前原君の様子が変だ…

 初めて彼を見たとき、私はクラスにうまく溶け込めるか心配だった。
しかし園崎さん達と瞬く間に仲良くなり、あっという間にクラスの中心になった。
元気な彼を見ていると飽きることがない。勉強もできるので私も自然と頼るようになった。

 だが綿流しの翌日、大石という刑事が前原君あてに訪ねてきてから彼は豹変する。
何かに怯えているようで誰にも話しかけないようになった。
バットを常に持ち歩くようになった。
言葉遣いも荒々しくなった。
クラスメイトを避けて1人でいるようになった。
 彼が何か大きな悩みがあることはすぐに分かった。そして悲しくなった。私に相談してこないから。私では相談する価値が無いの?教師としては頼りないの?
だけど自分から声をかけることができなかった。「先生には関係ない」そう言われるのが怖かったから。

 教師ならば職員室に呼び出して面談するべきなのだろう。だけどできなかった。自分の気持ちに気づいてしまったのだ。
きっかけは些細なこと。日直だった彼と用具室の整頓をした時、上まで積み重ねてあった箱が私に向かって崩れ落ちてきた。一瞬気が遠くなったが、気がつけば彼が私を抱きしめていた。彼もこの状態に気がついて真っ赤になって離れてしまった。すぐに事情は分かった。
彼は私をかばってくれたのだ。
「俺は男ですから」と照れ笑いを浮かべながら話す彼を見てから、私は意識してしまったのだと思う。 

 何ということだろう。私と前原君は教師と生徒の関係でしかない。でもそれ以上の感情を私は持ってしまった…
絶対に知られてはいけない彼への感情。彼を見ているだけで心の中がざわめく。
私は今まで通りに彼に声を掛けられない。何かの拍子に教師の仮面が剥がれてしまってはいけない。誰かに悟られてはいけないから。
このままではいけない。彼が奈落の坂を転がり落ちていくのを止めなくてはいけない。そう思って彼の自宅を訪問しようと決意した。




 彼の自宅に到着し、チャイムを鳴らす。しばらく待っても反応がなく、もう一度押そうとした時に突然ドアが開いた。
「……先生ですか。何のようです?」ドアチェーン越しに状態で前原君は顔をのぞかせた。目を合わそうとせず、ドアチェーンも外さない。……それは完全な拒絶。彼は今誰にも心を開いていない。
「前原君にお話があります。ちょっとお邪魔していいかしら?」
「……今忙しいんです。明日にしてもらえませんか?」
 やはり私さえも信用していない。……でもあきらめるものか!
「貴方に何が起こっているのか知りたいんです!…貴方に一体何が起こっているの?悩みがあるのは分かっていま
す。…だから教えて!貴方が苦しいのなら力になりたいんです…」
「……」それでも開けてくれない。あまりにも心が苦しくてとうとう涙が零れてしまった。
 いけない。こんな姿を見せてはいけないのだ。顔を彼からそらせて涙を隠す。
彼から後ろを向いて涙を拭いているうちにチェーンを外す音が聞こえた。


「どうぞ…入ってください」ぶっきらぼうな彼の声。でもそれは精一杯の好意。嬉しさをかみ殺して平静を保つ。
「お邪魔します」


 私を招き入れてからすぐにドアを閉めてチェーンを掛ける。尋常ではない警戒ぶりを見て、彼が何か危険なトラブルに巻き込まれていると厭でも分かった。
リビングに腰を落ち着けると彼がお茶を持ってきた。早く事情を聞きたいが、彼が口を開くのを待つ。
知恵先生は雛見沢の出身ですか?」
「違います。私は教師として分校に赴任しているだけで出身は別です」
 彼は少しだけ表情を緩めたが、すぐにまた厳しさを増した。
「先生には信じてもらえないかもしれません。こんなとんでもない話は……」
「いいえ、私は信じます。あなたは非常に危険な状態にあるんじゃないですか?
話して頂いたら一緒に対策を立てられます。……だから話して下さい」
 そう、彼は誰も信じられない状態にある。でも私だけは信用してくれたのだ。私は彼を信じなければならない。彼はじっと私の眼をのぞきこみ、少しずつ話しだした。

