俺達の関係が、こんな結末を……あるいは始まりを迎えたのは、ある意味では必然だったのかも知れない。
今から三年前――昭和58年6月のある日、俺達は互いに自分達の多くのものを失った。
俺は両親と、家と……かけがえのない仲間達と……友人を……。
彼女は多くの親類と……仲間と……そして最愛の姉を……。
付き合うとかそういう関係ではなかったけれど、それでも何かと休日になるたびに俺達は共に過ごし、あるいは電話し合った。心の中にぽっかりと空いたものを埋めるように、互いに寄り添い合っていた。
彼女は想い人の帰りを待ち続け、俺もまた……かけがえのない日々の幻影を追い続けていた。ある日ひょっこりあいつらが帰ってくるんじゃないかって……そんなことを夢見ていた。
二人で墓参りに行って……そして彼女の部屋で、彼女と二人っきりで酒を飲んで……きっとそれがまずかったんだと思う。
酒を酌み交わしながら、学校のたわいもない出来事から、テレビやファッションの流行だとかそんなことを話していた。
……それで、いつの間に……どうしてこんな話になっていたのかはもう覚えていない。俺も、結構アルコールが回っていたのかも知れない。
「……っく……くうっ……うぅっ……ううぅ……」
気が付けば、俺の隣で彼女は泣いていた。
床に置いた瓶も空になって転がっていた。グラスも空になっていた。……ひょっとして俺は眠っていたのだろうか?
俯いている彼女の表情はよく分からない。ただ、その瞳からぽろぽろと涙が零れていて……。
それが、ただ堪らなく悲しくて……寂しくて、放っておけなかった。
俺は彼女の頭に手を置いて……優しく撫でた。少しでも彼女の胸の裡にあるものが軽くなるように……。
彼女の細くて柔らかい髪が、どうしようもなく儚い気がした。
「ひっく……うぅ……圭ちゃ……やめ…………それ以上された……わた……し……」
けれども俺は首を横に振った。何故なら、そんな彼女を見て俺も寂しかったから……。
霞の掛かった頭でロクに何も考えないまま……俺は彼女の頭に置いた手を後頭部へと撫で下ろしていって……そして彼女を抱き寄せた。
彼女はやめてと言いながらも、抵抗はしなかった。そのまま、俺の肩の上に顔を置いて泣き続けた。
俺はそんな彼女の温もりを感じながら、ゆっくりと彼女の背中を撫でてやる。これがどんな感情なのかも分からないまま……。
そう、きっと互いに……寂しさを埋め合いたかっただけだったのだろうと思う。


やがて……彼女は俺の肩から顔を離し、俺を見詰めてきた。
俺も、そんな彼女の潤んだ瞳を見詰め返す。
そっと彼女の頬に手を添えると、彼女は俺の手の上に自分の手を重ね、目を瞑った。
「……詩音」
名前を呼ぶと、詩音は小さく頷いた。
俺は詩音の顔を自分の顔に寄せて……唇を重ねた。
詩音のむっちりとして柔らかい唇の感触が、俺の唇から伝わってくる。
「……ん、ふぅ」
互いに強く……強く、貪るように俺達は唇を押し付け合う。
「んむぅ……うぅ」
詩音の荒い鼻息が、俺の脳内を焼いていく。
俺達は舌を絡め合い、互いの口腔を舌で掻き回し、唾液を交換した。
詩音の舌は滑らかで、滑り合う感触がどこまでも心地よかった。
「…………んっ」
そして…………どれだけそうしていたのかは分からないけれど、俺達は長いキスをやめ、互いに唇を離した。
俺と彼女の唇と唇の間に、細い唾液の糸が光っていた。
詩音の顔は赤かった。それはきっと、アルコールのせいだけじゃないのだろう。そしてそれはきっと俺も……。
俺は無言で彼女のサマーセーターの裾に手を掛け、上へと持ち上げていく。
詩音も脱がされるまま、素直に従ってくれた。
もう、俺達は戻れなかった。
俺の膝の上で、詩音は純白のレースのブラを外す。
彼女の白い裸身……そしてたわわに実った白い乳房に、俺の目は釘付けになる。
肉付きのいいその肢体が美しかった。
詩音の細い指が俺のシャツを掴み、脱がしていく。
俺もまた、されるがままに詩音に従った。
ひょっとしたら詩音もそうだったのだろうか……ときおり肌に触れる彼女の指が、気持ちよかった。
……やがて、俺も上半身裸になる。
俺は体を起こし、詩音の胸に吸い付く。
「……やっ……ああっ……圭ちゃ……圭ちゃん…………」
彼女の桜色の乳首が俺の舌で固く隆起し、そして甘い弾力を持って押し返してくる。
左手で彼女の左胸を揉みしだくと、吸い付くように俺の手に馴染んできた。
詩音もまた俺の頭を抱きかかえるようにして、胸を顔に押し付けてくる。
「んんっ……圭ちゃん……うぅ」
ああ、詩音がまた泣いている。
俺はそんな彼女に、少しでも優しくあろうと……丹念に、ゆっくりと愛撫を続けた。


