第二話 巡り


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「へぇ、ここって色々部活動があるんだね」
 弥子は女子寮入って直ぐの学生掲示板を一瞥してこんな感想を漏らした。
 そこに貼り出されていたのは様々な部活動の案内であった。バスケ部、水泳部、陸上部といった比較的メジャーな運動部から、天文部、お料理
研究部、演劇部といった文化部まで揃いに揃っている。中には図書館探検部やさんぽ部など、どんな活動をするのか想像しにくいものもあったが。
「ええ。この学園は小中高、大学まで全て揃っていますから」
「うん、結構優秀な成績残してるのね」
「はい。ただ、立て続けに起こっている事件のせいでまともに部活動ができないらしくて……大会がもう直ぐっていう部活もあるのに……」
 そういうと、途端にネギの顔が暗くなった。やはりまだ幼さの残るその表情は、弥子の心をきりきりと痛めさせる。 
「ふむ。それで、被害者たちというのはどこにいるのだ」
 一方、全く気にも留めずネウロは先へと進んでいく。途中すれ違った何名かの女子生徒に軽い会釈をしながら。
 弥子もネギも一瞬互いの顔を見合わせ、踵を返して彼の後を追う。そして、案内しろと言っておきながら勝手に進んでいくネウロの後について
いくと、やがて一つの部屋の前まで辿りついた。表札代わりのプレートのところには、神楽坂明日菜、近衛木乃香、そして更に下の小さなメモ紙
にネギと書かれている。
「小僧よ、ここに今、被害者が集まっているな」
「え……はい、そうですが」
「なら話は早い」
 ネウロがそう言うより早く、扉を叩く音が辺りに響く。弥子とネギが驚いて言葉を発するより前に扉が開き、奥から麻帆良学園の制服を着た、
ツインテールをベル付の紐で縛った少女が姿を現した。少女は暫く目の前に経つネウロと弥子を呆然として見やった後、視界の片隅に居たネギ
を見つけると、驚いたように彼に近づいていく。
「ちょっとネギ、この人たち誰なの!? 学園長室まで行って戻ってくるのにこんなに時間がかかってもう!」
「お、落ち着いてくださいアスナさん!」
 すると、弥子とネウロが反応するよりも早くアスナと呼ばれた少女はネギの胸倉を掴んで、今にも殴りかかりそうに拳を振り上げている。血
相を変えている辺りどうやらかなりご立腹らしい。

 ともかく先ずは弥子が事情を説明する。自分達はこの学園で起きている事件を調べに来た探偵だ、と。その話をした直後こそこの少女、神楽坂
明日菜は警戒心を前面に押し出していたが、自分の担任であり同居人でもあるネギの説得もあってそれからようやく機嫌を直して三人を中に招き
いれた。
 奥に二段ベッドがある、ワンルームほどの部屋にはその大きさに不釣り合いな程の女生徒が居た。皆、一様にして顔色が優れない。弥子もネウ
ロも、直感的に彼女達が被害者なのだと理解した。最も、ネウロはそれ以外にも興味があるらしく、悟られぬように面々を観察し始める。
 そしてこの二人が座卓の直ぐ側に腰を下ろすと、ネギがこの場に居る全員を紹介する。先ず弥子の直ぐ隣で座っている、先程ネギに掴みかかっ
た神楽坂明日菜こそが最初の被害者。早朝の新聞配達のバイトをしていた時に何者かに襲われ気絶、それから数日が経ってある程度の体調が回復
したものの、未だ全快という訳ではない。次に明日菜の隣で足を崩している黒髪のロングへヤーの少女が第二の被害者近衛木乃香。学園長の孫だ。
彼女の場合は放課後、図書館島にて図書館探検部としての作業を終えた帰り道に被害にあっている。第三の被害者はデスク脇の椅子で腰を下ろし
ているショートカットの少女、春日美空。陸上部に所属する彼女は部活の帰りに被害にあう。
 残りの二人はそれぞれベッドを占領していた。二段目にいるのが四人目の被害者、長瀬楓。長身ではあるが細めで朗らかな印象を持っている。
被害には彼女自身が所属するさんぽ部の活動を終え、他の部員と別れて帰宅するところであった。そして、一段目の褐色の少女が五人目の被害者、
龍宮真名だ。彼女は学園内にある龍宮神社の巫女もしており、被害にあったのはちょうど神社を訪れていた時だ。
 おおよそ二十分に渡る事件の概要を弥子は頭の中でまとめる。こういう類の事に関して殆ど素人の彼女にとってもこれの不可解さは常軌を逸し
ている。目立った外傷はなく、被害にあえばだるさに襲われる。強盗というわけでもなく、通り魔でもなく、全く意図が見えなかった。
 隣には不気味な笑みを浮かべるネウロの横顔があった。恐らく彼にとっては中々巡ってこない良質の謎だと弥子は考える。魔界での謎を解きつ
くしてしまった彼は、一体今、何を考えてこの話を聞いていたのだろうか。

