病に至る恋



「はう~。魅ぃちゃん詩ぃちゃーん。やっぱりレナの着付けを手伝って~」
「お姉はレナさんを頼みます。私は沙都子を着せ替えますから」
「私はひとりでだってちゃんと……浴衣くらい着られますわ!」
「ほいほい、頼まれたよー。んじゃレナ、おじさんがばっちりキメてあげるからね」
「う、うん。このリボンがどうしても、レナひとりだと上手に結べなくて。はう~」

 毎年八月の一日、二日と、興宮の町が祭りの舞台となる『興宮祭り』。
 人々の活気と活力の坩堝。夜空に咲く幾つもの大輪の花。お神輿わっしょい……。
 祭りの日になると決まって死人が出て、終いには村人二千人が一夜にして全滅するどこかの寒村とは大違い。で、その後の世界ではさぞマスコミどもの飯の種になっているのでしょうね……。
「……梨花。女の子が椅子の上であぐらを、それも貧乏揺すりまでして。……まだ昨日のことを根に持っているのですか?」
 私の態度を察し、戯れる四人から目を外して羽入が話しかけてきた。
「別に……ただ着替えくらい静かに、さっさと済ませて欲しいって思っていただけ」
 みんなが揃ってのこの興宮祭りを、私は楽しみにしていた。指折り数えながら羽入と、いつか悟史を迎えて、本当の全員で楽しもうと話し合って、夢にまで見て。そして迎えた祭りの一日目。
 雛見沢の悪口を声高に……興宮といちいち比較をする奴らを見かけた。
 比喩ではなく私は胸を痛め、そして……ひとりも欠けずに迎えたこの日を「汚された」ことに文句の一つも“言わず”、胸に渦巻くモノの囁くまま、私はその輩に殴り掛かっていた。

「この子たちとアレらを一緒くたにするなんて、仲間に対して失礼の極みなのです」
「……私がいつ、そんなことをした?」
 昨日からまだどこか腹の虫が治まらない私は鬼の眼光でそのとんちきを見上げた。すると“本物”と目があった。
「梨花。女王ともあろう者が、この程度の挑発で“カッカ”するでない」
 羽入が、普段は見せない鬼神の貌で呟く。
「まったく、仕方のない子だ。入江に注射を打って貰え。それとも……“私”のをソコにくれてやろうか?」
「は……ぁ…………ああっ! や……やめてぇ、あっ…………はぬ、うぅ……」
 羽入の指が髪を梳き絡め……頬を撫で滑り……顎を掴んで持ち上げられた。くちびるをなぞっていた親指が口に、そして舌に爪を立てられて引っ張り出される。
「『はぬう』とは何だ、『はぬう』とは。
 私のものを口にしているときの方がまだ、正確に発音しているだろうに」
「……う? ぷうウーッ! アふッ……」
「ふふ。どうだ梨花。これで“私並み”か?」
 親指だけでなくもう二本、口内に人差し指と中指まで挿れられる。いっぱいにまで開かれた口の端が痛くなって、まさに羽入の射精直前のペニスを咥え込んでいるかのよう……。
 早くも女の奥からぬるりとしたモノを感じ始め、私は浴衣の下の足を閉じた。
「『私』の前だと梨花も……ふふ、愛い愛い。ヲホホホ! レディとして、その恥じらいは結構なことですわ~」
「ふ……ふん…………。何よソレ……? もしかして沙都子のつもり?」
 いくらみんなからこのやり取りを悟られぬよう羽入が振舞おうとも限界がある。だからか、羽入はこうして“白い方”と“黒い方”を使いわけて、まるで私のそれの様に振舞う。
「正解なのです~。というわけで、梨花も僕にはくしゅ~、なのです」

