「ペアン」
「頭骨結合終了」
「3号糸ふたまる、それと鉗子用意」
「血圧低下」
「昇圧剤10mm投与」
「バイタル正常に戻りました」
「頭皮の縫合終了」
「バイタル、脳波共に異常なし」

「術式完了」
「みなさん、お疲れ様でした」
「まだよ。さ、サンプルをこちらにちょうだい」
「休まないのですか?」
「ふふふ。格好の研究素材を目の前にして休んでなんていられないわよ」
「・・・・・・そうですか」
「あ、事後処理はおまかせするわよ」
「わかりました」

秘密理行われた非合法で非人道的な手術が終わった
それはおよそ似つかわしくない田舎の診療所で行われた

雛見沢症候群
ある種の寄生虫が引き起こす一連の症状の総称であり、その実体は謎に包まれている

そして、今行われた手術は、その全容を明らかとするために必要な事だった
そう、それは理解している
医学の発展のために、犠牲はつきものだ

だが、手術室からICUに移され、目の前で寝台に横たわるのは10に満たない少女だ
彼女は雛見沢症候群のキーとなる存在で、村に伝わるオヤシロ様信仰でも重要な位置にいる
古手梨花。それが彼女の名である

彼女が危険を承知で身を差出してくれたのは、親友のためである
北条沙都子。雛見沢症候群末期症状。L5と呼ばれる状態にありながら生存している稀有な被検体
と言っても、亡くなるのはもはや時間の問題だった

そこに、思いがけない提案があった
それも梨花当人から提案されたものだった

鷹野三四。名目上、わたしの部下であるが実質的には上司である
わたしは危険性から反対したのだが、彼女が賛成したのならば是非も無かった

こうなれば全力を尽すまでと思い、主治医として手術を行った
雛見沢症候群の分野では、鷹野さんが第一人者であるが「手術」となれば私の方が上だったからだ

そして、その手術も無事に終わった
難手術ではあったが、もともと成功率は高かったため当然の結果ではあった
とはいえ、久々に味逢う達成感は心地よかった

―――それから二日。ICUから一般病室に梨花を移す

「みー。たいくつなのですよー」
「まあまあ古手さん。今日一日のしんぼうです。今夜一晩様子を見て、問題なければ明日にはお家に帰れますから」
「入江も大変なのです。目の下にクマさんがいっぱいいるのですよ?」
「え?ははは・・・、人手不足ですから。それに、古手さんの身に万が一の事があったら大変なことになりますからね」
「――それでで入江。沙都子の方はどうなの?」
和やかだった雰囲気がガラっと変わる
そう、時々彼女は普段からは想像もつかないほど大人びて見える時がある
「――まだ分かりません。鷹野さんの研究成果待ちとなります」
「そう」

子供とも大人ともつかない瞳に陰が差す。まずい、心配させたか?

「い、いえ、大丈夫ですよ。鷹野さんは優秀ですから、きっと治す方法を見つけてくれるはずです」
「みー。入江は何もしないのですか?」
「え、私ですか? ははは、私はちょっと小器用なだけで、鷹野さんの足元にも及びませんよ」
「そんなことないのですよ? 入江もやればできるのですよ?」
「ははは。ありがとうございます」

期待してくれるのはいいが、所詮わたしはお飾りだ。入江診療所の入江所長と言うのも肩書きだけだ
配属当初は、己の待遇に気づかず単純にはりきっていたが、、
何年も経った今、力関係がハッキリし、自分がただのお飾りであると自覚してからはそんな気にはなれない

「―しない――と――やっぱり無理――か・・・・・・」
「え、古手さん? 今何か言いましたか」
「みー、なんでもないのですよ」
「そうですか? それでは私はこれで。何かあったらすぐにコールしてくださいね」
「わかってるのですよ」

病室を後にして、仮眠室にむかう。本当なら自室に戻りたい所だが、万が一の急変に備えるために仮眠室で眠ることにする
常用している睡眠薬を取り出す。医者の不養生もいい所だが、効率よく眠るためにはしかたない
それにそんなに強い薬でもないから問題はない

深夜
物音に気づき目を覚ました
コールではない
時計を見ると22時を回っている
この時間帯は、当直の看護婦と入院患者を除いて誰も居ないはずだが?

