「ばっしーばっ♪ ばっしー♪ ふぁっしーふぁっ♪」

 数年前に出ていたドラマの主題歌を口ずさみながら、家の前の生け垣にホースで水を蒔いていた時の事だった。

「おやおや、今日も精が出るねえ、レナちゃん」
「あ、魅ぃちゃんのお母さん。こんにちはー」

 竜宮レナは水を蒔いていた手を止めて向き直った。

「ちょっと屋敷まで行った帰りに寄ったんだけど、元気そうで何よりだよ」

 茜が微笑みながら空を見上げたのにつられて、レナも視線を上げる。ぎらぎらと照りつける太陽が眩しく、ぷかぷかと浮かんでいる雲は今にも落っこちてきそうだった。
 ……あの雲さん、かぁいい形してるなぁ……

「ところで、今日はお父さんはいないのかい?」
「はい。なんでも、お勤めしている会社の研修みたいで、今週末までは空けているんです」
「そうかい。それじゃあ、今日は恋人と二人っきりの水入らずだねぇ」
「ちょちょ、ちょっと待ってください!」

 珂々と笑いながら言う茜に、レナは慌てて訂正にかかった。

「こ、恋人って誰のことですか?」
「おや、とぼけるのが下手だねぇ。前原さんとこの圭一くん以外に誰がいるんだい?」
「け、圭一くんはレナの友達で、恋人とかそういうわけじゃあ……」
「おや……なんだい。まだ付き合ってもいなかったのかい?」
「えーと……」

 冷や汗を垂らしながら、視線を逸らす。しかし、私と圭一くんは周りから見るとそんな風に見えているのだろうか。

「お似合いだよ、二人とも。じゃあ、予定が立ったら教えとくれ。レナちゃんの花嫁姿、おばさんも見たいからねぇ。偶にはわがままやおねだりでもしてみたらどうだい? じゃないと、うちの馬鹿娘にそのうち取られちゃうよ」
「……はあ」
「それじゃあね」
「はい、気を付けてくださいね」

 去っていく茜の後ろ姿を見送り、やがてその背中が見えなくなってから、レナは大きく嘆息した。

「お似合い……かあ」

 ふと、さっきの言葉が脳内でリフレインする。お似合い。予定が立ったら。花嫁姿。

 ぽわぽわぽわわ~ん(効果音)

『あ、おかえりなさーい』
『おう、ただいま』
『お風呂にする? それとも、ご飯?』
『オ・マ・エ☆』

 ぽくぽくぽくちーん。

「は、はぅ~~~!! 新妻でおしどり夫婦かぁいい~~~!」

 かぁいいモードに突入しながら、ぶんぶかとホースを振り回し――。





「……三七度八部。とりあえず峠は越したみたいだな」
「はぅ……」

 上から降ってくる呆れの色が強い眼差しに、レナは鼻を啜りながら深々と布団に潜った。顔は赤く火照り、いつもはぱっちりとした大きく丸い瞳はとろんと垂れ下がっている。
 つまるところ、風邪だ。

「冬ならともかく、夏のまっただ中に風邪なんか引くか? 普通」

 園崎魅音から部長の座を継いでから、妙にいろいろと面倒見がよくなった前原圭一は、コップに注いだスポーツドリンクを手渡しながら、やれやれと呟いた。

「ごめんね、早退までさせちゃって……」
「気にするなって。魅音は受験で知恵先生とマンツーマンだし。なら、レナが休んでて俺だけ授業ってわけにもいかんだろ?」
「はぅ、そう言ってくれると助かるけど……」
「ま、明日は土曜で休みだし、どうにかして明後日までにゃ直さないとな」

 頷いたレナに満足したように大きく頷き返すと、圭一は立ち上がった。

「んじゃ、ちょっとお袋からおじやでも貰ってくるわ。何か他に欲しいものでもあるか?」
「うん、じゃあ汗をかいたから濡れタオルと着替えが欲しいな」
「おう、まかせとけ」
「……言っておくけど、下着もだよ? ……だよ?」
「な、何っ!? だ、だがそれは」
「嫌ならいいけど……それだとレナは、ぱんつなしで一日を過ごす事になっちゃうんだよ」
「……持ってくる」

 よろよろと立ち上がって(なんだかいろいろと葛藤があったらしい)、部屋を出ていく圭一に、レナはくすりと微笑んだ。

(そんなに甲斐甲斐しくされちゃうと、レナだって甘えてみたくなっちゃうんだよ、圭一くん)