 もっとも、羽入の場合は私の前で、主に“事”を「寸止め」にする為に使ってくる。でもそれは、羽入の……神の気分次第でどうとでもなるのだ。
「何でへたっぴな物真似にわざわざ……って、痛いわね! アンタのソレは拍手じゃなくて虐待って、だから痛いってばか羽入っ! アンタみたいに頭が悪くなったらどうしてくれるのよっ!」

 そしてそれを私は……女王であっても止められないであろうこと。しかもあろうことか、沙都子に見られたいなんて私は、そんな想いまで懐く様になっていた。

「あう? おりこうな僕は、がってんがってんなのですよ」
「私はガッデムよ! それに合点の使い方間違えてるし!」
 ……少し甘い顔をするとすぐに調子に乗る。でも、この辺は沙都子に似ていなくもない。……本当。沙都子と同じ、白い羽入ってすごく可愛い…………もうどうしようもなく、いぢめたくなる……。
「あうー! 暴力反対なのですー!」
「どの口がその台詞を宣いますのかしら……ねぇ? オ・ヤ・シ・ロ・さ・まァ?!」
 こっちの羽入になら胆力で勝る私は椅子から立ち上がってプロレスよろしく、手癖の悪い繊弱な手を掴み、力比べの体勢に持っていく。
 組んだ手を上げ下げして締め上げていると、耳が魅音とレナの話し声を拾った。
「リボンが二つに、襟元になんてフリルがずらっと付いてるし。この中ではレナのが一番凝ってるよねぇ……。婆っちゃてレナには甘いから、贔屓を感じるなー」
「えー? 一番っていうなら、レナは梨花ちゃんと沙都子ちゃんのだと思うな。ねっ、梨花ちゃん」
 レナの目にはそう映るのか。
 彼女に釣られ魅音も、こちらをしげしげと見つめてくる。ふふん、悪い気はしないわね。
「そう言われると……って、あ。二人のってさ、色違いのペアルックっぽいよねー。
 襟元の白いぼうぼうしたのと、帯のところのパールが年寄りくさくてアレかなと思うけど。でも、それもさ、タヌキな梨花ちゃんと沙都子に合っていて――」
「……お黙り。たれぱい星人」
「……ぷえっ?! り、梨花ちゃん?!」
「はっ……はうー! 黒梨花ちゃん、かぁいいよ――う!!」
 ふん、年寄りくさいのが似合っていて悪かったわね。
 おじさんのあなたにとやかく言われるのは沙都子だって、はなはだ心外でしょうね。
 羽入の手を放してやり、目をそちらに向ける。
 沙都子は風呂に入るわけでもないのに半裸でどったんばったん。未だ詩音と着替え中らしい。…………ホント、この世界の詩音は沙都子と仲の宜しいこと……。
「なんでかな?! なんでかな?! 梨花ちゃんに近づけないよー」
「……僕と同じモノを張らない限り、レナは僕たちに接触できないのです」
 レナの突進を受け止めるべく、前へと突き出された羽入の白い手。その手首ではためく袖口にはフリルが、それが桜色の生地の二の腕部分にも飾られている。帯は、詩音の橙色の物と同じ結びのすみれ色のリボンで、これも同色のドレスのスカートじみた腰巻きを締めていた。浴衣にスカートってどうよ? お魎のセンスってひと回りして、ファッションの最先端にでも来ちゃってるんじゃないかしら。
 羽入の浴衣共々、彼女たちの衣装はお魎が手掛けたとかで、それぞれがとにかく個性的。私と沙都子の浴衣もそうらしいのだけど、魅音とレナの感想とは違う印象を私はこの浴衣に感じていた。
 悪い意味などではないが、同じ人物がデザインした物とは思えないのだ。……ああ。印象といえば昨日の、この四人に向けられる多くの熱視線が印象的だった。
 見てくれは良い四人の少女が、メイド・イン・お魎の浴衣を着こなしているのだから、結果は然もありなんだろうけど。巻き込まれるこっちも楽じゃないわよね……。
 雛見沢の綿流し祭ではそんなことはないのだけど、他所から来ている人間の方が多い興宮祭りではただそこにいるだけで軟派な男たちから声を掛けられ、店先に並べば格好の宣伝となる彼女たち。
 どこかの雑誌社からの取材やらちょっとした写真撮影やらが舞い込んで……特に詩音とウチの浮かれポンチのおかげでいつの間にか歌まで歌ってたり……。でもまあ、そのおかげでギャラ代わりとしてに、出店の差し入れでお腹を膨らますことができたのだけど。
 今は夏休みだから明日からゆっくりできるとはいえ、今日は少し落ち着いて祭りを回りたいところだ。隙を見て沙都子なり羽入、じゃ逆効果か。…………赤坂が遊びに……なんてことは……娘の、美雪の夏休みで、あ、まだ小学校には上がって…………幼稚園に夏休みってあったっけ……。
「魅音といいレナといい~、ろりばばあな梨花も、赤坂のこととなるとグズグズで煮え切らない態度が観ていてキモカ――」
「神様のくせに、そんなスラングを使うな!
 それにああっ、赤しゃかと私はバリケ……でっ、デリケートな関係なのよっ!」
「ぷひ。梨花が噛っみ噛っみで可愛いのです」
「ぐっ……きい――っ!! 人からその笑い方されるとすっごくむかつくっ!」
『おーい、お前たちー。まだ着替え終わらないのかぁ~』
 私の大声に反応して、部屋の外で待っていた男連中がとうとう音を上げだした。