「ネギ君。一つ言い忘れていた事がある。実は私のデザートイーグルがなくなっているんだ」
 不意に、場の空気を一蹴するかのよう真名がこんな事を発言した。当然、皆の視線が彼女に集まる。
「龍宮さん、それは……どういう事ですか」
「すまないな。初めはそもそも神社まで持ってきていなかったのかと思ったのだが。その時は依頼があってな。確かにデザートイーグルを持って
行った。ところが、だ。気がついてみれば無くなっていた。代わりにだるさが残っていたんだ」
 あくまで冷静に事の顛末を真名は話す。依頼という妙な単語に関しても彼女から補足があった。曰く、裏の仕事だと。一介の女子中学生がどん
な裏の仕事をするのかと弥子は突っ込みたくなってしまったが、真名の持つ気迫に気圧されてしまいのどで詰まる。結局、デザートイーグルなど
という凶器を扱うのだから、ろくな仕事ではないと一人納得するしかなかった。
「しかし、確かその拳銃はかなり扱うのが難しい筈ですが。仮に犯人が奪ったのなら、色々と疑問が残ります」
 ここで、何時もの「助手口調」に戻ったネウロが疑問を二点提示する。一点は何故奪ったのかという目的。現代社会においては銃を手に入れる
など、それ程難しくは無い。それこそ初心者に扱いやすい拳銃などざらにある。もう一点は何故奪った拳銃を使って真名を殺害しなかったのか。
後々面倒になるのは分かっていた筈なのに。最も、これは他の被害者にも言える事ではあるが。
「先生が推測するに、そもそも真名さんの銃を奪ったのはあくまでオマケ、ではないのでしょうか。本当の目的が別にあるはずです。被害にあわ
れた方全員に共通する目的が」
「ふむ、弥子殿には既にある程度犯人の目星がついているという事でござるな」
「楓さん、でしたね。その通りです。しかし、もっと情報が必要です。皆さんはまだ休んでいてください。僕達はネギさんと共に調べたい事があ
りますので」

 そう言うネウロの顔には何処か余裕があった。弥子もネギも、この場に居た全員にはこれがどういうことなのかまだ知りようが無い。そんな一抹
の不安を他所に、ネウロは立ち上がり弥子に目で合図をして部屋を後にしようとドアノブに手をかける。
「ちょっとアンタ。私もついていくわよ」
 だが、いざ外に出ようとした矢先明日菜が声を荒げた。ネウロは振り返りどういう事でしょうか、とわざとらしく首を傾げて見せる。
「私だってこんな目にあってじっとしている訳にはいかないでしょ! それにここに皆を集めたのだって、自分達でこの事件を調べたいって思った
からなんだから」
 それによって一瞬にして沸点に達した明日菜は更に語気を荒げてネウロに詰め寄る。どうやら先程の怒りがまだ燻っていたらしい。それが今にな
って再燃したようだ。
「それはそうですけど……でも今は手伝ってくれる人も居ますし、何より今のアスナさんの体調では……」
「何よネギ、私じゃあ役に立たないって言うの」
「そういう訳ではありませんが……」
「自覚していらっしゃるではありませんか。今の貴方では調査の妨げになります。どうか休んでいてください」

 明日菜が怒りの矛先をネギに向けたのを見計らったかのようにネウロが言葉を挟む。それは明日菜の言葉を逆なでするようなもので、余計な怒り
を買わせるには十分すぎるものだった。見る見るうちに彼女の顔が真っ赤になって行く。直ぐ側でこの様子を傍観していた弥子は、この明日菜とい
う少女は非常に首を突っ込みたがる性格且つ、頭に血が上りやすい性格なのだと察する。しかし、弥子にとっては明日菜の態度はわからなくも無か
った。自分がネウロと行動を共にするきっかけとなった事件、即ち父親が殺害された時も、周囲の人間には悟られまいとしていたが内心ではどうに
かして解決したいと躍起になっていた事があった。
「明日菜ちゃん……」
 そうは言っても、今の彼女ではまともに協力することなど出来ないのは明らかであった。弥子は優しく言葉をかけ、両肩に手をかける。
「分かっているでしょ。足、ふらついているの」 
「……!」
「御願い。今はじっとしていて。私達がちゃんと解決、するから」
 暫く弥子と明日菜は互いの顔を見合う。明日菜の目の色には、まだ怒りが残っていたが弥子は決して目をそらそうとしない。
 分かったわよ。明日菜がそう言ったのは、恐らく時間にして数十秒経ってからの事だ。大袈裟にため息をついて、腰を下ろす。
「じゃあ……頼んだわよ」
「うん。任せて」
 弥子はほっと胸をなでおろして最後にこう付け加えた。その後ろで、ネウロはやはり不気味な笑みを浮かべたままで、ネギは感心したように息を呑んだ。
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