「は、はうぅ!最後の最後で負けちゃったよぅ…!」
「はっはっは!じゃ、俺の見事な逆転勝ちによって罰ゲームはレナに決定―!」
レナの落胆の叫びと俺の勝利の声が部屋に響き渡った。




今日は毎度の如く両親が東京に行ってしまったためこれまた毎度の如く
レナが夕食を作りに来てくれていた。
それ自体はいつもの事なのだが、今回はいつもと違う事が1つ。
…レナの親父さんも偶然仕事の関係でいないらしい。
「新しい仕事が見つかって張り切ってるんだよ」、とレナは嬉しそうにニコニコしていた。
そんな訳で当然の様にレナはそのまま俺の家に泊まる事になった。

「圭一くん、今日も楽しかったね!」
夕食も入浴も済ませたがまだ寝るのには早い時間ということで、暫くの間俺とレナは
俺の部屋に上がって他愛もない話に花を咲かせていた。
「あぁ、全くだ。…まぁ朝っぱらから宝探しはちょいとキツかったが…」
「はうぅ…ご、ごめんね?圭一くん凄く一生懸命手伝ってくれたし疲れちゃったよね?」
今日1日を振り返って笑顔を見せていたレナが急にしゅんとする。
「い、いや、レナ!そんなに気にする事無いぞ!?
いつもは昼過ぎまで朝寝坊が俺の基本スタンスだろ? それがレナと一緒に
宝探しして…まぁ、疲れたのは否定しないけどよ。
あんなに美味い夕食も作ってくれたんだ、発掘の手伝いする位なんでもねぇぜ?
俺も楽しかったし、レナもお気に入り見つけられたし最高の1日だったぜ。」
「…えへへ、やっぱり圭一くんは優しいね。レナも嬉しかったんだよ。
今日圭一くんが発掘してくれたあの人形、ずっと大切にするからね!」

…不覚にも俺はそのレナの笑顔にドキッとしてしまう。
今までの会話が日常のそれらとなんら変わりは無かったためにあまり
意識はしていなかったが 今日は俺とレナ以外に誰もここには居ない訳で、
ここは俺の部屋な訳で、 目の前には風呂上りで良い匂いのレナが微笑んでる訳で…。 お、落ち着け、クールになれ前原圭一・・・!
取り合えず今はこの空気をいつもの俺とレナの方に戻すべきだ…!

「レ、レナ!まだ眠くならないだろ?ちょっとトランプでもしないか?」
「え?それは良いけど…もしかして負けたら罰ゲームもあるのかな、…かな?」
「まぁ普通に二人でトランプするだけじゃつまらないからな、もちろんありだ!
部活じゃないからって油断してると負けちまうぜぇ~?」
「あはは、圭一くんだって最近は罰ゲームの常連だもん。昨日みたいにまたレナが勝って
かぁいい罰ゲームで圭一くんをお持ち帰りしちゃうんだよ、だよ!」
「へっへっへ、上等じゃねぇか!あの時の恨み、倍にして返してやるぜ!」
…よし、何とか危ない雰囲気から抜け出す事が出来た。良くやった俺!

「…えぇと、1戦じゃすぐ終わっちまうからな。種目はスピード、先に3勝した方が勝者!
罰ゲームは…んー…。」
俺が決めかねて唸っていると、レナが何かに気付いた様に呟いた。
「圭一くん、アレはどうかな?」
「ん?アレってどれだ?」
ほら。とレナが指し示す方向に眼をやると、俺の机の下に箱が置いてあるのが見えた。
…そう言えば前回の両親不在の日、俺の部屋で部活をあった時があった。
その時に罰ゲームを書いた紙を皆であの箱に入れて使ったんだっけか。
「おぉ、ちょうど良いな。じゃあ勝った方があの中から一枚引く事にしよう。
じゃあそろそろ始めるか、覚悟は良いかレナ!?」
「レナはとっくに準備出来てるんだよ、絶対負けないんだから!」
お互いに笑いあって、いつもの様にゲームを開始した。


…今思えば、迂闊だった。
いつもの雰囲気に戻れた事に安堵して、この時気付かなかったのが失敗だった。
俺が以前あの箱の中に、どんな罰ゲームを書いて入れたのか。
その時の俺は全くそれを覚えていなかったし、気にする事も無かった。

…数十分後。
レナとの長く激しい戦いの末、遂に俺は勝利を掴み取った。
そして冒頭の部分に繋がる訳だ。良くやった前原圭一、感動したっ!!!!!

