きっちり五回分射精させられた後、夕飯時をとうに過ぎて未だ戸外にいることに罪悪感を覚えていた圭一に、別れ際羽入が放った言葉は、「また明日もお願いしたいのです。あぅあぅ」というものだった。
つややかな肌に朱色の気持ちを流しつつ懇願した、というよりも有無を言わさせない羽入の態度に、圭一は曖昧に別れの挨拶をして家路についた。
足元のおぼつかなさを気力で隠し、すっかり冷え切った夕飯を空元気のまま平らげたそうな。また、伊知郎と藍子が、散歩にしては長い空白の時間を各々の推測でもって盛り上げ、囃し立て(主に伊知郎)、当の息子はその二人の当たらずとも遠からずなそ
れらの物言いにたじたじだったとか。

空が厚い雲に覆われている。
モノクロ写真に立体感が出たような曇り空。晴れの日であるならば、浮遊する雲に何らかの形を見出す暇つぶしでもできるだろうが、こうまで全てを覆われてしまってはそうして閑暇を脱することもできやしなかった。
土管の上に体操服姿で座っていた圭一はたびたび雲間から差し込む光の筋に目を細める。
その光が山の斜面に落ちて、すっきりしない天気のせいで色褪せたように見えていた緑を少し生き生きとさせた。しかしそれもすぐに元に戻った。一度輝いて見えたからだろう、他の緑との違和感が残像として残り、時間が経って再び紛れたときの何事もの無さがかすかに寂しかった。

「おーい、助けてくれー……」

ぽつん、と一人呟いた声はグラウンドで逃げ回る生徒たちのはしゃぎ声にかき消された。
本日の部活、缶蹴り。クラスのほぼ全員が参加している。圭一が今居る場所は見つかり捕まった負け犬の強制送還地だ。部活メンバーらしくもなく、早々に助けを求めねばならない側に回ってしまったことを魅音や沙都子は挑発気味の口調で罵り、圭一の体調が芳しくないことを察したレナは、気遣う様子を笑顔の中に浮かべながらも元気に走っていった。梨花と羽入は何も言わず、他の生徒たちに混じっていった。

「はぁ……」

溜息も出る。
昨日の羽入との情事、その疲れが尾を引きずって部活時にも響いていた。
朝、少々の痛みがありながらとはいえ見事にテントを張った股間を見て、呆れた。自分の若さに。そのことからも分かるとおり、身体自体は思ったより元気だったのだ。疲れは、多分に精神的なものが原因だったように思われた。
あんなことがあって、羽入とどう接すればいいのか。
迫ってきた羽入も羽入だったが、流されてしまった自分がいたのも事実。
まともに顔が見られるだろうか、と圭一は学校に着くまでに随分悩んだのだ。

(無駄に悩んだ……)

一般的に、昨日のようなことではどこまでも立場の弱い男をしてそう思わせるほどに、羽入はいつも通りすぎて拍子抜けした。最初は、羽入の挙動を何度も盗み見ることで何か変わったところがないかと注意深く探っていたが、圭一が浅い想像力で思い描いたような、恥じらいと気まずさをない交ぜにした羽入の姿などなかった。

(期待していたわけじゃない、と思う……)

午前中のほとんどをその見極めに使った圭一は、昼休みになったとたんどっと疲れが押し寄せるのを感じ、そのままだらだらと午後から今までを過ごしていたのだ。
既に決定した罰ゲームにも何らの恐れもなかった。
部活メンバーとして失格だとは認識していたがどうにも気持ちを盛り上げられなかった。
対して、部活候補生たち(雛見沢分校の生徒全員)の頑張りよう、燃え上がりようは凄まじかった。遠目に圭一の姿を幾人もが確認しては、ジェスチャーで、すぐに助けますから、という旨の意思を伝えてくる。鬼に視線で居場所がばれてはいけないと思った圭一は、なるべくそっぽを向くようにしたが、別に助けなくてもという意図も少なからずあった。

「ん?」

顔を背けて把握する範囲を変えた視界の隅に誰かを捉えた。
グラウンドの真ん中で缶を守る鬼を一度見てからそろりと、土管の後ろを覗き込む。

「羽入か」
「あぅあぅ」

わくわく感を隠し切れない様子の羽入が圭一を見上げていた。
勿論体操服姿で、赤いブルマをはいていた。膨らんだ胸には「う」が不自然に縦長い羽入のゼッケンがついている。

