人気のない古手神社の境内を渡り、北条悟史は防災倉庫の前に立った。
 草の伸びた境内、社に掛かる蜘蛛の巣。古手神社は寂れきり、ひどく荒れ果てていた。
 三年前。この小村の旧家令嬢による、凄惨な連続殺人事件が全国を騒がせた。
 この古手神社を管理していた少女のほか、村の有力者もその犠牲者となった。
 この事件が致命傷となったのだろう。雛見沢は、今や緩やかに死に絶えようとしている。
 その意味において古手神社は紛れもなく、昔も今も雛見沢の象徴であり続けていた。
 四年間の昏睡から悟史が目覚めたのは、半月ほど前のことだ。自分は意識を失い、入江医師のもとでもう四年間眠りつづけていたらしい。
 入江は必死の治療で悟史を蝕んだ奇病を治療し目覚めさせたが、もう彼に残された資金と時間はそこで尽きていた。
 入江は詫びるように100万の金を悟史に渡し、要領を得ぬ説明と口止めののちに彼を東京の雑踏へ放り出すと、それきり完全に姿を消した。
 以降の行方は杳として知れない。入江診療所も閉鎖され、打ち捨てられていた。
 そして北条悟史は、雛見沢へ帰ってきた。もう何も残されていない、空っぽの故郷へ。
 六年前に両親を失った彼に残された、たった一人の家族。その守るべき妹は他の犠牲者とともに、三年前の事件で殺されていた。
 自分が昏睡――世間では失踪、鬼隠しとして扱われていたらしい――した後、妹は数少ない友人だった古手神社の娘、古手梨花と一緒に暮らしていたらしい。
 幼い少女が二人、この神社裏の防災倉庫で身を寄せ合って生きていたのだ。
 行く当てもない悟史の足は、自然とここへ向いた。妹が最期の日々を過ごした住処へ。
 一階の入り口に鍵は掛けられていなかった。狭い階段を軋ませて、悟史は二階へ上がる。
 防災倉庫の二階は小ぎれいに片付けられていた。とても三年もの間、住む者もなかったようには思われない。
 埃もなく清潔なままでありながら、あたかも、未だ生活の残り香が生きているようですらある。
 確かにここで幼い二人の少女が日々の生活を営んでいたのだ、と信じさせてくれるだけのものがそこにはあった。
 引き取り手もないまま、帰らぬ主人を待ちつづけている家具に悟史は触れた。沙都子と梨花の遺品となったそれらの感触はごく当たり前に冷たく、もう失われたもののことを思い出させるばかりだった。
 ――沙都子。
 ガタン、と不意に物音がした。
 入り口の方からだった。人の気配。少女の声がした。
「誰か、……いるんですか……?」
「沙都子……?」
 いるはずのない少女の名を呼び、虚脱した動作のまま、悟史は近づいてくる気配を待ち構えるように、ぼんやりとその方向を見ていた。
「、あ――悟史……くん……?」
「レナ、……竜宮レナ、か」
 白いセーラー服の少女の影が、薄暗い防災倉庫の中に浮かび上がる。
 悟史が罪を犯し、意識を失う前。雛見沢で過ごした陰鬱な最後の日々。
 その頃に現れた転校生の少女――竜宮礼奈はひどく戸惑いながらも、どこか疲れたような安堵の表情で呟いた。
「よかった。生きてて、……くれてたんだ」
「……ああ。なんとか生きてたよ。……僕は、ね」
 でも、沙都子はもういない。
 悟史は無意識のまま、掴んだ柱に爪を立てる。
「レナも。無事で何よりだよ」
「……うん。ありがとう……」
「ここへは、何しに来てるの?」
 レナは穏やかに微笑んだ。
「部屋の、掃除。もうここには私以外、誰も来ないから。沙都子ちゃんも、梨花ちゃんも……無縁仏になってしまって。
 このままだと、本当に……二人が生きていた証が何もかも、なくなってしまうような気がしたから……」
「レナ……」
 ありがとう、と口にしようとして、悟史が歩み寄ろうとした次の瞬間。
 レナは不意に窓の外を見て、唇を歪めて呟いた。
「これも、きっと……オヤシロサマの祟り、なんだね……」
「――え」
 その言葉が、横向きの笑顔が。
 悟史の胸から不意に、黒い感情を呼び起こした。
 頭の中に電光が閃く。いくつもの記憶のカケラが、点と点とが一気に繋がって、いびつで邪悪な、しかし力強い一枚の絵を描き出す。
 ……そうだ。
 なぜ、今まで……こんな簡単なことに、気づかなかったんだ?
