「護る意志」


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ネギは一つの感情を感じていた。
というより、一つの感情しか感じられなかった。
精神が飽和状態で『それ』以外の感情を感じられなかった。

視線の先には先程顕現した紅い魔王(バケモノ)。
そして魔王(バケモノ)から、その長髪のような漆黒の、それでいて粘着質の『ナニカ』が溢れ出している。
その『ナニカ』が自分に絡み付くのが分かる。
そして『ナニカ』は、あたかも底無し沼のように自分を引きずり込む。
唐突に理解した、自分が感じている感情。


アァ、コレガ『恐怖』カ。


そしてそのまま意識を手放そうとした時

「何をしているたわけ者!呑まれるな!!」

救い出してくれたのは、己が師の声。

途端に視界が鮮明になり、意識が回復する。動かなかった身体が自分の意思に従い動く。それと同時に倒れかけた身体を咄嗟に杖で支え、前を見る。息が荒い。

「ほう…………」

魔王(バケモノ)………違う、アーカードさんが声を発する。
そして、自分の大切な生徒の事を思い出し、急いで左右に眼を向けた。
そこには、自分と同じように息を荒げ、片膝を付きながらも鞘で身体を支えて夕凪を抜き放ち翼を広げた戦闘体勢の刹那さん。
そして、座り込み涙を流しながらも、その眼には確かに強い意思の力が感じられるアスナさん。

そうだ。この二人は。自分の大切な生徒だから。
自分が、護る。
その想いのまま、一歩前に踏み出し構えを取ってアーカードさんを睨み付けた。

アーカードは驚愕していた。

また、それと同時に歓喜も感じていた。
己が内に存在する狂気。その一部を解放した。
常人なら間違いなく発狂するであろう己が狂気。
ましてや此処は精神世界である。通常空間よりも精神に対する負荷は大きい。
三人の内の誰かは発狂するであろうと思っていた。


だがその予測は見事に外れた。
しかもこの少年━━ネギ・スプリングフィールド━━に至っては、自分と真っ向から対峙している。

いくら彼に向かって狂気をぶつけたのでは無いとしても、だ。
それはつまり、自分を打ち倒す可能性がある、という事。
そう、かつてのヘルシング卿のように。
口元に笑みが浮かぶ。
微笑ではなく、満面の笑み。
そしてアーカードは、感嘆を込めて、言う。

「やはり、人間は、素晴らしい」

「いい弟子じゃあないか」
「当たり前だ。私の弟子だぞ?」
「化けるぞ、あの子は。将来に期待させてもらうとしよう。では、続きを………」
「始めるぞ!」
ドドドドドドッ!
詠唱破棄によりタイムラグ無しで飛来する六本の魔法の矢。
ドガガガガガガンッ!
その全てを454カスールで迎撃するアーカード。
しかしエヴァはその僅かな隙に詠唱を開始する。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!魔法の射手 連弾・氷の199矢!」
放たれる膨大な数の魔法の矢。
アーカードはそれに対し右腕を差し出しただけだった。

その行動にエヴァとネギ以外の全員が戸惑いの表情を浮かべる。
エヴァはこれから何が起きるか知っているため。
ネギはアーカードの行動を見逃すまいとその一挙一動に集中していたため。
そして…………再び混沌は溢れ出した。
アーカードの腕が無数に増殖しながらエヴァに向かって伸びる。
魔法の射手と接触する頃には"それ"は数百以上になっており、全ての矢を容易く飲み込む。
しかし、その先に既にエヴァは居なかった。

魔法の射手を放ったその直後に吹き飛ばされた腕を再生させながらアーカードに接近、両手にエクスキューショナー・ソードを作り出し、そのままの勢いでアーカードに斬撃を放つ。


二回、四回、六回と斬撃を重ねる。しかし、斬撃に怯んだ様子も無く拳が繰り出される。
単純な膂力ではエヴァはアーカードに及ぶべくもない。この男は吸血鬼をその双の腕で易々と引き裂く。
実のところ、その破壊力は対吸血鬼用の二丁の拳銃のどちらをも遥かに凌駕する。
拳銃を使用する理由など射程以外には無いのだ。
しかし、エヴァは合気道を修めている。
アーカードの凄まじい力を利用して叩きつけるように投げ飛ばす。

アーカードが地面に叩きつけられ、粉塵が舞う。
エヴァは距離を取り、トドメの詠唱を開始しようとする。だが、粉塵を突き破り此方に向かってくる"何か"

ぞくっ

"何か"に本能的な危険を感じ、咄嗟に横に飛ぶ。
しかし、再生した腕は再び消えていた。
視線の先。血走った目をした黒犬。その顎には腕がくわえられている。
(速いっ!?)
その犬は殆んど減速せずに方向転換し、獲物を喰らおうと疾駆する。さらに同じ黒犬が後方からも迫って来る。
(上空への退避は間に合わん!ならば!!)
ダンッ!
既に腕をくわえている黒犬の方へエクスキューショナー・ソードを作り出し突進。
片方を潰し、退路を作る。腕も回収出来て戦力の低下も避けられる。そう思ったのだ。
しかし突然、黒犬が口を開ける。
(!?)
黒犬の口内からは、アーカードの腕と………黒光りする拳銃"ジャッカル"
「しまっ……」
ドゴォン!

