鬼隠シ

  • れ~ぷ注意
  • 鬼隠し編の圭一が詩音を知らないのは一体どうして?



いつ彼女と出会ったのかは知らない。
友達がある日二人に分裂したなんてわけの分からない解釈が一番しっくりくる。
一人は学校に。一人は興宮に。
最初は偶に話が噛み合わないだけだった。
いつからかそれは些細な違和感を育んで分裂した。
もしかしたらただの二重人格なのかもしれない。見た目で見分ける方法はなかった。
口癖、話題、仕草。ほんの一瞬の違いで分裂して、僕の前に現れる。

「私、缶詰だけは苦手なんですよ。…何笑ってるんですか!?真剣なんですよ!?」
興宮に来ることが多くなったのに気づいたのはつい最近だった。
興宮に来れば家から逃げられる。沙都子から逃げられる。魅音に会える。
「ありがとう魅音。魅音がいると買い物が本当に楽で助かるよ」
「悟史くん。…もしかしておじさんが見つけるの狙って公園にいません?」
「…むぅ。そんなことないよ」でも半分ぐらい正解。
どう言えばいいかわからないから、頭を撫でて伝える。
僕が頭を撫でると魅音はとても嬉しそうな顔をする。
それが嬉しいから僕もよく魅音の頭を撫でる。

人の頭を撫でる癖は沙都子のせいですっかり身についた。
我侭を言ったり、駄々をこねたり、泣き止まなかったり、そんな時に便利だったから。
大人との付き合い方しかまともに分からない僕は、
いつの間にか自分より少しでも小さい相手にはそれでしかコミュニケーションを取れなくなっていた。

「さ~とっしくん♪」「…むぅ…」
でも、僕の頭を撫でるのはたった一人だけ。それは些細で、大きな違和感。



悟史くんの事を知れば知るほどに私の心臓は締め上げられる。
苦しむ彼の手助けなど私には出来ないことは明白だった。
園崎詩音。何も出来ない詩音。私なんて、寺の中で息を潜める事すら出来なかったのだ。
全身に湧き上がる憎悪感は時折不快なデジャブを伴う。
「ねぇ詩音どうしたの?何があったのさ?なんでそんなに悟史のこと聞きたがるの?」
「別に良いじゃないですか。単に娯楽がなくて退屈してるだけです」
これは俗に言う第六感的な覚醒だろうか?
悟史くんに更なる不幸が襲う予感。…私には…何も出来ないのか。
「…わかってるよね?婆っちゃが詩音のこと睨んでるって。私何回言った?」
「……上等じゃないですか。次の綿流しで消えるのは私かもしれませんね」
「なんで…そんなこと言うのさ…」
私に出来ることを教えて欲しい。そのヒントすら私の目の前には姿を見せない。
仮に私が園崎家に間引かれることがあっても、その先に悟史くんの笑顔があるなら構わない。
「………悟史…最近バイトばっかりしてるよ」
「バイト?…悟史くんが?」
悟史くんの家はあまり裕福な環境でもないことは既に聞いていた。
でも悟史くん本人から金に困ったような話は一度も聞いた例がない。
「沙都子のためだよ。綿流しの何日か後が誕生日でね。縫いぐるみを渡したいんだって」
悟史くん…。何考えてるの。そんな余裕なんてないぐらい追い詰められてるくせに…。
「興宮のおもちゃ屋でさ、でっかい熊の縫いぐるみ置いてある店見たことない?」
縫いぐるみって言うのは見た目の割りに結構値の張る物だ。
大きい物になればなるほど、子供の手に負えるような買い物ではなくなる。
今頃から綿流しまでの日数で考えれば…最悪…小遣い稼ぎのレベルじゃ間に合わないだろう。
「お姉ぇ。伝言頼まれてください。明日すぐに伝えて、返事も出来るだけ早く私に連絡してください」

案の定、悟史くんは予約することも思いつかずに、
いつ買われるかという不安でいっぱいだったらしい。
バイトの帰りにわざわざおもちゃ屋まで寄って見に行くというのだから可愛すぎる。
悟史くんの代わりに予約しとこうと試みたが、どうもあの店のじいさんはボケてて話にならない。
できれば避けたかったのだが、私は葛西に借金をすることにした。
私がぬいぐるみを購入しておいて、彼の給料日まで預かっておけば、
もしそれが些細なものであっても、彼の不安に貢献することができる。

