「ただいまー。頼まれた物買ってきたぜー」
 俺は買い物袋を玄関の上に置き、家の中へとあがった。
やれやれ、これでようやくこの重たい荷物から解放されるぜ。
「あ、圭一君おかえり~」
 ……へ? この声って??
 家の奥から、ぱたぱたと足音が近づいてくる。
「れ……レナっ!? おま……どうして俺の家にっ!?」
 玄関に俺の驚いた声が響く。
 そう、台所から俺の目の前に現れたのは紛れもないレナだった。
「うん。圭一君のお母さんにね。頼まれたんだよ。だよ。急に圭一君のお父さんと一緒に東京に行くことになったから、今日の夕食を作って欲しいって」
「ええっ!? マジかよ? だって俺がお使いを頼まれたのってほんの一時間ほど前だぜ? そんな様子全然無かったしよ」
「う~ん、レナにもよく分からないけど……昨日出したはずの荷物の一部を出し忘れていたみたい。それで、大至急それを届けないといけないみたいなこと言ってた。明日の夕方には帰るみたいだよ」
「ははあ。…………それでお袋の奴、レナに電話したという訳か。別に一日くらい、菓子パンとかインスタントで何とかするってのに。レナの都合も考えろよな、まったく」
 それでなくとも、うちの両親はレナに頼りすぎというか……そんな気がするというのに。
「あはははは。レナのことなら全然気にしなくていいよ。代わりに圭一君を好きにしていいって言ってくれたしね」
「何いっ!? 実の息子を売ったのかよお袋っ!? レナに好き勝手される? ……レナがその欲望に流されるまま……俺の若い体を思う様に……貪るように、弄んで……はぁはぁ☆ じゃない……とにかく、俺のことをなんだと思ってるんだよお袋おおぉぉ~~っ!?」
 俺は思わず頭を抱えた。
「あははは、覚悟してね☆ 圭一君☆」
 ……うあ、何だか嫌な汗が流れるなあ。冗談抜きにしてどんな目に遭わせる気なんだレナ?
 しかしそれはそれとして……。
 俺はレナの格好をまじまじと見る……というか、見てしまう。
「なあレナ? ひょっとして家に帰ってすぐに俺の家に来たのか?」
「うん。電話をもらったのがそれくらいだったんだけど、圭一君のお母さんに急いで来て欲しいって言われたから……」
「なるほど、それで制服なのか」
 律儀なレナらしいといえばレナらしいかも知れない。
 きっとお袋の慌てた声につられてレナも慌てて家を飛び出し、そしてその結果……セーラー服の上にエプロンなんてナチュラルな萌えコスチュームになっているという訳か。お袋……GJ。
いや、セーラー服の上にエプロンって萌えだよな? なんかこう、幼妻というか若奥様みたいで……その上の白のふりふりが付いたエプロンがまた男心をくすぐるというか……。それともそんなこと考えるのって俺だけか?
 そんでもって――

「お帰りなさい圭一君。ご飯にする? お風呂にする? それとも……レナ……かな? かな?」

 とか言われようものなら、俺は理性を保てるか自信がありませ……って、あれ? なんだかレナの声がやけにリアルに聞こえてきたような??
 思わずレナを見返す俺。
 そして、くすくす笑いながら俺を見るレナ。その顔は少し赤い。
 見つめ合う俺達。
「なあレナ? ひょっとしてまた俺……」
「うん、口に出していたんだよ。だよ」
 それを聞いた瞬間、俺の顔が一気に赤くなるのを自覚する。
「レナにする? 圭一君?」
「いえ。……ごめんなさい。思わず口が滑りました。許して下さい」
 微笑むレナに、俺はぺこぺこと頭を下げた。
 ……まあ、正直言うと本気でその申し出に乗ってしまいたかったけどよ……。





