「つきあい始めてから1年」、っていうのが世間から見て
長いのか短いのか、俺にはよく分からない。
ナニが?って、そりゃあ、その……初Hまでにかかった時間のことだ。
って言っても、少なくとも俺にとってはかなり長い時間だったんだ。
これまでに何度もそういう雰囲気にはなってたんだけど、
その度にアイツに……魅音に、いつもそれとなくかわされ続けてきた。
けどさすがに実は嫌われてる、ってオチは無いと思う。
俺の両親が泊まりで出かける時にはいつも自分から晩飯を作りに来てくれるし、
……別れ際のキスが拒まれることは無いし。
他に何か理由でもあるんだろうか?とも考えた。
例えば「自分達にはまだ早い」って考えてるとか……そういう理由ならハッキリ言うだろうし、
それとも痛いのを怖がってるとか……だとしたら俺には対処のしようが無いし……
ああもう!だいたいこういう経験の無い俺にそんなこと分かるわけがない。
少し前に恥を忍んで一度だけ詩音に相談してみたら妙に嬉しそうに、
「……まぁ、だいたい見当はつきますよ。
 でも、それを彼氏である圭ちゃんが自分で気付いてあげられなくてどうするんですか?
 そうやって圭ちゃんが鈍感だからお姉はいっつも苦労してるんですよ!」
とかなんとか言われて結局教えてもらえず終い。
というか、どうしてこう俺の周りの連中は俺のことを鈍感扱いしたがるんだろう?
……今までが今までだけに反論はできないが。

しかし、ついに今日、というか今夜、こんな現状に別れを告げる時がやって来たんだ。
例によって俺の両親が今日からまた2日間家を空けることになり、
3日ほど前にそれを母さんから聞かされた俺は思い切って自分の気持ちを正直に魅音に打ち明けた。
後々になって考えればさすがにもう少し気の利いた言い方ができなかったもんかと思うけど、
ズバリ「したい」と。もうド直球で。
「………………わかった、いいよ。
 じゃあ、放課後にまたそのまま圭ちゃんの家に行けばいい?」
「……へ?」
ほとんど玉砕覚悟のつもりだったから最初はその返事の意味が理解できなかった。
その時の魅音は顔を赤らめてうつむき加減だったからどんな心境の変化があったのかは分からない。
だけど、確かに魅音は「いいよ」って言ってくれた、OKが出たんだ!
それからというもの、俺は自分史上類を見ないほど徹底的に自室を掃除したり、
逃亡中の犯罪者みたいな気分でコ……コンドームを買いに行ったり。
浮き足立っていたせいで矢のように過ぎていく3日間をあらゆる準備のために費やした。
魅音の方は今日、詩音に協力を得てあいつのマンションに泊まるという「設定」になっている。
万が一誰かが電話をかけてきても詩音が魅音のフリをして応対してくれるという手筈だ。
3年ほど前にこのなりすましがバレて色々と大変だったらしいのだが、
「あの事件のことも終わったし、前みたいな警戒はされてないと思う……」とは魅音の弁。
とにかく、準備はすべて整って、遂に、今日という日がやって来た。
いつものように魅音が家に来て、いつものように晩飯を作ってくれて、
いつものようにそれを食べながらとりとめのない話をして。
……それから、いつもとは違い夜の9時を回っても魅音は帰り支度をせず、
いつもとは違い徐々に2人の口数が減っていき、
いつもとは違い俺の後に魅音が風呂に入って、

