【人の一生をサイコロにたとえて語っていたのは誰だったか、私は思い出せずにいる。

 もしも始めに幸先よく6を出してもその次には1が出るかもしれないわけで、
 結局サイコロを転がせば転がすほどにその出目は
 平均値という名の予定調和へ導かれるとかいう、あの話だ。
 誰にでも思いつきそうな分、逆に説得力のある喩えだと思う。

 だけど、もし、もしも転がるのを止めたサイコロが『7』の目を出したなら、
 サイコロを振ったその人は何を思うのだろう。
 あるはずの無い結果に腹を立てて振りなおしを要求する?
 それともその数字を理解し切れぬままにただ流されていく?

 でも、よく考えて。現実に7が出た以上、形而上学的という言葉を認めない限り
 それは最初からサイコロに7の目が存在していたということになるでしょう?
 だから、サイコロを振ったあなたは自分以外の何者も責めることができない。
 だってあなたはそれを確かめないままサイコロを振ってしまったのだから。

 そしてあの時、私もまた同じように、確かに『7』が刻まれたサイコロを振っていたのだ。
 神様のいたずらなんて言葉じゃ、私にはとても受け止められそうにないから、
 だから、あの日起きたのはつまりはそういうことなんだと思っている。】


                     2冊目のノート 1ページ



       < ひぐらしのなく頃に:詩音アナザー >



             昭和59年 初夏



どうせ降るなら今日みたいな日にこそ降ってくれればいいのに、
そうすれば雨音でこの耳障りな声を聞かなくてすむんだから。
グラウンドの隅にある体育倉庫の中、
私はマットの上に寝そべりながら梅雨の合間の青空に悪態をついた。

月曜でもない今日という日にああやって全校集会を開くというのは私にも簡単に予想がついた。
同時に、高校入学から2ヶ月目にして早くも無断欠席の常習犯となった私が
間違いなくそれをエスケープすることも。
だけど、今日に限ってはただサボるんじゃ面白くない。
どうせなら連中の趣向を台無しにするくらいのことをしてやりたかった。
今、体育館の中にはちょっとした「お楽しみ」が仕掛けてある。
見つかったらきっと大騒ぎになるだろう。
でも別に気づいてもらえなくたって構わない、むしろそっちの方が滑稽かもしれないし。
要するにどっちだっていいんだ、愉快なことに変わりはないんだから。
私はここでその「お楽しみ」が戻ってくるのを待っていればいい。

それにしても、まさかこんな所にまで校長の声が届くなんて思っていなかった。
スピーカーを通して聞こえてくるその声は細かい内容を聞き取れるほど大きいわけじゃない。
だいたい、どんなことを話しているかなんて聞かなくたって分かってるんだし。
ただもう断片的な言葉が耳に届いてくるだけでも
考えたくないことが頭をよぎって私をイライラさせるのだ。
さっさと話を終わらせるなり黙祷でもするなりして黙って欲しいと思う。
ああ、やっぱり別の場所を探せばよかったのかな……

綿流しのお祭りを間近に控えたちょうど一年前の今日、
雛見沢村一帯で火山性のガス災害が突如発生した。
運悪く、と言うべきなのか。発生時刻が人々の寝静まる深夜であったために警察や消防への第一報が遅れ、
結果として死者1000人を越す未曾有の大惨事となってしまった。
誇張でも物語でもない。ひとつの村が、一夜にして滅びたのだ。
知り合ってまだ間もなかった前原圭一も、大人のくせして冗談ばかり言っていた監督も、
八つ裂きにして豚に喰わせようともまだ憎み足りなかったあの鬼婆も、みんな、死んでしまった。

……そして最近、私は魅音の顔が思い出せなくなっている。
お互いになりすませるほどそっくりな双子だったのだから鏡を覗き込めば済みそうなものなのに、
あの子がどんな風に笑っていたのか、泣いていたのか、どうしても思い浮かべることができない。
まるで心の中に穴でも空けられたような気分だった。
それも深くて、真っ暗で、落ちたら二度と上がってこれないような穴。
実際、私の中にあったものの幾つか、
例えばオヤシロさまの祟りに対する疑念とか、鬼婆や園崎家に対する憎しみとか、
そういう気持ちはもうこの穴に飲み込まれてしまったんだと思う。

