大きな雨粒か激しい音で車の天井を叩き、激しい風が容赦なく車を揺らす。
何も見えない闇が不安を掻き立てる。いつ果てる事もなく続く嵐。圭一と
レナは小さな車の中で震えていた。
そもそものきっかけはいつものようにレナの宝探しに付き合ったことから
始まった。
「今日は一日中、宝探しするのー」
満面な笑みでレナは言った。お弁当、おやつ、お茶。それに鉈や斧、準備は
万端だった。圭一もやれやれと思いながらも付き合った。
午前中は晴れていた。お昼はレナの手作り弁当を堪能した。
「うーん、あまりいいものがないなー」
しかしながら、肝心の宝探しは不調だった。午前中はめぼしいものが一つも
見つからない。あっちへうろうろ。こっちへうろうろ。だけど、お気に入りの
ものは見つからない。午前中は一つも見つからなかった。午後もだ。
「なあ、そろそろ帰ろうぜ」
「もう少しー」
そろそろ暗くなってきた。星が見えない。午前中は晴れていたが午後から
雲が多く出てきた。空を見上げても、星は見えず、かわりに黒い雲が見える。
かなり濃い。空気もなんだか湿ってる。
圭一はため息を吐く。レナはかなり遠くまで出かけてしまった。近くの粗大
ゴミに体を傾ける。結構疲れた。
ぽつり。
ひたいに冷たいものを感じた。
雨だ。空を見上げると、ポツリポツリと振ってくる。
だが、程なく雨は強くなってる。
「おーい、レナ」
圭一がレナと合流した頃には雨はかなり強い勢いになっていた。
風も吹き荒れ始めてきた。
「くそっ、このままじゃあ、きついぜ」
もう夜だ。道はかなり暗く、雨も風も激しい。無理を押しても帰れるだろうか。
「圭一くん、こっち」
レナは圭一の手を引っぱる。この雨では帰るのは困難だ。だから、案内する。
「──ここは」
レナが案内したのは廃車だった。何とかもぐりこむ。
「えへへ。ここはレナの隠れ家なの」
タイヤの無いワゴン車。助手席から何とかもぐりこむ。すでに全身びしょぬれだ。
「ふー、やれやれ、何とか一息つけたな」
外を見ると青白い稲光が見えた。
「にしてもすごいなー」
圭一は改めて、レナの秘密基地を見る。外から見れば、ただのさび付いた廃車だが
中はきれいに整えられている。ブランケット、懐中電灯、文庫本、電気スタンドなど
が常備されており、下はシーツも引いて過ごしやすく工夫されている。
「えへへ、ちょっと、一人になりたいときのために作ったの」
小さく舌を出して、レナは笑う。少し前、色々と辛いことがありレナは悩んだ。
その時に作ったのだ。悩み事はみんなの力を借りて解決した。それ以来、あまり
ここにはこなくなった。でも、定期的に手入れはしている。この辺りはレナの
性格がにじみ出ているだろう。
「ふーん」
圭一は興味深そうにまた、周りを見る。男の子としてこういう秘密基地は憧れる。
小さい頃は勉強勉強だったため、作って遊んだ事が無い。
くしゅん。
レナがくしゃみをした。
「おい、大丈夫か?」
慌てて、圭一はレナの方を見る。
「うん、大丈夫。ちょっと、体が冷えたのかな」
考えてみれば二人とも雨でびしょぬれだ。服はべったり濡れてと体に張り付いている。
確かにこのままでいたら風邪を引きそうだ。しかし、さすがにレナの秘密基地にも
着替えは用意してない。ブランケットが二枚ほどあるだけだ。
へっくしょん!
圭一も大きなくしゃみをした。同時に震えが来る。
「さみー」
さすがに暖房はない。中の温度は外と変わらない。風が無いだけましという
程度。
「……圭一くん、服──脱ごうよ」
レナがとんでもない事を言ってきた。うつむき、上目遣いに圭一を見る。
ブランケットを引き寄せて胸の辺りで掻き抱く。圭一は「えっ?」と、驚く。
「濡れた服のままだと──風邪引いちゃうよ。だから……」
そういって、レナは顔を伏せる。はらりと髪が舞う。かすかに見えるうなじが
赤い。ブランケットを纏い、服を脱ぐ。しろい肩が見えた。慌てて、圭一は目をそらす。
「そっ、そうだな。そうするか」
顔の奥が熱い。ふわふわとする。服を脱ぐ。すでにシャツまでべっとりだ。
上半身は裸になる。下もぐっしょりと濡れた長ズボンを脱ぐ。ブランケットを
きつく体に巻く。見るとレナも同じだった。互いに下着1枚の姿になっている。
かっと熱くなる。体の奥が。
「──ごめんね、レナの所為で」
少しの間、沈黙が続いた。破ったのはレナだ。
「レナが早く宝探しをやめていれば、こんな事にならなかったのにね。
ごめんね、圭一くん」
ブランケットを纏い、顔だけを向けてくる。眼が潤んでいる。
「いっ、いや、そんなこと無いぞ。むしろ、途中でこんな大雨に打たれたかも
しれないしな。ははっ」
いつもの口調が鈍くなる。早鐘のように心臓が鳴る。どうしてだ?
