甘い衣 京太郎×衣 衣の人


「さて、どうすっか」
 駅に降り立ってそう呟いたのは須賀京太郎、清澄高校唯一の男子部員だ。
 土曜日、授業も無くそれでも本来ならば麻雀部の活動があるのだが、今日は武井久が生徒会の用事があり、染谷まこも実家の手伝いがあるので、部活は休みになった。
「う~~ん、最近麻雀部に入りびたりだったからな」
 一日寝て過ごす、というのも考えたが母親に無理やり起こされ、家にいるのもなんなので、最寄りの駅から数駅の少しは遊ぶ場所のある所に来たのだが、それ以上はなんの計画も無く、途方にくれていた。
「・・・・」
 駅前でぽつりぽつりと見えるは、仲良さそうに歩くカップルの姿。
「くっそ~~~俺も恋人が居りゃあなあ」
 京太郎の脳裏に同じ部活の原村和の姿が浮かんだ。

「京太郎さ~ん」
 たわわな胸を揺らしながら、待ち合わせの場所に走ってくる和。
「はぁ、はぁ、すみません、お待たせしてしまって」
 切らせていた息を整える間も、魅力的な胸が揺れていた。
「いや、俺も今来たところだから」
 実は一時間近く待っていたが、そんなことは大して気にならない。
「良かった・・・それじゃあ行きましょうか」
 安堵の息を漏らした和は少し考えてから、京太郎の腕で自分の腕を絡めてくる、むにゅと柔らかくでも少し弾力のある和の胸が肘に当たり、京太郎に至福の瞬間に包まれる。
「あの・・・だめでしたか?」
「いや、良い、全然良い!」
「よかった、それじゃあ行きましょうか」
「お、おう」
 こうして二人のデートが始まる。

「でへでへ・・・・はぁぁぁ」
 妄想を膨らませていた京太郎だが、現実との差を肌で感じると虚しくなり大きなため息をつく。
 いつものならこの辺りで、片岡優希が絡んでくるが今日は一人なのでそれもない、それがさらに虚しくなる。
「止めだ止め、ゲーセンにでも行くか」
 虚しくなって落ち込んだ気分を変えるために、京太郎は近くにあるゲームセンターに移動するのだった。

「うん?」
 ゲームセンターについて店内に入ろうとした京太郎だったが、入り口にある物に目が止まり足を止めた。
「これって、あれだよな・・和が持っていた確かエドペンだっけ?」
 そこにあったのは、和が大局中に抱いていたペンギンのぬいぐるみの巨大なバージョン、1メートル少しあろうかというほどの物がケースに入っており、
どうやらその隣にあるUFOキャッチャーで巨大ペンギンと書かれた紙が入ったカプセルを取ると、この巨大なエドペンがもらえるようだ。
「これをやったら和も俺のことを・・・・無いか」
 これをプレゼントしても付き合えるとは思えないし、それにこのサイズでは下手をすれば迷惑がられる可能性も。
「まあ、話題程度にはなるかも知れないな」
 そう思い京太郎は携帯のカメラでその巨大エドペンを撮影する・・・と。
「うん?」
 撮影した瞬間に、何か赤い布がカメラの下の方を横切った。
 何かと思いその布の下を見ると、そこに居たのは長いうさぎの耳のようなカチューシャをした、一見すれば人形と見紛うばかりの美少女、そしてその少女に京太郎は見覚えが有る、というか前に会っていたので、思わず少女の名前を口にした。
「天江衣?」
「うん?」
 自分の名前を呼ばれた衣は、振り返って自分の名前を呼んだと思しき京太郎をじっと見つめる。
「おっ、あっ、えっ~と・・・」
 呼びかけたつもりも無く、思わず出た言葉に反応をされて少し焦る京太郎。
「衣は確かに天江衣だが、お前は誰だ?」
 怪しんでいる感じではない、衣はただ不思議そうに首を捻っているだけ。
(まあ当然か、いきなり自分の名前を知らない奴に呼ばれたら、そんな反応もするよな・・・)
「衣呼んだのは、お前ではないのか?」
「あっ、いや、俺だ」
 このまま無視するのもなんなのと、呼んでしまったのは自分であると言う点から、京太郎は素直に答えた。
「お前、どこかで会ったか?」
 まあ衣が覚えていないのは無理も無いだろう、なにせ京太郎が衣と会ったのは一度だけ、しかもその時に衣が話したのは、友達になった和と大将戦を戦った咲だけなのだから、名乗ってすらいない京太郎の事を覚えている方が奇跡に近い。
「覚えてはいないだろうけど、この前にプールで会っただろう、一応咲や・・お前と大将戦を戦った宮永咲と原村和と一緒に居たんだけど」
 覚えているはずが無いと思いつつも、京太郎は一縷の望みを託し覚えている可能性の高い咲と和を交えて説明をする。
「プール・・・はらむらののか・・・おおっ!」
 何かを思い出して声を上げる衣、よもやの事に京太郎も驚く。
「思い出したのか?」
「ああ、今思い出した、はらむらののかと、清澄の大将とあとちっこいのと、もう一人いたな、確かにお前だった気がするぞ」
「おお、凄いな」
「当然だ」
 衣の記憶力に素直に感心する京太郎、褒められた衣は小さな胸を精一杯誇らしげに張る。
「それで名前は・・名前は・・・」
 誇らしかったのもつかの間、また考え込んでしまう衣、しかしそれが思い出せるはずもない、なぜならば京太郎は名乗ってすらいないのだから。
「ああ、いい、良いんだ、それだけ思い出してくれれば良い、前には名乗れなかったが、清澄高校一年の須賀京太郎だ、咲達と同じく麻雀部な」
「すか・・きょたろう?」
「須賀だけど・・まあいいか、きょうたろうだ」
 間違っているので訂正する京太郎だったが。
「きょたろう?」
「きょうたろう」
「きょたろう?」
 言いにくそうな衣を見ながら、そういえば和もののかって言っていたなと思いつつ、一瞬諦めそうになる京太郎だが、なんとか訂正しようと間違えている部分だけを強調して。
「きょう・・・たろう」
「きょう・・・たろう?」
「そうだ、続けて」
「きょう・・たろう、きょう・たろう、きょうたろう・・京太郎!」
「おう、そうだ、京太郎」
 根気よく続けて結果、ちゃんと京太郎の名前を言えた衣。
「京太郎、もう覚えたぞ、ふふ~ん!」
「そうだ、偉いぞ」
 ちゃんと言えた事で自慢げに笑う衣を見て、京太郎は自分まで嬉しくなり、自然に衣の頭に手を伸ばしてごしごしと撫ぜる。
「うっ・・こら、頭を撫ぜるな、衣のほうが年上なんだぞ!」
「おっと、悪い悪いついな」
 見た目だけなら、どう見ても・・だが、こう見えても衣は京太郎のひとつ上なのだ。
「ううっ、それで今日は原村ののかは居ないのか?」
「えっ、ああ、今日は俺一人なんだけど」
「そうか・・・いないのか・・・」
 それを聞いた衣は非常に残念そうな表情で肩を落とした。
(まずいこといったか、けど居ないのは本当だし・・)
 なんとか話を逸らす方法を考える京太郎の視線に、先ほどの巨大エドペンが目に留まった。
「そ、そういえば、さっきこれ見ていたみたいだけど」
「うん・・・ああ、それか、原村ののかの持っていたペンギンに似ているなって思って」
 どうやら衣また、これを見て和の事を思い出していたらしい。
(って、そんなこと聞いたら、余計に落ち込むんじゃ・・・)
 だが京太郎の予想とは違い、衣は黙ってじっと巨大エドペンを眺めていた・・・ただじっとそしてその視線から読み取れるのは。
「もしかして、これ欲しいのか?」
「えっ?」
 まるで子供の様に(見た目的には十分に子供だが)物欲しげにエドペンを見る衣に、京太郎は思い切って尋ねてみた。
「いや、なんか欲しそうにしている気がしたからさ」
「渇望はする・・だが、これは衣では手が届かぬ存在だ」
「手が届かないって、そんなことは無いだろう、挑戦すれば」
「いや、獅子奮迅、何度挑戦しようとも、手に入れること叶わず」
 京太郎にもようやく理解できた、衣は何度もUFOキャッチャーに挑戦してはみたが、この巨大エドペンを手に入れることはできなかったのだろう。
 さきほど衣をがっかりさせてしまった京太郎、別に京太郎の責任ではないがなんとなく後ろめたく感じていたので、今の衣を見てある決意をした。
「よし、俺が取ってやる」
「取るとは・・・このペンギンを?」
「そうだ、でとったらお前にやるよ」
「ほ、本当か、本当に良いのか?」
 京太郎の言葉が信じられないといった様子の衣、自身が何度も挑戦してあきらめかけていたので、すぐに信じるとはいかないようだ。
「任せとけ」
 自信満々な様子の京太郎だが、別段UFOキャッチャーが得意という訳ではないが、何度かやって幾つか商品をゲットしたことはある。
 確証はないものの、一度決めた以上は後には引けない状況が出来上がっていた。

