「ほらほら、圭ちゃん。そんなに我慢しないでください」

もう許してくれ、と情けない言葉を吐きそうになるが、なんとか耐える。
……そんなことを言えば、それこそ詩音の嗜虐心を刺激してしまうのだから。

「せっかく圭ちゃんを気持ちよくさせてあげてるんですから、もっとかわいい声を聞かせてください」

そんなことは頼んでない……。
そもそも、俺が愛撫していたはずなのに、いつの間に逆になってしまったんだ……。

「でも、ホントに感度いいですよねぇ。ほら、この辺とか」
「ひぁっっ??!」

詩音はそう言って、俺の肩の裏側をまさぐる。
……ちょ……ちょっと……待て……。

「……お、おまえ……なんでそんなとこ……知ってんだよっ……!?」
「あったりまえじゃないですか。圭ちゃんのビンカンなところなんて全部知ってますから☆」

俺は極めて危険な性感帯を刺激され続け、体の芯が震えだしてきた……。

「……バカ、やめろ……やめてくれっ……!!」
「お願いするときは、やめてください、じゃないんですか?」
「そ、そんなこと言えるわけないだろっ……!?」
「なら別に構いませんよ? 私はやめる理由なんて全くありませんから」

詩音は撫ぜる手を休めずに、俺の首筋へ舌を這わせる。

「……はァ?!……ぁ……ぁぁ……」
「あ、いいですね。我慢しても漏れちゃう声ってのも、かわいいですよ☆」

あああああ……マズい、非常にマズい。
……本気でおかしくなりそうだ。

「圭ちゃんの肌って、スベスベですよね。羨ましいなぁ……」

普段なら男がそんなこと言われても、と返すところなのだが、いまはとてもそんな気分にはなれない。
……このままだと、非常に情けないことになる……。
予見される未来と自尊心を天秤に掛けた結果。
……自尊心があっさりと白旗を揚げた……。


「……し、詩音……」
「……なんですか? 圭ちゃん」

詩音は愛撫を続けながら、こちらへ視線を向ける。
視界の隅に、その妖艶な表情を捉えるが、決して目を合わせない。
……そんなことをすれば、間違いなく心が折れる。

「……もう……や、やめ……」
「やめ?」

屈辱に耐え、その一言を吐き出す。

「……やめて……ください……」

そこで詩音の動きがピタリと止まる。
……そして、一瞬の静寂……。

「よく出来ましたっ!!」

詩音は俺を抱きしめ、満面の笑みで頬擦りしてきた。

「意地っ張りな圭ちゃんもいいですけど、私は素直な圭ちゃんの方が好きですよ☆」
「……は、ははは……」

……嘘つけ……。
おまえ、明らかに俺が葛藤してるのを見て楽しんでただろ……。
などと思っても、絶対に口には出さない。
そんなことを言えば、俺の努力が水の泡だ。

「それじゃ、そろそろ始めましょうか。まだ着けなくていいですからね」


「んっ……ンゥ……ふっ……んんん……!」

詩音の喘ぎが大きくなってきたので、少しだけ腰使いを弱めた。
そして、その身体に目線を落とす。
肌にうっすらと汗を浮かべた姿に、いつもなら強い情欲の感じるのだろうが……。

(どうやって仕返ししてやろうか)

そんな事ばかり考えている。
我ながら女々しいとは思うが、さっき受けた恥辱の借りを返してやりたいのだ。
……正確に言えば今日までに受けた恥辱の借り、なのだが。

「……圭ちゃん……もうおしまいなんですか……?」

……考えごとに意識を取られ、腰を使うことをやめてしまっていたらしい。

「ん……? いや……」

と、そこで妙案を思いつく。
俺は詩音に覆いかぶさり、左腕で肩を抱き寄せた。
……抵抗することができないように。

「……圭ちゃん……?」
「なぁ、詩音。そろそろ、こっちにも挑戦してみないか?」

そう言って中指を唾液で濡らし、詩音のお尻……の一番恥かしい部分にあてがう。

「……えっ?! ……う、嘘……冗談ですよねっ……!?」

本気だということを、言葉ではなく行動で示す。
俺は詩音が己を固く閉ざしてしまう前に、中指を第一関節の半分程度まで沈めた。


「はぁっ?! ……だ、ダメ……ダメですよ……こんなの……」

詩音は俺にしがみつき、その身体を震わせはじめた。
……なんか、頼られてるみたいで悪い気はしない。
いや、そもそも困らせてるのは俺自身なんだが……。
…………最低だな、俺。