【TIPS:Kの妄想劇場(台所編)】


 軽快な音を立てて、レナの使う包丁の音が台所に響く。
 セーラー服にエプロンという格好で、レナが台所に立っている。
 俺はそんな光景を眺めて……背後からゆっくりと彼女に近づいた。
「あ、圭一君? もうちょっと待っててね。すぐに出来るから」
 俺の気配に気づいたのか、振り返らずに、明るい声でレナがそう言ってくる。
 それは――このシチュエーションは、どうにも形容しがたいほどに、彼女を愛おしいと感じさせた。
 そして、その愛おしいと思うと同時に湧き上がってくる表裏一体の感情は……嗚呼、もうダメだ……。とてもこれ以上は我慢できそうにない。
「はぅっ!? けっ……圭一……君?」
 元々、全く下心がなかった訳じゃない。ただもう、欲望を抑えることが出来なくなっただけだ。
 だから俺は、レナを背後から抱きしめた。
「……あ、あのね。圭一君……そんな……とこ…………触っちゃ……だめ……なんだよ。だよ」
 それも、ただ普通に抱きしめるんじゃない。欲情に任せて右手をレナの乳房の上に置き、そして左手をレナの股の間に差し入れる。
「じょ……冗談なら、止めてよ圭一君。レナ……ご飯、作れなく…………なっちゃうよぅ」
 両腿にきゅっと力を込め、そして脇を締めてレナが身悶えする。
 けれど俺はレナの抗議の声に構わず、レナの体を弄ぶ。あまつさえ、固く膨らんだ自分自身をレナのお尻の上に擦り付ける。
 ただただ、腕の中のレナの温もりや柔らかさがどうしようもなく愛おしくて……。
「ごめんレナ。……冗談じゃ……ねぇんだよ。俺はレナのこと、本気で……」

“本気で好きなんだ”
“本気で犯したいんだ”

 その止められない感情を口に出すことは出来なかった。
「圭一……くぅんっ!?」
 俺の欲望は止まることを知らず、俺はレナの体に直に触れようと……今度はエプロンの上からじゃない、その隙間からセーラー服の間に手を入れ、そしてブラウスのボタンを……。
 左手もレナのスカート越しじゃなく、腰から直接突っ込んでいく。
「やだ……。やめてよ圭一君。そんなところ……触らないでよ。は……恥ずかしいんだよ。はぁ……んんっ。それも、こんなところで……」
 けれでも俺はあくまでも強引に、そして執拗にレナの胸を……秘部をまさぐり続ける。それぞれの指から伝わるレナの柔らかい感触が、ますます俺の欲望を加速させていく。
 レナの声に甘いものが混じっているのも、さらに俺の欲情を刺激する。
「レナ……レナ……」
 我知らず、俺はレナの名前を呼び続ける。
「ダメ……。なんだよ。だってそれ以上は…………レナは……あぁっ!」
 やがてレナは小さく達したのか、俺の腕の中で身震いした。
 荒く息を吐くレナ。
 そしてレナ以上に荒い息の俺。
 左手を秘部から抜いてみると、その先に粘っこい物がまとわりついていた。
 その意味を理解するよりも早く、俺は次の行動に移っていく。
「圭一君っ!? やっ…………そんな……こと……」
 しかし、そう言いながらもレナも本気で抵抗はしてこない。口ではやめて欲しいと言いながらも、その実、心の底では期待している……?
 俺は右手をレナの胸から離し、そしてズボンのベルトを外して怒張を取り出す。
「レナ。…………いくぜ?」
 レナは答えない。
 けれど、数秒の沈黙の後…………こくりと、小さく頷いた。
 その直後、俺は数瞬すら惜しんでレナのスカートを捲り上げ、パンティを下ろし、レナの秘部を怒張で貫いていった。
「あっ…………はぁっ……ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 俺の目の前で、再びレナが身を震わせる。
 レナの小さな入り口に、俺自身が挿入されていく感触は堪らなく心地よくて……。
「お願い圭一君……優しく……して」
 その上、そんなレナのか細い声が堪らなく愛おしくて、そのくせそれは俺の欲情を煽り立ててきて……。
 俺はなるべくレナに負担が掛からないように気を遣いながらも、夢中で腰を振り――


「圭一君。ご飯出来たんだよ。だよ」
 のあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!??
 不意に居間に響いたレナの声に、俺は心の中で絶叫した。
「……?? どうかしたの圭一君? そんなに驚いた顔して」
「え!? あ、ああ……いや、別に何でもない。予想よりも随分と早く出来たから、ちょっと驚いただけだって」
「そうなの? まあいいけど。でも、もうご飯出来たから冷めないうちに来てね圭一君」
「おう、分かった。今行くよ」
 や……やっべぇ……最初はニュースを見ていたはずなのに、完全に妄想に浸ってたぜ。あ、危ないところだった……。
 廊下から顔を引っ込め、台所に戻っていくレナを見ながら、俺の背中には滝のような汗が流れていた。