おかげで私は自分が生きていることにすっかり現実感を無くしてしまった。
半年ほど前にようやく興宮地区の封鎖が解除され、人々の暮らしは元に戻りつつある。
それでも私は、あたかもひとり取り残されたようなつもりになって
実家にも戻らずあのマンションで暮らしている。
ましてや、あんな朝礼に出る気にはとてもなれなかった。
私のこの気持ちを、あのつまらない連中なんかと分かち合えるはずがないんだから。


――――ゴン、ゴン
鈍いノックの音で、私は沈みかけていた意識を引き戻された。
ここは体育倉庫。常識で考えたらノックをして入るような場所じゃない。
それでもノックをするというのは、つまりは意味がある――私が中にいるのを知っているからだ。
どうやらボーっとしている間に全校集会は終わったらしい。
「どうぞ、入ってください」
私はマットから起き上がって扉の向こう側にいる人間を招き入れる。
返事の代わりに鉄製の扉が横に開いて、隙間から日の光と共に『彼女』がその姿を覗かせた。
「お疲れ様。どうでした?初めて高校の朝礼に参加した感想は」
「別に、何もないけど……」
音がしないようにそっと扉を閉めて私の方に近づいてくるのは
ショートヘアの片サイドをゴムでまとめた、少し背が高めの女子生徒。
「誰かに気付かれたりしませんでした?」
「大丈夫だったと思うよ……多分」
衣替えをしたばかりの制服から伸びるのはすらっとした細い手足。
整った顔立ちも合わさって一見すると大人しそうな美少女だと、大抵の人はそんな風に思うのだろう。
ただ、注意深い人が見ればもしかすると気付くかもしれないのだ。
女の子にしてはやや広めの肩幅や丸みを欠いた手足が生み出すわずかな違和感に。

「えー、今日もまたバレず終いだったんですか?つまんないなぁ」
わざとらしい言い方をしてため息をついて見せたが彼女は何も反応してくれなかった。
体育倉庫の中に入ってきた時からその表情はずっと暗く沈みきったまま、
目だってどこを見ているのか分からないほど虚ろなのだが、これはもう『いつものこと』だから気にしない。
「こうまで気付かれないってことはよっぽどその格好がはまってるんでしょうね。
 街中で噂になってるかもしれませんよ?ナゾの美少女、みたいな感じで」
……気にしないから、私はあえてさらに煽るようなことを言う。
「やめてよ……そんなことあるわけないし、嬉しくもないよ」
「ホントですかー?誰だって自分のこと褒められたら嬉しいに決まってるでしょう?
 まして可愛いなんて言われて嫌がるオンナノコなんているはずないじゃないですか」
「…………ッ」
私は彼女の前に立って赤みが増してきた頬を撫で上げてやる。
本当に、今ではもう気にも留めなくなってしまった。
でもその代わりに、この抜け殻みたいな顔を壊してやりたい。
「も、もう、いいでしょ?朝礼は終わったんだから、早く着替えさせてよ……」
ああ、少し崩れてきた。本気で恥ずかしがっているんだ。
この子の中で感情が動いた。たったそれだけのことが私には嬉しくて仕方ない。
もっと苛めてあげる、もっとこの子の心を揺さぶってあげるんだ。
「そうだ、今度はちょっと遠出して朝の満員電車に乗ってみましょうか。
 このくらい可愛ければもしかして痴漢に逢えるかもしれませんよ?」
「そ、それはさすがにまずいよ!もし本当に痴漢なんかいたら大騒ぎになっちゃうじゃないか」
「なに言ってるんですか、今日だってバレてたら間違いなく大騒ぎですよ。
 どうせならお尻だけじゃなくて前も触ってくれるような大胆な奴に来てほしいですよねー 
 きっとビックリしますよ、女の子だと思ってスカートの中触ってこんなのが生えてたら……」
そう言いながら私は彼女の後ろに回ってスカートをめくる。
フリルのついた下着の中央から、本来女の子にはあるはずのないふくらみが現れた。
「あ、やっ、だめ、だよ……詩音、こんなとこで……」
抗議の声も聞かず、私はそのふくらみに手を伸ばす。
私の手の中で、それは硬さと熱を伴いながらまるで生きているかのように大きくなっていた。
「あ~あ、やっぱり大きくしちゃってたんですね。
 人前で女装して興奮するなんて……まるっきり変態のすることじゃないですか」
「ち、違うよ、そんな……っ」
もう完全に勃起しているのだろう。亀頭が下着の上からはみ出ているのが背後からでも見えた。
「……ふふ、まだ何にもしてない内からカチンカチンなんて、
 この調子で痴漢なんかに遭ったら触られるだけでイッちゃうんじゃないですか?ね『悟史くん』☆」