 五分後、クレーンが巨大ペンギンと書かれた紙の入った紙の書かれたカプセルをしっかりとつかみ、そのまま持ち上げる。
「おし、そのまま・・そのままいってくれ」
「おっ・・・おおっ」
 京太郎の願い通り、ゆっくりとクレーンは出口に向かい・・・そして。
 クレーンが開くとカコンと音がして、商品出口からカプセルが出てきた。
「よし、ああ、ちょっと!」
 カプセルを取り出した京太郎は近くの店員を呼んで、それを見せる。
「おめでとうございます・・・・・こちらが商品になります」
 店員はマニュアル通りの、あまり感情のこもっていない祝福の言葉を述べつつ、巨大エドペンの入ったケースを開ける。
「おお、おおおっ!」
 ケース越しではない巨大エドペンに、歓喜の声上げる衣。
「それでこちらはどうしましょうか、袋にはお入れしますか?」
「はい、お願いします」
 さすがにこれをこのままもって帰るのは困難だろうから、袋を頼む京太郎。
 二分ほど経って、梱包された巨大エドペンを店員が持ってきた。
「こちらになります」
「どうも、ほら」
 商品を受け取ると、京太郎はすぐに衣にそれを渡す。
「良いのか、本当に貰っても良いのか?」
 貰えるとは聴いていたものの、本当にもらえるとわかると衣も少し戸惑いを覚える。
「その衣は今日お前の・・・京太郎の名前を知ったばかりだぞ」
(まあ俺の名前なんて知らないのは当然だろうし、とはいえ断られたとしてこれをもって帰るのか・・・)
 この大荷物をもって、電車に乗るところを想像する京太郎。
(嫌だ、それはなんか嫌だ、せめて女子が隣に居れば良いが、一人でこれをもって帰るのはすごく嫌だ)
 知らない人達がひそひそと話すところが想像できてしまい、どうしてもそれを拒否したくなった京太郎、とはいえ衣も簡単に受け取ってくれそうにない・・・。
(おっ、そうだ)
 窮地の京太郎にある名案が思い浮かんだ。
「天江は和の友達だろう、俺も和の友達・・みたいなものだから、俺と天江も友達てことで駄目かな?」
 無茶苦茶な理論にも思えるが、あるいは・・・。
「友達・・京太郎は衣の友達になってくれるのか?」
 友達という言葉に敏感に反応する衣。
「もちろん、天江が嫌でなければだけどな」
「い、嫌じゃない、京太郎は衣の友達だ!」
「おう、だから遠慮せずに、この巨大エドペンを受け取ってくれ」
 友達になることを受け入れた衣に、京太郎は巨大エドペンの入った袋を渡す。
「わかった・・・・えへへへ」
 凄く嬉しそうな笑いながら衣は巨大エドペンの入った袋を受け取る。
「喜んでくれ、よかった」
「感謝感激、ありがとう京太郎」
 ドキン!。
 感謝を述べながら凄く可愛らしい笑顔を見せる衣、その笑顔を見て京太郎の胸が高鳴る。
(あれ・・・これって、いや、まさか・・・そんな・・・な)
「うん、どうした京太郎?」
「あっ、いや、なんでもない・・・というか、それもって帰れるのか?」
 衣とぬいぐるみの大きさを比べると、ほぼ同じサイズであることに今更ながら気がついた京太郎。
「当たり前で、この程度・・とと・・とと・・よっと・・・とと」
 巨大エドペンをなんとか持ちあげたが、大きさと重さのためか衣の足はふらついて、見ていて分かりやほど危なっかしい。
「はぁ・・・仕方ないな、ほれ、家まで持っていてやるよ」
 衣から巨大エドペンの入った袋を取り上げて、背中に担ぐ京太郎。
「良いのか?」
「良いって」
(さすがにこのまま帰るのも気が引けるし)
 このまま事故にでもあったら、目覚めが悪い等と言うレベルではすまなくなるだろう。
「何から何まで至れり尽くせりだ、ありがとう京太郎」
「良いって、で天江の家ってどっちなんだ?」
「衣だ」
「えっ?」
「衣は京太郎のことは京太郎と呼んでいる、だから京太郎も衣のことは衣と呼ぶがいい」
「でも、良いのか?」
 知り合っていきなり一つ下の異性に、呼び捨てにされる事に抵抗はないのだろうか、などと柄にもない事を考えつつも一応尋ねる京太郎。
「京太郎は衣の友達だろう、だから許す」
(本人が良いといっているのだから、無下にするのもなんだし・・・)
「わかった、じゃあ衣の家まで案内してくれるか?」
「もちろん、こっちだ」
 こうして京太郎は巨大エドペンを抱えつつ、衣の家に行くことになった。

「ここが、衣の部屋だ」
「へ、部屋って・・おい・・・これがか・・・?」
 そこそこ大きな門(衣曰く裏門らしい)に広い庭、それだけでもかなり驚いていたが、案内された衣の部屋を見て京太郎はさらに驚愕した、
そこにあったのは部屋とは名ばかりの大きな建物、よくお城の様なとは表現されるが、衣が部屋と指差した建物は実際のお城だった。
「おかえりなさいませ衣様」
「うぉっ!?」
「ハギヨシか、今帰ったぞ」
 突然出現した執事に声を上げて驚く京太郎、衣は慣れているのか至って普通に帰ってきたことを知らせる。
「大変失礼なのですか、あなた様は?」
(ああ、そりゃ怪しいよなこんな大荷物抱えていれば・・・)
「京太郎だ、衣の友達だぞ、この大きなぬいぐるみをプレゼントしてくれた上に運んでくれたんだ」
 緊張している京太郎の代わりに、衣がハギヨシに京太郎のことを紹介する。
「清澄高校一年、麻雀部の須賀京太郎です、よろしくお願いします」
 そこまで畏まる必要は無いのだろうが、なぜかじっとハギヨシに見られていると緊張してしまいそんな態度をとってしまう京太郎。
「そうですか、衣様のお友達で、それは大変失礼をいたしました」
 ぺこりと丁寧に頭を下げるハギヨシ。
「いや、良いんです、俺はただこれを持ってきただけですから、すぐに帰りますんで」
「えっ・・・京太郎もう帰るのか?」
 京太郎の帰るという言葉に、衣が落胆の表情を浮かべる・・・優秀な執事である、ハギヨシはそれを見逃さなかった。
「すみませんが、須賀様はこの後何かご予定がおありでしょうか?」
「い、いえ、何も」
「では是非お茶を飲んでいってはくださいませんか、衣様のお友達を、しかも荷物まで運んでいただいて、ただ帰したのでは龍門渕の名折れですので、どうかお願いします」
 さすがにここまで頼み込まれたら、すぐさま帰るということは京太郎には出来なかった、それにこの後用事が無いの本当の事。
「わかりました、それじゃあお茶だけでも」
「ありがとうございます、それでは衣様、須賀様とご一緒にお茶の時間にされてはいかがでしょうか?」
「おおっ、京太郎に一緒におやつか、それは良い」
「それでは後で、お持ちいたしますのでお部屋でお待ちください」
「うん、頼む」
「では」
 最後一言に断りを入れて、ハギヨシは何処かへと消えて行った。
「よくわからんが、凄いな龍門渕は」
「何をしている、こっちだ京太郎!」
「あっ、ああ」
 扉を開けて手招きする衣、それに招かれるまま京太郎は龍門渕の別館の扉を潜った。

「はぁ~~~」
 見かけに違わず、館内もまた大きく感心したが、衣がメインで使っているであろう部屋に物はあまり無く、
だだっ広い部屋にベッドにテーブルと椅子に全自動の麻雀台、それと大小さまざまなぬいぐるみが置かれていた、
だがそれだけ通ってきた廊下とは違い、あまり調度品らしきものは置かれていない。
「ふふ~ん、ペンギンだ~ペンギンだ~」
 部屋に入ると衣はさっそく京太郎から巨大エドペンを受け取って、袋から出してぎゅっと抱きしめる。
「ふかふかもふもふ、ふかふかもふもふ」
 楽しそうに巨大エドペンにじゃれ付く衣。
「それって、ただのペンギンじゃなくて、エドペンだろ」
「エドペン、こいつはエドペンという名前なのか?」
「確か前に和がそんなことを言っていた気が・・・」
「そうか、こいつは原村ののかのエドペンの友達なんだな?」
「まあ、そうなんじゃないか?」
 エドペンが何匹もいるのか、当然京太郎は知らないので適当な答えだが、衣はそれを聞いて満足そうに笑い。
「じゃあお前は、今日から大エドペンだ」
 巨大エドペンに名前を付けた。
「だいエドペンね」
「よろしくな大エドペン」
 名前をつけて、さらに愛おしいそうにぎゅっと大エドペンを抱きしめる衣。
 そんな無邪気な楽しそうに笑う衣を見て、京太郎も胸が少し温かくなるのを感じた。
「・・・思いつきだけど、プレゼントしてよかったな・・・」
 そんな言葉を零しながら。