言うまでも無い。視線の先に写るのは濡れたレナの服。意識したくなくても
意識してしまう。沸いては消える妄想。顔を振る。
くしゅん。
レナがまた、くしゃみをした。ブランケットから素足が見えた。白い。
「寒くない、圭一くん」
鼻をすすってレナが聞いてくる。
「いや、大丈夫だぞ」
ほんとは少し寒い。薄いブランケットでは外気を抑えられない。ましてや
濡れた体では余計に。けど、男だから。
くしゅん。
レナはまた、くしゃみをした。
「おっ、おい、大丈夫か。なんだったら──」
このブランケットを使うかと言おうとして沈黙する。
晒すのか? 自分の裸を。いや、そうではない。
「ううん、いいよ、圭一くんが風邪引いちゃうよ。それより──」
また、遠くでカミナリが光る。レナの顔が見えた。静かに小さな口を開く。
「二人で暖まろうよ。ほら、何かで聞いたことあるの。冬山で遭難したときは
お互いの体温で温めあうって」
息を呑む。レナの提案は確かに聞いたことある。効率もいいだろう。理性と
しては理解できる。けど、感情としては──
「いや、だめだ、それは!」
圭一は慌てて言うが。
「どうして? レナ、もう寒いもん」
にじり寄ってくる。レナはブランケットを纏いつつ四つん這いで圭一に近づく。
逃げ場は無い。吐息が感じた。体温が感じた。レナが感じた……。
気がつくと圭一とレナは二つのブランケットを重ねて包まっていた。
圭一の胸にレナがいる。互いに抱き合っている。暖かい。そして柔らかい。
女の子のにおいがする。レナも感じている。圭一の体臭。自覚してしまう。
男の子だという事を。都会育ちで普段はだらしないところも見せたりはする。
だけど、意外な胸板に、その肩幅に、掻き抱かれる手の強さに、男を意識して
しまう。その小さな肩を掻き抱く。丁寧に。はじめは力を入れすぎだ。「痛いよ、
圭一くん」だから、そっと抱く。何も言葉は交わさない。ただ、互いの体温を感じるだけ。
熱くなる。ひたすら。手に汗がにじむ。今、圭一はレナの素肌に触れている。
暖かくて柔らかくて何もいえない。
外の風は激しくなる。雨もさらに酷くなる。車は揺れる。雷の音も光も聞こえる。
だけど、気にならない。互いに外の事は目に入らない。二人きりの世界。ただ。
お互いを思う。
「暖かいね」
沈黙に耐えられなくなった。レナはポツリと呟いた。
「……ああ」
圭一はかすかに頷いた。
「でも、まだ、少し寒いかも」
また、レナは呟く。互いの鼓動が聞こえる。
「──知ってる? もっと、暖かくなる方法があるんだよ。互いに熱くなるの」
潤んだ瞳でレナは圭一を見つめてる。圭一はごくりとツバを飲み込む。否、
飲み込もうとした。けれど、口の中は乾いている。手が少し震える。レナは
待っている。圭一は答えなければならない。
ゆっくりとレナを見つめる。肩を掴む。少し震えてる。そうだ。怖いのだ。
覚悟を決めていても怖い。圭一も怖い。レナも怖い。理解できる。一線を越える。
この意味をどう取るか。明日からの自分たちはどうなるか。分からない。
だから、怖い。
だけど、進む。圭一はレナを求める。レナも圭一を求める。互いに二人は欲し
求め合う。きっかけは些細な事だ。けれど意識している。二人の心に互いの存在が
大きく占めている。
圭一の頭はゆっくりと下がる。レナは待ち受ける。二つの影は一つになる。
初めてのレナとのキスは唇同士が触れ合うものだった。感じたのは柔らかさ。
感じたのは吐息の熱さ。感じたのは互いの匂い。゜胸がどきどきする。
「──キス……しちゃったね」
少しだけ顔を離れさせてレナは言う。
「──そうだな」
圭一も一言だけ呟く。
「もう一回……キスしよ」
小さな声でささやくようにレナはねだる。圭一は何もいわずにキスをした。
「熱い──」
レナは息を漏らす。初めてのキスが甘く柔らかなものなら、今度のキスは熱く
激しいものだ。ただ、むさぼりあう。
ひちゃり。
音がした。誰からとも泣く二人は舌を絡めあう。熱く蠢く舌は互いの口の中を
舐めあう。くちゅり。レナの唇から唾液が洩れた。圭一の口から唾液が洩れてレナの
