「最後の惨劇」

雛身沢村の“最後の”綿流し祭は、酷く閑散としていた。
せいぜい、ダム闘争時代の酒盛りに毛の生えた代物だ。
それでも、今の「私」にとっては有難い事だった。
誰にも気にされないという事は、同時に行動の自由も意味していたからだ。

大急ぎで儀式(彼女が記憶しているものに比べれば、遥かにおざなりなものだったが)
を済ませた古手梨花は、その姿に酷く不釣合いな塊を布に包み、巫女服の裾に隠し
持っていた。
・・・神社の宝物殿で見つけた、古いS&W拳銃である。

元の世界に帰る為の欠片―“母”―を**すると決めた時には、なるべく迅速に、
かつ母と自分が苦しまない方法が良いと考えたのだ。
それに、22口径の小さな弾丸を使う銃だから、身体の小さな梨花でも扱い易い。

(まさか、私が“祟り”の実行者になろうとは・・・羽生も相当意地悪な奴ね)

そもそも、この世界は「私」以外は幸せを享受していた。
しかも、この世界の「古手梨花」も努力次第では幸せを享受出来ると
いう破格のおまけ付きだ

・・・もっとも、この世界を選択する事は、同時に「私」と羽生との
永遠の別れを意味していたが。

それを拒否し、元の“100年もの期間を経て勝ち取った”世界に帰還
するには、自ら禁忌を犯さねばならないと来ている。
梨花でなくとも、真っ当な人の子ならば十分迷うであろう決断だ。

しかし、羽生から告げられた刻限はもう間も無い。
時間が無い為とは言えども、この拳銃を本当に使うか、“悪戯心で
持ち出しただけ”で済ませるか否か、それも梨花自身で判断しなければ
ならなかったのだ。

(母はもう神社の方に戻っているのか・・・)
村人が綿流しを行っている最中に、母と何とか接触して早く決めようと
思ったが、川岸にはまばらな村人の姿しか居なかった。
恐らくは、梨花が儀式を終えた後に河原で探し回っている間に、片付け
か何かの用で先に神社に戻ったのだろう。
こうしている内にも、刻限は刻一刻と迫っているのだ。

梨花はどうにかして母と対峙し、この選択に決着を付けねばならないと
思っていた。

少なくとも、この時点までは・・・。

鬱蒼と茂る鎮守の森の中を、袴の裾を持って小走りで走っている内に、
いきなり大きな落とし穴に落ちた。
落ち葉や木の皮で巧妙に偽装された手の込んだものの様だ。
(痛・・・こんな時に、一体誰よ?)

「ほほほほほ!、ザマァ無いわね!」
方々の体で穴から這い出してきた梨花の頬に、唾を吐きかけたのは
沙都子だった。
いきなり、梨花を押し倒すと、胡椒と唐辛子の混ざった目潰しを
顔にかけられた。
「あの時のお返しよ!」
沙都子は梨花の長い黒髪を掴み、乱暴に引きずり回した。
「みぃぃぃぃぃ!!」
それでも梨花は必死に抵抗したが、不意を突かれた事もあって、
思うように手足が動かない上に、目潰しの刺激で目も見えず、
その顔は涙と鼻水と埃に塗れていた。
しかも、只でさえ不利な梨花が一番恐れていた事態となった。
沙都子がS&W拳銃に気付き、袂から取り上げたのだ。

「へぇ、こんな物騒な物を持ち歩いてるとはねぇ。しかも本物だし。
銃刀法違反でアンタはおろか、アンタの両親も無事じゃ済まないわね」
沙都子は取り上げたS&W拳銃を、玩具の水鉄砲の様に弄んでいた。
念の為に、弾丸だけ抜いてもう片方の袂に隠しておいた事だけが
唯一の救いであった。
「お願い、返して!」
梨花は必死に懇願したが、沙都子にとっては絶好のチャンスだった。
もし、学校での古文書の時の様に、遠くにでも放り投げられでもしたら、
もはや取り返しが付かない。
「アタシの言う事聞いてくれたら、返してやらない事も無いわね」
(あぁ・・・、一刻を争うのに、よりによってこんな事に・・・)
祭具殿に一旦隠しておけば良かった、と後悔したがもう手遅れである。
もはや、進退窮まった梨花に選択肢は無かった。

梨花は一糸纏わぬ全裸にされ、両腕で小さな胸と臀部を
辛うじて隠している有様だった。
「もう2度と、この私に逆らえない様に躾けてやるわ」
沙都子は拳銃を後ろのベルトに挟むと、梨花の身体に圧し掛かった。

「くくく、本当にちっちゃくて、実に可愛らしいおっぱいだ事」
梨花の僅かな膨らみを口に含み、蕾を舌で厭らしく嘗め回す。
「ほらぁ、ちゃんとこっちに向かって開帳しなさいよ、このダラズ!」
梨花は屈辱に涙を零しながらも、必死に堪えて沙都子の言うなりにした。
下手に抵抗して時間を失う事は、決断のチャンスすら失うに等しいのだ。