「くぅっ……!」
残った腕を吹き飛ばされ、攻撃の手段を失う。
後方から黒犬が迫る。身体はジャッカルを受けた衝撃で硬直している。



詰みだ。



そう、思った。
自分の前に立ちはだかる人影。赤い髪。たなびくローブ。
一瞬、記憶の中のアイツの背中が重なる。背丈も強さも違う。
まだまだ子供だと思っていたのだが。
「風花・風障壁!」
ドガン!
「桜花……崩拳!!」
ドガァッ!!
黒犬をどうにか受け止め、遅延呪文を用いた桜花崩拳に繋ぎ黒犬を吹き飛ばす。


(私が思っていたより…………成長は早いのだな)

「アーカードさん……………!!」
エヴァの前に立ち、アーカードを睨むネギ。
エヴァを挟んだ反対側では刹那と茶々丸がもう一匹の黒犬を止めていた。
「師匠を!!殺すつもりですか!?」
返答如何によっては戦闘行為も辞さない、という意を声に含ませて、言う。
精神世界のような場所のため現実で傷を負う事は無い。
とはいえ、ここでそういう事になれば精神に多大な負荷がかかるのだ。そこから起きうる事態は推して知るべし、である。

刹那と茶々丸もアーカードの一挙手一投足を見逃さない、という意思が感じられ、先程までへたり込んでいたアスナも憤怒の表情でネギと同じようにアーカードを睨み、その手には大剣―ハマノツルギ―が握られている。


それらの視線を受けて尚、アーカードは平然としている。いや、呆れてすらいるようだ。

「勿論、殺すつもりだ」

その言葉で、ネギ達の目つきがさらに鋭くなる。しかしアーカードは更に続ける。
「ネギ先生…………いや、ネギ・スプリングフィールド。君の………君達の認識は甘すぎるのだよ」
言って、アーカードは黒犬と化していた両腕を元に戻す。それとともに服もつい先程までの物に戻る。
「吸血鬼との戦い方を教えると言ったが、その前に"知る"必要があるようだ………………吸血鬼という名の"バケモノ"の事を」

そう言うとアーカードは、二丁の拳銃を捨て去り、ネギ達に向かって言った。
「四人で来るといい。その方がわかりやすいだろう。心配せずとも、君達が私を殺す事など出来はしないのだから」
その言葉に、はじめは唖然としていたが今は怒りが再燃していた。
しかし、その中でネギだけは疑問を感じていた。
「アーカードさん………?一体何故……」
「話は後だ。何にせよ今の君達では上級種はおろか中級種にすら敗北するやもしれん。特に半鳥の剣士、お前は退魔師であるというのにこの体たらくだ」
「おのれぇっ!言わせておけば!!」
刹那が夕凪で斬りかかり、アスナも後を追うように飛び出しハマノツルギを振り上げる。茶々丸もレーザーライフル(ハカセ謹製)で二人の援護に入る。
ネギも釈然としないながらもアーカードに向かって行った。

ネギは強く踏み込みアーカードに接近する。彼を相手取っての一対一での接近戦は非常に危険だ。だが、魔法での攻撃を選択するわけにはいかない。
本来ならそれがベストなのだろうが、そんな事をしてアスナさん達の方に行かれたら本末転倒である。並みの魔法で彼が足を止める事などありはしないのだから。
だから、選んだ戦法は。
「打頂肘!」
ドン!
「双撞掌!」
ドズン!
「でぇやぁっ!」
ドガァッ!

打頂肘から双撞掌に繋ぎ、蹴りで距離を離す。これと同じような事を繰り返して時間を稼ぐつもりだった。
だが、おかしい、とネギは思った。抵抗が無いのだ。カウンターさえ覚悟していたというのにだ。
一瞬後、その疑問は解決した。


再生しているのだ、右腕が。


「中国拳法か………」
立ち上がりながらアーカードが言う。
それに構わず再び踏み込む。だが。
「それは、私にはあまり有効では無いな」
放たれる右拳。それを両手で叩き受け流そうとするが、
(押し負ける!?)
相手の攻撃を両手で叩いて受け流した後、右掌を相手に添えつつ、瞬時に左拳を叩き込む技。
『絶招 通天砲』
しかし、その攻撃を叩いて受け流す事が出来ない。

