あれから何度レナを犯したのか……。
そんなことも忘れた頃、俺は仰向けになったレナに倒れ込んだ。
レナは泣く気力も無いのか……虚ろな目で……もう涙も流していない。
体が重い。
そりゃそうだ……俺だってもう、体力の限界だ。
「圭一君……」
感情の抜け落ちた声で、レナが呟く。
「なんだよ?」
「………………私ね。…………本当は、圭一君のこと……好きだったんだよ?」
なんだかもう、何もかもがどうでもいい気分だ。
だからもう……いいんじゃないか? 前原圭一。こんなときぐらい、素直になったって……。
「ああ。……俺もきっとレナのことが……………………好きだ。俺だって本当は、あんな風にキスしたり、こんな風に犯したりじゃなくて…………どうせなら、ちゃんと付き合って……好き合って……それで……したかったんだぜ」
「じゃあなんで……こんなこと…………するの? レナ……本当に分からないよ……」
それを上手く説明することは、俺には出来なかった。
だから、その代わりもう一度、レナに訊くことにした。
「どうせ、答えてくれないんだから……無理に答えなくてもいい」
「…………………………うん……」
親切が、嬉しかった。
愛らしい笑顔が嬉しかった。
頭を撫でるのが、好きだった。
そんな君がはにかむのが……好きだった。
だけどこれで、もう俺達の関係はすべて終わりだ。
「どうして俺を…………殺そうとしたんだ?」
本音を言えば、それは知りたいのと同時に、知りたくもなかった。
たとえ嘘でも、レナは俺を好きだと言ってくれた。
そんなレナが俺を殺そうとする理由なんて……きっと、聞けば耳を塞ぎたくなるようなものに違いないのだから。
レナは答えない。
だから俺はある意味、安心していた。
「………………………………してないよ」
数秒の沈黙の後、ぽつりとレナはそう言った。
「……………………え……?」
まるで予期していなかった答えに、俺は思わず聞き返した。
「誰も……圭一君を………………殺そうとなんか…………してないよ? どう……して…………そんな……風に……考えた……の?」
……え?
誰も俺を殺そうと……していない?
どうして?
「なに言ってるんだよレナ? だって昨日、おはぎに針を入れて……警告してきたじゃないか。魅音だって……俺がどこで何しようと見張ってるって……」
「針…………おはぎから……出てきたの? 魅ぃちゃん…………タバスコ……入れた…………けど……」
「あっ……」
俺は思わず呻いた。そういえば……針だと思ったけど……それを確かめたか? 俺。
「圭一君が…………昨日のお昼にね……食べに行ったお店って…………魅ぃちゃんの……親戚がしてるお店なの。…………だから、知ってたの……」
なんだよ……それ?
「じゃあ、レナが一昨日の夜に俺の家に来て、何も話さずに帰ったのは何だったんだよ?」
「あの日…………レナ……圭一君に……怒鳴っちゃったでしょ? レナね…………怒りんぼなの………………それで、直接謝ろうと思ったけど……ずっと電話中で…………だから……気が引けて…………」
じゃあ、あれはレナの豹変でも何でもなくて……。
「き、……今日、俺の家に親がいないのを……どうして俺がセブンスマートで豚骨ショウガ味を買ったことを知っていたんだよ?」
「レナ…………お買い物に行くと…………圭一君のお母さんと……よく…………会うんだ……よ? だからその話聞いて…………。今日は電話で…………東京に……出かけるから…………圭一君のこと……よろしくって…………」
そんな話って……ありかよ?
「じゃあ、雛見沢連続怪死事件のことは何なんだよ? どうして誰も俺に黙ってたんだよ? どうして富竹さんと鷹野さんは死んだんだよ? 次の標的は俺じゃないのかよ?
犯人は雛見沢の敵……もしくはよそ者を狙うんじゃないのかよっ? だってそうだろ? 過去の事件から見ても、被害者はそうじゃないかっ!」
それだけ言って、俺は荒い息を吐く。
もう、わけが分からなかった。
いや、薄々は気づいていた。
けれど……まだ俺は、認めたくなかった。
「そっか…………圭一君、……そんな風に………………考えちゃったんだね」
それを聞いた瞬間、俺の意識は遠のく。
「話さなかったのは…………圭一君がそのことを知って……雛見沢を恐がったら…………嫌だったから……。富竹さんが……どうして…………殺されたのかは……分からない。過去の事件のことも……悟史君の行方も…………犯人も…………全然…………」
そういえば確かに富竹さんは言っていた。過去の事件も、既に別々に解決しているって……。
じゃあ、雛見沢の仇敵を狙うように見えたのは……本当に…………ただの偶然?
俺が勝手に疑心暗鬼になって、勝手に何でもかんでも俺の命を狙ってるように解釈して…………そして、仲間を疑った挙げ句…………。
「でも……そっか…………それで圭一君、恐がってしまったん…………だね」
俺は体を浮かせた。
俺の下には虚ろな瞳をしたレナが…………。

