手首をひとつに纏める紐。自室のベッドの上、詩音はそれを寝ぼけ眼で観察していた。
ことの発端は魅音が泊りにきたことにある。そのときは、まさかこういう事態になろうとは予感だにしなかった。
魅音は人前では邪険にしてくるけれど、ふたりきりになると不器用なりに甘えてくる。
今日のお泊まりもそれだと踏んでいたからだ。
もちろん予想はあたっていて、ことあるごとにべったりとしてきた。
そんなこんなで夕方、部活疲れからうとうとする魅音をベッドに置いていこうとすると、
ひとりにされるのは嫌だといじらしく言い出すものだから詩音は彼女の隣に横になった。
すると数分もしないうちに睡魔に襲われ、がさごそと物音がして起きると、このありさま。
「くっくっく……油断したね、詩音。敵を前にして寝るのはいくらなんでも無防備すぎるよ」
「私より先に寝てた人に言われたくないです」
沈黙。
「あれは、寝たふりで。ん……」
「わかりました。お姉は狸寝入りして油断させておいて、私が寝たのを見計らうと手を縛ったんですね」
「そうそう」
詩音の言葉に魅音は腕を胸の前で組みながら頷いて、一瞬曇っていた顔は明るさを取り戻した。
そんな彼女に気づかれないよう、詩音はため息をつく。
「で……なんのつもりですか?」
黄昏時の部屋は仄暗い。
風にはためくカーテンの隙間から射しこむ光の線を、詩音は何の目的もなく見つめていた。
橙色が、まどろみを誘う。
しかしベッドの軋みによって意識は引き戻された。
「私が詩音を攻める」
「へぇ…めずらしい。がんばってくださいね、お姉」
さらに軋む。
すでに壁ぎわにいた詩音がうしろに下がることはなかった。
たとえそうでなくても、彼女に逃げるという選択肢はなかった。はじめから選ぶつもりさえなかった。
太陽は沈みかけているといえども、真夏の暑さから無造作に開かれた襟を分けて、伸びる喉が鳴った。
握り固めていたこぶしは解かれた。指数本が詩音の頬を這い、覆っていく。
まるで触れていないかのような軽い接触。詩音は自分から顔を寄せる。
掌は心なしか湿っていた。それの持ち主を、双眸が涼しげに見据える。
軋む。遠のく音だった。
「まずは呼び方からだよねぇ……『お姉』じゃなくて『魅音姉さま』って呼びな、詩音」
「長いから嫌です。呼ぶのがめんどくさい」
さらりと流され、魅音は声を出さずに吃った。
「まあ、どうしても呼んでほしいって言うんなら呼びますよ」
「そうじゃなくてさ」
「それはそうと……どうして、命令してるくせに弱気なんですか?しかも恥ずかしがってるし。
これじゃあ、お姉は、自分で自分を言葉責めしてるのと変わらないと思いますけど」
「え……や…あの……」
「ほら、また。仕方ないですね。私が攻め方ってやつを教えてあげます」
詩音は傍へ来るよう言った。状況が呑みこめないまま魅音は距離を詰める。
次の瞬間、縄のような腕をかけられて、とっさの出来事に反射的に声を出しかけた魅音だったが、すかさず唇を塞がれた。
抵抗しようものなら、隙をつかれてしまう。これより深いものが待っている。
なかなか行動を起こせないでいた彼女に、ぐいと引き寄せる力は対応できるはずもなく、膝の上にへたりこんだ。
バランスを崩して体が傾くと、そのまま柔らかい場所に落ちた。
唇は冷たい。
「さっき、こうするつもりだったんでしょ?」
毎日のように見るあの狡猾な調子で言い放ち、楽しそうに笑う詩音を前にして魅音はうなだれた。
「なんで、こう…………なるかな。もう」
「もう、やめる?」
割りこまれて行き場をなくした言葉はため息になる。
視線が交差するまで体を起こすと、間近に詩音の顔があった。
ほんの少し真剣に見える。でも今にもほころんでしまいそうだった。
きっと、からからと笑うに違いない。口許は緩みかけている。なにより言葉が、挑発的だった。