 聞かされた話は彼の言うとおり信じがたい話だった。「雛見沢連続怪死事件」が御三家の陰謀であること。そして竜宮さんが茨城で起こした事件。
警察が園崎さん達を事件の中心人物だと疑っていること。おはぎに針が入っていたこと。園崎さんや竜宮さんの豹変。

…確かに普通ならば信じがたい話だった。でも私は信じる。『前原君を信じる』ことが大前提なのだ。それに彼の話も辻褄はあっている。
ダム戦争当時から分校に赴任した私も園崎家の噂はよく知っている。お魎さんとも何回も会って人柄も知っているが実際に毎年死者と行方不明者が出ていることは確かなんだ。
「分かりました。まず前原君の安全を確保することが最優先ですね。ご両親はいらっしゃいますか?」
「いえ…出張に出ていて今週いっぱいは帰ってきません。…先生は俺を信じてくれるんですか?」
「初めに行ったはずです。貴方を信じると。大丈夫、貴方を危険にさらしません。これから対策を建てましょう」
私の言葉を聞いた瞬間、彼の顔から一筋涙が流れた。彼は辛かったのだ。親しい友人から狙われ、家に帰っても誰もいない。そしておそらく両親も信じてくれない話。その恐怖は計り知れない。

私は立ち上がって彼の手を引きよせ、優しく抱きしめた。
「大丈夫。貴方は一人ではありません。私が貴方を守ります。絶対に一人にはしない」
最初はびっくりした様子だったが、彼も強く私を抱きしめてきた。
「……ありがとうございます。でもカッコ悪いな…俺は男なのに」
何も言わずに私は抱きしめ続ける。しばらくすると私も彼も気恥ずかしさが増してきて、自然に体を離した。

「と、とりあえずお茶のお代わりを持ってきます!」彼は真っ赤な顔で台所へ向かった。
今しがたまで感じていた彼のぬくもり…もっと感じていたかったがそれは求めてはいけない物。それにまずは彼の安全を確保しなければならない。
 彼が戻ってくると対策を話し合った。彼の状態を知っていて尚保護しない警察は信用できない。大石刑事の噂は知っている。手段を選ばない男だ。
おそらく彼を囮にするつもりなのだろう。ご両親も連絡が取れなかった。どうも仕事で明日までホテルに戻らないようだ。

 このままでは彼は一人きりで夜を過ごさなければならない。私が一緒に泊まることを考えた。もう世間体はどうでもいい。彼を守ることができれば。
でもこの家自体があまりにも危険。居場所が知られている以上いつ襲われてもおかしくない。ホテルも駄目だ。この周辺では園崎家の力が強すぎる。……となると一つしかない。

「前原君、すぐに着替えを用意して下さい」
「え?」
「この家は危険です。今日は私の家に泊ってください」
「ええっ!…その…先生の評判とかに傷が付いたりとか…」
「私が良いといってるんですよ?貴方を守りたい。それが私の気持ちです」
彼は初めて笑顔を見せた。この数日間見せなかった表情を見て彼への愛しさが増した。

私のマンションについてから、すぐに料理の準備をした。今日はカレーをやめておこう……
夕食を食べながら他愛もない話をする。少しずつ彼も緊張が取れてきた。
「……知恵先生って恋人はいるんですか?」
「え?」突然の質問に戸惑いを隠せない。嬉しさもある。私を少しでも『教師』ではなく『女性』として見てくれたから。
「いませんよ。この辺りではなかなか出会いもありませんし」
当然恋愛の経験はある。ただ雛見沢へ赴任してからはそんなことを考えたことも無かった……貴方に会うまでは。
「す、すいませんとんでもないこと聞いちゃって…」
「いいのよ。前原君昨日までほとんど眠れなかったでしょう?今日はゆっくりお休みなさい」
この話題を避けて私は就寝を勧めた。
 私の自宅は1LDKなので彼はソファーで横になる。電気を消したものの睡魔が訪れるはずがなかった。
今日の出来事を思い返しているうちに突然彼が起き上がり、私の上にのしかかってきた。
「前原君!?」
「……怖かった。今でも…怖いんだ!」そう言って私の胸元にすがりつく。
彼の話を聞けば当然だ。簡単に恐怖はぬぐい去れない。しかもまだ何の解決もできていなのだから。
私は抗うことをせず、彼を抱きしめて彼の震えが収まるまで待った。
 そしてゆっくりと彼の顔を引き寄せ、唇を重ねた。驚きの表情を見せる彼に私は言った。
「良いのよ、いらっしゃい。私が貴方を癒します」貴方は本当は強い、ただ今はボロボロになっているだけ。
もう良い。今日だけは『教師』をやめよう。私は彼の唇をこじ開け、舌を絡めていった。

