鈍い痛みと共に、目が覚めた。どうやら手足は拘束されているようで、俺は膝をついて車の天井あたりに手を吊り下げられているらしい。
革と金属で出来たその手製の手錠は、俺の力では到底千切れそうにない。しばらくもがいていると、人の気配が動いた。
真っ暗で周りがどうなっているのか確認できなかったが、俺が来ようとしていた目的地であることは想像できた。
人の気配はレナだ。

「目が覚めたのかな? 圭一くん?」
突然、電気ランタンの光が俺の目に飛び込んで、
俺は目をかばおうとしたが、手が拘束されているからもがくことしか出来なかった。
強く閉じていた目から、次第に光が遠ざかっていくのを感じる。
 「まぶしかったかな? かな?」
俺が何とか目を開けると、すぐ前にレナが居た。
そう、俺はレナを説得しに、レナが別荘のようにしているこの車を探していたのだ。
 「う、レ、レナ? レナ!」
「こんなところに何しに来たの?」
「お前を助けに来たんだ、レナ……ところで、何で俺縛られてんだ?」
 「ああ、ごめんごめん。突然暴れられると困るから。少し緩めるね」
「解いて……くれないのか?」
俺は薄々感じていたのに、わざわざそれを確認する。
「解いたら、何されるかわからないじゃない? 圭一くんだって……もしかしたら、”敵”なのかもしれないし」
「なんだよ? ”敵”って?」
 そう言うレナは、首筋を引っ掻いていた。その首筋からは赤いしずくが流れ落ちて、一筋の線を作り、服に赤い模様を作っていた。
「お前、その首……」
手を出そうとして、じゃら、と鎖が邪魔をするのに気付く。
「ごめんね、圭一君が味方かどうかわかるまで、私はその鎖を外せないから」
「……そうか」
レナは今、心に風邪を引いている。短期間に人を二人も殺して、バラバラにして……
「大石さんから聞いたんだ」
血が流れているというのに、まだレナはかきむしっていた。
「圭一くん、転校前に色々してきたんだって? オモチャの銃で……」
「レ……レナ?」
俺は……確かにした。いろいろ、なんてもんじゃない。子供の目を撃って、失明させかけた。
「全部言わなくてもわかるよね? そんな人、信じれると思う? この犯罪者!」
「レナだって」
俺は、一瞬で失言だと思った。俺は説得をしに来たというのに、
レナが知っていたという事実を遠ざけるために、とんでもないことを言おうとしたと。いや、もう言ったも同じだ。
 「うん、そうだね。レナは人を殺した。ううん、置いてきた。
礼奈と一緒にあそこにおいてきたの。皆と一緒にね。
それなのに、魅ぃちゃん、動かしたんだよねぇ?」
「ち、違う!」
「違うもんか! 確かに埋めた場所に、死体は無かったんだから!」
「だから、違うんだって、それは魅音がレナをかばうために……営林署があそこら一体を掘り返すっていう話があって」
「嘘だッ!」
 レナは、いつのまにか手に持っていた鉈を振り回した。乱暴な音が車内に響き渡り、窓ガラスを破壊した。
「それで、圭一くん……いや、前原、お前は何をしに来たんだ?」
レナのその言葉は、今までのどんな暴言より暴力的に聞こえた。
お前、前原……レナが俺の名前を呼んでくれない。
 「”礼奈”を、助けに来た」
「その名前で呼んで良いって誰が言ったぁぁあぁぁああ!!!」
 今度は二度、鉈を振り回した。割れるべき窓ガラスはもう無く、
天井やら内壁やらにぶつかり、その反動で俺の鼻先を掠れたが、俺は”礼奈”を見つめていた。
「なぁ、俺は、悪いことをしたさ。でもな、圭一っていう名前は、捨てなかったぜ?」
「うるさいよ、前原」
突然、レナが俺の股間を握ってきた。
「所詮、お前だってここで動く人間なんだ。男なんて皆一緒、一時的に快感さえ得られれば、それでいいんだ」
「な、レ……礼奈!」
「何? それ? 私を挑発してるつもり? 自分の立場が分かってる? 私、人を二人も殺してるんだよ? 
