■満月の夜:羽入
「……あぅう。」
 思わず、口から声がこぼれ、夜の村道に鈴虫の声と共に響く。
 喉奥から絞り出されたその声は、性的な快感に溺れた時のように艶やかで、――いや、正にそれそのものだった。
 僕は、その声が全くの無意識で出たことに驚きつつ、恥かしさで身を震わせた。もちろん、誰にも聞こえる訳がないのだが。

 その夜、僕は何故か体全体が疼いて仕方がなかった。まるで、盛った猿のような獰猛さで体が快感を求めている。
 僕の意識とは無関係に、すぐにでも陰部に刺激を与えろと、脳細胞、いや体中の全器官が暴力的に命令を送ってくるのだ。
 それは、理性が飛ぶほどに強烈で、実際一度夢中で自慰にふけった。いくら静寂に包まれた雛見沢の夜とはいえ、道端にも関わらず、必死に股間へ手を回すその姿は、ひどく醜かったろう。
 だが、何度何分陰部を刺激しても、その疼きを快感が越えない。今感じている快感よりも更に大きな快感を体が求めてくる。
 つまり、果てることができなかったのだ。
 僕はこれにひどく混乱した。何が原因でこんなことになっているのか意味がわからない。
 そもそも、僕は神――つまり、限りなく霊体に近い存在だ。外見は人間とほぼ一緒だが、中身はまるで全然違う。
 それが何故こんな発情期の戌のような状態になっているのか、僕はまったく理解ができなかった。
 しかし、理解はできなくとも、体全体から容赦なく襲ってくる疼きは現実にあるもので、もはやどう対処すれば良いのかわからない。
 そんなこんなで、梨花の家に戻る訳にもいかず、僕は息を乱しながら雛見沢の夜道を歩いていたのだった。

 しばらく歩き、森の中を抜けたために道が開け、ふと、僕は空を見上げる。
 そこには、大きな満月が光を放ってぽっかりと浮かんでいた。
 それを見て、僕はあるおとぎ話を思い出す。あれは確か、狼男だったか。一般的には、ある男が満月を見て、狼になってしまうという話だ。
 だが、僕はそれとは別系統の話を知っていた。狼は狼なのだが、全く別の意味での狼になる話だ。
 つまり、狼という言葉を性的な興奮の比喩だと解釈し、満月の日にある男が盛り、村を彷徨って強姦事件を起こすという、何とも馬鹿馬鹿しい話なのだ。
 何故こんな話を僕が知っているのかというと、それはまだ僕の存在していた頃の雛見沢の話で、話すと長くなるので省略する。
 ……まぁ、要は昔の雛見沢にも圭一や入江のような変態が存在して、なおかつそれが文筆家まがいの仕事をしていたと思えば良い。
 それは置いておいて、つまり今の僕はその狼ではないのかと思ったのだ。
 月光に心を奪われて、快感のみを求め村を彷徨う。考えてみれば、恐ろしい程に共通する箇所があるではないか。
 僕は、いつの間にそんな体になってしまったのか。幾度の時間の繰り返しで、僕のこの超常的な体に、妙な変化が起こってしまったのか。
 そう考えると、疼きを抑え、汗だらけの肌に月光が当たる度に、その疼きが強まってゆく気がした。
「…………あぅ」
 ……馬鹿馬鹿しい。僕はいつからこんな鷹野みたいなことを考えるようになったのか。
 呆れながら、僕は視線を満月から下に降ろした。