「お前、その髪……」

羽入が髪を後ろで一まとめにしているのに気づいて、圭一は尋ねた。

「あぅ。これは、走っていると邪魔だったからなのです」

右手で後ろに垂れた髪をぽんぽんと弾きながら羽入が答えた。

「ふぅん……」
「惚れましたですか?」
「惚れるかっ」
「あぅあぅあぅ……」

しゅんとなる羽入から目を離して缶蹴りの戦況を見守る。
鬼が圭一のほうを訝しげな視線で見ていた。

(あ、やばい)
「羽入、鬼がこっちに気づいたぞ」
「あぅ!?」

缶の見張りを別の子に任せて様子を窺いに来る。そもそも羽入はどうやってここまで来たのか。土管の積まれた場所は見晴らしがよく、左右に物陰のある場所までは悠に十メートルくらいは離れている。確かにここらは鬼の監視も弱めだったが、それでも四方八方に目を光らせる彼らをかいくぐるのは至難の業のように思われた。
鬼の意識が圭一の方に向いている以上、おそらく運よくここまで来られただろう羽入に逃げ場はなかった。あぅあぅとうろたえる間にも鬼は近づいてきて、さらに圭一が気を逸らそうと話しかけたことがまずかったのか、さらに疑りを深めた。

「あっ! 羽入ちゃんみーっけ!」
「あぅあぅ!」

あっけなく羽入は見つかり、猛然と缶に向かう鬼を追いかけることもできなかった。二人目、強制送還。その途端、どこからともなく罰ゲームをほのめかす邪悪な声が聞こえて羽入は身を震わせた。多分、魅音だろう。まだ部活が始まって十分も経っていない。
その短い間に、部長が部員と認めるうちの二人があっさりと捕まってしまったのだ。面目丸つぶれもいいところだ。

「こりゃあ、罰ゲームが怖いな」

と、圭一は呟く。

「あぅあぅあぅあぅ」

一方の羽入は、当然の反応だが、涙目になって戦況を忙しなく見回していた。
圭一がその頭をむんずと掴み、缶だけに固定させる。

「鬼に他のやつの居場所が知られるだろ。そうあからさまに見回すな」
「あぅ。ごめんなさいなのです」
「大人しく助けを――って、ん?」

首筋にぽたりとした感触があって、圭一は空を見上げる。

「雨か……」

雨音と一緒に雨跡ができていく。

「うわっ!?」

それらはあっという間に繋がっていき大きな水溜りを作った。激しく落ちる雨粒が泥を大きくまばらに散らして、生徒たちの足元を次々に汚すと、あちらこちらから湧き上がる歓声のような悲鳴が、次々に校舎の中へと吸い込まれていった。

「圭一っ! ボクたちも早く戻るのですっ」
「おうっ」

素早く反応した羽入が圭一の袖を引っ張り校舎へと向かう。向かおうとして、一片の躊躇いもなく入り口の横を通り抜けて裏の方へと走っていった。

「は、羽入っ? どこ行くんだよっ」

無駄に雨に打たれていることを感じながら聞く。しかし、羽入の背中から答えを聞けることはなかった。
とは言っても、木造校舎の屋根を叩く雨音が凄まじく圭一の声が届いていたかは分からない。

「わっ?」

羽入が乱暴に扉を開いて、圭一は中へと連れられる。屋根があった。入った場所は主に学校の備品がしまわれている物置小屋だった。埃っぽい空気と匂いが、雨で濡れた肌にいつも以上に纏わっているように感じられて不快だった。しかしどこか伊知郎のアトリエと同じような雰囲気を持っている分、圭一にとって抵抗は少ないといえば少なかった。
雨音が狭い部屋に響いている。外の様子はそれだけしか分からなかった。窓がないので、此処に何か用があるときはと扉は開けたままにしておくのが常だ。今はそうしていないため中は暗かった。もっとも、豪雨が宙を埋め尽くし大きな影が落ちたようになっている状況下では扉の有無は関係なかったかもしれないが。

「……」

そうやって冷静に周りを見ている自分に気がついたとき、かすかな自己嫌悪のようなものが生まれた。そうと表現していいかも分からない。ただ胸の奥で、ちくりと何かが痛んだことだけは間違いなかった。

(俺は、何を期待して……)

圭一は息を切らしている羽入を見た。それほど長い距離を走ったわけでもないのに、妙に荒々しい。顔を塞いだ雨のせいで十分に呼吸ができなかったのだろうか。
羽入は圭一に背を向けたまま肩を上下に揺らしている。一まとめにした髪の毛先から止め処なく水滴が落ちていた。びしょ濡れになった身体のラインに沿って体操服が張り付く。
それが圭一から見えることはなかったけれど、自身の状態から容易に想像できた。
同様に、寒気を催してきたことも。