「圭一君。美味しい?」
「ああ。この顔見りゃ分かるだろ? いやー、やっぱりレナの作ってくれるご飯は美味いよなあ☆ 昨日もらったこの漬け物なんて最高だしよー」
「うん、冷蔵庫の中見てみたけどずいぶん減ってたよね。気に入ってくれたみたいで、レナも嬉しいよ」
「うんうん。それにこのご飯の炊き加減やみそ汁もそうだけど、この肉じゃがなんてもう美味いの一言以外言えないぜーっ!!」
「あはは、冷蔵庫の中の物も全部好きに使っていいって言われたから、適当に作ったんだけどね」
 にこにこと笑ってくれるレナが本当に見ていて嬉しくて……。俺は精一杯にレナの手料理を口に運んだ。
 俺一人だけだったら、きっとこれだけ楽しくはなかったんだと思う。お袋の急な我が儘に応えてくれたレナに、俺は心の底から感謝した。
「――けどさ、帰らなくていいのか? 確かにレナと一緒の方が楽しくていいけど、何もずっと俺の食事に付き合わなくてもいいんだぜ? レナも一緒に食べてるってわけじゃないしさ」
「ううん、気にしないでよ。…………圭一君が食べ終わって、食器を洗ったら帰るつもりだから」
「そうか? まあ、洗い物ぐらいなら俺がやるつもりだったけど……」
 けれどレナは苦笑を浮かべてくる。
「う~ん。でも、お皿とか割らないかちょっぴり不安かな。かな」
「ひでぇなあ。確かに家事は苦手だけど、いくらなんでもそこまで非道くは…………ない……と思うぞ? 多分」
「あははは。うん…………そうだね。でも、圭一君が嫌じゃないなら洗い物を片付けるところまでやさせてくれないかな?」
「いや、俺も別に嫌って訳じゃないぜ? ……レナが大丈夫だって言うなら、よろしく頼むよ」
 俺がそう答えると、レナは笑顔で頷いた。
(…………?)
 …………けれど、俺はそんなレナの笑顔に、どこか違和感を覚えた気がした。それはなんだか、彼女がほっとしたように見えたようだったからだ。
 何故ほっとしたように見えることが、違和感に繋がるのかはよく分からなかったけれど。





「はぁ~☆ 極楽極楽☆」
 湯船に浸かって、俺はお決まりの台詞を口にする。
 我ながら年寄り臭い気もするけど、……まあやっぱり風呂に入ったときのお約束だからな。いやむしろ日本人の本能と言えるか?
「圭一君、湯加減はどうかな? かな?」
「ああ、丁度いいぜ。しかしまさか夕食だけじゃなくて、風呂まで用意してくれるなんて……。本当にありがとう、レナ」
「ううん。気にしなくていいよ。お水を張ってガスを点火するだけだもの。お夕食の準備とかしているときに、一緒に出来るんだよ?」
「いや、それは分かってるって。それでも……レナにそこまでしてもらえて、嬉しいっていうかさ」
 そりゃ、俺だってそんな年頃の健全な男であるわけで……。こういうシチュエーションに憧れが無かった訳じゃない。
 そういう意味でも、どこかいつもの風呂とは違っている気がした。
「そう? うふふふ。なんだか圭一君にそんなこと言われると照れくさいかな。かな」
 曇りガラス一枚を隔てた向こうで、レナが笑う。
「でも圭一君。それ、圭一君のお母さんにも言ってあげないとダメだよ?」
「……ああ、そうだな。いつも俺達の夕食を作ってくれて、お風呂だって沸かしてくれるもんな」
「そうだよ。ちゃんと感謝しなくちゃね」
 そう言ってくるレナの言葉には、静かだけれど不思議なくらいに胸に響く力が籠もっていた。
「なあレナ。まだ帰らなくていいのか? ……もう、だいぶ夜も更けてきたけどよ」
「うん。…………圭一君がお風呂を出たら帰るつもり」
「そうなのか? じゃあ、なるべく早くあがるようにするよ。悪かったな」
「あ、……ううん。そうじゃない。そんなつもりじゃないの。だから圭一君はゆっくり入っててよ」
「いや、そうは言ってもさ……」
「いいから……」
「あっ、おいレナ?」
 しかし、話はそれでおしまいと言わんばかりに、レナは脱衣所から出て行った。
 でもそう言われて早く出てしまうと……かえってレナに気を遣わせてしまいそうで……。
 俺は折角だから、いつもより長めに風呂に入ることにした。