「風花・風障壁!」
ドガン!
風障壁で防御しつつ、瞬動術も併用して緊急回避。攻撃範囲こそ違うが、その威力はタカミチの豪殺・居合い拳と同等以上。
(でも、防げる!)
そう思い、今度は瞬動術を使って接近。あちらもカウンターを合わせて来るが、風障壁で防げる。そう思った。しかし。
(貫手!?)
アーカードの右手は拳ではなく、貫通力に優れる貫手の形になっていた。
「風花・風障壁!」
慌てて風障壁を発動させる。伝わって来たのは、風障壁をアーカードの貫手が貫通する感覚。
ドガァン!
銃声。その直後に貫手を放っていた右手が吹き飛ぶ。更に閃光によってアーカードの左腕も肩から切断される。
「………う………っく…………」
背後から聞こえて来たのは、茶々丸の苦しそうな声。
「茶々丸さん!?」
振り返れば、レーザーライフルを左手に、そして『ジャッカル』を右手に携えた茶々丸の姿。しかし、『ジャッカル』を持っている右手は下げられている。その右手から、『ジャッカル』がこぼれ落ちた。

「大丈夫ですか!?」
茶々丸に駆け寄るネギ。
「はい………ですが、右腕に重大な損傷が………」
茶々丸は『ジャッカル』を片手で撃った。アーカードの強大な膂力と驚異的な頑丈さがあってはじめて片手での取り回しが可能となる大砲を。
「ネギ!」
「ネギ先生!」
アスナと刹那が駆け寄ってくる。
「アスナさん!?大丈夫なんですか?」
「刹那ちゃんの回復術のおかげでね!さぁ、覚悟しなさいこの変態吸血鬼!」
アスナが咸卦法を使用してハマノツルギを構える。
「…………………」
刹那が無言で夕凪を構え、翼を広げる。
一触即発のこの状況で、唐突に声が割り込んで来た。
「そこまでだ」
声の主は………エヴァ。怪我は完治していた。
「なんでよ!?」
「何故です!?」
「…………はぁ、ぼうや以外はわかっていないようだな。そこの男………アスナが言う所の変態吸血鬼は、誰も殺しはしなかっただろう」
ネギ以外が呆然とする。アスナに至っては、変態が移った?とでも言いたげな表情だ。エヴァはアスナへのお仕置きを思考の片隅で考えながら、説明する。
「本当に殺す気があるならば、お前達が割り込んで来た時に通常形態に戻ったりせず、そのまま戦闘を継続していただろう。その場合、お前達は全員生きてはいなかっただろうな」

「こいつが教えたかったのは、吸血鬼と戦う際の心構えだろう」
「でもこいつ、エヴァちゃんを殺すつもりだって………」
「こいつの場合、殺す『つもり』などという曖昧な言い方はしない。心構えの話に戻るが、あれでぼうや以外はアーカードを殺すつもりでかかっていっただろう?」
エヴァの言葉をアーカードが引き継ぐ。
「お前達が戦う事になる相手は人間ではない。吸血鬼だ。人間と戦う時のように『倒す』事を考えていては手痛いしっぺ返しを喰らうだろう。実際、新米の吸血鬼狩りの死因は『仕留めたと思った吸血鬼に殺された』というケースが一番多い」
エヴァ以外の全員が聞き入る中、アーカードは続ける。
「吸血鬼は死ににくい。出来損ないのグールですら人間に比べれば段違いの耐久力を誇る。それを考えればその上位存在がどのようなものかわかるはずだ。
なのに、お前達には隙があった。先ほどネギ先生は茶々丸さんに駆け寄ったが、あれは二人を殺すに充分な隙があった。銃、あるいは遠距離攻撃を所持している個体も存在し、一定以上の身体能力を備えた吸血鬼ならば接近してからでもなお充分だ」

「吸血鬼の個体差についてだが、たとえば私と闇の福音。私には彼女ほどの莫大な魔力は存在しない。だが彼女にも私が持つような再生能力と膂力は無い。
このように個体差は基本的な能力から上位の吸血鬼が持つ特殊能力まである。吸血鬼と戦う場合は以上の事を注意しなければならない。その点では、ネギ先生は優し過ぎるかもしれないな」
「やる時はやる子だ。それほど心配はしていないさ」
「地味に弟子に甘いな、闇の福音」
「な゛っ………!?」
「まぁ、そういうわけで今回の吸血鬼についての講義は終了だ。では、改めてこれからよろしく頼むネギ先生」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
ネギとアーカードが握手を交わす。
「よろしく。ミス・神楽坂、ミス・桜咲。」
「なんか釈然としないけど……………まぁ、良いわ。あと、アスナで良いわよ」
「私も、刹那と呼んで下さって結構です」
「よろしくお願いします。アーカード様」
続いて三人も握手を交わす。
「では、ここから出ようか。闇の福音」
「ふん…………あぁ、私も名前で良い。そちらで呼び続けられるのもいい加減鬱陶しいのでな」
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