どうしたんだろう? レナの奴、やたらと風呂が長い気がする。それとも、女の子のお風呂っていうのは長いっていうし……やっぱりこんなものなのだろうか?
ふと、壁に掛けられた時計を見る。……もう、かなり遅い時間だ。そろそろレナの家に電話した方がいいのかも知れない。
い、いやいや待て? でもどうやって説明する?
Q:「レナは今どうしてるんですか?」
A:「お風呂に入ってます」」
Q:「今、御両親はどちらに?」
A:「東京に行って留守です」
こんな事答えたら俺、下手すれば殺されないか?
お、落ち着け前原圭一。クールに、クールになるんだ。相手だって人間だ。落ち着いて誠意を持って事情を説明すれば、きっと分かってくれるはずだ。だって俺はやましいことは何一つしていないんだからなっ!?
ああ、しかしレナ、早く風呂から上がってくれえええぇぇ~~っ!?
俺は思わず頭を抱えた。
――と、風呂場の方から扉の閉まる音がする。よ、よかった。どうやらもう出てきたみたいだな。
俺は安堵の息を吐いた。
とたとたと足音が近付いてくる。
「よおレナ、湯加減はどうだったよ? ……って、どうした? そんな顔して? しかもそんな…………格好で」
再び俺の前に姿を現したレナは、タオル一枚しか身に付けていなかった。しかも、その目はとても決意に満ちていて、でもどこか虚ろで……。
俺は目を丸くする。
レナは無言で、薄く笑みを浮かべながら俺に近付いてくる。
「ちょっ!? ……ちょっと? おい? レナっ!?」
俺の目の前で、唇を震わせながら、レナが立ち尽くす。
その顔は風呂上がりということを差し引いても、赤かった。
「………………レナ?」
俺が彼女の名前を呼ぶと、レナはポツリと口を開いた。
「ねえ圭一君? レナね。……お願いがあるの。冗談なんかじゃない。本気の本気。こんなこと言ったら、圭一君はきっとレナのこと軽蔑する。でも、それでも頼みたいの」
「ああ……なんだよレナ? それと……俺は何を言われようとレナのことを軽蔑なんてしないぜ? 何て言っても、最高の仲間の一人なんだしよ」
けれど、何がまずかったのか益々レナの表情が重く歪んだ。
「……仲間…………か。うん、そうだったね。分かってたよ」
そして、見ているこっちの胸が痛むような笑みをレナは浮かべた。
「ありがとう圭一君、それじゃあ言うね?」
ふっと、レナが小さく息を吐く。
“圭一君、レナを抱いてくれない?”
…………え?
レナ? お前さっき一体なんて言った?
「おいっ!? レナっ!?」
レナが何を口走ったのかはよく分かっていない。けれど、分かってなくても俺は思わずその場に立ち上がった。
レナの両肩を掴む。
「さっき言った事って……どういう意味だよ?」
そりゃあ、俺だってレナのことは可愛いと思う。よくないことだって分かっていても、妄想してしまうことだってある。けれど本気でこういうのってのは……。
「そのままの意味だよ。圭一君、レナを抱いてくれない?」
「あ、…………あの……その……。ええっ!?」
俺はあまりにも突然の……この現実離れしたレナの台詞に、もう頭の中がぐちゃぐちゃだった。本気でこれが夢か何かのような気がしてくる。
そんな俺を見て、レナが苦笑する。
「やっぱりダメかな? そうだよね。いきなりこんなこと言う女の子なんて、圭一君だって嫌だよね。それも、レナみたいにこんな大人っぽくない体じゃ仕方ないよね。魅ぃちゃんや詩ぃちゃんみたいにスタイルよく無いもんね」
違う……違うからレナ。そんなことないから。そうじゃなくて……。
俺はただ、首を横に振ることしか出来ない。
「どうしたんだよレナ? どうしていきなりそんなこと言うんだよ? 俺は…………レナのことが好きだ。好きだけど、でもだからってこういうのはさ……」
ああくそ……一体どう言えばいいんだ? 俺はレナを拒絶したい訳じゃない。けれど、どう言っても……。
「だ、だから……さ。その……本当に、どうしてなんだ? 俺が聞きたいのはそれだけで……」
しかし、俺が懸命に断る理由を探そうとすればするほど、レナが寂しそうな瞳で俺を見詰めてくる。無言で、今は何も聞かないでくれと訴えてくる。
その瞳が、見ている俺の胸を締め付けてきて……。
それが、俺の頭の中にある何かのスイッチを切り替えさせた。
結局……俺は深く息を吸って、レナを抱き締めた。何故なら、いまここでこいつを抱いてやらないと、もう二度と笑ってくれないような気がしたから。今にも壊れてしまいそうな不安が俺を襲ったから。