 龍門渕高校、衣と同じく麻雀部の一員である国広一は、同じく麻雀部で龍門渕高校の理事長の孫である龍門渕透華の専属メイドだ、だからこの屋敷内では当然メイド服で過ごしている。
 そんな一が衣の部屋がある別館にやってくると、廊下に居るハギヨシを発見した。
「あっ、ハギヨシ、衣もう帰っている?」
「はい、お部屋でおくつろぎですが、何か御用でしょうか?」
「うん、折角だから透華達が一緒にお茶しないかって、どうかな?」
「そうですね・・・」
 一は透華に頼まれて衣を呼びに来たのだが、ハギヨシは少し考えこむ。
「どうしたの、もしかしてお昼寝しているとか?」
「いえ、そうではなくて、今衣様はお友達とお茶をしていらっしゃいますので」
「えっ、衣が友達連れてきたの!?」
 ハギヨシの言葉に驚く一、あの地区大会団体決勝戦の後で衣の心境に変化があり、
態度がだいぶ柔らかくなったが、自分達龍門渕のメンバー以外の人間をこの邸に呼ぶのは一の知る限りでは初めてである。
「ど、どんな子、どうしよう挨拶した方いいかな、あっでも今ボクメイドだし、いやそれよりも透華に知らせるべきかな」
「そうですね、聞いた限りでは学年は衣様より一つ下だそうですが」
「そっか、ちょっと気になるな、どんな女の子だろう・・・ちょっと覗いちゃおう」
 扉をほんの少し開けて、衣の部屋を覗き込む一。
「あっ、いえ、女性ではなく・・」
「えっ・・・ええっふぐぅ!?」
 覗きこんで京太郎の姿が見えた瞬間、叫び上がりそうになった一・・しかし叫び声は響かない、なぜならばハギヨシが間一髪のところで一の口を塞いだからだ。
「あまり五月蝿くされますと、衣様とお友達に気づかれてしまいますよ」
「・・・(うん、うん)」
 こくこくと声が出せないので、頷いて返事をする一。
「失礼しました」
 一の口から手を離すハギヨシ、自由になった一はと言うと。
「こ、衣が男の子を連れてくるなんて・・・・と、とにかくボク透華に知らせてくるね」
 そういい残して、一は邸を飛び出して透華達の待つところに向かった。

「大変大変たいへん・・たいへんたいへん・・」
 一はぶつぶつと呟きながら廊下を走り、勢いよく扉を開けて部屋の中に飛び込んで叫ぶ。
「へんたい、透華!」
「ぶぅぅぅ!」
「きゃぁ!?」
「おっ、汚ぇな・・・」
 一が入ってきたかと思えば、同時に自分が変態呼ばわりされたのに驚き、透華は口に含んだ紅茶を噴出して横に居たメイドの歩の顔面を汚してしまった。
「だ、誰が変態ですか!?」
「あっ、ごめん、間違えた大変だった」
「いや、案外外れてないんじゃないか?」
「そうかもしれませんね」
 茶々を入れるのは麻雀部の井上純と沢村智樹だ。
「誰がですか、たくぅもう失礼な方々ばかりで・・・・ごめんなさいね、歩」
 紅茶を吹きかけてしまった、メイドに謝罪を述べる透華。
「い、いえ、お嬢様のお口に含まれたものなら・・・別に、あっいえお嬢様はお気になさらないでください」
 ハンカチで顔を拭う歩だったが、その表情はどこか嬉しそうに頬を染めていた。
「そう、なら良いのだけど・・・」
 さきほどの前半部分は小声だったためか、どうやら透華には聞こえなかったようだ。
「・・・変態はこいつだったか」
 だが純にはしっかり聞こえていたようだ。
「それで、何が大変ですの一、というか衣は居ましたの?」
「うん、居るには居たんだけど、その衣が大変なんだよ、衣が友達を連れてきたんだ!」
「あら、衣がお友達をあの邸に、それはおめでたいことじゃありませんか」
「そうか、衣がな・・・あいつも変わったよな」
「いい傾向だと思います」
「大変喜ばしいですね」
 一の報告に、驚いてはいるがそれは好意的な驚きで、皆衣の友達が遊びに来たことに喜んでいた、一以外は。
「しかし衣のお友達となると、後で私が挨拶をしにいかなければなりませんわね」
「そうか、まあ見たい気持ちはわかるが、あんまり仰々しいのも相手を引かせるだけじゃないか?」
「一声あいさつをするだけですわ」
「ならいいが、まあ俺も後で見に行くかな、衣がどんな奴を連れてきたか」
「野次馬根性はおよしなさい」
「まあ、そういうなって」
 楽しげに衣の友達を想像し話しながら、紅茶を飲む透華と純。
「それが・・連れてきたのが一学年下の男の子なんだけど」
「ぶぅぅぅぅ!!」「ぶっ!!」
「きゃぁ!?」
 一の言葉に、透華と純が同時に紅茶を噴出す、透華が噴出したお茶は再び歩を汚し、純はテーブルを汚す結果になった。
「げほげほ・・・ほほほ、本当ですの!?」
「ごほぉ・・本当に連れてきたの男なのか!?」
 息を整えながら、信じられないと言った顔の透華と純、だけではなく智樹や紅茶を吹きかけられた歩も呆然とした表情で一を見ていた。
「うん、本当だよ、ちゃんと見てきたから」
「純みたいに、限りなく男に近い女ではないの?」
「誰が限りなく男に近いだ、俺はどこからどう見ても女だ!」
 純から上がる抗議の声を、平然と無視する透華。
「それで、どうですの?」
「間違えないよ、ハギヨシも衣の一学年下の男だって言っていたし、見たけど確かに男の人だったし」
 一も最初はわが目を疑ったが、見紛う事なく衣の部屋に居たのは男だった。
「こ、こうしちゃ居られませんわ、行きますわよ!」
「おう!」
「うん」
「そ、そうですね、どのような殿方か見ませんと」
 透華達は全員で、衣の居る別館に向かった。

 一方の衣の部屋。
 京太郎と衣は向かい合って座り、それぞれ緑茶と芋羊羹を食べていた。
「う~ん、まさかこんな邸で緑茶を飲むとな・・」
「京太郎は紅茶か珈琲のほうが良かったか?」
「いや、この緑茶もうまいし特に文句は無いが、なんとなくこう言う邸には紅茶か珈琲っていうイメージが、まあ芋羊羹なら緑茶だと思うが」
「そうだ、和菓子には日本茶が良く合う」
「天江は和菓子が好きなのか?」
「違うぞ、衣だ」
 苗字で呼ばれて、頬を膨らまして不満げな表情を露にする衣。
「ああ、悪い、衣は和菓子が好きなのか?」
 ちゃんと名前を呼ばれると、衣から不満げな表情は消えて、京太郎の質問に答える。
「うむ、洋菓子も好きだが、和菓子の方が好きだな、母君がおやつによく買ってきてくれた」
 懐かしそうに語る衣を見て、京太郎の脳裏にある疑問が浮かぶ、京太郎はその疑問を素直に口にした。
「衣の両親って・」
「死んだ、事故でな」
 何をしているのか、京太郎の言葉はそう続くはずだったが、衣の答えに沈黙した。
(こいつも・・・苦労しているんだな・・・・)
「悪い」
「いや良い、辛くないわけではないが、もうなれた・・・」
 それでも衣の雰囲気は沈んだままだ、なんとか話を逸らそうと京太郎は普段は考えないほど考え込む・・・そして、あることを思い出した。
「な、なぁ、衣って饅頭は好きか?」
「饅頭、好物の一つだが」
「そうか、清澄高校の近くに美味い焼き饅頭の店があるんだ」
「焼き饅頭とな、興味津々、それはそんなに美味いのか?」
「ああ、かなり美味いぞ、どうだ、今度一緒に行かないか?」
「一緒に行ってくれるのか?」
「もちろん、どうせなら友達と一緒に食ったほうが美味いだろう」
「うむ、確かに皆で食べる食事やおやつは格別だ」
「じゃあ、約束だ」
「おお、指きりだな」
 京太郎は衣に向かい小指を差し出す、何をしたいのかわかった衣も自分の小指を京太郎の小指に絡めた。
『指きりげんまん~』
 いつの間にか、衣の沈んだ雰囲気はどこかへと消えていた。
 
