詩音×魅音

百合(レズ)、陵辱、鬱展開なのでご注意ください



泣かないで。
泣かないでよ、詩音。
鯛のお刺身、食べたんだよね?ねぇ、おいしかった?
あのとき、お刺身は食べ飽きたからいいって言ったけど………ごめん、嘘。
私も食べたことなかったんだ。
だから教えて。
もしおいしかったなら、入れ替わっててよかった。
あっ、あのね、遊園地は楽しかったよ。
お父さんもお母さんもすっごく優しくてさ、観覧車とかメリーゴーランドとかいっぱい乗せてもらえたよ。
それにアイスクリームを二つも買ってくれた。イチゴ味の。
ひとつ食べたんだけどさ、甘くておいしかったよ。
うん、もちろん、もうひとつは詩音の分。
……でもね。持って帰るつもりだったのに車の中で溶けちゃった。
次は一緒に行って、いっぱい遊んで、アイスクリーム食べようね。
詩音と一緒なら、もっと楽しくなると思うから──あれ?詩音?
今『詩音』なのは私なんだっけ。そしてあんたが『魅音』。
それじゃあ、髪型と服と刺青を交換すれば元通りだね。
髪型と、服と、刺青を。
刺青を……?
「…っく…ぅ…おねえ、ちゃ………ごめん…なさい…っ」
詩音の背中には、鬼がいた。
二本の角を頭に生やして、目を釣り上げていて、真っ赤な口が裂けそうなくらい開いている。
節分の日に見る鬼が偽ものだと思い知った。
だって、今、泣きたくなるほど怖い。
そして、もうひとつ怖いことがある。
だけど、もういい。もういいから。泣かないで。
声を嗄らして「ごめんなさい」と言い続ける姿が、痛々しかった。
もう見たくなかった。
胸が張り裂けそうだった。
私まで泣きたくなってくる。
それなのに、どうしても、あの言葉が口から出てこない。
早く言わなきゃ。早くしないと頭の中から消されてしまう。
でも、もうひとりの私が嫌がる。
それを言ったら最後、全てがひっくり返ったまま変えられなくなるからだ。
唇は縫われたみたいに動かなくなっていった。
だけど……。
だってだって私が……で、…やっぱり…………だから……………………ああ、もう、わからない。
さっきなんて言おうとしたかもわからないわからないわからないわからない。
せめて彼女を落ち着かせよう。姉としての私が、そう呟いた。
私は鉛のような足で近づく。
不意に鬼の冷たい目が私を見据えて、立ちすくんだ。
そいつは今にも腕を伸ばしてきそうだった。
その手で首を掴むと鋭い爪で皮膚を破り、きつく締め上げて傷口から絞り出す。
血を。一滴残らず。
……だから、怖い?
そんなわけあるもんか。怖くなんかない。こんなのただの絵だ。
うずくまって肩を震わせる彼女を抱きしめた。
「……おねぇ…ちゃ…っ……ぅ…」
掌で口を塞いで声を抑えている。もう片方の手は、私の服の裾を握り締めている。
双子で私たちの間に差はないはずなのに、腕の中の彼女は小さかった。
妹だから、というわけじゃない。この子が妹だという意識はあまりない。
気づいたときには「お姉ちゃん」と呼ばれていた。だから姉だった。妹だった。
けど私たち以外にとっては、魅音と詩音、次期頭首とそうでない方の区別。
それでも役割でしかなかった。髪型や服装が違う。それだけだった。
なのに私たちは隔てられる。
魅音は優遇された。
詩音は蔑ろにされた。
こんな不条理な世界で、二人に分かれたくなかった。
私たちは同じなのに。
私たちは平等でありたいのに。
ずっとそうだと思っていたかったのに。
時間が静かに私たちの心を蝕む。
ああ、だから、もういい。もう謝らなくていい。
詩音は痛くて怖い思いをひとりぼっちで耐えたんだ。そんな彼女を誰が責めるだろう。
悪いのは、むしろ、私。
詩音の背中を掠めようとした爪を手の甲で受けとめた。
それは強く強く爪先を立ててくる。
この子の背中を掻き毟りたいとあいつが言う。
私だって、詩音を苦しめるこれを取り去ってあげたいよ。
……………違う。違う、そうじゃない。
たしかに私に彫られるはずだったけど、そんなこと考えてない!絶対に思うもんか。
うるさいうるさい!消えろ!お前なんか、お前…なんか。
手の皮なんて剥がれてしまえばいい。