「お、お待たせ……」
…………そうして、俺の部屋に風呂あがりの魅音が入ってきた。

……………………………………………………?
お、落ち着け、クールになるんだ前原圭一。
この程度は修正可能な範囲だ、ペースを乱されちゃだめだ。

……コトが決まってからというもの、
この日のためにそりゃあもう緻密なシミュレーションを重ねてきた俺の目の前で
さっそくイレギュラーな事態が発生している。
もちろん、その目の前にいる魅音のことだ。
風呂あがりのせいかこれからのことを思ってからか、彼女の顔は上気して赤く、
頭は、きっとわざわざ乾かしてきたんだろうけど
普段どおりのポニーテールが結ってある……と、ここまではいい。
だけど、その魅音が……制服を着ているのだ。
別に制服自体におかしな所があるとかいうわけじゃない。
俺とレナも通ってる興宮の高校の夏服で
チェックのスカートにオーバーブラウスという上下。
今考えるようなことでもないけど、魅音によく似合ってると思う。
……でも、風呂からあがった後なのに、
することしたらシワがつくかもしれないのに、なぜ今になってまた制服?
気になって仕方がない俺。とりあえず直接聞いてみた。
「な……なぁ、なんでお前、制服なんか着てるんだ?」
「え?……あ、ああ、心配しないで。
 ちゃんと上は新しいのに着替えたから、あの……汗くさくないと思うよ」
「いや、そうじゃなくてだな。
 これから、その……布団に入るってのに、制服って変じゃないか?」
「あ……えっと、それは、その…………」
もしかして触れられたくない所だったんだろうか、なんか魅音がうろたえている。
……っていうかどう見てもツッコミ待ちみたいなもんだろうそれは。
俺もこの予想外の展開にどう対応しようか迷っていると、再び魅音が口を開いた。
「あ、あの、こ、コスプレ……コスプレなのっ!」
「……はぁ?」
「だ、だってさ、圭ちゃんって中学の頃からネコミミだのスク水だのって大騒ぎしてたでしょ?
 だから、その、せっかくの初エッチなんだし、こういう格好の方が喜ぶかなって思って……」
………………………………………………
「…………魅音、それ、本気で言ってんのか?」
「あ、当たり前じゃない!おじさんは圭ちゃんの夢をかなえてあげようと……って、
 ど、どうしたの圭ちゃん、頭でも痛いの?」
魅音の言葉に俺は布団の上で思わず頭を抱えてしまった。
そりゃ、部活のメンバーに加わった頃からそういうことも言ってきたし、
罰ゲームでそういう格好になった魅音たちを見て大喜びもしてきたけどさぁ。
だからって、自分の彼女と初Hの時にそんなのを要求するほど俺は怖いもの知らずじゃないっての。
って、自分ではそのつもりでも、そうは見られてなかったってことか……
ま、まぁ、人生についての反省は明日からでもできる。ここでつまづいてても仕方ないし。
「あのさ魅音……気持ちは嬉しいけど
 さすがに俺も今日みたいな日にそこまでワガママ言わねえって」
「へっ?」
「待ってるから、隣の部屋で着替えてこいよ。ちゃんとした着替えあるんだろ?」
ショックから立ち直った俺はあらためて魅音に声をかけた。
(今までこっち方面の話題を避けてたのに、どうしてこんな大胆なこと考えたんだ?)
そんな疑問もあったけど、とにかくあんまり無理なことはさせたくない。
「だ、だけどっ、圭ちゃんこういうの好きなんでしょ!?」
「……あー、否定はしないけどな。
 けど、明日も学校あるのにスカートでも汚したら大変だろ?だからいいって、な?」
うん、これでいい。もちろん惜しいという気持ちが無いわけじゃないけど、
正直そういうことに気を回せるほど今の自分に余裕があるとも思えないしな。
そうだ、今まで罰ゲームで散々学んできたじゃないか。
やっぱり最初から多くを求めるとロクなことにならな……
「な、な、何でよ!何で圭ちゃんがそこで断るわけ!?
 は、半脱ぎエッチよ、半脱ぎエッチ!男の夢なんでしょ!?
 圭ちゃんなら絶対飛びついてくると思ってたのに、
 そ、それとも圭ちゃんってば据え膳も食えない××××の※※※※野郎な…………モガッ!」
「わーーーー!!このバカ、いきなりナニ言い出すんだよ!
 近所に聞かれたらどうするつもりだっての、
 お、おいコラ、暴れんな!頼むから落ち着けってば……!!」
「モガーーーーーーーー!!」
突然取り乱した魅音を俺はとにかく押さえつけた。うわ、目玉がぐるぐるマークになってるよ!
っていうか、緊張してるのは分かるけど何でコイツ今日はこんなに混乱してるんだ!?

