最終話

「まさか本当に乗っ取られていたとは…。」
屋敷に着いた刹那は呟いた。あの黒生家が簡単にやられるとは俄かには信じられなかった。
しかし昨晩と違い見廻りが全員政府軍だった。それが何を意味しているのか、刹那は理解した。
「そんな事より今はすずさんだ!急がねば…!」
ゆっくりは出来ない。刹那は正面突破を試みた。当然見張りが集まってくるが足を止めることなく次々と倒していった。


屋敷奥の庭にすずはいた。両腕は動けないように縛られ両足にほそれぞれ縄が巻き付けてある。
そのロープの端はそれぞれ牛と繋がっている。
「フフフ、これはなかなかの上玉だな…。」
「美しい娘です。ですが『玉川』少佐、牛裂きにするのには少々勿体無いかと……」
この玉川少佐と呼ばれる男、名は『玉川上水』。この六骨峠攻めの軍の総司令官である。

その玉川はかなり歪んだ性癖を持っている。玉川は不気味な笑みで答えるとすずを見る。
「何を言う。美しいからこそ牛裂きが似合うのではないか…。」
「ヒッ…!イ、イヤアアァァァァ!!誰か助けてぇぇぇぇぇ!!!」
玉川の不気味な顔、自分がこれからされる事、それらを知りすずは悲鳴を上げた。


「…!!今のはすずさんの…!どけぇぇ!!」
すずの悲鳴を聞きスピードを上げた。後はこの坂を登るだけとなった時、見覚えのある人物が倒れていた。
暗くてよく判らなかったが目を凝らして見てみるとその人物の正体が判った。
「坪八さん!?」

刹那は坪八を抱き起こすと必死に呼びかけた。
「坪八さん!!しっかりしてください!坪八さんっ!!」
「んぁ~…。あ!てめぇ刹那!何してんだここで!?」
「実はすずさんが政府軍に連れ去られて…。」
「何!?すずが!?」
「はい…。所で他のみなさんは?」
「わからねぇ…。いきなり政府軍が襲ってきたからな。恐らく…。」
「そうですか…。」
それを聞き刹那は悲しい表情をする。自分を強くしてくれた鉄心や知床がいなくなってしまったからだ。
刹那は心の中で二人に別れを告げた。“ありがとう、さようなら”と。

「坪八さんは何故こんな所で倒れてたんですか?」
「ん?ああ、俺も上で戦ってたんだがうっかり足滑らせちまって塀から落ちちまった。」
「……やっぱり間抜けなんですね。」
つい口を滑らせてしまった。おかげで坪八は相当ご立腹のようだ。
「うるせぇぞ!!それよりとっととすずを助けに行くぞ!!」
坪八は勢いよく立ち上がると夜空に吼えた。
「よっしゃー!!政府の犬共に“一発”喰らわせてやるぜ!!」
この二人を止められる者は最早おらず一気に玉川の下に辿り着いた。

「何だ貴様等…?」
「よお、すず。助けに来たぜ?」
「刹那さん!!」
「ちっ、俺は無視かい…。おい、てめぇ!人の女に手ぇ出すたぁいい度胸じゃねえか!この落とし前きっちりつけて貰おうか!」
「ふん、時代遅れの侍風情が…。たった二人で来た事を後悔するがいい。…やれ!」
玉川の合図と共に大量の政府軍が集まった。そして今までの敵と違い身長が全員高く、あのホセぐらいある。

「へっ!図体がでかけりゃいいってもんじゃ…」
「坪八さん!横に…!!」
「!!!!」
刹那の咄嗟の声に反応し横に坪八は飛んだ。すぐ横をキレのある素早い斬撃が通る。
「(予想以上に敵が素早い…!)坪八さん気を付けて!!」
「おうよ!ドリャァァァ!!」
スピード、体力など並以上の敵に二人は苦戦する。しかし負けるほどの相手ではなくまだまだ有利だった。
徐々に増えてく死体の山に流石の玉川も焦りの色を隠せない。それを坪八は見逃さなかった。
「おうおう!政府の奴等も腰抜けばかりだな!全然相手になんねーぜ!」
「くっ…!調子に乗りおって!よかろう、時代遅れのやり方で侍の時代に終止符を討ってくれるわ!」
坪八の挑発に乗り玉川も刀を抜いた。後はこの大将さえ倒せばこちらの勝ちである。しかしここで予想外の事が起きた。