いっそ跡形もなく剥ぎ取ってしまいたい。
このどす黒いものも一緒に捨て去りたい。
……ごめんね、詩音。
消え入りそうな私の声に、詩音は弱々しく首を振った。
「ちがうっ……ちがうよ。お姉ちゃんは、悪くないよ」
ぎゅっと腕を掴まれる。
濡れた瞳が見上げてきた。
涙をこぼすまいと必死に見開いているけど、目尻から少しずつ私の膝に落ちていく。
熱い。
氷のような私を溶かしてしまいそうだった。
「わたしがいけないんだよ。わたしが…わがまま、言ったから………おね…ちゃ……は………」
ぷつぷつと途切れる。
視界がぐにゃりと歪む。
「……せいで…おん……に、なっ…」
関節という関節がキリキリと軋みだした。
低く耳鳴りがして鼓膜は締めつけられた。
体が警告している。
だめだ。聞いちゃだめだ。
「…鬼、が………る…から…」
やめて。
気づかせないで。
「…………な…さい」
聞きたくない。
聞きたくない。
聞きたくない。
「『魅音』を奪って、ごめんなさい」

………また、この夢。
ここ数日間で見慣れてきた天井が視界に映りこんできた。
すっかり黒ずんでいて、ところどころに雨漏りの染みがある。
雨漏りの染み──昔、真っ昼間から畳に寝転がって、何の形に見えるか言い合ってたっけ。
たまにしか意見が食い違うことはなかったけど、違ったときはお互いに譲らなかったな。
それで、あいつったら、いつも…………はぁ、馬鹿らし。
くだらない思考を振り切って上体を起こした。
汗ばんだ肌に髪やら服やらが張りついてきて気持ち悪い。
本当は億劫で動きたくなかったけど、喉の渇きに促されて起き上がる。
立ち眩みがして足もとがふらつく。壁伝いに歩いて流し台を目指した。
辿り着くと、コップを片手に蛇口を捻る。溢れそうになるまで注いで、口の中に流しこむ。
水は生ぬるく、ドロドロとしていて、飲む気がしない。
数口で唇を離した。
気持ち悪い。
刹那、眩暈がして身体中の感覚が消え失せた。重みもなくなった。
手を擦り抜けたコップが床にぶつかる。
小さな破片が散らばっている。
それは目の前で起きたことなのに実感がわかなかった。
ここのところ体調がすぐれない。
眠ると必ず、あの夢にうなさられるのがそもそもの原因。
それもこれも全部、あいつのせいだ。あいつがしつこく私に謝ってくるから。
いくら謝っても無駄だと何度言えばわかる。
私はお前を許さない………。

割れたコップはどうしたんだろう。
思い出そうにも朦朧としている頭は使いものにならなかった。唯一認識できるのは地下祭具殿にいること。
あと、右腕が重い。
そこへ目を向けると、肉厚のナイフが掌に吸いついていた。
握り締めた柄のたしかな固さが、細切れな意識を強固にする。
少しずつ私が消えていくのを実感した。
地面を削るように歩いて、ある岩牢の前で立ち止まった。
鉄格子の向こうにあいつは横たわっていた。
そこに入り、後ろ手に鍵を錠前の穴へと差しこむ。
人影は身じろいだ。
「……ぅ、…し…おん……?」
冷たい金属音とともに鍵がかかる。
咄嗟に周囲へ注意を向けた彼女は、本能的に危険を察知したんだろう。私が近寄ると声を荒げた。
「どういうことですか。園崎家頭首代行として命じます!今すぐ開けなさいっ!」
こいつの空威張りにはつくづく虫酸が走る。
どうせ凄んではったりをかますのが限界。
無力なお前が生んだ苦しみを身をもって思い知れ。
そして、その罪に似合うむごたらしい最期を迎えさせてやる。
「聞こえませんか、詩音。今すぐ鍵を開けなさい」
魅音は少しも怖じ気づかずに私を睨みつけていた。
そうする程度の薄っぺらい威厳はあるということか。
薄汚れた白装束の哀れな格好で偉ぶるのは一人前。
滑稽でおかしいのと同時に、私の中で怒りが沸き上がっていった。
それが彼女に対してなのか、次期頭首の魅音に対してなのか、自分でもわからない。
どちらにせよ、こいつが憎いことに変わりはない。
「気が向いたら出してあげますよ。でも、それで、お姉はどうするつもりなんですか?」
「…………何が言いたいの、詩音」
それがただの質問じゃないことに気づいたようだった。