 ……その時、偶然僕の眼はある大きな家を捉えた。
 その家は、この雛見沢には全く不釣り合いに洋風な家で、更にその巨大さがどっしりとした存在感を放っている。
 それだけ目立つのだから、建ってから現在まで、何度も村人の世間話の話題に上がるのは当然。御三家会議の議題に上るほどだ。
 そう、その家は前原屋敷――つまり、圭一の家だった。
 圭一の家は、一階部分は完全に静まっていて、一切の光もない。当たり前だろう、今はもう丑三つ時になろうかという時間なのだから。
 だが、二階部分のある部屋だけは、そんな時間にも関わらず、ぽっつりと小さな光を放っていた。そこは幾度の時間の旅で何回も見たから知っている。圭一の部屋だ。
 その圭一の部屋の窓だけが、周りから迫る闇を引き裂くように、淡くその身を光らせていた。
 部屋に電気が点いているなら、その部屋の状況は二つに分けられるだろう。
 主が起きているか、もしくは主が電気を点けたまま眠っているか。その二つに一つだ。
 だが、この場合後者は絶対にないと言い切れる。何故なら、今日のこの時間は、その世界がどんな状況であろうと必ず圭一が起きている時間だからだ。これも、長い長い輪廻の旅で知った成果だった。
 こんな時間に起きて、圭一は何をやっているのかと言うと、……それは圭一の名誉のために言わないでおく。
 それでもどうしても気になる読者諸兄には、今日の昼に興宮のあるレンタルビデオ屋で、老人――もし、未成年がそういうものを借りて行っても、気付かないようなボケっぷりの――が店番をやっていたと言えば伝わるだろうか。
 ……ともかく、その処理のために、圭一は親に隠れてこんな時間まで起きているのだ。

 僕はそれに苦笑いをしながら、――ふと、疼きが更に強まるのを感じた。
 圭一のことを考えると、体中の疼きがそれに反応するのだ。いや、それは圭一だからではない、若い男のことを考えると、そうなるのだ。まるで、男を体が求めているかのように。
 考えてみれば、当然だ。この疼きは性的な快感を得ようとしているのだから、若い精力に溢れた男のことを考えれば自然と反応する。――そして、それを自身で感じようとする。
 それを理解したときには、既に僕の体は前原屋敷に向かっていた。
 頭では駄目だとわかっている。だが、体全体から放たれる暴力的な命令がその考えを掻き消す。
 若い男の体をこちらの肌全体で感じたい。陰部同士を擦り合わせ、快感に惑いたい。そして、その精力を吸いつくしたい。
 そんな淫らな欲望が僕を満たし始め、そしてそれは僕の理性を覆い隠そうとしていた。
「……あぅう」
 再び、あの喘ぎ声に近い声が自然と口から落ちる。だが、それを恥じる余裕すら既に僕には無かった。
 この先に僕の疼きを満たしてくれる男がいる。それを求める欲望だけで、ひたすら足を進める。
 そして、ついに前原屋敷の目の前に到着し、止まる間もなく玄関をすり抜けて内部へ侵入した。
 当然、中は真っ暗で何処が何処だか全くわからない。だが、異常なほどに記憶回路が回転し、目で確認するまでもなく圭一の部屋への階段へ足が向かった。
 階段に足をかけ、一歩一歩上ってゆく。それにより、圭一の部屋の隙間から洩れるほのかな光が強まっていき、この先に圭一がいるということを確信して、体中が興奮した。
 そして、ついに階段を上りきり、圭一の部屋と廊下を分断する襖の前で感慨深く立ち止まる。
 この向こうに圭一が、若い男が。体が嬉しさに震える。もはや、とっくの昔に僕の理性は吹っ飛んでいた。
 そして、一頻りの後に、僕はすーっと襖を通り抜けた。

 中では、……あぁ圭一は盛り上がりの真っ最中だった。椅子に座ってテレビに映る画面を見ながら、必死に手を動かしている。
 その様子は正に盛った猿のようで、とても滑稽だった。だが、同時に目で捉えた圭一の棒が、僕の体をゾクゾクと昂らせる。
 僕はしばらくそれを観賞し、良い塩梅まで興奮を得た後、すぐに圭一の目の前へ移動した。
 僕の体は透明だ。当然、圭一は気付かない。気配すらも感じない。僕が目の前に立っているということも知らず、一心不乱に手を上下運動させている。
 その様子に僕は体を震わせる。

