甘い衣 京太郎×衣 衣の人
第2局>>146~>>175


   「さて、どうすっか」
    駅に降り立ってそう呟いたのは須賀京太郎、清澄高校唯一の男子部員だ。
    土曜日、授業も無くそれでも本来ならば麻雀部の活動があるのだが、今日は武井久が生徒会の用事があり、染谷まこも実家の手伝いがあるので、部活は休みになった。
   「う~~ん、最近麻雀部に入りびたりだったからな」
    一日寝て過ごす、というのも考えたが母親に無理やり起こされ、家にいるのもなんなので、最寄りの駅から数駅の少しは遊ぶ場所のある所に来たのだが、それ以上はなんの計画も無く、途方にくれていた。
   「・・・・」
    駅前でぽつりぽつりと見えるは、仲良さそうに歩くカップルの姿。
   「くっそ~~~俺も恋人が居りゃあなあ」
    京太郎の脳裏に同じ部活の原村和の姿が浮かんだ。

   「京太郎さ~ん」
    たわわな胸を揺らしながら、待ち合わせの場所に走ってくる和。
   「はぁ、はぁ、すみません、お待たせしてしまって」
    切らせていた息を整える間も、魅力的な胸が揺れていた。
   「いや、俺も今来たところだから」
    実は一時間近く待っていたが、そんなことは大して気にならない。
   「良かった・・・それじゃあ行きましょうか」
    安堵の息を漏らした和は少し考えてから、京太郎の腕で自分の腕を絡めてくる、むにゅと柔らかくでも少し弾力のある和の胸が肘に当たり、京太郎に至福の瞬間に包まれる。
   「あの・・・だめでしたか?」
   「いや、良い、全然良い!」
   「よかった、それじゃあ行きましょうか」
   「お、おう」
    こうして二人のデートが始まる。

   「でへでへ・・・・はぁぁぁ」
    妄想を膨らませていた京太郎だが、現実との差を肌で感じると虚しくなり大きなため息をつく。
    いつものならこの辺りで、片岡優希が絡んでくるが今日は一人なのでそれもない、それがさらに虚しくなる。
   「止めだ止め、ゲーセンにでも行くか」
    虚しくなって落ち込んだ気分を変えるために、京太郎は近くにあるゲームセンターに移動するのだった。

   「うん?」
    ゲームセンターについて店内に入ろうとした京太郎だったが、入り口にある物に目が止まり足を止めた。
   「これって、あれだよな・・和が持っていた確かエドペンだっけ?」
    そこにあったのは、和が大局中に抱いていたペンギンのぬいぐるみの巨大なバージョン、1メートル少しあろうかというほどの物がケースに入っており、
   どうやらその隣にあるUFOキャッチャーで巨大ペンギンと書かれた紙が入ったカプセルを取ると、この巨大なエドペンがもらえるようだ。
   「これをやったら和も俺のことを・・・・無いか」
    これをプレゼントしても付き合えるとは思えないし、それにこのサイズでは下手をすれば迷惑がられる可能性も。
   「まあ、話題程度にはなるかも知れないな」
    そう思い京太郎は携帯のカメラでその巨大エドペンを撮影する・・・と。
   「うん?」
    撮影した瞬間に、何か赤い布がカメラの下の方を横切った。
    何かと思いその布の下を見ると、そこに居たのは長いうさぎの耳のようなカチューシャをした、一見すれば人形と見紛うばかりの美少女、そしてその少女に京太郎は見覚えが有る、というか前に会っていたので、思わず少女の名前を口にした。
   「天江衣?」
   「うん?」
    自分の名前を呼ばれた衣は、振り返って自分の名前を呼んだと思しき京太郎をじっと見つめる。
   「おっ、あっ、えっ~と・・・」
    呼びかけたつもりも無く、思わず出た言葉に反応をされて少し焦る京太郎。
   「衣は確かに天江衣だが、お前は誰だ?」