ゴソゴソと起き上がり、ドアをそっと開け、廊下に出る
廊下の奥、事務室の方から気配を感じる

足音を忍ばせドアに近寄り、少し開いた窓から覗いて見る

薄明かりの中、良く見えないが看護婦のようだ
それともう一人、スーツ姿の男

窓越しに男女の激しい息使いが聞こえてくる
どうやら情事にふけっているようだ

不謹慎なと思いながらも、目が離せない
恥ずかしい話だが、わたしはこういう事に慣れていない
研究畑に生きて、忙しい現場で立ち回る日々をすごしてきたため経験がまるで無いのだ

ここ雛見沢では、暇とまでは言えないが、かなり時間はあった。だが、相手となるような人が居なかった
看護婦は居るが、年上だったり、若いことしかとりえの無いような人ばかりで、食指をそそることは無い
鷹野さんは美人だが、あの猟奇趣味にはついていけない。何よりも上司であり下手な事をして、機嫌を損ねるわけにはいかない

ここの職場は別に恋愛禁止とかそういう規定はない。なら見なかったことにすれば良いが、気分的に面白くない
邪魔までするつもりは無いが、誰と誰なのか確認くらいしておこうと身を乗り出し覗き込んで見る

あれは――鷹野さんと―――トミー?

富竹ジロウ
彼はわたしと気が合う、数少ない友人だ
私は医療。彼は訓練。内容は違えど、仕事に従士して色恋沙汰とは無縁な生活を送ってきた
そのせいだろうか? 文系と体育会系の水と油でありながらも親友とも呼べるほどに仲良くなったのは

ありていに言うなら、童貞仲間であり、奇妙だが確かな友情があった。あったと信じていた

だが目の前の彼はなんだ?
彼が東京から雛見沢に通う理由付けのために、カメラマンを名乗ってるのは知っている
そして、理由がそれだけでは弱いので、鷹野さんと付きあうことでカモフラージュしてることも知ってる
そう、カモフラージュ「美人看護婦に片思いしてる旅のカメラマン」そういう「設定」のはずだ

壁に両手を手を付け、こちらに腰を突き出した鷹野さん
その鷹野さんに覆い被さるようにして腰を振るトミー

馬鹿な――。こんなことはありえない。
だって、トミーはわたしの仲間だ。そう仲間じゃないか。なのに何故?

抜け駆け

嫌な単語が頭をよぎる。違う違う違う。彼はそんな奴じゃない。

目の前の光景を否定するのか?

ありえない。そう、ありえない。
焦燥し狼狽する。だが、視線だけは外れない、外せない、

そんなわたしの葛藤を無視して、二人は情事を続ける

「あんっあっあっ―――。んっ、ああっー!」

鷹野さんの口から、普段聞く事の無い嬌声が漏れる

「いいわジロウさん!。さ、もっと! そう、そこよ! あんっ!!」


「鷹野さん。行くよ!」
「あん。ダメよ、三四って呼んで」
「ああ。そうだったね。三四さん、行くよー!!」

激しく腰がふるトミー。それにあわせて痙攣するように身を震わせる鷹野さん
SEXとはこんなに激しいものなのか?
医者としての知識はある。それにビデオも見たことがある
だが、目の前の光景はそれらを凌駕する

二人の情事も絶頂を迎える。同時にわたしも絶頂を迎える。

しばし放心。ふと手を見る。白く生暖かい液体が付着している
いつのまにか、わたしも自慰行為を行ってたらしい

廊下に座り込んだわたしの背中越しに、二人の楽しげな会話が聞こえる

ワタシハナニヲヤッテルノダロウ?