 ――あぁ、もう我慢できない。

 僕は体を触覚的にだけ実体化させた。つまり、僕の体は見えないままに、現世の物に触れられるようにしたのだ。
 こうすれば、圭一に気づかれることなく、その体を感じることができる。卑怯だとでも何とでも言うが良い。僕は神だ。
「…………え? な、なんだ?」
 圭一が自慰を一旦止め、驚いたような声を上げる。
 当然だ。自分の何もしていない方の手、つまり左手が、意識とは無関係に突然上がったのだから。いや、上げさせられたと言う方が的確か。
 なぜなら、それは僕によって掴まれているのだから。圭一は左手の甲から感じる僕の手の感触に、さぞ気味悪がっているだろう。
 僕はその様子を少し楽しんだ後、圭一の左手をゆっくりと僕の方へ向かわせた。
 そして、身に纏う巫女服の隙間へ潜り込ませ、……直に僕の胸の感触を味わわせる。
 僕の乳房は魅音ほど大きくないが、レナとは同程度くらいにある。そして、その曲線美にも少し自信がある。所謂、美乳という奴だろう。よく梨花に嫉妬される。
 その感触を、圭一の掌いっぱいに感じさせてやる。圭一の手を上から強引に動かし、じっくり揉みしだかせる。
 圭一は頭を混乱させながらも、その感触の正体は知っているようで、頬を赤く染め、更に露出された肉棒を痙攣させた。……何処で知ったんだこのスケベ野郎め。
「……はぁ……あぅ……あぅ……あぅう……」
 乳房から徐々に送られてくる刺激に、僕は喘ぐ。無論、圭一にそれは聞こえない。
 圭一のゴツゴツとした手が乳首を刺激し、それは激しい快感を僕に伝えた。早くもじんわりと股間が濡れるのを感じる。それは、明らかにさっきやっていた自慰と比較にならないものだった。
 そして僕は確信する。やはりこの疼きは男の手でないと止められない。
 何故なら、乳首を少し刺激されただけで、これだけの快感を得られるのだ。その先の行為に及べば、きっとこの疼きを超える快感をもたらしてくれるはず。
 そう理解し、僕はこの疼きを止める方法を見つけたことに安堵すると共に、これから得られるであろうその最高の快感に、身を震わせて歓喜した。
「……あぅ……!?」
 その時突然が刺激が強くなり、つい僕は大きな声を上げた。
 見ればこのスケベ野郎、自分で手を動かし始めやがったのだ。鼻の先を醜く伸ばしながら、力を込めて僕の胸を揉んでくる。
 ……どうやら、目の前に起こっている怪現象を恐れるよりも、快感を得ることの方を選んだらしい。上等だ。今夜は僕の疼きが治まるまで付き合わせてやる。
「……あぅう……はあぅうう……あぅう……あぅ……!」
 圭一が力を込めて乳房を揉みしだき、乳首が擦られる度に、僕の口から息と共に喘ぎ声が漏れる。
 それは、例えるならボール用の空気入れのような光景か。
 いや、どんな比喩がこの様子に適当かなんてどうでも良い。そんなことよりも、僕の全身を貫くこの快感を感じることの方が大事だ。
 乳房に伝わってくる圭一の感触は、僕が動かしていた時よりもかなり大きい。それは、僕が動かしていた時よりも明確に感じる、男の感触だった。
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
 しばらくして、圭一も息を乱していることに気づく。見れば、圭一はもう片方の手で自分の陰部を刺激していた。
 僕の後ろで垂れ流されているAVの映像など知らん振りで、目をつぶって僕の胸の感触を精一杯に感じ、自らの肉棒を射精に導こうとしている。
 もはや、現実に目の前にある快感に、映像から得られる虚像の快感が吹き飛ばされたらしい。僕はその様子を愉快に笑った。

 ……だが、そこで気付く。
 ここで圭一に勝手に射精されて、勝手に萎えられたら、僕はどうなるのか。
 確かにこの胸の愛撫で得られる快感も、かなり強い。だが、それでもこの疼きを止めるにはとても足りない。
 だから、僕はこの快感を一頻り楽しんだ後、その先の行為へ移ろうと思っていたのだが、ここで圭一に果てられてはとてもそんなことはできなくなる。
 つまり、この疼きを止めることができなくなるのだ。
 そのことに気づき、僕は圭一の陰部に目を動かす。あぁ、圭一は手の動きをこれ以上にない程激しくさせ、今にでも達しようとしているではないか。
 それを見て、僕は慌てて圭一の手を乳房から離した。
「……はぁ……はぁ、……あ、あれ……?」
 突然柔らかい感触が無くなり、戸惑ったのか、圭一は目を開き、手の動きもぴったりと止めた。
 僕はその様子を離れた場所からそーっと見つめる。
 ……とりあえず、しばらく放置して圭一のモノが治まるのを待とう。そう思い、僕はその場に立っていようとした。
 が、乳房からの快感が無くなったのを自覚した途端、またもやあの暴力的な命令が僕を襲い、それを許そうとしない。
 僕は必死にそれを抑える。今圭一を襲っても、すぐに達してしまう。だから、もう少しだけ待たなければ……。
 だが、僕の体はそんな理屈など理解しようともしない。快感を得るために、無理やりにでも僕を動かそうとする。
 僕は何とかそれを堪えようとするが、徐々に足が動きだし、――そしてついにそれを止めることはできなかった。