「はは。ははははは。ははははははは、はははははははは――」
「さ、悟史……くん?」
 片手で顔を覆いながら、悟史は脈絡もなく笑い転げはじめた。怯えるようにレナが呟く。
「ははははは、そうかぁ……そうだよ。考えてみれば、本当に簡単なことだったんだ」
「、あ……」
 悟史が顔を上げる。その双眸に宿る暗い光に、レナは胸を抱きながら後退る。
「そう、最初から変だったんだ。おまえが現れた頃から、僕の身の回りにおかしなことが起こりはじめた。
 僕に入りこもうとする影、どこまでもついてくる足音、枕元で見下ろす気配。それらはどんどん強くなり、最後には……。
 そして、みんな死んでしまった! なのに今、おまえだけが生きている。
 沙都子は死んだ。梨花ちゃんも魅音も死んだ。詩音はみんなを殺して狂って死んだ。僕ら北条を村八分にした園崎お魎も、連合町会長の公由も死んだ。みんな死んでしまった。
 それなのに。おまえだけが、まだ生きている」
「悟史……くん……」
 狭い部屋の中で、レナはすぐに壁際へ追い詰められた。
 ドン、とレナの頭のすぐ横へ手を突き、悟史は覆い被さるようにして動きを封じる。
 窓からの光を背負って、北条悟史は宣告した。
「竜宮レナ。おまえは――オヤシロサマの使いだ。おまえが五年目の祟りを起こしたんだ」
「ち……ちが――」
「嘘だッ!! おまえが、おまえが僕たちをこんな風にしたんだ! 弄んだんだッ!!」
「あッ!」
 力任せに、悟史はレナの胸倉を掴んだ。
 ビッ、と浅く、布の裂ける音が響く。セーラー服の襟元がはだけて、白いブラジャーの肩紐とカップの端が覗けた。
 そのままの勢いで、悟史はレナを振り回すように押し倒した。今度こそジッパーがちぎれ飛んでセーラー服は大きく破け、レナの白い肌を大きく露にする。
「や、やめて。悟史くん、お願いだからやめて――」
 突然の暴力に襲われて懇願するレナの上体を、いっそう強く畳へ押しつける。
 彼女を押さえ込もうとして手に触れた隆起、レナの乳房を悟史は掴んだ。
 ブラジャーのカップの上から力任せに、レナの乳房をぎゅっと鷲づかみにした。張りのある柔らかな乳肉が、ひとたまりもなくカップの中で大きく潰れる。
「ああっ!」
 思わずレナの出した可憐で悲痛な喘ぎ声が、悟史の獣欲に火をつけた。
 鷲づかみにしたカップの上端に指を掛け、引きちぎるような勢いでレナのブラジャーを一気に剥ぎ取る。
 四年前よりもずっと豊かさを増した乳房が二つ、ブラジャーの庇護を奪われて弾けるように飛び出した。
 桜色の乳首が白い乳房の頂で揺れて、引き裂かれたセーラー服と剥ぎ取られた下着の白い色彩からひどく浮き立つ。
 その右乳房をぎゅっと掴み、桜色の尖端へと中身を絞り出すように手荒く揉んだ。
「さ、……悟史、くん……」
「黙れ! 黙れよッ!!」
「…………!」
 荒い息遣いのまま堅く屹立した男根を押しつけ、女として自分のまとう肉をまさぐる悟史を、レナはひどく悲しげに見つめる。
 だがこの少年に、これから自分が何をされるのかを理解したのか。
 レナはもう、抵抗しようとしなかった。
 少女は逃げようともせず、代わりに俯いて何事かを呟きはじめたが、攻撃衝動に支配される悟史に、それが聞こえるはずもない。
 ただ悟史に荒々しくされるがまま、レナは畳へ俯せにされ、押しやられ、壁へ両手を突いて足を開かせられた。
 紺のプリーツスカートがまくり上げられ、白くしなやかな太股と、同じく白い清楚な下着が露にされる。
 その下着が強引に引きずり下ろされ、濡れてもいない膣口へと堅くそそり立った肉槍の切っ先が押し当てられても、レナは何ごとかをぶつぶつと呟きつづけるだけだった。
 ――忌々しい女。
 やはり、こいつがオヤシロサマの使いだ。そうに違いない。
 こいつが。こいつのせいで、北条の家は。僕は。沙都子は――!