しばらくドタバタやった後、ようやく魅音は正気を取り戻した。
「……ゴメン」と、代わりに一気にテンションが下がってしまったようだが。
「いや、いいんだけどさ。
 でも、今日のお前いくらなんでもちょっと変だって。何かあるんじゃないのか?」
普段あれだけポーカーフェイスの得意な魅音がこんなになるんだもんなぁ、
もしかしてまだ心の準備ができてなかったのか?だとしたら、今日はやっぱり……
「……あ、あのっ!『私』は……ホントに大丈夫だから。
 だから、お願い圭ちゃん。私と、このまま…………して」
「あ……」
……出た。魅音の「女の子モード」。
意識してやってるのかそうでないのか分からないけど、
魅音は俺と2人でいる時に雰囲気がそれっぽくなってくると
自分のことを「おじさん」じゃなくて「わたし」と呼ぶようになる。
まるでそれが何かのスイッチであるかのように。
ちょうど今みたいに少し目を潤ませて、顔を真っ赤にしながら。
レナのかぁいいモードみたいに劇的な変化があるわけじゃないけど、
……だけど、こうなった魅音の言葉に、俺は一度だって逆らえたためしが無い。

「魅音……」
「あ、圭ちゃん……」
結局魅音が何を考えてるのか分からないままだけど、さっきからペースを狂わされっぱなしだけど、
呟いて、肩を抱いて、俺はそのまま吸い寄せられるようにキスをした。

さっきまでの雰囲気もなにもあったもんじゃない騒がしさが嘘みたいに、
俺の皮膚は急に夏の夜特有の濁ったような蒸し暑い空気を感じるようになった。
「……ん、んん…………ッ……はぁッ、圭ちゃ……んむ…………」
キスをして、空気を吸って、それからまたキス。
2人とも少しぎこちないけど、それでも俺は夢中で魅音の口を塞ぐ。
「あ……圭ちゃん、好きぃ……んっ…………」
しばらくすると魅音の方からも求めてくるようになってきて、俺もそれに応じる。
……今日まではここで終わりだった、だけど、今日はこの先がある。
早く、その先に行きたい。そんな気持ちを込めるようにして
俺は魅音の下顎に指を添えると、そのまま舌を差し込んだ。
「ッ!?………………えぁ……んっ、ちゅ……む…………」
さすがに最初は驚いたみたいだったけど、素直に俺の舌を受け入れてくれた。
……あ、歯磨き粉の味がする。
口内を清めるはずのものなのに、それは俺の頭を興奮と欲望で黒く汚していくみたいだった。
そうして、お互いの舌を絡めあいながら、高まる口内の熱を感じながら、
俺は背中に回していた左手を魅音の胸へと動かした。
「…………!ちょッ、ちょっと待って!!」
「うわっ!……どうしたんだよ急に?」
「あの……圭ちゃん、これから私の……その、む、ムネ、触るんでしょ?」
「あ、そ、そのつもり……だけど……」
魅音は突然弾かれるように俺から飛びのいてそう聞いてきた。
今度は何だってんだろう?
「あの、あのね……私、ブラウス自分で脱ぎたいんだ。
 あ、ぬ、脱ぐって言ってももちろん全部脱いだりしないよ。ボタン外すだけだから安心して、ね?」
「い、いや、別にいいけど、安心ってお前な……」
言うが早いかいそいそとした手つきでブラウスのボタンを上から外していく魅音。
相変わらず顔が真っ赤だったからてっきり後ろでも向くのかと思いきや
しっかり俺が見ている前で自分の肌を晒していった。
そして3つめか4つめのボタンを外したあたりから淡いミントブルーのブラジャーが現れると、
俺はもうそこから視線を動かせなくなって、頭がボーっとしてくる。
「えっと……じゃあ、横になるから…………」
うわ……なんか、似合ってる……っていうか、すっげえ可愛い。
魅音の言葉じゃないけど、普段あれだけ男の夢について熱く語っているこの俺が
今まで女の子の下着の色なんて白かピンクくらいしか想像できなかったとは。
ああ、俺は何て無知で何て未熟だったんだろう。そもそも俺という人間は……
「あの、圭ちゃん……どうかしたの?」
「え!?……あ、ああ、悪い。なんでもないから」
我に返ると魅音はとっくにボタンを外し終えて、布団の上に横たわっていた。
……これ、準備はできてるってことだよな。これから俺、あのブラジャーの中身に触れるんだよな。
くそ、一度流れが途切れてから仕切りなおすのって結構難しい……
でも、魅音だって覚悟を決めてるのに俺ができないでどうするんだ。
「魅音、それじゃあ、その、触るからな……」
俺は自分に言い聞かせて、外すのは忍びないそのブラジャーを上にずらし上げた。
はずみで少しだけ揺れながらあらわになった魅音の膨らみに息を呑む。
……やっぱりコイツ、大きい。
分かってたことだし、何度も想像してきたことだけど
実際に目の当たりにするその存在感にはかなわないみたいだ。
なんだ、こんなもの見せられたら仕切りなおしとか関係なくなるじゃないか……
「ひゃっ!……そんな、いきなり……なめない、で……よぉ……」
魅音が抗議の声を上げたけど、俺は構わず胸元へ顔を近づけ、乳首に舌を伸ばして舐め始めた。
舌先で乳首が固くなっていくのを感じる一方で、乳房に手を添えてゆっくりと揉みしだく。
「うう……ッ、んん…………は、ぁ……あ、あぁッ」
アダルトビデオの女優とは違う、押し殺したような声。だけどその声は今までにないくらい俺を興奮させる。
ふと、魅音の体から、石鹸やシャンプーとは違うレモンみたいな匂いがするのに気付いた。
さっきからあまり細かいことが考えられなくなっていた俺はつい疑問をそのまま口に出してしまう。
「……なに、この匂い?」
「………………ふぇ?あ、これ………………あの、せ、制汗剤……
 途中で……汗くさく、なるの……んっ、やだったから……」
……ついさっき風呂に入ったばっかりだってのに。
そんな魅音のピントのズレ具合が愛しくてどうしようもなくなってくる。
同時に、目に見える肌の質感とか、手のひらに感じる乳房の熱と不思議なくらいの柔らかさとかが
俺の脳をますます麻痺させていく。
なんだかいつまでもこうしていたい気分になってくるけど、そういうわけにもいかない。
まだこの先があるんだから、俺はこの先に行きたいんだから……