 彼にとって初めての女は私。そう考えるだけで体が熱くなる。一旦体を離し、下着も全てを脱いで

仰向けになった。
「先生…綺麗だ…」
「…有難う。貴方の好きにしていいのよ」
そう言って彼の手を私の乳房に触れさせた。おずおずと私の乳房をつかみゆっくりと揉み始める。
「んっ!」稚拙な触れ方だが、愛しい彼から愛撫されていると思うだけで感じ方が違う。
徐々に彼の触り方が大胆に、激しくなっていった。さらに舌を使って乳首を転がし始めた。
「ああっ…」思わず喘いでしまう。私の中の『女』は完全にタガが外れた状態になった。
彼の舌が秘裂に達した時に私の快感は頂点に達した。

「先生?」私が急にぐったりとしたので不安になったのだろう。声をかけてきたが、すぐには答えら
れなかった。
「……大丈夫。すごく気持ち良かっただけ。嬉しかったわ」
「イッたって事?」嬉しそうに聞いてくる。初々しくって可愛い。
「そうよ。私だけじゃ不公平ね」そう言いつつ体を返し、彼のトランクスに手をかけた。
「お、俺はいいよ!」咄嗟に手で押さえようとするが、私が下ろし始めると抵抗しなくなった。
想像していたよりも少し大きいペニスを口に含む。
「うっ!」尿道口を舌でつつき、カリまでを含みながら下にある袋を揉みあげる。
「こんな…気持ちいいよ先生…」
彼に余裕がないのが分かる。私の髪を触る力が強まっていく。
「も、もう駄目だ!射精ちまうっ!」口の奥まで収め、カリの先まで含んだペニスが急速に大きくなる。
「いいのよ、そのまま出して」そう言おうとしたが、口に含んでいるためほとんど話せない。
だが、口にくわえながらしゃべった動きが彼の限界を越えさせてしまったようだ。
「おおおっ!」私の頭をつかみのどの奥まで突き入れてきた。その瞬間精液がすごい勢いで私の喉を叩いた。
「ごめん先生…苦しかったろ?」しばらくお互いに恍惚に浸ってから彼が聞いてきた。
「ううん、苦しくなんてないわ。気持ち良かった?」
「ああ!もうなんて言ったいいか分かんねえ位に気持ち良かったぜ!」
彼の言葉に力が戻っている。元気な時の力強さがある。
「でも、まだ満足してないでしょ?」見るとさっきよりもさらに大きく見える。
「でも…これ以上いいんですか?」
「今日の私は教師じゃないの。だから前原君も気にしないで。私がしたくってするわけだから」
初めてだったら分からないだろう入口を自分から広げる。
 それを見た彼はさらに興奮したようだ。もう無言でペニスを押しあてた。
「待って…」不満そうに私をみる彼に「今だけは『留美子』って呼んでくれる?」
「ああ…留美子」その言葉を聞いて私は自分からペニスを誘導した。
「あああぁっ!」「うおぉぉお!」同時に声が出る。一匹の雄と雌と化した私達は嬌声をあげながらお互いを激しく求めあう。
「留美子ッ留美子ッ!」名前を呼ばれて突き入れるたびに軽く達してしまう。私にとっても初めての感覚。もう私には何の余裕もない。もっと彼に喜んでもらうための雌。