「は、羽入。風邪、ひくぞ……。戻ったほうがいいんじゃ――」

言いながら、羽入の肩に手を置いた。その瞬間に勢いよく羽入が振り返って、倒れこむように圭一の胸に顔を寄せてきた。不意を突かれた形になって、圭一は、背中をしたたかに打ち付けてしまう。不安定な棚に積まれていた物――記憶によれば主に工具類――がまばらに落下する。

「圭一っ!」

叫びにも似た声色を隠すように羽入の顔が寄せられる。冷えた胸板が熱い息に焦がされる。
圭一は理性が飛びそうになった。変わらず激烈に降り続ける雨音が頭の中にノイズを起こしているように聞こえる。

「は、羽入…っ」

搾り出した声には拒絶の意味も本能の発露も含んでいたかもしれない。その狭間で揺れ動く心情を表すように震えていた。

「わかっているのですっ。わかっているのですっ! 学校でこんなことしちゃ駄目だって!で、でも我慢できないのですっ……け、圭一に触れられて、か、身体が……っ」

早口で捲し立て、引き離そうとする圭一の腕よりも強い力ですり寄られる。身体に張り付いた体操服から浮き出た突起が、圭一の胸を擦り左脚は羽入の股の間に挟まれた。

「お、お願いなのですっ。ボクのあそこを触ってくださいなのですっ」

縋ろよりも求めるよりもなお激しくそれを強制させるように言ってくる。必死の表情だった。
濡れた前髪のせいで普段から隠れ気味の眉は露出し、皺を寄せているから垂れているのがはっきりと分かった。
涙にまみれた瞳。圭一の吐いた息をそのまま吸うような距離で荒い息遣いが続く。
一まとめにした髪は、細い首と顎からうなじへと続くラインをくっきりと浮かび上がらせた。

「……」

圭一は無言で羽入の下半身へと手を伸ばした。
ブルマの布越しに感じる羽入の陰部は柔らかく、滑っていた。

「あぁっ…っ!」

快感の大きさに抜けそうになる腰を支えるため、羽入はより強くしがみついてくる。壁との間に挟まれて満足に動けない圭一は手探りのみで羽入の感度が高いところを弄った。

「んぅっ、ふぅっ……あぁうっ、んっ!」

押し寄せる快感に応じて忙しなく動く羽入が圭一の体操服をぐりぐりと歪ませる。はだけた胸元にかかる吐息が熱く、艶かしい。

「圭一……じ、直に……」

羽入が懇願してくるのに頷いて、下着の中にお腹から手を滑らせる。さらさらな肌が指に気持ちよく、しばらく恥丘だけを撫ぜていた。そこだけでも十分に感じるようで、喘ぎながら身を捩じらせている。圭一がそろそろ……、と思ったところで、

「あ」
「――っ!」

陰核らしきこりこりしたものを指で弾いてしまった。途端に羽入が身体を弓なりに反らして足をびくつかせる。今の刺激で達してしまったらしい。力が入りきらないのか、必死に圭一の服を掴んで、崩れ落ちないようにと堪えている。

「はぁ……っぁあっ、うぅ…っ」

それでも、膝からは力が抜けて中腰のような格好になっている。胸に預けていた頭も今は圭一のお腹付近。服を握り締める拳がぷるぷると痙攣している。

「イ、イったのか? 羽入……」

手がブルマから自然と抜け、水に濡れたのではないそれを一瞥してから聞く。圭一は縮こまる羽入の頭、ポニーテールの根元をじっと見ていた。羽入が圭一を仰ぎ見ると、そこはちょうど二人の視線が絡み合う場所になった。

「あぅ……イったのです……」

抜けきらない疲労感と快感の余韻を笑みに変えて答える。

「そっか……」
「ありがとうなのです、あぅあぅ――あっ」

そこで羽入がへたり込んだ。手が圭一を離れて板張りの床に垂れる。

「あぅあぅ、圭一♪」
「いや、これはその……」

必然的に、羽入の顔が圭一の股間を向くことになる。圭一のものが押し上げるズボンを嬉しそうに見つめて、おもむろに手を伸ばす。

「うあ……」

先を掌で包み込むようにして揉んだ後、そこから、服の上からではあるけれども裏筋をさする。圭一が気持ちよさそうな声を出したが羽入の手はその動作だけで止まった。

「今日、約束どおりまた神社にきてくださいなのです。楽にしてあげますですよ、あぅあぅ」

屈託なく笑うと、立ち上がって、まとめていた髪の毛をばらした。

「さ、戻りましょうなのです。雨が上がり始めているのですよ」

羽入の開いた扉の向こう、今日一番眩しい光が目をついた。

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最終更新:2008年02月11日 13:32