……そう、この子は『彼女』じゃない。
去年の綿流しの後、突然行方不明となった、あの、北条悟史くんだ。
悟史くんは戻ってきたのだ、私が願い続けてきた通りに。
それもガス災害発生の数日後、まるでそれを待っていたかのようなようなタイミングで。

今思えば、鹿骨市内の県道沿いで悟史くんを発見したのが
園崎組の中でも特に葛西に近しい組員だったのは本当に幸運だったと言う他ない。
もしもこれが別の人間だったら、悟史くんをどう扱うかは別にして、
少なくとも私の元へ真っ先に知らせが届くことは無かったのだろう。
ただ正直な所、悟史くんが生きていたと聞かされた時、私の心の中では
純粋な嬉しさよりも先に、抜け落ちた魂が半分だけ戻ってくるような、
ぼやけていた視界が少しだけはっきりするような、そんな感覚が湧いていたような気がする。
やっぱりたった一日で現実の全てがカタチを変えてしまったショックは大きすぎた。
素直に喜べなかったのだ。
それでもこれが今の自分にとってただ一つの救いであることは間違いない、と
私はそう思い直すと、すぐさま悟史くんが匿われているマンションへ向けて家を飛び出していた。

けれど、そうして1年ぶりに再会した悟史くんは
その「救い」という言葉ごとかき消してしまいそうなほどに変わり果てていた。
組の息がかかった医者の話によれば発見された時点でかなり衰弱していたらしいが
私の目には身体よりも心のほうが危ういように映っていた。
これでも今では随分とましになった方だ。その時の悟史くんは
笑うことも泣くことも、まるで最初からできなかったんじゃないかと思わせるくらいに
生気を失くしていて、何事に対しても無反応だったのだから。
当然、失踪の理由や今までどこで何をしていたのか、
何を尋ねても口をつぐんだまま答えてはくれず、部屋の中でただ塞ぎ込んでいるだけ。
でも、それでも構わない。こうして生きていてくれたことに比べたら
私にはそんな小さなことはどうでもよかった。
そんなことよりも、悟史くんが元気を失くしてしまったのなら私が取り戻してあげるんだと、
私はその時、そう決心をしていたのだ。
不思議なものだと思う。自分だってつい1時間前までどうしていいか分からずにいたのに
たった一つのきっかけであんなに強い気持ちが持てるのだから。
私はその後、まず悟史くんの隣に自分用の部屋を用意して
組の人間に悟史くんの存在を外へ漏らさないよう徹底させた。
それから、悟史くんが好きそうな料理を苦手なりに作ってみたり、
なるべく明るくなるような話題を選んで話してみたり、
……相談できるような相手は、もういなくなってしまったから、
とにかく自分に思いつく限りの方法で悟史くんに元気になって欲しいと訴え続けた。

……結局、自分のしていることが無駄なんだと気付いたのはそれから半年くらい経った頃だったと思う。
諦めたくなんかない、そんなのは当たり前だ。
でも、いつも先頭に立って皆を引っ張っていたような魅音とは違って
これまで勝手気ままに生きてきた私には元々他人を元気づける力なんて無かったのだと、
再会した日からまるで変わることのない悟史くんの姿を見て思い知らされた。
それに、その時にはもう時間が残されていなかったのだ。
「この調子が続いたら長くはもたない」
ある日、点滴を打ちに来た医者にそう言われた。
実際、悟史くんは私の用意した食事をほとんど食べてくれず、
このままでは気力の回復よりも先に体力がもたなくなるのは私の目にも明らか。
周りの組員からはとうとう私の身体の方を心配される始末で、
限りなく遠まわしに「諦めろ」と言われたりもした。
もう一度悟史くんのあの笑顔が見たい、でも私にはそれだけの力が無い。それは理解できる。
このまま私が諦めれば、きっと悟史くんは死んでしまうのだろう。
考えたくもないけど、悟史くん自身もそれを望んでいるのかもしれない。

