前回 Miwotsukushi4



双子って言うのは同じでぃーえぬえーを持つらしい。
単に一つの受精卵が分裂してどちらも成長した結果なのだから、体そのものの構造は同じに決まっている、との寸法だ。
だから魅音と詩音は同じ土台を持っていると考えて良いんだと思う。
後は生まれてからの環境とかで成長の度合いが違うにしても、瓜二つなのには変わりがない。
俺は言わずもがな詩音とは一夜を過ごしているので、彼女の体をある程度体験している。
頬であったり、唇であったり、肩であったり、詩音を今は魅音をも堪能している。
魅音の滑らかな頬を撫でる。魅音の柔らかい唇をなぞる。魅音の微震する肩を抱く。
どれもが違う。妹のものとは全く違う躰。
同じ遺伝子を持とうが、彼女らには違いが生まれているのだ。
列挙できるわけではないが指から伝わる感触が確かに、俺の脳内で記憶との差異を教えている。
罪悪感を持っていないわけじゃない。犬になろう、と決意したとしても俺は今の行動に百の確信を込めていない。
ただ魅音への好意と己の欲情と勝手な信念で彼女を抱いているだけ。
彼女の名前を呟く。
文字通り目と鼻の先にある彼女の顔が、俺の視界いっぱいに映り今更ながらこっぱずかしい気分となった。
赤らむ彼女の顔を更に接近させ、唇を触れさせる。
びくん、と魅音の振動が伝わってきたが、彼女の手を握りキスを続けた。
被さるようにゆっくり魅音をベッドへと倒し、魅音の身体的自由を奪う。
俺の体重を一身に受け肺からの空気を吐き出した所で、俺は魅音の口腔へと舌を侵入させた。
あちらはそこまでを予想していなかったようで、身をよじらせて若干の抵抗をするが、俺は構わずディープキスを続けさせて貰う。
比較するものでもないが、詩音がある程度自らも舌を動かしこの行為を愉しんでいたのに対し、魅音は完全に俺のされるがままになっていた。
嗜虐心をそそられる彼女の態度に、自然俺の行為も繊細なモノではなくなっていく。
魅音の口を犯すように舌を暴れさせた俺は、性的に彼女を追い詰めたくなり一度唇を離した。
否、離すと言う距離とは到底言えない。発声して震える唇が彼女に触れたり触れなかったりするような零距離。
「マゾなのか? 魅音は」
彼女は荒ぶる息を整えさせようと呼吸を繰り返す。俺の質問に答える気はないらしい。
唇の端から端を俺の舌でなぞる。目をつぶって眼前の行為を背けようとする魅音。
ダメだ……、こいつの一挙一動は本当に加虐心を生む。
彼女を落ち着かせようと握っていた手が、彼女を高ぶらせようと胸へ走る。
詩音の時よりも大胆に、掴むように俺は胸を揉み始めた。