惨めさと羨ましさが入り混じった複雑な感情に揉まれ考えが纏まらない
鷹野さん――トミ――。いつから? 何故ここで? なぜトミー?
わたしは? 避妊は? 後始末は? カメラは?

「じゃ、ジロウさんまたね」
「研究の続きかい?」
「そうよ。良い気分転換になったわ」
「気分転換だけなのかい?」
「うふふ。ジロウさんも言うようになったわね――クスクス」
「あははー。―――僕も一応付き合うよ」
「あら、研究成果がそんなに気になるの?」
「それもあるけど、せっかく来たんだ、もう少しいっしょにいたいと思ってね――ダメかい?」
「クスクス、甘えん坊ね。いいわよ、じゃいっしょに行きましょう」

考えは纏まらず困惑したままだが、状況は変化する
部屋から二人が出ようとしている。このままでは見つかってしまう
とっさに、角を曲がりつき当たりの病室に入り隠れる

病室のドア越しに二人が遠ざかるのが分かる
二人の気配が無くなったのを確認して胸を撫で下ろし、側にある椅子に座る

トミーが裏切った

興奮も多少治まり、少し冷静になると抜け駆けされたことへの怒りが起きたが、追いていかれた孤独感も大きく、
失望と羨望が入り混じる。
そして、やり場の無い苛立ちが頂点に達し、思わずバンと机を叩く

「うっ・・・ん」

誰かの吐息が聞こえ、ビクッっと身を震わせ、全身の血が引くのを感じた
ここは病室。誰かいたのか?

慌てて立ち上がりベットを見ると、そこには黒髪の少女が横たわっていた

「梨・・・花・・・さん?、いえ、これは――そのぉ・・・」
まずいところをと思い、慌てて弁解しようとするが、少女に変化は無い
どうやらぐっすりと寝ているようだ

再び胸を撫で下ろす
ふと自分の姿を見ると、手にはまだ粘り気が残り、ズボンも半脱ぎ状態だ
こんな姿を見られたら何もかもが終わるところだった

備え付けのタオルで手をふき、ズボンを履きなおす
そして、起こさないように病室を出ようとしたとき、梨花が寝返りをうった
驚きながらも、苦笑し、掛け布団を直そうとベットに近づく

「やれやれ、風邪引きますよ―――っと!?」

動揺してたためか、躓きベットに倒れかかる。梨花ちゃんをつぶさないようにとっさに手をつく
危ない所だったが、どうやら起こさないですんだようだ

溜息をつき、身体を起こそうとしたとき、ふと、甘い少女特有の香りに気づく
同時に本来、今は目にしないはずのモノが目に入る

それは幼いながらも女性特有の器官。鷹野と違い毛は生えてないものの男性には存在しないものだ
彼女には念のため手術着を着せたままだった。そのため、寝返りの拍子か帯が解けて、半裸を曝していたのだ

慌てて態勢をもどし、帯を手に取り、服を着せようとする
とっ、ぷにっと肌に手の甲が触れ手が止まる

何を考えてる京介入江?

先ほどの光景が脳裏にフラッシュバックする。少女とはいっても女性の裸体だ
カーテン越しの降り注ぐ、月明かりに浮かぶ白い肌はなんとも言えない魅力を放っていた

友人に先を越されたくやしさ。未だに経験の無い自分への焦り
この時のわたしはどうかしていた
もしかするとL3くらい発症していたのかもしれない

ゴクッと唾を飲み込む
帯から手を離し、ベットから立ち上がると、ドアに近寄り内側から鍵をかける

白衣のポケットを探り、小さな錠剤を一つ取り出す
大人にとっては弱い薬だが、子供には十分な効き目がある

水差しを手に取り、咳き込まないように注意しながら、そっとノドに水と共に流しこむ
手を取り、じっと様子を見る
寝息に変化は無く、脈拍に異常も無い

しばらく間を置き、腕を軽くつねって見る
僅かな反応はあったが、起きる様子は無い

そっとお腹に触れて見る
診察の時や手術の時に幾度と無く見て、幾度と無く触れたことがある
だが、それらとはまた違った感覚がある

それは恐らく、今彼女を、患者としてではなく、女として見ているからだろう
そのまま手を上半身へとスライドさせる
ふくらみの無い胸の上に動かした手に心臓の鼓動が重なる