かわいそうな魅音。
気づかないで願望でも答えてれば、しばらくの間は幸せでいられたのに。
「つまりね、ないんです」
「ない、って…」
「お姉の居場所がないんです」
魅音は黙って私に先を促す。
「別に物騒なことはしてませんよ。私は雛見沢で魅音として過ごしただけです」
そう。やましいことは何もしていない。
次期頭首の役目をこなし、学校では委員長、また部長となり、部活で遊び回って、それなりに充実した一日を過ごした。
ただ、それだけ。
でも、だからこそ、彼女の居場所がない。
「仲間っているんですかね」
彼女がどう返してくるか見当はつく。訊く必要はなかった。
私は淡々と続ける。
「言い方変えますね。魅音はあの子たちに仲間だって思われてる?」
電話口でも直接会ったときも、魅音は友人たちのことを楽しそうに話した。
沙都子と考えたトラップの内容とか、誰が罰ゲームを受けてレナにお持ち帰りされそうになったとか。
笑いながら。ときには泣きながら。
魅音は彼女たちのこととなると自分のこと以上に一喜一憂する。
そういう奴だから、彼女たちから仲間だと思われずに拒絶されることは耐え難いはず。
「思ってる。仲間だと思──」
「違いますね」
魅音の前にしゃがみこむと、彼女は息を詰めて私を見据えた。
彼女の心が揺らいでいるのが手に取るようにわかる。
「だって、気づかないんですよ。私が魅音も詩音も演じてるのに誰も気づかない。結局、あんたは、私に取って代わられちゃう程度の存在だった、ってことじゃないの」
急激に表情が曇り始めた。
真っすぐに私を見据えていた瞳が逸らされる。
拒むような行動をされようが関係ない。
私は彼女を岩壁に押しやって、耳元に触れる寸前まで顔を近づけた。
「第一、あんたがあの子たちと信頼関係を築くのに無理がある。魅音は次期頭首だからね。みんな本当は媚びを売ってるだけ。そうしないといじめどころか村八分にされるかもしれないから」
「………そんなこと……」
彼女の表情がくしゃりと歪む。
「あれぇ、もしかして泣くんですか?次期頭首ともあろう人が」
ときおりしゃくりあげる不安定な呼吸。さらには縮こまってうつむいている。
そんな彼女の様子にイラつくどころか、安堵する自分がいた。
この子はやっぱり『詩音』だ。
泣き虫で甘ったれで強がり。私のよく知る妹だった。
もし次期頭首にさえならなければ、ずっと彼女はこのままでいただろう。
これほど彼女を憎むこともなかった…………そんな仮想世界を考えても仕方がない。
今はっきりしているのは、魅音は憎むべき対象で私には彼女を懲らしめる手段がある、ということ。
それを機械的にこなしていけばいい。
ふと魅音が顔を上げ、力のこもった眼差しを向けてきた。
恐らく彼女にできる精一杯の反抗。
大したものではないが、そこに頭首の牙が見え隠れするから気に食わない。
忌々しく微動だにしない瞳と対峙しつつ彼女の顎を乱暴に持ち上げた。
唇を重ね合わせる。
「………ッ!」
肉を噛む音が聞こえるなり魅音を突き飛ばした。
鉄のようで塩辛い味が広がる。口元を拭うと指は赤く染まる。
噛み切られた。
魅音の肩を掴み、頭をかち割らんばかりに岩壁に叩きつける。
私の言わんとしていることを片割れは察しているだろう。
だから再び顔を寄せる。彼女は唇を引き結んでいた。
固唾を呑んで動く喉元へ右手にあるものをあてがう。
「別に構いませんよ。やるやらないは自由ですし」
切っ先を押し当てると、魅音はひゅっと息を呑んだ。
しばらく静寂のなかで視線を交えていた。
もうすぐで刃が皮膚に埋まろうとしたところで、彼女は舌を差し出した。
おずおずと顎に伝いかけた血をすくい、滲み出るのを舐めとっていく。
そう。それでいい。いい子だね、魅音。
これぐらいのことで私に刃向かって死んでもらっちゃ困る。
もっと屈辱的な罰を受けてから壊れてくれないと。
「ぇ……」
「聞こえませんでしたか頭首様。脱げ、って言ったんです」
嫌みったらしい口調にも彼女が反発することはなかった。
さっきまでの偉ぶった態度はもう微塵もない。
「なんなら私が脱がしてあげましょうか?力加減、間違うかもしれませんけど」