「……本当にいいのかレナ? 俺なんかで」
「………………うん」
俺の胸の中で、レナが頷いた。
そして、柔らかくて小さな彼女を力一杯抱き締めた後、俺はレナの体を離した。
もう一度レナの肩に手を置いて、その小さな唇へと顔を近付けていく。
「んっ」
レナの唇は、柔らかくて、温かくて、むっちりと俺の唇に吸い付いてきた。その肉の感触が生々しくも心地いい。
ああ、キスってこういうものだったんだな。
目を閉じながら、優しく唇を押し付け合う。
「んんっ……ふぅっ!?」
俺は少し口を開いて、レナの口の中へとしたを挿入する。
レナも少し驚いたようだけれど、すぐに応じてくれた。互いに唇を貪り合い、舌を絡め、唾液を啜る。
くちゅくちゅと、いやらしい水音が俺達の頭の中に響いた。けれど、それを嫌悪するどころかますます本能的なものが刺激され、互いを追い求めていく。
窒息しそうなくらい、俺達はもうこの行為に夢中になり始めていた。
俺はレナの肩から手を下ろしていき、バスタオルに手を掛けた。
ばさりと音を立てて、あまりにも呆気なくバスタオルが床に落ちる。
もう、これでレナを覆うものは何も無い。
互いに生まれたままの姿で、たっぷりと互いの唇を貪り続けていく。
……と、不意にレナが俺から唇を離した。
「圭一君のも、脱がすね?」
上目遣いで見上げるレナに、俺は頷いた。
ぷつりぷつりと、パジャマのボタンが外されていく。俺の目の前には全裸のレナ。彼女によってパジャマが脱がされていくという事実ただそれだけで、俺の体にぞくりとしたものが湧き上がる。
上着も脱がされ、ズボンも……そしてパンツも下ろされて、俺のものが露出する。レナの目の前で、それはヒクヒクと脈打っていた。
「……あっ」
それを見て、レナが小さく驚きの声をあげる。
そして、レナはじっと俺のものを見詰めた。その様子から、何をしようとしているのか、だいたい想像が付く。
「無理……しなくていいんだぜ?」
「ううん、そんなこと無いよ」
けれど、レナはほんの一瞬躊躇しただけで、首を横に振った。
「はふっ……んっ」
俺のものがレナの口の中に収まる。
レナが……あのレナが俺のものを口にくわえている。時折当たる歯が、どうしようもなく確かに、レナが口で俺のものを愛しているという事実を伝えてくる。生暖かく粘っこい感覚が俺のものを包み込んできて、それがまた気持ちいい。
「んくっ……んんっ……ふぅっ」
レナの舌が俺の亀頭を舐め回し、頬をすぼませて吸う。
上手いのかどうか何てのは知らない。けれど、懸命なその姿が見ていて胸を締め付けた。
自然と俺の口から呻き声が漏れる。
「あぁっ……くっ、気持ちいいぜ。レナ」
俺は荒い息を吐きながら、レナの髪を撫でた。その瞬間、ほんのちょっぴりだけど、レナの表情が和らいだ気がした。
湿ったレナの髪は細く滑らかで、まるで子猫か子犬に触れているような気になる。……優しく撫でてやると、不思議と気持ちが落ち着いていった。
「……レナ。今度は俺もその……レナにしてみたいんだけどさ。いいか?」
「え? ……うん、いいよ」
俺がそう言うと、どこか物足りなさそうな……それでいて自分が奉仕されるんだという期待の色が混じったような表情をレナが浮かべた。
レナが俺のものから口を離すと、唾液が銀色の糸を引いた。
「でも……どうすればいいのかな? かな?」
「そうだな。とりあえず、そこで立ってくれよ」
俺の言葉に従って、レナが立ち上がる。
そして俺はあらためてレナの生まれたままの姿を見る。未成熟とはいっても、それは言い換えると成長途中な熟し始めの果実。健康的で白い肌に、引き締まった太股。……そして、ふっくらと美しく双丘が盛り上がっていた。
やっぱり、女の子なんだよな……。
そして、それを見ていきり立つ自分の本能に、どうしようもなく俺は雄なんだと再認識させられる。
俺はごくりと喉を上下させた。
「じゃあ……いくぜ?」
「う、うん……」
俺はレナが頷くのも見ずに、レナの胸へとむしゃぶりついた。両腕をレナの背中に回して、愛撫する。レナの温もりが……レナの柔らかさが、愛おしかった。
「あっ……はぁっ。うっ……んんっ」
欲望の赴くままに、俺はレナの乳首に吸い付く。舌で乳首を転がし、唇で甘噛みして愛撫する。張りのある弾力が気持ちいい。舌触りも滑らかで、実に……こういうのも美味って言うのだろうか?