もう何だって出来るよ。今、この場でお前の首を飛ばすことも出来るんだ……あれあれ? ここが硬くなってるよ?」
 喋ってる間も俺の股間を触っていた礼奈は、俺の体の異変を感じ取っていた。
「それは……礼奈が、触ってるからだよ」
「ふーん、それって、愛の告白のつもりなのかなぁ? 私、そういうの嫌いだな。気持ちよくなったら、ハイさよならーでしょ?」
「違う……俺のは……礼奈だから、硬くなったんだよ」
 礼奈はそんなことを気にもかけず、ジッパーに手をかけた。
俺の股間が露にされるのは、それほど時間の掛からないことだった。なぜなら、俺のものが限界まで張り詰めていたからだ。
 「こんな状態でも勃っちゃうんだ。あはははは、しかも、皮かむってるんだね?」
「……くっ」
礼奈は、硬くなった俺のものを軽くつついた。それだけで、何ともいえない感覚が俺の脊髄まで駆け抜けた。
 「ほら、やっぱり。こんな状況でも反応するなんて、変態だなぁ……」
「なぁ、礼奈」
「後ろを向け、前原」
「礼」
「向けッ!」
首筋に、鉈を当てて、礼奈は俺を脅迫した。ここで逆らったところで、
何ら解決の方向には向かない。俺は仕方なく、後ろを向くことにした。
どうやら、回転はできるらしく、俺は膝をついたまま礼奈に背中を見せる。
 「これが見えるかな? いや、見なくてもいいよ」
スイッチを切り替えるような音がして、続いて何かが振動するような、くぐもった音が聞こえた。
 少ししてから、俺のズボンのベルトが外され、ズボンをずり下げられる。
その間ものたうつ何かの音を、俺は聞いていた。
まだいいね、という礼奈の声と共に、その振動音は無くなる。
続いて、何か液体のようなものが、俺の尻に塗りたくられた。ひんやりとしたそれは、同時にぬるぬるとしている。
礼奈の手は、俺の尻の穴にまで及んだ。
「あ、あう……」
普段触られないようなところを触られ、俺は思わず前かがみになってしまう。
結果、尻を礼奈のほうに突き出す形になった。
「あははははは、変態だ、変態だ」
完全に、面白がっている。
「入れるよ?」
何、何を入れるんだ?
「ゴミ置き場で拾ってきたものだけど、ちゃんと洗ってるから大丈夫だよ」
 俺は、座薬を入れられたときのような感覚を、尻に感じた。
すぐにそれを排出しようとする力が掛かる。
「ガムテープでとめちゃえ」
「ああ、う……」
びりびりという音と、俺の尻に感じた礼奈の手の感触と、粘着質のテープが貼られる感触が、俺の前の敏感な部分に届いた。
「これでも感じるんだね、ぴくぴくしてるよ……レナなら、かぁいいなって言ってたかもね。私は礼奈だもんね?」
 「そ、そうだよ、礼奈……」
「まだ言うの?」
ごとり、という重いものを動かす音がした。
ぺち、ぺち、と、金属のひやりとしたものが俺の後ろに何度もうちつけられる。
「分からない子には、お尻ぺんぺんだよ?」
べちっ、べちっ、だんだん強くなってきた。
「あははははははは、こんな状況でも、キモチ良くなりたいんだねぇ? 
やっぱり、お前も醜い男の一人だったんだ。レナはそこに居てろ。礼奈がやるよ」
 礼奈のほうが見えない俺には、本当にその場にレナと礼奈という二人の人物がいるかのような錯覚があった。
「礼奈、もう、やめてくれ……」
「何言ってんの? 尻叩かれて感じてる変態さん?」
そういって、礼奈は俺の腰に手を回してきた。片方の手は、俺の左腿を掴んでいる。
そして、もう片方の手は、俺の前へと回ってきた。その手はべとべとした液体で包まれている。
 「これね、ローションっていうんだよ? お前の尻が気持ちよくなるように、さっき塗りたくったのもそう。
ああそうだ、電源を入れるのを忘れてた」
かち、という音と共に、例の振動音が……俺の中から聞こえてくる。
それと同時に、俺が今まで感じたことの無い種類の快感が、体を駆け巡った、
拘束されているから、俺はひざをついたまま、のた打ち回る。
「ああ、あううあああ、や、やめ、やめてくれ、れ、礼奈、礼奈!」
「これからだよ、圭一」
礼奈が、圭一と呼んでくれた。そのことで、一瞬意識がそっちに向かったが、
それが飛ぶぐらいの快感が、また、俺の体を駆け巡った。
「あぁあううあ……」
礼奈の手が、俺のものに触れたからだ。
「へぇ、触っただけでこうなるんだ。じゃあ、握ってしごいたらどうなるかな?」
 礼奈は俺のものを強く握り締め、ゆっくりとしごきはじめた。
「はぁっ、はぁっ、れ、礼奈、止めて、止めてくれ、その、振動を!」
「あはははは、圭一くんのここ、すごいよ。何か溢れ出てるよ? それ、剥いちゃえ!」
 一気に礼奈は俺の包皮を剥いた。赤い色の先っぽが露出した瞬間、俺は体をのけぞらせた。