それは玉川が予想以に強かった事。伊達に大将を名乗っていなかった。そして大将自ら戦う事になり敵の士気が上がった。
勢いというのは恐い。戦力が劣っていても勢いがあれば勝つ事もできる。刹那達は確実に押されていた。
「ちっ!鬱陶しいだよ!!」
坪八が相手の防御をお構いなしに強引に切り付けると、火花が散り刀の破片が飛んだ。
(くそっ!!刀がもたねぇ…!)
(一向に減る気配がない!何か…何か手は……!)
作戦を練る一瞬の隙を敵は逃さず斬りつける。間一髪屈んで回避したがそれを読んでたかの様に蹴り上げた。
「ぐっ…!(モロに貰ってしまった!上手く…立てない…!)」
蹴りは見事顎に入り刹那は足元がおぼつかない状態だが、失神にならないだけマシだった。刹那はフラフラになりながらも戦った。

「刹那!!…てめぇ!!」
刹那がうまく戦えない分坪八は奮戦した。しかし戦えば戦う程刀の負担が上がるのは当然の事。
―ガキィィン!
「やべっ!…ぐふ!!」
とうとう坪八の刀が折れてしまい、その隙に顔面にパンチを貰ってしまう。

「坪八さん!!」
「余所見してる暇などないぞ?」
「しまっ…!がはっ!」
坪八に気を取られた隙に玉川の回し蹴りが脇腹に炸裂し、吹き飛ばされた。

「随分手こずらせおって…。」
刹那と坪八は背中合わせの状態で敵に囲まれていた。刀はすべて二人に向けられており動く事が許されない状態だった。
「ちっ!こんな所で終わりかよ…。」
「よし、やれ!」
号令と共に全員が刀を振り上げた。
(ここまでか…すいませんすずさん、ドナドナさん、堂島さん…。)
刃が一斉に刹那達に向かっていく。刹那にはスローモーションに見えた。

(死を悟ると時間がゆっくり進むというアレかな…。)


――ドクンッ


(…!!違う!これは……!!)


「な、何だ!?」
玉川は理解できなかった。何故味方が倒れているのか?何故敵が立っているのか?

(力が…戻っている…?)
試しに集中してみると確かに気が練れた。
(ここに来た時に封じられていたのに…何故?)

―それは数分前の事だった。

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研究室で超はパソコンに何かを入力していた。
「超さん早くしないと刹那さんが…。」
「もう少し待つネ。…………………よし完成ネ!ハカセ、これをそこに差し込むネ!」
「…これって○クション○リプレイじゃないですか?」
「大丈夫。中身は私のお手製ネ。」
超の手作りと聞いて不安になりながらも差込口に○クション○リプレイを差し込んだ。
すると突然画面に「Error」の文字が出てきた。

「超さん!これ…!」
「大丈夫!想定の範囲内ネ!!」
すかさず超は高速でキーボードを叩き始める。画面は意味不明の文字列によって埋め尽くされていく。
「もう少し…もう少しヨ…!」
そして電子音が響くと同時に超は勢いよくEnterを押し叫んだ。
「できたネ!!」
「すごい!ほかのキャラとは動きが全然違います!成功ですね!!」
「ああ。(とりあえず間違えてゲームに転送してしまったミスはこれでチャラネ。)」


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力が戻った刹那に普通の人間が敵うはずがなかった。援軍はことごとく倒され遂に玉川だけとなった。
「残るはあなただけです。覚悟してください。」
凛とした態度で言葉を投げかける刹那。しかし玉川はこの危機的状況で自信満々といった表情だった。
「ふん。いい気になるなよ。」
玉川は自分の足元に刀を向けた。いや、正確には足元の近くにいる人物に。
「すず!!この野郎っ…!」

「動くなよ。妙な動きを見せたら娘の命はないと思え。」
「くそっ…!」
「もうすぐ本隊が到着する。それで貴様等も終わりだ!ふぁははは―」
突然玉川は突き飛ばされたかのように後ろに倒れてしまった。急いで立ち上がろうとするがうまく立てない。
仕方なく首だけ起こすと目の前には足があった。しかし見上げても何もない。困惑の色を隠せない玉川は違和感に気づく。

“下半身がない!”

