「甘い監獄」

兄貴と義姉貴が死に、わしと玉枝は、雛見沢で遺された甥と姪の面倒をみることになっちまった。
雛見沢では、北条姓の者は肩身が狭く、居心地が悪い。
オマケに生意気な姪っ子は玉枝と折り合いが悪く、
しょっちゅう逆らっては玉枝のヒステリーを爆発させている。
甥は頼りにならんひよっ子で、姪をしつけようともしない。
最後は決まって兄に泣きつく妹を、ただ慰めるだけ。
玉枝のヒステリーは結局わしに向かってくる。
遺産があると聞いていたからわざわざ雛見沢に来たってのに、甥も姪も知らないと言う。
さては玉枝が……?いや、それならもっと機嫌がいいはずだ。
……畜生、遺産どころかやっかいなお荷物を背負わされて、今後の生活すら怪しいときた。
今日も姪の泣き声と玉枝のヒステリックな叫び声が、朝からずっと続いていた。
――もううんざりだった。
「このままじゃわしらは飢え死にしかねんわね。――仕方ないわね、わしは興宮で仕事を見つけてくるわね」
適当な言い訳を見つけて、この家から――雛見沢から逃げ出した。

「あーーー……やっとシャバに出られたんね」
久しぶりの興宮の繁華街。夕方前の、これから賑やかになってゆくこの雰囲気が懐かしい。
この繁華街特有の、タバコと酒の混じった臭い。
いい匂いとはいえないが、雛見沢の辛気臭えあの家とは大違いだった。
「――さて、一応ちゃんと仕事は見つけねえとな……うおっ!」
「きゃっ!」
路地裏から出てきた人影に、肩がぶつかった。
「あぁ?どこに目ぇつけて……律子っ!?」
「あれぇ?鉄っちゃん!?」
ついいつもの習性で因縁つけようとしたわしの目の前には、
いかにも夜の仕事という雰囲気をまとった女――律子がいた。
「きゃはは、久しぶりー。なによー、雛見沢に帰ったんじゃなかったのー?」
「ああ……まぁ……なんでもええわね」
「相変わらずねー。……そういや兄さんが亡くなったって言ってたけど、遺産とか入ったの?」
あけすけに聞いてくるが、不思議と不快感はない。律子も相変わらずのようだった。
「あーー……わしもそのつもりで帰ったんだが、遺産どころかとんでもないお荷物まで任されちまってよ。さんざんだぁね」
「ふーん……。――ね、ウチの店においでよ。まだ準備中だから誰もいないし、
 ほぼ任されてるから誰にも邪魔されないよ」
「ああ……遠慮なく付き合うわね」
カラン、カラン……。陰気ったい、いかがわしげな店に、二人して入り込む。
律子とは、この店で知り合った。
「店の女の子」と「客」としての付き合いしかなかったが、
この押し付けがましくないさばけた雰囲気は性に合うようだった。
「それじゃ、再会を祝して――乾杯」
店の安酒を一気にあおる。……酒なんて久しぶりだ。
「それにしても律子……お前、ずいぶんえらい立場になったもんだわね」
「まだまだだよ。こんなもんじゃ満足なんかできやしないからね。
 ――アタシはね、もっともっと金を貯めて、店を開くの。
 そのためだったらなんでもするし、なんでもしてきたよ。……ねえ、鉄っちゃん。アタシと組まない?」
「――――組む?」
「そ。アタシの美貌と鉄っちゃんの迫力をもってすれば、バカなカモを引っかけるなんてお手の物でしょ。……もちろん、金は山分け。ちゃんと折半。――どう?」
なるほど、美人局ってやつか。確かに手っ取り早く稼ぐにはもってこいだった。
が、リスクも高くなる。興宮にすらいられなくなったらどうなるか……。
律子がわしの肩に手を置き、上目使いで見つめてくる。
露出の高い上着からこぼれそうに揺れる胸元に、喉が鳴る。
「アタシたちさ、いい感じまで行っといてナニもなかったじゃん。
 アタシと組んで、いっぱい稼いで、気持ちいいこといっぱいしよ?」
ちろり。口元から覗く舌が、唇をなぞって濡らしてゆく。
その艶やかな唇で、なんとも艶かしい声で誘われたら。
――玉枝との夫婦生活なんて、もうかなりの間なかった。
「あら。こっちの鉄っちゃんはもうその気みたいだけど……ねぇ、鉄っちゃん?」
耳元で甘く囁く声が、わしの理性を吹き飛ばして――。
「り、律子……っ!」
「交渉成立ね。……それじゃあ、こっちの交渉も……しよ、鉄っちゃん」