「あぁぁあがっあああぁあ!」
何度も何度も、体ごと波打たせて、俺は白い液体を飛ばす。
 「あ……ああ……あ、あ」
やがてそれも収束するが、まだまだ俺のものは硬いままだった。さらに、振動も止まらないままだ。
「あーあ、手が汚れちゃった。そうだ、いいものをあげよう」
 「もう、もう終わりにしてくれよ……」
「でも、圭一くんのここ、まだ収まってないよ? 出したいんなら出したいだけ出したらいい。それが、最後の手向けだから」
 圭一、くん……そうか、俺を、殺すんだな。そうは思っても、まだ俺の尻の中で暴れる振動に、俺は流されてしまった。
「ほら、これを使うんだ。」
礼奈が手にしたそれは、ゴムのかたまりのようなものだった。
その管状のゴムには穴が開いていて、そこからは先ほどの透明の液体があふれ出ている。
 「これが、圭一くんの始めての相手だよ、あははは、惨めだねぇ、変態は」
そっと、その塊を、俺のいきり立ったものに近づける。
「ほら、腰は動かせるでしょう? 自分で動いてみたらどう?」
刺激するように、礼奈はそれを俺の先端に近づけては放した、
俺はそのたび、その管の方向へと腰を動かしてしまう。そのうち、礼奈は動きを止めた。
俺は、そのままの勢いで、その穴へと挿入してしまう。
「はああぁうあ、礼奈、礼奈ぁぁ、礼奈、礼奈……」
「まだ言うの? それとも気がおかしくなっちゃったのかな? あはははは、もうそろそろ死んどく?」
 礼奈は、左手に鉈を持った。音で分かる。先ほどと同じ音だから。
「礼奈、礼奈礼奈……」
俺の腰の動きは、止まらなくなっていた。壊れた再生機のように、何度も何度も礼奈と言い続けた。
何度か突いたあと、俺はまた絶頂を迎える。もう手がだらんとしてきて、足も震えてきている。
腰がパンパンでも、まだ、その管はおれのものについたままだった。
もう礼奈は手を放しているのに。つるんと、それが抜け落ちて、また、俺は体を震わせた。
 「すごいね、四回も出したのに、まだ硬いよ?」
「れ、礼奈……礼奈……」
まだ俺は、うわごとのように繰り返す。それは、気付いて欲しかったから。
 信じてた。いや、信じてる。今この瞬間も信じてる。信じてるのは、認めたくないから? 
いや、違う。認めたいから。俺は悪いことをした。礼奈も悪いことをした。それを、認めてほしかった。
でも、それは、俺の独りよがりな発想だった。なんせ、俺はこうやってもてあそばれている。
認めてほしいなんて、罪を押し付けている。
「解いてあげるよ、圭一くん。もう、襲い掛かってくるような力も無いようだしね」
振動が止まり、俺は完全に自由な状態になった。それにもかかわらず、俺はその場にへたりこんでしまう。
叫ばなければならないのに。
「あはははははは、無様なもんだね、もう黙った。ねぇ? 圭一くん?」
圭一くん。そうだ、俺を圭一くんと呼んでくれる奴が居た。名前はレナ。
いや、礼奈。竜宮礼奈。ずっとレナって名乗ってた子。本当の名前を捨てて、ずっとずっと。
「なぁ、”レナ”なんで、”い”を捨てたんだ?」
壊れたように笑っていた礼奈の動きが止まった。
「レナ? 礼奈だよ。こんな汚れた仕事をするのはね。”い”やなことを捨てて、私はレナになったっていうのに、
圭一くんは悪い子。礼奈を思い出させた。こんな暴力的で最低で、そのくせ大事なものも守れない、弱い女をね」
「そうだったのか……あはは、俺さ、”い”を取ったら、ケチな男になっちまうんだよ。
わかるか? けいいちから、いを取るんだ」
「そうだね、ケチな圭一くん。だって、レナのこと、礼奈って呼ぶんだもん」
「だって、礼奈って……綺麗な名前じゃないか。
それを名乗らない……レナのほうが、ケチだぜ……でも、レナって呼ぶよ。
レナは、そっちのほうがいいんだろ?」
「……礼奈って、呼んで」
「え?」
 俺が、振り向いた瞬間、レナ、いや、礼奈は俺に唇を重ねた。
「ほら、礼奈の、ここ触ってみて?」
 レナが俺の手をひっぱり、自分の股間に手を当てさせた。
「湿ってるでしょう? 私、圭一くんの姿見てて、こんなになっちゃったの。
変態、圭一くんだけじゃないよ、私も変態。人を傷つけて、こんなになってるんだから」
「レ……礼奈?」
「ねぇ、圭一くん、私、帰る場所が無いの。家に帰れない。圭一くんの家にも、魅ぃちゃんの家にも行けない……私、自首するよ。
間違ってたの、私、礼奈なんだって。汚い汚い、礼奈なんだって」
「間違ってたのは……俺だよ。礼奈を、嫌なことから無理やり遠ざけてた。それが解決になるわけ、無いのに」
 レナは、ぎゅっと俺の手を握り締めた。
「卑怯だよね、知ってた? 魅ぃちゃんも、圭一くんのこと好きなの。でも、私はもっと好きなんだ! 