    怪しんでいる感じではない、衣はただ不思議そうに首を捻っているだけ。
   (まあ当然か、いきなり自分の名前を知らない奴に呼ばれたら、そんな反応もするよな・・・)
   「衣呼んだのは、お前ではないのか?」
   「あっ、いや、俺だ」
    このまま無視するのもなんなのと、呼んでしまったのは自分であると言う点から、京太郎は素直に答えた。
   「お前、どこかで会ったか?」
    まあ衣が覚えていないのは無理も無いだろう、なにせ京太郎が衣と会ったのは一度だけ、しかもその時に衣が話したのは、友達になった和と大将戦を戦った咲だけなのだから、名乗ってすらいない京太郎の事を覚えている方が奇跡に近い。
   「覚えてはいないだろうけど、この前にプールで会っただろう、一応咲や・・お前と大将戦を戦った宮永咲と原村和と一緒に居たんだけど」
    覚えているはずが無いと思いつつも、京太郎は一縷の望みを託し覚えている可能性の高い咲と和を交えて説明をする。
   「プール・・・はらむらののか・・・おおっ!」
    何かを思い出して声を上げる衣、よもやの事に京太郎も驚く。
   「思い出したのか?」
   「ああ、今思い出した、はらむらののかと、清澄の大将とあとちっこいのと、もう一人いたな、確かにお前だった気がするぞ」
   「おお、凄いな」
   「当然だ」
    衣の記憶力に素直に感心する京太郎、褒められた衣は小さな胸を精一杯誇らしげに張る。
   「それで名前は・・名前は・・・」
    誇らしかったのもつかの間、また考え込んでしまう衣、しかしそれが思い出せるはずもない、なぜならば京太郎は名乗ってすらいないのだから。
   「ああ、いい、良いんだ、それだけ思い出してくれれば良い、前には名乗れなかったが、清澄高校一年の須賀京太郎だ、咲達と同じく麻雀部な」
   「すか・・きょたろう?」
   「須賀だけど・・まあいいか、きょうたろうだ」
    間違っているので訂正する京太郎だったが。
   「きょたろう?」
   「きょうたろう」
   「きょたろう?」
    言いにくそうな衣を見ながら、そういえば和もののかって言っていたなと思いつつ、一瞬諦めそうになる京太郎だが、なんとか訂正しようと間違えている部分だけを強調して。
   「きょう・・・たろう」
   「きょう・・・たろう?」
   「そうだ、続けて」
   「きょう・・たろう、きょう・たろう、きょうたろう・・京太郎!」
   「おう、そうだ、京太郎」
    根気よく続けて結果、ちゃんと京太郎の名前を言えた衣。
   「京太郎、もう覚えたぞ、ふふ~ん!」
   「そうだ、偉いぞ」
    ちゃんと言えた事で自慢げに笑う衣を見て、京太郎は自分まで嬉しくなり、自然に衣の頭に手を伸ばしてごしごしと撫ぜる。
   「うっ・・こら、頭を撫ぜるな、衣のほうが年上なんだぞ!」
   「おっと、悪い悪いついな」
    見た目だけなら、どう見ても・・だが、こう見えても衣は京太郎のひとつ上なのだ。
   「ううっ、それで今日は原村ののかは居ないのか?」
   「えっ、ああ、今日は俺一人なんだけど」
   「そうか・・・いないのか・・・」
    それを聞いた衣は非常に残念そうな表情で肩を落とした。
   (まずいこといったか、けど居ないのは本当だし・・)
    なんとか話を逸らす方法を考える京太郎の視線に、先ほどの巨大エドペンが目に留まった。
   「そ、そういえば、さっきこれ見ていたみたいだけど」
   「うん・・・ああ、それか、原村ののかの持っていたペンギンに似ているなって思って」
    どうやら衣また、これを見て和の事を思い出していたらしい。
   (って、そんなこと聞いたら、余計に落ち込むんじゃ・・・)
    だが京太郎の予想とは違い、衣は黙ってじっと巨大エドペンを眺めていた・・・ただじっとそしてその視線から読み取れるのは。

   「もしかして、これ欲しいのか?」
   「えっ?」
    まるで子供の様に(見た目的には十分に子供だが)物欲しげにエドペンを見る衣に、京太郎は思い切って尋ねてみた。
   「いや、なんか欲しそうにしている気がしたからさ」
   「渇望はする・・だが、これは衣では手が届かぬ存在だ」
   「手が届かないって、そんなことは無いだろう、挑戦すれば」
   「いや、獅子奮迅、何度挑戦しようとも、手に入れること叶わず」
    京太郎にもようやく理解できた、衣は何度もUFOキャッチャーに挑戦してはみたが、この巨大エドペンを手に入れることはできなかったのだろう。
    さきほど衣をがっかりさせてしまった京太郎、別に京太郎の責任ではないがなんとなく後ろめたく感じていたので、今の衣を見てある決意をした。
   「よし、俺が取ってやる」
   「取るとは・・・このペンギンを?」
   「そうだ、でとったらお前にやるよ」
   「ほ、本当か、本当に良いのか?」
    京太郎の言葉が信じられないといった様子の衣、自身が何度も挑戦してあきらめかけていたので、すぐに信じるとはいかないようだ。
   「任せとけ」
    自信満々な様子の京太郎だが、別段UFOキャッチャーが得意という訳ではないが、何度かやって幾つか商品をゲットしたことはある。
    確証はないものの、一度決めた以上は後には引けない状況が出来上がっていた。

