私も圭一くんもずぶ濡れだった。


私は自分の力で幸せを掴むこともできないただの小娘だった。

私には戦う意思の抜け切った、汚れた身体だけが残った。


私は結局勝てなかったけど、

それでも運命に抗った私を、


あなたは讃えてくれますか?






ONE STEP×STEP ONE







「う゛ぁ~…今日もあぢぃな……」
「異常気象らしいねぇ。まだ六月だってのに、こう毎日暑いと、おじさん溶けちゃうよ~」
「はう!?溶け魅ぃちゃん?溶け魅ぃちゃん?…………かぁいいかぁいい!おっ持ち帰りぃ!!」
「ほあぁ―――!くっつくなぁ!暑いって!」
「レナぁ、袋を用意する前に溶けたら持って帰れないぜ~?」
「はうっ?それは一大事だね、だね!学校まで我慢我慢……!」

あははははは…………

 いつもと変わらない登校風景。に見えるだろう、周りの人は。でも思い返してみれば、もうこのころの私は擦り切れる直前だったんだなぁと実感する。なぜかって、このころには自覚していたから。
自分がこうやって無理にでも元気に振る舞っていないと、現実に潰されそうなことを。


美人局

 家庭の状況は最悪だった。父に真実を話しても信じてもらえず、むしろ私が悪者扱い。通帳はまとまった多額の金が引き出された事実を私に示し、「私ハ知ラナイヨ?」と語りかけた。このままでは私の家は食い尽くされてしまうんだろう。

 どうにか、どうにかしなければ…………
 どうにか、ドウニカシナケレバ…………

「……ナさん?レナさん!?聞こえてますの~?」
「は?はう!沙都子ちゃん……ごめん、何かな、かな?」

 ついボーっとしてしまった。沙都子ちゃんはずっと呼んでいたらしく、ちょっとあきれ顔で腕を組むと、

「んもう、レナさん今日は部活がなくてよかったですわね!部活でそんなご様子じゃ、ビリ確定でしてよ~!」
「え、部活今日は無いの?魅ぃちゃんバイト?」
「先程そうだとおっしゃっていたではありませんの。それで、私と梨花も今日はお買い物にしますのよ!」

 ぷう、とふくれてランドセルを背負う。見れば、梨花ちゃんは既にランドセル付きでみーみーと鳴いている。

「お醤油が切れたのですよ、にぱー☆」
「お待たせしましたわ。梨花、帰りますわよ!ではレナさん、圭一さん、ごきげんようですわー!」
「また明日なのですよ。」
「おう、じゃあな~!」
「二人とも気をつけてね。ばいば~い」

 二人が背を向け、教室を出ていく。
――――その瞬間、梨花ちゃんがふい、と振り返った。
………………え?
 その顔は無表情。でも、少しだけにやり、と不気味に笑ったように、言葉では言い表せない何かが……

「ちぇー!ついてねえよなぁ!レナ、俺達も帰るか~?」
「……ッ!け、圭一くん、今の、見てた?」
「ん?何が?」

 気持ちいい位にきょとんとした顔。私の気のせいか……
 二人は――――梨花ちゃんはとっくに教室の外だった。

「あ、あははは。なんでもないかな、かな」
「そっか。んじゃ俺達も帰ろうぜ!」
「うん、そうだね、だね!」

 いつも部活が終わってから、魅ぃちゃんを入れて三人で帰宅するから、圭一くんと二人で帰るのは久しぶりだった。他愛ない会話で盛り上がり、笑いあう。
少しでも家の事は忘れていたかったから、自分を騙すように羽目を外す。
礼奈をここに入れてはいけない。ここはレナの世界……圭一くん達を巻き込んじゃいけない。

「……んでさぁ、レナ」
「ん?何かな、かな?」
「最近悩みでもあるのか?」

    パリン。

「…………どうしてかな……」
「いや、最近なんか無理してないか?俺の思い過ごしだったら悪いんだけどさ、もしなんか辛いことがあるならさ――」
「ないよ」

 ぴしゃりと言い放つと、圭一くんはびくりと震えた。まるで不可解なものを初めて見るような、そんな目で私を見つめた。……そんなに恐い言い方だっただろうか。
でも圭一くんに今ここで話したら、今まで守ってきた日常はどうなるの。