「さて、負けたレナにはかぁいい罰ゲームだよなぁ…クックック!」
「け、圭一くん…あの、あのね、なるべく優しいのが良いなぁ・・・?」
「さぁ~?でもレナのかぁいいモードにはかなり苦戦させられたからなぁ・・・。
魅音辺りは過激なの入れてそうだし楽しみだよなぁ~?」
「は、はうううぅぅぅ…!」
部活メンバーの中でもいつも一際えげつない魅音の罰ゲームを思い出しているのだろう、
かなり不安そうな様子のレナに悦を感じつつ、箱の中から一枚の紙を取り出す。

…その紙を開こうとした瞬間、俺の本能が警鐘を鳴らした。
その紙を開いてしまったら、さっき必死になってようやく抑えたあの熱が
今度こそ抑えられずに爆発する事になる、と。
…ぐ、確かにここで本当にヤバイの来てしまったら、正直かなり不味い気がするが…。
いや、きっと大丈夫だ俺、俺はあの時も雄の本能に流されず
自分の欲望に打ち勝ったじゃないか!
それに俺は学んだんだ、惨劇を回避するためには自分や仲間を信じる事が必要なのだと! 自分を信じろ前原圭一!!きっと俺はやれば出来る子なんだよおおおぉっ!!!(※錯乱中)

俺は自分の中の葛藤を制して、勢い良く紙を開いた。
さぁ、どんな罰ゲームが来たって俺は耐えてみせる自信があるぜ…っ!
…そこには見覚えのある字で、罰ゲームの内容が書き記されていた。


“ビリが1位にメイド姿でヨーグルトを食べさせる”


・・・・・・・・一瞬意識が飛んで、オヤシロ様が見えたような気がした。
前言撤回。・・・すまんレナ、既にもうこの時点で心が折れそうだ。

「…圭一くん?えっと、…結局罰ゲームは何だったのかな、…かな?」
紙を凝視したまま硬直している俺の様子に己の身の危険を感じたのか、
恐る恐ると言った感じでレナが尋ねてくる。
その声に漸く俺は我を取り戻して、ゆっくりとレナに罰ゲームの内容を見せた。
レナの不安げな瞳がその文章を辿る。直ぐに真っ赤になるかと思っていたが
キョトンとして何回も何回も初めから読み返し、・・・5回目くらいで遂に爆発した。
「ふ、ふえええぇっ!!?こ、これやるの…?」
「・・・・・あぁ。そだ、な・・・・ 。」
「ううぅ…これってそのっ…『はい、あーん☆』で普通にじゃダメなのかな、かな…?」
きっとそれならば俺も耐えられると思う。
…だが、実際にこの真っ赤になって涙目で俺を見つめるレナを目の前にした途端、
罰ゲーム通り俺にヨーグルトを食べさせるレナの姿が頭の中に広がって…うぐ。
…気付くと「それでも良いぜ。」と言おうとしていた俺の口先は勝手にレナに罰ゲームを
実行させるためにそのスキルを発揮していた。

「ダメだ。この前きちんとやり方は教えただろ?
あの時はヨーグルトが無かったから 次の日に回すつもりでいたが校長のお陰で
実行できなかったしな、ちょうど良いじゃねぇか。」
「…で、でもこう言うのって皆がいる前でやるのが罰ゲームなんじゃないのかなぁ!!?」
「…何だ?レナは周りに誰も居ないより皆に見られる方がお好みか?それだったら…」
「ちちち違うよ!そ、そうじゃなくて…っ、うぅ…分かったよぅ…。」
・・・・皆のいる教室でするより、俺と二人きりの誰もいないこの状況下、更に布団の上で
この罰ゲームをするほうがよっぽど危ないと思うのだが、幸か不幸か混乱中のレナは
それに全く気付いていない様だった。

「ちょうどヨーグルトは残ってたしな。俺が取ってきてやるから心の準備でもしておけ。」
「あ、圭一くん…メイド服はどうすれば良いのかな、かな…。」
「魅音じゃあるまいしここにある訳ねぇだろ・・・あったら逆にヤバイ。」
俺の冗談にレナは漸く緊張を解いてクスリと笑った。
その笑顔を見た俺も、余計な緊張感を捨てられた気がした。
(これなら大丈夫…、かもな。)
「せめてもの情けだ、服はそのままで良いぜ。じゃあちょっと待ってろよ?」
「・・・・・・・はぅ。」