「……あ、うわぁあ……!?」
 圭一が驚きの声を上げる。当然だ、今度はいきなり見えない何かに、椅子ごと自分の身を倒されたのだから。
 仰向きに倒れた圭一のその瞳には、快感に溺れていた頃の色は見えず、完全に今起こっている身の危険に怯えているようだった。
 僕はそんな圭一の様子を一つも気に掛けずに、倒れた圭一の上に伸しかかる。自然と、圭一は僕がそこにいることを理解し、怯えた目をこちらに向ける。
 が、僕はそんなものは全く見ていなかった。僕が見ているのは、僕の股間の真下で、圭一から真っすぐ伸びる大きな肉棒だけだ。それを自分の身に擦りつけることだけに、意識を向ける。
 僕はそれを見つめつつ、自身の秘所を隠す袴の端を持ち上げる。その時になって、初めて袴が僕の愛液で濡れていることに気づく。
 そうして、ようやく袴の下から僕の陰部が現れた。そこはさっきの愛撫ですっかり濡れ光っていて、透明な糸のようなものが下へ垂れていた。
 それがすぐ真下にある圭一の棒までだらしなく垂れ、くすぐる。圭一は恐怖でそれに気づかなかったようだが、棒は本能的に反応し、大きく脈を打った。
 そのグロテスクとも言える光景を見て、僕は再度体を震わせ、同時に僕の秘所もヒクヒクとうごめく。桜色に染まるそれは、もう圭一を感じたくて仕方がないらしい。
 ――そして、僕は一気にそれを真下に降ろした。

 圭一のモノが僕の膣口に触り、僕の大量の愛液でヌルヌルと滑り、……そして奇麗に僕の中に入ってくる。
「……あぅうううぅぅぅうっ!!」
「うわぁぁっぁあああ……!?」
 その刺激に、僕と圭一は同時に絶叫に近い声を上げた。
 僕は完全に股間から迫る快感によるものだったが、圭一の叫びにはそれと共に少し脅えが混じっているようだった。実際、まだ圭一の目は怯えている。
 だが、自身に迫るものが快感であると理解すると、すぐにその目から恐怖は消え去り、代わりに乳房を揉んでいる時と同じあの色が浮かんだ。……とことん、スケベ野郎である。
 僕の華奢な体に対して、圭一のその肉棒は少し大きく、このままでも十分に刺激をこちらへ伝えてくる。しかし、まだまだ疼きを止めるのには足りない。
 だから、僕はゆっくりと体を上下に動かし始めた。膣と棒が徐々に擦れ合い、確かな快感をこちらへ伝えてくる。
 その快感を少しでも大きく得られるように、体を動かす角度と強さを調節していると、いつの間にか僕の動きはとてつもなく激しいものになっていた。
「はぁ……あぅう、……あぅ! ……あぅう……あぅう……あぅう!!」
「……はぁ! ……ぁあっ……はぁあ……ああぁ……!」
 当然、快感もそれに比例して強まり、僕と圭一は淫らに息を乱しながら、喘ぎ声を出す。
 僕たちの結合部がグチュグチュと音を鳴らし、その卑猥な音を部屋中に響かせる。
 僕たちはその音たちに幻惑されながら、体中から汗を噴き出して一心不乱に股間から来る快感を求めた。
「……あ、あぅう……! け、圭一の……ぁぅ……凄いですぅ……あぅう! ぁあぅ……どんどん、硬くなってる……です……あぅう……!!」
 僕は僕の中でピクピクと痙攣させながらその身を固く成長させる肉棒に、身をよじらせる。ゴリゴリと肉棒が僕の中を掻きまわし、気が飛んでしまいそうな快感を感じる。
 圭一もかなり強い快感を得ているようで、恍惚とした表情で息を乱した。
 そして、獰猛に快感を求めるように、圭一の方からも僕を突き上げてくる。
「……あぁう……!」
 僕は突き上げてくる肉棒の感触に、つい体が止まりそうになる。だが、止めれば快感弱まるため、必死にそれに抵抗して体を上下させた。
 ……あぁ、これだ。僕が求めていた快感はこれなのだ。
 この快感なら、僕の疼きを止めてくれる。自慰でも止まらなかったこの疼きから、ようやく果てることができる。
 その喜びで、僕は喘ぎながら表情を緩めた。
「……はぁ……はぁ……! ……うぅぅ、……やば、……出るぅ……はぁ……!!」
 しばらく擦り合い、圭一がそう誰もいない部屋に零す。いや、この頃には見えなくとも僕の存在を認めているようだった。
 僕の方も、丁度良く果てる寸前まで快感の波が上っていたので、僕はその圭一の言葉に応えるように膣へ込める力を強めた。
 瞬間、膣内が締まり、より圭一のモノが感じられるようになる。確かに射精する寸前のようで、それはビクビクと激しく痙攣していた。
「……あぅう! い、良いのですよ圭一……あぅう……イッてなのですぅ……あぅう!!」
 僕は、伝わるはずのない言葉を圭一にかけ、更に激しく体を動かす。こちらも突き抜けるような快感を全身に感じ、体全体が強張る。
 もう、両者とも絶頂まで寸分も無かった。