    五分後、クレーンが巨大ペンギンと書かれた紙の入った紙の書かれたカプセルをしっかりとつかみ、そのまま持ち上げる。
   「おし、そのまま・・そのままいってくれ」
   「おっ・・・おおっ」
    京太郎の願い通り、ゆっくりとクレーンは出口に向かい・・・そして。
    クレーンが開くとカコンと音がして、商品出口からカプセルが出てきた。
   「よし、ああ、ちょっと!」
    カプセルを取り出した京太郎は近くの店員を呼んで、それを見せる。
   「おめでとうございます・・・・・こちらが商品になります」
    店員はマニュアル通りの、あまり感情のこもっていない祝福の言葉を述べつつ、巨大エドペンの入ったケースを開ける。
   「おお、おおおっ!」
    ケース越しではない巨大エドペンに、歓喜の声上げる衣。
   「それでこちらはどうしましょうか、袋にはお入れしますか?」
   「はい、お願いします」
    さすがにこれをこのままもって帰るのは困難だろうから、袋を頼む京太郎。
    二分ほど経って、梱包された巨大エドペンを店員が持ってきた。
   「こちらになります」
   「どうも、ほら」
    商品を受け取ると、京太郎はすぐに衣にそれを渡す。
   「良いのか、本当に貰っても良いのか?」
    貰えるとは聴いていたものの、本当にもらえるとわかると衣も少し戸惑いを覚える。
   「その衣は今日お前の・・・京太郎の名前を知ったばかりだぞ」
   (まあ俺の名前なんて知らないのは当然だろうし、とはいえ断られたとしてこれをもって帰るのか・・・)
    この大荷物をもって、電車に乗るところを想像する京太郎。
   (嫌だ、それはなんか嫌だ、せめて女子が隣に居れば良いが、一人でこれをもって帰るのはすごく嫌だ)
    知らない人達がひそひそと話すところが想像できてしまい、どうしてもそれを拒否したくなった京太郎、とはいえ衣も簡単に受け取ってくれそうにない・・・。
   (おっ、そうだ)
    窮地の京太郎にある名案が思い浮かんだ。
   「天江は和の友達だろう、俺も和の友達・・みたいなものだから、俺と天江も友達てことで駄目かな?」
    無茶苦茶な理論にも思えるが、あるいは・・・。
   「友達・・京太郎は衣の友達になってくれるのか?」
    友達という言葉に敏感に反応する衣。

   「もちろん、天江が嫌でなければだけどな」
   「い、嫌じゃない、京太郎は衣の友達だ!」
   「おう、だから遠慮せずに、この巨大エドペンを受け取ってくれ」
    友達になることを受け入れた衣に、京太郎は巨大エドペンの入った袋を渡す。
   「わかった・・・・えへへへ」
    凄く嬉しそうな笑いながら衣は巨大エドペンの入った袋を受け取る。
   「喜んでくれ、よかった」
   「感謝感激、ありがとう京太郎」
    ドキン!。
    感謝を述べながら凄く可愛らしい笑顔を見せる衣、その笑顔を見て京太郎の胸が高鳴る。
   (あれ・・・これって、いや、まさか・・・そんな・・・な)
   「うん、どうした京太郎?」
   「あっ、いや、なんでもない・・・というか、それもって帰れるのか?」
    衣とぬいぐるみの大きさを比べると、ほぼ同じサイズであることに今更ながら気がついた京太郎。
   「当たり前で、この程度・・とと・・とと・・よっと・・・とと」
    巨大エドペンをなんとか持ちあげたが、大きさと重さのためか衣の足はふらついて、見ていて分かりやほど危なっかしい。
   「はぁ・・・仕方ないな、ほれ、家まで持っていてやるよ」
    衣から巨大エドペンの入った袋を取り上げて、背中に担ぐ京太郎。
   「良いのか?」
   「良いって」
   (さすがにこのまま帰るのも気が引けるし)
    このまま事故にでもあったら、目覚めが悪い等と言うレベルではすまなくなるだろう。
   「何から何まで至れり尽くせりだ、ありがとう京太郎」
   「良いって、で天江の家ってどっちなんだ?」
   「衣だ」
   「えっ?」
   「衣は京太郎のことは京太郎と呼んでいる、だから京太郎も衣のことは衣と呼ぶがいい」
   「でも、良いのか?」
    知り合っていきなり一つ下の異性に、呼び捨てにされる事に抵抗はないのだろうか、などと柄にもない事を考えつつも一応尋ねる京太郎。
   「京太郎は衣の友達だろう、だから許す」
   (本人が良いといっているのだから、無下にするのもなんだし・・・)
   「わかった、じゃあ衣の家まで案内してくれるか?」
   「もちろん、こっちだ」
    こうして京太郎は巨大エドペンを抱えつつ、衣の家に行くことになった。

