悟史君の意識が回復した。





その知らせを聞いた時、ああ、また夢かと思った。
いつも見る夢。悟史君に会えると期待に胸を弾ませて、病室のドアを開ける瞬間に目が覚める。
そのたびに私はベッドで泣き崩れた。あとちょっとで会えたのに、こんなっての悲しすぎる…そう嘆きながら、心のどこかでもう諦めかけていたのだ。
もう二度と、元気な悟史君を見れないんじゃないかって。いくら気丈な振る舞いをしていても、いつまでも意識の戻る事がない悟史君を見るのは正直辛かった。
…夢でも良い。会いたかった。会って頭を撫でてもらって、むぅ…って言ってほしかった。

だからその知らせを聞いても私は喜ばなかった。
どうせ夢だって分かってる。さんざん喜ばせといて、現実に突き落とすつもりなんでしょう?
私は監督に案内されるがまま、浮かない顔で…どうせここらあたりで目が覚めるだろうなと思いながら、病室のドアに手をかける。
ひやりとしたノブの感触。…それが妙にリアルで一瞬どきりとさせるが、期待するだけ悲しさが倍増する事を私は知ってる。
そして、ゆっくりとドアを開けた。
いつもの夢ならここで醒めるはずだった。
だけど、悟史君は…………いた。

「……むぅ。詩音?」
「…さ、としく……?」

色素の薄い、さらさらの髪。
優しげで穏やかな瞳。
全てを包み込んでくれそうな、包容力のある笑顔。
変わらない“…むぅ”。
そこにいるのは、紛れもない…彼だ。
「あはは、これ……夢?」
私はぼうっと突っ立ったまま呟く。
「夢でたまるもんですか。
…ちゃんとした現実ですよ、詩音さん。」
そう監督は答えた。 …その温かい笑顔が嘘なんじゃないかと一瞬疑う。
「ほんとに…?」
こくり、と監督が微笑んで頷く。ほんとの、ほんと?
この展開を、これまでに何度夢見た事か。…いや、ひょっとして今この瞬間も夢かもしれない。
…夢でも良い。だって、目の前に悟史君がいるんだもん。
もう一度悟史君を見る。…ううん、夢なんかじゃない。こんなにもハッキリと目の前に存在する彼が、夢なわけがない!
私はどうしようもなく涙が溢れた。滝のごとくぼたぼたと。

「……う、わぁああぁぁぁあ!!わぁああああぁあぁん!!
さ、悟史く、悟史くん、悟史君悟史君…っ!!っえ、く、さ、悟史君、会いたかった、会いたかった…!」
一目散に悟史君に駆け寄り、抱き付いてむせび泣く。その様子を監督が微笑ましく見つめている。
監督もうっすら涙を浮かべていた。彼もまた、悟史君の目覚めを待ち続けていた一人だろう。

「わ、わたし、待ってました!ずっとずっと、…信じて…約束通り、沙都子の面倒、ちゃ…んと見、て…っ!っく、うっ……さ、みしかった、悟史君…!」
「…むぅ………ごめんね。……………ただいま。」

ただいま。
その一言を、どれだけ待ちわびていた事か―――
私は泣き続けた。そりゃもう、これ以上は枯れ尽くして出ないってほどに。
それでも涙というものは不思議で、いくら泣いても泣いても止まらずに溢れてくる。
私は泣き疲れてそのまま眠り込んでしまうまで、ずっとずっと悟史君の胸で泣いていた………。

==========

「はろろ~ん悟史君、お元気ですかぁー?今日の差し入れは詩音ちゃん特製!激マズ野菜ジュースですよ~☆」
軽くスキップで歩きながら、ばん、と病室の扉を開ける。
そこには昨日と変わらない悟史君の姿があった。

…あれからもう3日。
悟史君の意識が回復してから、私は毎日のようにお見舞いに来ていた。
その甲斐あってか、今ではもうすっかり悟史君は元気だ。リハビリも順調。後遺症も今のところはゼロ。
念には念のため、との事でまだ入院中だが、明日にでも学校に行ったっておかしくない。
「……むぅ…マズいの…?」
悟史君が唸る。
ああもう可愛いったらありゃしない!きゅんきゅん☆
私は飲むのを渋る悟史君にきっぱりと言い放った。
「良いですかー?悟史君は病み上がり!しっかり栄養摂らなくちゃいけません!はい、ちゃーんと飲む!」
「……む、むぅ…。マズいのは嫌だなぁ…。
でも、詩音の手作りなんだよね?ちゃんと飲むよ。…いつも、わざわざありがとう。」
「…へ…!…ぁ、う…」