本日二度目のため息をこぼし、魅音はシーツの端を掴むやいなや身を乗り出す体勢で、唇を重ね合わせた。
腕で囲った、ただでさえ狭い空間でさらに密着する。そのうえ噛みつくように押された詩音は壁にもたれた。
下唇を何度か力をこめずにはんだあと、魅音は顔を傾けて口付けを深くする。
そのとき、ぎゅっと握り締める手を視界の端にとらえ、詩音は唇を開いた。
そして、先に侵入したのも詩音だった。
ようやく決心がついて伸びようとしてきた舌を絡み取る。
ゆっくりと、押しつけては引き押しつけて引いて柔らかさを堪能する。
生温かいものが口内を満たすが、いつになっても異物として感じることはなかった。まるで最初からあったかのよう。
不意に、また一緒になれる気がして、何度も何度も絡め合った。
それが激しくなって、頭の中で響くようになると、思考は溶けかけていた。
「ふぁ……、すとっ…ぷ。ちょっと、きゅーけい」
唇を離した魅音は、かすれ声にしてはずいぶん水気を帯びさせていた。
その表情を詩音が窺うことはできない。魅音がうつむいているからだ。
見えるものといえば、ほんのり紅い彼女の首ぐらい。
そこに口を寄せると、小さく震え、詩音が吐息する度に肩を竦める。
「だから休憩って………ッ」
耳の縁を熱のこもった塊が挟み、今まで外気にさらされていたそこを温める。
口に含んだ。ざらざらとした舌先が耳の付け根をねぶり始める。
徐々に触れてくる面積は広がっていく。ねっとりと、ぬめり気をすりこまれて、水音が大きくなる。
自らの熱を見いだした耳は真っ赤に色を変えつつあった。
「…濡れちゃいましたね」
「こんなこと、するから……」
「ああ、そうですよね」
そう小さく笑うと、音を立てて一度だけキスするのを最後に耳から離れた。
ふと跨いでいた太ももが浮いてスカートを持ち上げるのと同時に、魅音は足を弾くように閉じた。
「ち、ちがっ……そっちじゃなくて、耳のことだって!」
「嘘ついてもいいことないですよ」
「だから違うっ」
「はいはい。キスはうまくなっても、こういうとこは本当にダメダメなんですから」
嫌味ではない。本当に心の底から思っていた。
ただ、前者に関しては、上達したというよりも、マシになったと言うべきかもしれない。
不意打ちすると唇を噛まれる。たまに珍しく彼女の方からしてきたと思えば歯をぶつけられる。
そういうことが少なくなったにすぎないのだ。
最近、自分からしてくるようになったのも大きな進歩。
けれども、からかわれてむっとするところはまったく変わらない。
そうやってすぐ大事なことを忘れてしまう。油断する。
無防備な場所は強く圧迫された。
「やめ…っ………」
逃げようにも、詩音の腕が腰を捕らえていてどうしようもない。
彼女の手首を縛る紐をきつく結んだことに魅音はひどく後悔した。
さきほどからスカートの裾はめくれていたために、少し足を動かすだけでよかった。
遮るものは一枚の布しかない。
鈍い刺激に苛まれる。
「っん……やめ、て…よ」
「もうちょっと強いほうがいいですか」
「そんなこと…言ってな……あぅっ…」
詩音に抱き寄せられてからだがスライドしてしまい、腰を浮かそうとしたが彼女が見逃すはずもなかった。
幼い子どものように扱われて、いくら抵抗しても意味がない。
強引な責めを余さず受けていると、いつしか声は甘ったるくなってこぼれた。
それからは、とてつもなく強い力で腰が動されているのだと魅音は思っていた。
しかし、詩音の腕に動きがないことに気づいた。
途切れない刺激を求めて、腰が前後を行ったり来たりを繰り返す。
その一連の動作を見守る視線に耐えられず、また一心不乱に快楽を貪る姿から目を背けたくて、詩音の首に抱きついた。
赤く染まった耳に唇が触れる。