口の中へと移動する。何度もむさぼりすする。何度も感じる。頭の奥が激しく熱い。
なんも感じない。雨の音も風の泣き声も。ここが車の中ということさえ忘れる。
夜だということさえ忘れる。感じるのは互いのこと。考えられるのは互いのことだけ。
唇は離れる。二人の口元からこぼれる唾液は繋がり橋を作る。白いひと筋の橋は長く
続き途切れる。
「胸がどきどきして熱いの。圭一くんは?」
頬を赤く染めてレナは聞いた。
「俺もどきどきしてるよ」
ゆっくりと息を吐く。けれど、落ち着かない。
胸の熱さは収まらない。もう一度キスをした。さらに圭一の手はゆっくりと
レナの胸に触れる。
「……あっ」
かすかにレナは声を上げる。だけど拒まない。圭一の手はレナの下着の上から
胸に触れる。柔らかな感触を感じた。何にもたとえようのない柔らかさ。トクン
トクンと生命の鼓動も感じる。
はじめはゆっくりと後からだんだん早く揉む。レナは熱いと息を漏らし懇願する。
「ね、──圭一くん、もっと優しくして」
レナは戸惑う。胸の奥から生まれたものに。もっと味わいたい。だけど怖い。
だから優しくゆっくりと触ってもらいたい。本当は激しくして欲しいのに。
「わるいっ」
圭一の手の動きは遅くなる。軽く円を描く。大きくはない。小ぶりだがしっかりと
自己主張している胸。いつまでも触っていたい。
「んぅっ」
レナはかすかに漏らす。
「痛いのか」
圭一が慌てて聞く。
「……痛くないよ。むしろ──」
気持ちいい。という言葉は飲み込む。とても恥ずかしくていえない。
圭一の手がレナの胸から離れる。
「……あっ」
かすかにさびしげにレナは呟いた。
「なんか、苦しそうだからさ」
苦笑いする圭一にレナは手を伸ばす。圭一の熱い部分。もうすでに硬く
そり立つ男の印に。
「えっ、おっ、おい、レナ……」
圭一は戸惑う。レナの行動に。圭一は戸惑う。柔らかくて細いレナの指の
蠢きに。己の手淫では消して得られぬ快楽が生み出される。自分の手では触って
欲しいところ。強弱がうまくコントロールできる。だけど、レナの指はそれがない。
痒い所に手が届かぬもどかしさ。予期せぬ快感が呼び起こされる。
圭一は顔をゆがめる。激しすぎる快楽は腰を引かせる。
「圭一くん、もっと触って。もっと、レナにも触って」
耳元でレナがささやく。ついでに圭一の首筋と耳たぶに下を這わせた。
圭一の体はビクンと揺れた。
手がレナの胸に向かう。もどかしげにブラを剥ぎ取ろうとする。レナは片手を
後ろに回してホックを外す。はらりと落ちる。夜気にさらされる。初めて異性の
目にさらされる。すでに乳首は固くそそり立つ。圭一は息を呑んで見つめる。
「きれいだな」
それだけ言うと屈んで圭一はレナの乳首を口に含んだ。
「あんっ」
胸の奥の何かははっきりとした快楽を伝える。唇だけではさみ、舌で舐めて
吸い付く。レナもまた、己の自慰行為では得られない快楽に翻弄される。飴の
ように舐めてむさぼる。頭を振って、肩を震わせて耐える。甲高く泣く。ただ、
酔いしれて耐える。快楽の並にレナは溶けていく。
それでもレナの手は圭一を求める。布の上からさする怒張を直接さすろうとする。
下着に手をかける。脱がす。驚くほど熱く固いものが手に触れる。
「……熱い」
「──ああ」
二人はゆっくりと服を脱ぐ。残った下着は全部外す。生まれたまんまの姿になる。
「圭一くん」
「レナ」
互いの裸身を見つめあい、もう一度キスを交わす。もはや考えられるのは互いの
ことだけ。圭一がレナの胸を掴めば、レナも圭一の胸の乳首を指で引っかく。
圭一がレナの首筋をキスすれば、レナも圭一の首筋を舐める。互いに互いの体を
確かめるかのようにとろけあう。
レナの乳首を舐めていた圭一はだんだんと頭が下に向かう。胸の谷間やわき腹、
腹やへそにも手や舌が這う。そのたびに声を漏らし、体をビクンと震わせた。
そして、ついにレナの秘所へと向かう。
「……圭一くん」
不安げにレナは圭一を見る。眼で圭一は問いかける。こくんとレナはうなずく。
そのまま圭一は顔をうずめた。
「あっ、あぁ、あぁっー」