手を乗せたまま顔を近づけ、思わずかわいらしい乳首を舐める
酸味を含んだ塩味だったが、何故か甘く感じた

しばし、その新鮮な感覚を堪能した後、手をお腹へと戻し、さらに下半身へと動かす
秘所を通り抜け、足まで手を動かすと、柔らかなふとももを掴み、股を開かせる

このままでは見え難いので、自分もベットの上にあがる
幸いな事に、ベット自体大きいので動き回る余裕は十分にあった

知識としてはあったが、実物を見るのは初めてだった
いや、正確には初めてではない、医者として診た事は何度かある
だが、動機が早まり、自分の下半身に血が集まるのを感たのはこれが初めてだった

落ち着け KOOLなれ! 入江京介!!

さっきと同じく、しばらく手で弄ったあと、顔を近づける
良い匂いとは言いがたい香りのはずだが、何故か鼻を背ける気になれない
はっきりとしたスジに沿って、下を這わせる
汗とは違う、形容しがたい味がする
これが愛液だろうか?

「んっ」

梨花ちゃんの口から吐息が漏れる
起きたかと一瞬身構えたが、それは杞憂に終わる

そのまま無心で舐め続ける。幼い身体がそれに反応して身をよじらせ、声を漏らす
感じているのか?
いや、年齢的にその可能性は低い
快感ではなく、くすぐったさを感じているだけだろう

ふと、鷹野さんの嬌声を思い出す
わたしは経験は無い
女性を感じさせるような技術はない
ましてや少女に快感を味あわせるような技術などあろうはずもない

だが、目の前の無垢な少女の嬌声を聞いてみたいという欲望は治まらない
どうすればいい?

男としての経験は無い。だが、医者としての経験ならある
そうだ、医者としての知識に何か無いか?