――どうしても、それだけは、どうしても許せなかった。

「んんっ、はっ、あ、はぁ、やぁ……っ」
「それにしても怖いくらいよく似合ってますよねー、
 今日はちょっとまつ毛を整えてリップ塗っただけなのに。ホント、女としては複雑な気分ですよ」
硬く張りつめたペニスの真ん中辺りを握りしめて優しくゆっくりとしごき上げる。
まだ触り始めたばかりだというのに、悟史くんの声は
まるで本物の女の子が出すような潤んだものに変わっていた。
私が今一番気に入っている『遊び』が、こうやって悟史くんを女装させること。
最初は単なる思いつきだった。なのにそれがあまりにも板についているものだから
私の方もすっかり味をしめて、
最近では悟史くん専用の服を買ってきてあげるくらい夢中になってしまったのだ。
「あ、んっ、うぅ…………あ、あのっ、しお、ん……」
しばらくゆっくりとした速度で右手を上下させていると悟史くんが請うような声を出した。
悟史くんの言いたいことは分かっている。手の動きが遅すぎて達することができないのだ。
でも、そう簡単に射精させてあげるわけにはいかない。それでは意味がない。
「ふふ、かわいい。もうそんな顔しちゃって……
 ねえ悟史くん、朝礼の間もやっぱり大っきくしてたんですか?」
「え……?し、してないよっ」
「ウソばっかり。今まで街中を歩かせたことはあっても大勢の前に出るは初めてでしょう?
 そんな所で女装の大好きな悟史くんが興奮しないわけないじゃないですか」
「だから、僕はそんな、ゃ……ひゃっ、ああぁっ!」
否定しようとする声をペニスを握る手に力を込めて黙らせる。
「女子の制服着てオチンチン勃たせながら言っても説得力ありませんよ。
 どうせ私と悟史くんしかいないんだし、正直に言ったっていいじゃないですか。
 あんまり意地張ってると、もう続けてあげませんよ?」
「あ、あぅ、そんな……!」

私が言葉どおりにペニスから手を離すと、悟史くんは途端に辛そうな顔でこっちを振り向いた。
いつものこととは言え、何て正直な反応だろう。
「いいんですよー、私はここで止めたって。精子、出したいんでしょ?苦しいんでしょう?
 そんな状態で帰ったら今度こそ途中でバレちゃうかも知れませんよ?」
「は、あぁっ……ゃ、あ、そんなの、やだ……」
空いた右手でブラウスの上から乳首を探りながら耳元で囁く。
程なくして指先が乳首に触れると、私はそれを弱い力でくすぐるようにつまみ上げた。
悟史くんは目に涙まで浮かべて切なそうなため息を漏らしている。
このまま頬擦りしたくなるような可愛さだ。
……そしてこの顔を見ていれば分かる。悟史くんは私の誘惑に逆らえない。
最近になって気付いたことだが、悟史くんは快楽に対しては驚くほどに素直だった。
今では私に射精させてもらうためなら大概の言うことを受け入れてしまう。
どういうつもりなのかは分からない。でも、私にとっては好都合なのだからそれで十分だ。
「さぁ、これ以上我慢なんてしたくないでしょ?ここで素直になればもう苦しまずに済むんですよ……?」
まるで洗脳のような文句、自分でもそう思う。
だけど、多分失踪以来本当に辛い思いを経験してきた悟史くんにはこういう言葉の方が効果がある。
ほら、現にこうやって生唾を飲みこんで……
「ぁ、あ……ごめんなさいっ。た、勃たせてました……大勢の人の前に出て、
 お、オチンチン、ガチガチに勃起させてました……!」
「ハイ、よくできました☆そうそう、やっぱり素直な悟史くんが一番ステキですよ。
 さぁ、ごほうびにイかせてあげますからねー」