 自宅に戻ってからとって返して来たらしい圭一は、湯気を上げている鍋を置くと、

「……下着って何処にあるんだ?」
「和室のタンスの下から二番目。圭一くんがいいと思ったのでいいよ」
「……そんなもん俺に任せるな。頼むから」

 げっそりとしながらも、着替えを右手に(下着は見えないように寝間着でくるんだらしい)、濡れタオルを左手に帰ってくると、

「んじゃ、拭き終わったら片づけに来るから呼んでくれ」
「あ、待ってよ、圭一くん」
「ん?」

 どうした? と聞いてくる圭一に、レナはにっこりと微笑むと、

「拭いて」
「ぶふぉっ……!」

 石化する圭一には構わず、レナはいそいそと寝間着のボタンを外して――

「お、おい、レナ! 待て!」
「なに?」
「いや、拭け……って、まさか俺が拭くのか?」
「そうだよ。レナは風邪のせいで身体に力が入らないんだもん。こうやって服を脱ぐことだって本当は辛いんだよ? ……だよ?」
「い、いや、しかしだな」
「もう、早くやってくれないと、汗のかきすぎでまた風邪がぶり返しちゃうんだよ、だよ」
「って、おい、レナ!」

 慌てて止めに入った圭一は、レナがボタンを外すのを止めるのを見てほっと嘆息する。どうやら思い直してくれたらしい。
 が、それは早計だった。
 けだるそうに溜息をついて、ぽふん、と布団に倒れ込んだレナは、ぐったりとした顔で圭一に向き直った。

「やっぱりダメだよ、力が入らない。圭一くん、脱がして」
「………………!!」

 ズギューン! ズギューン!! キンコーーン!!!(効果音)

 色々と葛藤はあったものの、圭一は素直にレナの言葉に従うことにした。正直に言えば勘弁して欲しいことこの上なかったが、レナが辛くて不快そうなのは事実だし、何より風邪を悪化されてはたまらない。
 圭一はレナに腕を広げさせ、寝間着のボタンをちまちまと外していく。寝間着は汗でじっとりと湿っていて、確かにこんなもん着てりゃ治るもんも治らんわな、と自分を納得させつつ、レナの寝間着の上を脱がしにかかり――

 即座に戻した。

 ぷるぷると顔を震わせながら、圭一はレナの顔へと向き直る。レナは頬を少し朱に染めながらも、にやにやとした視線を投げかけてきた。
 忘れたくとも忘れられぬ、目に焼き付いたあれは。

「て……てめー、こういうのはなんつーか、卑怯だろ。いくらなんでも」
「はて、何のことなのかレナはさっぱりわかんないんだよ? ……だよ?」
「ノーブラじゃねえかっ!」
「……レナは寝るときはブラはつけないんだよ?」

 金具が痛いし。

「ぐ……そうか、そっちがそういうつもりならこっちにも考えがあるからな」

 何か思いついたのか、すっくと立ち上がると部屋を出ていく。
 一分ほどして戻ってくると、

「ふっふっふっふっふ……」

 と、何やら不敵に笑っている。見ると――

「……手拭い?」

 ぱちくりとしてレナが呟く。すると、

「レナ! お前の悪行もこれまでだぜっ!」

 ビシィッ! と、背景に稲妻がつきそうなモーションでレナに指を突きつけた。なんとなくそのまま見ていると、圭一は手拭いをそのまま目隠しのように頭に巻きつけ、

「はっはっはっは! これで俺は何も見えないわけだから、お前の攻撃はもう通用しないってわけだ! 一発で全部引ん剥いてやるから覚悟しやがれっ!」
「………………」

 なんだか変な方向にKOOLが発動してるだけのようだった。そのまま、得意げにレナに歩み寄ると、目隠ししているにしては妙に器用な手つきでレナの上着を脱がした。
 途端に、むわっと汗の臭いが鼻を突く。

「……ぐ」

 暗闇の向こうにレナの裸体が透けて見えたような気がして、一瞬だけ硬直する。だが我慢だ。ここで誘惑に負け、トミーやクラウド達が乱入してくる展開になったら、それは前原圭一の敗北を意味する。
 それだけは、認めるわけにはいかない。

「へへっ、そんな手に出たって無駄だぜ、レナ」
「……レナ、まだ何にもしてないんだよ?」
「………………」

 そうだったっけ?

