「実はこの間病院の待合室で、こんなの拾っちゃってさあ」
放課後の教室。三人の少女が机を囲んで談笑中。
千紗登がカバンの中から取り出した薄い雑誌に、夏美と珠子は視線を落とした。
「千紗登、なに、これ」
「エロ本」
「そんなもん学校に持ってくるな!!!」
「見せたかったんだもん!見せびらかしたかったんだもの!」
ぎゃんぎゃんとわめく親友二人を尻目に、夏美はじっと雑誌を見下ろす。
挑発的にこちらを見る、半裸の金髪女性。
たっぷりと分厚い唇、質量のある大きな乳房、エロティックにひねったヒップライン―――
「うわあ…」
一人、感嘆のため息をつく。
まるで自分とは正反対。大人の女性の色香。
夏美の反応に気がつくと、千紗登はぽんぽんと彼女の細い肩をたたいた。
「夏美。気にしなくていいって。あんたはまだこれからなんだから」
「そうよ、暁ちゃんはそういうの気にしないわよ」
「……………わたし、なにも言ってない」
慰める二人をじと目で睨みつける。
彼女のあどけない顔で睨んでも、まるで迫力は皆無だが。
「でもね夏美。この程度で驚いてちゃあ駄目。この本の真価は中身にあるんだから」
「真価?」
千紗登は得意げに胸を張り、夏美の鼻先でべろんと本を開いて、突きつけた。
「………………ひっ…!!!」
「千紗登、あんたこれ、無修正っ…!」
「いや、レアだよねえ!見つけたときびっくりしたわ。それで処分に困ってさ。
学校のゴミ箱に捨てるか、暁にあげるか、迷ってるってわけだ」
「あ、暁くん、に…?!」
思わぬところで暁の名が出て、ぎょっと夏美は顔をあげる。
「ん?何か問題ある?夏美」
「…な、なんで暁くんに…?」
「使うんじゃないかなーと思って。つーか、使うでしょ。奴なら」
「………使う?」
「使うとか言うな!」
千紗登の言葉に首をひねる夏美と、突っ込みを入れる珠子。
「まあ、ちょっと暁には刺激が強すぎるかなーと思うけどね」
「洋物無修正のポルノ見て平気でいられる千紗登がおかしい!」
「そう?…まあ、平気ではないにしろ、ずいぶん熱心に見てる子はそこにもいるけど…」
「…夏美っ?!」
珠子が視線を移すと、顔を赤らめて雑誌を読みふける夏美の姿。
「おーいえす、かむ、かむ…ふぁっく?」
「音読するんじゃないっ」
「好奇心旺盛だねえ公由くん。どう?よかったら…貸そうか?…後学のために」
「え?」
「暁とするときに、役に立つでしょ?」
ぼっと夏美の顔が赤面する。
「そ、そんなこと…っ!」
「千紗登!あんたみたいな変質者と違って夏美はフツーの女の子なの!
寝る子を起こすようなことはしなくていいの!」
珠子の横で夏美がこくこくと頷く。
「大体あの暁ちゃんにこんなことできると思う?あの朴念仁に!」
「そうかなー。あいつも男だしなあ」
「あのね、千紗登。この写真客観的に見て、気持ち悪い。
純粋な夏美にこんなグロテスクなもの見せて、トラウマになったらどう責任とるつもりよ?」
「そんときはあたしが嫁にもらってあげるけど―――」
「うん、暁くんのは、こんなに黒くないよ」
「っ?!」
舌足らずな少女の言葉に、二人して勢いよく振り返る。
「え?え?今、なんて言った夏美?」
「え?…だから、暁くんのは、こんなに黒くないって…」
千紗登と珠子は夏美が見るページを覗き込む。
…黒人男性の腰の上に、白人女性がまたがっている…。
…白人女性の太ももの白さと、その足の間から覗く男の肉の根―――コントラストが映える。
「…マジ?」
「うそ、でしょ、夏美」
「…千紗登ちゃん、珠子ちゃん、見たことないの?幼馴染なのに?」
「……………」
「……………」
いや、まあ、確かに。
幼稚園に上がるまでは、一緒に風呂に入ったりもした。
保育園では全裸で走りまわったりもした。
でも、あくまで子どもの頃の話。ここ十年以上、暁の全裸なんて―――ましてや局部なんて。
「夏美、詳しく聞かせなさい」
「千紗登!」
「色は?大きさは?ぐ、具体的にどうなのよ」