 そして衣の部屋の外では、透華達が全員で隙間から衣の部屋を覗き込んでいた。
「あれが、衣がつれてきた男性ですの?」
「なんだ、あんまりいい男に見えないが、衣はああいうのが好みなのか?」
「いや、好みじゃなくて、単に友達らしけど・・・でも、あの人どこかで見覚えがあるんだけど、確かみんな居た気がするけど・・・何処だっけ?」
「一の勘違いでなくて、私は覚えがありませんわ」
「俺も無いな・・」
「私も見覚えがある・・・けど思い出せない」
「ううっ、よく見えません」
 部屋を覗き込みながら、好き勝手なことを言い合う龍門渕麻雀部のメンバー。
「一と智樹が覚えているのなら何処かであったかも知れませんわね、ハギヨシ」
「はい、ここに」
 透華が呼ぶと、どこに隠れていたのかハギヨシが突然姿を現した。
「あの人について、知っていることを全て話してちょうだい」
「はい、衣様がお友達だと紹介してくださり、清澄高校一年で須賀京太郎様と名乗っておいででした」
 京太郎に聞いた情報をそのまま、透華に伝えるハギヨシ・・・だが。
「清澄・・・清澄ってあの原村和が居る、あの清澄ですの!?」
 透華が反応を示したのは、京太郎の名前よりもむしろ高校のほうだった。
「おそらくはその清澄かと」
「ああ、そうか、前にプールで清澄に会ったときに居た男の子だ!」
「そうですね、確かに・・・」
「えっ~居たか、そんな奴」
 一と智樹はハギヨシの言葉で思い出したようだが、純と和の事を考えている透華は思い出せないようだ。
「透華も兎に角、今はのどっちの事よりもあの須賀君・・だったけの事を考えないと」
「お、おほん、そうでしたわね、それで衣のお友達だから通したんですわよね?」
 一に言われて、少し落ち着きを取り戻した透華がハギヨシに尋ねる。
「はい、衣様がお友達だと紹介なれた上に、衣様に贈り物の巨大なぬいぐるみを持ってきてくださり、しかしそれを置いてそのまま帰ろうとなされたので、
及び止めをして、この後は特に予定もないとの事で、勝手ながらお茶を振舞わせていただきました」
「ハギヨシあなたのとった行動は正しいですわ、それで返したら龍門渕の名が廃るというものよ」
 透華に褒められて一礼だけするハギヨシ、透華達は改めて部屋の中を見直す。
「あ~あれかな、あの巨大なペンギン見たこと無いと思ったら贈り物だったんだ」
「でけぇな、あれって原村が持っていたぬいぐるみのデカイ版に見えるが」
「同じ種類のものでは」
「あら本当、大きいですわね、衣と同じ位かしら」
 透華達が大エドペンに目を奪われていると、歩むが一人別のところを見て声を上げた。
「あっ、あれ、見てください、衣様があの殿方と凄く可愛らしい笑顔で指きりを」
 歩の言葉に、大エドペンを見ていたはずの全員が衣の方に視線を移す。
「ええっ、なんですって!?」
「なぁ、おお、本当だ!」
「うわぁ~衣凄くかわいい」
「本当に・・・」
「重い・・も、もう駄目・・」
 一番下で、みんなに潰されてヒキガエルのような声で鳴く歩であった。
 
「ふふ~ん、約束だぞ努々忘れる事なかれ」
「わかっているって、それじゃあいついくかだけど・・」
 細かい日時を決めようとした京太郎だが、そこに突然バタンと扉が開き。
「きゃぁ!?」「うぉ!?」「へぇ!?」「あっ!?」「うきゅ!?」
 衣を除く龍門渕の麻雀部のメンバーとメイドが一名なだれ込んできた。
「な、なんだ!?」
「透華、純、一、智樹、歩、どうしたのだ?」
 突然のことに驚き、京太郎と衣も何事かと様子を見に来る。
「お嬢様、お手をどうぞ」
「っっっっ、もう・・皆さん野次馬根性を出しすぎですわよ」
 ハギヨシの手を取りながら、自分のことを棚にあげて文句を言う透華。
「っぅ~透華にだけは言われたくないな」
「いたぁ~・・・と、透華大丈夫?」
「・・・・」
「うきゅ~~~」
 透華以外のほかの面々(伸びている歩は除く)も次々に立ち上がる。
「えっ~と、確かに全員龍門渕の麻雀部の人ですよね?」
 いきなり奇抜な登場の仕方をした相手に、京太郎は恐る恐る尋ねてみる。
「その通り、私が龍門渕透華、龍門渕透華ですわ、以後見知りおくが良いですわ、ほほほほ」
「は、はぁ・・」
 なぜか自信満々に笑いながら名乗る透華。
「あっ~先鋒の井上純だ、よろしくな」
「次鋒の沢村智樹」
「ボクは中堅だった、国広一だけど覚えているかな、あっそこで伸びているのは歩ってメイドだから気にしないで」
「はい、どうも清澄高校一年、麻雀部の須賀京太郎です」
 全員名乗ったので京太郎も名乗り軽く会釈した。
 「君って確か前にプールで会ったときに居たよね?」
「あっ、は、はい、俺も麻雀部員なんで一応」
「やっぱり」
「ああっ~そういえば居ましたわね」
「いや、お前は絶対覚えてないだろう」
 適当な事を言う透華に小声でつっこみいれる純。
「それはそうと、須賀さんでしたかしら、衣のお友達だそうだけど」
「あっ、はい」
「おお、そうだ紹介が遅れたな京太郎、ここに居る皆も衣の大切な友達だ、皆こいつが京太郎だ、新しく出来た衣の友達だぞ」
 衣が改めて京太郎と透華達を交互に紹介する。
「・・・・・・」
 上から下へそしてまた上へと、隅々までじぃぃっと京太郎を見る透花。
「えっ、えっ~と・・・」
「透華、そんなに見たら須賀君に失礼だよ」
「黙らっしゃい、もし悪い虫ならどうするんですの・・・衣に悪い虫がついたら・・ついたら・・・あっ~」
 一の注意も意に介さず、透華は勝手な妄想で京太郎をぎろりと睨み付ける。
「ああ、なると無理だろうな・・・」
「そうですね」
 純と智樹は透華を止める気も無くあきらめ気味だ。
「え、えっ~と・・・」
 透華に睨み付けられてどうすれば良いのか悩む京太郎、しかし助けてくれそうな人は居らず、
とはいえ衣に助けを求めて話がさらにややこしくなりそうだし、と色々考えて何か無いかと部屋を見回す京太郎、そこで目に留まったのは・・。
「そうだ、麻雀打ちませんか」
「えっ?」×5
 京太郎の言葉にその場に居た(ハギヨシと気絶している歩は除く)声を上げる。
「だ、駄目ですか?」
 別に京太郎は挑発するつもりなど微塵も無い、龍門渕のメンバーがかなり強いということはわかっている、だがあのまま透華に睨み付けられているよりはましだと考えた。
 透華、一、純、智樹は小声で話し始める。
「お、おい、どういうことだ、俺たちに戦いを挑むって事は相当自信があるのか?」
「わかりません」
「う~ん、強そうに見えないけど」
「わかりませんわ、わかりませんが、挑まれた勝負を逃げてはこの龍門渕透華の名がすたりますわ」
 あれを挑発と受け取ったのか透華はすこぶるやる気だ。
「いや、しかし、ほれ衣の相手をさせるのは・・・」
「そうだね・・・」
「それは・・そうですけど・・・」
 一と純は麻雀における衣の特殊な能力を心配しており、透華もそれは気にしているようだが・・・・。
「京太郎・・・京太郎は麻雀強いのか?」
「いや、弱いけど、咲達とはよく打っているぞ」
 衣の質問に素直に答える京太郎。
「おい、自分で弱いって言っているぞ」
「謙遜の可能性も」
「う~ん、本当に弱いって事も・・・」
 京太郎の言葉にますます混乱する一達。
「でも折角、麻雀できる奴が揃っていて、それに麻雀卓もあるんだからどうかなって、衣もどうだ?」
「えっ、こ、衣もいいのか?」
「当たり前だろう、それとも麻雀打つのは嫌か?」
「嫌ではないが・・・」
 自分が麻雀を打ったことで、離れていった人のことを思い出したのか衣は苦い表情をする。
「なら良いだろう」
「わかった・・・やろう」
 京太郎に説得されて、衣は渋々ながらやる気になったようだ。
 そしてこの返事により、龍門渕の他のメンバーの答えも決まった。
「衣がやると言ったのなら、やらないわけにはいきませんわね」
「わかった、ボクも入るよ」
「しゃあないな・・・」
「そうですね」
 こうして京太郎と龍門渕高校麻雀部との麻雀が始まった。

 そして・・。
「ぐはぁ・・」
 見事にぶっ飛ぶ京太郎の姿がそこにはあった。
「本当に弱いですわね」「弱いね」「弱いな」「弱い」
「・・・弱いぞ」
 想像より弱かったのか次々に弱いと口にする、龍門渕のメンバー。
「うっ、事実だがそうはっきりと言われると・・・」
「あっ・・」
 さすがに少し落ち込む京太郎、それを見て今までの事を思い出したのか衣が悲しそうな表情をする、今までこうやって衣と麻雀を打ち人が離れていった、あるいは京太郎もとそんな悲観的な想像が衣の脳裏によぎる・・・だが。
「えっ~い、もう一回だ!」
「なぁ!?」×4
「えっ?」
 京太郎の言葉に驚く龍門渕メンバーが声を上げた、そして衣もまた信じられないと言った表情で京太郎を見た。
「な、なんだ、やっぱり弱いから駄目かな?」
「い、いえ・・・そうではなくて」
「京太郎は・・・衣が怖くないのか?」
 恐る恐る疑問を口にする衣、そして他の面々もそれを重苦しい雰囲気で黙って見つめていた、だが当の京太郎はというと。
「へぇ、なんでだ?」
 まったく気にした様子もない。
「なんでって、その・・・須賀君が一人負けなんだけど・・・」
 トータルの結果を見れば、衣の圧勝、透華と一は飛びこそしないもののかなり得点に差がついていた。
「う~~ん、でもいつも咲達と打っていたらほとんど勝てないからな、負けるのには慣れているから、特に気にならないけど・・・」
「慣れていると気にならないものか・・・」
「いや、そりゃ負けるのは悔しいけど」
 さすがに京太郎も、負けなれているとは言え多少は悔しいという感情があるようだ。
「衣が麻雀を打つと、皆が皆・・・怖がる衣の特殊な力に・・・」
「っても、咲もかなり変わっているからな」
 嶺上牌が必ず有効牌なるなど特殊能力以外の何ものでもない、それを見慣れている京太郎は衣の能力も特に気にならないようだ。
「咲・・・清澄の大将か、確かに不思議な・・・衣の感覚を上回る、打ち手だったな」
「それによ、こうやって話しながら麻雀打っているだけでも楽しくないか?」
「楽しい・・・楽しいのか?」
「ああ、確かに勝ったほうがうれしいけど、こうやってみんなでわいわい言いながら打つのも麻雀の醍醐味だろう」
「醍醐味か・・・衣は相手を倒すのみの麻雀しか打ってこなかったし、
確かにあの大将戦の時は楽しいと思ったが・・・あの時ともまた違う、そうか・・・こう言う麻雀もあるのか」
「だからもう一回打たないか?」
「うん、打とう、もう一回楽しい麻雀を」
 京太郎の呼びかけに、とても嬉しそうに笑う衣。
 その笑顔を見ていた透華、一も笑った。
「衣・・・そうですわね、一度といわず何度でも付き合いますわよ」
「うん、ボクも何回でも付き合うよ」
「よし、だけど次は俺も勝ちにいくぞ」
「あら、次こそ私がトップに決まっていますわ」
「ボクも負けないよ」
「遊びとはいえ、衣もただで負ける気はないぞ」