   「ここが、衣の部屋だ」
   「へ、部屋って・・おい・・・これがか・・・?」
    そこそこ大きな門(衣曰く裏門らしい)に広い庭、それだけでもかなり驚いていたが、案内された衣の部屋を見て京太郎はさらに驚愕した、
   そこにあったのは部屋とは名ばかりの大きな建物、よくお城の様なとは表現されるが、衣が部屋と指差した建物は実際のお城だった。
   「おかえりなさいませ衣様」
   「うぉっ!?」
   「ハギヨシか、今帰ったぞ」
    突然出現した執事に声を上げて驚く京太郎、衣は慣れているのか至って普通に帰ってきたことを知らせる。
   「大変失礼なのですか、あなた様は?」
   (ああ、そりゃ怪しいよなこんな大荷物抱えていれば・・・)
   「京太郎だ、衣の友達だぞ、この大きなぬいぐるみをプレゼントしてくれた上に運んでくれたんだ」
    緊張している京太郎の代わりに、衣がハギヨシに京太郎のことを紹介する。
   「清澄高校一年、麻雀部の須賀京太郎です、よろしくお願いします」
    そこまで畏まる必要は無いのだろうが、なぜかじっとハギヨシに見られていると緊張してしまいそんな態度をとってしまう京太郎。
   「そうですか、衣様のお友達で、それは大変失礼をいたしました」
    ぺこりと丁寧に頭を下げるハギヨシ。
   「いや、良いんです、俺はただこれを持ってきただけですから、すぐに帰りますんで」

   「えっ・・・京太郎もう帰るのか?」
    京太郎の帰るという言葉に、衣が落胆の表情を浮かべる・・・優秀な執事である、ハギヨシはそれを見逃さなかった。
   「すみませんが、須賀様はこの後何かご予定がおありでしょうか?」
   「い、いえ、何も」
   「では是非お茶を飲んでいってはくださいませんか、衣様のお友達を、しかも荷物まで運んでいただいて、ただ帰したのでは龍門渕の名折れですので、どうかお願いします」
    さすがにここまで頼み込まれたら、すぐさま帰るということは京太郎には出来なかった、それにこの後用事が無いの本当の事。
   「わかりました、それじゃあお茶だけでも」
   「ありがとうございます、それでは衣様、須賀様とご一緒にお茶の時間にされてはいかがでしょうか?」
   「おおっ、京太郎に一緒におやつか、それは良い」
   「それでは後で、お持ちいたしますのでお部屋でお待ちください」
   「うん、頼む」
   「では」
    最後一言に断りを入れて、ハギヨシは何処かへと消えて行った。
   「よくわからんが、凄いな龍門渕は」
   「何をしている、こっちだ京太郎!」
   「あっ、ああ」
    扉を開けて手招きする衣、それに招かれるまま京太郎は龍門渕の別館の扉を潜った。

   「はぁ~~~」
    見かけに違わず、館内もまた大きく感心したが、衣がメインで使っているであろう部屋に物はあまり無く、
   だだっ広い部屋にベッドにテーブルと椅子に全自動の麻雀台、それと大小さまざまなぬいぐるみが置かれていた、
   だがそれだけ通ってきた廊下とは違い、あまり調度品らしきものは置かれていない。
   「ふふ~ん、ペンギンだ~ペンギンだ~」
    部屋に入ると衣はさっそく京太郎から巨大エドペンを受け取って、袋から出してぎゅっと抱きしめる。
   「ふかふかもふもふ、ふかふかもふもふ」
    楽しそうに巨大エドペンにじゃれ付く衣。
   「それって、ただのペンギンじゃなくて、エドペンだろ」
   「エドペン、こいつはエドペンという名前なのか?」
   「確か前に和がそんなことを言っていた気が・・・」
   「そうか、こいつは原村ののかのエドペンの友達なんだな?」
   「まあ、そうなんじゃないか?」
    エドペンが何匹もいるのか、当然京太郎は知らないので適当な答えだが、衣はそれを聞いて満足そうに笑い。
   「じゃあお前は、今日から大エドペンだ」
    巨大エドペンに名前を付けた。
   「だいエドペンね」
   「よろしくな大エドペン」
    名前をつけて、さらに愛おしいそうにぎゅっと大エドペンを抱きしめる衣。
    そんな無邪気な楽しそうに笑う衣を見て、京太郎も胸が少し温かくなるのを感じた。
   「・・・思いつきだけど、プレゼントしてよかったな・・・」
    そんな言葉を零しながら。

    龍門渕高校、衣と同じく麻雀部の一員である国広一は、同じく麻雀部で龍門渕高校の理事長の孫である龍門渕透華の専属メイドだ、だからこの屋敷内では当然メイド服で過ごしている。
    そんな一が衣の部屋がある別館にやってくると、廊下に居るハギヨシを発見した。
   「あっ、ハギヨシ、衣もう帰っている?」
   「はい、お部屋でおくつろぎですが、何か御用でしょうか?」
   「うん、折角だから透華達が一緒にお茶しないかって、どうかな?」
   「そうですね・・・」
    一は透華に頼まれて衣を呼びに来たのだが、ハギヨシは少し考えこむ。
   「どうしたの、もしかしてお昼寝しているとか?」
   「いえ、そうではなくて、今衣様はお友達とお茶をしていらっしゃいますので」
   「えっ、衣が友達連れてきたの!?」