 部活メンバーは今回の興宮祭りを遊び倒そうと祭りの数日前から現地入りして、この詩音の隠れ家のマンションにやっかいになっていた。
 何人か葛西みたいのが住んでいるけど……だからか、空き部屋はたくさんある。なので一人一部屋が宛がわれていた。
 なるべくお小遣いは使わずに、その分を祭りではっちゃけ代に回し。でもせっかく興宮くんだりまで来たのだからセブンスマートで買い込んだり、プールにゲームセンターで爆闘もしたりして過ごしたりして、あの山狗たちとの決戦以来、羽目を外して遊んだ。
 訳あって沙都子とも間に張っていた“膜”を退けようとしたのも祭りを控えているからだろう。だから……それでしばらくは“持つ”と思ったのに……。
『早くしないと、ここで俺たちだけで『祭り』をおっぱじめちまうぜ~?』
「あー、はいはい。もう少し待っていてくださーい。ほら沙都子。さっさと脱ぐ脱ぐ!」
「……あの、詩音さん。本当に、浴衣の下はその……下着、を着てはいけませんの……?」
 ……なんですって?
「当然です! ほら、私だって……」
 当然なわけないでしょ!
「……っ?! わわ、わかりましたから見せなくてもよろしいですわよ!」
 詩音のその短すぎる裾を捲り上げる様を見せられて、沙都子が赤面して目を逸らす。
『おっ……岡村ーあ! 今の聞いたかっ?』
『うっ……うん! 梨花ちゃんもは……はいてないといいなっ!』
 ンなわけないでしょ! って言うか二人とも、えらい地獄耳ね。
「はうー! 羽入ちゃんのA〇T.フィールドかぁいいよ――う!!」
 A.T〇フィールド言うな、鉈女。
「あ、ううっ? くっ……亀裂、が……壁が破れそう……なのですっ!」
「……固有結界による中和、いや……侵食か。ちっ、化物め!」
 羽入の背中を支えながら、私もそれっぽくノってみた。
「あうあうあうあうーっ! 僕に向かって『化物』は、マル禁わーどなのですーっ!」
「付き合ってあげたのにボケ返された?!」
「あははははははははははははははは!!」
「受け過ぎって言うか、なんでオヤシロモード?!」
「はあああ…………ウ――ッ!!」
「あうーっ!」
「きゃあっ!」
 レナが咆哮と共に両手を左右に開くと、とうとう不可視の壁が引き裂かれた。その衝撃で羽入が押し退けられ、後ろにいた私もいっしょに吹き飛ばされた。
「れっ、レナ?! あんたも下着穿いてないの?!」
 レナ、おまえもか!
 詩音同様、超ミニな裾が捲れたことで魅音もレナの痴態を目撃。私の胸の内を代弁し、嘆息した。
「今こそ、はにゅりかちゃんをおっ持ち返りだよぉぉ――――おおおおっっっ!!」
 今どころか、現在・過去・未来永劫、あなたのそのお持ち返リズムは治まらないでしょうね。
 それと、私の上で伸びているのとを繋げて『はにゅりか』呼ばわりされるのって、なんか微妙に嫌。村でなんだか流行っているみたいで、それ聞くと羽入がヘンに喜ぶし。
 さとりか……りかさと…………。
 どっちでもいいけど、どうせならそっちの呼び名が流行ってくれたならいいのに……。
「……とうっ!!」
「あ゙ゔしゅ!!」
 ふと浮かんだ望みを頭を振って戒めて、私はベッドに向け羽入の胸をジャンプ台にして飛び移った。
「はうっ? はううっ?!」
 目算通り、レナの首が左右に振られ、その間隙を衝いてプランチャー! レナの顔面に捕り付き、スカルクラッシュもとい顔面ハグに成功!
「落ちなさいレナ。私の胸の中でね……」
「はうっ! うぅ……」
 耳に口を寄せ、熱っぽく囁いてからそこをひと舐め。耳朶を口に含み、歯を立ててレナを無力化させる。くすくす……相変わらずレナはココが弱いのね……。
 そして膝からレナが崩れる前に重心をベッドのある方へ傾け、レナと共にシーツの上に倒れ込む。
「くふっ……ぅ」
「ふあんッ?!」
 その弾みでレナの頭が私の腹にめり込み、私は堪らず口から強く息を吐き出した。それがちょうどレナの耳に吹き込まれたものだから、レナも堪らずに高い声を上げた。
 私はその声に、腹部の嫌な痛みに甘いもの……何時かの雛見沢でのレナとの情事を思い出した。それも束の間、部屋の外から怪しげな呟きが聞こえてきたせいで私は呆気なく、現実に引き戻された。