「はぁ~やれやれ、わいわいと楽しむ麻雀か・・・・俺には言えないな」
「私も・・・」
 椅子に腰掛けて羊羹を頬張りながら感心する純と智樹。
「お茶のおかわりです」
「おっ、サンキュー、しかしあれだけ衣の心を簡単につかまれると、少し嫉妬しちまうな」
 歩から受け取ったお茶を飲みながら苦笑する純。
「純様が、嫉妬ですか?」
「ああ、俺達が時間をかけてようやく本音を聞かせてくれたのに、それがあいつは簡単に衣の心に入りこんじまったからな・・・」
「でも、衣が幸せそうだから」
「そうだよ、だから文句言うわけにもいかないからな・・・・さてと、俺は帰るよ」
「あら、もうお帰りに?」
「ああ、どんな奴か心配だったけど、あいつなら変に衣を傷つけることもなさそうだし、それにこれ以上いると嫉妬が爆発しそうだしな」
「私も帰る」
「あっ、では私がお送りします、ハギヨシ様」
「はい、後はおまかせを」
 ハギヨシに見送られて、純と智樹は龍門渕家を後にした。

「かぁぁぁぁ、やっぱりだめだったか」
「あと一歩及びませんでしたらわ」
「う~ん、ボクはあんまりだったな」
「衣の勝ちだな・・・」
 結果は上から衣、透過、一、そしてやはり最下位は京太郎になった。
「でもそれを抜きにしても今日の麻雀は楽しかったぞ、京太郎また衣と麻雀を打ってくれるか?」
「うん、ああ、弱くてよければだけど」
「強い相手と打つ麻雀も好きだが、衣は京太郎と打つ麻雀も大好きだ」
「うっ・・・そ、そうか、ならいいけど」
 麻雀のことだが、華やかな笑顔で大好きという衣の言葉に、再び胸の高鳴りを感じる京太郎。
(・・どうしちまったのかな俺は・・・)
 などと考えていたが、ぐぅ~と言う自分の腹の虫の鳴き声で考えるのを止めた。
 携帯を取り出して時計を見る、そろそろ夕食の時間になろうかとしていた。
「ってやばっ!、あんまり遅いと飯抜きにされちまう」
「おっ、京太郎の家は時間に厳しいのか?」
「まあ電話すればなんとか」
 急いで帰っても間に合わないかもしれないな、とりあえず母親に電話をかけてみる京太郎、数回コールがなって電話が繋がる。
「あっ、もしもしお袋か、京太郎だけど」
『ああ、はいはい、何かしら?』
「いや夕飯のことなんだけど、ちょっと帰りが遅くなりそうなんだけど」
『何言っているの、母さんと父さん今日明日と旅行だって言ってでしょう』
「えっ・・・ああ、そっか、そんなこと言っていたな」
 一週間前くらいにペアの旅券が当たったから次の週末に行くと、母親に言われたのを京太郎は今思い出した。
『そうよ、だから適当に食べなさい、あっ、お金置いてくるのを忘れたけど、いくらかもっているわよね、じゃあね』
「あっ、ちょっと、ま・・・って切れたな」
 呼び止めようとしたが、無常にも電話は切れてしまった。
 携帯をポケットにしまって財布を取り出す京太郎、その財布に残るのは二千円と小銭のみ。
「今日の晩と明日の朝、昼、晩、ぎりぎりか・・・いやでもな・・」
 京太郎の頭に三食カップめんの図が思い浮かぶ、これならば余裕でクリアだろう。
「どうした京太郎、電話を切ったと思ったら、財布を見て百面相して」
「いや、親が旅行に行くって言っていたの忘れてて、それで飯をどうするかって・あっ」
 反射的に衣の質問に答えた京太郎だが、よく状況を考えてみれば今はまだ衣の部屋で、そして目の前には衣と透華と一がいる状態だった。
「なんだ、もしかしてご飯が無いのか?」
「いや、大丈夫だ、ぎりぎりあるし、カップめんで食いつなげばなんとか」
「京太郎それは駄目だ、医食同源、食事はとても大切なんだ、それに栄養が無ければ頭も働かないぞ」
「いや、でもな・・」
 衣の注意ももっともだが、とはいえそれを聞き入れたところでお金は増えない。
「でしたら、食べていけばよろしいのでわ?」
 先ほどまで会話を黙ってみていた透華がそんな提案を出した。
「いや、でもいきなり一人増やすのは迷惑なんじゃ?」
「ハギヨシ、一人増えますけど大丈夫ですわね?」
「はい、問題ありません」
 透華の問いに考えるまもなくハギヨシが答える。
「一もいいですわね?」
「うん、問題ないんじゃないかな」
「というわけですから、問題ありませんわ」
「でも・・・おやつもごちそうになった上に食事もってのは・・」
 さすがにいきなり始めて訪れた家でそこまでするのは、京太郎にも気が引けた。
「あら、私が構わないのですから構いませんわ、それとも私や衣と一緒に食事をするのは嫌ですの?」
「いや、嫌ではないですけど・・」
 再びあの時と同じようにギロリと京太郎を睨みつける透華、そこで一が横から京太郎に小声で話しかけてきた。
「ごめん須賀君、こうなると透華は人の話は聞かないから、嫌でないなら食べていってよ」
 確かにこの空気の中を一人で帰るのは何だし、今の財布の中身よりは絶対ましなものが食えるだろう、考えた末に京太郎の結論は・・・。
「わかりました、ごちそうになります」
「ええ、そのようにしてちょうだい、それと今日はお父様もいないので衣と一も一緒に食べますわよ」
「えっ、で、でもボク今メイド・・」
「あら、こうなると私は人の言うことを聞かないのでしょ?」
「えっ・・あっ・・」
 一の顔が青くなる、先ほどの京太郎に小声で伝えたことは透華にも聞こえていたのだ。
「というわけよ、ハギヨシ」
「かしこまりました」
 ハギヨシは指令きくと何処かへと消えていった。
「と言う訳で衣、今日はみんなでご飯ですわよ、良いですわよね」
「みんなで一緒にご飯か・・・・凄く楽しみだ」
 衣だけはただ無邪気に笑っていた。