    ハギヨシの言葉に驚く一、あの地区大会団体決勝戦の後で衣の心境に変化があり、
   態度がだいぶ柔らかくなったが、自分達龍門渕のメンバー以外の人間をこの邸に呼ぶのは一の知る限りでは初めてである。
   「ど、どんな子、どうしよう挨拶した方いいかな、あっでも今ボクメイドだし、いやそれよりも透華に知らせるべきかな」
   「そうですね、聞いた限りでは学年は衣様より一つ下だそうですが」
   「そっか、ちょっと気になるな、どんな女の子だろう・・・ちょっと覗いちゃおう」
    扉をほんの少し開けて、衣の部屋を覗き込む一。
   「あっ、いえ、女性ではなく・・」
   「えっ・・・ええっふぐぅ!?」
    覗きこんで京太郎の姿が見えた瞬間、叫び上がりそうになった一・・しかし叫び声は響かない、なぜならばハギヨシが間一髪のところで一の口を塞いだからだ。
   「あまり五月蝿くされますと、衣様とお友達に気づかれてしまいますよ」
   「・・・(うん、うん)」
    こくこくと声が出せないので、頷いて返事をする一。
   「失礼しました」
    一の口から手を離すハギヨシ、自由になった一はと言うと。
   「こ、衣が男の子を連れてくるなんて・・・・と、とにかくボク透華に知らせてくるね」
    そういい残して、一は邸を飛び出して透華達の待つところに向かった。

   「大変大変たいへん・・たいへんたいへん・・」
    一はぶつぶつと呟きながら廊下を走り、勢いよく扉を開けて部屋の中に飛び込んで叫ぶ。
   「へんたい、透華!」
   「ぶぅぅぅ!」
   「きゃぁ!?」
   「おっ、汚ぇな・・・」
    一が入ってきたかと思えば、同時に自分が変態呼ばわりされたのに驚き、透華は口に含んだ紅茶を噴出して横に居たメイドの歩の顔面を汚してしまった。
   「だ、誰が変態ですか!?」
   「あっ、ごめん、間違えた大変だった」
   「いや、案外外れてないんじゃないか?」
   「そうかもしれませんね」
    茶々を入れるのは麻雀部の井上純と沢村智樹だ。
   「誰がですか、たくぅもう失礼な方々ばかりで・・・・ごめんなさいね、歩」
    紅茶を吹きかけてしまった、メイドに謝罪を述べる透華。
   「い、いえ、お嬢様のお口に含まれたものなら・・・別に、あっいえお嬢様はお気になさらないでください」
    ハンカチで顔を拭う歩だったが、その表情はどこか嬉しそうに頬を染めていた。
   「そう、なら良いのだけど・・・」
    さきほどの前半部分は小声だったためか、どうやら透華には聞こえなかったようだ。
   「・・・変態はこいつだったか」
    だが純にはしっかり聞こえていたようだ。
   「それで、何が大変ですの一、というか衣は居ましたの?」
   「うん、居るには居たんだけど、その衣が大変なんだよ、衣が友達を連れてきたんだ!」
   「あら、衣がお友達をあの邸に、それはおめでたいことじゃありませんか」
   「そうか、衣がな・・・あいつも変わったよな」
   「いい傾向だと思います」
   「大変喜ばしいですね」
    一の報告に、驚いてはいるがそれは好意的な驚きで、皆衣の友達が遊びに来たことに喜んでいた、一以外は。
   「しかし衣のお友達となると、後で私が挨拶をしにいかなければなりませんわね」
   「そうか、まあ見たい気持ちはわかるが、あんまり仰々しいのも相手を引かせるだけじゃないか?」
   「一声あいさつをするだけですわ」
   「ならいいが、まあ俺も後で見に行くかな、衣がどんな奴を連れてきたか」
   「野次馬根性はおよしなさい」
   「まあ、そういうなって」
    楽しげに衣の友達を想像し話しながら、紅茶を飲む透華と純。
   「それが・・連れてきたのが一学年下の男の子なんだけど」
   「ぶぅぅぅぅ!!」「ぶっ!!」

   「きゃぁ!?」
    一の言葉に、透華と純が同時に紅茶を噴出す、透華が噴出したお茶は再び歩を汚し、純はテーブルを汚す結果になった。
   「げほげほ・・・ほほほ、本当ですの!?」
   「ごほぉ・・本当に連れてきたの男なのか!?」
    息を整えながら、信じられないと言った顔の透華と純、だけではなく智樹や紅茶を吹きかけられた歩も呆然とした表情で一を見ていた。
   「うん、本当だよ、ちゃんと見てきたから」
   「純みたいに、限りなく男に近い女ではないの?」
   「誰が限りなく男に近いだ、俺はどこからどう見ても女だ!」
    純から上がる抗議の声を、平然と無視する透華。
   「それで、どうですの?」
   「間違えないよ、ハギヨシも衣の一学年下の男だって言っていたし、見たけど確かに男の人だったし」
    一も最初はわが目を疑ったが、見紛う事なく衣の部屋に居たのは男だった。
   「こ、こうしちゃ居られませんわ、行きますわよ!」
   「おう!」
   「うん」
   「そ、そうですね、どのような殿方か見ませんと」
    透華達は全員で、衣の居る別館に向かった。