「あうぅ……」
恐らくは痛みと悦びが入り交じった感覚が彼女に流れているはずだ。
この歳として恐らくは行きすぎの成長をしている膨らみを、八割方自分の欲求を晴らすため堪能した。
その手のフェチズムを持っていると思われても致し方なかったが、この歳の男子はやはり下半身よりも上半身なのだ、と痛感する。
言い方を悪くすれば内臓である性器よりも、普段から意識しそれでありながら常にベールで包まれている胸の方が、露わになった時の感動が違う。
とは言ってもまだ露わとなってはいなかったので、そろそろ脱衣をお願いするとしよう。
「脱がすぞ、いいな?」
無言の首肯を視界の端に映し、黄色のシャツへと手を掛ける。
へそ、あばらと肌が現れ、薄い桃色のブラジャが乳房を隠し、最後に肩が見えた。
さすがに首から上は俺から脱がすのは困難だったので、魅音が自らシャツを脱いだ。
半裸となった魅音の唇に再び俺はキスする。
詩音とのセックスを思い出しながら、前戯の手順を探る。
温もりを帯びた肌を撫でながら、舌を唇から頬へと移動させた。
うなじの辺りを舐めてみるが大きな反応はない。
詩音はここが弱かったのだが……。やはりイメージ通りに行かないものだ。
頸動脈の所にキスしてみたり、胸を揉む強さを変えてみたりするのだが、なかなか俺が望む反応は得られない。
いらつきが募る俺は、誤魔化すように舌を絡め、紛らわすように愛撫する。
「ねぇ、圭ちゃん……」
だからだろう。この魅音の問いかけにも俺は聞こえていながら無視した。
その口から不満足の言葉を聞くのが嫌だったから。俺が魅音をリードしたかったから。
「圭ちゃん……、聞こえてるよね……?」
「……なんだよ」
ひどく不機嫌を装って俺は答える。言い終わってから、この言動はただ悪化させるだけだ、と言うことに気付いた。
「……あのね」
そう言って、下から魅音が接吻を求めてきた。
俺の首にぶら下がるように魅音は上半身を浮かし、俺の口に魅音の舌が入ってくる。
俺は両手をベッドと支えにして、魅音のキスを味わっている。
時々歯が俺の口先に当たって痛みが走るが、その懸命さがまた官能となる。
魅音が俺の首に回してた手を放す。ベッドに再び身を預けず、そのまま上体を起こしてお互い座りながら見つめる形になった。
「……ね、私だって頑張れるんだよ?」
だから無理しないで
そんな言葉が続いて出てきそうだった。
あぁ、俺はなにを考えていたんだ。
狗だと? それこそ魅音を侮蔑している思惑じゃないか。
魅音は俺を愛している。認めるのは恥ずかしいが、それは事実だ。
色話に奥手な魅音が俺を求めてくれた。
ならば俺は『前原圭一』として彼女とセックスするのが、一番彼女に応えているに決まっている。
そんな簡単なことに、俺は勝手な正義感を振りかざして気付かなかったのか。

