「沙都子、指を入れたことはありますですか?」
沙都子は、ふるふると首を横に振った。
「入れますですよ……小指から……」
「ふっ……ん……こ、こわい……ですわ……」
「大丈夫なのですよ……沙都子は、これからもっと大きなものも、
ここで受け止めないといけないのですから……」
そんな時のことを考えると、
その人のことがものすごくうらやましく思う。
私は所詮、沙都子と一緒になれる限度は、
限られているのだ。

いつかは……沙都子の一番でなくなる。
今は、今この瞬間はそうであっても、私は沙都子の一番じゃない。
私の中にある、腐ったような独占欲が、
私の心を黒く染めていく。
「沙都子は、一生、ボクのことを思い出すことになるのですよ。
これから誰かが、沙都子のここを触ったとしても、
きっと沙都子はボクのことを思い出すのです……」
私は幼稚にも、沙都子にそう囁きかけた。
それは、自分の欲を納得させるためのものでもあった。


行為は続く。
最初、きつかった沙都子の湿った部分は、
繰り返し出し入れしている間に、大分ほぐれていた。
ただ、それだけが楽しかった。
新しいおもちゃを手に入れたみたいに、
私はそれをし続ける。
沙都子の声が、だんだんと大きくなる。

「あ、り、ぁ、アッ! 梨花! ああああ! あ……か……り……か……」
沙都子は突然、体を大きく震わせて、
顔を真っ赤にさせながら、大きく息をしている。
もはや肩しか動かないようだ。
沙都子はだらしなく股を開いたまま、
空中を見つめていた。
私は空気が気に入らなかったから、
その間に入って、私しか見えないようにした。
「沙都子……これからも……一緒ですよ?」
沙都子は、こくりと頷いた。

私と沙都子は、沙都子がお使いで買ってきたおかきを食べることにした。
部屋が変わってから初めての食事は、
晩御飯だった。
「沙都子……知ってますか? 夫婦は食べるものを全て、
口移しで食べるのですよ?」
「なっ、そ、そんなの……騙されませんわよ」
赤くなってかわいい。
沙都子は、私が望んだままの表情をくれる。
悟史が関わったとき以外は……

「本当なのですよ……信じてくれませんか?」
「ん……もう、梨花、嘘だったら……承知しませんわよ?」


沙都子はおかきを歯ではさみ、顔を近づけてきた。
目をつぶって、おかきがぷるぷると震えている。
「違いますですよ、沙都子。ボクがお手本をしてあげるです」
私は、おかきを細かく噛み砕き、唾液にまぜた。

「んんっ!」
突然のことに、沙都子は大きく目を見開いた。
それでも、先ほどの感覚が忘れられないのか、
今度は沙都子から……舌を突き出してきた。
私も、そのことに驚いて思わず離れそうになったが、
沙都子の肩をつかんで、なんとか耐える。
「ぷはっ、沙都子……おかわりは要りますか?」
沙都子はこちらも見ずに、首を縦にふる。
もう目がうつろになって、顔がお風呂に入った後のように上気していた。

「沙都子……あーんして?」
私と沙都子は手をお互いに組合い、
中腰のままお互いのおかきと舌をむさぼった。
この手が邪魔だと思っても、
そのブレーキがまた、私の中の嗜虐性を増長させる。
「沙都子はお行儀が悪いのです……お箸も使わず、
犬食いするのですね……」

私は、沙都子を引き寄せて、そのまま背中から倒れこんだ。
沙都子が無理やり私を押し倒したような体勢だ。
もちろん、私が沙都子に押し倒させたのだが。
「犬さんに……ここを舐めて欲しいのです……」


私は、自分自身の場所を指し示した。
足を開いて、自ら恥ずかしいポーズをする。
「む……無理ですわ……だって……そこって……」
「みぃ、ボクのはダメですか?」
いつもならここで、悲しそうな顔をして、
同情を誘うところだが、このときばかりは私も顔を愉快にゆがめた。
なんせ、沙都子はすぐそこまで近づいて、それを言ったのだから。

「ティッシュで拭いてくれてもいいのですよ……ほら、沙都子?」
私は、ティッシュを一枚抜き取り沙都子に渡した。
それを見て、沙都子は先ほどの愛撫を思い出したのか、
また恍惚とも呆然とも取れる表情をした。
瞳は潤み、好奇心に突き動かされそうな腕を、
沙都子は理性で押さえ込んでいるのだ。
同じことを梨花にもすると、どうなるのだろうと、
沙都子は思っているに違いない。
結局、誘惑には勝てずに……沙都子は私に触れた。

スカートを履いたまま、ショーツだけをずらし、
沙都子をもぐりこませる。
結局沙都子は、一二度拭いただけで、
すぐに……舐め始めた。
ぴちゃぴちゃといういやらしい音と共に、
私の腰を伝って、快感が脳に抜ける。
ふるえと共に、ノドの奥から、今まで出したことの無い種類の声が出た。
「あぅ……さ、沙都……急すぎっ……ます……あぅ!」