「はぁん……くっ……圭一君。そ、そんなっ!?」
俺はレナの胸を口で責めながら、手をレナの股間へと伸ばしていく。レナの秘所に指を添えると、レナの体がびくりと震えた。
へえ……ここってこんな風にふにふにというかぷにぷにというか……そんな感じだったんだな。初めて知った。そりゃまあ……キスもフェラも胸も……全部が全部初めてなんだが。
レナの割れ目をなぞるように、俺はあてがった指を上下させる。
「はぅっ……んっ……くぅんっ」
愛撫を続けていくにつれて、レナの声に含まれる甘さが増した気がする。
なるべく優しくって思っているけれど、こんなのは俺も初めての経験で……俺のやっていることっていうのは、きっと拙いものなんだって思う。
けれど、それでもレナが……少しでも感じてくれてるみたいで、それが何だか嬉しかった。
あっ……今、レナの体が軽く跳ねた。
「レナ? ……その……気持ちいいか?」
一旦、レナの胸から顔を離して訊いてみる。
「は……うぅ。ん……んんっ」
レナは目を瞑りながら、首を横に振る。
その姿が、どうにもいじらしいと感じさせた。
「そっか……」
俺はそんなレナを見ながら、微笑む。
指の先に、粘り気のある感触が混じった。
きゅっと強ばるレナの太股から手を離して、しゃがみ込む。
「……け、圭一君? やだ……やだよぅ。そんなとこ……見ないで」
「綺麗だぜ、レナ」
それが俺の嘘偽りの無い感想だった。
幾重もの恥毛に覆われた秘部は、ともすればグロテスクな見た目かもしれない。けれど、俺が自分のものを見て異様だとは思わないように……いや、今の俺にはレナのすべてが愛おしかった。
「ひゃぅっ!? ……んんっ……あぁっ……」
俺はレナの秘部に唇を当て、舌で愛撫した。とろりとした愛液が俺の唾液と混じって、それを舐め取っていく。
「だめ……だよ。圭一君、そんなのって……汚いよ。はぅ……うぅ」
何言ってるんだよレナ? お前だって俺のものに同じ事をしただろ? お返しだって。
俺は何度もレナの秘唇にキスをして、レナの中へと舌を挿入する。濃密なレナの香りに、俺の意識が痺れそうになる。
「はぁ……はぁ……。あぁ……はぅうぅ……ん」
俺の頭の上から、レナの喘ぎ声が振ってくる。甲高くて、くぐもっていて、嗜虐心を……それだけで男の欲望を猛らせてくる雌の鳴き声。
ぞくりとしたものが俺の背中を駆け上がってくる。それをもう、これ以上押しとどめるのは限界だと、俺の中のもう一人の俺が囁いてきた気がした。
……俺はレナの秘部から、顔を離した。
「レナ。……横になってくれ。その……さ……」
「……うん」
レナは荒い息を吐きながら、お風呂場から持ってきたタオルの上に横になった。
つまるところ……その意味はレナも、初めてという意味で……。
体が熱い。頭が熱い。俺がレナの処女を散らすという悦びと、その意味の大きさに身が竦みそうになる。
ゆっくりと、俺はレナの上に覆い被さっていく。
レナを見下ろしながら、もう一度だけ訊く。
「本当にいいんだよな? レナ?」
レナは顔を赤らめながら頷く。
……どのみち、ここまで来て止めるなんて真似、出来そうになかったけれど……。
レナの花弁は、俺のものを迎え入れようと、花開いて潤っている。入り口は、すんなりと探り当てることが出来た。
「…………あっ…………はぁっ」
俺のものがレナの膣内へと侵入していく。狭い隙間をこじ開けるように……強引に……。
きゅうっと、痛いくらいにレナの膣壁が俺のものを締め上げた。
「大丈夫か? レナ?」
けれど、本当に痛いのはレナのはずだ。
体を強ばらしながら、必死になって俺の背中に手を回してしがみついてくる。
自分は平気だと、何度も頷くけれど……。
俺はまた、いつものようにレナの頭を撫で、それから額にキスをした。
「ごめん。……動くからな?」
「…………うん」
動くといっても、激しくは出来ない。レナの方もそうだけれど、俺だって激しくしようものなら、今すぐ果ててしまいそうだから。
レナを抱き締め、肌と肌を摺り合わせる。
狭いけれど、それでも俺のものを温かく包み込むレナの膣内が、どうしようもなく気持ちいい。
痛くて痛くて苦しいほどに俺のものが、レナの膣内で固く膨張し、存在を誇示している。レナの膣壁を擦り上げるたび、俺のものがびくりと脈打つ。粘っこいものを結合部で感じるたびに、意識が遠のきそうになる。