なでなでと、頭を撫でる優しい手。
…なつかしい。そして暖かい。
相変わらず私はこの手に弱かった。

「……う、…これ、すごい色だけど何入ってるの…?」
「えーとですね、ニンジンキャベツブロッコリー、アスパラピーマンにんにくマグロの目玉、その他色々とにかく体に良さそうなものを入れてみました☆」
うぇ…、とまずそうな顔(実際ものすごくまずいんだろう、)をしてジュースを飲む悟史君。
それを見て私はふわりと微笑んだ。

「し、詩音…、何笑ってるんだよ…」
「え?あ、いやぁ。そうやって鼻をつまんで無理やりジュースを飲む悟史君が可愛いなぁ萌えるなぁ、って。私の中のSっ気が目覚めるんですよねー☆」
「むぅ………」

…もちろんこれは冗談。
まあ、多少は本気も混ざってるけど。
ただ、こんな風に悟史君をからかって、むぅ…って言って、頭を撫でてもらって。
またこんな日常に戻れるなんて、思ってもみなかった。
あ…ダメだ。涙出る。最近涙腺が緩みっぱなしだ………。
「…詩音?ご、ごめん!ちゃんと飲むよ…、残さないから!
だから泣かないで、えぇと…」
「ち、違いますよ…、…嬉しいんです…!…こうやって、…ひっく…
…悟史君と、い、一緒に…いれて……っふ、く…!」
またもや涙がポロポロ零れ落ちてくる。この数日間で、一生分は泣いた気がする…そんな事も思うが、涙はとめどなく溢れっぱなしだ。
…私は嘘泣きが得意である。だけどこれはそんなんじゃない。本物の、心からの…涙。

「詩音………」
「えっく、ふぇ、……ぅくっ、…うぅう…!」

ああ、悟史君が困ってる。ごめん悟史君。
早く泣き止まないと。
冗談です、って。早く言わなきゃ………


ぺろり。


「……ふ、ふぁっ!?悟史君ッ!?」
「むぅ?」
「い、い、今…舐めました?」
「………むぅ………」

彼はぺろり、と。さも当然のように私の涙を舐めた。
あまりに突拍子もないその行動に涙も引っ込む。
「えぇと、詩音が泣いてて…でも僕、ハンカチ持って無かったから………むぅ、ごめん。…嫌だった?」
「え、そ、そうじゃないです!ただびっくりして……あはは」
…驚いた。悟史君って、どこまで天然なんだろう。
思わず笑ってしまった。
その様子を見て、悟史君も微笑む。

「………詩音」

…そうして2人で笑いあったあと、ふいに目が合った。
その穏やかな瞳に、吸い込まれそうになる。
悟史君の手が私の頬に触れた。
その優しい手に、私も手を添える。
私は目を閉じた。
悟史君の息づかいが、すぐそばで聞こえる。
とくり、とくり。血液の流れる音。心臓の鼓動。悟史君が、今ここにこうしている事の証。
私たちはどちらが言ったわけでもなく、無言で唇を重ね合わせた。

「ん、………悟史君…」
「…僕は、君の事が、……好きだよ。
一緒に買い物をした時も、野球の試合をした時も、…そして今も。
…僕は詩音に、ずっと支えてもらってたんだ。」

ぽろり。
さらに涙が溢れた。これ以上泣いたら本当に干からびてしまうかもしれない。
悟史君が私を好き?夢みたいだ。これ、夢じゃないよね?

「悟史君、私も、………好き、大好きです。愛してます…!」
そう言うと、私は悟史君をぎゅっと抱きしめた。
もうどこにもいかないで、置いてかないで、ずっと側にいて―――そんな意味を込めて、抱きしめている手に力を込める。
そしてもう一度キスをした。
そのまま流れるようにベッドに押し倒す。…普通逆なんだろうな、とそんな事を思いながら。
悟史君は抵抗しなかった。