    一方の衣の部屋。
    京太郎と衣は向かい合って座り、それぞれ緑茶と芋羊羹を食べていた。
   「う~ん、まさかこんな邸で緑茶を飲むとな・・」
   「京太郎は紅茶か珈琲のほうが良かったか?」
   「いや、この緑茶もうまいし特に文句は無いが、なんとなくこう言う邸には紅茶か珈琲っていうイメージが、まあ芋羊羹なら緑茶だと思うが」
   「そうだ、和菓子には日本茶が良く合う」
   「天江は和菓子が好きなのか?」
   「違うぞ、衣だ」
    苗字で呼ばれて、頬を膨らまして不満げな表情を露にする衣。
   「ああ、悪い、衣は和菓子が好きなのか?」
    ちゃんと名前を呼ばれると、衣から不満げな表情は消えて、京太郎の質問に答える。
   「うむ、洋菓子も好きだが、和菓子の方が好きだな、母君がおやつによく買ってきてくれた」
    懐かしそうに語る衣を見て、京太郎の脳裏にある疑問が浮かぶ、京太郎はその疑問を素直に口にした。
   「衣の両親って・」
   「死んだ、事故でな」
    何をしているのか、京太郎の言葉はそう続くはずだったが、衣の答えに沈黙した。
   (こいつも・・・苦労しているんだな・・・・)
   「悪い」
   「いや良い、辛くないわけではないが、もうなれた・・・」
    それでも衣の雰囲気は沈んだままだ、なんとか話を逸らそうと京太郎は普段は考えないほど考え込む・・・そして、あることを思い出した。
   「な、なぁ、衣って饅頭は好きか?」
   「饅頭、好物の一つだが」
   「そうか、清澄高校の近くに美味い焼き饅頭の店があるんだ」
   「焼き饅頭とな、興味津々、それはそんなに美味いのか?」
   「ああ、かなり美味いぞ、どうだ、今度一緒に行かないか?」
   「一緒に行ってくれるのか?」
   「もちろん、どうせなら友達と一緒に食ったほうが美味いだろう」
   「うむ、確かに皆で食べる食事やおやつは格別だ」
   「じゃあ、約束だ」
   「おお、指きりだな」
    京太郎は衣に向かい小指を差し出す、何をしたいのかわかった衣も自分の小指を京太郎の小指に絡めた。
   『指きりげんまん~』
    いつの間にか、衣の沈んだ雰囲気はどこかへと消えていた。
    
    そして衣の部屋の外では、透華達が全員で隙間から衣の部屋を覗き込んでいた。

   「あれが、衣がつれてきた男性ですの?」
   「なんだ、あんまりいい男に見えないが、衣はああいうのが好みなのか?」
   「いや、好みじゃなくて、単に友達らしけど・・・でも、あの人どこかで見覚えがあるんだけど、確かみんな居た気がするけど・・・何処だっけ?」
   「一の勘違いでなくて、私は覚えがありませんわ」
   「俺も無いな・・」
   「私も見覚えがある・・・けど思い出せない」
   「ううっ、よく見えません」
    部屋を覗き込みながら、好き勝手なことを言い合う龍門渕麻雀部のメンバー。
   「一と智樹が覚えているのなら何処かであったかも知れませんわね、ハギヨシ」
   「はい、ここに」
    透華が呼ぶと、どこに隠れていたのかハギヨシが突然姿を現した。
   「あの人について、知っていることを全て話してちょうだい」
   「はい、衣様がお友達だと紹介してくださり、清澄高校一年で須賀京太郎様と名乗っておいででした」
    京太郎に聞いた情報をそのまま、透華に伝えるハギヨシ・・・だが。
   「清澄・・・清澄ってあの原村和が居る、あの清澄ですの!?」
    透華が反応を示したのは、京太郎の名前よりもむしろ高校のほうだった。
   「おそらくはその清澄かと」
   「ああ、そうか、前にプールで清澄に会ったときに居た男の子だ!」
   「そうですね、確かに・・・」
   「えっ~居たか、そんな奴」
    一と智樹はハギヨシの言葉で思い出したようだが、純と和の事を考えている透華は思い出せないようだ。
   「透華も兎に角、今はのどっちの事よりもあの須賀君・・だったけの事を考えないと」
   「お、おほん、そうでしたわね、それで衣のお友達だから通したんですわよね?」
    一に言われて、少し落ち着きを取り戻した透華がハギヨシに尋ねる。
   「はい、衣様がお友達だと紹介なれた上に、衣様に贈り物の巨大なぬいぐるみを持ってきてくださり、しかしそれを置いてそのまま帰ろうとなされたので、
   及び止めをして、この後は特に予定もないとの事で、勝手ながらお茶を振舞わせていただきました」
   「ハギヨシあなたのとった行動は正しいですわ、それで返したら龍門渕の名が廃るというものよ」
    透華に褒められて一礼だけするハギヨシ、透華達は改めて部屋の中を見直す。
   「あ~あれかな、あの巨大なペンギン見たこと無いと思ったら贈り物だったんだ」
   「でけぇな、あれって原村が持っていたぬいぐるみのデカイ版に見えるが」
   「同じ種類のものでは」
   「あら本当、大きいですわね、衣と同じ位かしら」
    透華達が大エドペンに目を奪われていると、歩むが一人別のところを見て声を上げた。
   「あっ、あれ、見てください、衣様があの殿方と凄く可愛らしい笑顔で指きりを」
    歩の言葉に、大エドペンを見ていたはずの全員が衣の方に視線を移す。
   「ええっ、なんですって!?」
   「なぁ、おお、本当だ!」
   「うわぁ~衣凄くかわいい」
   「本当に・・・」
   「重い・・も、もう駄目・・」
    一番下で、みんなに潰されてヒキガエルのような声で鳴く歩であった。
    