『鈴羅木か〇んさんのレナはどれもこれも、はいている様には見えないだろぉ……ハアハアハア、ソコが痺れる憧れるウッ!』
 私もそう思うけど! よりにも今、レナをズリネ……オカズにするんじゃないわよ!
『〇太さんの、白いブーツを履いた北条が可愛いすぎて僕っ……ウッ!』
 ……くすくす。富田の早漏。でも、私だってあのミニの浴衣の中に何度、頭を突っ込んでみたいと思ったことか!!
『りっ! 梨花ちゃんだけでも嬉しいのに、羽入ちゃんまでぼぼ、僕のことが好きだったなんて、どうすれバインダろぉ……ハアハアハア、ウッ!』
 ないないないないっ!! ナニそのトンデモ妄想?! 岡村、アンタ湧いてるっていうか絶対L5発症してるから!
「梨花といえば『髪コキ』だろぉ……はあはあはあ、あうっ!」
「…………ぎぃっ?! ヤ゙あ゙っ!! ここっ、こンのバカ!! アンタまでナニ盛ってんのよっ! ……ゔっ! か、髪が重い゙! って、レナもちょ……あン! どこに指、を……うンッ!」
「むがっ?! なんですのこの臭いは!」
「は~う~。ダメだよー梨花ちゃん。レナとこうしてぇ~…………みんなのお着替えを待ってなくちゃメっ☆ だよ」
 レナがタコの如く私の体に絡み付いてくる中、生着替え中の沙都子も鼻声で苦しんでいた。
「ちょ、詩音。私も脱ぐから……ああっ……パンツが伸びちゃうし生臭っ!」
「……溜まりに溜まった悟史くんの、みたいな…………あぁ、イイ匂い……」
「……賛成三、反対二ということで……らうんどぅつぅ、ふぁいと! イッぱーつッ!!」
「私も反対の方に入れなさいよっ!!」
 今までキャッキャッウフフとちちくり合っていた彼女たちもこの臭いに……約三名ほど逝きっぱなしだけど、他は我へと返って窓を開けていった。すると雛見沢ほどではないもののひぐらしの声が、熱気と気の早い祭りの音頭を伴って部屋へと流れてきた。
 羽入のせいで髪がべったべた……。早く髪を……お、重ひ。
 懲罰用のキャンディを口に放り込んで、未だに私の腰にしがみ付くレナをどうにかする方法を考えるふりをしつつ、私は仲間たちを見渡した。
 羽入の残香に対し、魅音と沙都子は扇風機と雑誌を懸命になって振り回していた。そんなふたりを手鏡越しに、詩音はブラシで髪を梳かしたり、くちびるを小指でなぞってぐぎゃ! と、グロスの乗りと詩音スマイルの確認をしていた。
 彼女たちは陽気に暢気に、年頃の少女らしい姿を見せていた。
 レナの弱点は割れている。だから私はあえて、レナの愛撫に身を任せていた。いたのだけど、思うところがあった。
 私だって年頃というか、まだまだこれからなのに……。なのに、この爛れた性癖ってどうよ? こんなだから羽入なんかに付け込まれるのよ! 沙都子を見習いなさい、古手梨花っ!
「……レナ。いい加減にしなさいよね……」
 私の体を好き勝手にいじくり回していたレナの手をむんずと掴み、自分のと重ね合わせて手ぐしとして、髪に付着した精液をこし取っていく。ぼとりとベッドのシーツに落ちた固まりと、私たちの手ぐしのモノをティッシュで拭ってゴミ箱へ。
 にが……。
 再度レナの耳を噛んで骨抜きにした後、つい指に付いたモノを舐めてしまう。それをぺっ、と吐き出して残りは……くすくす。ぐりぐりぐり……と、レナにお裾分け。
「…………っ!」
 …………沙都子?
 羽入の断末魔を耳にしながら髪を洗いに台所へ向かう途中、何とはなしにそちらを向くと……沙都子に目を逸らされた。
「沙都子! もうここは破棄しよう。レナは、自分で立てそうかい?」
「はう~。梨花ちゃんもいないし、それに何だか鼻の中がすっごく生臭いよう……」
「破棄って、私の部屋は汚染区域か何かですか?」
 開け放った窓をそのままに、魅音はレナに肩を貸して、みんなに部屋を出る様に指示を出していた。