「ん、しお……む……ぅ」
「っは…、悟史く、…んむ…っ…ちゅ、…」
もう離さない離したくない、悟史君は私のもの。
唇、頬、首、鎖骨。……だんだんと赤い印を残していく。私の所有物という証。
私はするするとパジャマの隙間に手を忍ばせ、ぷちぷちとボタンを外していった。
「……むぅ、詩音…それは…」
「それは、…何ですか?悟史君」
はらり、と悟史君のパジャマがはだける。
………色が白くて、細くて…まるで女の子のような身体。
私も服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となる。…恥ずかしさより、悟史君と一つになりたいという気持ちの方が勝っていた。
「ん、んむ、ちゅ…ふ…」
「悟史く、かわい…んふ、…ちゅむ…」
…恥ずかしい事に、私は悟史君にキスをしただけですでに濡れていて、受け入れる準備が出来ていた。
私はキスをしながら悟史君のソレを取り出す。
「う、…っあ…詩音…!」
「ふふ、悟史君ったら女の子みたいですよ。……んっ…」
ちゅく、と入り口にソレをあてがう。
焦らすように押しつけて、ゆっくりとねっとりと腰を振る。
悟史君は早く入れたくてたまらないらしい。
でも私は意地悪をして、悟史君が腰を突き出すと腰をひく。
それを繰り返していると、さすがに我慢出来なくなったのだろう。悟史君が私の腰を掴み、一気に貫いた。

ずずずずずず…っ!

「ああぁああああぁぁあっ!!!そん、なっ、悟史く、いきなりっ…!」
「し、詩音っ!詩音の中、気持ちい…っ…!」

ずちゃっ、ぐちゅ、じゅぶっ…
いやらしい音が響く。
さっきのおあずけが相当辛かったのだろう―――悟史君は無我夢中で腰を振り、私の中を存分に犯した。

「はっ、ふ…んぁあっ!!ひゃ、う… あん!
さっ、悟史く、胸も…触って、あぁぁあ!」
腰を掴んでいた手を取り、胸に誘導する。
最初は遠慮気味に揉みしだいていた手が徐々に乱暴なものに変わっていく。
私の大きな胸は悟史君の手によってぐにぐにと形を変え、いやらしさを増していった。
必死に私の乳首を吸う悟史君はまるで赤ん坊のようだ。
「ふ、っふ… んっ、悟史く、赤んぼ、みた…っ!」
「……は、あむ… ん…」
赤ん坊と言われたのが気に障ったのか。 赤ん坊にこんな事出来る?とでも言わんばかりに、悟史君は私の乳首を攻めた。
しゃぶられ、舐められ、甘噛みされ。さんざん弄くられた私の乳首はピンと張り詰め、ちょっとの刺激にも敏感になる。
やがて2人の腰を振るスピードが徐々に速くなり、絶頂に近づいていった。


「あ、あんっ、悟史君、好き、好きです、……っあ、……ああああああぁぁぁあっ!!」
「詩音、詩音、詩音、うっ…く、イく、ぅあぁあぁっ!」


どくん、どくん。
悟史君のモノが私の中で脈打ちながら、果てた。
お互い同時にイったのだろう。
今日…安全日で、…良かった…………
ぼんやりとそんな事を思いながら、私はそのまま――――意識を失った。





「むぅ………気がついた?」
「へ?悟史…君……?」
気がつくと、私は病室のベッドの中にいた。
悟史君が私を心配そうに見つめている。
………………
「わ、すいません!!病人のベッド占領しちゃって、…っつぅ…!!」
「だ、大丈夫?」
慌てて飛び退こうとしたが、腰が痛くて動けない。
ああそうか、私、悟史君と……………
今更ながら恥ずかしさがこみ上げてくる。
「…その、ごめんね…詩音。…痛む……?」
「いっ、いえ、私こそ!…えーと、あの……」
お互いに言葉を濁す。沈黙が流れるが、それさえも心地よかった。2人きりがゆえの、沈黙。2人きりがゆえの…安心感。
私はポツリ、と呟く。
「悟史君て、意外とベッドの中では激しいんですね☆……………ぽっ。」
「……し、詩音…!……むぅ……。」

ぽすん。
私は悟史君の肩に頭を寄せた。
…今こうしている時間が幸せ。
悟史君と一緒に過ごせる時間が………幸せ。
「悟史君、…大好きです。」
「……僕もだよ、詩音。」

ずっとずっと一緒ですからね。
そう言って軽いキスをして、2人は安らかな眠りについた―――



―――2時間後。



「な、な、なななんなんですの、この状況はぁあああぁっ!!」
「みー、詩ぃと悟史がすっぽんぽんで抱き合って寝てるのですよ、にぱ~☆」
「…はぅ…詩ぃちゃん大胆…」
「け、圭ちゃんは見ちゃダメー!!」
「んがぁっ!?」
「…まったく、やれやれですねぇ…」


この後、お見舞いに来た部活メンバー&入江に衝撃現場を目撃されたのは言うまでもない。

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最終更新:2007年04月05日 23:57