今度こそ運命を打ち破れる―――――。

誰もがそう思い、信じて疑わなかった。
きっと今回こそは幸せな未来を勝ち取る事が出来る、大好きな仲間たちと共に7月を迎える事が出来る、………と。
そう、今この瞬間までは、そう信じていたのだ。



「…ふふ、残念ね?もう少しで逃げれたかもしれないのに。
…前原君がそんな様子じゃあ、ねぇ…?くすくすくす!」
しんとした空間に、鷹野の柔らかな笑い声が響いた。
心底楽しそうな顔をして彼女は銃をチラつかせる。…その顔はまるで、面白いオモチャを見つけた子供のようだ。それは私の悔しさを倍増させ、皆を恐怖させるだけだった。
あともう少しだったのに、と嘆いてももう遅い。私達は山狗達によって後ろ手を縄で縛られ、身動きのとれない状態にされていた。

「気分はどう…?ふふ、あなたたち、これから何されちゃうのかしらねぇ。
…あら、前原君… ずいぶん苦しそうだけど、痛むの…?」
す、と鷹野がかがみ圭一と目線を合わせる。圭一は苦しそうに顔を歪めた。その肩からは血がダラダラと流れている。
「いっそひと思いに、って心臓を狙ったはずなんだけど…。こんなかすり傷じゃ痛みはしても死ねないわね。そのまま放置してたら出血多量で死ねるかもしれないわ……ごめんなさいね…?くすくすくす!」
圭一の顔がさっと青くなる。ぞくりとしたものが背中を駆け抜けていった。空気が強ばっていくのを感じる。…きっと皆も、目の前のこの女に恐怖しおののいているのだろう。
…と、何かすすり泣くような音が聞こえた。ぼそぼそと小さく呟く声も聞こえる。それは―――――魅音だった。
「っく、ふ、…ぇっく……お、お願い、もうゆる、許してぇ…!…私たち、…っうぇ、…だ、れにも言いませ、んっからぁ……だ、誰にも…だからぁ…」
顔をくしゃくしゃにして、泣きじゃくる魅音。…決して命乞いとかをしてるんじゃない。仲間を死なせたくないがゆえ、プライドを捨て、皆を助けようとしてくれているのだ。
それは皆分かっている。分かっているからこそ、見ていて胸が痛かった。

そんなのはお構いなしに、鷹野は嘲笑うように魅音を見下す。
「やだ、命乞い?みっともないわよ、部長さんでしょ…?
詩音ちゃんも双子の妹として何か言ってあげて、………あら怖い。そんなに睨まなくても良いじゃないの」
「…鷹野さんも口の減らない人ですね。いい加減にしてくれます?」
この外道。…そう言ってやりたい気持ちを抑え、詩音はじりじりと威嚇するように鷹野を睨んだ。ありったけの憎しみをこめ、殺してやると言わんばかりに。
――――それがいけなかった。鷹野にとっては悪あがきにしか見えないソレも、女に飢えている山狗たちにとっては征服心をそそる挑発的な瞳だったのだ。
たまらない、とばかりに1人の男が進み出る。
「さ、三佐、三佐が興味があるのってあのガキだけですよね?他は…………」
「ええ。…他の子はどうでもいいわ。魅音ちゃんの背中にはちょっと興味あるけど、………良いわよ。好きにしなさい。私は私で楽しむ事にするから」
“好きにしなさい”。……その言葉を聞いた瞬間に気丈だった詩音がびくりと震えた。強気な瞳が濁り、恐怖の色が浮かぶ。この状況で、好きにしなさいと言われて男達が取る行動は、おそらく―――
うぉおおお、と雄叫びのように山狗達が吼えた。その叫びは私達を心底震え上がらせ、レクイエムのようにも聞こえた。
「おっ、俺コイツっ!!へへ、ガキにゃー見えんやらしい体してやがる!」
「いやぁぁああああああああぁぁぁ!!やめてぇえぇええ!!圭ちゃん助けてぇええええぇぇえ!!!!」
1人が我慢できずに魅音に飛びかかった。魅音が泣き叫ぶが、抵抗むなしくビリビリと服が破られていく。
それを合図に他の山狗たちも一斉に飛びかかっていった。…彼らもよく分かっている。鷹野の機嫌を損ねたくないから、梨花には指一本触れない。綺麗なままで、が鷹野の希望だ。
圭一にももちろん誰も飛びかからない。…当然といえば当然だが、それゆえに詩音、魅音、レナ、沙都子の4人に男たちが一斉に群がっていった。




「やめろぉおぉおぉ!!!やめてくれぇぇえええええええ!!!」
圭一が叫ぶ。だけどそれは泣き叫ぶ魅音たちの声にかき消されてしまった。ちくしょう、と涙しながら声が枯れるまで何度も叫び続ける。
その様子を見ながら鷹野は満足そうに笑みを浮かべていた。
実に滑稽。実に退屈しない。実に面白い…。

「…くすくすくす、…ふっ…ふふふ、ふふふふ…あっははははははは…!!」

笑い声が漏れた。
目の前の光景を見て嘲笑う。ほらね、神なんているものか!いるならばこんな残酷な仕打ちするはずがない!
神がいないというのならば私が神だ!神になってやる!そうだ、私がオヤシロ様となり神となるのだ――――――!




鷹野は高揚した気持ちを抑え、ふぅとため息をついた。
…ガラにもなく興奮してしまった。目の前で繰り広げられている淫らな光景のせいだろうか。
目を瞑り、心を落ち着かせてからポツリと呟く。

「………さあ、宴の始まりよ。新しい神の誕生を、皆で祝ってちょうだい…!」

高笑いをしながら、月に向かって叫ぶ鷹野。長い髪をなびかせて、月の光を浴びるその姿は、さながら本物の神のごとく輝いていた。

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最終更新:2007年04月07日 04:02