「えっと、これで…足りるかな?」
「給料袋そのまま持ってきたんですか~!?本当、変な所は豪快なんだから」
中身を確認して電卓を取る。
日ごろ小銭を貰わない様にしてたのが仇に成るかと思ったが、ラッキーなことにお釣は丁度用意できた。
「こんな高い物預かってもらってごめんね。大変じゃなかった?」
「あはは、まぁ資金はちょっと借りちゃったんですけどね~」
悟史くんにお釣を渡すと彼は確認もせずにお財布に入れてしまった。
お人よしというか…無用心というか…相変わらず彼らしい。
………綿流しの日の叔母殺しは…やはり彼ではないのだろうか。
魅音からは彼がずっと険悪な顔をしていると聞いていた。
今日の彼の軽やかな笑顔を見ていると、一件で落ち着いてるのは明らかに見える。
「あ、良かったら車でおうちまで送ります。それ自転車じゃ持って帰れませんよ」
「むぅ…そっか…うっかりしてたよ」

葛西の出で立ちを見て悟史くんは一瞬吃驚していたようだった。…無理もない。
「彼は葛西です。私のボディーガードみたいなもんで、縫いぐるみのお金も彼に借りたんですよ」
縫いぐるみの一件の協力者と聞いて安心はしたらしいが、
ボディーガードという部分がよくわからないようだ。
雛見沢に入る直前の山道で葛西は車を止める。
「悟史くん…あの…少し、お話したいことがあるんです」
葛西は大きく咳払いをして車のラジオをつけた。
ここから先、葛西は何も聞かない。何も見ない。
「ん?どうしたの魅音?」
「ちょっと、外でお話できますか?」
車から悟史くんを連れ出して葛西には何も知られないように林の奥へ進む。