「んぁあっ……はぅああ……」
詩音の声に甘いものが混じってきて……それがますます俺の意識を解かしていった。
夢中になって彼女の乳房を甘噛みし、乳首を舌で転がし、そして吸う。
左手で、円を描くように胸を撫で回していく。
彼女はどこまでも柔らかく、そして温かかった。
「…………圭…………ちゃん…………?」
俺は唾液でべとべとになった乳房から口を離した。
見上げると、詩音が切なげに俺を見詰めている。
俺は詩音を見詰めたまま、彼女の両肩に手を置いた。
「……え? ……あ……」
ゆっくりと、詩音を床に横たえて……俺は彼女を床に押し倒した。
「詩音。……下も、脱がすぞ?」
詩音の上で四つん這いになりながら、俺は訊いた。
彼女は胸を抱いて赤くなりながら目を瞑って……。
「……………………ん……」
少し迷ったのか……しばらく押し黙った後、小さく頷いてきた。
俺はそれを確認して、体を起こす。
俺の頭の中はとっくに沸騰していた。
艶やかな稜線を描く裸を眺めた後、スカートへと手を伸ばしていく。
細い脚を撫でながらスカート捲り上げていくにつれて、白い太股が露出していく。
「……んんっ」
蠱惑的な声と共に、詩音の体が時折ぴくりと震えた。
スカートを完全に捲り上げ、俺は今度はパンティに手を伸ばし、下ろしていく。
ブラに合わせていたのか、パンティもまた白いレースだった。
どこか非現実的な気分の中で、俺は詩音からパンティも脱がした。
俺の下で、詩音を覆うものは靴下を除いて何もない。
詩音の柔らかい太股の上に手を置き、彼女の秘部へと顔を近付けていく。
「やぁっ……。圭……ちゃ……、そんなところ……あんまり見ないで……下さい」
彼女は薄目を開けて俺を見て、懇願する。
けれど俺は首を横に振った。
「恥ずかしがることなんて……ねぇよ。綺麗だぜ? 詩音」
俺は詩音の太股の間に顔を埋め、彼女の秘部を舌でなぞった。
「あっ……はあああぁぁぁぁっ!」
途端、詩音が叫び声をあげて俺の頭を両手で押さえてくる。
「やぁっ!? はぅっ……んんっ……んんんんんっ」
しかし、その言葉とは裏腹にその秘部は熱く蕩けていた。
俺は柔らかい蜜肉に何度もキスしながら、溢れ出てくる蜜をぬぐい取っていく。


「そ……んあっ!? ……はぁっ」
熱に浮かされたように俺は詩音の秘部を舐め回し、そして舌を挿入して掻き回す。
「……やっ……らぁ……」
詩音は呻き声をあげながらも、俺の背中に脚を絡めてきた。
蜜の匂いが……堪らなく俺の雄としての本能を刺激する。
「はぁっ…………ああっ………………ああぁぁぁぁっ!」
詩音の喘ぎ声がやがて甲高いものに変わっていって……。
やがて、彼女はびくりと体を震わせた。
くたりと詩音の脚と腕から力が抜けていく。
そこで、俺はようやく詩音の秘部から口を離した。……もう、俺の方も限界だった。
かちゃかちゃとベルトの金具を外し、固く膨れあがった自分のものを取り出す。
詩音の息は荒く……俺の息も荒い。
「詩音……いくぞ?」
彼女は目を瞑ったまま、再び頷いた。
俺の唾液と詩音の蜜が混じったどろどろの液体。それにまみれた彼女の秘部に、俺は固くなったそれの先を当て、入口を捜す。
「んっ……んんっ」
互いに初めてだったにも拘わらず、想像していたよりもすんなりと挿入に成功した。
「詩音……奥まで行くぞ?」
「う……うん」
いつも以上に敏感になったそれを……射精感を必死に堪えながら、俺は詩音の奥へと挿し込んでいく。
ゆっくりと、けれども確実に。
「はっ……うぅっ」
やがて抵抗の強かった部分を抜け、俺は詩音の奥まで届いた。
「大丈夫か? 詩音」
俺が尋ねると詩音は口に手を当て、震えながらも頷いてきた。
「激しくは……しないから」
それだけ言って、俺は詩音の体の上へと覆い被さっていく。
彼女の汗の匂いが俺の鼻腔を刺激した。
詩音の柔らかい胸が俺の胸の下から温もりと柔らかさを伝えてくる。
詩音はまた涙を零していた。
彼女の唇が細かく震えている。