今更って感じもするけど、俺は今日まで重ねたイメトレを思い出して
胸への愛撫を続けながらスカートの中に手を伸ばした。
そうだ、確認の言葉も忘れずに「えっと……下、触るけど……」
「ぁ…………うん……」
この短い時間の内に魅音も羞恥心とか興奮とかが高まってるんだろう、
赤く染まった頬は言うに及ばず、視線も定まっていないような表情になっている。
魅音が乱れ始めているのに嬉しさを感じつつ、俺は軽く唇を重ねてから
両足の間に移した手でそこ、と思われる窪んだあたりを下着の上から擦ってみた。
「ひあッ!……や、やだ……ぁ……は、ん、ぁあッ……!」
さっきまでとは明らかに感じの違う、声を抑える余裕もなくしてしまったような声。
ここってそんなに敏感な場所なんだ……
「は、あ……あぅ…………けい、ちゃ……」
試しに一度指を離してみても魅音はまだ少し震えている。
予想以上の反応に躊躇する気持ちもあったけど、それ以上に強く迫る欲望には勝てなかった。
「……ぇ?ちょ、ちょっと、待…………や、やぁっ……!」
俺は衝動に促されるままスカートを上にめくり、ブラジャーと揃いのショーツに手を掛ける。
実を言うと、「予定」よりもけっこう早いんだけど……
「圭ちゃん、待って……その、まだ心の準備が……!」
「悪い……でも、魅音のココ、早く見たくて……」
まるで力の入ってない抵抗をさえぎってそのまま強引に脱がせてしまった。
「こ、ここまで来たんだからさ、いまさら隠すなって……」
「だ、だって、やっぱり恥ずかしいってば…………!」
閉じようとする脚を太ももの辺りで抑えて、俺はそれを目の当たりにした。
「………………うわ、ダメだ、なんか凄すぎて言葉が浮かばない……」
「ぅ……うぅ、なによそれぇ……圭ちゃんのバカぁ……ッ」
初めて見る女の性器。
かすかに覗く内部は鮮やかなピンク色で、本当はキレイだって褒めてやりたいんだけど、
俺はその見たこともない形状に心を奪われて口がうまく動かせなかった。
男と同じ排泄と生殖のための器官なのに、何でこんなに不思議なカタチをしてるんだろう、
そしてその複雑で奇妙なカタチを俺は何でこんなにいやらしく感じるんだろう。
「…………っく……う、ぅぅ~っ…………」
「…………あ、魅音……えっと、その、触るけど……痛かったらちゃんと言えよ?」
抵抗を止めたかわりに半泣きになってしまった魅音を見て思わずそう言ってみたものの、
ここまでかなり無理矢理に進めてしまった今となってはかなり白々しい。
さっきからコイツのこと全然気遣ってないもんな……
焦ったらだめだ。できるだけ優しく、優しく。
俺は心の中でそう強く念じながら魅音の亀裂に指を伸ばし、直接触れた。
最初はそっと撫でるように、それから少しだけ力を込めて今度はこすりあげるように。
「………………ゃ……やあ…………ん、あっ、はあぁぁっ」
……下着越しに触った時からもうそれっぽい感触はあったけど、
魅音の秘所は想像していた以上に透明な蜜で潤んでいた。
まだ入口を弄っているだけなのにいやらしい水音がしている。