「くそおおおぉぉっ!!」
 悟史は荒く吐き捨てると、荒々しくレナの腰を掴む。白い臀部に指爪が食い込み、朱が滲む。
 そして凶暴な攻撃衝動に猛った男根を腰ごと、一気にレナへ侵入させた。
「いぎいぃっ!」
「ぐっ――」
 ぶつっ、と何か、膜の抵抗を貫く感触。
 悟史はそのまま、レナの最奥に達した。
「さ、悟史くん……痛い。痛いよっ……!」
「黙れェ!」
 狭く引き締まったレナの中を、悟史はむちゃくちゃに突き回す。ぎゅっとレナに締め上げられる男根にも強い痛みがあったが、それを遥かに上回る攻撃衝動が悟史に痛みを無視させた。
 悟史は野獣のようにレナを犯した。堅くそそり立つ肉の槍を狂ったように突き入れ続ける。
 壁に手を突いたまま凌辱され、形の良い二つの乳房を前後へ激しく弾け飛ばしながら、レナの鳶色の瞳から涙が幾粒も零れ落ちる。
 その口許から、不意に今までと調子の異なる言葉がこぼれた。その断片を耳が捉える。
 ――けいいち、くん。
 けいいち。男の名前? 知らない名だ。
 それがこいつの男の名か――残念だったな、顔も知らないケイイチとやら。こいつは僕が犯してやった。
 ざまあみろオヤシロサマ。おまえの信者であり、使いである娘を、僕が犯して壊してやる。
 これは、復讐だ。
 雛見沢に、園崎に、そしておまえに弄ばれつづけてきた僕の、これがおまえへの復讐なのだ。
 腰を固定されながら突かれ続けるレナはただ一方的に犯されるだけで、たった一回だけ少年の名を呟いたあとは再び、壊れたテープレコーダーのように、ずっと同じ言葉を呟きつづけるだけだった。
 そして、限界が訪れる。
「ううぅっ!!」
「、あ――!」
 悟史はレナを一番奥まで深々と犯し、そこから引かずに槍先を留めた。
 深い唸りのあと、これまで夢精以外で使われることのなかった大量の精液が堰を切り、怒涛となってレナの最奥へ注ぎ込まれた。
 熱い精液がなみなみとレナの膣内を満たす。数分ぶりに悟史を引き抜かれた膣から、鮮血混じりの白濁液がぼたぼたと滴り落ちた。
「あ、ああああ……悟史、……くん……」
「くっ……」
 なお勢い止まぬ悟史の精は、レナの背にほとばしってセーラー服の背中を汚す。
 レナはその場に崩れ落ち、悟史も思わず数歩下がって彼女の惨状を見下ろした。
 清楚だったセーラー服の上衣は無残に引きちぎられており、乳房を包んでいたブラジャーは金具を飛ばされてむなしく腰にかかっている。
 紺のプリーツスカートは大きくめくり上げられ、パンティは膝まで引きずり下ろされている。
 そしてレナの秘所からは凌辱の証、今も鮮血混じりの白濁液が流れ出つづけていた。
 とろんとした虚ろな瞳で、犯されたレナは悟史を通り越した遠くを見ている。
 そして、そのときになって初めて、悟史はレナの呟きを聞いた。
「……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい――」
「……、え――」
 それは凌辱者への呪詛でも、蹂躙された自分を否定しようとする悲鳴でもなかった。
 それはただ、いつまでも無限に続く謝罪の連なりでしかなかった。
 無残に純潔を汚された少女は、立ちすくむ悟史に膝立ちで近づくと、おもむろにその陰茎を手に取った。
 焦点の合わない目のまま、言う。
「ごめんなさい。私、みんなを守れなかった。沙都子ちゃんも、梨花ちゃんも、魅ぃちゃんも、圭一君も、……みんな私が守らなければならなかったのに、誰も守れなかった。
 みんな、私のせい。
 ごめんなさい、悟史君」
 雑誌か何かで少し読んだことがある程度に違いない、ごく稚拙な舌でレナは悟史の陰茎を嘗めた。
 相変わらず焦点の合わないままの、ずっと遠くを見つめたままの瞳で、独り言のようにレナは呟く。
「悟史君。悟史君は、どうすれば私を許してくれるの……?」
 そのとき、何かがふっと腑に落ちた。
 ああ、そうか。そうだったのだ。
 彼女は――この少女は、オヤシロサマの使いなどでは、なかった。
 憎むべき存在、辱めるべき存在では、なかった。
 それなのに、汚してしまった。傷つけてしまった。
 ただ自分の、やり場のない怒りを受け入れるだけの彼女を。
 悟史は膝を折った。懸命に男根を嘗めようとするレナの顔を優しく遠ざけ、代わりに全身で、細い身体を抱き締めていた。
「ごめん。レナ」
「……悟史、くん……」
 胸の奥からわけもなく熱が湧き上がり、それは悟史の瞳から涙になって伝い落ちた。
 やがて少年の喉からも嗚咽が漏れはじめ、それは少女の嗚咽と重なって、いつまでも、主のいない空っぽの部屋に響きつづけた。
 どこからか遠く、ひぐらしのなく声が聞こえてきていた。

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最終更新:2007年05月23日 21:11