その時、ひらめきがあった
そうだ、一つあった。研修医の時の一回しか経験が無く、あまり良い思い出とは言えないが、試して見る価値はある

女性特有の器官から、男女共有の器官へと手をずらす
かわいらしい穴に指を入れようとして、ふと思い立ち、指を口に咥え唾で湿らせる
そして、再び挿入を試みる

「んんっ・・・」

多少の抵抗があったが、すんなりと第一関節まで入る
指を動かし触診を始める

肛門の近くには前立腺があり、そこを刺激すると快楽を感じる
これは男女共有の反応であり、直腸検査を行うときは、前立腺を刺激しないように行うのが基本である

だが、今は違う、普段とは逆に、前立腺を刺激するように行うのだ

「んんっ・・あっ・・・」

触診を続け、異物がないことを確認し、前立腺の位置を確かめる
あとは、刺激を加えるだけだ

「ひゃん! あっ、んんっ! やっ!」

予想以上に効果があった。刺激し始めた直後からこの反応だ
幼いながらも、女を感じさせる声に興奮が止まらない
もっと声を聞きたいと、指の動きを激しくし、刺激を強める

「あ!、ああっ! やあぁっっー! ひゃんんんっ!!」

ひときわ大きな声に愕き、手を止める
刺激し過ぎたか? 目が覚めたかも?
一瞬蒼ざめるが、それも杞憂に終わる

火照った寝顔に安堵した時、腕に伝わる生暖かい液体と、それが放つ異臭に気づく

「おやおや おもらしですか」

思わず言葉に出る
医者をやってると汚物に触れる機会は多く、他人の汚物を被っても平気ではある
だが、だからと言って不快感がない訳ではない、嫌なものは嫌なのだ

しかし、これは違うようだ。普段なら平然と後始末を始めるだけだが、今は違う
理性ではなく本能が反応する

「・・・・・・・・・」

鼻をつく不快なはずの匂い。だが、今はそれが異常な興奮を引き起こす
鼻息が荒れ、中から圧迫され、窮屈になったズボンを脱ぎ下半身を露出する

いきり立った愚息を、スジのままで花開いてない秘所にすり付ける
先端でなでまわすように、スジに沿って上下させる

火照ったまま寝息を漏らす少女の顔が、月明かりに映し出される
それは、いつものかわいらしさとは違い、少女にはありえない艶やかさを感じさせるものだった

興奮がさらに高まる。高まった興奮は、こすりつけるだけではおさまりがつかない

入れたい

それが本音であった
だが、僅かに残った理性がそれを拒否する
彼女は巫女であり、巫女には処女性が大事だと聞いた事がある
わたしにそれを散らせる資格など無い

それに、今更だが、超えてはいけない一線がある

本能と理性の間で葛藤し、身もだえする
入れたい、ダメダ、デモ入れたい

「くっ くーっあっああっあああああ!!」

ダメダダメダダメダ、モウガマンデキナイ
手で愚息を押さえ、狙いを定める

最後に残った理性で位置をずらしもう一つの穴へと目標を変える

「ひぎぃ!」

梨花から嬌声とは違う口篭持った悲鳴が漏れる
だが、それに構わず腰を振りつづける

幼いからだがリズミカルに揺れ、呻き声からだんだんと嬌声に変わっていく

「んっ、あっ!、んんっ!! あっ うんっ やっ!」
「はぁはぁはぁ!んっ!!」

そして、わたしは絶頂を迎えた


堪えがたいほどの自己嫌悪の中、黙々と後始末を始める
最初の触診で少し広がっていたのが幸いしたらしく、あれだけ激しくしたのに裂けてはいないようだ

欲望のはけ口となった穴をから、欲望の塊を掻きだす
沿え付けのタオルで全身の汗をふき取り、服を着せる

手術着とベットのシーツが塗れていたが、これはどうしょうもない
梨花には悪いが、オネショしたこととして誤魔化すしかない
年齢時には少しおかしいが、理由はどうとでもつけられる

「私は何をやってるんでしょうね――ハハハ・・・・・・」

後始末を全て終わらせて、梨花が何事も無かったように寝ているのを確認して、病室をあとにする
仮眠室に戻り椅子に座って一息つくと、止めどなく涙が溢れた


「みー。沙都子には絶対内緒なのですよ!」
「クスクス、はいはい」
「まあまあ、大変な手術の後ですから、緊張が解けてうっかりしたんでしょう」

朝、診療所を開く前の病室。朝御飯の前に一騒ぎ起きていた
予想していたことであり、予定どおりに対処する

「でもねぇ? この年で・・・クスクス」
「みー、鷹野が苛めるのです・・・・・・」
「鷹野さん。そのへんにしてあげてください。大人げないですよ」
「あらあら? 私は悪者なの? クスクス じゃ悪者は退散するわね」
「みー、沙都子に言っちゃダメなのですよ」
「大丈夫よ言いたくても・・・ねえ?」
「!? 鷹野さん!!」
「あら? ごめんなさいね。じゃ」

失言に気づいた鷹野さんは咎められる前に、シーツを持ったまま、病室を逃げ出すように後にする
そして、シーツを変え、パジャマに着替えた梨花と二人っきりになる

「みー・・・」
「大丈夫ですよ、鷹野さんには私から口止めしておきますから」
「おねがいしますです。入江なら信用できるのです」

何気ない言葉が胸に刺さる
彼女はわたしを無条件に信頼してくれてる
だが、そんな彼女をわたしは――劣情に駆られて・・・・・・

「・・・・・・・・・」
「入江。どうかしたのですか?」
「え? ははは。まだ、疲れが残ってるようです。それより身体の調子はどうですか?」
「大丈夫なのですよ。にぱー」