「くぅ……んっ……ん……」
俺の下で、レナが喘ぐ。
その声には、痛々しさよりも甘味が混じっているような気がした。
「レナ……俺はお前のこと、本当に……」
俺は腰を振りながら、レナの名前を呼ぶ。
……何故だかよく分からないけど、涙が出た。
どうしてこんな事をしているのか、自分でも分かっていたはずなのに……。
強引に意識を今の営みに戻していく。……ダメだ。さっきのような思考はダメだ。そんなことを考えたら醒めてしまう。
「レナ。気持ちいいぜ。本当に凄く気持ちいい」
「……うん」
レナが嬉しそうに頷く。
俺は喘ぎながら、レナの膣内を掻き回し、そしてレナを感じる。
今俺が胸に抱いているこの想いが届くように願って……何度も自分の分身をレナの奥へと打ち据える。
そんなつもりはなかったけど、どうやら今まで俺はSEXをただの肉欲だと思っていたようだ。けれど違う、実際にレナと交わってみて、コミュニケーションだっていう意味が、少しだけ分かった気がした。
ああ……レナともっと深く交わり合いたい。一つに溶け合うところまでいきたい。
熱く痺れる俺のものが、限界を訴えてくる。
「はぁ……ああぁっ……くぅん。圭一君……圭一君」
「レナ……レナ……」
いつしか、俺達は互いの名前を呼び合い、リビングに嬌声を響かせていた。
レナが俺の腰に脚を絡める。
「はぁっ……あっ……………ああああああぁぁぁっ!」
そして、俺はレナの中に射精した。
レナが俺の迸りをその身に受けながら、身悶えする。
「……はぁ…………圭一君のが……温かいよぅ」
陶酔したように、レナが呟く。
俺は、無言でレナを抱き締めた。何処までも強く……そして出来るだけ優しく。
屹立していたものが萎えてからも、俺はレナを抱き締め続けた。そしてレナは、目を瞑りながら、小さな子供のように俺の胸に頬を押し当ててくる。
「なあレナ。……何があったんだ?」
そう訊くと、レナの体がびくりと震えた。
「…………別に…………何も無いよ」
けれど、レナのそんな台詞は嘘だ。
「じゃあ、何で泣いてるんだよ?」
「……何言ってるの?」
俺の言葉が的外れだと言いたげに、平静な口調でレナが応えてくる。
けれどそれは嘘だ。実際、レナは涙を流して何ていない。けれど、今の俺には分かる。レナはさっきからずっと泣いている。俺の胸の中で泣きじゃくっている。
「ならさ。……どうしてこんな真似したんだ? 何の理由も無いのに、こんなことって……しないんじゃないのか? それに、どうしてレナのお父さんから何の連絡も無いんだよ?」
「それは…………ん……」
レナが言葉に詰まる。
「なあレナ? 俺は……今さらだけど、レナのことが好きだ」
「そんなの……圭一君の錯覚だよ。レナとその……こういうことして、そんな気になってるだけ。私なんて……」
俺は首を横に振る。
「そんなことない。確かに、さっきまでずっとレナのことを仲間だって思っていたし、それだけだと思ってた。世界で一番大切な仲間の一人だって思ってた。……そう思い込もうとしてた。でも違うんだ」
俺の腕の中にいる温もりが愛おしい。
「俺は、レナのことが好きだ。……好きだから抱いたんだ。大切だっていうだけだったら、そんなことしなかった」
「……嘘だよ」
「嘘じゃねえ」
「嘘だよ。だって私は……そんなのじゃ……ないもの」
レナの声が震える。
「私は……私は、圭一君が思っているような、そんなつもりなんかじゃないの。もっと狡くて、卑怯で我が儘で……本当の私を知ったら圭一君、絶対に軽蔑するくらい狡いもの。……今だって、こんなこと言って同情を誘って……本当に、汚いんだもの」
俺はレナの髪を撫でる。少しでも彼女が落ち着くように……。
「構わねぇぜ。それでも……たとえどんなでも、レナはレナだ。言っただろ? 俺は絶対にレナのことを軽蔑なんかしない。俺を……信じてくれ」
どこか嘲笑うように、レナが息を吐く。
「馬鹿だよ、圭一君。本当に馬鹿。……そしてやっぱり狡くて非道い。自分で全然気付いてないのも狡い」
レナの声に熱がこもっていく。
「そんな風に言われたら、レナがどう言えばいいか分からなくなっちゃうじゃない。レナが圭一君に比べて、ますます嫌な人間になってしまうじゃない。何も知らない圭一君を騙して弄んで……それだけなんだっていうことになっちゃうじゃないっ!
