雛見沢分校の保健室には午後だけ保健の先生がいました。
名前は園崎詩音。
午前で本来の学校を抜け、沙都子にお弁当を届け、ひととおり談笑したあと、彼女は保健室に行きます。
それっぽく白衣なんかも着ちゃってノリノリです。
宿題などで時間を潰し、放課後まで待ちます。

―――コンコン

おや?今日も先生のもとに誰かが駆け込んできましたよ。
「…ぅう…詩ぃちゃぁん…」
竜宮レナです。赤い顔をしてなんだか苦しそうです。
「あらあらレナさん、熱ですか?なら私じゃなく監督に―――」
「違うの…『詩ぃちゃんの保健室』に相談なの…」

レナさんの言う『詩音の保健室』とは要するに『性の駆け込み寺』である。
私はいろいろ早熟な人生を歩んでしまい、バカみたいに性の知識を溜め込んでしまっていた。
保健の先生…というか悩める女性の大概の悩みに答えられるようになってしまったので、
何かに役立てられないかと思案するとひとつ思いついた。

雛見沢だ。

お姉の通う分校には女性教諭がいるものの、性教育なんておしべとめしべ程度のものらしい。
そんなんじゃいざってときに間に合わない。
だから、部活メンバーでも年上のお姉とレナさんを呼んで徹底的に性教育を叩きこんだ。
二人も多少は知識があったらしく、講義はけっこうスムーズだった―――のだが、
『何かあったときに困るから定期的に来てよ!保健室貸してあげるからさ!』
というお姉の一声にレナさんも賛同し、
めでたく『詩音の保健室』が開院しましたとさ。
二人もちょくちょく雑談に来ていたが、まさか本当に本来の目的を果たそうことになるとは…
「で、どうしたんです?」
顔を赤らめてもじもじするレナさんを保健室の椅子に座らせて、
私はあくまでも優しく問いかける。
「……ぁ…あのね、あのね…詩ぃちゃんはさ、女の子の日が近いときにさ…その…その…」
「あぁ、欲情しますよ。」
―――優しくするんじゃないのか詩音!
ピシャリと言い放った自分にうっかり突っ込んでしまう。
やっぱりやめた。
こんなもの遠回しにする意味はない。
信頼の置ける同性どうしなんだから直球で答えるに限る。
「全然普通です。生理前なんてみんなそうですよ?
私もはじめは戸惑いましたけどね。」
「…それでね…それでね……収まる方法ってないのかな?…かな?
このままじゃお勉強上の空で…せっかく圭一くんが教えてくれてるのに…失礼だから…」
暑いから脱ぎ捨てた白衣を椅子にかけて、
私は顔を真っ赤にさせたレナさんに近づく。
「だいたいなら自慰で収まりますよ。やり方知ってますよね?」
にっこり笑顔で記念すべき第一回の診察が終わる――――はずだった。

「…知らないの…」

どうやら、やはりこの子は一筋縄では行かないらしい。
「…………そうですか。まぁ無理もありません。
前回の講義ではお二人とも知ってるものと踏んで説明しませんでしたからね。」
驚かなかったと言えば嘘になる。
鈍感お姉よりは知識のあったこの子が知らないとは。