【TIPS:Kの妄想劇場(お風呂編)】

湯船から上がり、俺はシャワーの蛇口を開く。
湯加減を調節して、タオルに石鹸を――
「ねえ圭一君。……背中、流してあげようか?」
「おわあああぁぁぁ~~っ!?」
 不意に背後から声を掛けられ、風呂場に俺の声が響き渡る。
「れ、レナっ!?」
 慌てて俺は背後を振り返って……そこで、硬直する。
 あ……あの、レナさん? そこで何をなされているのですか?
「は、はぅ~。あんまり見ないでよ。恥ずかしいよぅ」
「あっ……ああぁぁっ!? あぅあぅ……その……すまん」
 俺は急いでレナに頭を下げ、目を固く瞑った。顔も元の方向に戻す。
「い……いやでもちょっと待てよレナ? どうしていきなり……? というか、タオルとか……」
 一気にのぼせた頭で、そんな疑問が湧いて……でもやっぱりわけが分からなくて、頭の中が益々熱くなる。
「ふふっ☆ 圭一君……こういうの嫌い?」
「いやそんなことは……ねぇ……けどさ」
 なんだかんだ言って、しっかりはっきりとさっきの光景は脳内に焼き付けたし……。
 や……やべぇ、そんなこと考えたら、オットセイ☆が……はぅ。
「あれれ? 圭一君、どうしたのかな? かな? そんなところ手で押さえて……」
「ごご……ごめんレナ。俺……そんなつもりは無くて……でも、その……つい」
 恥ずかしさで、消えてしまいたい。
「うふふ。……圭一君の、えっち☆」
 ううぅ、本当にごめんよレナ。今すぐ何とか抑えるから。えーと……羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……って、羊は「頭」で数えるんじゃないのか? いや、そもそもそのツッコミもおかしいってっ!? これは眠れないときの暗示だろっ!?
「ねえ……圭一君」
「おひゃああああぁぁぁぁ~~っ!?」
 風呂場に俺の絶叫が響く。
 だっ……だってあれだぜ? 急に背中にあったかくてすべすべしてふにっ☆としたやぁらかいものが押し付けられたんだぜ? そんでもってその真ん中に固い芯があるんだぜ?
 こ……これはひょっとしなくても、レナのおっぱい……だよな?
 しかも胸を背中に押し付けながら、裸のレナが俺に抱きついてくる。
 レナの手のひらが……細い指が俺の胸を愛撫した。
「ん……凄い。圭一君の胸、凄くドキドキしてる。レナと一緒だね」
「あ、……あああ」
 レナが俺の耳元で囁いて……その甘い口調に、俺の理性は吹き飛びそうになる。オットセイ☆は収まるどころか更にギンギンに固く大きくなっていく。
 レナの頬が俺の頬に当たる。レナに抱かれながら……レナの温もりを感じながら、頭ではここで止めないといけないと思っているのに、彼女を振り解くことが出来ない。
 ああ、レナの手が胸から腹へと下ってくる。
「レ……レナ。ダメだ……その。それ以上されると俺……もう。さっきからずっと……」
「ううん。……は、恥ずかしいのはレナも一緒だよ。だよ。でも……やっぱり嫌かな? かな? レナなんかに圭一君の大事なオットセイ☆を触られるのは、やっぱり嫌かな?」
 そう言って、オットセイ☆を抑える俺の手のひらにレナが手を重ねてくる。
「いや、別に……そういうわけじゃ、ないんだぜ?」
 本音を言ってしまえば、今すぐにでもレナの手首を掴んで、レナの細い指を俺のものに絡めてしごいてしまいたいくらいだ。