笑顔がまぶしい。だめだ、見て入られない
こんないい子を、わたしは・・・・・・・・

自己嫌悪で押しつぶされそうだ

「それは良かったです。もう少しで検査の準備ができます。
朝食を済ましたら診察室にきてください。
そこで問題が無ければ、今日からお家に帰れますよ」

「みい。それより沙都子が心配なのですよ」
「ああ、そのことでしたら、鷹野さんの研究結果が出しだい治療に入ります」

女の子同士の友情か・・・・・・。わたしのとは比べ物にならないほど純粋なものだろうな

「入江は何もしないのですか?」
「え? あははは 何もしない訳ではありませんが、この件は鷹野さんの専門分野ですから」
「入江は優秀なのですよ?」
「ありがとうございます。でも、それは買い被りです。私なんて所詮は・・・・・・」

そう、ただの卑怯者。言い訳ばかりして保身を計る人間クズだ
あんなことをしたばかりだと言うのに、当人の前で笑っていられるぐらい外道だ
そんなわたしに何が出来るというのだ?

「入江」

自己嫌悪の闇に落ち、自暴自棄となった心に、凛とした声が響く

「沙都子を助けられるのはあなただけ。
鷹野はダメ。彼女は研究だけで沙都子は救ってくれない。
いいえ。むしろ沙都子を研究のために*してしまう」

「梨花・・・さん?」

口調だけじゃない、態度が違う。いや、雰囲気からして違う
これは誰だ?

「今から1ヵ月後。沙都子は5度目の発作を起こします
その時までに、入江。
あなたがC120を完成させないと手遅れになる」

「一体何を言って・・・」
「だから入江。自殺しないで」

唐突な言葉だった
心を見透かされたような気がした
名目だけの所長であるわたしは、自分がここにいる意味を見失っていた
そんな矢先、トミーにさき越されたあせりと苛立ちから、許されざる蛮行を行った

そう、わたしはすでに生きる気力を失っていたのだ

「な、何を突然言い出すんです?」
「入江。昨日のことは知ってるのですよ?」

馬鹿な!。突然ことに狼狽し、椅子から落ちる
とっさに何事も無かったように振舞おうとするが、上手く行かない

「ななbなs、なんのはなしです?」
「入江。あなたには感謝してるのです。
あなたは沙都子を救ってくれる。
あなただけが沙都子を救える。

たしかにあなたは道を誤った。
でも、まだ戻れる
戻れるのですよ?」

「はは、いつ気づいていたんですか?
戻れるって?
古手さん。本当に知ってるのですか? わたしがあなたに何をしたのか?
はは、なら、戻れるはず無い 天才と呼ばれた外科医、入江京介はもういない
ここにいるのは、ただのクズです
生きる価値も無ければ、存在する価値も無い!!!」

終わった。何もかも終わった
終わってくれた
その時はそうとしか思えなかった
だから、次の言葉が信じられなかった

「入江。僕はあなたの罪を許すのです」
「え?」

許す? わたしを? 数え切れない罪を犯し、さらに超えてはならない一線も超えたこのクズを?

「入江。私はあなたの努力を知っています
そしてどれだけ苦悩してきたかも
「・・・・・・」
「あなたは沢山の罪を犯しました
そしてさらに、その罪から逃げるつもりですか?」

「じゃどうすれば良いのですか!
わたしの犯した罪はけして許されるものじゃないでしょう!!!」
「でも、僕は許すと言ってるのですよ?」

許されるのか? わたしが? あんなことやこんなことをしたのに?