愛してる? 綺麗事言わないでよ。ああいうことさせてくれる女の子を……レナをそうやって繋ぎ止めて、あわよくばまた……って考えてるだけなんだよね? いいよ? それならレナも同じだもの。だってレナは……私は……」
レナの口から嗚咽が漏れる。
「……圭一君を利用したんだの」
「……ああ」
何となく、気付いていた。気付いてしまっていた。
でもそれでも構わなかった。邪な気持ちが全く混じらなかったかと訊かれれば嘘になるのかもしれない。けれど、それでも……ほんの少しでもレナの心の隙間を埋めることが出来るなら、それでいいと思った。
だから俺は、敢えてレナの誘いに乗ることを決断した。リスクだって覚悟の上で。
「どうしてこんなことをしたのか、レナにもよく分からない。お父さんがね……離婚してから、ずっと家でごろごろしていて……でも、いつの頃からか水商売の女の人と仲良くなって……最近は夜に外出することも多くなって……金遣いだって荒くなって……」
「……うん」
「どうすればいいのか分からなくなって……何だか、色々と忘れたくて……でも忘れられなくて、落ち着かなくて、体がざわざわして……。こういうことすれば、ちょっとは忘れられるかなって。……どうせお父さんだってやってるんだしっ!」
レナの涙が止まらない。
「最初はそんなつもりじゃなかった。ただあの家に帰るのが嫌だった。圭一君と一緒にいたかっただけだった。でも……でももう、何が何だか分かんなくて……」
レナの悲しみが止まらない。
そして、そんなレナを見る俺の悲しみが止まらない。
「あははは……。じゃあ、もうどうでもいいや……お父さん、どんどんお金遣ってる。きっとそのうち、一文無しになっちゃう。それならレナ、圭一君の子供作ってしまおうか? 子供が出来たら、圭一君も責任取らなきゃね? レナと結婚して……それで――」
それから先をレナは続けなかった。
「それで」……俺の家のお金で、面倒を見てもらおう。もし続きをレナが言うとしたら、きっとそんな言葉だったのだろう。
「ごめん……なさい。本当に……ごめんね。圭一君」
泣きじゃくりながら、レナはごめんなさいを繰り返す。
「いいから……それでもいいから……。それでも俺は、レナのことが好きだから。今まで、そんなレナの苦しみに気付けなくて……本当にごめん」
そして俺は、一緒に涙を流した。
それからその晩、俺達はこれからどうするかを話し合った。まずはレナの家の問題、そしてもし、本当にこれで子供が出来てしまったときの問題。
一つ目の問題は、泣いて少しは落ち着いたのか、結局……レナはほとんど自分で、何をどうするべきかを決断した。俺もちょっとは提案したけど、でもほとんど相づちを打つことくらいしかすることがなかった。それでも、レナの支えにはなれたみたいで、嬉しかった。
二つ目の問題は……もう、レナを抱いたときから覚悟を決めていた。俺にとってレナは何よりも大切な存在だ。だから、たとえどれだけ怒られようと、そのときは正直に両親とレナのお父さんに打ち明けて、そして一緒になる。……俺はレナにそう言った。
レナは本当にそれでいいのかと、何度も訊いてきたけど、俺の決心は変わらない。
むしろレナの気持ちの方が、俺には不安だった。でもそれも杞憂だった。俺を利用しただけだと言っていたけれど、その相手に選んだのはやっぱり俺が好きだからだと……そう言ってくれた。
そして俺はその翌朝――今日も、何事もなかったように、待ち合わせ場所に向かった。
レナはいつものように、既に先に来て待っていてくれた。
「おはよ~う♪ 圭一君」
その笑顔は、俺の大好きな……輝くような笑顔だった。
「おう、おはよう」
片手を上げて、駆け寄っていく。
爽やかな朝の日差しと、ひぐらしの鳴く声が、俺達を祝福しているような気がする。
……ひょっとしたら、これから数日後……もしくは数ヶ月後には、俺達の状況は一変しているのかも知れない。
けれどそれでも構わない。俺はレナをどんなことからも守っていく。たとえ世界が壊れようと……たとえ世界が俺達を許さなくても……それでも彼女が好きだから。
そして今日も俺達は笑いながら、学校へと向かった。
―END―
最終更新:2008年04月06日 19:11