事が理解できた。そりゃそうよね、自分一人だけ裸にされてたら恥ずかしいわよね。っていうか…性の知識が豊富でなくても、好き合ってるもの同士が裸ですることくらいは分かるんだな…とちょっと感心…とちょっと嫉妬。
――知恵の授業ではおしべとめしべからしか教えてもらってないからきっと誰かから教えてもらったんだろう…圭一?魅音?…考えたら段々ムカムカしてきた。まさか入江なんかじゃないわよね?だとしたらもう絶対沙都子連れて行ったりしないんだから!
「…り、梨花? 聞いてますの?」
「え!? あ、ごめん…ちょっと考え事してたわ」
「…もぅ、失礼な梨花ですこと………こ、こんなに恥ずかしい格好している想い人が目の前にいても物思いに耽るなんてっ」
「ごめんごめん…沙都子怒らないで」
「知らない知らない、知らないもん!」
手足をばたつかせる沙都子もかぁいい。いやちょっと前にも思ったけど今までよくこれで理性保てたわね私。尊敬する。悟史もこんな可愛い妹いて幸せよね、詩音も憎きライバルと思っていたようだけどこれだけ可愛ければどうでもよくなるもんよね。
「ごめんって…大体沙都子を目の前にして他の誰かの事考えてるわけないでしょ」
「だ!だって目が遠く見てましたわよ!」
「え…そうだった? それは気づかなかったわ。ごめん」
「別に気にしてませんけど! どうせ私にはそんな魅力ありませんものね」
「沙都子、今日は何でそんなに怒りやすいの~!?」
「だってだってだって!! …………………梨花が他の人の事考えてるの見るの嫌なんですもの…」
「…………」
「私、梨花を好きになるまでこんなに自分が嫉妬深いなんて思いもしませんでしたのよ、ホントですのよ? …聞いてますの梨花ぁ?」
――聞いてます!聞いてますとも!なんだっていうのこの子の凶悪的なまでの可愛さというものは!もうそろそろこんな台詞もくどいって分かってる!でもこんなに可愛いなんて反則よ!私どうしよう!!これから先こんな葛藤と常に戦いながら日々沙都子と生活していかなくちゃならないのかしら…幸せなんだけどでもその内理性が崩壊しそうだわ……あぅ。
とりあえず据え膳食わぬは一生の恥とも言うし、両思いになった事だし頂いちゃってもいいかしら…いいわよね、沙都子裸だし。ではでは…いただきま――
「も、もしかして梨花…私の事好きって言うのは冗談だったりしません…わよね……?」
――は?
「そ…その私が好きだから仕方なく好き、って言ったわけじゃない…ですわよね?」
――あ、こりゃヤバイ。ちょっとちょっとヤバイヤバイ警告出てきた警告。
「なんで…そう思うの…ですか?」
「いえ…ただあまり嬉しそうに見えない…というか…その」
「何? 何よ? 言いたい事あるならちゃんと言いなさいよ」
――ほらほらほらほらちょっとヤバイ方向に進んできたわよ…!ちょっと、誰かー!
「…あまりそういう感情を梨花から感じないので…やっぱり私、迷惑だったかしら…と」
――プチ って頭のどこかで音した。多分。いや絶対。
「そんなわけないでしょ! 今だって…今この瞬間だって! …一生懸命戦ってるんだから!!!」
「…は? 戦ってる?」
「そうよ! 100年しか生きてないけど千載一遇の大チャンス!こんな状況にまさか陥れるかと誰も思わなかった!だから今!私は!どうしたらいいのか分からない!それは何か、そうそれは沙都子への想いよ!沙都子が私に対しての想いを一つ一つ紡いで私に教えてくれる度に、今まで私は沙都子に対してよく何もしないで済んだわねって自分で自分を褒めてたわよ!沙都子が嫉妬深い!?何よそんなの私なんか嫉妬ばかりの毎日だったわよ!圭一に頭撫でられてにこにこしちゃって何よ!どうせ私は圭一や悟史みたいに手も大きくないし抱きしめても沙都子の全てを包んであげられるくらい背丈も大きくないわよ!私なんかにぱーとかみーとかしか可愛いって言ってもらえないし、どうせ胸だって沙都子より小さいわよ!だから何だっていうの!?こ れ だ け 沙都子を好きなのにそれを嘘だって!?沙都子をこんなに好きなのに疑うの?何でなのよっっっ!!!」
「………ぇと………り、梨花…………?」
「沙都子が私を好きになってくれるわけない、そんな事あるわけないってどれだけ自分に言い聞かせてきたと思ってるの!貴方がいない生活なんて考えられないから貴方に嫌われないように嫌われないように一生懸命だったわよ!沙都子が私を想うより先、貴方が生きてる年数よりもっともっと長い時間貴方を好きな私の気持ちが嘘だなんて、それこそありえないわよ!」
「…ぁ…あのぉ…」
「だから!それだけ長い期間欲求不満な人生送ってきたんだから少しはその幸せをかみ締めたっていいじゃないのよおお!!!」
もう何がなんだかわけ分からないけど沙都子への想いが嘘だと思われた事が悔しくて泣けてきた。今までこんなに一気に言葉を発した事あるかどうか分からないくらいに喋ったけど…自分でも何言ったかよくわからないや。ごめん沙都子。
「り、梨花? …だ、大丈夫ですの?」
「何よぉ…まだ疑うつもりなのぉ…うぅっ、信じてよ沙都子ぉ」
「えぇ、信じますわ…その梨花を泣かせるつもりはなかったんですのよ…」
「うううぅぅう…沙都子のばか…バカ…バカバカ」
「ええ、ええ…私はバカですわね…本当にごめんなさい」
「うううーーーっ」
「梨花」
「何よ沙都子…っく…うぅっ」