ひときわ甲高くレナは泣いた。圭一の舌は若草の奥にあるレナの秘裂を這う。
すでに熱く蜜はとろとろに洩れている。舌と指を這わせる。なんともいえない
匂いがした。指がふやけるほどの熱さを感じた。小さな若芽にキスをした。
それだけでレナは今まで以上に体を震わせ、うねった。
「圭一くん」
愛しげにレナは圭一を見る。
「……レナも」
レナはゆっくりと圭一から離れて、改めてその胸にキスをする。チロチロと舌は
圭一の体を這い、うめき声を漏らす。ついにはそそり立つ怒張に口をつける。
「うっ」
それは初めての感覚だ。レナの口が圭一に吸い付く。想像できないほど。なんとも
形容しがたいほど。ただ、翻弄される圧倒的な快感が襲う。はじめは唇で吸い付く
だけだった。竿の脇をキスして吸う。それだけで翻弄される。玉袋に手が這う。
背筋から快楽が走る。あまりの快楽に腰が引ける。舌も這う。竿に袋に。激しく
うねる。圭一は翻弄される。息を漏らし、耐える。ついにレナは先端部を口に含んだ。
その熱さと柔らかさに圭一は息を吐いた。すぼりずぼりとはしたない音がした。
舌で先端の穴を突付かれたときには震えた。耐えられない。だから、
「なあ、レナ。俺も──」
ゆっくりと懇願する。レナはこくりとうなずいて、自分の体を圭一に重ねた。
レナの目の前には圭一の怒張が。圭一の目の前にはレナの蜜壷が。互いにさらし
あった。互いに舌を這わせ、指を使った。いつ果てぬ饗宴の声を奏であう。
いつまで続いたか分からない。けど、もうたまらない。二人は再び向き合う。
「──いいのか?」
圭一の問いにレナはかすかに頷く。
「……来て、圭一くん」
二人の体は重なる。ゆっくりと。一つになろうとする。絆も。心も。体も。愛も。
一つとなって結ばれようとしていた。
「……あれ」
なろうとしていたのだが。
「……あれれ」
なろうとしてるのに。
「あれれれっ」
ならなかったのであった。
「──圭一くん。ここだよ」
クスリとレナは笑って圭一を導く。自ら手で握って、
自分のところへと誘導する。
「……じゃあ、あらためて」
少し恥ずかしそうに圭一は息を吐く。レナも緊張がとれた声で笑い、
うなずく。
ゆっくりと圭一は進む。レナは「うっ」と、呻く。とろけるような享楽の
中で突き刺す痛みを感じる。
「いっ、痛い」
思わず洩れる。圭一の動きが止まる。だから肩を掴む。
「そのまま進んで。……レナを──圭一くんのものにして」
なみだ目で訴える。痛い。だけど、このまま終わるのはもっといやだ。
だから、望む。証を。
「──わかった」
そのまま突き進む。レナは涙を漏らす。苦痛のうめきをもたらす。圭一の背中に
しがみつく。爪を立てて引っかく。だけど、耐える。痛みの果てに喜びを感じるから。
涙を流しながら呟く。
「圭一くん圭一くん圭一くん……」
一突きごとに呟く、叫ぶ。二人の体は溶け合う。レナは圭一の中に。
圭一はレナの中に。ただ突き進む。ただ思う。互いの事を。いつしか
全てが白く染まり消え去った。
圭一はレナの中で解き放った。
二人は再びブランケットに包みあう。何もいわない。何もいえない。
心の奥に満足感と罪悪感が交じり合う。手が握り合う。今でも二人は一つに
繋がっている。
「なあ、レナ──」
圭一が声をかけた。その続きを言う前に、
「謝らないでね」
レナは圭一を見つめて言った。
「レナは望んでこうなったの。圭一くんが欲しくてたまらなくて。私、
圭一くんとこうなって幸せだよ。だから──謝らないで欲しいな」
レナの言葉に圭一は息を吐いて、
「そうだな。そうかもな」
と、呟く。いつだろう。決してやった事のないはずの記憶。学校の屋根での誓い。
自分の部屋でのレナの血まみれの笑顔。沸いては消えるかすかな残照。
でも、二人は一つになった。握り締めあう手が実感する。レナの体の中で実感する。
圭一の証。
二人は空を見る。星の瞬きが見えた。いつしか嵐は過ぎ去り満天の星空となった。
ゴミ捨て場で二人は一つになった。もう一度、キスを交わした。
終わり。
最終更新:2007年02月13日 13:20