「なぁ、魅音……もしかして気持ちいい?」
「わ、わかんない…………んあッ……けいちゃんに、触られる、の……っ
 きもち……よく、て…………あたま、熱くて……ゾクゾクし……やぁああッ!」
魅音の言葉はもう矛盾だらけだったけど、感じていることは充分に伝わってきた。
「もしかして、自分でいじったり……してるのか?」
「……え?…………い、いきなりなに言いだすのよぉ…………っ!」
「だ、だってさ、『俺に触られるの』とか言ってるし、今もこんなに濡れてるし……」
「あ……ぅ……そんなの……ひゃうぅっ!…………い、言えるわけ、ないでしょ……」
「……否定しないってことは、やっぱりいじってるんだよな……?」
「……………………ッ!!」
言い返さないのが墓穴を掘ってることにも気付いてない様子の魅音はとうとう両手で顔を隠してしまった。
……あの魅音が、俺の前でこんなにも弱くて脆い部分をさらけ出している。それを見ていると
さっき優しく、って思ってたばかりなのについ調子に乗ってもっと意地悪なことを聞いてみたくなってくる。
「…………あ、あのさ、それって、どんなこと考えながら…………?」
……声が少し上ずってしまった。
それはきっと、訊ねている半面で『自分に都合のいい答え』を期待しているせいで。
いや、もう期待というよりも身勝手な確信かもしれない……
「その……こっ、答えてくれないと、嫌いになるぞ…………」
……………………………………うわ
だっ、ダメだ!さすがに自分で言っててバカみたいだ。
「そ、そんなの……」
こんなこと言ってたら俺の方こそ嫌われちまう。呆れられる前に弁解しなき……
「そんなの…………そんなの、圭ちゃんのことに決まってるじゃない!
 中学の時から、ずっと好きだったんだから……!!」
半ばヤケになったような言い方だったけど、俺が望んだままに返ってきたその答えは
砂の城が波にさらわれていく様にいよいよ俺の理性を完全にかき消していった。
「あ……ありがとな、魅音……俺も、俺もお前のこと、本気で好きだから…………っ!」
一度魅音に軽いキスをしてから、俺は再び魅音の秘所に手を這わせた。
指で両方の壁を押し開けて、現れた肉の芽を舌でねぶり、
わき出す蜜を舐めまわしながら、少しだけ中に挿れてみた指をかき回す。
「ゃ……や、だ……また舐めて…………きゃ、あ、あ、あ、あああッ!
 けいちゃ……んんッ!……はぁ、はぁ……あ、あうぅ、
 ち、ちょっと、まって…………わたし、なんか、ヘン……ひああああぁっ……!」
魅音がまた何か言ってるような気もしたけど、いまさら止められない。
もっと気持ちよくなってもらいたいから。俺の魅音を、もっと可愛がってやりたいから。
今度は舌の方を魅音の中に無理矢理もぐり込ませて、指を使って一番敏感な所を押しつぶすようにしごく。
「あ、あ、あ……ああ、あんッ…………わた、し……もう、ダメ……
 も、もう……とまん、ない、よ……ぅ、んん、んあ、あ、あ、あああああああああッ……!!」
ひときわ大きな声があがったかと思うと、一瞬魅音の全身が腰を浮かすほどにこわばる。
その後すぐに力が抜けてぐったりしたように布団の上に沈みこんでしまった。
「あ……魅音……もしかして、イったのか……?」
「……はぁ、あ……あぅ…………わかんない、けど……ぅ……た、たぶん…………」
まだ息も整わないまま、魅音はそう答えた。
……魅音を最後まで気持ちよくさせたという事実は、
俺に感慨めいた気持ちと、ちょっとした安心感を与えてくれた。
情けない話だけど、昨日までいくら頭の中で考えていても
魅音と一つになるための『準備』がどれくらい必要なのか予想できなかったから。
けれども現実の魅音は想像以上に俺で感じてくれて、
彼女の中は一度達した今もなお愛液を溢れ出させている。
……それに、そろそろ俺自身も我慢ができない。
さっきから下半身が別の生き物みたいに今にも暴れ出しそうなほどの勢いで俺を急かしていた。
たぶん、これで大丈夫。今なら、魅音を抱くことができる。