「お、おぉおぉおおお……っ!」
店のソファーの上で素裸に剥かれたわしに覆いかぶさり、律子が身体中を嬲ってくる。
たっぷり唾液を含んだ舌が、わしを包み込むように舐め上げる。
もうそれだけで爆発しそうだ。
「んふふ……鉄っちゃん、元気ねー。アタシも本気になっちゃおうかな」
ぼるん……っ。窮屈な上着から、むしゃぶりつきたくなるような豊満な胸がまろび出てきた。
うぉ……っ、たまんねぇ……っ。
「どう?今からうーんと気持ちよくしてあげるからね」
律子はどこからか取り出したローションを自分の胸に塗りたくる。
ぬらぬらと光る胸を揉みあげたり先端をこね回したり、甘い声を上げてわしに見せ付けてくる。
「ほら、こんなにぬるぬる……鉄っちゃんはどうかなぁ?」
律子の細い指が、わしの先端をなぞる。
「おう……っ!」
すでに先走りと律子の唾液とで濡れたそこは、その刺激にますます硬度を増してゆく。
「きゃはは、元気ー。じゃあ……いくよ、鉄っちゃん」
もにゅ……にゅみっ、にゅるん……っ。
「おっ、おふ、うおぉ……っ!」
ローションでぬるぬるの両胸で、わしを持ち上げるように包み込んで擦り上げてくる。
こ、これは……たまらんわね。
「うふふ、気持ちいいでしょー。じゃあね、こうしたら……どうかなぁ?」
「おうっ……!」
寄せ上げられてゆがんだ両胸から動きに合わせて顔を出す先端を、律子の舌がちろちろと刺激してきた。
そうしながら、わしの反応を楽しむようにこっちを見上げてくる。
――た、たまらんわね……っ!
「ぐぉ……、律子ぉ……っ!」
「あん、まだダーメ!」
たまらず放出しそうになったわしから身を離し、律子は下着を脱ぎ捨てた。
「――ほら、見て?アタシの、もうこんなに……」
まだ荒い息のわしにまたがり、指でひろげて濡れた内部を見せ付けてくる。
「ん……っ、あはぁ……」
しなやかな指が蠢くたび、いやらしい音を立てて蜜が滴り落ちてきた。
「イクのはこっちで……ね?」

ずにゅ……っ。
「く、おぉおお……っ!」
「あ、はぁああ……んっ!」
律子がわしの上で、わしをゆっくりと飲み込んでゆく。
濡れた内部が熱く締めつけてくる。
その何ともいえない一体感を味わう間もなく、律子が腰を動かし始めた。
「おっ、おっ、おふぅ……っ!」
「あはっ……鉄っちゃん大っきい……っ。奥まで当たって最高……!」
な、なんだなんだこの快感は……っ!
自然と腰が浮き上がってくるような、痺れるような激しい快感がわしを襲う。
「あはぁ……アタシたち、こっちの相性もいいみたいね……んふぅっ」
「そ、そうみたい……だわね、……おぉおっ」
よりいっそうの締め付けと腰の動きに、わしもたまらず律子を突き上げる。
「あはぁっ……イクのね?いいよ、鉄っちゃん……アタシの中に、いっぱい出して」
「……お、おぉおおおぉぉおお……っっ!!!」
「あはぁあぁぁああ……っ、んんんっ!!」

――ずいぶんと長い、永遠に続くかのような放出だった。
わしのすべてを吸い尽くすかのように、最後の一滴まで締め付けて逃さない。
――こいつは、麻薬のような女だ。美人局にはもってこいの女だろう。

こりゃ、もう雛見沢には戻れそうにないわね……。
たとえこの先何があったとしても、すべてを搾り取られるようなこの快感からは逃れられねえ。
監獄からまんまと逃げおおせたと思っていたわしは、新たな監獄で囚われの身となってしまったが、
こんな監獄でなら、脱獄なんてしないわね。

――吸い尽くされるのは、男の本懐。

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最終更新:2007年06月13日 20:59