ナイフを魅音の肩辺りに滑らせると、袖には綺麗に切れこみが入った。
その途中、滑りが悪くなるのと同時に彼女が目をつぶり瞼を震わせた。
引き戻した刃先は濡れている。
それを胸元に持って行こうとしたとき、しゅるりとはだけた。
魅音の指は、ほどけた紐を摘んでいる。
もたもたと脱ぎ続ける彼女を観察していた。
散々見飽きた体。ただ眺めているだけだと自分を見ているような錯覚に陥る。
まだ彼女は袖から腕を抜いていなかったが、もう構わなかった。
胸を覆う真っ白な布をナイフで押しつけ、拭き取るようにした。
鮮やかな赤が広がっていく。
それから柔らかい部位の片方を、まんべんなく刃の背を使って撫でる。
段々と硬さを増すものが、手に取るようにわかった。
「……やめ…て」
「急に女々しくなりましたねぇ。さっきまでの威勢はどうしたんですか」
布越しに形を浮かび上がらせるそれを刃が掠めれば、魅音の懇願する語調は乱れた。
今度は手を滑りこませ、突起を埋めこむように指圧する。
ぐにぐにと押し潰す度に、彼女は身震いして下唇を噛み締めていた。
「…ぅあっ!……くぅ」
徐々に強さとスピードをこめて爪で引っ掻く。
痛みしか生み出さない。だが、そこは刺激に反応して尖っていくようだった。
ちぎれんばかりに摘んで、指で捏ねくり回す。
体を捩って何度か逃げようとしたが、手元のナイフを向ければ怯えておとなしくなった。
うっすらと涙を浮かべながら私の行為を受け入れる。
「そんなにいや?」
いかにも優しげに尋ねてやると、魅音は縋るような顔つきで頷いた。
「じゃあ、自分でやりなよ」
そのときの魅音の顔ったら…!
あまりの間抜けづらに吹き出してしまいそうだった。
私に憐れんでもらえるとでも思ったんだろう、かわいそうに。
一言も継げなくなった愚かな彼女に再度吐き捨てる。
「なにぼさっとしてんの魅音。あんたの意見を尊重してあげたっていうのにさ」
無理やり下着をたくし上げた。
肩から鎖骨にかけて血の線が一筋。
青白い肌に刃を添える。
さて、次はどこに引いてやろうか。
「や、やるからっ……やる…から」
そう言ったものの数秒ほど躊躇い、息を深く吸うと、触れた。
指の間からこぼれそうな乳房を緩やかに揉みしだく。
その動きに合わせて呻くばかりで、始めは作業でしかなかったようだが、次第に魅音の息は熱くなっていく。
さきほど弄ばなかった方もすっかり勃ち上がっていた。
「…はぁ……んんっ」
ときたま私の顔色を窺いながら、魅音は胸に添えた手を動かしている。
手つきは拙いものだったが、彼女にとってはそれで十分らしい。
私がしたときは嫌がったくせに薄情なものだ。
従順になりつつある彼女の下着に手を潜りこませて触れれば、粘着質な音がした。
茂みを探っていると偶然陰核を擦ったために、魅音は息を漏らす。
しかし彼女を悦ばせる気は毛頭ない。
濡れたとは到底いえない秘部に指を押しこむ。
「あぁっ!っく!」
ひくつく膣壁は狭まり、未だ望まない侵入物を追い出そうとした。
そのうえ魅音が足を閉じて邪魔をしたが、どうってことはない。
肉襞を押しのけて奧へと進む。
すぐに根元まで入りきった。
「いや、やだっ!いれないで……抜い…てっ…」
「泣きごと言ってる暇があるなら努力してみたらどうです」
冷ややかに胸への愛撫をやめている魅音の手を見やった。
視線の先を辿った彼女は瞳を揺らし、首を横に振るだけ。
まあ、本人がしたくないなら構わないさ。せいぜい耐えていればいい。
「やめて……っぅ……やめ、て、よ」
指を折り曲げて収縮する中を強引に広げた。
そのまま奧から入り口まで行ったり来たりを繰り返す。
涙声で喘ぐ魅音は、肩からずり落ちた白無垢を握り締めていた。
痛みを与えれば与えるほどその手は解かれて、ついには胸の方へ運ばれていった。
「くくっ、そうそう。気持ち良くなりたいんなら、そうやってればいいんですよ」
痛みを打ち消そうと、魅音は胸を緩急をつけて揉んでいる。ときおり指の腹で乳首を擦る。
私が秘部を弄るのに連動して、激しくなったり小刻みになったりするのは面白い見世物だった。
「…っ…ふ……ぅ…」