私の今までの行動は、明らかに、園崎本家の逆燐に触れるものだ。
今年のオヤシロ様の祟りは既に下された。なのに鬼隠しはまだ、実行された様子がない。
私は本気で、鬼隠しを恐れ始めていた。
園崎の名を穢す者を、例のオヤシロ様が見過ごすものだろうか。
私がもし、鬼隠しにあったら。それは他の鬼隠しとは全く違う。
私の存在そのものが鬼隠しされるのだ。
だから、せめて、……。
「私、魅音じゃないんです」
「…え?」
「魅音の双子の妹の、詩音です。…ずっと魅音のフリしてました」
「………」
悟史くんは黙り込んでしまった。
まぁ普通の人間ならいきなり双子で~すとか言われても混乱する。
「うち、決まりがあるんです。双子が生まれるのは好ましくないことだって。
だから、私がいるのって不都合で…村の方では私のこと、お年寄りぐらいしか知りません」
「………」
「ただ…、悟史くんには私のこと…知ってもらいたくて…ひゃっ」
悟史くんの暖かい手が私の頭を撫でた。
「しおんって言うんだ…えっと、こんにちわ」
悟史くんの笑顔が眩しい。この笑顔のためだったんなら、もう鬼隠しだって怖くない。
「名前、どう書くの?」「詩を詠むの詩に、音です」「良い名前だね」
「会ったのは、いつ頃?」「あの、不良に絡まれてた時の…」「あぁ…、そっか」
「ずっと、興宮に居たの?」「えっと、会う数日程前から、さっきのマンションに…」
魅音じゃなく、詩音として悟史くんと会話できる。
私が夢にまで見たことが今、目の前で起こっている…。
「前からちょっと変だとは思ってたんだ。でも、まさか双子だなんて考えもしなかったな」
「怒ってますか?…ずっと…騙してたこと」「…そんなの、怒ってないよ」
…良かった。悟史くんに嫌われなくて。本当に良かった。
「よくわからないけど、…おうちの決まりじゃ仕方ないよ。…詩音も…大変だったんだね」
「…でっでも、悟史くんが、いたから全然…………悟史…くん?」
悟史くんの表情がおかしい。
何かに怯えながら無理に笑顔を保とうとしている様な…。
「どうしたんですか、悟史くん」
「…詩音。…詩音は…知ってる?オヤシロ様の祟りのこと」
「お、オヤシロ様…ですか…。オヤシロ様がどうしたんですか悟史くん」
「最近、学校に転入してきた子がいてね…。聞いたんだ…その子に…」
…お姉ぇが確か前にそんな話をしていた。
竜宮レナとかいうちょっと変な子が、つい最近転入してきたと。
「足音が、一つ余計に…聞こえたら…オヤシロ様の祟りに遭う、前兆なんだって…」
オヤシロ様…ちょっと待って。竜宮レナは確か県外から引っ越してきたって…。
こんなど田舎でだけ信仰されているような神様の祟りの話なんて何故できるんだ。
「あ、足音の話なんて始めて聞きました…。最近出来た噂か何かですか?」
「実際に、あるんだって、オヤシロ様に後ろをついてこられたことが」
………これはきっと悟史くんが一生懸命捻り出した冗談か何かだ。
私は笑い飛ばせばいい。
こわ~いっとかきゃーっとか黄色い声でも上げて笑ってあげるべきなんだ。
「ずっとつけられてるんだ…。僕も。」
「………さ、悟史…くんが?」
「足音が、一つ余計に…聞こえて…。ぺたぺた、ひたひた、近づいて、来るんだ。…オヤシロ様が」
………悟史くんがそんなに嘘が上手い人だとは思えない…。
「……僕も、消されるのかな…?」「なっ!?何いってるんですか!?そんな…わけ……」
確かに悟史くんの両親はオヤシロ様の祟りに遭っている。
ダム建設に賛成してたとかいう程度の理由で。
でも悟史くんは別に、オヤシロ様に祟られるようなことは何一つしてないはずじゃないか…?
彼は雛見沢にずっと住んでいる。
私なんかとは違って何かのルールとか決まりを自分で破ろうとする人でもないだろう。
…彼がダム賛成派の子供だから?…そんな、そんな程度の理由でなんて、……ありえない。
「詩音…。もし……もし僕が…消されたら……その時は、…さ…沙都子を………」
「なっ何してるんですか悟史くんッ!!?血が!!」
悟史くんの腕が真っ赤になっていることに気づく。一体いつの間に?
藪の中で何かが刺さったのか、と一瞬思った。……違う。
悟史くんが自分の手で、爪で、自分の腕を引っ掻いていた。一体、何だこれは…!?
「……沙都子……妹が…一人になっちゃうから……沙都子のこと………」
血が出てるのに、指先まで真っ赤になってるのに、悟史くんは止めてくれない。
「何してるんですか!?痒いんですか!?掻いちゃ駄目!血が!血がぁ…ッ!!」
思わず飛び出して静止させようとしがみ付く。
彼の手が腕から離れるのを見て、私は安堵の息をついたのに………。
その手は、悟史くんの首筋に…。そんなとこから出血したら、どうなる?どうなる!?
「駄目ええぇェッ!!!!!」
悟史くんの首を両手で守る。
彼の爪が手の甲に食い込んで激痛が走ったけれど、そんなことどうだって良い。
この手を離したら悟史くんが…!
「………信じてたのに」
え…?今の声、誰の…………。
「ぃぐああッ!!!……なっ…ぁ…」
信じられない、バットも満足に持ち運び出来ない彼の腕が私を投げ飛ばしたことが。
信じられない、彼の口から罵倒の言葉が飛び出してることが。
信じられない、………彼の暖かい手が…振り飛ばすために…私の頭に触れたことが…。
「みんな僕達を虐めて、沙都子まで…、魅音まで…、……お前までええぇッ!!!!!」
踏みつけられる。蹴り上げられる。殴り飛ばされる。
視界がぐるぐる回って余計に理解力が働かない。
「悟史くんどうしたの!?お願い止めて!止めて!!私が何かしたの!?何で!?何でッ!!」
叫んでも返ってくるのは意味のわからない言葉ばかりで、その全部が胸の奥まで傷つけようとする。
悟史くんの手が触れて、私の心が一瞬安らいだのに、その手は私の髪を引っ張り上げて、突き落とした。