 食事が終わり、食後のお茶の時間。
「ふぅ・・・美味しかった、なぁ京太郎」
「あっ、ああ、そうだな、想像していたのと次元が違ったが、滅茶苦茶美味かった」
 龍門渕家の夕食は豪華すぎて、京太郎には良くわからないものだった、ただどれも味は美味しかったのだが。
「おほほ、満足いただいてお誘いしたかいがありましたわ」
「お気に召していただければ、幸いです」
「う~ん、これでよかったのかな・・・」
 一は最後まで微妙な面持ちで食事を終えた。
「さてと、それじゃあ俺はそろそろ帰らないと・・・ああっ!」
 時間を見ようと携帯を取り出した京太郎は大きな声を上げる。
「きゃぁ、もうなんですの、いきなり大きな声を上げられたら、驚くではありませんの」
「ど、どうしたの須賀君?」
「うん?」
「いかがなされましたか?」
 全員の視線が京太郎に集中する。
「いや、その・・・時間的に終電に間に合わないんじゃないかなって」
「ああっ、そっか今からだと車でもきついかな・・・」
 一も時計を見ながら最終電車の時刻を思い出し、さらにこの家から駅までの時間を考えるが、間に合うか間に合わないかとぎりぎりだった。
「あら、それなら家まで・」
「ならば泊まっていけばよいのではないか?」
「えっ?」「へぇ?」
 さも当たり前の様に語る衣に、ハギヨシを除く全員があっけにとられていた。
「あっ、いや、衣さん何を仰っておられるのですか?」
「言葉遣いが変だぞ京太郎、泊まっていけば良いと言ったのだ」
 京太郎の口調に一瞬眉を顰める衣だったが、特に気にせず先ほどの言葉を繰り返す。
「いや、その・・・さすがにそれはまずいんじゃないか?」
 食事ご馳走になるだけでもあれなのに、まして今日友達になったばかりの相手の家に泊まるのはどうかと思う京太郎。
「問題無い、衣の部屋のある別館ならいくらでも部屋は余っている」
「いや、そういう意味じゃなくてな」
「困っている友達を助けるのは友達として当然の事、心配無用だ」
 どうやら困っている京太郎に対しての、衣なりの助け舟だったようだが、この助け舟に即座に乗り込むわけにはいかない事は京太郎自身も理解していた。
「こ、衣、それはさすがにあれではなくて?」
「あれとはなんだ透華?」
 さすがの事態に透華が止めに入るが、衣の首を捻るのみ。
「ですから、あれよ・・その、ですわよね一?」
「えっ、ぼ、ボクに振るの・・・」
 困った透華が一に話を振る、突然の事に焦る一だが、それでもなんとか透華の役に立ちたいと思う一はいろいろ考えた末に。
「その、年頃の女子の家に男子を泊めるのは不味いんじゃないかなって、事じゃないかな?」
「そうですわ、そう、一の言う通りですわ」
 上手いこと言った一に乗っかる透華・・・だが。
「疑問・・・なぜ男を泊めてはいけないんだ?」
「えっ、いや、それはその・・・一!」
「無茶言わないで、ボクにも説明できないよ!」
 花も恥らう乙女二人、その意味を説明することは出来そうに無い。
「あっ~~とにかく、駄目といったらだ・」
「駄目か?」
「うっ・・」
 いつも通り我を通そうとした透華だが、衣の潤んだ瞳に言葉を詰まらせた。
「衣はどうしても京太郎を助けてやりたいんだけど、透華は駄目だというのか?」
「・・・・ううっ」
「駄目・・なのか?」
 今にも泣き出しそうな衣を見ていると、駄目の一言がどうしても透華は言い切れず・・・そして。
「か・・・構いませんわ」
 透華の方が折れる結果になった。
「本当か?」
「ええ、この龍門渕透華に二言はありませんわ、須賀さんは今日あの別館に泊まっていただきます」
 完全に開き直る透華の言葉を聴いて、衣の顔がぱぁっと明るい笑顔になった。
「よかったな京太郎」 
「えっ、あ、でも着替えとか無いし」
 なんとか断る口実を考えた京太郎だが。
「ハギヨシ」
「はい」
「うぉ!?」
 透華が一声かけると、いつの間にか京太郎の前にハギヨシが現れた。
「パジャマにシャツにバスローブ、下着はブリーフとトランクスを各サイズ揃えております」
「それで問題は無いですわね?」
「は、はい」
 退路を立たれた京太郎は首を縦に振るしかなかった。
「衣、これで良いですわね?」
「うん、ありがとう透華」
「うっ!?」
 とても嬉しそうな衣の笑みに、思わず胸がどきりとする透華だった。
 
 部屋に戻ってうな垂れるように椅子に座る透華。
「はぁ・・・どっと疲れましたわ」
「お疲れ様透華、でも須賀君を泊めて本当に良かったの?」
 労いの言葉をかけながら、一は透華の前に紅茶を置く。
「はぁ・・良かった何も、一あなたにはあんな表情をした衣に駄目って言えまして?」
「あっ~~~無理かな・・・」
 悲しそうに『駄目?』と聞いて衣の顔を思い出して苦笑する一。
「と言うわけですわ」
「泣く子と地頭には勝てない事か」
 しみじみとその意味を噛み締める一。
「それにあの方悪い人ではなさそうですし、まあ麻雀は弱いですが」
「そうだね、須賀君って良い人そうだね・・・みんなでわいわい麻雀しているだけでも楽しいか、
麻雀始めたばっかりの頃の事を思い出しちゃったよ、あの頃はみんなでわいわいと打っているだけで楽しかったな~って」
「そうね、強い相手でもないのに、衣が凄く楽しそうでしたわ、案外ああ言う方が衣の寂しさを埋めてあげられたのか・・・って、あんまり悩むのは私らしくありせんわね!」
 落ち込むのを止めて、紅茶を飲んで気分転換を図る透華。
「そうだな、でも本当に須賀君を泊めてもよかったのかなって思うけど」
「あらまたその話に戻るんですの?」
「透華を攻めているわけじゃなんだ、ただ・・」
「ただ?」
「衣が須賀君を見る目って・・・恋しい人を見ているような、そんな感じが・・・」
「こ、衣が須賀さんに恋をしているって言うんですか一は!?」
 一の予想外の言動に動揺が隠せない透華。
「いや、そのね、もしかしたらただ単純に初めてできた男友達だからって可能性もあるけど」
「そ、そうですわよね、初めてできた男友達ですから・・多少私達とは違う目で・・・見ますわよね」
 落ち着きを取り戻したように見える透華、しかし紅茶を持つその手は小刻みに震えて動揺を隠しきれない様子であった。