「……向こうから見えないからって、挿れてくるんじゃないわよ」
 ご機嫌伺いか、あうあうと私に付いて来た羽入が涙交じりに、温水シャワーのノズルを適当な位置に当てた。
「あう……。さっきはその……つい圭一たちの萌えに、釣られてしまったのです」
「……そうなんだ。それはそうと…………私の足に当たっているコレは一体ナニかしら……?」
「……あう! 道理でおちんちんが気持ちイイと思ったら……! 梨花のお髪を洗っていたからじゃなかったのですね」
 本当の馬なら可愛らしい仕草なのだろう。
 その腫れ上がっている馬並みの横っ面で、浴衣の上から腿にぴたぴたすりすりと頬擦りをしていた。そのたびに黄ばんだ先走りが竿の先から腿とに糸が引いていて……つまり、いつもの様に羽入が私を欲していた。
 口の中のキャンディがすっぱい外面を舐め終えて、甘い核を現してきた。
「……そんなにブチ込みたいなら私が直接、味あわせてあげる……」
 床が水浸しになるのも構わず、私は洗面器から顔を上げて羽入と向き合う。遅れて、濡れた髪が彼女の首に巻き付き、まずは緑の抱擁を仕掛ける。
「ぁ……あうぅ…………梨花ぁ……」
「……まだナニもしていないのに、なに? その貌は……」
「……あ?! あっ、むぅ……ふにゃ…………んあう……」
 頭を抱きかかえ角を掴んで抱き寄せて、そのふやけ貌の半開きの口にキャンディを押し込んだ。
「んっ! ンうぅーッ?!」
 私はそれで終わりにしようとしたのだけど羽入はそうではなく…………あはは。自分から誘っておいて、何を言っているのか。
 嗚呼……沙都子。私を…………ううん。やっぱり見ないで……。
 くちびるを羽入に許し、閉じた目蓋の裏に先の沙都子が浮かび……涙が一筋、まなじりから流れた。
 後ろは流し台で下がり様が無く、土俵際の力士の如く海老反りになって羽入のされるがまま。口の中の唾液を吸い尽くされ、舌も羽入の口の中にそっくり飲み込まれていた。
 羽入の胸はすでに浴衣から零れていて、その巨塊をぐにゅぐにゅとこねくり回して私の胸を愛撫。
「うあっ! はあっ、んっあ! は……つぃ…………」
「ああ……あうう! 梨花のすべすべおっぱい……き……ぃ…………気持ちイイのです……」
 同時に己の性感も高め、口が離れた拍子に心境が言葉となり、羽入の動きに興が乗り出す。上体をくねらせて、こんなときばかりは器用に、私の浴衣を脱がしても見せた。
「あうあっも……っ! イッ……ウウッ!」
「――んっ? んんッ!!」
 再び鯉口じみた口に塞がれ、羽入の口撃が再開。吐息も熱く、だから鼻から抜けるそれも私の頬を嬲り、激しく炙ってくる。
 ……あっ? ああっ、ンっ! く……喰い込んでくる!
 ふとももが露出するほど裾を捲られ、ショーツの上から「羽入」が宛がわれ突き上げられ揺すられて……ショーツごと「私」の中に巻き込んできた。