もう一度前に立っている下半身を見る。そして自分の下半身があった場所を見る。交互に、何度も…。
そうしている内に自分の状況を理解し、途端に激痛が玉川を襲った。
「うわぁぁぁ…!!ああああああああ!!!」
痛みから必死にもがく玉川だが徐々に動きが鈍くなり、そして動かなくなった。
「終わったか…。」
「刹那さん!!」
拘束から開放されたすずは刹那の胸に飛び込んだ。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
「すみません…。私なんかのために…。私…私……。」
「おう。いい雰囲気のとこ悪りーがそんな暇は無いみたいだぜ…。」

下を見れば先程までの何十倍の政府軍が近づいて来ていた。恐らく玉川が言っていた本隊だろう。
「早く逃げましょう!」
「よし!とっととトンズラしようぜ!行くぞ刹那!……刹那?」
逃げようとする二人に刹那は後ろ向きのまま静かな声で答えた。
「……行ってください。」
「刹那…さん…?」
「ここは私が喰い止めます…。」

「な、なに言ってんだてめぇ!?」
「そうです!刹那さんも一緒に逃げましょう!」
「私が喰い止めとけば確実に逃げ切れます。」
「でも刹那さんは…。」
「私はこの世界の人間ではないのです。だからみんなとは一緒に居られません。」

「そんな事関係…!」
「…行くぞ。」
「坪八さん!!どうして!?」
「残るって言うんならしょうがねぇ。オラ行くぞ!!」
「いや!離してください!…刹那さん!!」
無理やりすずを抱え連れ去ろうとする坪八。そしてその場を去ろうとした時坪八が刹那に怒鳴った。
「おい!刹那!てめぇには借りがある。だから死ぬんじゃねーぞ!!」
「…はい。」
刹那は振り返り優しい笑みで答えた。

坪八達が居なくなった調度その時政府軍が到着した。
「いたぞ!あいつだ!」
「一人だけ?……!!た、玉川少佐!?おのれぇ…殺せ!!」
斬りかかって来る敵に対し刹那は静かに目を閉じた。そしてカッと目を見開くと翼を出した。
美しい純白の翼が月明かりに照らされより一層神秘的に見え、敵の何人かはその美しさに見惚れていた。
「私は神鳴流剣士桜咲刹那!皆を守るために、参ります!」
「この化け物が!掛かれー!!」

刹那が飛んだ後立っている者はいなかった。そして刹那は遥か上空に上った。
上空に着き満月を見る。今まで不気味に見えていた満月も今夜は綺麗に見えた。
刹那はこの二日間の出来事を思い出していた。様々な人と出会い、そして戦った二日間。
苦しくもあり、何より楽しかったこの二日間。刹那は最後に心の中で皆に聞いた。

(すずさん、ドナドナさん、堂島さん、坪八さん、鉄心さん、知床さん…。私は強くなれましたか?)

――刀を構え一気に下降した。

「神鳴流奥義、極大雷鳴剣!!」

――視界が真っ白になった。


………


「ん……。」
「目が覚めた見たいネ。」
「ここは…元の世界…か。」
あたりを見回すとそこは確かに研究所だった。
「すまなかったネ。ハカセの手違いで別の世界に送ってしまって。」
後ろには申し訳なさそうな表情のハカセが立っていた。
「別の世界とは?」
「ん?ああ、ホントはこっちの実践プログラムだったんだけどこのゲームのディスクを入れてしまったネ。」
超の差し出したディスクは青色をしていて『侍』と書かれた物だった。

「道理で…。」
「いや~ホントすまなかったヨ。次はちゃんとこっちでやるから…。」
「いや、もういいです。そのゲームのおかげで私は色々な強さを学びました。」
目を閉じればつい先程の事のように思い出される日々。あの世界で刹那は沢山の事を学び吸収した。
「そうかい?…まあ、結果オーライでよかったヨ。」
「はい。では私はこれで…。」
「ウム。気をつけて帰るヨロシ。」
刹那が帰り超は一人考えていた。

(なかなか面白かったネ。ん?このゲーム…。)
超は何かのゲームを見つけるとすぐに携帯を取り出し電話を始めた。
「もしもし?楓サン?実は…」



刹那は外に出て久々の地上の空気を大きく吸い込んだ。まだ昼時で太陽がじりじりと体を照り付ける。
「せっちゃ~ん!」
遠くから愛しのお嬢様の声が聞こえる。
「せっちゃん今から遊びに行かへん?」
「いいですよ。」
いつもならお嬢様からのお誘いは嬉さと恥かしさで慌てふためいてしまうが、今日は落ち着いた優しい笑みで返す。
「…なんか今日のせっちゃん雰囲気が違うな~。何だか頼れるというか、大っきく見えるというか…。」
「ありがとうございます。」
「…ほな行こか?」
「はい。」

刹那は歩き出した。まだ見ぬ未来に向って

この先なにがあるか分らないけれど不安は無い

あの世界での経験が後押ししてくれるから

刹那の心はこの青空のように清々しさで一杯だった





                          ――完――

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最終更新:2006年09月16日 23:31
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