 ガラララ・・・。
「はぁ~~~、やっぱり風呂まで広いんだな」
 マンガでよく見かけるような、西洋式建築の建物に似合う所々に彫刻が施された豪勢なお風呂、想像していたものよりさらに豪華な作りに、京太郎は感嘆の声を上げる。
「だけど・・・あれはどうなんだ?」
 普通ならライオンの口からお湯が出ているところなんだろうが、それが透華の顔になっている。
「シュールだな・・・金持ちの考えることはよくわからんな、しかしまるでプールだな・・・」
 ここまで広いと飛び込んでしまいたくもなるが、あまりに豪華な作りに別の心配が京太郎の脳裏によぎる。
「あんまり汚れてはいないと思うが、飛び込んで汚してもなんだよな・・・先に洗うか」
 京太郎は自分の体を見ながら、ここを汚してしまったときの事を想像すると、体も洗わず飛び込む気は完全に失せた。
「えっ~と洗い場は、あっちか・・・」
 京太郎が洗い場まで移動すると、入り口のほうから衣の声が聞こえてきた。
「京太郎~」
「衣~どうした~?」
 言い忘れたことでもあったのかと、洗い場の椅子に座ったまま声を出して衣に尋ねる京太郎だったが・・・。
「京太郎~、お~い」
「こっちだ、洗い場の方だ」
「なんだそっちか」
 京太郎が場所を答えると、衣の声はどんどんと京太郎のほうに近づいてくる、だんだんと湯煙に移る衣のシルエットが大きくなってゆく・・・・そして。
「あっ、居た!」
 湯煙の向こうから衣が現れた・・・一切何も見につけていない、生まれたままの姿で。
「ぶぅぅぅ、こ、衣お前なんちゅう格好を!?」
「どうした、何かおかしいか?」
京太郎に指摘された衣は、不思議そうな顔をしながらも、その場でくるりと回って自分の姿をみる。
「うっ!?」
その瞬間、衣の小さなお尻がしっかりと京太郎の目に入った、思わず目を逸らす京太郎。
「何も変なところは無いぞ?」
「いや、だってよ・・・お前裸じゃないか」
「意味不明、何を言っているんだ京太郎、入浴するのに裸になるのは当然だろう」
「いや、確かにその通りではあるが・・・」
 衣の言っていることは間違いではない。
(落ち着け俺、落ち着くんだ俺、相手は子供だぞ、年齢的には年上だが、とにかく焦ることじゃない)
 反論することをあきらめた京太郎は、なんとかどきどきしている自分の心を落ち着けようとする。
「それで、衣は何しにきたんだ・・・って、風呂に入りにきたに決まっているか」
 裸でこの場に居るのだから、それ以外の理由はとくに思いつかない。
「もちろんだ、でもそれだけじゃないぞ、京太郎流しっこをしよう」
「流しっこ・・って、背中を洗いあうのか?」
「そうだ、友達と風呂に入ったら流しっこをするものだと聞いたぞ、衣も一度してみたいと思っていたんだ」
 目をきらきらと輝かせながらそう語る衣。
 京太郎も漫画や話の中なのでそういう話はあるが、それはあくまでも同姓の場合だろう、とは言えこの衣の期待に満ちた目を裏切る気にはなれなかった。
「わかった、どっちが先にする?」
「衣だ、衣が京太郎の背中を流す」
 京太郎の言葉に、さらに乗り気になった衣は京太郎の後ろに椅子を置くと、それに座りスポンジにボディーソープを付け泡立てる。
「じゃあ頼むな」
「準備万端だまかせておけ、しっかりと洗ってやるぞ」
 やる気十分でさっそく京太郎の背中を洗い始める衣。
「どうだ、京太郎気持ち良いか?」
「う~ん、もっと強くしてくれるか」
「もっと強くか・・・う~~ん、これくらいか!」
 衣は洗う手に思いっきり力を入れる、とは言え衣の腕力では強すぎることは無く京太郎にはむしろ心地よいほどだ。
「おおいいぞ、そのくらいで頼む」
「うん、わかった」
 京太郎に褒められた衣は嬉しそうに手を動かす。
「京太郎の背中は大きいな、透華や一とはずいぶん違う」
「そりゃ男と女だからな、だいぶ違うだろう」
 さすがにあの二人と比べて、小さければ京太郎も少々へこむだろう。
「うむ・・・幼少の頃に父上の背中を流したことを思い出す・・・」
「衣・・・」
「幼少の頃はまだ衣も小さくて、父上の背中を洗うのは一苦労だった・・・、でも洗い終わった後に父上が労いの言葉をかけてくれて、すごく嬉しかった」
 懐かしむように手を動かしながら、衣は父親との思い出を京太郎に語って聞かせた。
「それって、なん・・」
「さて、終わったから流すぞ」
「あっ、ああ、頼む」
 尋ねようとしたところで洗い終わってしまい、仕方なくそのままお湯で背中を流してもらう。
「うんしょ、うんしょ」
 衣はお湯の入った桶を必死に持ち上げて、二回お湯をかけて京太郎の背中についたボディーソープを落とす。
「ふぅ、清掃完了だ」
 自身の仕事に達成感のある満足げな笑みを浮かべている衣の方を向いて、京太郎は頭を撫ぜながらお礼を言った。
「ありがとう衣、気持ちよかったよ」
 その瞬間。
「えっ・・・」
 カラン・・・と衣の手から桶が零れ落ちて、徐々に衣の目に涙が溜まってゆく。
「・・・えっ、あっ、わ、悪い、頭撫ぜられるの嫌いだったな?」
 ゲームセンターの前でのやり取りを思い出して、京太郎は慌てて手を退けて謝るが、衣は首を左右に振った。
「・・・違う、頭を撫ぜられたのが嫌だったわけではない」
「じゃあ」
「昔、父上にも頭を撫ぜられながら同じ言葉を言われた、寝耳に水と言うかあまりに突然だったんで、つい・・・」
「衣、その・・・大丈夫か?」
「うっ・・・うっく」
 衣は涙を飲み込み、今度は嬉しそうに笑った。
「問題ない、それに衣は嬉しかったんだ、父上を思い出せて、だからありがとう京太郎」
「そうか、それなら良いんだけど・・・さてと、次は衣の番だぞ」
 これ以上何も言うべきではないと思い、京太郎は背中の流しっこに話を戻す。
「おおっ、そうだったな」
 衣は京太郎に背中を向けて座る、京太郎はスポンジを手にとって衣の背中に当てた。
「それじゃあ、いくぞ」
「うん、頼むぞ京太郎」
 力を入れすぎないように注意しながら衣の背中を洗い始める京太郎。
「どうだ?」
「うん、気持ち良いぞ、京太郎は背中を流すのが上手いんだな」
 よほど京太郎の洗い方が上手いのか衣は上機嫌だった。
(しかし、小さな・・・女の子は小さいとかて聞くけど衣は特にか、まるで子供みたいだな)
 子供の体を洗う機会など無いが、○学生の女の子だと衣位の大きさだろう。
「うん、どうしたんだ京太郎、急に黙って」
「いや、本当に子供みたいだなって・・・あっ」
 考え事をしていたため、衣に聞かれて京太郎はつい本音を漏らしてしまった。
「なん・・だと?」
 先ほどまで上機嫌だった衣の表情と雰囲気が一変すると、衣は立ち上がりくるりと反転した。
「いっ!?」
「子供じゃない衣だ、そして活目せよどっからどうみても衣は正真正銘の大人だ!」
 自信満々に一切隠そうとせずに、京太郎の前で仁王立ちする衣。
 膨らみの無い胸、くびれていないがぽっちゃりもしていないおなか、
そしてタオルを巻いてない上に毛も無いので完全に丸見えのあそこ、背も低く、顔つきも幼い、頭の先からつま先まで、どこからどう見ても子供だろう。
 だが肌は白くとても柔らかそうで、見ているだけで吸い込まれそうな、そんな感覚を京太郎は感じていた。
 (ああ、やばい・・・あんまり見ていると、変な気分になってくる、相手はお子様体系なのに、駄目なのに)
 ジレンマを感じながらも、京太郎は自分の一部が固くなりつつあるのに気づいた・・。
(やばい、これは・・・)
「どうだ、衣は大人だろう?」
 衣が京太郎の顔を覗き込んだ瞬間、京太郎は衣からボディーソープではない何か甘いとても匂いを感じた。
(うわぁ、なんだこれ・・・これが女の子独特の香りとか言うやつなのか!!)
 それを意識した瞬間、京太郎のペニスが完全に勃起した。
「どうした京太郎・・・うん、京太郎それはなんだ?」
 衣が指差した先にあるのは、ペニスによって突き上げられ膨らんだタオル。
「何か膨らんでいるみたいだが?」
「これは、なんでもない、なんでも無いから、まだ背中流してなかったな後ろ向け」
 よもやタオルをずらして、衣に見せ付けるわけにもいかないので話を逸らす。
「うむ、そうだったな、でもそれは」
「さぁ流すぞ」
「う、うん」
 京太郎がお湯の入った桶を持ち上げると、衣も仕方なく大人しく黙りお湯をかけられた。
「ほら綺麗になったぞ」
「うん、ありがとう京太郎・・・ところで」
 衣は何か聞きたそうなしたが、それをさっちした京太郎は衣の手を取る。
「さぁ、洗い終わったら湯船につかるぞ」
「えっ、ああ、そうだな」
 さきほどの話題に戻されないうちに湯船に急ぐ京太郎、そのまま湯船に入った。。
「ふぅ~~良い湯だな」
「風呂は良い、心の洗濯とはまさにこのことだ」
 京太郎も衣も、気持ちよさそうに声を上げて肩まで浸かる。
「なぁ、京太郎さっきのことだが?」
「いや、あれはそのなんと言うか・・男特有の・・」
「うん、何を言っているんだ京太郎、衣が言いたいのは衣はちゃんと大人だっただろうということだ」
「えっ、ああ・・・そっちのことか」
 先ほどの自分のナニの件で無いことに胸を撫で下ろす京太郎。
「う~ん、なんの事かはよく分からないが、とにかく衣はちゃんと大人だっただろう?」
「えっ・・・ああ、どうだろうな?」
 大人とは言い切れないが子供といえば衣はまたへそを曲げてしまうだろう、だがそんな京太郎の態度もまた衣の神経を逆立てしてしまうのだった。
「うっ~まだ衣を大人と認めぬか、もう一度心して活目せよ!」
 衣が立ち上がり再び京太郎に自分の体を見せ付ける、京太郎の目の前にはちょうど衣の大切な部分が・・・。
(うっ、こ、これが衣の・・・)
 ようやく収まりかけていた京太郎のペニスが再び硬さを取り戻しだす。
(こ、これ以上はやばい・・・)
 これ以上衣を見ていると、京太郎は超えてはいけない一戦を超えてしまいそうなので、視線を逸らすが・・・。
「視線を逸らさずに見るが良い」
 といってその先に回り込む衣。
「お、おい・・・こ、衣・・・」
「どうだ、隅から隅までよく見ろ!」
 京太郎は止めようとしたが、衣も意地になっているのか止める気配が無い。
 我慢の限界に達したのか、京太郎が立ち上がる。
「いい加減にしろ!」
「ひっ!?」
 京太郎の大きな声に、驚いた衣は肩を震わせた。
「うっ・・お、怒ったのか・・京太郎」
 涙目の衣を見て、京太郎は自分の仕出かした失敗に気づく。
「悪い・・・けどな衣、大人の女性だって言うなら、男にそんな風に裸を見せるものじゃないぞ」
 謝りながらもちゃんと注意する京太郎、それを聞いた衣は不思議そうに首を傾げた。
「そう・・なのか?」
「ああ、そういうのは好きな男にだけするもんだからよ」
「でも衣は京太郎が好きだぞ?」
 衣に好きといわれて、嬉しく思う京太郎だが、それが今言っている好きだとは何か違う気がした。
「嬉しいけど、それは友達としてだろ?」
「そうだが、好きとは千差万別なのか、それほどの種類があるのか?」
 衣が真剣な表情で京太郎に聴いてくる、しかし当の京太郎もそれを正確に知っているとはいえない。
「えっ~とな、相手を思うとドキドキしたり、相手が他の異性と楽しそうにしているのを見るともやもやして嫌な気分になったりとか・・・かな」
 どこかの漫画やゲームなどからの受け売りだが、衣はそれを真剣に聴きながら自分の胸に手を当てる。
「ドキドキしたり・・もやもやしたり・・・それは心が惑うと言うことか?」
「あっ、ああ、そんな風に好きなになった男にしか裸は見せちゃいけなんだ、わかったな?」
「理解不能・・・衣には良くわからぬ、だが京太郎がそう言うのだから、そういう好きもあるのだろうな・・・、すまぬな・・・京太郎、無理に裸を見せてしまって」
 神妙な面持ちで謝罪を口にした衣はそのまま湯船に遣る。
「いや、わ、わかってくれれば良いんだ、大きな声出して悪かったな」
「ううん、京太郎・・・衣とまだ友達でいてくれるか?」
「当たり前だろう、友達の間違いを指摘するのも友達の役目だろう」
「そうか、良かった」
 友達でいてくれると言われた、衣はようやく安堵の息をついて笑った。
「じゃあ、ちゃんと温まろうな」
「うん、なぁ・・・京太郎一つ聞いても良いか?」
「なんだ?」
「その・・・そんな心惑う好きになったら、衣はどうすれば良い?」
「どうすればって・・・告白とかで思いを伝えるしかないんじゃないか」
 京太郎も告白することが全て正しいとは思わないが、それでもその感情をどうにかするには告白しか無い気がした。
「告白、伝えれば相手も衣を好きになってくれるのか?」
「わからないけど、上手くいけばな・・・」
「そうか・・・」
 そう呟きながら衣は天井を見上げる、京太郎もつられて天井を見上げた。 