「しかし、わたしは・・・・・・」
「あーいちいち、煩いわね。
私は許すと言ってるの!!
でも、あなたがこれまでに*してきた人たちのことは知らない
彼らが許すかどうかは知らないわ

でも、じゃあ、その罪を償うにはどうすればいいと思う?
命を奪ったのなら、それ以上の命を助けることで償えばいいのよ!!」

さらに口調が変わる。大人びた口調から荒っぽい口調にだが、不思議と違和感が無い
独善的で断定的だが、心に響く。そうだ、たしかにわたしは多くの人を犠牲にしてきた
そのわたしがここで命を断ったところで、何になる?
犠牲を無駄にしないためにも、生きて償うべきではないのか?

「私が・・・助ける?」
「そうよ。あなたなら出来る。あなたなら沙都子を助けられる。
これは決まったことよ」

心に微かに火が灯る。忘れかけていた医学への情熱を思い出す

「あなたにあんなことをしたわたしを、まだ信じてくれるのですか?」
「いったでしょ? 私は許すって
でも、次はないわよ?」

「わかってます。本来なら一度目の過ちで許されないことですから・・・・・・二度はありません
しかし、いつから意識があったんです?
それに、決まってることとは一体?」

心は決まった。梨花がチャンスを与えてくれた
いや、それだけではない忘れてたことを思い出させてくれた

「オヤシロサマは何でも知ってるのですよ? にぱー!」
「はははは、古手さんにかないませんね~」

久しぶりに自然に笑った気がする
いつからだろう? 作り笑いしかできなくなったのは?

「いいでしょう。この京介入江。期待に答えましょう!」
「頑張るのですよ。ファイト!おー!なのです」
「ええ、見ててください」

いつもの無邪気な笑顔に送られて、病室を出る
部屋を出たその足で、地下の鷹野さんの研究棟に向う

考えて見ればわたしは、無駄なプライドをずっと引きずっていた
それだけが支えとばかりに固執して、理想と違う現実を認められず、いつしか回りを見なくなった

だが、今は違う。落ちる所まで落ちた以上もはや恐れる物は無い
土下座してでも研究に加えてもらい、全力を尽すまでだ!!

こんなわたしを認めてくれる人がいる
信じてくれる子がいる

過ちを正し、道を示してくれた

そして、大きな過ちを許してくれた
わたしに生きる意味があるなら、それは彼女のためだ

これからも苦労はあるだろう
再び絶望することもあるだろう
だが、わたしも信じよう

彼女がわたしを信じてくれたように

未来に希望がある事を・・・・・・

エピローグ

「あぅあぅ。入江はとんだ変態なのです」
「そうね、あと2年もすればメイドメイド言い出すわね」
「違うのです!そうじゃないのです!」
「分かってるわよ、後で沙都子に手を出さないように釘刺しとかないと」
「あぅあう」
「何?」
「えー。それで、入江をホントに許すのですか?」
「ええ。こんな貧相な身体一つで沙都子が助かるなら、安いものよ」
「でもでも、女の子の大切なものを奪われそうになったのですよ?」
「いいの。私は空気読めない乙女チックな誰かさんと違って、結婚までは~とか甘い幻想を持ってないから」
「あぅあぅ」
「それに最後までやってないんでしょ?」
「あぅあぅ、それはそうなのですが、最後までやったのとたいして変わらない気がするのですよ」
「いいのよ。どうせ寝てて覚えてないし、いちいち細かい事を気にしてたら、100年の魔女なんてやってられないわよ」
「あぅあぅあぅ・・・・・・」
「それに、ああ言っておかないと、生真面目な入江は思い詰めて自殺しちゃうでしょ?」
「それはそうなのですけど・・・・・・ボクは納得いかないのです!」
「あんたが納得して無くても、私はしてるの」
「あぅあぅ」

「ボクは梨花の教育を間違ったんでしょうか?」

終わり

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最終更新:2007年05月03日 01:51