「…じゃぁ、いくからね?」
「・・・・・・お、おう。」
俺の部屋の、俺の布団の上。遂にその罰ゲームは開始された。
レナがそっと紙製のスプーンの普段は持つところを銜え、
手に持ったヨーグルトのカップから ヨーグルトを少しだけ掬い上げた。
そして胡坐をかいている俺の膝に片手を乗せ、たどたどしく顔を寄せる。
…シャンプーの良い匂いが鼻を掠めた。目の前には緊張した様子のレナの顔。
視覚と触覚と嗅覚でレナを感じた俺の下半身が急激に熱くなっていく。
(ぐお…っ、いや、まだ耐えられる…耐えられるぞっ…!)
必死にその熱を抑えた甲斐あってギリギリの所で理性は保てているのだが…
ヤバイ、体が動かない。

一方レナの方は突然硬直してしまった俺に戸惑っていた。
さっさとスプーンのヨーグルトを食べて欲しいのだが催促するのもそれはそれで
恥ずかしいのだろう、ひたすら俺が動くのを待っていた。
…と、顎が辛くなってきたのか、徐々にスプーンの角度が下がっていく。
部屋の暑さのせいで少し溶け、液状になりかかっていたヨーグルトがそこから
レナの手へと落ちた。
「…んぅっ…!」
突然手に感じた生ぬるさに驚いたレナはビクリと体を揺らす。
その振動で今度は急に角度の高くなったスプーンからヨーグルトが伝っていき、レナの口の端から顎までを汚していく。

『せめてもの情けだ、服はそのままで良いぜ。』
…罰ゲームが始まる前、確かに俺はそう言った。
どれだけの数を重ねてもメイド服を着用するという行為にはかなりの羞恥心が付き纏う。
哀しいかな、最近の部活で一番よくメイド服を着せられている俺が言うのだから間違いない。 …ましてやこの手の罰ゲームでメイド服、となるとその恥ずかしさは
何倍にも膨れ上がるだろう。 その時は本当に言葉のままのつもりで、
レナに手加減をしてやろうと思って言っていたんだ。

…考え無しだった。
家には誰も居ないこの状況下、俺の部屋、それも布団の上でこの罰ゲームをするとなると
…確実にメイド服よりパジャマの方が遥かに破壊力がある。
考えてもみろ、風呂に入った後だからレナのまだ乾ききっていない髪からはシャンプーの
良い匂いがずっとふわふわ漂ってる。顔を近づけている今の状況なら尚更。
そして目の前のレナは口元やパジャマの胸元や裾やらを白い液体で汚していて、
潤んだ瞳は縋る様にずっと俺を見続けている(実際は早く済ませろという意味だが)
…罰ゲーム開始前、よっぽど俺は緊張していたらしい。何故こんな簡単な事に気付かなかったのか…!


(何という眼福…じゃなくて!これは流石に…っ!!)
マズイ。もはやクールになれとかいってる余裕は無く、このままでは本気でマズイ。
(ぐおっ…と、兎に角この一口分を食べちまえば、…っ!)
そう、罰ゲーム終了のタイミングは勝者のみが決定出来る権限であって敗者が口を出す
事は許されていない。
どんな恥ずかしい格好をさせられて、「もう許してくれ」と泣き叫んだとしても、
勝者が「家に帰るまで」と言えばそのまま村を歩かなければいけないのだ。
いつもはその規則のせいで泣きを見る俺だが・・・
今はこの天国のようで地獄のような状況から 抜け出せる唯一の助けだった。
そう、一瞬だ。一瞬スプーンに口をつけるだけで俺は俺に打ち勝てる・・・!
沸騰しきった思考回路でようやくそこまでたどり着いた俺は、勢い良くスプーンの端を
口に含んだ。
…その瞬間。脳内であの時のクラウドの言葉が蘇った。

“ヨーグルトを口に入れるとき、スプーン越しに二人の唇が触れ合っている訳で…わおお!”