だけど、その前に……

魅音の呼吸が整うまでのあいだ、俺は横たわる彼女の脇で頭を撫でてやりながら待った。
「えっと……落ち着いたか?」
「あ、うん…………ごめんね、圭ちゃん」
上目遣いで謝られても、なんと言うか……嬉しくて仕方がない。
「たぶん、もう大丈夫だと思う……
 それで、あの……そろそろ、するん……だよ、ね……?」
……もちろん俺だってそのつもりだ。
だけど、その前に俺は魅音にどうしても頼みたいことがあった。
「ああ、そうなんだけどさ……
 魅音、その前に制服、やっぱり脱いでくれないかな……」
「……えっ?」
一瞬、魅音は何を言われたのか理解できないような表情になって……
「な、なんで……そんな、今になって急に……」
「その……さっきから魅音の体触ってたら、なんかお前、メチャクチャ……可愛くってさ、
 無理して色々考えてくれてたのは嬉しいんだけど、やっぱり俺、お前の体全部見たくなっちまって……」
……ついさっきまで体に力が入らなかったみたいだったのに、急に体を起こそうとする。
「…………っ!だ、だけど……私、どうしても恥ずかしいし…………」
「だ、だったら俺も全部脱ぐよ……!な、それでおあいこだろ?」
「こ、コスプレHなんだよ……!?もったいないって思わないの?」
「それはだな……その……そう、あれだ、その娘の体を全部知りつくしていてこそ、
 初めて身にまとう服装が生きてくるもんなんだってば……!」
……俺はといえば、緊張と、そして戸惑いが邪魔をして口八丁をうまく活かせない。
やっぱり、そうだ。さっきから魅音は何かを焦っている。まるで本当に自分の体を見られたくないみたいに。
最初はてっきり照れ隠しで言ってるのかと思ってたけど、まさか本気でそう思ってるのか……?
「で、でも……やっぱり、やだ。脱ぎたくない、よ…………」
「なぁ、頼むよ……!魅音のこと好きだから、だから、全部見たいんだ…………」
もしかしたら本当にやめた方がいいのかもしれないと、頭のどこかで警鐘が鳴っている。
だけど、魅音の焦りが俺にまで伝染したように、俺は強引に魅音の肩に手を乗せてブラウスを脱がそうとした。
「い、嫌……やめて……………………やだ、やだ…………いやだあぁぁっ!!」

パァンーーーーーーーーーーーー
俺の家どころか近所にも届いたんじゃないかと思うくらいの乾いた音が響いて、
そう思った後で、ようやく魅音に頬を叩かれていたことに気付いた。
「あ……ご、ごめ……ん…………」
(待て、落ち着くんだ前原圭一!きっと魅音は……)
頭の片隅が更に強い警告を告げようとしていたけど、それ以上に頭に血が上るのを抑えられない。
「な……に、するんだよ!……お前、俺の彼女なんだろ?これから俺とセックスするんだろ?
 なのに、そんな…………そんなに俺に裸を見られるのが嫌なのかよッ!?」

……そう、言葉にした瞬間。突然頭の中に一つの『答え』がひらめいて、
それがさっきまでの俺の疑問すべてを串刺しのように一つに貫いていくのを感じた。
「あ…………ま、まさかお前…………背中の………………!?」
一瞬、肩がピクッと跳ねたものの、魅音は自分の肩を抱いたまま顔を伏せて何も言ってくれない。
だけど、その沈黙は俺の答えが正解だということを教えているようなものだった。
「み、魅音……俺、その…………」
「……ごめん、な、さい…………っ、わたし……ずっと前から、圭ちゃんの気持ち、知ってた……けど、っ
 だけど私っ……普通の女の子じゃ、ない、から…………こわくて…………
 だから、隠せばいいなんて…………バカみたいなこと、考えて……」
蚊が鳴くように小さな声でそうつぶやいた後、
声を殺して泣き続ける魅音に返事もできないまま、俺はただ無力感に打ちのめされていた。
……ああ、やっぱり俺は皆が言うとおりの、どうしようもなくバカで、鈍感な奴だったんだ。