「嫌がってたくせに。結局自分から腰振ってるじゃないですか。ねえ、魅音」
「ぅ…あぁ…ごめ…っん、なさい…」
「言いたいのはそれだけ?」
「……………もっと…気持ち…よく、なりた…い………」
詩音は何も言わない。
「っあ………指で…ぐちゃぐちゃ、に…し、て……気持ちよくなりたいです…」
魅音はおずおずと腕を解き、真っ向から彼女を見つめて乞う。
返事がなくても彼女はまた懇願するつもりでいる。
プライドを捨てきったその様子に、詩音は満足したようだった。
「いいですよ、お姉の気持ちいいようにしても。あ、もしかして私がいると邪魔だったりします?」
「い…いて、詩音。……詩音、に……見てて…ほしい…っ」
「そこまで言うなら、見物させてもらいます」
嘗め回すような視線を向けられ、魅音は自分が何を口走っていたか今ごろ思い知って身震いした。
それでも、まったく歯止めにはならなかった。
おもむろに下着をずらして指を這わせれば、くちゅと音がする。
左右に押し広げて小さくも張り詰めたものを指圧する。
その直接的な刺激に思考は飛びかけたが、すでに肉欲を優先しているからだは無意識に行為を続ける。
つぶすように擦る度に秘部は熱を持つため摩擦を緩めるけれど、冷めるどころか焦らすことになってしまい余計に昂ぶる。
魅音はその衝動に負け、秘肉を滑りながら滲み出す蜜を指に絡め、挿しこんだ。
「んぅ………は、ぁ…っ」
きつく締まる内部をゆっくりと進む。
待ちわびた挿入で押しこんだのか引きこまれたのか、付け根まで埋まるのにそう時間はかからなかった。
有り余った潤滑油が指の間を伝う。
はじめは抜き差ししてほぐす動きが、柔肉の重なりを掻き分けるものに変わった。
だんだんと膣壁は柔らかくなる。
だいぶ深くまで指が届く頃には、波のように快感が打ち寄せてきていた。
「あぁっ…ふ…ぁ………」
円を描いて掻き回すのに合わせてくちゅくちゅと音が鳴る。
受け入れられてかなりの水分を含んだ指が、ほぐれて広くなった中で、肉壁を擦り上げることは稀だった。
次に侵入するものを求めて、愛液が詩音の太ももにまで漏れ出した。
「一本じゃ物足りないんじゃないですか」
「…ぅ、ん……」
濡れすぼまったそこは二本目をいとも簡単に飲みこんだ。指一本分だけといえども質量が増え、自慰は穏やかになる。
耳を澄ませばわずかに乱れた息遣いが聞こえるだけ。
それが面白くない詩音はほんの少し膝を立てる。か細い嬌声が上がった。
「あっ、詩音、うごか…ないで……奥にっ……あた…って……ふあぁっ」
「気持ちいいんでしょ?嫌がる必要なんてないじゃないですか」
「…だ…って………これ以上…激しく、したら…ッ」
「──お姉ちゃんに見せて、あんたがイクとこ」
そう言うと逆らえなくなることを、詩音は知っていた。
魅音は瞳を揺らしたが、頷き、せり上がってくる熱に蝕まれていくからだに追い打ちをかけた。
粘着質な音が部屋中を満たす。
恍惚とした表情で手淫に耽る魅音へ、詩音は熱のこもった眼差しを向けていた。
腕のなかで背中が弓なりにしなった。
聞こえるか聞こえないかの細く甲高い声を上げて、ぎゅっと股を閉じ、小さく震えた。
それがおさまると魅音は静かに詩音にもたれかかり顔を胸に埋めた。
弱々しい呼吸で肩をせわしなく上下させている。
火照りもほとんど引き、麻痺していた触覚が元に戻り始めると肌を濡らすものに気づく。
透明でぬめっているそれは、詩音の太ももにまで惜しげなく染み渡っていた。
「お姉のせいでこうなってるんですよ。わかってます?」
魅音は腕をすり抜けて名残惜しそうにしていたが、しばらくして硬いベッドへ降りた。
その瞳は陶然として詩音を映す。
睫毛を伏せ、膝元で屈む魅音を眼下に詩音は吐息した。
ぴちゃぴちゃと水をすくうように聞こえる。