「じゃあ……いいよね?」

 その言葉はまるで魔法のように、俺から意思を奪った。ふと、女っていうのは男にとっては生まれながらの魔女なんだと思った。
 力無く、レナにされるがままに、俺は自分のものから手を離した。そして、俺の欲望の通りにレナの指が俺のものに絡み付いてくる。
 思わず呻き声が漏れた。
「凄い。男の子のって、こんな風になるんだ。凄く固くて、熱くて、血管がどくんどくんっていってる」
「レ……レナ。はぁっ……ああぁっ!?」
 全身が強ばる。もう、射精したくてしたくて堪らない。
「ごめんレナ。……俺……俺、もう。頼むから……その、こ……擦ってくれ。このままだと頭がおかしくなりそうだ」
 俺は半ば涙目になりながら、レナに懇願した。
「う、うん。……分かった……よ」
 どうして急にレナがこんなことをしに来たのか、俺には分からない。けれど、今となってはもうどうでもいい。
 ……レナがゆっくりと、俺のものをしごく。
 それが気持ちよくて……でも優しすぎて、かえって生殺しを味わう。
 俺はもう、喘ぐことしかできない。
 緩慢な高まりに、気が狂う。
「どう……かな? かな? やっぱり……変?」
 俺は必死で首を横に振り、否定する。違う。気持ちよすぎるんだよレナ。
「いいから……そのままで」
 それだけを言うのが限界だった
じわじわと、迸りが俺のものへと駆け上がってくる。
「はっ……ああぁっ! くっ! うぅ」
そして、俺はレナの手によって、白濁した欲望を吐き出した。
……びくんびくんと、レナの手に包まれながら、俺のものが激しく脈動して、どろりとした精液がレナの指を汚していって――


(――いや、んなことあるわけないのは分かってる)
 そう、よく分かっているのだが……。
どうにも、オットセイ☆が収まってくれない。
一体俺は何を妄想してしまってるんだよ? しかもレナでっ!?
ああ……頭がのぼせる。
オットセイ☆をギンギンにおっきさせながら、俺はなかなか湯船から出られずにいた。





「あー、いい湯だった」
 やっぱりお決まりの台詞だよなあと思いながら、俺はパジャマに着替えて居間へと向かった。レナはソファーに座りながら、テレビを見ていた。
 そして、レナが笑って俺を迎えてくれる。
(……ああ、やっぱりいいよな。なんかこう、新婚さんみたいでさ)
 ふと、そんなことを考えてしまい。どこか和むと同時に照れくさいものが沸き上がる。……何考えてるんだよ俺? そんなの、レナに失礼だろうが? いや、そりゃあついさっきまでもっととんでもないこと考えてしまっていたけどさ。
 思わず顔が赤くなる。
「あ……それじゃあレナ、今日は本当にありがとうな。もう帰るんだろ?」
 …………あれ? そうじゃなかったのか?
 どうしてレナ、そんな寂しそうな顔するんだよ?
「あ、あははは。それなんだけど圭一君、レナもお風呂使わせて貰っていいかな? かな? ちょっと汗が気持ち悪くて……」
 笑顔を浮かべながら、レナがそんなことを言ってくる。
 けれど、その笑顔がどこか虚ろに見えたのは気のせいなのだろうか?
「あ、ああ……別にそれくらい構わないけど」
 何か引っ掛かるものを感じながら、俺はレナにOKを出した。いや……断る理由が思い付かなかったから、ついOKを出してしまった。
「本当? ありがとう、圭一君☆」
 やっぱり気のせいなのだろうか? 今度浮かべるレナの笑顔は、本当にほっとしたように輝いていた。





【TIPS:戻れない道】

 湯船につかりながら、私は溜め息を吐く。
 ……本当に、最初は圭一君がご飯を食べたら帰るつもりだった。圭一君がお風呂から上がったら、今度こそ帰るつもりだった。けれど……。
(図々しいって思われちゃったかな?)
 ううん、確かによその家にこんな夜遅くまでいるのは図々しい。きっと圭一君はそうは思わないだろうけど、でも変に思ったんじゃないかとは思う。そんなの、嫌だけど。
 ああ、このまま時間が止まってしまえばいい。ううん、いっそのこと時間が巻き戻ってしまえばいいと思う。
 風呂は命の洗濯? 嘘だ。そんなの嘘だ。逃避すら許してくれないじゃないかっ!!
「……っく……うぅ」
 湯船の中で、私は裸の自分を抱き締める。
 もう、涙も出ない。




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最終更新:2008年04月06日 19:15