「もう…自分で言った事も忘れてしまったんですの?…仕方ない梨花ですこと」
「さ、沙都子が何言ってるの、か…っ分からないぃ~」
私の両頬に添える沙都子の手に力が篭る。引き寄せられる、唇に。涙していた私の両目を開いた時には沙都子の緋色の瞳に私がうつるくらい近くて。 ―――あ、思い出した。
と、同時にちゅ、鳥の鳴くようなと音を立てて口付けられる。
「…梨花、ごめんなさい」
「貴方を信じれなくて、ごめんなさい」
「泣かせてしまって、ごめんなさい」
「今まで我慢させて、ごめんなさい」
沙都子が一言謝るたびその都度、その都度私の唇に柔らかい感触が何度も何度も触れる。
最初は唇だけだった口付けも頬や涙が溜まっている瞳や、瞼、おでこ、指先、掌。出来るところ全てを沙都子の唇に慰められる。なんだかくすぐったくて顔が綻ぶ。
「…やっと笑ってくれましたわね」
「…ん、ちょっと落ち着いた…ありがとう」
「いえ…私の方こそなんだか失言してしまったみたいで申し訳なかったですわ」
「あ…ぁあ、気にしないで…なんだか勢いに任せて恥ずかしい事口走っちゃったわ」
「んーまぁ要所要所意味が分からないところもありましたけど、でも一応は理解したつもりなんですのよ」
「…う~ん…出来れば忘れて欲しいんだけど」
「忘れてしまっては梨花にどれだけ想われていたのかも忘れてしまう事になりますからそれは却下ですわね」
「…沙都子はイジワルね」
「おあいこではありませんか」
「そうね……」
でも、と思い出したように沙都子は紡ぐ。
さっきの梨花はまるで圭一さんのようでしたわね―――なんて。
―――――
「―それで? 梨花は結局一体何に耽ってたんですの?」
「え? …あぁさっきの話?」
「他に何かありますのっ?」
「ふふふ…、言ってもいいけど聞いたらちゃんと答えてくれる?」
「え、んー…聞かれる内容にもよりますけど、善処しますわ」
「約束ね。―えぇっと…その、私とこれからするだろう…事について、なんだけど」
―ボンという音と共に沙都子の顔が突然真っ赤に染まる。
「………っっっ」
「…それは誰から教えてもらったの…か気になっちゃって、誰から聞いたの?」
「えぇぇええっと…そ、それは答えなくちゃだめ、ですわよね…?」
「うん」
当然即答。当たり前。私の沙都子にいらん知識を…って別にいらん知識でもないけどなんか汚された感じがする。
「ですわよね……………。えと…た、鷹野さんとかレナさん…とか」
――ナンデスッテー!?
「とか!? とかって…ま、まだ他にもいるの!?」
「え、ええ…あとはねーねー…、詩音さんや魅音さんにも…」
「なっ!? って大体私たちの身近な人たちばかりじゃないの!ていうか私そんな事聞いた事ない…!!」
「確か、梨花には教えなくてもいいとかって言ってましたわね」
「何でよ!!」
「…さぁ?そこまではさすがに分からないんですけど…」
「まぁいいわ…それで? どこまで聞いたの?」
「どこまで、って特に…言うほどのものでも」
「だ、だってほとんどの女性陣がHOW TOを教えてるじゃないの!」
「ええ…でも相手は男性との場合ですし、それは梨花に対しては当てはまらないのでございましょう?」
――確かに男女の凹凸である凸の部分は私には当然沙都子にもついてないわけだし、沙都子の言いたいことも分からなくもないんだけど。
「全く当てはまらないかって言ったらそうでもないんじゃないかしら」
「そうなんですの?」
「ん…、ほら、圭一の家に前に遊びにいった時圭一のお父さんの本、ちらっと読んだことがあるのよね」
「え?確か圭一さんは見せてもらえないって言ってませんでしたっけ?」
「…ん、ま…そのほら…そこは、ね…こう…」
圭一と身体の関係がある世界で知った話だから沙都子に話しても分からないわよね…伊知郎が同人作家って言っても。ましてや百合作家なんて言っても穢れてない沙都子の事だし、お花を描かれるんですの?なんて言いかねない。
「―梨花?」
「ああ…また考え込んじゃったわね、ぅん、でもまあとにかくやろうと思えば何でも出来ると思うわ」
「世の中には知らない事がまだまだたくさんあるんですのね…」
「知らなくてもいい事もあるけどね…」
――…とは言え純真無垢だった沙都子に吹き込んだ奴らめ…後で覚えておきなさいよ…!今度変なことしたらお供え物キムチにするんだから…っ!!! あーどっかであぅあぅ聞こえる、気がする。
「で、…梨花、あの私はどうしたらいいんですの?」
「どうしたら…って沙都子はどうしたいの?」
「…どう、って…………あの、り…」
「り? …り………???」
「……梨花を感じたい…ですわ…………」
「……………………」
―くらっ、と眩暈が。一瞬でも輪姦なんて思った私がバカでした。
「…だ、だめでしたら…そのっ全然構わないのですけど…あぁあのっ…そんな、あの」
「…危なく襲い掛かりそうになってしまったじゃないの…、沙都子…貴方さっきから何回私の理性を打ち砕くつもりなのよ」
「べべっ別にそんなつもりじゃありませんのですけど…!」
「まあいいんだけどね、元々そのつもりだったし」
「そっ、そうなんですの!?」
「ええ…ずっとずっと我慢してたわけだし、ね…」
「それは申し訳ないことをしてしまいましたわね、ごめんなさ―――ぁ」
沙都子の言葉を皮切りに、今まで待ちに望んだ行為が始まった―――
最終更新:2007年08月25日 11:08