「圭ちゃん、好き」
ぎゅっと、そんな擬音が似合いそうな抱擁を受ける。
俺も腕を回し、晴れた気分と時計の音だけを心地よく味わった。

ベッドの下に捨てられた着衣は魅音のシャツだけでなく、スカート、圭一のシャツとズボンと増えていた。
魅音の提案で圭一は初めての刺激を味わっていた。
「んぐっ……んっ……んん」
圭一のペニスを、魅音が口をすぼめてフェラチオしている。
口いっぱいに頬張った魅音は、鼻から必死に呼吸しているがやはり酸素が足りないようで、時折フェラをやめて口から息を吸い込んだ。
故に圭一もなかなか絶頂へと向かわず、登っては降り登っては降りるもどかしい感覚を体験していた。
フェラを再開すると、圭一はシーツを握ってその快感に耐える。
フェラを中断すると、圭一はシーツを放して大きく呼吸する。
この繰り返し。慣れない大人びた『行為』は客観的に見れば、ただただもどかしいものでしかない。
しかし確かに二人は愉しんでいた。
圭一は眼下で行われる親しい友人の必死な姿に胸を打たれる。
魅音は好意を寄せるクラスメイトが恍惚としている表情に一層気持ちが高ぶる。
「うっ……」
初めてきた射精の予兆。
亀頭に唾液が絡みつき、舌が竿を舐め回し、全体をすぼめた口内が刺激を与える。
中学生が耐えるには大きすぎる快感。爆ぜようとする感情に、圭一は一度流され掛けたが何とか理性を再起動した。
圭一の浅はかな性の知識は裏ビデオに由来するのが多い。
そこでは確かに男優が女優の口内へと精液を放出するシーンを映し出していた。
その時圭一は当然欲情したが、同時にどこかで男優への嫌悪感を抱いた。
そもそも当時の圭一は、アダルトビデオを台本通りの企画モノであることを知らなかった。
情事を了承の元撮影していると認識しており、『アレ』が通常の大人のセックスだとしていたのだった。
だからフェラの後にそのまま口腔に射精する、または顔にかけるのは当たり前と思っていた。
いざ自らがそのシチュエーションにあると、確かに本音はそのまま果てたい、と告げている。
しかし臭いもきつく液体とは言えない状態のアレを、自分を好いてくれた女性に出すのは酷く下劣に思えた。
「魅音」
一言彼女の名前を告げて視線を合わせる。
魅音は未だ圭一の一物をしゃぶっており、上目遣いで目を合わせる姿は圭一の欲情を更に駆り立てた。
しかし、なんとか堪えて彼女の顔を自分のペニスから剥がす。
「今度は俺な……?」
魅音の体を脇の下から持ち上げ、ベットの端へと座らせる。
「きゃっ」
突然の行動に声を上げる魅音。
下着に指を入れて、ゆっくりと下に下ろす。
陰毛が見え、次第に桃色の彼女の性器が現れる。
片手でパンティを下ろしながら、圭一は人差し指を魅音のナカへと挿れた。
指にまとわりつく感触が心地よい。恐らくは魅音も微かな快感を覚えているはずだ。
しばらく指で弄るのも一計だったが、圭一は指を抜き小陰唇に沿ってなぞった所で手を離した。
魅音が不思議そうな表情で圭一を見つめる。まだ彼女は「今度は俺」の意味を理解していなかった。
両方の太股を圭一が押さえる。そして間も置かず魅音の陰部へと吸い付いた。
「っひゃああぁ?」
驚嘆の声を上げる魅音。圭一は顔も上げずただ舌で刺激を送り続ける。
「っちゃ……けぃちゃん……!」
ぐちゃ、ぴちゃ、ぐちゃ。
「ダメだよっ……きたなひっ……っ」
ぴちゃ、ぴちゃ、ぐちゅ。
「んんん……っ!」
ぐちゅぐちゅぐちゅ、ぴちゃ。
「……っ……はぁ、はぁ」
抵抗の声を上げるのを止めた魅音は、しばし圭一の舌使いに酔っていた。
魅音のフェラチオと同様に、到底褒められる技量ではない。
それでも味わえる快感。想い人だから許される世界。
「だめぇ……圭ちゃん、そこだめぇ」
時々クリトリスへの直接の刺激が起こり、その度に魅音は体を震わせる。
一人では決して味わえない快楽。圭一の舌によって、着実に魅音は絶頂へと近づいていく。
ブラの隙間から手を入れて、乳首を親指で転がす。
興奮は相当のようで、双丘は熱を帯びて屹立していた。
つまむように乳房の先を刺激する。魅音が一層大きい嬌声をあげた。
魅音の体を半回転させながらベッドへと倒す。
口は一瞬たりとも陰部からは離さない。
貪るように口づけを止めることはない。
圭一自身も再びベッドの上へと上がり、互い寝そべったまま行為を続けた。
粘液でいっぱいになった口内を飲み干す。
喉にまとわりつく感覚はとても気持ちの良いものではない。
無味でありながら、残り続ける感覚は今までにないものであった。
「やべぇ……、魅音。俺止まらねぇよ」
右手の指を魅音のヴァギナへと挿れる。
舌が届かない所を圭一は指先で優しく掻く。圭一の唾液ではない分泌液が、爪の周りに付着した。
誤った知識ではあるのだが、この感触で圭一は彼女が感じていると認識した。
指二本分を容易にくわえ込む魅音のナカは温かく、圭一自身に直接の快感はないものの、充分この行為は男を愉しませる魅力がある。
「っつ……あああぁぁ!」
この数十分で最も大きく高い声が響く。
圭一が指で刺激する部分を上部へと切り替えた時だ。
わずかに窪んでいる部分を圭一が中指で掻いた部分が、丁度Gスポットを刺激した形となった。
魅音が自慰をしている際、数度この場所を慰めた経験があったが、恐怖が好奇心に勝ってあまり強く触ったことはなかった。
それを突然予兆もなく、しかも自らの指よりも太いモノでなぞられ、魅音の躰に電気が走る。
波打った魅音の躰。圭一が既視感を覚える。
詩音も同じように、ある場所だけを敏感に反応していた。
感触自体に大きな違いはない。『場所』を特定するには魅音の反応を観察するしかない。
圭一が一度横の膣壁を二本の指で弄ぶ。魅音の息が少しだけ落ち着く。起こる快感を堪えている表情だ。
そして突然『場所』へと人差し指を擦りつけた。嬌声。堪えきれなくなった声が部屋中に響いた。
圭一は確信する。間違いない。ここは女性の弱い場所なのだと。
そろそろ剛直も我慢がし切れないのを圭一は自覚している。
己の理性も正直な所もう少しが限界であろう。
「イかせてやるからな」
荒ぶる息を整えながら圭一が呟いた。
絶頂へと必ず魅音を導く。
その決意を秘め、圭一は大きく息を吸い込んだ。