「まあいいや。とにかく! 俺がお前の誘惑に屈しなかった以上、レナ! お前の負けだぜ!」
「………………」
「はっはっは! どうだ! 悔しくて声も出ないか?」

 目隠ししたまま勝ち誇る圭一に、果てしなく冷静に――あるいは冷酷に――レナが口を開いた。

「うん。じゃあ圭一くん、拭いて」

 びしっ――――

 圭一が、ひび割れる。
今度こそ完全に石化して固まった圭一を、レナはなんとなく眺めていた。最初に変化したのは、表情だった。続いて 顔がだんだんと震え始め――やがて全身に回り始める。

「圭一くん、早く拭いて欲しいんだよ。風邪がひどくなっちゃう」
「ぐ……だけど」
「寒い寒いさーむーいー」
「だああっ! わかったよ!」

 足をじたばたさせながらぶーたれるレナに、多少やけくそ気味に叫ぶと、圭一は濡れタオルを片手にレナの傍らに腰を下ろした。

「くっそー……」

 毒づきながらも、圭一はレナの身体を腹ばいに裏返すと、そのまま無心の境地でレナの背中にタオル越しに触れた。

「ひゃぅっ」

 ……………………。

 突然出てきた艶っぽい声にしばらく沈黙した後、場所を少しずらして、肩に触れる。

「はふっ」

 ……………………。

「……おい、レナ」
「どうしたの? 圭一くん」
「お前、絶対遊んでるだろ」
「そんな事言うなんてひどいなぁ。レナはタオルが冷たくてびっくりしただけなんだよ」

 あくまでとぼけ通すつもりらしいレナの回答に、圭一はびきりと口元を引きつらせた。

「……そーか。そっちがそういうつもりなら、こっちにも考えがあるからな」
「それ、さっきも聞いたんだよ」
「やかましい。とにかく今度こそギャフンと言わせてやるから覚悟しやがれ」

 言い捨てると、圭一はレナの身体を横向きにする。レナは肩越しに、自分に馬乗りになる圭一を見上げる。目隠ししたまま、無表情で両手をわきわきさせるというのは――なんというか、やたらと異様ではあった。

「け、圭一くん。何だか手つきが怪しいんだよ……」
「気のせいだろ」

(まずいんだよ。声が本気と書いてマジなんだよ)

 冷や汗をたらしながら硬直するレナは無視して、圭一はそのままレナの脇腹にタオルを当てると、そのままごしごしと拭き始めた。

「ひゃんっ」
「おい、動くなよ。暴れられるとちゃんと拭けないじゃねえか」
「うう、その手で来たんだね」

 もじもじと身じろぎするレナを横目に、圭一は脇腹を拭く――ふりをして、脇をくすぐっている。レナは歯痒そうにしながら、気を抜けば笑いに綻びそうになる口を真一文字に結んだ。

「ほーほほー♪ はんげはーらはれいー♪」
「うンっ……くくくっ……ふゃあッ」

 妙な鼻歌を歌いながら、圭一は脇の下をそれこそ絶妙な加減でくすぐる。目隠ししている事を考慮に入れると、驚異的な指先感覚であったが、幸か不幸かそれを指摘する者は当事者二人を含めてこの場にはいない。
 レナはといえば、身体を小刻みに震わせながら圭一の執拗な攻撃に必死で耐えていた。

「で、どうなんだレナ。もう参っちまったか?」
「くっ、ふふっ、な、なんの事なのかな圭一くん。ちょうど今いい感じの加減なんだよ」
「そっか。じゃあもうちょい強くしてもいいな?」
「ふえ?」

 二刀流にタオルを構えると、圭一は両脇を同時攻撃に出た。嗚呼、武士道とはくすぐる事と見つけたり。

「あはっ、あははははははははっ、も、もうダメ。がまんできな、あははははははは」
「おわっ!? いきなり暴れるな、レナ!」

 ついに我慢の限界を超えたのか、いきなりじたばたと暴れだすレナに、圭一は慌てて押さえ込もうとした。しかし、じたばたともがくレナの力は思いの他強く――

「ぐぼっ!? み、鳩尾を蹴るんじゃねえっ! ……だべぎゃ!?」
「あっははははははっ! あははははは…………あれ?」

 ひーひーと息継きしながら、レナは顔を上げると、首を傾げた。

「……圭一くん、なんでひっくり返ってるの?」
「お前が蹴り倒したんだろーがっ!」

 顔面に足形をつけた圭一がすっくと立ち上がった。そのままびしとこちらを指差して、

「いーか!? 今の一撃で俺は割かしはっきりとヘヴンが見えたぞ!? 何故か大量の梨花ちゃんとあぅあぅ鳴いてる謎のナマモノしかいなかっ、た、けど……」

 こちらを見ながら、圭一はだんだんと怒気を尻すぼみにさせていった。テレビでやっていたモーフィング映像みたいに顔を赤くしていく。

(……こちらを見ながら?)