俺ハ……レナ……ヲ、汚シタ。犯シテ……陵辱シテ…………ズタボロ……傷付ケテ……。

「うあああああああああああああああっ!! あああああああああああああっ!!」
叫びながら、俺は涙を流した。
救えない救えない救えない。俺はどこまで行っても……つくづく救いようのない……大馬鹿野郎だ。
生まれ変われると思った。雛見沢でやり直すことを固く誓ったはずだった。
けれど、結果は何だ? 通り魔野郎は……今度はレイプ魔になっちまった。
しかもよりによって……よりによってあんなにも…………好きだったレナを……。
「うっ……ぐっ。ううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅっ!!」
今度こそ、俺は自分自身に絶望した。
「ごめん。……本当に……うぐっ……ごめん。レナ……俺は…………大馬鹿野郎だ。全部……全部……俺の勘違いだった。本当に…………本当に…………」
どれだけ謝罪の言葉を口にしてももう遅い。
俺はただ、涙を流すことしかできない。
そっ と、俺の頬にレナの手が添えられる。
「………………レ…………ナ……?」
涙でぐじゃぐじゃになった視界の中、レナがどんな顔をしているのかも分からない。
「よかった。……いつもの圭一君に戻ってくれて……」
「何……言ってるんだよレナ……俺は……俺は…………」
俺は……レナに、こんなにも優しい言葉を掛けて貰える資格なんて無いんだぞ?
「圭一君、泣いてる。自分がしたことを……こんなにも深く、後悔してるじゃない。さっきまでの圭一君じゃない。今の圭一君は、私の大好きな……人のことを思いやれる圭一君だよ」
その言葉がどうしようもなく俺の胸に痛くて……痛くて……。
震える口を開けることさえ、辛い。
「レナ。俺……自首するよ。レナに償えるわけじゃないっていうのは分かってる。けれど、それでもこのままじゃいられない」
「そんなの……しなくていいよ」
けれど、レナは首を横に振った。
「私は圭一君が好き。だから……圭一君が警察に捕まって、離れ離れになるなんて……私は嫌だよ? 私達、好き合ってるんだよ? ちょっと誤解があって、順番とかが違っちゃっただけだよ」
そう言ってレナは慰めてくれるけど……。
「でも……だからって……」
じゃあ、俺はどうやってこの罪を滅ぼせばいいんだよ?
いや……違う。この罪を滅ぼせるなんて、考えることすらおこがましい。俺は、ずっとこの罪を背負って生きていくんだ。
やっぱりダメだよレナ。俺、……俺自身が許せない。
「じゃあ圭一君、私と約束して?」
「…………え? ………………約束?」
レナは頷いた。
「私といつまでもずっと一緒にいて……私にいっぱい優しくして……私をいっぱい楽しくさせてくれるって……そしたら、許してあげる」
そう言って、レナは笑みを浮かべた。
「ああ、約束する。一生、俺かレナが生きている限り、レナのこと……大事にするよ。たとえ明日、世界が終わるとしても、絶対にまた会いに行くから」
それだけがきっと……自首するよりも、死ぬことよりも、重くて……そして、心の底からレナに対して誠意を貫くことが出来る、俺の償い。
「うん。約束だよ? 絶対、絶対なんだよ?」
「ああ、絶対の絶対だ」
そして、俺はレナの体を起こして……今度は優しく、抱き締めた。