圭ちゃんが何かを呟いた。
私にはそれが聞こえない。
圭ちゃんの呼吸が激しいこともある。私の頭がぼーっとしていることもある。
私が聞き返そうとすると、圭ちゃんが口を大きく開けて息を吸い込んだ。
クリトリスを唇で挟まれる。指を膣へと挿れられる。乳首に圭ちゃんの指が当たる。
嫌な予感と悦な予感が起こる。私は滅茶苦茶にされてしまう予想が簡単に立った。
「んんっっ!」
三カ所同時に刺激が起こる。
あぁ、なんだこれは。電気が走る。電気電気電気。
膣の一番敏感な部分がかき回される。舌でクリトリスが遊ばれる。執拗に乳首を転がされる。
反則だ、こんなの。性感帯を三つも犯されているのだ。
圭ちゃんが大きく呼吸した意味も次第に分かる。
圭ちゃんはクリトリスへのキスを一度たりとも止めない。
私がいかに身をよじらせようとも、抵抗の声をあげても、圭ちゃんは私へのエッチをやめてくれない。
奥からわき上がる『イく』前兆を感じつつ、その感覚が恐怖を覚えずむしろ期待すらしている自分に気付く。
あぁ、圭ちゃん、ダメ。クリトリスをそんなに舐めないで。頭がどうにかしちゃう、どこかへ飛んでしまいそう。
囓ってもダメ。あぁ、痛い。痛いよ圭ちゃん。でも……全然嫌にならない。
凄い。これがセックスなのだと躰が覚える。
こればかりは居るか分からない神様に感謝しよう。人間にこれほどの悦楽を与えてくれたことを讃歌したい。
「あぁっ、凄い。凄いよ、圭ちゃんっ」
恥じらいが遠くへ飛ぶ。理性が音を立てて切れる。良心が闇に染まる。
もっとぐちゃぐちゃにして欲しい。肉欲を満たして欲しい。このままイかせて欲しい。
キた。わき上がる絶頂が腹の奥底から頭へと登っていく。
大きい。未体験のオーガズムが……飛び散った。
躰が意志に反して跳ね上がる。
弓なりに反った私は、想像に逆らって声も上げずに真っ白の世界へ包まれる。
数秒その世界での浮遊感を持った後、天井につるされた電光の周りから色を帯び始め、私の意識がこの躰へと戻った。
顎を引いて天井から正面へと視線を移すと、圭ちゃんが息を荒げながら私の顔を直視していた。
何か確認しようとしているのだろうか。視線は定まらずに、不安そうな目で私を観察している。
私は疲労感でいっぱいの体を鞭打ち、起こして圭ちゃんへとキスする。
なんだか舌を絡めるよりも恥ずかしかったが、圭ちゃんが背へと腕を回して抱きしめてくれて、そんな気分も晴れてしまった。
「圭ちゃん、来て?」
さぁ、今度は圭ちゃんが愉しむ番だ。