生ぬるいヨーグルトの甘さを無理やり喉の奥に流し込んで、ゆっくりと顔を上げる。
…レナもあの時の言葉を思い出していたのだろう、
眼を合わせたときその瞳はトロンと していて…。
俺の勝手な思い込みだろうが、…その瞳は何かを期待しているかの様に見えた。

…わーお。すまんレナ、俺はもう駄目だ。


…俺にヨーグルトを食べさせた体勢のままだから当然なのだが、
未だにレナは口にスプーンを銜えている。
(・・・・・・・邪魔だな、このスプーン。)
罰ゲームが終わった今も尚、俺とレナの間に確固として存在し続けるスプーンに、
俺は自分勝手な怒りを覚える。
「…レナ。口の周り、一杯ヨーグルトついてるぞ。」
「ん、…ふ、ぁっ…?」
ほんの数秒前、俺が長く苦しい葛藤の末に漸く加える事が出来たスプーンをもう1度銜え、
そのまま幾分か乱暴にレナの口からスプーンをずるりと引き抜く。
長い間口に銜えたままだったため口内に溜まっていたレナの唾液とヨーグルトが混ざった
白っぽい半透明の糸が、スプーンのレナが銜えていた方から滴り落ちて俺の膝を濡らす。
(…あぁ、勿体無いな、今の。)
…それすらも、俺の肉欲をより強く大きくしていくための物になる。
ブッとスプーンをその辺に吐き捨て、今度は荒々しく、噛み付くような勢いでレナの唇を奪う。 「け、圭一く・・・・んく・・・ッ!!? 、・・・ぅ」

やはりと言うか何と言うか、一番先に感じたのはレナの味と言うより
さっき食べたヨーグルトだった。
ちょっと残念に思いつつ、それでも夢中になってレナの口内を舌でしゃぶり回し、掻き乱す。
そうして少しづつレナの身体を倒していく俺の肩を、弱々しく押し返していた
レナから急に力が抜けて、二人一緒にそのまま布団の上へと崩れ落ちるような形になった。 「んぁ…ひゃうぅ・・・・っ!!?」
と、同時にレナがずっと手に持ったままだったヨーグルトのカップからヨーグルトが
流れ出して盛大にレナの身体にブチまけられた。
俺はヨーグルトが身体に掛かる感触に驚いて小さな悲鳴を上げたレナの唇を一旦
開放する。
顎にまでかかったヨーグルトをちゅるりと音を立てて舐めとるとレナはビクリと身体を
揺らした。

「・・・・・・・・・・。」
…顔を上げて、はぁはぁと荒い息を吐いているレナを見つめる。
キスはしてしまったけど・・・・今ならまだ、戻れるから。
…何故かは分からなかったけど、レナならこれだけで分かってくれると確信していた。
「・・・・・・・・・。」
レナはそんな俺に気が付いて、俺の瞳をじっと見つめ返してきた。
そして暫くそのまま思案していた様子だったが、ふっと力が抜けたように、
だけど俺を丸ごと 包みこむ様な、そんな顔で小さく微笑んで言った。

「…圭一くんも、ヨーグルト…一杯ついてるよ…?」

それが、レナの答えだった。

…レナから確かな返事を貰った事でさっきまでの乱暴な気持ちは消えていた。
寧ろお互いの初めてだったであろう口付けを無理やりにしてしまった事を後悔する気持ちが
今更だが湧き上がってくる。
「…なぁレナ…ごめんな。」
「・・・なにが?」
「いや…レナも初めてだったんだろ、その…キスするの。
 それなのに俺、突然強引に―――」
と、そう言い掛けた圭一の口にそっとレナの人差し指が当てられる。
驚いた圭一が申し訳なさから俯いたままだった顔を上げたそこには、
少し不機嫌そうな色を浮かべたレナの瞳があった。
「圭一くん。…何の話?」
「…へ?いや、だからさっき・・・!」
「…レナは圭一君が謝らなくちゃいけないような事、何もされてないよ。
 …圭一くんは、レナの口に付いてたヨーグルト取ってくれただけだもんね?」
「…ぁ。」
その瞳には、既にさっきまでの気が利かない俺に対しての不機嫌そうな色はどこにもなくて、
変わりに悪戯を仕掛ける直前の様な、どこか楽しそうな色が含まれていた。
それを見て漸く俺はレナの意図を理解する。
「…俺ともあろう者がレナに余計な気遣わせちまったな、…悪ぃ。」
何となく照れくさくなって、こつんと軽く額を合わせる。
ほんとにね、とレナが可笑しそうに笑うものだから、つられてこっちまで可笑しくなってきて
暫くは額をくっつけあったまま二人してくすくすと笑っていた。