 破瓜だけは止めて……。

 赤坂への想いを捨て切れずに……。だけど、それもいつまで持つ、かアッ! ああぁ……。
「あれー? はにゅりかの二人はどこいっちゃったんだい」
 は……羽入、お願い……。離れて……。
 魅音の声に、私は声無き身で羽入に訴えた。だけど羽入は構わずに力を込めて「私」の中に鉄火の「その身」を思い切りめり込ませると……「私たち」にそのときが訪れた。
 あっ、あっ! 羽入ううぅぅぅうううっ!!
 ……アうっ! う……ぅうううう――っ!!
 お互いに、私と羽入は相手の内に向けて愛を吼えた。
 あっ…………熱い……。
 「羽入」が吐き出した精液が弾け、私の内股に大量にぶち撒けられた。
「あうう……。梨花のせいでまたこんなに出ちゃったのです……」
「うぷっ? やっ、はあっ!! うっ? ぷっ……あぴゅうっ!」
 口が解放されるも今度は、てのひらに盛られた精液を喉に流し込まれた。いっそこのまま羽入に、この状況に溺れてしまおうかとも考えるも耳は違った。
「ふむうっ、うっ……んぐっ…………んっ、んぐっ……ん……」
 この台所に近づく足音を聞き逃さぬよう唾液を多く混ぜて、音を立てずに精液を飲み込むことに努めた。その甲斐あって、この台所に来る気配と、玄関へと向かうかしましい声の中に沙都子の声が無いことがわかった。
「んン……ん……あん……ンぐ……ん……」
「……やっぱり、おちんぽみるくを飲んでいる梨花の貌は格別なのです……」
 なら……沙都子は今、何処にいるの……?
 私は目を思い切り下に向け、足も使って羽入を退かし台所の入口を見た。
 そこの影には、空色の振袖から覗くレース。それと…………。
 私の視線を感じ取ったのか、すぐに翻ると音も無く気配が遠ざかっていった。
「……また見られたか」
 再び私に覆い被さってきて、羽入がしたり顔で呟いた。
「これで沙都子の方からも、自然と私たちに『壁』を張ってくれるだろうて」
「ぁ……っ。ぅっ……ぁ!」
 あらわな胸に羽入のくちびるが滑るも私は口を閉ざし、出掛かる声を押し殺す。
「健気、と言ってあげても良いが、我慢は体に毒だぞ。だからそれ、梨花の内の鬼がまた気色ばんでいるぞ」
「…………早く……退いて。羽入」
「案ずることは無い。あの子たちが来たら、私が如何様にもこの場を捌いてやろう」
「――くアッ! あっ、ああ……ぁ……ん、んんうぅ!!」
 ショーツがずらされ、後ろの穴にその巨根をねじ込められた為、健闘虚しく声が洩れ出てしまう。
「さ……沙都子が泣いていたの、よ……」
「沙都子ならすぐに乗り越える」
「圭一に盗られちゃう……!!」
「それも梨花の望みの一つだろう」
「それは貴女の望みでしょう!!」
「そうだ!!」
「あんんっ?! ふう……っ、ううっ……ンっ! んンンンーッ!!」
 羽入が私の口を塞ぎ、水掛け論にけりを付ける。そして上と下から、私の中に熱い体液を流し込んでくる。

