詩音の顔が真っ青だ。ほんの数分前はいつもみたいにじゃれあって笑いあってたのに。
詩音に何があったのか、私には分からない。分かるわけない。
でも一つだけ私に分かるのは詩音が何かに怯えてるっていうことだけだった。



いつものように部屋で漫画を読んでいたらピンポーンと呼び鈴の鳴る音がした。葛西が何かの用件で訪ねて来たのかと思ってドアを開けてみたら、そこにいたのは私と瓜二つの容姿をもつ姉の魅音だった。

「ごめんね~詩音。いきなり来ちゃって。でもさ駅前の詩音が食べたがってたケーキ屋のケーキ買って来たんだよ。一緒に食べよ!」

「お姉単体ならお断りですが、ケーキも一緒なら話は別です。さ、上がって下さい。紅茶いれますよ。」

そうしてケーキを一緒に食べながら雑談に華を咲かせていたときだった。

「詩音。聞いて聞いて。私ねまた新しいスキル身につけたんだ!何だと思う?」

予想もつかない。
だって園崎家次期頭主としての修行で身につけたスキルはともかくお姉自身が趣味で身につけたスキルなんて今までろくなものがなかった。

「なんとなんと!マッサージのスキルなんだよ~。おじさんねー無駄に頑張ったんだからさー。ほらっ詩音そこに寝て!今からやってあげるからさ!」

そうして私はお姉の強引さになすすべなく、練習台とされたのだった。
最初は侮っていたお姉のマッサージの技術だけど、これはなかなか…

「さすが次期頭主ですねぇ。なんでも器用にこなしますね。感心します。」

「べっ別に。次期頭主だからとか関係ないじゃん!たださ、最近詩音バイト夜ばっかだし、沙都子の面倒みたりで疲れてるな~って思ったから体の疲れくらい和らげてあげたいなって思って」

お姉のこういう所が私は大好きだ。なんだか急にまだ私たち二人が幼かった頃に戻ったような気がした。回想に浸りすぎていたのだろうか、どうやらボーッとしすぎていたようだ。お姉の私を呼ぶ声で現実に引き戻される。

「詩音?どう?気持ちいい?」

「ん~?もうちょいそこのあたり強くです。」

「え?ここらへん?」

マッサージをしているうちにだいぶ体勢がかわっていたらしい。完全にお姉が上、私が下になってしまった。



…不思議な既視感。なんだろう。この感じ。ふいに脳裏にあの出来事がフラッシュバックする。思い出したくない封印したはずの記憶が蘇ってくる。
あれは、あの最悪の出来事は、私がルチーアに幽閉されてから三ヶ月後のことだった…。

幼少期の不運な事故。それと相まって生じた『詩音』としての冷遇。今まで『魅音』としての寵愛を受けていた私には辛いものだった。そして鬼婆が下したルチーア学園への入学。
私の精神面は最悪だった。
ルチーアに入学してからも毎日が無気力で生きた心地がしなかった。毎日が地獄だった。
いっそ生まれた時に殺してくれていたら…と考えたことも一度や二度じゃない。
もともと朝が弱かったのもあって遅刻を繰り返していたうちに私は入学早々問題児のレッテルをはられてしまった。規律に厳しいルチーアのことだ。私の存在が気にくわなかったのだろう。私は上級生にも睨まれてしまっていた。

入浴が終わり自室でベッドに突っ伏していた時の事だった。ノックの音がする。
私の部屋に訪ねてくる人なんか今まで一人もいなかったから誰かなんて見当もつかない。
ドアを開けるとそこには全然面識のない上級生三人。

「今日はシスター不在のため、私たち三人がこのフロアの部屋の巡回を務めさせていただいています。」

なるほど、腕に着けた腕章。風紀委員だ。シスター不在の時は風紀委員が見回りだっけ。
この学校では勉学に関係ない所有物はいかなる理由があろうと没収される。まぁ私は雑誌だのなんだの上手く持ち込んでいたけれど。
適当に社交辞令でも述べてからさっさと帰してしまおう。

そう思っていた矢先の事。いきなり後ろから羽交い締めにされた。身動きがとれない。そのまま抵抗することも出来ずに私は押し倒された。
視界が真っ暗になる。どうやら目隠しをされたらしい。相手の表情が分からない。突然の出来事で全く頭が働いてくれない。怖い。
ひやっと身体に感じる冷気。それだけでも視界を失って敏感になった私の身体には刺激となったようで、ビクッと反応してしまう。
二人がかりに両手両足を押さえられて、ただ私は抵抗することも出来ず裸にされるだけだった。
胸に不快感。卑猥な水音がするたびに顔をしかめたが、舐められてるうちに不快感は快感へと推移していく。
相手は何も喋らない。部屋にはただ私の喘ぐ声と水音が響くだけ。それが一層女に犯されて感じてる自分への嫌悪感に繋がる。
私が気にくわなかったのなら顔でもぶん殴ればいい、いくらでも蹴ればいい、それでもこんな事をされるよりは、はるかにマシだ。
性的な手段で私の抵抗力を削いでから鬱憤を晴らすなんてやり方が下劣だ。
しかし頭とは違い身体は相当に敏感になってしまっているので下を弄られる時にはそんな考えは吹き飛んでしまっていた。
一人が私の秘所を舐める。充分濡れたのを確かめると指を私の中にいれてくる。グチャという卑猥な音。そして中を掻き回すために生じる音と喘ぎ声。
自分の声とは思えない程の甲高い声が響く。秘所から与えられる快感はもはや私の羞恥心を凌駕してしまっていた。だんだん絶頂が近づき私はそのまま意識を手放した。

翌朝目を覚ますと私はベッドの中にいた。身体に付着したであろう自身の体液は綺麗に拭き取られていた。しかし腰に残る鈍痛が昨日の出来事を思い出させる。
そっか。私、女にヤられちゃったんだ…
自分で再認識すると急に悲しくなっていつの間にか両頬には涙が伝っていた。
私が鬼婆の決めた命令をやぶってルチーアを脱走したのも、あの出来事があったことは大きい。
あれ以上ルチーアで生きていける自信がなかった。
勿論この事は誰にも言ってない。私にとって思い出したくもない悪夢だったから



魅音の声で意識が戻った。どうやら私はルチーアでの記憶がフラッシュバックしてきたときに顔面蒼白になったあと気を失ってしまっていたらしい。
魅音の心配そうな顔が目に入る。
私は魅音に抱きつくと、この嫌な思い出を消し去るために私の片割れからするこの世で一番安心できる甘い香りに身を任せるのだった。

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最終更新:2008年03月10日 10:34