「…その、こんな相談恥ずかしいんだけど………詩ぃちゃんに、教わりたいな…?」

正直クラッときた。私は悟史くんを愛する異性愛者のはずなのに。
どうして目の前の美少女が眩しいんだろう。
赤い頬に潤んだ瞳。小動物的な弱さを見せ、上目づかいでこちらに助けを求める。
さらには生理前で欲情ときた。
これはもう据え膳喰わぬはというやつではなかろうか。
―――いやいや!私は保健の先生だ!
彼女の勉学に励むための真摯な願いを受け止めるだけなんだ!
落ち着け、クールになれ園崎詩音。
深呼吸をして、――さぁ、仕事を始めよう。
「わかりました、そこに寝転んでください。」
「うん…」
この分校では何かあれば入江医院に直行になっているらしく、少し固いベッドがひとつあるだけだった。
レナさんひとり乗っただけでかなり軋む。
「…私は乗れないなぁ……あ!椅子に座ればいいんだ!」
キャスターつきの椅子を引き寄せてベッドの隣に座る。
「…うーん、脱ぐのは恥ずかしいですよね…。じゃあ、少し足開いてください。」
「これぐらいかな?…かな?」
回りくどいのは嫌いだから胸でなく最初から挿入を教えることにする。
胸で得られる快感なんてたかが知れているし。
「あ…大丈夫です。じゃあ、手取りますよ。
いいですか?あくまでも自慰の方法を教えるだけなので、基本的には自分で指を動かしてくださいね。」
半分自分に言い聞かせているようなものだった。
レナさんの腕をとり、場所を示して、…まぁコツぐらいは伝授しようか。
「ちょっと失礼しますね。…あ、大丈夫かな…」
「ひゃうっ…!」
一度下着の中に手を入れ、十分に潤っているか確かめる。
いくら欲情していても実際にそこが濡れていないと痛いだけなのだから。
それだけでも感じたらしく、目を閉じて身体を強ばらせるレナさん。
私の与えた刺激でまた蜜が溢れてくる。うん、これなら大丈夫。痛くない。
「じゃあ実際に自分の手でやってみてください。
入口を触るだけでも十分な刺激になると思いますから。」
「…うん」
意を決したレナさんが、私が触ったときの真似をする。
「ん!……ふぁ…ぁ…っ」
慣れない感覚も感じてしまうらしく、目をつぶって快感に耐えていた。
「そのまま指を中に入れて、関節を曲げてみてください。そのまま動かして刺激するんです。」
「え?ぅん……ひぁ…あ…ぁああ……はぁっ…ぁ…ん…」
顔を真っ赤に染めて行為にふける。
はじめての感覚に相当感じているらしい。呼吸がだいぶ激しくなってきた。
「…はぁ……ぁ…あ……はぁ…詩ぃちゃ……なんか…レナ……わけ…わかんなく…なりそ……ぁあ…」
女性のオーガズムなんてそんな簡単じゃない。
しかし今の彼女は軽く達するだけでも相当未知の領域だろうからこの反応も無理はない。
「大丈夫です、もっと早く指を動かしてみてください。怖くないから安心してわけわかんなくなっちゃってくださーい」
私がそう言うと、レナさんは自身の制服を握っていた手を私に伸ばし、手を握ってきた。
「…ぁ…ん………詩ぃちゃん……詩ぃちゃ…ぁ…あ…あ…―――――!」
最後は声になっていなかった。
目をぎゅっとつぶり、身体が小さく跳ね、私の手も強く握られた。
「…………はあ……はぁ…はぁ……」
「どうでした?気持ちよかったですか?」
虚ろな目をしたレナさんに話しかける。
はじめてでそんなこと聞かれて答えられる訳がないのに。
やっぱ私はSなんだなぁ…
「…よく…わかんないや…」
「そんなもんです。お家で気が済むまで試行錯誤してみてください。」
「…ありがとう。…あのね、もうちょっと…このままでいいかな…?」
「ええ。構いませんよ。疲れたでしょう?起こしてあげるからどうぞお休みください。」
「…ぅん…そうするね…ありがと」
彼女はゆっくり眠りに落ちた。

「…さて」
…予想通り。私のショーツも濡れていた。
指を挿しこめばいやらしい水音がする。
こんな場面を見て思春期の女の子が反応しない訳がない。
「………ッ……んん……んっ!……んぅ……ん…ッッ………」
ベッドの掛布団に噛みついて起こさないように声を抑える。
「……ん………んッ………ん……んぅ………ん…ッッッッ……ん………!!」
情けない事に三分も持たない。
そのぶん一晩に何回も没頭してしまうのだけれど。

「じゃあ、ありがとね詩ぃちゃん。また明日!」
「はい、さようなら。明日も来ますから、よかったら寄ってくださいね」

「はーい!」
夕焼けに染まった彼女がやけに美しくて、なんとなく悔しかった。

「園崎診療所、本日これにて閉所ーっ!」
ひぐらしの声が、帰り道をずっと彩っていた。

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最終更新:2007年10月03日 19:27