 そして、僕が精一杯力を込めて圭一の肉棒を擦り上げた時、肉棒が今までにない程痙攣し、――遂に爆ぜた。
「ぁぁああああああああっ!!」
「……あぅうううううぅぅぅううぅっ!!」
 ……そうして、同時に絶叫を上げる。
 僕は僕の中に圭一の子種がドクドクと注入されるのをお腹で感じ、ゾクゾク体全体を震わせた。
 そして、体全体をすーっと強い快感が貫く。……ようやく、あの疼きから解放されたようだった。
 僕の中で圭一のモノがビクビクと脈を打ち、その度に僕は体をよじらせる。果てた直後で敏感な僕の秘所は、それだけの刺激でも強すぎるようだ。
「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
 圭一は、正に放心状態だった。
 死んだような目で息を切らし、自分の股間を見詰めている。
 ……あぁ、そうか。僕は透明なのだから、圭一から見た結合部はさぞ気味の悪いことになっているのだろう。まぁ、それに怯える体力も無いようだったが。
 僕は疲れた目でその様子を見つめながら、ようやく長い長い地獄から解放されたのだと歓喜した。
 ……だが、その時だった。

「…………あぅう……」
 再び、僕の口からあの喘ぎ声が零れる。その突然のことに意味がわからなくなり、僕は茫然とした。いや、その声が勘違いだと思おうとした。
 しかし、ふと気づけば僕の体はまたもやあの疼きを感じ始めた。再び、男の体を求め始めたのだ。
 ……そして体全体に暴力的な命令が伝わり、当り前のように僕を動かす。
「……な……?」
 圭一が声を零す。それは今度こそ怯えた声だった。
 無理もない。とっくに萎えているというのに、また自分の結合していた膣が上下に動きだしたのだから。
 僕はそんな様子に全く目を向けず、強引に圭一の肉棒を膣に擦りつける。一向に硬くならないが、それでも僅かに感じる快感を求めて無我夢中に擦り上げた。