「それじゃあ、ここに座ってください」
悟史くんを平均台に座らせると、私は再び正面に回ってその足元に座り込んだ。
既に亀頭は真っ赤になって先走りがにじみ出ている。本当に限界なんだろう。
「……こうして見てると、なんだかオチンチンの方が不自然に思えてきちゃいますね。
 他は完璧な美少女なのにココだけこんなにグロテスクなんて悪い冗談みたい」
「あ、あぁ……そんなこと、いわない、で…………ぼく、もう……っ!」
「ああ、はいはい。もう、ちゃんとイかせてあげますからそんな顔しないで下さいよぉ」
今度はもう焦らすような真似はしない。下着を膝下までずり下ろしてから
再びペニスを握った私は徐々にペースを上げつつその手を上下させる。
そうしてもう一方の手を使い、鈴口から溢れる先走りをすくい取ると
わざと音を立てるようにして手のひらで亀頭全体になすりつけた。
「好きなんですよね?こうやってガマン汁を先っぽにニチャニチャさせるの」
「く、ふぅぅっ!うん……うんっ、きもち、いいよぉ……っ」
じっとしていられないのか、悟史くんがしきりに身をよじらせ始める。
溢れ続ける先走りがペニスをしごく手のあたりにまで垂れてきた。
私は時折手の速さを変えたり内股を撫で上げたりして更なる刺激を促す。
「……さぁ、もうそろそろなんじゃないですか?遠慮なんかしなくていいんですよ。
 変態の悟史くんは女の子の格好しながら私に手コキされて射精しちゃうんです。
 でも、仕方ないですよねー、変態なんだからこのまま精子出しちゃっても」
「やだ、やだ……ぁ、ふぁぁっ!へんたい……じゃ、な……」
「まだそんなこと言ってる。だったら……こんなことされても我慢できますか?」
私は仕上げと言わんばかりにペニスの鈴口を人差し指で押し広げた。
そのまま指を穴の奥に潜りこませるようにねじり込むと悟史くんの嬌声が一際高くなった。
「くっ、ううぅぅぅっ!そ、それっ、尿道、ダメ……出る、ほんとに、出ちゃうぅぅっ!!」
「ふふっ、いつでもいいですよ……
 悟史くんの白くてドロドロの精子、いっぱい出してください」
「ちがう……のっ、このままじゃ……でちゃう……」
「だから、出していいんですってば。ほらあっ……!」
「ひゃうっ!い、いっちゃ……ぅ、ぅぁああぁぁぁぁっ!!」
悟史くんが叫んだのと同時に、ペニスから弾けるように飛び出した白い飛沫が私の顔めがけて降り注いだ。
焦らしに焦らしただけあって量も濃さもいつも以上に凄い。肌の上で熱ささえ感じるほどだった。
「……うわぁ……いっぱい出しましたねー、
 もう、毎日してあげてるのに、どこにこんなに溜めてたんですか」

「っ……はぁっ、はぁっ……うぅ…………ごっ、ごめん!僕……」
最後まで出させてあげようとペニスを弱めにしごいていると、悟史くんがそう言って頭を下げてきた。
まだ表情は半分呆けたままだが、それでも本当に申し訳なさそうにしている。
……ああ、顔にかけたのを謝ってるのか。
私にとってはこんな行為をしている時点で
今更どうでもいいことなのに、それを気にする辺りが悟史くんらしい。
……というか、こんな時にかつての悟史くんらしさを感じるなんて皮肉だとしか言いようがない。
でも、これはこれでかえって面白いかもしれない。
元々悟史くんにはもっと嫌がってもらわなきゃいけないんだから。だったら、これはチャンスだ。
「……そうですよね。私、出していいとは言いましたけど、顔にかけてもいいなんて一言も言ってませんよ」
私はすぐさま顔つきを変えて、わざとらしく細めた目で悟史くんを見つめた。
「ほ……本当に、ごめん」
「あ~あ、髪にまでついちゃってる……これ、洗ってもなかなか落ちないんですよ」
「あ……あの、うう、どうしよう…………」
我ながらとんだサル芝居だ。傍から見たってそう思うだろう。
なのに、こんな突然に態度を変えても、やっぱり悟史くんは信じてしまうのだから言葉もない。
「こんな状態じゃ私、外に出られませんよ……ねえ悟史くん、
 罰として、悟史くんにこの臭くて汚いの、全部舐めてキレイにしてもらいましょうか」
「そ、そんなっ……!い、嫌だよ、自分のを、な、舐めるなんて……」
「ひどい……女の子の顔を汚しておいて責任取らないんですか?
 そんなの、レイプと一緒ですよ!悟史くんはそんなことして平気なんですか!?」
「そうじゃ、ない……けどっ」
「別にいいんですよ、私は。
 でも、もしここで私が悲鳴でもあげたら……困るのはどっちだと思います?」
「そ、そんな……!うぅ…………わ、分かったよ……」
短い迷いの末に悟史くんが恐る恐るこちらへ顔を近づける。
私の両肩に手を乗せて、まるでキスでもするような格好になって舌先を頬へと伸ばしてきた。
「ん、んんっ…………ぅ、ううっ……ケホッ、ケホッ!……あぅぅ」
「ふふっ、美味しいですか?自分で出した精子は」
まだ少しも舐め取っていない内から悟史くんは横を向いて苦しそうにむせていた。
自分の精液を口に含むなんて考えたことも無かったのだろう。表情に嫌悪の色がありありと浮かんでいる。
でも、これでいい。私は視線だけを送って続きを促した。