「なあレナ……お前、家に帰らなくていいのか? もうかなり遅いけどよ」
「……誰のせいかな? かな?」
それは言わずもがなである。
「…………はい。俺のせいです」
俺は自己嫌悪と羞恥心で真っ赤になりながら、俯いた。
レナはくすくすと笑った。
俺達は今、二人とも裸で風呂場にいる。
まさかあれからシャワーも浴びずにレナを家に帰すわけにもいかない。
そしたらレナの奴、「疲れて動けないから洗って☆」とか言ってきて……えーとそれから……レナをお姫様だっこして風呂場に来て……。
そんなこんなで、俺はレナの体を洗っているわけだ。
「今日、お父さんは家に帰ってこないの。……リナさんと一緒だから……」
「リナさん?」
「お父さんの恋人」
レナの口調は淡々としていたけれど……なんだか、聞いていて辛かった。
レナの背中をタオルで擦りながら、俺は言う。
「…………レナ。一度、お父さんと話し合ったらどうだ?」
「えっ?」
「殺人事件が起きたってのに、恋人と一緒に出かけて、娘を家に独りぼっちにするなんて……よくないだろ? そこらへん、娘ならちゃんと叱ってあげないとダメだと思う」
「娘なら……?」
「ああ、お付き合いが悪いとは言わないけどよ。節度というか、そういうのはちゃんと守らないといけないと思うんだ」
「そうだね。留守の間にレナが狼さんに食べられちゃうかもしれないもんね」
うぐっ
悪い狼さんは呻きながら、レナの背中の泡を洗い流した。
「ほらレナ。背中は洗い終わったぞ?」
「うん。じゃあ次は前だね☆」
さらりとレナはそんなことを言ってきた。
「前も………………か?」
レナは容赦なく頷いてくる。
くそ……どうやら、覚悟を決めるしかないらしい。
タオルにもう一度、石鹸を擦りつけ、レナの前にまわってしゃがみ込む。
うあ、やっぱりダメだ、まともにレナの裸を直視出来ねえ。やっぱりこう……かぁいくて、綺麗で……。
いくら頭に血が昇っていたとはいえ、俺……本当にレナのこと抱いたんだろうか?
「あれれ? …………圭一君、えっちなんだよ? だよ?」
「し、仕方ないだろ? それは……その……」
「あんなにレナの中に出したのに……」
「ううううう」
若いって……なんだかなー。
完全に出し切ったはずなのに、それでも俺のオットセイ☆は、無節操なまでに反応していた。
「いいからほら、……洗うぞ?」
なるべく見ないように、俺はレナへとタオルを当てた。
落ち着け圭一、クールに……クールになるんだ、って……ああ☆ レナの胸がやぁらかいよー。これはなんて名前の宝具なんですかー? え? れなぱい? ランクS? うあーい、それって最強じゃん☆
「あんっ☆ 圭一君、くすぐったいよー☆」
あぅあぅ。俺はもうダメなのです☆ きっと頭の中がシュークリームになってしまってるに違いないのですよ。ダメだこりゃ~☆ 次イってみよ~☆
何だかふわふわな意識のまま、俺はレナの体を洗っていく。
「はぅっ」
……これはレナじゃない。俺が出した声だ。
「お、おい……レナ?」
レナは俺のオットセイ☆に指を絡め、わしゃわしゃと絶妙な力加減で擦っている。
「えっちな圭一君にお仕置きなんだよ? だよ?」
「か……勘弁してくれよレナぁ~っ」
思わず泣きそうな顔になる俺を見て、レナは心の底から嬉しそうに笑ってくれた。
そして、風呂場に俺とレナの笑い声が響いていく……。
って……いやいやいやいや? ……これ、そんな笑い事な状況じゃないよ?
あの? レナさん? そろそろ俺のオットセイ☆から手を離してくれませんか? いくらなんでも気持ちよすぎです。
けれどもレナは……俺のオットセイ☆を愛撫しながら、俺を上目遣いに見詰めてきた。
「レナ?」
「……ねえ、圭一君? 嫌なら無理にとは言わないけど……もう一度、私と……その……してくれないかな? かな?」
「え…………ええっ!?」
あまりにも突然なレナのお願いに、俺は目を白黒させた。
「やっぱり……ダメ……かな?」
馬鹿、レナ……そんな哀しそうな目で見るなよ。
そんな目をされると、こっちの方が哀しくなるじゃねぇか。
「いや……別に俺は、ダメじゃない……まあ、さすがに出すのは……無理だと思うけど……でもそれより、俺はレナの方が心配っていうか……」
何しろ、俺はついちょっと前にレナを……無理矢理に、何度も犯してしまって……それでまたっていうのは……レナにとって負担が大きすぎるんじゃないだろうか。
「大丈夫。……私なら、大丈夫だから…………でも、その……今度は優しく……愛し合って……その…………」
ああ、そういうことか……。
俺がレナと好き合ってしたかったように、レナだって……初めてはそういう風にしたかったのだ。
これはきっと、そのやり直し……さっきのことは無かったことにするために……。
「圭一君?」
俺はレナの頭に手を乗せて……優しく撫でてやった。
そして微笑む。
「いいぜ? レナが大丈夫だって言うなら……。あんまり激しくは出来ないし、さっきも言ったけど、俺が最後までイクことが出来るかっていったら難しいし……それでもいいなら」
「うんっ。ありがとう……圭一君」
レナはまた、嬉しそうに笑ってくれて……俺の膝の上に腰を下ろした。
レナの整った乳房が俺の目の前に鎮座して……俺は生唾を飲んだ。
「レナ……その、俺……」
「うん。圭一君の……好きにして」
その一言で、俺はまた耳まで真っ赤になる。
レナの背中に腕を回して、乳房に顔を……唇を押し付ける。
滑らかで、やぁらかくて、そして暖かなレナの胸の感触が、俺の唇から伝わってくる。
レナもまた、そんな俺の頭に腕を回し、抱き締めてくる。
そして、俺がレナの乳房に吸いつくと、レナの体は小さく震えた。
「ん……はぁっ」
俺の口の中で、レナの乳首が固く尖ってくる。
幼児退行……なのだろうか? 懐かしい感覚と、安心感に浸りながら……俺は目を瞑り、レナの乳首を舌で刺激する。
舐め回して……突いて、吸い付く。
そしてそのたびにレナの体はピクンと反応して……。
俺の頭は、夢の中のようにまともにものを考えられなくなっていく。
レナの背中に回した腕……背中を愛撫しながら、右手を腰へ……そしてお尻へと移動させていく。
「んぁっ……ふあっ……はうっ」
俺の頭の上から聞こえてくるレナの喘ぎ声。
レナのお尻を掴んで、レナの下半身を俺の男性器に強く押し付ける。
男性器から伝わってくる、レナの温もり。
……挿れたい。
理屈なんかじゃない、レナと一つになりたい。
俺はレナの胸から顔を離した。
顔を上げて、レナの瞳を見詰める。
「……レナ」
「……うん……」
それだけだった。
それだけで、もう俺達に言葉はいらなかった。
レナはもう一度腰を浮かせて……俺のものの先が、レナの入り口に触れる。
そしてそのままレナは腰を下ろしてきて……俺達は一つになった。
思わず俺はレナを抱き締めて……レナもまた、俺と同じように俺を抱き締めてきた。
力一杯、お互いの体を抱き締め合う。
俺の腕の中に、レナの小さな体が収まって……そしてレナの温もりを伝えてくる。
その温もりが、どうしようもなく愛おしかった。
胸が痛いほどに幸せだった。
……気が付けば俺もレナも涙を流していて…………。
俺の胸の中で、レナが顔を上げ、俺を見詰める。そして俺も、そんなレナを見詰め返す。
自然と、俺達は顔を寄せ合って……唇を重ねた。
ああ……たとえ世界のすべてが狂ったとしても、俺はもう二度とレナを……仲間を疑わない。この幸せをいつまでも守り続けてみせる。そのためには何だってしてみせる。
今度こそ、俺は命を懸けて誓った。