   「ふふ~ん、約束だぞ努々忘れる事なかれ」
   「わかっているって、それじゃあいついくかだけど・・」
    細かい日時を決めようとした京太郎だが、そこに突然バタンと扉が開き。
   「きゃぁ!?」「うぉ!?」「へぇ!?」「あっ!?」「うきゅ!?」
    衣を除く龍門渕の麻雀部のメンバーとメイドが一名なだれ込んできた。
   「な、なんだ!?」
   「透華、純、一、智樹、歩、どうしたのだ?」
    突然のことに驚き、京太郎と衣も何事かと様子を見に来る。
   「お嬢様、お手をどうぞ」
   「っっっっ、もう・・皆さん野次馬根性を出しすぎですわよ」
    ハギヨシの手を取りながら、自分のことを棚にあげて文句を言う透華。
   「っぅ~透華にだけは言われたくないな」

   「いたぁ~・・・と、透華大丈夫?」
   「・・・・」
   「うきゅ~~~」
    透華以外のほかの面々(伸びている歩は除く)も次々に立ち上がる。
   「えっ~と、確かに全員龍門渕の麻雀部の人ですよね?」
    いきなり奇抜な登場の仕方をした相手に、京太郎は恐る恐る尋ねてみる。
   「その通り、私が龍門渕透華、龍門渕透華ですわ、以後見知りおくが良いですわ、ほほほほ」
   「は、はぁ・・」
    なぜか自信満々に笑いながら名乗る透華。
   「あっ~先鋒の井上純だ、よろしくな」
   「次鋒の沢村智樹」
   「ボクは中堅だった、国広一だけど覚えているかな、あっそこで伸びているのは歩ってメイドだから気にしないで」
   「はい、どうも清澄高校一年、麻雀部の須賀京太郎です」
    全員名乗ったので京太郎も名乗り軽く会釈した。
    「君って確か前にプールで会ったときに居たよね?」
   「あっ、は、はい、俺も麻雀部員なんで一応」
   「やっぱり」
   「ああっ~そういえば居ましたわね」
   「いや、お前は絶対覚えてないだろう」
    適当な事を言う透華に小声でつっこみいれる純。
   「それはそうと、須賀さんでしたかしら、衣のお友達だそうだけど」
   「あっ、はい」
   「おお、そうだ紹介が遅れたな京太郎、ここに居る皆も衣の大切な友達だ、皆こいつが京太郎だ、新しく出来た衣の友達だぞ」
    衣が改めて京太郎と透華達を交互に紹介する。
   「・・・・・・」
    上から下へそしてまた上へと、隅々までじぃぃっと京太郎を見る透花。
   「えっ、えっ~と・・・」
   「透華、そんなに見たら須賀君に失礼だよ」
   「黙らっしゃい、もし悪い虫ならどうするんですの・・・衣に悪い虫がついたら・・ついたら・・・あっ~」
    一の注意も意に介さず、透華は勝手な妄想で京太郎をぎろりと睨み付ける。
   「ああ、なると無理だろうな・・・」
   「そうですね」
    純と智樹は透華を止める気も無くあきらめ気味だ。
   「え、えっ~と・・・」
    透華に睨み付けられてどうすれば良いのか悩む京太郎、しかし助けてくれそうな人は居らず、
   とはいえ衣に助けを求めて話がさらにややこしくなりそうだし、と色々考えて何か無いかと部屋を見回す京太郎、そこで目に留まったのは・・。
   「そうだ、麻雀打ちませんか」
   「えっ?」×5
    京太郎の言葉にその場に居た(ハギヨシと気絶している歩は除く)声を上げる。
   「だ、駄目ですか?」
    別に京太郎は挑発するつもりなど微塵も無い、龍門渕のメンバーがかなり強いということはわかっている、だがあのまま透華に睨み付けられているよりはましだと考えた。
    透華、一、純、智樹は小声で話し始める。
   「お、おい、どういうことだ、俺たちに戦いを挑むって事は相当自信があるのか?」
   「わかりません」
   「う~ん、強そうに見えないけど」
   「わかりませんわ、わかりませんが、挑まれた勝負を逃げてはこの龍門渕透華の名がすたりますわ」
    あれを挑発と受け取ったのか透華はすこぶるやる気だ。
   「いや、しかし、ほれ衣の相手をさせるのは・・・」
   「そうだね・・・」
   「それは・・そうですけど・・・」
    一と純は麻雀における衣の特殊な能力を心配しており、透華もそれは気にしているようだが・・・・。
   「京太郎・・・京太郎は麻雀強いのか?」
   「いや、弱いけど、咲達とはよく打っているぞ」