「ん……ちゅ…………く、うぅ……」
再び悟史くんの舌が私の顔を健気になぞり始めていく。
左の頬から鼻のあたりへ舌が動いて微妙にくすぐったかった。
本音を言えば、今すぐ目の前にある悟史くんの唇に本当にキスがしたい。
自分で言い出したことだけど、悟史くんが口の中の精液を嫌がっているのなら
私がその唇を貪って、全部吸い出して、代わりに飲みこんであげたかった。
だけど、私の唇が悟史くんの唇に触れることは許されない。
それは本来悟史くんを汚す資格を持たない私が自分で決めたルールだから。
だから、代わりに私はしゃがんだ体勢のまま、少し小さくなった悟史くんのペニスに再び手を伸ばしていた。
「……ッ、詩音、ち、ちょっとまって……まだ、イッたばっかりだから……!」
射精の直後は敏感になることくらい分かっている。だからこそ触っているんだし。
私は悟史くんに顔を舐めさせたまま、逆手に握ったペニスを揉みしだくように玩んでいた。
「ぁ、はぁっ……や、やめて…………っ、ほんとに、感じすぎちゃうから……」
「こーら、誰も止めていいなんて言ってませんよ。まだ反対側に残ってるじゃないですか」
みるみるうちにペニスがさっきまでの硬さを取り戻していく。
元より悟史くんは一度出したくらいでは終わらないのだ。
「また元気になっちゃいましたね……コレ、今度はどうしたいですか?
 もう一回手でするのがいいですか?それともお口でしてあげましょうか?」
「はぁっ……はぁっ…………ぁ、あの……挿れ、たい……です」
「ハッキリ言ってくれなきゃ分からないですよー、何を、どこに挿れたいんですか?」
「ぼ、僕の……オチンチン、を……詩音の、な」
「……ストップ。前にちゃあんと教えてあげましたよね。
 女の子の格好してお願いする時は、私のことを何て呼ぶんでしたっけ?」
「ぅ、うぅ、ぁ………………お、お姉……さま、お願いします。
 僕の、オチンチン、お姉様のアソコに……挿れさせてください……!」
……100点満点。こうまで言われて断れるわけがない。
今日の悟史くんはとっても素直ないい子だったから、最後にいっぱい気持ちよくしてあげよう。
そう、私から逃げられなくなるくらいに。

マットがあるのを考えたら体育倉庫という選択は正しかったのかもしれない。
私はいつも部屋のベッドでそうするように悟史くんを寝かせてその上にまたがった。
悟史くんのペニスはもう私のすぐ真下でそそり立っている。
このままちょっと腰を落とすだけでその先端が私の膣口に当たるほどの距離だ。
「……さぁ、よく見てて下さいね。
 悟史くんのはしたないオチンチン、私の下のお口で食べちゃうところ……んうっ……!」
「くぅ、う、ぅ……ぁ…………うあああああっ!!」
片手でスカートをたくし上げたまま、最初はゆっくりと、途中からは一気に、
腰を落として悟史くんのペニスを迎え入れる。
肉と肉の隙間をこじ開けるようにして、私の中に悟史くんが入ってきた。
「……っ、ふうっ…………ほーら、ぜんぶ……入っちゃいましたよ。
 どう、ですか……私に犯された気分は……っ?」
「うん……うん…………っ、詩音のなか、気持ちいい、きもちいい……よ」
「…………ん、もうっ、悟史くん、さっきからそればっかり……
 でも、ね……っ…………はぁ、はぁっ……わたしもね、悟史くん、の、
 おっきくて、ふとぉい、お、オチンチン…………っく、とっても、きもちい、い……ですよ……」

……痛い、痛い痛い痛い痛い。
いつになったら慣れるんだろう。まだ動いてさえいないのに、
悟史くんのペニスが私を貫く痛みは頭の方にまで伝わってくるような感じさえする。まるで串刺しだ。
無理もない。私の下半身はさっきから一度も、自分の手によってさえも触られていないのだ。
成人映画に出てくる痴女でもあるまいし、そんな状態で満足に濡れているわけがない。
でも、別に構わない。そもそも、私が気持ちよくなりたくて始めたことじゃないんだから。
大丈夫、大丈夫、この痛みはむしろ私にふさわしいもの。むしろ心地よいもの。
私はおまじないのような気分で自分にそう言い聞かせると、少しずつ身体を前後に揺すり始めた。