その晩、俺とレナは一緒に夕食を食べて、一緒の布団で寝た。
さすがに、まあ……あれ以上は、そういうことはしなかったけれど……それでも、互いの温もりを感じて…………それは、とても幸せな夜だった。




6月下旬。
まだ日も昇りきらない早朝。
誰もがこの陰鬱な作業に嫌気を覚えていた。いや、最初から嫌気がさしていて……それを我慢するのにも限界が来始めていたという方が正しいか……。
雛見沢分校の校庭いっぱいに並んだ……死体。
炎天下の続く季節だ。少なくとも今日中に片を付けておかないと、一気に腐敗が進むことになる。
残留する毒ガスの影響を考え、防護服を着たままの作業というのも、辛い。
彼はこれで何度目か……分校の中へと入っていった。
外と同様、死体だらけの屋内。
「…………はぁ」
彼は一番奥の教室に入り、溜め息を吐いた。
「おい。どうした?」
「いや。……これ、見ろよ」
彼は同僚に、それを指差した。
十代半ばぐらいか? 少年と少女が抱き合ったまま固まっている。
「なるほどな。……確かに、やり切れんよな」
しかし、死後硬直が始まったらもう引き離せない。遺体の整理のためにも、それはやらなければならない作業だ。
「仕方ないだろ。……せめて、隣に並べてやろう」
「そうだな」
そして、彼らは前原圭一と竜宮レナだったものを引き離した。

―レナ、ずっと一緒だからな―
―うん。ずっと一緒だよ、圭一君―

「おい。今何か聞こえなかったか?」
「いいや? 気のせいだろ?」
醒めない悪夢に、彼らは泣いた。

―END―

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最終更新:2007年08月23日 11:44