  仮に話したところでどうなる?
  マサカ、圭一クンガ解決デキルワケナイデショウ?
  じゃあ教えない教えない教えない教えない

「で、でもさ、今日なんか最近で一番ボーってしてて、たまに真剣に考えてるような顔してるぜ?悩みは相談したほうがいいんじゃないか?なんなら魅音でもいいだろ?魅音だって口では言わないけど心配してるんだぞ?」

  ……欝陶しい。

「……………………おせっかい。」
「……え?お、おいレ――」
「圭一くんは日々が平和そうでいいよね。羨ましいよ。レナが不幸になってる姿でも妄想して、それを助けるヒーローのつも…………ッ!」

 しまった!私は何を口走っているんだ!圭一くんは私を気遣って話していただけなのに……!なんて感情を抱いてしまったんだ!
 圭一くんを見上げる。きっと怒ってるんだろうと思った。でも違った。本気で心配する表情だった。

  そんな目でレナを見ないで……

「レナ……お前ホントに――」
「ごめんなさいッ!なんでもないの。なんでもないから!そんなつもりで言ったんじゃないの!ごめんなさい、ごめんなさいッ!」

 私は圭一くんをそれ以上直視できず、まっしぐらに家に走った。後ろから圭一くんが何か叫んでいたが、それすら耳を塞いでただ走った。

  ごめんね、圭一くん!ごめん!ごめんなさい……

家の玄関の扉を勢いよくバタン!と閉めたとたん、ぺたりとその場に倒れ込む。

「……はぁ、はあ……ふ……ぅうあぁ……うえぇぇ……っく、うっく……」

ぽたりぽたりと床を濡らす涙。幸い家は無人だった。

 後悔ばかりが責め立てる。明日学校に行ったら圭一くんはどんな反応をするんだろうか。
  怒ってる?不審がる?
違う違う!きっと、一番素直に心配顔で一日中私を見るんだ!いくら圭一くんが私を気遣っても、それは私にとって、一番痛い表情。
   ……家に居たくない。隠れ家に行こう……
のろのろと私服に着替えると、家を出た。真っ赤な目を誰にも見られたくなくて、自然と足は加速した。



 ここは誰もいない私の城。だから、こんな事は想定外だった。
 後ろからリナさんに声をかけられた。彼女は笑顔で話し掛けてくる。
憎い。この女さえ現れなければ、お父さんが誑かされることもなく、圭一くんにあんな事を言うこともなかった。
 やがて父との話になる。昔の母の姿がフラッシュバックする。その言葉は止める術もなく出た。

「再婚なんて許さないです。」

あとは一気に感情を爆発させた。お前のせいで!お前のせいで私は……!

「……ふぅん、全部知ってるんだ~。……ここって誰にも何もキコエナイんだったっけ?」

突然のこと。私はがッと首を絞められ、押し倒される。

「……ぁッ……く……ガ……は……」

のしかかられて、動けない……!脳がぴりぴりと痛む……!

「……ねぇ礼奈ちゃ~ん?どうしたの、その目?泣いてたの?」
「…………ぐ……かッ……」

………意識が薄れる……殺される。助けて、誰か助けて!

「きゃはは!辛いことでもあったぁ?あたしが慰めてあげよっかぁ?」

そう言って急に手を離すリナ。私は急に動けず、酸素を求める魚のように口をぱくぱくさせて咳きこんだ。

「ゲホ!ゴホッ!…………は、はぁ、はあ…………あッ!?」

リナがマニキュアでぎらぎらとした爪の長い指を、スカートをめくったそこへ、思い切り押し付けた。そのままぐりぐりと下着の上から食い込ませる。
その間にもう片手はスカートから更に上にのばし、左胸をブラの下にくぐらせて爪を立てながら鷲掴みにした。
 今まで感じたことのない、異質な感覚。痛み。女に大事な所を触られた。恥じらいが頭を支配して、抵抗できない。