「んん……っ、あっ、んあっ……すご、い…………
 悟史くんの、気持ちよすぎて……うぅ、なんか、もうイッちゃいそうです」
気取られるのが嫌で出まかせを言ってみたものの、
今日はいつにも増して酷い痛みだった。正直、口を開くのも辛い。
悟史くんとのセックスを拒絶するみたいで悔しいけど、早く射精してもらわないと、多分我慢が続かない。
私は思い切って腰の動きを前後から上下に変えると、徐々にそのスピードを上げていった。
「……クスッ、今日はぁ……っ、ちょっとサービスして激しくしちゃいますからね。
 こうすると……ん、はぁっ、オチンチン…………奥まで届くでしょ?」
「う、うん、いいよぉ……!奥にあたってる……むね……すごい、ゆれてる……!」
よかった、悟史くんには怪しまれていない。私はそれを確かめるとそのままの調子で腰を打ちつけた。
相変わらず悟史くんのペニスは焼けた鉄のように硬くて、今も大きさを増しているような気さえする。
そうして往復をくり返す度、私の中をメリメリと押し分け、亀頭で肉の壁を無遠慮に抉っていった。
ふと、私が他のことに気を回そうと思って下に目を向けたのと同じタイミングで、
物欲しそうな表情を浮かべた悟史くんが口を開いていた。
「う、あ、あぁ…………ぁ、あの、しおん……ぼく、しおんのムネ、さわりたい……」
「え?……ふふっ、悟史くんってば赤ちゃんみたい。
 んうっ…………でも、もう忘れちゃったんですか?お願いするときは……」
「あ……ご、ごめんなさい。
 あの、ぉ、お……おねえ、さま…………おねえさまの、オッパイ、さ……触らせてください」
「そう言うんですよね。もうっ、忘れちゃダメですよ……」
そう言いながらブラウスのボタンをお腹のあたりまで外してブラジャーのホックを解くと、
私が何か言おうとする前に悟史くんの両手が伸びてきた。
悟史くんの愛撫は乱暴だ。わし掴むように乳房を手に取ると欲望に任せて揉みしだいてくる。
少し痛かったものの、かえってそれが気休めになるくらいに下半身の疼くような痛みの方が強かった。
「あんっ、ん……悟史くんってば、ホントに甘えんぼなんだから……」

それからしばらくの間、耳に届くのは私と悟史くんの息遣いだけという時間が流れた。
今頃、教室にいる生徒たちはどんな気持ちで今日という日の授業を受けているのだろう。
彼らはもう立ち直ったのだろうか。自分の間近で起こった惨劇から、親しい人たちを失った悲しみから。
そんなことを思っていると、私の中に再び悟史くんを虐めたい衝動が湧き上がってくる。
「……あ、ん、はあぁっ…………ねえ、悟史くん。私たちって……んっ、とんでもないバチ当たりですよね。
 今日みたいな日にこんなにエッチなことしてるなんて……もし、今年も祟りがあるなら、きっと私たちですよ……」
ピタリと、悟史くんが一瞬にして凍りつく。さっきまで弛んでいた顔が中途半端に引きつっていた。
「な…………ぁ、や、やめてよ…………なんで急に、そんなこと言うのさ……!」
「だって……んうっ……そうじゃないですか……
 1年前、みんなが死んじゃった日なんですよ。お姉も、監督も……沙都子、だって……」
「や、やめて……そんなの、聞きたくない!」
耐えかねた悟史くんが私の言葉をさえぎって顔を横に背けてしまった。
怯えた瞳。悟史くんがこの瞳の奥に何を隠しているのか、
今日まで私には分からないまま。分からないまま、こんなことをしている。
「私がオヤシロさまだったら、んんっ……こんな……はぁっ…………
 雛見沢の仲間を冒涜するような真似、絶対に許さないですもん……」
本当に、私は何をしているんだろう。
ずっと大好きだったのに。まだ告白もしていない、キスもしていない男の子の上で私は腰を振っている。
「うわあっ……ゃ、だ…………もう、言わないで……」
オヤシロさまの祟りなんて今も信じていないけど、そう思うたびに私の心はズキリと痛んだ。
全ては私のせいなんだから、悟史くんが私の身体に溺れていてくれるなら
これ以上何が起ころうと構わない。そう決心したはずなのに、その痛みはいつまで経っても消えてくれない。
……もういい、余計なことを考えるのはもうお終いだ。
さっきから悟史くんのペニスが私の中でビクビクと脈を打ち始めている。今にも射精しそうだ。
本当は使うかどうか迷っていたけど、ここまで来たらもう止められない。
私は上体を前に倒すと、悟史くんの背中に両手を回してギュッと抱きしめた。
今日という日の記念のつもりで用意した、とっておきの『殺し文句』で終わらせてあげよう。