「射精してっ!私の膣中の奥に射精してっ!」もうそれしか考えられない。叫びながら彼の背中に足を絡める。
「射精るっ!射精るぞぉぉぉお!」子宮に届く彼の精液を感じた瞬間、私も生まれて初めての高みまで達した。


「留美子…」そう言って荒い息の彼を私は抱き寄せた。すぐに彼は眠りに落ちる。やはり疲れきっていたのだ。一夜だけの幸せ。でもせめて今夜だけは彼は私のもの。眠りにつかずに私は彼の寝顔を見つめ続けた。
気がつけば朝日が部屋に差し込んでいた。今日は休もう。彼をご両親に引き合わせてしばらく東京にいてもらう。その間に警察が何らかの結果を出すだろう。
「おはよう留美子」突然彼が声をかけてくる。
「おはようございます前原君。今からは『先生』ですよ」そう答えたが嬉しさは隠せない。
「ああ、でも昨日は嬉しかったぜ。信じてくれて、その…あんなことまで」
「いいんですよ。私がしたかった事をしただけですから」
とりあえずベッドから出て朝食を摂る。努めて明るく話しながら今日の予定を決めた。

 朝一にご両親と連絡が取れた。私から事情を説明し、名古屋まできてもらう。私たちもすぐに準備にかかった。

名古屋には私たちの方が早く到着した。ご両親が到着するのにああと40分。時間を潰そうと喫茶店に行こうとして彼から話しかけてきた。
「先生。俺は先生の事が「ダメですよ」
言葉をかぶせる。それは一時の夢だから。
「一時の感情でそんなことは言ってはいけません」彼の唇に人差し指を当てる。
「でも俺は本気なんだ!」思わずため息をつく。
「なら『今日は』ダメです」
「ならいつだったら良いんだよ!」
あれは一夜の夢。日にちが経つごとに淘汰されることを私は知っている。
「そうですねぇ……前原君。貴方が先生を養えるくらいになってからかな?」
「何年後の話だよ!」怒ってる怒ってる。すぐむきになる所も可愛い。
「でも本当ですよ!?オ・ト・ナなんですから私は」
「わかったよ!でも必ず『うん』って言わせるからな!それまで待っていてくれよ!」
「期待しないで待ってますよ☆」
もしかしたらもう会えないかもしれない。だから昨夜の思い出が色あせないように。
だからいつもより明るく、可愛らしく振る舞う。彼にとって良き思い出になりますように。
 そんな掛け合いをしている内にご両親の乗った新幹線が到着した。

1時間ほどご両親に説明し、予定を変更してそのまましばらく東京で3人で過ごしてもらう。
雛見沢で何か事件があればそのまま引っ越しを検討してもらうことになった。
「絶対続きを言ってやるからな!」そう言って彼は去っていった。笑顔で見送る。
 涙が零れそうなのを我慢して、「いよっし!」と気合を掛けた。
そう私は幸せだったのだから。彼の思い出になれたから。

 分校に顔を出すと大変なことになっていた。古手さんが殺害されていたのだ。生徒は皆午前中に下校していた。私も警察に事情聴取を受け、帰宅した時は深夜になっていた。
次の朝にはさらに恐ろしいことになった。雛見沢大災害。あまりの事に錯乱しそうになり、私も病院に運ばれた。

 そしてあれから4年。私は別の県に移り、相変わらず教鞭を取っていた。雛見沢と同じような寒村で。やはり私は教師という仕事が好きらしい。村人たちとも馴染みになっている。
いつものように生徒が全員いなくなるまで残って明日の準備をする。

「先生!」振り向いた私が見たものは記憶よりもずっとたくましくなったあの人。
「こっちの大学に合格したんだ! 俺も教師を目指している!さあ、今なら言えるぜ!」
涙が止まらなくなった。彼の思いの強さに打たれた。何も考えられなくなって彼の胸に飛び込んだ。

「返事はこれでいいかしら?」 
「ああ!もう絶対『先生』って言わねぇからな!」




おわり
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最終更新:2010年03月18日 22:02