「あ……あぁッ…………や……め……」
「きゃは、顔が真っ赤よ?恥ずかしい?初めて?まぁ、そりゃこんなド田舎の学生がヤるわけないか~!良かったわね、礼奈ちゃん。
他の子より早く大人の階段を昇ってく感覚、わかる!?きゃははは!…………悶えてないで、なんとか言いなさいよッ!」

リナがショーツの下に右手を入れ、私の股間を探ると、ぷっくりとしたまだ成長途中のそれを指先で弄った。

「あああッ!痛ッ!」
「やっぱ、クリはまだ痛かった?あ、礼奈ちゃんクリってわかる?言ってみてよ、きゃはははははは!ねえ!?」
「ぃあッ……わ……わかりませ……はうッ!?」
「分かってんでしょ!?あたしが今グリグリしてるトコよッ!」
「あっ……あああぁぁあぁあ!やめてやめてやめてやめて!痛いのッ……あっ……いッ……!」

そこへがたり、と音を立て、もう一人誰かが来た。
…………ッ!?
「おい、律子、ガキの方にいつまでかかっとんじゃ……い……」
「あぁ、鉄っちゃん。コイツさ、あたし達のこと知ってたみたいだからさ、大人の事情ってのを教えてあげてるのよ、きゃはは!」

    北条鉄平!!

 そいつは私の姿を見るなり、鼻息を荒くして、リナの話なんか聞いていなかった。
もっとも、私を虐めるのに夢中なリナも、鉄平など眼中にないが。鉄平の股間には汚らわしい膨らみが……。
まだ服を着ている状態でこれだ。私は間違いなく身ぐるみ剥がれて犯される。

    嫌だ。こわい。汚らわしい。
    だって初めてなんだよ?
    もしかしたら子供が出来るかもしれない?
    そんなことよりも、壊されてしまう。

一層激しく抵抗したが、リナに刺激されると痛みで動けず、結局は大人しくするしかなくなった。

「……ええのか?ワシがこんガキ……ええのんか?」
「そうねぇ……もうちょっと楽しみたいけど、あたし、この子のお母さんになるもんね~!きゃはは!一瞬だけだけど~……きゃ!何すんのよ!」

鉄平は聞いていない。リナをどん、と押し退けると、そのまま重い図体で私にのしかかった。
腹に感じる熱い股間の熱……

「ぐうッ!……っは……いやあああああッ!助けて!誰かッ!」

鉄平は私のスカートを掴むと、まるで早朝から窓にかかったカーテンをシャッ、と開くように、一気に服を破いた。そして、眩しい朝日に目を細めるように、私の肢体をねぶり回す。
ブラは外れかかり、全身じっとりと汗で濡れているのに、ガタガタと震え、鳥肌が立っていた。
 私はついに男にまで下着を見られ、全身が熱くなる。恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
 鉄平は少女の裸体という、滅多に見れないものを目の当たりにして、ズボンの股間の生地をぴんと張らせ、手は不審に宙を泳ぐ。
 逃げるならもう今しかないと思い、渾身の力で鉄平を振り払うと、四つん這いになってから立ち上がろうとし、

「……あっ!きゃあ!」

リナに押さえられ、今度は鉄平に背中からのしかかられた。
リナが平手で私の頬をひっぱたく。

「あうッ!」
「なに逃げようとしてんだよ、コラァ!?」

その間、背後から荒い息と一緒にカチャカチャとベルトを外す音が聞こえる。
ゴソゴソと音がして、次の瞬間、ショーツは膝まで下げられた。
はぁはぁと、臭う息が私の股間を嬲る。鉄平は私の恥部を視姦していた。