「…レナ…。」
「…、ん…。」
そうしてその笑いが落ち着くのを待って、俺はそっとレナに今度こそ「初めて」のキスをする。
1度目は触れるだけのキスを。
2度目は少しだけ角度を変えて。
3度目にその柔らかい唇を甘噛みすると、少しだけその口が開いた。
レナとしては単に息継ぎの動作なのだろうその動作が、自分から見れば誘っているようにしか
見えなくて…思わず生唾を飲み込む。
むくむくと湧き上がってくる乱暴な衝動を軽く深呼吸する事でなんとか抑え付けて、
そっとレナのそこに舌を這わせると、舐め上げられるその感触にレナの体が一瞬震えた。
…さっきの様に、レナが怖がらせる様なことはもうしたくない。
自分が出来る限りのゆっくりさで口内に侵入し、レナの舌を探り当てる。
おずおずとではあるが、レナの方からも俺の動きに応えてくれた。

「…けぇ…ぃち、く…はぁっ…」
…一方的なキスと、お互いが求め合っているキスとではこんなに違う物なのか。
あまりにも気持ち良過ぎて、何よりレナと気持ちが繋がっている今の状態が幸せすぎて
情けない事に上手く息継ぎが出来ない。
大した時間も経たない内に苦しくなって、ぷは、と唇を離した瞬間思いがけない事が起きた。
レナが俺の首に手を回して、うなじから後頭部へと手を差し入れたのだ。
「…っ!!?」
その柔らかいけれど熱いような冷たいような不思議な温度に、俺の襟足が掻き上げられる感触に
ぞくぞくっと一気に何かが背筋を駆け抜けていき、急激に俺の体温が上がっていく。
と、突然ぐいとレナに引き寄せられる。
未だに熱に翻弄されている様子の俺を間近で見て、レナはうっとりとした…恍惚としか言い様のないようなの表情で一度だけ息を漏らした。
俺の耳元に掛かったその息は、思いのほか熱く濡れていて…俺をもうどうしようもない気持ちにさせる。
「ぁ…ね、圭一くん…。」
「ん…何だ…?」
「…圭一くんのお口の中、まだ一杯ヨーグルトついてるかな、…かな。」
「・・・・・・。」
「…ふ、っ…!」
今度は何も答えずにレナの唇に噛み付く。
レナの舌の動きはさっきより幾分か大胆になって、まるで本当に俺の口の中にあるヨーグルトを舐め取っているかの様にくちゅりくちゅりと音を立てて隅々まで舐め取り啜っていく。
そうしてまた暫く経ってから口を離す。
だけど・・・まだ、まだ全然足りない。
「…、はっ…はぁっ…!…な、レナ。」
「…ん、…まだついてる…?」
「…あぁ、…俺は?まだついてるか?」
「…あは…全然足りない、よぉ…ぁふ…っ」
…ヨーグルト云々は只の口実なのだとお互い分かっている。
だけど今の俺とレナにはそれが必要だったし、今更やめるのも無粋だと思われた。
「けぇいちく…、んっ、…もっとこっち来て…?」
「…ん、分かってる…。」
深い口付けを一旦やめ、単に触れるだけの軽いキスを繰り返しながらレナの求めるままに体勢を変えていく。
今までレナの顔の両脇で腕立て伏せをする時のようについていた掌を今度は両肘でつく形へ。
そうしてより一層近くなった身体をぎゅっと抱きしめると、レナは嬉しそうに笑った。
その声に誘われる様に、レナの肩口に埋めていた顔をあげ覗き込む。
…レナの柔らかく細められた瞳の中には、今のレナと似たような表情を浮かべている自分の顔が映っていて、…何故だかはわからないけど、無性に泣きたくなった。
レナも同じ様にその事に気付いたのだろう。熱に浮かされたように潤んでいたその瞳が
一瞬揺れたと思った刹那、今度はレナの方から縋る様に抱き付いてきて、俺を求める。
それに応えて再度口付ける。この気持ちをぶつけ合うために、更に深く、もっと奥へ。

最後に俺が一啜りして僅かに口を離した時、お互いの口へと結ばれた糸は
レナによって舐め取られた。
それは俺がしたかったのにという意味を込めて視線をやるが、それを見たレナが楽しそうに、
…本当に幸せそうにクスクス笑うので、嬉しい反面何だかちょっと悔しくなってくる。

…ここでさっきの如く一緒に笑い出すとまた振り出しに戻りそうだしな。
そろそろ俺がリードして始めても良い頃だろう?