ただ力任せに抜き差ししていたが、潤滑油が溢れ出してきて容易にできるようになってきた。
内部も拡張していてかなりの余裕がある。
柔らかくなったそこに二本目を挿入した。
「わかる?あんたのここ、二本も咥えこんでる」
「…あぁっ……ん」
「くっくっく、まだ余裕あるみたいだし三本目入れてみようか?」
ピストン運動の合間に肉壁を指の腹で引っ掻く。その度に甘い声が岩牢に響いた。
いつのまにか魅音は手を止めて、私の愛撫を受けるのに集中している。
あれだけかたくなに閉じていた足も緩んで、充血して溶けそうな秘部をさらけ出している。
されるがままの人形だった。
「それとも太いのがいい?あんたが欲しい方をあげるよ」
擦り上げることはせずに、指先をゆっくりと動かしてほぐしていく。
もう拒絶反応はなく、むしろ私の指を飲みこんで離そうとしなかった。
滴った愛液が、地面にぽつぽつと染みこんでいる。
「……ふ…とい…の」
「ん?ごめん聞こえなかった。もっと大きな声で言ってごらん」
「……太いのが…ほしい…っ」
羞恥からか興奮からか、顔はもちろん耳まで赤らめて魅音は乞う。
私の指をこれ以上にないくらい締めつける。
「いいよ、魅音。あんたの望み通りのものを入れてあげる」
手際よくナイフを鞘に納め、黒々とした柄に舌を這わせた。
その瞬間、魅音が後ずさろうとしたが、腕を掴んで引き止める。
あはは、何を期待してたんだか。少し考えればわかることなのにさ。
「やだっ!やめ」
指を引き抜くやいなやナイフの柄を突き立てた。
「いやあああああああぁぁっ!!!っうぅ…!」
濡れすぼまった穴にひたすら捻じこんでいく。
中はさほどきつくないのだが、入り口が小さくてすんなりとはいかなかった。
赤く濁った愛液が溢れ出る。
「…………ほら、全部入った」
魅音の髪を掴んで顎を引かせ、彼女自身のあられもない姿を見せる。
目を逸らそうとしたが、下を向かせて見せつける。
私の掌に余るほど肉太の柄が、汁だらけのそこに深々と刺さっていた。
まるで一体となっているようだった。魅音がしゃくりあげるのに合わせて、ナイフは揺れる。
「ううっ!ひぅっ!!」
押しては引いて出し入れを繰り返す。
泣き喚いていた声はか細くなって、乱れた呼吸音だけが聞こえるようになった。
そうしてこのまま壊れてしまいそうだった。
まだ全然終わってないっていうのに。
「気持ちいい?ぶっといのでグチャグチャに掻き回されて気持ちいいんでしょ。ねぇ、そうでしょ。何か言いなよ。ほら、早く!いつまで泣いてんの!?黙るなあああああっ!!!」
「っ…ぅ…ぁ、きもち…い……」
魅音が言葉の通り快楽に溺れているかなんてどうでもいい。
彼女の心や体に傷を負わせることができるなら何でもよかった。
休みなく突き上げる。
不意に魅音の体が強張り、中は激しく波打つ。ナイフが動かしにくくなった。
それでも構わず続けていると収まり、彼女は崩れ落ちるように岩壁へ凭れた。
手を止める。
「イった?私の許しも得ずに。勝手に」
「……なさい。ごめんなさい……ごめん…なさい」
馬鹿の一つ覚えみたいにそれを唱える魅音を、見下ろしていた。
彼女の肢体が改めて視界に入る。そして背中からはみ出した刺青が目に飛びこんだ。
今までにない嫌悪感。
なにより謝り続ける彼女が不快だった。
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。
声を出す気力がなくなるまで痛めつけてやる。
「そんなにイきたいなら好きなだけイかせてあげるよ!喜びな、魅音!!」
一度達した魅音は、摩擦に敏感に反応を示す。放っておいた陰核も刺激してやった。
するとビクついて足を閉じかけたが、体を割りこませて邪魔をする。
露になった肉芽を執拗に擦り、摘み、押し潰す。
そのあいだに数回果てたようだった。何度か秘所が痙攣するのを感じた。
「んあっ!…はっ、やだぁっ、……んく…!」
反響する叫びに似た喘ぎと、水音が騒々しかった。

どのくらいの時間そうしていたんだろう。
ナイフを握る私の手は隅々まで濡れてべちゃべちゃだった。