「え、えええっ?!」
夏美の顔がぼっと赤く染まる。
「い、言わなきゃ、だめ?」
「言え。言いなさい。さっさと言う!」
夏美の肩をつかみ、身を乗り出す千紗登。その眼は真剣だった。
夏美は顔を赤らめ、視線を泳がし―――暁の「それ」を思い出したのか、さらに顔を赤らめる。
「わ、わたしが言ったって、暁くんには言わないでね…」
「言わない。だから早く吐け」
「…い、色は肌の色に近い…と思う」
「ほ、ほうほう。…お、大きさは?どうなのよ」
「っ……お、大きさ…?」
夏美はきょときょとと周りを見渡した。
手頃な大きさを示すものを探しているのだろう。
そして夏美はそっと指をさす。
「この男の人と同じくらいかなあ…」
また別のページの、黒人男性。勿論全裸。そして彼のもの大きさは―――。
冗談のようなそのサイズに、二人の少女は目を向いた。
「…な…なにいぃっ?!」
「ちょ、ま、ま、まじで?!うそっ!!!」
「ちょっと、夏美、それ大丈夫なの?!あんた、からだ、へ、平気なの?!」
「暁ちゃん、こんな小柄な子に、なんてことを……!!!」
夏美の細い腰と、写真の男性の性器とを見比べる。
こんなちいさな少女に、この凶器としか思えないものが…?
「え、でも、だって、平気とか、そんなの気にしないよ、わたし。
だって暁くんの、か、体、だもん…っ」
しどろもどろと顔を伏せる夏美。耳まで赤い。
「別に、って…あんた…」
「…完全に暁ちゃんに仕込まれてるわね…」
ごくり。千紗登と珠子は固唾をのむ。
まさかあの幼馴染が。
朴念仁でこういうことに全く不慣れとしか思えなかったあの少年が。
まさか、ここまでのことをやっていようとは。
「夏美」
廊下から呼びかけられた少年の声に、二人は身を固くする。
「暁くん、おかえりー」
夏美が嬉しそうに笑う。彼女の視線の先には―――例の、少年調教師の姿。
今日は一緒に帰る約束をしていたとかで、夏美は所用に行った暁を待っていたのだ。
暁のそばに駆け寄り、可愛らしく笑う夏美はどう見ても純真無垢な少女。
性欲や肉欲とは無縁としか思えないような―――だが、彼女は。
…黒人男性ほどもある暁のアレを、平気で受け入れてるんだ…
千紗登と珠子の背中に、冷たい汗が流れる。
「?ちさ、たま?…どうした?」
妙な視線を感じ、暁がようやく二人を見た。
が、幼馴染二人は何も答えない。微妙な笑顔を返してくるだけ。
「………?…夏美、連れていくぞ?」
「また明日ね、千紗登ちゃん、珠子ちゃん!」
ころころと笑い、暁と並んで教室から出ていく夏美。
その後ろ姿に、二人の体格差を改めて感じる。
比較的筋肉質で長身の暁と、小柄で細い夏美。
そして黒人男性ほどもある暁の―――
ちらりと、写真に目を向ける。
黒々とした、男性器。20…いや、25センチ?
「…………暁ちゃん、鬼ね」
「ああ…ありゃ鬼畜だわ………」
ひぐらしの哀切な鳴き声が、夕焼けに染まった教室に響く―――。


「ね、暁くん、千紗登ちゃんたちとプール行ったりしたことないの?」
「あ?…何で?」
「…えと、あの、さっき、二人と話しててね、あの、暁くんの…の話になったから…」
「…?聞こえない」
「だ、だから!あ、…暁くんの、むねの、あの、ちくび…」
「…………っ?!」
「へ、変なことじゃないの!あの、変な意味じゃなくて!ええと、その、
千紗登ちゃんが、すごく興味津津って感じで聞いてきて!
お、男の子の胸って、そんなに珍しいものなのかなあって思って…。
映画とかでも良く出るし、プールでもみんな、裸なのにね」
「……………………」
「あ、あの、暁くん?…怒った?」
「その話、忘れろ」
「?……うん」

翌朝。
顔を合わせるなり、千紗登の頭を拳で殴りつける暁の姿があった。

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最終更新:2009年01月06日 01:36