フランスの地方分権その1


フランスの地方自治単位は三層構造となっており,基礎自治体であるコミューン(日本の市町村レベル)が約36,000,広域レベルの県が100,さらに広域な行政サービスを行う州が26存在している。コミューンの平均構成人口は約1,600人と少ないため,行政基盤の強化や事務効率化を目指して,1950年代より本格的な合併が進められてきた。しかしながら合併件数は伸び悩み,1978年をピークに合併はほとんど行われず,逆に分離してしまうケースもあった。その反面,広域行政組織という独自の行政組織が利用され発展してきた。フランスの地方分権の流れは大きく分けて2つの時期に分けられる。
第一の流れは「コミューン,県および州の権利と自由に関する1982年3月2日法」をはじめとした地方分権改革法であり,これらの法律によりフランスの自治制度は大きく変化していくことになる。
まず上記の「1982年3月2日法」による改正のポイントは,第一に,従来「公施設法人」として位置付けられてきた州が新たに法律上の「地方公共団体」として認められ,地方自治単位が基礎自治体のコミューン,広域レベルの県,さらに広域的な州の3層構造となった。第二に,これらの自治体はそのいずれもが直接選挙の地方議会を有し,その中から互選された議会の長が執行機関として地位を付与されることなった。議長は首長としての役割も果たす。そして第三に,国が行っていた事前の法令へのチェック機能が廃止され,以降は事後的な後見監督権となった。つまり、大統領から任命を受けた地方長官が。制定された条例等をチェックし、違法と認めた場合は行政裁判所に提訴する仕組みである。
そして,「コミューン,県,州および国の権限配分に関する1983年1月7日法」「1983年7月22日法」を経て,国から地方自治体への大幅な権限委譲や,いくつかの財源・税源移譲が行われた。
第二の流れは,2003年3月の地方分権化に関する憲法改正であり,憲法第1条に「フランスの組織は地方分権的とする」との条項を加えた。また,補完性の原則や財政自主権に関する原則も導入し,更なる自主性を憲法に明記した。引き続き,2004年8月13日「地方の自由及び責任に関する法律」が施行され,更なる権限移譲が行われている。
ここまで読むと,フランスではだいぶ地方分権化が進んでいるように思われるが,国民にとっては伝統的な中央集権国家という意識が根底にある。また,日本と大きく違う点は議員の兼職制度と議員の互選による執行機関の議長決定である。これにより執行機関と議会の自立性が保たれない上に,国民からは分権化していることがみえにくい。
そして現在は地方分権を推し進める波が停滞しているようである。一番の理由は,国からの権限委譲に伴う税源移譲が行われるか不安な点である。先に法的整備が進んでしまったため,まだ具体的な税制度改革を行っていない。今後複雑な税の仕組みを各自治体が納得するように変えていけるか,また,広域行政組織等,他の国では成功していない自治組織をどう発展させていくかが重要となるだろう。

<参考文献>
(財)自治体国際化協会
 CLAIR REPORT No.251
 「フランスの新たな地方分権 その1」(2003.11.28)
 CLAIR REPORT No.266
 「フランスの新たな地方分権 その2」(2005.7.15)
 CLAIR REPORT No.276
 「フランスの広域行政-第4の地方団体-」(2005.10.27)
笹川日仏財団講演会(共催:(財)自治体国際化協会)
「欧州から見たフランスの地方分権改革」(2006.8.1)

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最終更新:2007年02月15日 10:31