今、こいつは何をしようとした……。
間違いなく僕は絞め殺されるところだった……。
こんなことが有り得るのだろうか?……何をまた甘いことを言ってるんだろう。
あの園崎家なら、高々子供一人二人が相手でも徹底的に苛め抜くことが出来るんだ。
……双子っていうのは多分、本当だろう。そう考えれば色々な部分で辻褄が合う。
打ち明けたのは、僕が不審に思っていることにでも勘付いたからだろうか…。
騙してたことを怒ってないか、なんて…白々しい……ッ!!
………全部僕を、苦しめるための芝居だったのか。
どんな時も笑顔で笑いかけてくれたことも、毎週毎週応援しに来てくれていたことも、
楽しく買い物をしたことも、面白がって僕の頭を撫でてくれたことも、
全部、嘘だったのか。
気を失った詩音の顔を見入る。冷淡な友人と不思議なぐらい全く同じ顔。
まだ呼吸はしてる……目が覚めたら、また僕を殺そうとするのかな…。
…多分そうだ。こんな姿でもあの園崎魅音の妹なんだ。
僕一人殺すぐらい容易いような教育は受けてるんだろう。
「………詩音。もし、僕に北条の苗字がなかったら…もう一度買い物を手伝ってくれるかな?」
答えが返ってこない事を嘆くべきなのか喜ぶべきなのか、わからない。
「君がいないと、ブロッコリーとカリフラワーを間違えてまた怒られちゃうんだ」
どうすれば良いのか、わらない。
いつもみたいにそっと頭を撫でてみるけど、ちっとも彼女は喜んでくれなかった。
「缶詰コーナーには行かないって約束するよ。だから…」
僕の手には、彼女の真っ赤な血しか残らない。
………。クールになれ…。
どうせもう僕は戻れない。人を一人殴り殺して。今度は少女を殴って蹴って気絶させた。
……そうだ…、今僕は初めて優位な状況にいる。そして、どう足掻いたって、僕は消されるんだ。
傷だらけになった体を正面へ寝返らせて、少し血の滲んだ唇に口をつける。
彼女に拒否権なんてない。復讐だから。
穢れた北条の手で、汚してやる。一生拭い切れない傷を園崎へ植え付けてやる…。
「……さようなら、詩音」
血の染みたセーターを剥ぎ取る。痣と擦り傷だらけになった体に感じる罪悪感。
幸い彼女の立派な胸は大した傷を受けなかったようだ。
欲望のままに掴んで齧り付く。想像してた以上の感触で僕の体は興奮することが出来た。
邪魔な服を捨てながら傷から染み出る血を舐め取とる。
鉄の味が咥内を刺激する。柔らかくて少し苦い体。
こんなに綺麗な肌をした女の子が、人を殺そうとするなんて今でも信じられない。
傷口に舌を這わせると体が一瞬震えたように見えたが目は覚まさないらしい。
弱い気持ちを捻じ伏せ、詩音の足を持ち上げてベルトに手を掛ける。
こんな場所に入るんだろうか。…凄く、痛いんじゃないだろうか。
出来れば今すぐ目を覚まして、僕を殺してくれないだろうか……。

濡れていないその場所は重ねるだけでも感覚を呼ぶ。
先端を銜え込ませるだけでも十分過ぎる程の刺激。彼女の体が無意識のまま強張った。
先走りを促してから、勢いをつけて捻り込む。
詩音の中はただ僕を拒絶しようと躍起になっている。
「う…ッ…くぁ…………ぃ…おん」
想像を絶する痛みと快楽に意識が溺れていく。
打ち所が悪かったのか、詩音は体中をびくつかせて痛みを訴えているのに目を覚ませない様だ。
幾つかの感情の対象を屈服させる震えが、胸の奥の野獣を呼び覚まさせた。
このまま僕を拒絶し続けていればいい。そうしていればすぐに終わらせてあげる。
もう、戻れない。僕の帰る場所はもう、何処にも残ってなんかいないんだ。