「……やだ……やめて……やめてください……!」
「やめて、って言われてもな。こんなに締め付けてるんだから、嫌じゃないんだろ?」
「ち、違いますっ! これ以上、入れさせないために決まってるじゃないですかっ……!!」
「いや、そっちじゃなくて」
「……へっ……?」

……詩音はさっきから、俺の大切なモノをきつく締め付けている。
もっとも、それが快楽からそうなっているとは限らないが、そんなことはどうでもいい。
俺は苦悶に歪む詩音の顔を見たいだけなのだから。
…………つくづく最低だな、俺。

「ち、違います……これは……違うんですっ……!」
「なにが違うんだか。ほれ、もう少し深いほうがいいか?」

弱々しくかぶりを振る詩音を無視し、中指をさらに深く……第一関節が埋まるくらいまで沈めた。

「はあぅ……! くぁ……や、やめて……やめてよぅ……」

……あれ、敬語じゃない……?

「……こ、こんなのやだよ……もうやめてよぅ……ううぅ……っく……ひっく……」

……泣き出してしまった。
さすがに泣かれてしまえば、こみ上げる罪悪感に抗う術はない。
俺は指をゆっくり引き抜くと、詩音の髪を撫ぜてやった。

「……悪い。ちょっと悪ふざけが過ぎたな」
「……ひっく……ぅく……ひっく……」

しゃくりあげる詩音は、非常に魅力的なのだが。
今はそれ以上に罪悪感が強い。
…………反省。


「詩音、ごめんな……? もうこんなことは……」
「……ひっく……っく…………ふ、ふふ……ふふふ……」
「…………詩音……?」

詩音の様子がおかしいことに気づくのが遅すぎた。
俺は、ようやく立場が逆転しつつあることを悟る。

「……って、おい……!?」

詩音は足を絡め、俺の身体をガッチリとホールドした。
……まるで獲物を逃がさないかのように……。

「……圭ちゃん。私、今までは手加減してた、って知ってました?」
「……て、手加減……?」
「でも、圭ちゃんがあんなことするなら、私だって遠慮する必要はないですよね」
「……い、いや、意味がわからないんだが……」

呆けている俺を無視し、詩音は俺の膝の裏を…………おぉぉおおぉおおおお??!

「……ちょ、ちょっと……まて……これは……?!」
「さっき言いましたよね? 圭ちゃんのビンカンなところなんて全部知ってる、って」
「……だ、だから……なんでそんなことを……」
「……圭ちゃんって、一旦寝ちゃうと何をしても朝まで起きないんですよねぇ……」
「そういうことかぁーーーッッ!!!」

詩音はさらに俺の性感帯を刺激し続けた。
そして、そのたびに俺自身が詩音の中をかきまわす……。

「んんっ……! ……ふふ、こうして繋がっていると、圭ちゃんと一緒に気持ちよくなれるんですね……嬉しいな……」
「……し、詩音……うん、俺も嬉しい……だからさ、だから……せめて……避妊具くらい着けさせてくれ……」

俺はもう、虚勢を張ることすら放棄していた。
せりあがってきた射精感が、すぐそこまで迫った限界を知らせている。

「……いいですよ……圭ちゃんの精を……私に……ください……」
「よくないっ!! よくないだろっっ!!?」

強引に拘束を振りほどこうにも、下半身に力が入らない。
そして、耳の裏を舐められた瞬間に……頭の中が真っ白になった。


「……ハッ……ハッ……ハァッ……!」

……あまり考えたくはないが、状況を整理してみる。
詩音は恍惚の表情を浮かべ、俺と同じく荒々しい呼吸を繰り返している。
下半身には射精後特有の気だるさ。
そして、相変わらず俺の身体に絡まる詩音の足……。
つまり、俺は詩音の中に……。

「……うっそだろう……」

……嘘だ嘘だ嘘だ……。
……本気で泣きたくなってきた……。

「ばっかやろぉぉぉおおおおおッッッ!!! 妊娠したらどうすんだよッッ!!?」
「……だぁいじょうぶですってば。今日は安全日ですから」
「そういう問題じゃ……!」
「圭ちゃん。そんなことより……んっ……」

……詩音がねだってきたので、仕方なくキスしてやる。

(……くっそぉ……俺は尻に敷かれてるのか……?)

俺は詩音と舌を絡ませながら、今度からは最初から避妊具を着けようと誓っていた。

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最終更新:2008年12月30日 23:39