目一杯の笑顔を彼の前でして、私は体を倒した。
どうやら俺は魅音を満足させることができたらしい。
そう言えば英語でもイくことをcomeと俗に言うらしいから、あの感覚は世界一般のものなんだなぁ、と場違いな妄想にふけった。
我慢しきれなくなって溢れた汁で濡れる亀頭を、魅音のソレへとあてがう。
数度挿れるのに失敗して、一度目を閉じて深呼吸した。
そんな滑稽な俺を見てか、魅音の顔がまた笑みに変わる。
もう一度「行くぞ」と宣言して、魅音がうなずいた。
慎重に俺のモノを股の下あたりに当てて、ゆっくりと体重を掛ける。
「あっ……」
魅音が違う反応を見せる。体重を掛ければ掛けるほど、俺と魅音の距離が縮まっていく。
「つっ……」
痛みを堪える眉間に皺が寄った苦悶の表情。
俺の腕を握る魅音の爪が皮膚へと刺さる。
これで少しでも彼女の激痛が紛れるなら安いモノだ。
俺は更に体重を掛けて魅音のナカへと侵入していく。
シーツに滴る赤色の液体が、魅音の未体験の痛みを物語る。
結局俺は全てを挿れ終わるまで数分を要した。全てが埋没した今でも、魅音の表情は変わらず痛々しい。
「圭ちゃん、動いて良いよ」
馬鹿野郎、全然大丈夫そうな声じゃねえよ。
俺が上半身を動かす僅かなズレでさえ、魅音は歯を食いしばる。
何とか彼女の眼前へと俺は顔を持って行き、唇を触れさせる。
親指で乳首を弄り、他の指で乳房を包む。
これで幾らか紛れるだろうか。憶測の域を超えない俺の手助け。そうして俺はゆっくり腰を動かし出した。
ぐっと魅音が歯を更に食いしばったのを、唇からの振動で感じる。
短い距離をゆっくりと動かし、彼女がこの感覚に慣れるのを俺はしばし待った。
十数回ピストンした所で、次第と出し入れするのがスムーズになる。
膣自体が異物に適応したのだろう。きつすぎて愉しむ所じゃなかった魅音のナカが、快楽に耽るのに相応しい包容力となる。

もうそろそろ良いだろうか……。もはや魅音のことを考える余地のなくなった俺は、動きやすいように腰を浮かす。
ゆっくりとはもう形容できない運動。
ぐちゅっと小気味よい水音がはっきり聞こえるように、俺は快楽を貪る。
魅音の口は俺が未だ塞いだままだ。
吐いた息はそのまま俺の肺へと入っていき、密着も手伝ってお互いの体温はどんどん上昇しているだろう。
なかなかこれは体力を消耗する運動で、俺自身も鼻からしか呼吸できない為、胸の奥が酸素を欲して苦しくなってきた。
酸素を欲すれば欲するほど、俺は早く射精を迎えようとピストンの速度を速める。
鳴る音のペースが速まり、俺が左手で固定し切れなくなった魅音の腰ががくがくと震え始めた。
もっと奥へ。もっともっと。
ペニスよりも下腹を突き入れるイメージで、俺は何度も膣の限界へノックする。
俺の我慢汁と魅音の愛液どちらだか分からないモノで、ピストンはスムーズになっていた。
握るように締め付ける膣を俺の剛直が押し広げる。
俺は魅音を犯している。彼女をこの手で犯しているのだ。
そう悟った瞬間、俺自身もう絶頂が近いことが分かった。
唇を離し、上体を勢いよく起こして俺はピストンに没頭する。
何度も何度も突き上げて、既に準備万端の精液を放出させようと最後のスパートを掛けた。
魅音が喘ぐ。体をよじらせて、逃げられない感覚に遊ばれているようだった。
膨らみ始めた俺のモノで、最後の、最後の挿入を……。
どくんっ、どくん。
繋がった状態で俺は魅音へと射精した。ナカで出してしまうのが、危険なことであるのは事前に確認していたはずだった。
いざ始まってしまえば、そんなもの快楽を邪魔するウィルスのようなもので、躊躇いもせず俺は中出ししてしまったのだ。
七度脈打った所で俺のモノは放出を終了した。
引き抜くと亀頭の先から糸状に精液が繋がり、それ以外にもあふれ出した液体が陰部の形にそって流出する。
こうやって汗ばんだ胸と逆流した精液を見るのは罪悪感と同時に征服感に駆られる。
半透明の液体と真っ赤な血がシーツを汚して、改めて俺は魅音とセックスを済ませたのだ、と思った。
魅音の顔をのぞき込む。
薄ら笑いを浮かべながら生暖かい息を吐く姿は、やはりエロチックだった。
「キスして」
彼女の要求に俺はお望みのもので応える。
心臓が十回ぐらい鳴った辺りで唇を離し、俺は乱れた緑色の髪を軽く直してやった。
「すっげぇ、良かったよ。魅音」
「……私も」
もう何度目か分からないキス。
でも恥ずかしくない。こいつはもう友達なんかじゃないから。