私はスカートを捲り上げたまま、
体を硬直させている。
変態だ。
私は変態だ。


沙都子に、いやらしいことを強制させてる。
でも……それに従う沙都子も……
いや、沙都子は違う。
沙都子は本能に従っているだけ。
それと、私を気遣ってしてくれているのだ。

でも、私は違った。
沙都子のことなんか、これっぽっちも思ってなかったのだ!
そう思うと、急に悲しくなって、
今まで出なかった涙が、ぽろぽろと零れ落ちてきた。
「沙都子、ダメですッ! やめて、沙都子……もういいのです!」
「はみゅ……ちゅ、梨花ぁ? もう降参ですの?」
しまった……沙都子は、逆に調子付いて、
私を執拗に責め始めたのだ。
もうやめてと、いくら叫んだって、きっと沙都子はやめてくれない。
本気で叫んだら止めてくれるのに。
私はそれを知っていて、叫ばなかった。
ただふるふると震えて、沙都子の行為を受け止めている。

「ふふふ……やっぱり、梨花もおんなじだったのですわね」
沙都子は、まるで猫がミルクを飲むように、
無邪気に舐め続けた。
「んぁ……さぁ、さ、と……子……」
「梨花ぁ……わたくしのが変ですの、梨花のここを舐めてたら、わたくしのも……」
「変じゃないのですよ……沙都子……」


確かに私たちは、中のよい姉妹のようだったのかもしれない。
でも、私は違った。
私たちではなく、私は……沙都子が、好きだった。
愛してた。
沙都子は……どうなんだろう?
私を愛してる?
うん、確かに愛してる。
私の愛に応えてくれたから、きっと愛してくれている。

家族として。


「はっ……ふっ……梨花……ごめんなさい……」
「しっかりするのです! まだ、あきらめちゃダメです!」
私は、沙都子を背負って森を抜けようとしていた。
一歩、二歩はまだ良かった。
このまま沙都子をどこにでも連れて行けると、
本気で思っていた。
私の体が軋む。
きっと、沙都子と同じ種類の病気にかかっていた。

「かふっ、かふっ! うぇぇえぇ……り、か……がふっ……」
きっと、肺がやられたんだ。
風邪を甘く見すぎた。
確かに、ちゃんとした環境で、ちゃんとしたものを食べて、
ちゃんと看護すれば……風邪なんて無かったのと同じだったのに。

「捨てて行ってくださいまし……梨花、捨てて行ってくださいまし……梨花、捨て」
何度も何度も、沙都子は無理な体で言った。
そのたびにあふれ出るのは、沙都子の願いと……私の懺悔。
「沙都子……私を許してくれますか?」
「何、を? ですの? がふっ!」
「私を……」







罪の名前を教えてください。
罪の名前は嫉妬ですか?

罪の名前を教えてください。
罪の名前は色欲ですか?

罪の名前が分かりました。
罪の名前は不信です。






「梨花を? かふっ!」
「沙都子……愛してます」
「わたくしもですわ」
沙都子の声は、珍しくはっきりとしていた。
どのくらい珍しかったかというと、
少なくとも、今日始めて聞いた。
綺麗な声だった。
「梨花、わたくしを許してくださいますか?」
私は、頷いた。
「わたくしは、祭具殿に進入して……物を壊したことがあるんですの。
梨花、その時酷く怒られてましたわよね?」
「そんなことですか?」
「はい」
「かわいそかわいそです」
「はい」
「沙都子」
「はい」
「死なないで」
「はい」
「死なないで」
「はい」
「死なないで」

「沙都子?」
どれくらい経っただろう?
私が、罪を犯してから、どの程度の時間が経っただろう?
私のわがままから、どの程度の時間が。


最初のわがままは、もっと皆と一緒に居たいということでした。
それから、沙都子と一緒に暮らす方法を知りました。
沙都子は良き友人で、
良き家族で……
きっと私は、沙都子が一番好きでした。
沙都子が壊れていく世界がありました。
私は戦いましたが、あえなく返り討ちにあいました。
次はこうやって、連れ出してみたのです。

私は戦いました。
戦ったのです。
逃げてはいません。
戦いました。
でも、独りよがりだった。
沙都子のことなんか、全く考えてなかった。
沙都子を信じられなかった。
沙都子はもっと強い人間だということ。
そして、皆も沙都子を愛しているということを。
自分が一番だって?
自惚れだ。

「羽入、羽入……なんで私は生きてるの?
何で沙都子は生きられないの?
なんで私は何度も何度も……ねぇ、羽入?
居るんでしょう?
返事をしてよ!?」

深い森に、深い嘆きがこだました。

嘆キノ森 ―完―

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最終更新:2007年04月29日 18:48