もっともっと! 何で、何で、こんなことになっちゃったんだろう! 礼奈の馬鹿、礼奈の馬鹿!」
 「礼奈! 礼奈はお前だ、礼奈! その名前を捨てないでくれ! 犯した罪を捨てないでくれ!
 俺たちを……捨てないでくれ……俺は、レナとしてお前と会ったから忘れてた。
ずっとずっと生まれてから死ぬまで礼奈だってこと、礼奈は、礼奈だってこと!」
 「うっぅ、うう、つらいよ、圭一くん、胸が痛いの!」
「俺が、抱きしめててやるから、泣いてくれ。ずっと、頑張ってたんだな、礼奈。ずっとレナを押し付けて悪かった」
 「圭一くん……あのね……やっぱり、ダメ。犯罪者の娘や息子なんて、迫害されるだけだもんね……」
「ああ、そうか、俺が言うべきだな。俺、礼奈の子供が欲しい。俺と、礼奈の子供が欲しい」
「……ありがと」

 俺と礼奈は、激しく交じり合った。お互いのだいじな名前を呼び合いながら。
「ねえ、圭一くん、痛かったよ」
「え、あ、ご、ごめん……」
「でも、うれしかった。あのね、その、また出てこられたら……」
「ずっと待ってる。何年でも、俺は待ってるから。だから……その時は、結婚しよう、礼奈。前原礼奈に、なってくれ」
「ふふ、子供が生まれたら、礼一くんかな?それとも圭奈ちゃん? 
どっちも素敵な名前だね。私と、圭一くんの名前が入っているんだから」
 「そうだな、二人目が生まれたらどうする?」
「あはは、圭一くん、気が早いよ」
礼奈は、大粒の涙を流した。俺も、きっと流していた。これで、お別れなんだ。
いや、お別れはもっと先かもしれないけど、いつもの日々とは、これで。

 「みっ、みぃーー……レ、レナがボクの注射を拒否したのに、圭一にお注射されたのです……」
「り、梨花ちゃん?」
俺は動揺した。まさか、こんなところで会うとは思わなかったから。礼奈との関係を知られたからじゃない。
「あはは、梨花ちゃん、聞いてた? 私、もう自首するから……お別れだね?」
 「それでいいのですか?」
「……うん」
「レナが……いや、礼奈がそれでいいというのなら、ボクは何も言わないのです。
惨劇がはじめから無かったなんて、ボクは思っていません。
起きた後に、それを受け止めなければいけない人たちのことを、ボクは考えたことが無いのですよ」
 俺には、梨花ちゃんの言っている意味が、少しわからなかった。
でも、梨花ちゃんが礼奈を認めてくれたことは、俺にも分かった。

翌日、礼奈は警察に出頭した。
なぜか大石という刑事は、礼奈を見て驚いてはいたが、すぐに礼奈に色々な質問をはじめた
。死体はどこにあるのかだとか、凶器はなんであるか……証拠が無い限りは、それが事実であったとしても、
警察は捕まえられない。確かに、リナと鉄平という人物が行方不明になっているが、もともとよく行方不明になりそうな人間だったから、
捜査は最小の人員で行われていた。誰も、居なくなったことを気にかける様子が無かったからだ。
調査の結果、礼奈の証言は、嘘の証言であることを認定された。大石はひどく落胆し、
何か色々とつぶやいていたが、もうこんなところに来ることは無いようにと、俺たちに念を押していた。

「ねぇ、圭一くん?」
「なんだ? 礼奈?」
そう言うと、礼奈はうれしそうに言った。
「すてきな、なまえだね」

―END―
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最終更新:2023年06月03日 23:39