俺の好きな……想い人。



竜宮レナにとってこの日の学校は、到底望んだ登校と言えなかった。
魅音に辛く当たってしまったこともある。
当然間違ったことは言っていないつもりだ。しかし私情が挟んでいなかったと言えば嘘になる。
魅音のあの馬鹿正直さに、己にはないあの強さに嫉妬したのだ。
人の前で涙を流したのと、孤独に涙を流すのとでは一体どちらが弱いのだろう。
幾度考えても答は見つからず、気付けば圭一のシルエットが遠目に見える。
いけない、こんな表情(カオ)をしていては駄目だ。
一日休んでいたんだから、もしかしたら圭一くんは体調を崩していたのかも知れない。
オブラートに包みながら聞き出して、良好的な関係を続けなきゃ。
目印としている木を圭一が通過した所でレナは大きく手を振る。
満面の笑み。「けーいちくーん」とあたかも可憐な少女のような声で、圭一へと呼びかける。
「圭一くん、昨日休んだよね? レナ達心配したんだよ、だよ?」
言って虫酸が走るような馬鹿らしい口調。
だけど今は竜宮礼奈ではなく竜宮レナなのだ。イやなことは何もない。そう、何もない。
「あー、ちょっとな」
自覚なしに分かりやすく圭一はレナの言葉を流す。
当然正直に包み隠さず話せる力量はなかった。

園崎姉妹どっちも俺のモノになったぜっっ!

レナの鞄から鉈が出てきても何らおかしくない未来が浮かぶ。
だからと言っていつまでも隠せるわけないことを、圭一は分かっている。
いつどのタイミングがベストなのだろうか、と思考しつつ圭一は歩を進める。
レナは質問を止めない。腕にしがみついてねだるように、圭一へと欠席の理由を聞き出していた。
そこを圭一は得意の話術と社会人顔負けの営業スマイルで場を保つ。
しばらく傍目から見れば仲良く見える登校風景を演じた彼らは、水車小屋へと近づいて来た。
クラス委員長のポジションに立つ魅音が、鞄を持つ手を掲げてこちらへ手を振る。
レナは敏感に感づいた。妙に視線がレナへと向かっていること。
いつもなら圭一くんへと真っ先にがっつくはずなのだが、急ぐように私と会話を始めた。
圭一くんも魅いちゃんと目を合わせようとしないのを見ると……。
はじき出された答は決して喜べるものではない。恐らくぎくしゃくした関係が修復された以上の進展があったのだろう。
これが諦めた者とそうでない者の差か。とレナは痛感した。
間に挟まれている自分が惨めだ。私が居なければこの二人はまるで違う空気を纏うだろう。
私が居なければ……。