あれからもう、2年が経つ。
表面上はもうみんなすっかり普通に暮らしてて、立ち直ったようにも見えるけど、
あんなことが起きた心の傷がそう簡単に消えたりするはずがない。俺だって、そうだ。
ましてや魅音はずっと前から心だけじゃなくて背中にも『傷』を背負って生きてきたんだ。
こんな簡単なことにも気付かないで、自分のことばかり考えていた俺は、
「お前を全部見たい」なんてどこかから借りてきたような言葉で、
……また、魅音を傷つけてしまった。
「み、おん…………ごめん、本当にごめん!俺……俺、なんてこと…………」
俺は、どうしたらいいんだろう。言葉が、言葉が見つからない……
「ちがうの、わたしが……私が、いけなかったの…………!
 やっぱり私……圭ちゃんのそばにいる資格なんて、なかっ……」
「……バカ!言うなよ、そういうこと…………ッ」
魅音が最悪の言葉を告げようとするその前に、思わず俺は魅音を抱きしめていた。
腕の中の魅音は、俺を拒むように小さく震えている。
「………………なぁ、魅音……このまま最後まで、しよう」
とにかく、何か言わなくちゃ……
「……だめだよ……わたし、見せられない……ぜんぶ、見せてあげられないもん…………!」
「見せたくないなら、見せる必要なんてないから……」
どうすれば伝えられる?何て言えば、魅音は分かってくれる……?
「だけどっ……!わたし、ずっと隠してたんだよ……
 圭ちゃんだって、嫌でしょ……?汚いところを見せない相手となんて。
 気持ちをひとつにすることもできないのに……セックスなんて、しちゃいけないんだよ……!」
「……………………ッ!」
……だめだ、言葉なんて選んでられない。そんなことしてたら、魅音が俺の前からいなくなる。
「……そんな、そんな順番、誰が決めたんだよ!
 体の後に心が来て、何がいけないんだよ!?他人のこととか、常識がどうとか関係ないだろ!!」
「け、圭ちゃん……?」
「俺……いま、本気で魅音とセックスしたいって思ってるんだ!
 もちろん性欲とか、そういうこともあるけど、
 今日このまましなかったら、きっと俺たちもう一緒にいられなくなる……そんなの嫌なんだ!!」
もしかしたら、俺がいま感じていることは間違いなのかもしれない。
魅音の言うとおり、心も重ねられない奴らが体を重ねるなんていけないことなのかもしれない。
……だけど、もしもセックスが本当に『ひとつになる』ってことなんだとしたら、
カタチだけでも、真似事でもいいからそうなりたい、って思った。
この先も魅音が消せない傷に苦しむっていうのなら、それでも俺が一緒にいてやるからって、
いつも強がってばかりいる目の前の泣き虫に、ままならない言葉以上の何かで教えてやりたかった。
「お前、俺とするの……本気で嫌か?」
「そんなわけ、ない……!けど…………っ」
「俺さ、待つよ……いつかお前が『背中』、見せてくれるの」
「……っく…………けいちゃ…………ん……」
「それまで、お前のそばにいるって約束する……だから、それまで2人でゆっくり待とう」
「…………ぅう……ひっく…………あ、あぁ……ひぅっ……」
「……それにホラ、お前んちの両親って……アレだろ?
 そんな家の娘を傷ものにしちまったらさ、
 どうしたって責任取らないわけには行かなくなるって、な……?ハハ……」
「ふ……ふえぇ…………っ、圭ちゃん……けいちゃあぁぁん………………!!」
こらえ切れなくなった魅音が今度は自分から俺の胸に抱きついてきて、
今度こそ声を我慢せずに思い切り泣き出した。
「ばっ、バーカ……!いつまでも泣いてんじゃ…………ねえっ、つの…………」
「ひうっ……う、うえぇぇ…………っ、けいちゃんは……ほんとに、ほんとにわたしでいいの……?」
「だ……からっ!何回も……いわせんなよぉ……お前とだから、したいんだってば…………」
そういえば、今まで何度も魅音の泣き顔を見てきたけど、
こんな、赤ん坊みたいに泣きじゃくってるのは初めてかもしれない。
あ、やべ……なんか俺まで魅音のポニーテールがにじんで見えてきた…………

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最終更新:2006年10月24日 15:55