 沙都子の誕生日にどちらからともなく思い立ち、そして私と羽入は実行に移した。でもひと月もしない内に物足りなさが募ってきて……。
「あ……あ。さ……沙都子、ぉぉ……。もっと出して……ナカに……沙都子…………」
「入江でもいいのです……。
 これで沙都子が男性に引かれていくのなら……。
 これから沙都子離れしようと決めた僕たちにとって、それが一番の選択肢なのです……」
 腰砕けになって崩れ落ちた私の口の中に硬いままのペニスを挿れ、羽入がまだ囁いてくる。
「そして、沙都子が“遠く”なった寂しさをふたりで……僕と梨花で慰めていくのですッ!!」
「う、ぶうっ? う、ぐぅ……うっ……ぶふっ!! べほっ! げふっ! ん……ん、ン……ぅ、ん……じゅ、んあ……。じゅ……ちゅう。ちゅちゅう…………」
「うあアっ! あうううぅー……」
 大して腰も振らず、挿れたばかりの一物が射精。呆れるほどの量を、私は多少は零すも管の中のモノも吸い取って茶番にけりを付ける。
 また沙都子に抱かれる幻を見るも、圧し付けられる胸の柔らかさと、何より男性器で貫かれるという女同士では在り得ない状況に目が醒めることができた。
「……早くあんたも、そのデカブツを引っ込めて、支度をしなさいよ…………」
 ぐるぐると下りだす腹の痛みと吐き気を堪えて、私は台所を後にするべく浴衣の前を整える。
(……僕は独りで、先に行っていようと思いますのです……)
「……いいの?」
 流石に疲れたのか、お返しに腰砕けにしてやった羽入はふらつきながら立ち上がった。わかってはいても、未だ情事の微熱に喘ぐ様はさなぎだに手を差し伸べたくさせる。
「さっきも言った様に、我慢は体に毒なのですよ、梨花。
 ですから梨花は今日も、沙都子分を補給してくるといいのです~」
 今の梨花には、沙都子が一番の薬なのです。
 そうも付け加えて、浴衣を着た牛女は自分の肉塊の先端を口に含んでちゅうちゅうと、自己搾乳をしながら私の横を通り過ぎていく……。
「……別に、沙都子とはいつだって会えるんだから…………別に? 私は純粋に祭りが目当てなんだから…………沙都子はその……ついでよ」
(ぷひ。出たのです出たのです梨花のツンデレ♪)
「べべっ! 別にツンデレってなんてないわよ! って言うか、そのでかぱいも仕舞いなさいよッ!!」