レナにとって憂鬱な授業が始まる。
元々好きではない勉学に加え、甘酸っぱい二人の関係を知ってしまったことも大きい。
三時限目の終業のベルが鳴り、知恵が教室を出て行く。
いつもなら沙都子と圭一の暴走劇を魅音たちと楽しむのだが、到底そんな気分ではなかった。
窓際から見える殺風景なグラウンドを眺める。
いつものように沙都子へと圭一が怒りをあらわにしているらしい。
教室を所狭しと駆け回る音がレナの耳から伝わる。
「レナ、どうしたのですか?」
レナが顔を向けると梨花がちょこんと立っている。
不安そうな表情を浮かべて顔を少し傾けて。いつもなら「お持ち帰りぃ」と喝采するところだが、今のレナにできるはずもない。
「んー? どうもしないよっ。レナは今日も元気元気っ」
ファイティングポーズをとってレナは元気であることをジェスチャする。
梨花はそのレナを少し眺めていたかと思えば、にやりと顔を歪めた。
そう、レナにとって梨花の表情の変化は歪みであった。
笑顔であることに変わりない。しかしその奥に潜んだモノが違いすぎる。
なんて人を小馬鹿にした笑み。まだ因数も知らない子の作る顔ではなかった。
「圭一と魅音が憎い?」
魅いちゃんではなく魅音。ワントーン低くなった声が、レナを凍り付かせる。
「ふふ、図星ではなくとも遠からず、かしら」
梨花の視線がレナから、沙都子を追い回す圭一へと動く。
達観したような表情は、ある意味古手の巫女には相応しいのかもしれない。
「『諦める』なんてね、あなたにはまだ百年早いわ」
くるり、と踵を返して梨花が自分の席へと戻りだした。
三歩歩いた所で顔だけレナの方を向き、いつもの調子で「みぃ」と笑った。
この一分間がまるでレナの夢だったかのように、梨花は変わらない姿で富田や岡村の輪に加わる。
今のは何だったのか、と様々な思考がレナの頭をよぎる。
やはり古手の教育と言うのは余程濃密なものなのかもしれない。
あの歳で早くも二面性を作れるほど、巫女と言う役割は辛いものなのだ、とレナは胸が痛くなった。
「『諦める』には早い……か」
始業のベルが鳴ったのにまだ沙都子を許さない圭一を見つめる。
そろそろ知恵先生が扉を開けると言うのに、まったく成長しない男だ。
なぜ私はあんな男の為にこんな一喜一憂しなきゃいけないのか。
そう考えるとレナは無性に腹が立ってくる。
宝探しの誘いを断る権利を剥奪するぐらいの見返りが、恐らく自分にはあるはずだ、とレナは笑った。
そうだ。昨日の涙の分を返して貰うまでは、彼を許すつもりはない。
今日にでも誰より早く圭一を捕まえて、あの秘密の場所へと連行しなければ。
考えると自然に自分が笑っていることにレナは気付いた。
なんだ、まだまだこんなに学校は楽しいじゃないか。そしてまだまだ私は楽しむことができるのだ。
知恵が教室の扉を開ける。がらり、と軋む音と擦る音が混じった雑音。
その雑音にかき消され「世話が焼けるわね」と言う声は誰の耳にも届かなかった。



分校の昼休みまであと五分ほど。
私は葛西の車に送られて雛見沢へと沙都子への弁当を持ってきている。
今日はカボチャの煮付けにカボチャのコロッケにカボチャのケーキと、毎度の如くカボチャ尽くしだ。
それを山吹色のナプキンで包み、私の手提げ袋の中に入っている。
その上には水色のナプキンで包まれたもう一つの弁当箱。
言わずもがな圭ちゃんへの差し入れである。予告していなかったから、恐らく圭ちゃんのお母さんのと被っているだろうが、無理矢理にでも胃袋に収めて貰おう。
何せお姉まで圭ちゃんと事を済ませているはずだ。
昨日幾ら電話を掛けても誰も出ないのを考えると、十中八九間違いない。
私はとにかく大胆に彼へと迫るしか、お姉に勝つ見込みはない。
それで、この弁当である。
定番中の定番。さすがにご飯の所にloveと入れるのは止めておいたが、可愛らしさ抜群のメニュで揃えてきた。
こう言うのは最初にやったもん勝ちだから、お昼の時間だけはお姉よりも優位に立てる。
終業のベルは鳴っていなかったが、知恵先生が教室から出てくる。
私を発見すると、大人っぽい仕草で一礼した。
私の方も既に慣れた挨拶で先生へ頭を下げ、職員室へと戻るまで彼女を見送る。
そして閉めてあった扉を勢いよく開け、仁王立ちにも近い形で教室へと君臨する。
丁度圭ちゃんが私の分の机を用意していてくれた所だ。
あぁ、なんて素敵な笑顔。
綺麗な肌。
輝く瞳。
細い眉。
シニカルな笑みが似合う口。
強く芯の通った声。
すべてが好き。すべてが愛おしい。
彼のためになら私はこの身を容易く捨てるだろう
彼のためになら私はこの心を躊躇なく捧げるだろう。
彼のためになら私はこの過去を捨てるだろう。
もう右の爪は痛まない。疼かずに静かに再生を待つだけの状態になっている。
私の全てが彼を認めた証拠。この爪が私と過去を決別した証。
きっとまだまだ大変な障壁はあるだろうけど、圭ちゃんのためにならそんな努力は惜しまない。
『今』、『私』は『前原圭一』が『好き』なのだから。

「沙都子っ、今日も作ってきましたよっ」

身を尽くし、アナタをアイします。


――――――――――了

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最終更新:2008年06月02日 14:50