「……ねえっ、悟史くん……私ね、実は今日あしたくらいがいちばんの危険日なんです。
 だからぁ……今日はこのまま中に出しちゃってくださいね」
耳元でそう囁くと、悟史くんの顔が一瞬にして青ざめた。
「なっ……!だっ、ダメだよ、そんなことしたら……!!」
「当然……妊娠しちゃいますよね
 でもね、そうすれば責任感の強い悟史くんは逃げることも……くっ、
 できなくなるから……ぁ、私にとっては好都合なんですよ…………」
ようやくしがみつかれた意味に気付いたのか、
両腕に力を込めた途端に悟史くんが私の下でもがき始めた。
「やだやだやだ……!やめて……抜いて、ぬいてよおおっ!!」
普段ならともかく、快感にとらわれて力の入らない悟史くんに抜け出せるはずもない。
必死で抵抗する悟史くんをよそに、私はお腹に力を入れてより強くペニスを締め付けた。
同時に、これまで以上の速さで腰を打ちつけて少しでも早く精液を搾り取ろうとする。
「ぉ、お願いです、おねえさま……なかだけは、やめて……やだ……ほんとに、やだあっ…………!」 
「……もう遅いです。あきらめて、出しちゃってください……っ!」
「あ、あ、あ……!いや、いやああああああああああああああっ!!」
一瞬、悟史くんの腰が跳ね上がったかと思うと、私の中でペニスが震えて熱い塊のような精液が流れ込んできた。
「んんっ、あぁ、はああ…………っ!
 すご……あつ、い……きっと、子宮にまで、とどいちゃってますよ……」
「あ、ああ……そんな、ひどい……ぬいてって、言ったのに…………」
何度も、何度も、吐き出される白濁が私の奥に向かって打ちつけられる。
ようやく放出が終わる頃には、悟史くんの身体からは完全に力が抜けきっていた。
「……ど、どうしよう……ほんとに、にんしん……しちゃったら、どうしよう……」
「ふふっ、大丈夫ですよ……きょうは安全日ですもん」
「!?……だッ、だって、さっき……!!」
「……あれは冗談ですよ。ビックリしました?」
その一言が引き金になった。突然、悟史くんは眼に涙を溢れさせ、そのまま泣き出してしまった。
「あ~あ、泣いちゃった……いくら私でも、そんなことまでしないって気付きませんか?」
「グスッ…………ッく、ぅ、うるさい……!
 なんで、思い出させるんだよ!なんで、こんなことするんだよぉ……っ!!」
……何でって、そんなの始めから決まっている。
私は精一杯の愛しさを込めて、子供のように泣きじゃくる悟史くんの頭を、
かつて私がそうしてもらったのと同じように撫でてあげながら囁いた。
「……それはね、その顔が見たかったからですよ。悟史君がみじめに泣いてるその顔が。
 これからもいっぱい可愛がってあげますから。だから、私から逃げちゃだめですからね…………」

【矛盾、とは少し違うのかもしれないけど、
 今はもう、色々なことが曖昧になってしまったように思う。

 あの時、私には悟史くんの『笑顔』を取り戻す力はないのだと悟った。
 だから、『涙』だけでも取り戻してあげたかったのだ。
 憎まれてもいいから、どんなことをしてでもいいから、
 悟史くんに生きていて欲しい。そう願って始めたことのはずだった。

 結果として、悟史くんは今も生きている。私と肌を重ねることだけを生きる意味とするように。
 そして私も、あの時の決心とは違う所で悟史くんを犯したがっている。あんなに痛いのに。
 気付いた時にはもう曖昧な泥沼にはまっていた。前に、進めない。

 もしも今、あのサイコロがもう一度『7』を出したなら、
 私たちを、時間さえも癒してくれなかった悟史くんと私を救ってくれるだろうか。

 元より『7』の目があると分かった時点でそのサイコロには1から6の内のどれかが欠けている。
 そんなサイコロの出す平均値なんかに意味は無い。つまりは普通じゃないんだ。
 どうせ普通に戻れないなら、一度くらい救いの手を欲しがったっていいじゃないかと思う。
 それとも、こうまで自分が無力な小娘だと思い知らされた私にも、
 まだできることが残されているとでも言うのだろうか。

 分からない。そんなことさえ自分で決められない。
 そうして今も、私は泥沼の中に沈んだままだ。】


                     2冊目のノート 28ページ




…以上でした。
当然主題歌はLight colorsだなんて言い張ってみるテスト。

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最終更新:2006年09月06日 14:13