 沙都子のあの張りのある胸を吸う…………未成熟な喘ぎ声を聴きながら……。

(…………いきなり鼻血を噴いたりして……。一体梨花はナニを想像しているのですか……?)
「う……うるさいわね……っ」
 あんたのそのたぷたぷという耳障りな音に気分が悪くなったのよ、などという苦しい言い訳は、揚げ足を取られそうなので言わないでおく。それに気分が悪いのは本当で……ぅ……。も、吐きそう……。
(白と言われたら 黒だって言いっちゃう 素直になれない ツ・ン・デ・リカ♪)
 口を手で押さえ、無駄に上手い歌声の放蕩女の脇を文字通りすり抜け、脱兎の如くトイレに駆け込む。その直前に、玄関先の魅音に何か言われるも無視、まずは上の欲求を吐き出した。
 数時間前に摂ったお昼が精液と混ざって、何ともいえない臭いで便座の底に堆積し、それらが呼び水となってさらに嘔吐物の嵩を増していった。
「梨花ちゃん、大丈夫かい?」
 できたら……今は放っておいて欲しい。
 小さな声で控え気味に心配してくれる魅音の気持ちは頂いて、トイレの前から離れて欲しいと切実に願う。
「これだか、ら……羽入の相手は、ぁ…………つ……疲れるの、よ……」
 力無い愚痴を、人には聞かれたくない音と共に、水洗のコックを捻って水に流す。
「……梨花ちゃん、羽入ちゃんにフラれちゃって、かわいそうだよ……だよ」
 相手が女にも関わらず、魅音の説明を聞いて、レナはなぜそういう解釈をしてしまうのだろう。口に手を当てて走っていく女性がみんながみんな、振られ女などと…………ああ。レナなら考えそうだ。
「違うよレナ。梨花ちゃんでも、あの日が来たんだよ」
 ヲイみおん……。ナニその「梨花ちゃんでも」の「でも」ってのは。初潮の訪れと胸……体の成長具合は年齢等、個人差があるなんて常識でしょうっ! いくら胸が大きくてもねぇ、沙都子みたいにまだ来てもいなければすじで無垢な子なんて“ざら”! 普通なのよ!! だから私だってすぐに……!
「うわ~……。ふたりしてドア越しに、ちびっこのブリ音を聞くなんて、いいシュミしてますねー。いい機会なんで、あとで圭ちゃんにチクっといてあげます」
「ちっ、違う違う! ごごっ、誤解だよ詩音! これは……」
「はう……。梨花ちゃんのウ〇チの音、かぁいいよう…………はぅ……」
「レレレっ?! レナあーっ!!」
 ……ぁ、ああ……いや…………。
「なるほどなるほど。
 じゃあ、今夜からはそっちのプレイも取り入れますかねー。だったら手始めに玄関の扉の掃除をやらせて、臭いに慣れさせるか……」
「んんっ……! ウッ、うンっ! あはぁあ……あう、ンッ! あ……はぅぅ……」
 肛門、その内壁が数珠繋ぎのモノに擦られる刺激に高められ、呻き声が止められなくなってきた。
 ドアの前にいた三人がいなくなり、楽に……イきたい私はソレをアナルパールだと思い込むことにした。
 両足首を便座の根元に引っ掛けてガッチリとしがみ付き、残りを力を込め思い切りひり出した。
「んっ!! ンウーッ! ンンううーっっ!! 沙都子おおお…………ッッ」
 水気のある音が便座内で爆ぜ、籠った爆音が小さな室内に響き鼓膜が辱められた。尻の穴に走る痛みをも快楽に、私は沙都子の手でアナルパールを抜き取られる想像に、浴衣の裾を咥えた口で小さく絶叫した。




  続く




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年01月30日 00:54