 頭の中でオヤシロさまがあぅあぅと警鐘を鳴らすのを聞きながら、レナは状況を再確認する。
 上半身裸の自分。真っ赤になって石化した圭一。部屋の隅に吹っ飛んだ手拭い。

 ねえみみみみおねーさーん。このじょーきょーからかんがえられるけつろんってなんだろおー?
 くすくす、簡単よトミーくん。つまりレナちゃんは上裸で圭一君の前に突っ立ってるのよ――――。

 ……………………。

「ひゃああああああっ!?」

 思わず叫んで、尻餅をつく。いくら圭一をからかうにしても、いきなり全開キャーというのはさすがに恥ずかしい。
見上げると、圭一はこちらを凝視したまま固まっていた。
 なんとなく、圭一にすべて見透かされているような気がして、レナはぼそりと呟いた。

「け、圭一くん、そんなに見つめられると恥ずかしいんだよ――」



 一方の圭一は、レナの衝撃桃色映像に、完全に意識が凍結していた。
無駄な肉のない華奢な肢体はもちろん、汗の臭いまできっちり脳内メモリに油性マジックで記録終了。正に忘却不可能である。
 と、むくむくととてつもなく凶暴な何かが自分の股間からこみ上げてきて、慌てて圭一は自制した。

(お、落ち着け……クールになれ、前原圭一)
(たとえ悪ふざけがあったとは言え、俺はレナの看病に来たんじゃねえか。……我慢できる。我慢できるぞ)

 でも帰ったら秘蔵コレクションの出番だなとも思いつつ。
 己の欲望を(ぎりぎり)なんとか制御して、圭一はレナに上着をかけようとした。
 が。

「け、圭一くん、そんなに見つめられると恥ずかしいんだよ――」

 ――――壊れた。
 無数の亀裂が入りながらも、奇跡のような見事さで自制を保っていた理性は。
 その一言によって、問答無用に打ち砕かれた。
 断末魔の理性を上げながら飛び散っていく意識の中で、圭一は――。

 ふと、己の中に静寂を感じた。

 見渡す限りの大草原。自分以外は何もいない。
 いや、いた。草原をハジけるような底抜けの笑顔で駆けていくレナ、魅音、沙都子、梨花、詩音。そして何故かみんな全裸。彼女たちは笑っている。

『なにを堪えているの? 何を我慢してるの? なにを――』

 やがて、全身が震え始める。

 何も見えない。
 何も聞こえない。

 だが、小さな音がする。それは決定的な音だった。
 妙に小気味よく、忌々しい理性という名の鎖からすべてを解放する最後の音――

 要するに、ぷつんという音だった。



「はっはっはっはっはっはっはっは…………」
「圭一……くん?」
「はっはっはっはっはっはっはっは…………」

 突如乾いた声で笑い出した圭一に言いしれぬ威圧感を感じて、思わずレナは後じさった。
 ひとしきり大笑した後、ぴたりと圭一は笑いを納めると、

「ぐげほへらうひはひほほふぅ。落ち着いてきた。落ち着いてきたぜぇ」
「ちょ、ちょっと待ってーーー!」

 再びげらげらと笑い始める圭一に、慌ててレナは飛びついた。

「それ違うから! 絶対落ち着いてるのと違うから!」
「何言ってるんだよ、落ち着いてるじゃねえか。ほらこんなに」

 何故か冷や汗をたらしながらぶんぶんと首を横に振るレナをやんわりと振りほどくと、圭一は優しく、ただし逃げられないように力を込めてレナの肩を抱いた。

「俺さ、気づいたんだ」
「な、何をかな……かな?」
「もう難しいことあれこれ考えずに、俺を誘惑してくれた罰ゲームってことで、俺がレナにおしおきしちまえばすべて解決だよな」

 この上ない笑顔で底抜けに壊れた事を口走る圭一。墓穴を掘ってしまったことをこの上なく理解しながら、レナは恐る恐る口を開いた。

「え、えーと、圭一くん。質問いいかな?」
「おう、構わないぞ」
「ん、んーと……何処まで行くのかな……かな?」
「何だ? 何処まで、ってのは」
「ゲームセンターの大人向け麻雀ゲームみたいに、ぱんつ残しとか」
「ははは、馬鹿だなあレナ。何だと思ったらそんなことか。心配しなくても――朝までは誰も来ないからやりたい放題だぜっ」