「鉄っちゃん、こんなトコで出すわけ?」
「黙って見とれィ!」
「はいはい、わかったわよ。あ~あ、礼奈ちゃん可哀相ね。初めてなのに。鉄ちゃん、無駄に太いからね?」

死刑判決

太い?太いって何ガ!?
リナが言い終わるか終わらない内に、鉄平は自分の足でパンッと私の足を強引に広げ、後ろからいきり立ったそれを、準備の出来ていないそこへ突き刺した。
途中で引っ掛かる感触があったが、男の煮えたぎった欲望はそんなささやかな障害に構わず、一気に最奥まで貫き切った。
 痛みと、何よりも汚らわしさに耐え切れず、絶叫する。
がくがくと膝を震わせ、底から突き上げるような痛みの感覚に、反射的に手を付き、思い切り背を反らせると、鉄平はがら空きになった胸を揉み解く。

    ああ……もう逃げられないんだ……

叫びながら、全身を諦めが支配する。

「あああぁぁぁ………はうッ……や……そ、そんな……奥まで……ッ」
「入ると思ってなかった?きゃはは、よかったわね、また一つ分かることが増えたじゃない☆」

鉄平が満足そうにいやらしく腰を振ると、ぐちゅ、ぐちゅ、と水音が漏れた。

「はッ……はっ……!がはは!こんガキ、一人前に濡れてきたみたいやぞ!ガキやけ、締まりは律子よりええのお!そらぁ!」

鉄平はくんッと反り、角度を更に深くする。まるで私を気遣う様子もなく、独りよがりに自分の快感に任せて動く。

「あ…………んッ……はぁッ……はぁッ……あ……いぃ……ッああ!あっあッあッ!」

パン!パン!パァン!

 鉄平はもう保たないらしい。激しく腰をぶつける。その度に粘つく音が響き渡り、肉の感触が私を汚した。
快感などあるはずもなく、為すがままに放心で痛みに耐えるしかなかった。

「……ぅがぅうッ!出す!中じゃ!中で出すぞぉ!」
「なッ!?ちょ、やめ、やめてぇ!あッ!いやッ!いやああッ!」

 思い切り後ろ手で鉄平を押すと、不意だったらしく後ろによろけ、ぬぷちゅッ、と音を立てながら解放され、そのまま黄色味がかった濁りは、弧を描きながら私の背中にブチ撒けられた。
鉄平はその場で崩れ落ち、びくびくと汚い体を震わせ、痙攣していた。

「きゃはは、礼奈ちゃん、よく中出し止めたわねぇ?あたしもしたくなっちゃったけど、礼奈ちゃんもう無理そうだし。……鉄っちゃん、起きて☆ 帰るわよ。」
「はぁ……はぁ……うう、律子、すまんの……」

でかい図体で果てしなく情けない男だった。

 私は、はだけた前を隠して呆然とするしかなく、リナに助けられて鉄平が立ち上がり、去っていくのを見つめていた。
 最後にリナは振り返り、

「じゃ、礼奈ちゃん、これからあたし、礼奈ちゃんのお母さんになってくるわね。ちょっとの間だけど、仲良くしてね☆」

  それはリナの勝利宣言。
  私はこれから幸せな日常からどん底にまで突き落とされるのだ。




 二人が見えなくなって、私は立ち上がる。いつまでもこうしていても仕方ない。すっかり暗くなり、肌寒くなってきた。もう家とお父さんは駄目だろう。
着替えを取りに行って、それからどうすればいいんだろう…………

冷静に考えていると、不意にぼろり、と涙が零れた。あれ?あれ?止められない……

「ふ……ぅぅうッ!うぁう……ぁぁああああぁあぁああん!うわああああん!」

なんでこんなに悔しいんだろう。込み上げてくるこの感情は何?

圭一くんの心配顔が浮かぶ。

あぁ、レナをそんな目で見ナイデ……

汚されて、犯されて、壊された。こんな負け犬な私は日常に戻る資格なんてない。

  捨てよう。自分から。レナの世界はもう終わり。

礼奈はみしみしと私を剥がして、中から喰い尽くすように…………
そっか、この涙はレナが流してる。全部流したらもうレナは消えちゃうのかな。
ああ、さよなら、幸せなレナ。私は礼奈に戻るんだね……

        涙はしばらく止まりそうになかった。




後編

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最終更新:2007年11月05日 23:13