魅音に至っては、虚ろな目で、焦点がどこにも合っていない。
地面に横たわる彼女の四肢は投げ出され、すべてを諦めきっている。
私の額に汗がにじんできたとき、目の前のあいつはぐったりとして動かなくなった。
髪を掴んでいる手で引き寄せる。
胸は頼りないながらも上下していた。息はあるようだ。
柄を引き抜くと、塞き止めていたらしい液体が流れる。
それを一瞥して、おもむろに立ち上がった。
「……おねえ…ちゃん…」
単なる気まぐれで私は足を止めた。
すると、また懐かしい呼び名。
見れば声の主は起き上がろうとする最中にいた。
しかし力が入らないのかまだ倒れているも同然だった。
「…呼んでも無駄。私は鬼だよ」
そうだ。鬼になる。
もうすぐで私は完全に鬼になる。
こいつが姉として慕ってた人間はいなくなる。
私だった奴は鬼に身も心も……妹も差し出した。
全てを手放し、鬼となって生きることを望んだ。復讐するためだけに。
だから、いくら姉の私に頼っても意味がない。鬼がその弱みにつけこむだけ。
「…鬼……」
「そうだよ、詩音」
懐かしい呼び名で返してやると、そいつは私にしがみついてきた。
ついさっき辱められた相手に泣きつく姿に、鬼はほくそ笑む。
それとなく頭を撫でてやると、魅音の体の強張りは解けていくようだった。
学習能力がないなぁ。まともな頭があれば、こんなこと絶対にしない。
混乱してる?もう壊れた?
たしかにこいつは打たれ弱い奴だった。私が一番よく知ってる。
でも、いくらなんでも早すぎる。
腕の中の魅音を見遣る。
昔から彼女の考えてることはすぐにわかってたじゃないか。
もし私が彼女と同じ状況に置かれたらどうするか想像すれば……………ああ、そうか。
ふと魅音は物言いたげに顔を上げたが、目が合うとすぐに口をつぐんだ。
「なに?言ってごらんよ、詩音」
「……私が、もう少し…がんばればいいんだよね」
あれ、ハズレた?
私の服を掴んで言葉を続ける。
「そうしたら、いつかお姉ちゃんは………元通りに…なるん…だよね……」
……………くっ、あははははははは!!!
なにそれ。
つまり何されても耐える。それでいつかお姉ちゃんが戻るまで待つ、ってわけか!?………馬鹿じゃないの。
まさかそんなこと考えてるなんて、馬鹿馬鹿しさに笑えるのを通り越して呆れてきた。
「あんたがそう思うんならやってみたら」
応える魅音の声は聞き取れなかったけれど、本気でやるつもりなんだろうと思った。
こいつの言う「私」が戻る日まで体か心が持つかどうかは別として。
おかしいな。たまに魅音の考えが読めなくなる。
でも、これだけは絶対に当たっている自信はあった。
どれだけ私から酷い仕打ちを受けても縋ろうとする理由──それは、もうこいつには私しかいないから。
……ちょっと、違うな。正確にはずっと前からそうだった。
「でもさ、もし戻ったところで何も変わらない。結局は鬼も『魅音』もあんたを憎んでる。理不尽なんかじゃないよ。あんただって私が憎いんでしょ?」
忌み子で疎まれてた『詩音』は、片割れである『魅音』を愛していたのと同時に恨んでいた。
双子は平等。お姉ちゃんだけずるい。私にいつもそう愚痴ってたじゃないか。
「……私は、…お姉ちゃんを憎んでなんか…ないよ」
嘘だ。
『詩音』でいるのが嫌だった。
『魅音』の役割が欲しかった。
それを持ってる私が羨ましかった。
お姉ちゃん、なんて呼んで表面上慕ってはいたけれど、心の中では私がいなくなればいいと思ってたくせに。
親族会議の日、会合の場から締め出されるときの表情がそれを物語ってた。
一番嫌いだった日。
私が裏山で待っているあんたを迎えに行くと、腫れぼったい目と涙痕の残った顔に屈託のない笑みを浮かべる。
そのときあんたが何を考えてるのかわからなくて、あんたに憎まれているのかと思うと…………………怖かった。
だって、私にもあんたしかいなかったから。

さぁ、どうぞ。
……鬼、あんたに私の身体をあげる。


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最終更新:2009年01月03日 16:01