「ちゃぁんと、この中もしっかり見ておいてやるわよ」
沙都子は梨花に無理矢理大股で開かせると、そこに顔を突っ込んだ。
しかも、そこらに転がっていた太い棒切れを手に取ると、そのまま梨花の
秘所に強引にねじ込んだ。
ブチブチという破腔の音と共に、鮮血が地面に滴り落ちて赤い染みを作る。
「くぅぅぅっ・・・」
梨花は激痛に顔を歪めたが、沙都子は棒切れを更に突っ込むなり、先端で
膣の中を乱暴に掻き回した。
破れた処女膜から、赤い血が滴り落ちて棒から沙都子の腕に伝った。
「ひゃひゃひゃ!、ほらほらぁ、もっと感じなさいよ!」
沙都子はげてげてと笑いながら、腕に伝った血をぺろりと舐めるなり、
更に棒で秘所の奥をひっ掻き回した。
「あぅぅ・・・」
この陵辱に堪えきれず、梨花の秘所から透明な液体が勢い良く流れた。
「あはははは!、棒切れ突っ込まれておしっこ漏らすなんて最低ね、お姫様!」
沙都子は梨花の醜態が愉快で堪らない様で、その場で笑い転げた。

「最後に、この私に忠誠を誓うの。とっとと四つん這いになって!」
梨花は屈辱に身体を震わせながらも、沙都子の言う通りにした。
秘所には、太い棒切れが差し込まれたままだ。
「わ・・・私こと古手梨花は・・・最低の雌猫です・・・。沙都子様に・・・」
「声が小さい!」
沙都子は梨花の頭に足を乗せると、そのまま地面に押し付けた。
頭を押さえつけられ、自然と臀部がせり上がった格好だ。
秘所に突っ込まれたままの棒切れを掴むと、沙都子はほくそ笑んだ。
鉄平やリナに似た、“あの”醜悪な笑みだ。

「ほら、もう一度!、今度はもっと聞こえる声で!」

「これで・・・気が済んだでしょ。さぁ、返して」
泥に塗れてぐしゃぐしゃになった巫女服を掻き集めながら、
梨花は顔に付いた泥と涙を腕で拭った。
生きたまま腹を割かれる事に比べれば、この様な報復などは
まだ生易しい方だ・・・少なくとも、梨花は自分に言い聞かせていた。
しかし、沙都子の返事は“サイコロの1”以下のイカサマであった。

「駄目ね。やっぱり、これは興宮の警察に届けるわ。
今まで、御三家の権威に胡坐を掻いてきたアンタの末路には相応しいわね」
沙都子はさも愉快そうに、げてげてと笑った。
梨花はこれまで経験した事の無い、どす黒い憎悪が湧き出してくるのを感じていた。

あぁ、やっぱりコイツは“あの”沙都子とは別の屑だったか。
しかも、コイツは私ばかりか両親までも破滅させようとする最低の屑だ。
・・・仲間が仲間で無いこの世界になど、未練は無い。

「ひぎぃっ!?」

突然、顔面を何かで殴りつけられた沙都子は、額から鮮血を撒き散らし
ながら地面に転げ回った。
梨花の手には、赤ん坊の頭位はありそうな石が握られ、血が滴っていた。
「行きがけの駄賃よ、この下種女!」
そして、梨花はそのまま沙都子に馬乗りになると、無茶苦茶に殴りつけた。

「ひっ・・・ひぃぃぃぃぃ!!」

沙都子は必死に両腕で頭を庇おうとしたが、梨花は構わずに石を振り上げる。
とうとう、小枝が折れた様な音と共に、沙都子の腕が奇妙な方向に曲がった。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!、助けてにーにー!!、にーにーっ!!」

沙都子は凄まじい悲鳴を上げて泣き叫んだ。

「悟史には悪いけど、アンタみたいな最低の下種女、生かしておかないわ」

梨花は修羅の形相でにぱぁと笑うと、無防備となった沙都子の顔面を更に殴った。
殴る度に、飛び散る血飛沫が梨花の白い顔を赤の彩りに染めていった。

生意気な糞餓鬼に、さよなら。

この糞ったれな世界に、さよなら。

そして、一番糞ったれな「古手梨花」に、さよなら・・・。

歯は折れ、頬骨や頭蓋が砕け、血と涙と鼻水で顔の見分けが付かなく
なった頃、ようやく沙都子に動く気配が無いのを見て取った梨花は、
赤黒く染まった石を投げ捨てた。

(みんな、こういう気持ちだったのか)

顔の原型すら留めない沙都子の死体を見て初めて、梨花は己の犯した罪を
自覚した。
レナや悟史はおろか、圭一や詩音よりもずっと重い罪だ。

(母殺しだけじゃ、まだ足りなかったというの?、羽生・・・)

顔面と両腕に付いた鮮血と脳漿と頭蓋骨の切れ端を、沙都子のスカートの
裾で拭うと、改めてこの世界の仕組みの意地悪さに思いを馳せた。

「梨花・・・?」
「!?」

気が付くと、呆然とした顔付きの母が、埃と血で汚れて変わり果てた娘
を前に、成す術も無く立ち尽くしていた。
恐らく、沙都子の悲鳴を聞いて慌てて駆けつけ、そこで目の前の惨劇を
見たのであろう。

「これで、もう悔いは無いわね・・・、あは、はははははははははははは!
・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

梨花は母の胸元に縋り付くなり、激しい勢いで泣きじゃくった。
母も汚れ切った娘の頭を優しく撫でると、娘と同じく激しく泣いた。

               *

翌日、古手神社境内の森で、少女の撲殺死体と母子の射殺死体が発見された。
雛見沢村で起こった“最初”で、そして“最後”の惨劇であった・・・。

[完]

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最終更新:2007年01月25日 02:49