痛い!

「あ…ぅ、あああぅぅぅ。」
千年ぶりに得た肉の体から受ける感覚は容赦なく鮮明で、羽入にとっては
受け入れがたい物だった。
「いやっ、痛いのです。あぅっ。」
「暴れてはいけませんよ、羽入ちゃん?」
羽入を見下ろす入江の顔は、普段と変わらない。
その、どこまでも人の良さそうな笑顔が、かえって羽入の恐怖心を煽る。
「羽入ちゃん、頑張って…。」
レナだった。
既に入江から『お注射』されてしまったレナだって痛みを感じているはずなのに、
彼女は健気に微笑んで羽入を力づけようとしてくれている。
…レナだけじゃない。
魅音も沙都子も梨花も圭一も、自分の痛みを隠して羽入を励まそうとして
くれている。

でも。

「嫌なのです! お注射なんて要らないのです!」
入江の合図に男たちが動く。
幼いと形容しても差し支えない小さな体が、あっさりと押さえ込まれた。
「あぅ、あぅ、あぅううぅぅ!」
身動きのとれなくなった羽入に、入江がゆっくりと近付いてくる。
男たちは、羽入を供物のように差し出した。
「っ! あ? い、痛っ、いや! 抜いて! 抜いて下さいなのです!!」
羽入の懇願に、彼らはわずかな躊躇さえ見せなかった。
本来異物を受け入れるようにはできていないそこが出血を始める。
「あぅっ、あぅっ、あぅっ…ぁ。」
永劫とも思える苦痛の時間の後、羽入の体内に液体が放出され、
行為は終わりを迎えた。
抜き取られる感覚に、彼女はわずかな安堵を覚える。

男たちから解放されてへたり込んだ羽入の前に、梨花が立った。
「羽入、しかたないのよ。これは、私たちが生きるのに必要なこと。」
羽入は床を見つめたまま、涙声で答える。


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「でも…神は絶対にインフルエンザになんてかからないのですよ?」
「人間のふりしてるんだから、予防接種はしょうがないでしょう。」
梨花が羽入の腕を取り、注射跡に消毒薬の脱脂綿を押し当てた。
「あぅ、あぅぅ。お注射の針が死ぬほど痛かったのです。入江は鬼ですー!」
「…入江も、あんたにだけは言われたくないと思うわよ。」
梨花が、ふと思いついたように続ける。
「ところで、予防接種は来年もあるのよ?」
…もう成仏してしまおうか? 真剣に考える羽入だった。

<終る>

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最終更新:2007年03月16日 00:57