「ごめんなさい」
――そう、彼女は呟いていた。
それは未だに想いを告げることも出来なかった悟史に対してか……それとも俺に抱かれているにも関わらず、そんな想いを残してしまっていることによるものだったのだろうか……。
けれども、俺はどちらでも構わない気がした。彼女にとって悟史という思い出が大切であることは否定出来ないのだから。
「ごめん……詩音」
いつの間にか俺も泣いていた。
どんな理由にしろ、俺は彼女の踏み込んではいけない部分に踏み込んでしまった。しかも、今の今までずっと……踏み込もうとしなかったくせに……今さら……。
そして、そういう目で見ようとしていなかったくせに、こんな真似をしてしまったことに……謝りたかった。
「圭ちゃん……圭ちゃん……圭ちゃん」
詩音は泣きながら俺の背中に腕を回してくる。
「詩音。詩音……」
俺も涙を流しながら詩音の秘部に俺のものを出し入れする。
寂しくて、悲しくて……少しでも彼女の心を軽くしたくて……けれどそのくせぽっかりと空いたものを埋めたかったのは俺の方だったりして……。
そんな思いを兎に角忘れようと、俺達は腰を振る。
今はもう、一時の感情だとしても流されたかった。
詩音の秘部はぎゅっと俺のものを包み込み、そしてひだが絡み付いて……そしてその中で俺のものはビクンビクンと脈打つ。
「あぁああっ!! 圭ちゃんっ! 圭ちゃんっ! 圭ちゃんっ!!」
「詩音……詩音っ!!」
くぅ と呻き声を漏らしながら、俺は詩音の中に射精する。
俺の胸の下で、詩音が弓なりに体を反らして……震えて……再び力が抜けていった。
そして俺は…………もう一度だけ、彼女とキスを交わした。
詩音もまた、俺の頬に手を添えて……応えてくれた。


シャワーを浴びて出てくると、彼女は既にいつもの詩音だった。
着替えもすませてテレビを眺めている。
その様子に俺は軽く苦笑した。
「ちょっとー。圭ちゃん? なに笑ってるんですか? 失礼ですよまったく……」
それを詩音は目ざとく見咎めてくる。
「ああいや……そんなつもりじゃないんだ。ごめん、ナイフで滅多差しとはいかなくてもスタンガン最大威力ぐらいは覚悟してたからさ……ちょっとほっとしただけだって」
「ほほ~ぅ? いいですよ? お望みとあらばそうしてあげますよ圭ちゃん?」
「うわわああああぁぁっ!? 冗談っ!! 冗談だっ!! お願いだから勘弁して下さい」
悪魔そのものの笑顔を浮かべる詩音に、俺はぺこぺこと頭を下げる。
「まったく、だいたい乙女の純潔を奪っておいてその態度ってなんですか? 失礼すぎます」
「ああいや……それはまったくもってそのとおりです」
酒のせい……には出来ないよなこれ。
どうしよう?
けれど、詩音も本気で怒っているようには見えない。
「でもまあ……いいですよ。なんだか、怒る気分になれないですしね。圭ちゃんも悪気があったわけじゃないですし……それに、拒まなかった私にも責任はあります」
「でも……悪かったな」
詩音は首を横に振った。
それは、さっきも言っていた通りの「謝らなくていいんですよ」という意味だった。
「……なあ、詩音。話があるんだ……聞いてくれないか?」
「ええ、謝罪でなければなんなりと」
詩音は笑顔で頷いてきた。
「無理にとは言わないし、今すぐ返事をくれとも言わない。……悟史が帰ってくるまでの間でいいからさ、俺達……付き合わないか?」
シャワーを浴びながら……考えていたことを俺は口にした。
「圭ちゃん? なに馬鹿なこと言って………」
「俺は本気だ。これ以上ずっとこのままの関係を続けるってのは……悪い、俺にはもう無理だ。確かに、俺が詩音に抱いてる感情は恋とかそんなものじゃないかもしれない。けれど、どうしても詩音を放っておけないんだ」
そう……きっとこれは恋なんかじゃない。けれど大切な人間を想う愛情には違いない。恋情でなければ付き合ってはいけない道理があるなんて、俺は思えない。
「詩音、俺はもう……詩音が悲しい顔をするのを見たくない。だから……これがダメだというなら、俺はもう二度と自分から詩音には会いに行かないつもりだ。いつまたこんな風に、自分の気持ちを抑えられなくなるか分からないしよ……」
「そんな……圭ちゃん。そんなのって……ズルイです。圭ちゃんまでいなくなってしまったら私……どうしろっていうんですか?」
ごめん詩音、こんなこと言ってかえってお前に悲しい顔をさせてしまって……。
「分かってる。俺だってそう思ってる。むしろ俺の方こそ詩音に甘えてたんだと思う。けれど、それもこれ以上は……」
詩音が俯く。
「……………………いいですよ。それで」
「え?」
「私も、心のどこかでこうなることを望んでいたのかもしれませんしね。圭ちゃんのことは嫌いじゃないですし、放っておくことも出来ないです」
そう言って彼女は自嘲した。
「つまりはOKって……ことなのか?」
「ええ、有り体に言えばそういうことになりますね」
そして今度は、詩音は照れくさそうに笑ってきて……それを見て俺はほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとう。詩音」
「いえいえ。……不束者ですが、こちらこそこれからもよろしくお願いします」
笑顔を浮かべる俺達。
これが、長くお互いの心の隙間を埋め合い、身を寄せ合ってきた俺達の関係の終わりで……始まりだった。


―END―

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最終更新:2007年07月25日 21:36