「ふふっ、圭一くんかぁいい…って、はうぅっ!?」
未だに笑い続けるレナの首筋から鎖骨にかけてを舌で辿ると、途端にレナの体がびくんと跳ねた。
「…ほらほら。さっきレナがカップごとひっくり返したから口だけじゃなくて身体中
ベトベトじゃねぇか。俺が綺麗にしてやるよ。・・・原因は俺な訳だしな?」
「んっ、圭一くっ…!」
レナの制止の声も聞こえない振りをして、そのまま舌を滑らせ下降していく。
パジャマは着たままであるが、季節は真夏。
当然通気性の良い薄い素材で出来ているし、その上ヨーグルトによって湿ったパジャマは
レナの上半身殆どの部分にぴったりと張り付いてしまっている。
そのパジャマの中にスルリと片手を差し込んで軽くブラジャーを引っ張ると、
汗のせいなのかヨーグルトのせいなのか(両方なのだろうが後者が大部分であろう)
ぬるりとした感触と共に思いのほか楽にずり下げる事が出来た。
そしてそのままブラジャーを下げた手で直接胸を揉みしだき、
同時に口で服の上からその先端に吸いつく。
「っ、は…ふあぁっ!!?う、動かさないで…あぁっ…!!」
俺が軽く甘噛みしたり舌で突くことでそこが濡れた服の生地で擦れるのだろう、恥ずかしさからか今まで声を抑えて吐息しか漏らさなかったその口から甘い声が上がる。

普段のレナからは想像できないその声に酔い、衝動に任せて夢中で愛撫を続けていると
ふと床に肘を着けていた側の手首に軽く何かが触れる感触がした。
今までシーツを硬く握り締めていたレナの手。
その小さな手に俺の手首は握り締められたままレナの口元まで運ばれて…にゅるっ。
「…、うおぉっ!!?」
「…あはっ…、交代。今度は…レナが圭一くんを綺麗にしてあげる番かな、・・・かな。」
そう言い終わるか終わらないかの内にレナは再び俺の指を舐め上げた。
しかもただ舐める訳じゃない。一本一本丁寧にゆっくりと、先端なんかは唾液をたっぷりと
絡ませた舌で爪の中までねっとりと嬲られる。
その途中、俺が指と指の間を舐められることに弱いと気付いたレナは、それはもう
楽しそうな様子でそこを重点的に攻め立てた。
「…はぁっ…はっ…!れ、レナ、もう俺…!」
「ふふっ、圭一くんかぁいい…でもまぁだ。もうちょっと我慢して…?」
急激に真っ白になっていく思考に焦り、レナに交代を促す物のあっさりと流される。
主導権を取り戻すため、勝手にレナの弱い部分への愛撫を再開しようかとも思ったが・・・
レナの俺の手首を掴んでいる手とは反対の手がさっきからずっと俺の首筋や耳の辺りを
触れるか触れないかの加減で撫でていて…。
元々くすぐったがりの俺に、それはこの状況で恐ろしい程の快感に摩り替わっている。
レナは知っててやってるのか無意識なのかは分からないが…兎も角。
大体この体勢が不利なのだ。
組み敷いてる側の俺はレナを潰さない様に、必ずどこかで身体を支える必要があるので
必然的に使える部分は決まってくる。けど、下のレナにはその必要がない。
つまりレナが下から攻める立場にある場合、俺は縛られた状態の束縛プレ…
…やばい、自爆だ。打開策を見つけるつもりが逆に興奮してきてしまった。
取り合えず一度無理やりにでも身体を離して…っ!!

中々に纏まらない思考で漸くそこまで考えた時。
にゅる。
…新たな感触と共に、嫌な予感がした。
今まで舌を這わせ、軽く吸うの繰り返しだったレナの愛撫に、また違う動きが加わったのだ。
指を何本か纏めて、出し入れする。
「…れ、…」
「ん、ふっ…ぷはっ…!」
にゅるにゅるっ、くぷっ、にゅくっ
ピストンを加える度、レナの口内に溜まっていた唾液と舐め取った白いヨーグルトが混ざった
どろりとした液体が口の端から滴り落ちる。
その光景はまるで、今俺とレナがしている行為の最後に位置するものそのもので。
…また無意識に喉が鳴る。眼を、逸らすことが出来ない。
だが唐突に、一際強く吸われる感触がしたと思った瞬間、レナは俺の指を口からゆっくりと
引き抜いた。
俺の指は名残惜しいとばかりにレナの口から例のとろりとした蜜で線を引く。
それを見たレナは眼を細め、俺に見せ付けるかの様にまたそれを舐め取った。
そうして未だに固まったままの俺に、妖艶な微笑を向けたまま、唇の動きだけで告げた。
…「交代」、と。

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最終更新:2008年01月18日 23:05