血の気の通った唇から覗く赤々した舌先が、剥き出しの肌を撫でていた。
小刻みに。軽く。ときどき吸いつく。
膝を持ち上げる手に合わせ、両足は起こされ左右に分かれた。
唇が押しついたまま裏側へ移動する。
弾力性があるため感覚の鈍くなる表面と違い、そこは薄い皮膚を隔てて唇の温もりを感じることができた。
熱気を帯びる舌がひとたび触れてしまうと火傷するような錯覚さえ覚える。
肌に残されたいくつかの赤い痕のせいで、詩音はそう思わずにはいられなかった。
すでに太ももを濡らすのは愛液ではなくなっていた。それでも、毛づくろいに近いこの行為は執拗に続く。
「…お姉」
痺れをきらして詩音は片割れを呼んだ。
面を上げつつ魅音は彼女の手首を絞める紐の結び目を摘もうとした矢先、一歩手前で指数本を握られた。
捲れ上がったスカートの下へと導かれようとしている。
それに戸惑った魅音だったが、詩音のすがるような目を見るなり振り払える力に手を預けた。
いざなわれる最中、再度焦がれた声に呼ばれて魅音は頷いた。
そこは冷たい太ももとは一転していた。ただ触っているだけで掌がじんわり温まる。
指で布をずらせばぬらぬらした姿を現した。
その茂みの奥へ舌が這う。
「……ん…っ…」
他のからだの部位とは比べものにならないほど柔らかい。
その中でも一番柔らかかったのは、濃い桃色のついになっているひだ。
ぴったりと合わさっていたそれは、詩音の息が弾むにつれてふっくらとしていった。
不意に埋もれていた肉芽を舌先がかすめる。
すると詩音は脚を閉じかけたが、あいだにある頭に邪魔をされてできなかった。
ひときわ突出している芽すれすれに動く舌先。
それがたとえ触れていなくても詩音は喘ぐ。
愛撫されていないときでも、彼女のからだはひとりでに昂ぶっていった。
「こんな感じで…いいの?」
「……それぐらい………じぶんで、考えてくださ…い…」
必要以上にぶっきらぼうに言った。語調には熱っぽさがたまにちらつく。
それに気づけない魅音は閉口したが、しばらくすると重みをつけてまた顔をうずめる。
はずみに魅音の目に入った顔はせつなげだった。
たった数分見ないうちに、秘所は乾くどころか潤っていた。
艶の出てきたひだの中で肉芽は固さを増して主張している。
魅音はもったいぶらなかった。小指の先より少し小さいくらいの表面を舌で削るようにする。
なめらかなそこにざらざらしたものが擦れる。
そのまま絡み取られてしまえばどんなに楽だったか。
隠すことのできない箇所を何度も舐め上げられるのに耐えるしかなかった。
「…やっ……んんぅ」
甘い声を漏らしかけ、詩音は口を腕に押しつけて塞いだ。
声は運良く水音に埋もれたが、詩音にとって、静かな部屋にこの状況でいることはためらわれた。
「おねぇっ……はやく、…あれ…して……」
「……う、うん」
詩音に急かされて下着を脱ぐ暇はなかった。すぐに互いの足を松葉のように交差させて絡める。
仰向けに寝た詩音の足のあいだに魅音は割り入り、秘部同士を重ね合わせた。
スプリングが鳴る。
下着に阻まれて直接的な摩擦は望めなくても、それで十分だった。
さきほどの愛撫で敏感になっており、詩音は魅音の動きひとつひとつに反応を見せた。
「…っ…く、……んぅ…」
かたくなに詩音は声を出すことを拒んでいた。
しかし、次第に、引き結ばれた口は開いていった。
無理に抑えているためにからだの奥でこもる甘い声に、詩音はかすかに頬を染めた。目から鋭さは消えていた。
その表情を魅音に見られまいと横向きになる。
そして、耳を犯しにくる音を染みこませたいとばかりにシーツにすがりつく。なるべくこぼさないようにと縮こまる。
魅音は力の入らなくなってきたからだを支えるために手をつき、覆いかぶさるようにした。
それで見上げてくる詩音と目が合い、息を呑んだ。