 きらーん☆と歯を輝かせながら、ポーズをキメる圭一。
 通常ならカッコいいと思えたのかもしれないが、今現在のこの状況ではある意味では処刑宣告であった。
と。
唐突に、圭一の唇がレナのそれに押し付けられた。

「――――んむっ!?」

驚いて逃れようとするレナだが、既に肩を掴まれている以上、逃げようもない。じたばたともがいてもみるが、病み上がりのレナの力では圭一から脱するのとも出来ようはずはなく。

「んー! むうー!」

こちらの唇を割って侵入してくる圭一の舌に、レナは思わず悲鳴を上げた。程なく舌を押さえつけられ、口内を蹂躙される。
つるつると絡み合い、とくとくと送られてくる甘く熱い唾液に、レナの理性はとろとろと溶けていった。

「……は……ふぅッ」
やがて、唇が離される。
つつ、と唾液の糸を残しながら離れていく圭一の舌を、あ、と名残惜しげに声を漏らしながらレナは見送った。

しかし、その余韻も長くは続かない。

「――――ひゥっ!?」

胸元に顔を移した圭一が、レナの乳房の先端を舐めあげたのだ。
そのまま小さな乳輪を丹念に舌で撫で回すと、

――――カリッ。

「――――――――ッ!!!」

乳首を甘噛みされて、レナの視界は白く明滅した。
そのままコリコリと歯で引っ掻かれ、先端をぺろぺろと舐められてくにくにと踊る乳首。
頭の中で弾けては理性を奪っていく快楽に、レナはぎゅっと目を閉じて耐えていた。

と、不意に甘く痺れるような感覚が途切れる。圭一の唇が、レナの乳房から離れたのだ。

(……終わった……のかな? ……かな?)

安心して、ようやくほっと息をつくレナ。だが、それは早計だった。

――――ちゅぷ。

「――――ッ!? ああ――――ッ!!」

もう一方の乳房に吸いついた圭一に、今度こそレナは悲鳴をあげた。
だが、それで圭一の愛撫が弱まるはずもなく、むしろより強くレナの乳首を吸い続ける。

「はぅッ! あっ! ああっ! うあああっ!」

もはや抵抗する術もなく、レナはなすがままに圭一にねぶり回される。
肌はうっすらと桜色に上気し、呼吸は熱く、鼓動は速く。
そして限界まで海老反った躯は、安定を失って布団に倒れこんだ。

しかし、そんなことは意に介することもなく、圭一の執拗な「おしおき」は止まらない。
乳首に吸いついていた唇が離れたかと思うと、ぴたぴたと舌で叩き、また吸う。

空いた乳房も圭一の手に揉まれ、乳首を指で転がされる。
さらにとどめとばかりに、股間に残った手が伸ばされると、服の上から、ぎゅうっ、と握りしめられた。

「――――ッッ!! ――――ッッッ!!!」

リミットを軽く決壊させて殺到する快感に、たまらずレナは達した。
四肢をぴんと突っ張らせて、びくびくと痙攣する。
やがて、くたっと脱力し、レナは自分に覆い被さっている圭一を見上げた。

「圭一くん……すっごく、えっちなんだよ、だよ」

その言葉に、圭一はにやりと口の端をつり上げて笑うと、

「そういうレナはどうなんだよ? ――――ほら、すっげぇ濡れてる」

言って、じくじくに濡れそぼった股間を軽く撫で上げる。
たったそれだけなのに、ぞくぞくと這い上がる快感にレナははぅ、と声を漏らすと、

「だって――――レナは風邪なんだもん。――――汗をかくのは、当たり前なんだよ……だよ?」
「ほほう、レナさんはこれが汗だと仰る?」「嘘はついてないんだよ」

ただそれ以外の液体がたっぷり入ってるだけで。

「圭一くんだって……その、すっごく、かぁいくなってるんだよ、だよ」

言われて、圭一はレナの視線を追って目を下に降ろす。そして視界に入る服の上から自己主張しまくりのマイサン。
というか、ジッパーの金具が先っちょに当たってちょっと痛い。

「おお、これか。こいつはな……」

一息。そしてにやりと不敵に笑うと、

「――――注射だぜ」

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最終更新:2007年03月19日 09:24