私、眠ってたのか。ここはどこだろ。意識が朦朧とする。
林の中…私…変なところで寝てるな……あははは……。
誰かの吐息ガ聞こえる。私はその主を目に入れて、愕然とするしかなかった。
後頭部と体中の激痛が戻ってくるのと同時に、全く別の、信じられない痛みが私の体に訪れる。
「……ぁ…ぅぁ…さ、さとしくん………んなっ……」
恐る恐る、その場所へ目線を動かすと、私の嫌な予感は……見事に、的中していた。
「…ぁああ!!いやあぁ!!!いやああアァアアッ!!」
見間違いなんかじゃなかった。幻でもなんでもない。間違いなく、彼のものが私の中に…。
「はなしてええぇ!!!痛いの!!いたいのさとしくんッ!!おねがっ…うぅう!!」
泣いても叫んでも喚いても、息を荒げて衝き上げられるだけ。
信じられない、こんなの悟史くんじゃない!!知らない人なんだ!!
「あぁっ…いやあああ…いやああ!!…ぃぁああッ…」
好きだから、それを望んでこなかったわけじゃない。
でも、こんなのは決して望んでなんていない。
もっと幸せで、甘くて、素敵なものが良かった。ずっと、忘れたくなくなるような…。
「ぇぐっ…いや…ぁ…いや…うぅううっ…くぅっ」
痛いって言葉が分からないのかな?嫌だって言葉がわからないのかな?
…違う。その言葉は、悟史くんが今までずっと呟いてきた言葉なんだ。
妹の世話を押し付けられて、大人と子供の間に挟まれて、
なのに、誰もその言葉を聞いてあげなかった…!聞こえてたのに!!
「ぅぐぁあぁぅっ…うぅっ…くっ…ううぅっ…」
ごめんなさい。何も出来なくて。私は何もして上げられなかった。
私に悟史くんを責める権利なんてない。ごめんなさい。
今私が感じてる痛みなんて、今まで悟史くんが感じてきた痛みに比べればなんて軽いんだろう。
動きは激しくなって、衝撃はどんどん鋭さを増す。耐えるよ、悟史くん。だから、だから…。
「…っひぅぐぅう…!!!…ぅ…」
中で…ひくひくして…いっぱい……。
これは、涙だよね。悟史くん、ずっと我慢してたんだもんね。
うん、いいよ。いっぱいだして、いいよ。まだ足りないなら、何回でもいいから。
だから、いっぱい泣いたら、…全部終わったら…、また笑って撫でて欲しいな。
絶対に、絶対に最後まで忘れないから…。

「……さと…くん………だい………す……き………」



カレンダーを見つめる。今日が、沙都子の誕生日。
何度目になるかわからない今日を、ささやかにワインとショートケーキで祝う。
明日は一人きりになった沙都子を、いつものように迎えに行かなければ。
皮肉だ。沙都子が子供から成長する日が沙都子にとって絶望的な一日だなんて。
ずっと兄に甘えてきた彼女のツケを、彼女は最悪な形で払わなければいけない。
「…梨花……」「…何よ、もう終わった?」
人がお祝いをしてるというのに、この神様は本当に空気の読めない奴だ。
陰気臭い顔のせいで折角のワインも台無しじゃないか。
「この世界は…もう…いらないのです……」
「あら、今回はまた落ち込んでるわねぇ?どうしたのよ、まさか悟史が解剖でもされちゃった~?」
なんて笑えない冗談。こんな冗談言わせやがって。
ケーキはお預けにして、後でキムチでも食べるか。
「詩音が、死にました」
………何を言ってるんだこいつは。意味のわからないことをぬかすんじゃない。
詩音が死んだって?…だって、今日は……まさかそんな…あの詩音が、今日、死んだだと…?
「悟史が、詩音を殺しました。…悟史は…その後山狗が見つけて捕まえて…、いつもと同じなのです…」
「何よそれ!!何なの!?どうして詩音が悟史に殺されなきゃいけないの!?どうして!?」
だって、そりゃ、詩音は嫌なやつだけど…よりにもよって悟史が……!?
羽入の顔はいつになく青い。きっとろくでもない殺し方をされたんだろう。聞きたくもない。
「……そうね、…もうこの世界に用なんてないわ」
万が一生き残れても、悟史が帰ってこなければ沙都子は永遠に苦しむことになる。
でも、もしこれで悟史が帰ってきたら、………悟史はまともでいられるのかしら?
見所と言ったら、詩音がいなくなったらとうとうあの魅音が発症するかしら、なんて所ぐらいね。
「詩音は、きっと最初からいなかったことになりますのです。…あうあうあう」
……明日は沙都子を迎えに行こう。この雛見沢はもう、いらない。

fin


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最終更新:2008年01月21日 21:28