「…詩音」
「なん…ですか」
「あのさ、…ん……」
「…疲れた、とかですか?……いいですよ。交代してあげても」
もじもじする魅音を前にして詩音は笑みを浮かべるが、やや引きつっていた。
「──詩音、かわいいなって」
顔を赤らめて言った。
そんな彼女から詩音はすぐに視線を逸らした。
手近の枕に顔を押しつける。ひとことも漏らさず、薄暗いなか、手前の影に焦点を縫う。
突然、腰が引き寄せられた。
「え?…待…っ……あぁっ…」
仰向けの体勢にされ、真っ向から秘部が重なる。
今までより深く擦り合わせることになった。
湿りに湿った下着の向こうの、ふにふにとした互いの感触がわかる。
何度かそこを擦り合わせていると、たまに固い部分同士が当たる。
その瞬間、からだはカッと熱くなる。
あと少しで達するというところで、魅音はぴたりと静止した。
欲しいものが与えられず、秘所は疼く。
それでも詩音に悪態をつく余裕はかけらもなく、潤んだ瞳で魅音を見上げた。
「一緒に、イこう……詩音…」
詩音のからだを熱が下がるまで動かなかった。
熱はすぐには冷めない。満たされないままでいるのは、とてつもなくもどかしい。
やっと冷めても少し責め立てられただけで熱はこみ上げ、果てようとしたのを魅音に感づかれて放置される。
それが、何度も何度も、繰り返された。
「……あっ、も……むり…っ」
幾度にもわたる行為に詩音は耐えきれなかった。
感情を露にした涙声で、いやいやと首を振る。
そのとき、魅音に抱きすくめられ耳元で囁かれた。詩音は目を固くつぶって力なく頷いた。
ベッドの悲鳴を微塵も思わせない騒がしい粘着音が、室内に響き渡った。
誰のものかわからない吐息、艶めかしい声。
欲望のままに腰を振った。
「あん、ふぁっ、…あぁ……ッ」
「…ん、はっ……しおんっ、しおん………ああっ」
今にも溶けて入り交じってしまいそうになるほどからだを重ね、共に絶頂を迎えた。


「──というわけでしたけど、上手に攻められましたか?」
「へ?」
しゅるりしゅるり。紐をほどいたところで、魅音は間の抜けた声を出した。
詩音は薄く縛り跡の残った手首を見て眉を顰め、向き直る。
「お姉が攻めやすいようにしおらしくなったり、リードしてあげたりしたじゃないですか」
「え?ええっ、なに…それ」
「私がお姉相手にあんなに女々しくなるとでも?全部演技ですよ、演技」
多少苦々しく詩音は言い放った。
自由の効いた手は、今までの反動で、リボンやら襟を緩める。
汗ばんだ肌に張りつく髪を掻き上げて、風の吹きこむ窓に視線を移した。
途中目にした魅音の様子に、怪訝さを包み隠さず押し出して振り返る。
「どうして赤くなってるんです?」
「……なんか、さっきのこと、思い出して…」
あまり恥ずかしさを匂わせない表情。
気に食わないと言わんばかりの眼差しを詩音は灯した。
ふと魅音が詩音に向いて、さらに顔を上気させる。
それを目の当たりにして詩音は黙りこくった。
数分経つと、ベッドから降りてすたすたと早足でこの場を去ろうとしたが、立ち止まる。
「シャワー浴びに行きたいんで、離してください」
「一緒に……入っていい?」
「やけに積極的ですね。風呂場で襲おうとか考えてません?」
「なっ……そういうわけじゃないってば!ただ、たまには…………ってだけで」
魅音の方からあきらめるのを待って歩いていた。
しかし未だに服の裾を掴んでうしろからついてくる。
その姿を認めるなり詩音は大袈裟にため息をついた。
「いいですよ、別に」
「…ありがと」
屈託のない笑みを向けられて、詩音は咳払いした。

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最終更新:2008年06月08日 07:15