    衣の質問に素直に答える京太郎。
   「おい、自分で弱いって言っているぞ」
   「謙遜の可能性も」
   「う~ん、本当に弱いって事も・・・」
    京太郎の言葉にますます混乱する一達。
   「でも折角、麻雀できる奴が揃っていて、それに麻雀卓もあるんだからどうかなって、衣もどうだ?」
   「えっ、こ、衣もいいのか?」
   「当たり前だろう、それとも麻雀打つのは嫌か?」
   「嫌ではないが・・・」
    自分が麻雀を打ったことで、離れていった人のことを思い出したのか衣は苦い表情をする。
   「なら良いだろう」
   「わかった・・・やろう」
    京太郎に説得されて、衣は渋々ながらやる気になったようだ。
    そしてこの返事により、龍門渕の他のメンバーの答えも決まった。
   「衣がやると言ったのなら、やらないわけにはいきませんわね」
   「わかった、ボクも入るよ」
   「しゃあないな・・・」
   「そうですね」
    こうして京太郎と龍門渕高校麻雀部との麻雀が始まった。

    そして・・。
   「ぐはぁ・・」
    見事にぶっ飛ぶ京太郎の姿がそこにはあった。
   「本当に弱いですわね」「弱いね」「弱いな」「弱い」
   「・・・弱いぞ」
    想像より弱かったのか次々に弱いと口にする、龍門渕のメンバー。
   「うっ、事実だがそうはっきりと言われると・・・」
   「あっ・・」
    さすがに少し落ち込む京太郎、それを見て今までの事を思い出したのか衣が悲しそうな表情をする、今までこうやって衣と麻雀を打ち人が離れていった、あるいは京太郎もとそんな悲観的な想像が衣の脳裏によぎる・・・だが。
   「えっ~い、もう一回だ!」
   「なぁ!?」×4
   「えっ?」
    京太郎の言葉に驚く龍門渕メンバーが声を上げた、そして衣もまた信じられないと言った表情で京太郎を見た。
   「な、なんだ、やっぱり弱いから駄目かな?」
   「い、いえ・・・そうではなくて」
   「京太郎は・・・衣が怖くないのか?」
    恐る恐る疑問を口にする衣、そして他の面々もそれを重苦しい雰囲気で黙って見つめていた、だが当の京太郎はというと。
   「へぇ、なんでだ?」
    まったく気にした様子もない。
   「なんでって、その・・・須賀君が一人負けなんだけど・・・」
    トータルの結果を見れば、衣の圧勝、透華と一は飛びこそしないもののかなり得点に差がついていた。
   「う~~ん、でもいつも咲達と打っていたらほとんど勝てないからな、負けるのには慣れているから、特に気にならないけど・・・」
   「慣れていると気にならないものか・・・」
   「いや、そりゃ負けるのは悔しいけど」
    さすがに京太郎も、負けなれているとは言え多少は悔しいという感情があるようだ。
   「衣が麻雀を打つと、皆が皆・・・怖がる衣の特殊な力に・・・」
   「っても、咲もかなり変わっているからな」
    嶺上牌が必ず有効牌なるなど特殊能力以外の何ものでもない、それを見慣れている京太郎は衣の能力も特に気にならないようだ。
   「咲・・・清澄の大将か、確かに不思議な・・・衣の感覚を上回る、打ち手だったな」
   「それによ、こうやって話しながら麻雀打っているだけでも楽しくないか?」
   「楽しい・・・楽しいのか?」
   「ああ、確かに勝ったほうがうれしいけど、こうやってみんなでわいわい言いながら打つのも麻雀の醍醐味だろう」
   「醍醐味か・・・衣は相手を倒すのみの麻雀しか打ってこなかったし、
   確かにあの大将戦の時は楽しいと思ったが・・・あの時ともまた違う、そうか・・・こう言う麻雀もあるのか」
   「だからもう一回打たないか?」
   「うん、打とう、もう一回楽しい麻雀を」
    京太郎の呼びかけに、とても嬉しそうに笑う衣。
    その笑顔を見ていた透華、一も笑った。
   「衣・・・そうですわね、一度といわず何度でも付き合いますわよ」
   「うん、ボクも何回でも付き合うよ」
   「よし、だけど次は俺も勝ちにいくぞ」
   「あら、次こそ私がトップに決まっていますわ」
   「ボクも負けないよ」
   「遊びとはいえ、衣もただで負ける気はないぞ」

最終更新:2011年08月06日 04:04