 結合部で精液と愛液が混ざり、グチュグチュと音を鳴らす。
 その音のみが圭一の部屋を支配し、……結局日が昇るまでその音が絶えることはなかった。

■疼きの正体:古手 梨花

「梨ぃ~花ぁ~? どうしたんですの? さっきから顔が真っ赤ですわよ?」
「……い、いや、何でもないです。だから、少し向こうへ行っていてくれますか? テレビでも見ててくださいなのです」
 私は耳まで真っ赤にしながら、沙都子に背を向けて言った。沙都子から見えない所では、両腿で股間を押さえつけるようにしている。
「なんですの? 今日、鷹野さんに御馳走して貰ってから、ずっとそうじゃありませんの。何か、悪い物でも当たったんじゃなくて?」
「……だ、だから大丈夫なのです。僕は何ともないのです……」
 そう、今日ちょっとしたことで鷹野から食事を奢って貰ったのだが、何故かその時からこうなのだ。……疼きが止まらないのだ。
 いや、何故かなどと疑問に思わなくとも、理由はわかる。恐らく、鷹野が何か媚薬のような物を食事に混ぜたのだろう。
 ……あの女、こんなことをして一体何のつもりだ? 私を使って何をしようとしているんだ? 意味が全くわからない。
「もしかして、風邪を引いたんじゃありませんの?」
 そう言って、突然沙都子がこちらへ近づいた。
「……わっ!?」
 私は驚いて、その場から飛び退く。
「……どうしたんですの?」
「ち、近づいたら駄目なのです……! か、風邪が移るのです……!」
 無論、風邪なんて引いてない。……だが、今沙都子に近づかれると、その、非常に困る。
 何というか、体の疼きが沙都子に反応をするのだ。気を抜けば、沙都子に襲いかかってしまいそうな程に。
 ……あぁ、何てこった、私にはレズの気があるというのか……!?
「あら、やっぱり、風邪でしたのね。なら、早くお布団に入りなさいませ。今夜は私が看病して差し上げますから」
 だが、沙都子は尚も私に迫ってくる。私は逃げるように部屋の端に移動した。
 そんな私にあきれたのか、ようやく沙都子は向こうの部屋へ行った。私はそれを見てほっと安心する。
 ……が、沙都子はすぐに布団を抱えてこちらへ戻ってきた。
「梨花がそこを動きたくないのなら、この部屋で寝ましょうですの。居間ですけど、テーブルを動かせば何とかなりますわ」
 そう言って、部屋の中央にあるテーブルを片付け、あっというまに布団を敷き終える。
「……さ、準備ができましたわ。たっぷり眠って、しっかり風邪を治さないといけませんわ」
 ……あぁ、無邪気な沙都子。貴女にはその布団が、実に普通で何の変哲もないただの布団に見えるでしょうね。でも、私にはその布団が全く別の意味に見えて仕方がないの……。
「梨~花ぁあ? いい加減にしないと、私怒りますわよ?」
 その場から動こうとしない私に、沙都子が頬を脹らまして抗議する。
 ……あぁ、沙都子。怒った顔も可愛いわねぇ…………じゃなくって、は、はやくこの場を何とかしないと……!
「本当、何やってますの? 何かそこを動けない理由がありまして?」
 言いながら、沙都子はこちらへジリジリと近づいてきた。
 そして、私のすぐ目の前まで来た所で、――遂に私の琴線が切れる。

「みいいぃいぃぃぃぃぃいぃぃ!!」
「り、梨花……!?」
 間一髪。私は暴発した感情を上手く受け流し、そのままの勢いで家から飛び出した。
 裸足のため、ものすごく足が痛むが気にしない。とにかく、あのまま家にいたら間違いなく沙都子を色んな意味で傷つけてしまう。
 ……ひとりの親友として、それだけは避けたかった。疼くけど。

 そうして私は雛見沢中を走りまわり、朝方になって小さな個室トイレを見つけ、……その中で色々とし、ようやく疼きから解放された。
 そして、そのまま学校に向かい、沙都子に散々怒られたが、いつも通りにぱ~と誤魔化し、ようやく全てが終わったのだった。

 ……そう言えば、圭一がその日から数日学校を休んだ。
 また、羽入もその日はやけにやつれていて、シュークリームを食べてやっても全く反応しなかった。理由を聞いても、例によってあぅあぅ言うだけで全くわからない。
 あの頑丈そうな二人が同時にダウンするなんて、珍しいこともあるものだ。

 ……あ、そうそう。
 後日鷹野を問い詰めたら、あの媚薬は本当に偶然入ってしまったもので、悪気は全く無かったらしい。
 どう間違えれば食事に媚薬が入るのか理解できなかったので、とりあえず数年間の祭具殿立入禁止を言い渡しておいた。

 めでたしめでたし。

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最終更新:2008年03月17日 23:29