「ふぅ・・・」
 風呂から上がり濡れた髪を乾かし終えると、衣はため息をついた。
 鏡に自分が映る、お風呂では京太郎を怒らせてしまった。
「ああいうことをしてはいけなんだな・・・うん、注意せねば」
 反省をしつつ考えるのはお風呂で京太郎に言われた事・・・。
「好きにも色々と種類がある・・・衣は京太郎も透華も一も智樹も純も歩もハギヨシも原村ののかも好きだ」
 友達はみんな好き、それが当たり前だと思っていたのに、いろんな種類があることを知った、だから全員の事を思い浮かべる、その中で京太郎に対しての好きだけは少し違う気がした。
「京太郎と居ると楽しいドキドキする、京太郎は衣といても怖がらないし、楽しそうにして話してくれるし、友達になってくれて凄く嬉しかった」
 突然できた友達は、今日一日でとても多くのこと衣に教えてくれた。
「もっと一緒に居たい、でもこれは・・・透過達と同じ友達として・・?」
 鏡を見て映っているのは、いつもと自分と変わらないはずなのに、少し違って見えた。
「他の異性と楽しそうなのを見るとか・・・」
 目を閉じて衣は想像してみる、和と咲と仲良くしている京太郎の姿を。
 楽しそうに話す・・・その中に自分は居ない、寂しい・・・そう思う、自分混じりたい・・・そう思う、
想像の中で京太郎は笑っていた、でもその笑みは自分に向けられている訳ではない、そう思うと・・・チクリとした痛みを感じた。
「・・・・なんだ今の」
 寂しさなどとは違うその感情、心に黒い靄の様なものが掛かる。
「曖昧模糊、これはなんだ・・・この感情は初めてだ」
 突然振って沸いた感情に戸惑う衣。
「こんな感情は聞いたことがな・・・いや、ある」
 そうお風呂の中で京太郎の言葉を思い出す。
「もやもやする、これが京太郎の言っていた感情・・・これは嫉妬か?」
 本や何やら知識はあったが、それは衣が初めて体験した嫉妬と言う名の不の感情。
「衣は京太郎ともっと仲良くなりたい、莫逆之友に・・・違う」
 口か出た言葉を即座に自分で否定した衣。
「そう・・・先ほどのが嫉妬だというのならきっとこの思いは・・・」
 いろんな言葉を知っていて、いろんな言葉を思い浮かべるが、衣の今の気持ちにぴたりと合う言葉はとても短い言葉・・それは。
「恋」
 
 風呂から上がった京太郎は、用意されていたゲストルームで、椅子に座り水を飲んでいた。
「しっかし、広いな・・・俺の部屋の何倍だよ」
 衣の部屋よりは狭いが部屋としては十二分に広い、椅子や机やベッドなどが一々高そうだ、壊したり汚したりしたら大変だなと思うが・・・・そんな事より気になることが京太郎にはあった。
 風呂での衣に聞かれた事・・・・。
『そんな心惑う好きになったら、衣はどうすれば良い?』
「告白とかで思いを伝えるしかない・・・なんて言ったけど」
 もしも本当に衣が誰かに告白したら、そんなことを想像すると、京太郎は自分の胸にもやもやと嫌な感情に気づく。
「これって、やっぱり・・・」
 それと同時に気づいた、今日友達に、しかもプレゼントを渡す理由として友達になった純粋無垢な少女に、いつのまにか自分が引かれていることに。
「はぁ、どうすりゃ良いんだよ」
 ため息をついて、天井を見上げる京太郎。
「でも、あんな格好で見せられたらな・・」
 団体戦決勝の時は咲を苦しめた、凄い打ち手だと思ったが、今日会って話してみればただの純情無垢な少女。
「たぶん恋とか無縁だっただろうな」
 それ以前に異性とすら無縁なのだろう、知識はあるだろうにあれほど無防備に肌を晒すとは、あるいはただ・・・。
「友達が嬉しかっただけなのかな・・・」
 それならば怒るべきではなかったと反省する京太郎、だがもしもあのまま衣の裸を見せ付けられていたら・・・。
「襲っていたかもしれん・・・」
 子供などと馬鹿にできない、あるいは自分がそう言う趣味なだけなのかともんもんとした考えが京太郎の脳裏に浮かぶ。
「う~ん、俺は和みたいなナイスバディに興味が・・」
 前にプールに行った時の和の姿を思い浮かべると・・・・やはり鼻の下が伸びる、
でも衣の姿を・・・先ほど見た裸を思い浮かべると、興奮している自分に気がつく京太郎、そのまま想像の中で衣を押し倒して・・・涙を浮かべる衣の顔が浮かんできた。
「さ、最低だ・・・俺最低だ」
 想像で自己嫌悪に陥る京太郎、その時、コンコンと部屋の戸がノックされた。
「は・・はい、開いていますからどうぞ」
 たぶんハギヨシか使用人が何か言いに来たのだろうと思い、返事をすると。
「入るぞ、京太郎」
 戸が開いて入ってきたのは、にこにこと笑顔を浮かべた衣だった。
「えっ、こ、衣!?」
 さきほど妄想の中で、押し倒して泣かせてしまった相手の登場に驚く京太郎。
「あっ・・・そうだな、さきほどの風呂の事まだ怒っているのか?」
 京太郎の反応を見て衣は、お風呂の件で機嫌悪いものだと思い込んでしまい落ち込む。
「ああ、いや、そうじゃなくて、今さっきまで衣の事を考えていたら、衣が来たんで驚いただけで、別に怒っちゃいないから」
「怒っていない、それに衣のことを・・・良かった、それに嬉しいぞ」
 落ち込んだ顔が一変、怒っていないのと自分の事を考えていてくれた嬉しさからか、衣はとても明るい笑顔を浮かべる。
「ふぅ・・・それで、何か用事か?」
「おっ、そうだったな、実は部屋に戻り京太郎に言われたこと熟考した、好きはいろんな種類があると、それで京太郎がどっちの好きなのかも熟考した、
色々と想像して京太郎といると楽しくてドキドキした・・でもそれだけじゃわからなくて、だからそれでもう一つのこと想像した、
京太郎がののかや清澄の大将と一緒に・・仲良さそうにしているところをだ」
「・・・ごくっ、それで、どうだったんだ?」
 固唾を呑む京太郎、判決を待つ被告のような感覚だ。
「仲良き事は美しいはずなのに、京太郎の言うとおりだ、胸に黒い霧でも掛かっているようにもやもやが溢れて、それが嫉妬だとわかると・・・同時分かった」
 衣はまっすぐに京太郎を見つめて、とても綺麗に清々しい笑みを浮かべた。
「衣は京太郎が大好きだ、これがたぶん恋なんだと思う」
 衣の告白を聞いて、京太郎もまた自分の思いを確定させる、そして笑いながら衣の気持ちにこたえた。
「衣・・・俺も衣の事が大好きだ、俺もこれが恋なんだと思う」
 その言葉を聴いた瞬間、衣はぽろぽろと涙を流す。
「衣!?」
「京太郎!」
 告白に答えた瞬間泣かれてしまい焦る京太郎、衣は涙を流しながら京太郎に抱きついた。
「あはぁ・・・すまない、悲しいわけではないんだ、感慨無量喜びが溢れて涙に・・」
「そっか・・・」
「京太郎は凄い、京太郎の言うとおりだ、心を惑う恋をしたら告白するしかない、その通りだ、そして通じて相手が答えてくれるとまさに至福」
 目には涙をためながらも、笑顔に一切の曇りがない心から喜ぶ衣をみて、頭を撫ぜる京太郎。
「ああ、俺も嬉しいぞ・・・って、頭を撫ぜられるのは嫌いだったな」
「子ども扱いされているみたいで好きではない、けど京太郎に撫ぜられるのはとても心地が良い」
「そ、そうか・・・」
 頬を紅く染めて照れ臭そうに笑う衣を見て、京太郎も照れくさくなってしまう。
「なぁ京太郎、寝屋を共にしても良いか?」
「えっ、ね、寝屋を共に・・・ってあれだよな・・その・・」
 突然の衣のお願いに戸惑う京太郎、はたして自分が想像しているのと同じなのだろうか、それ以前に衣はその言葉の意味を理解しているのだろうか・・と。
「そうだ、衣の部屋でもここでも良い、衣は京太郎と一緒に寝たい」
「で、でもな、そのいきなり一緒に寝るのは早くないか?」
「なぜだ、恋人や夫婦は寝屋を共にして、互いの仲を深めるものと聞いた気がするが」
「それは、そうかも知れないが・・・」
 今日の風呂で衣の裸を見てそれが目に焼きついているのと、おそらく無防備に寝るであろう衣を想像すると、京太郎に自分を抑える自信などかけらもなかった。
「それとも京太郎は嫌か、衣と寝屋を共にするのは?」
「嫌じゃないけど、わかっているのか?」
「何がだ?」
「あのな・・・あっ~~~つまりだな、衣が言っている寝室を共に仲を深めるってのは寝るだけじゃなくてすることがあるんだよ、衣はそれがわかっているのか!?」
 埒が明かないと思った、一応言葉は濁しながらもなるべく直接的に京太郎は衣に聴いてみる、衣は自身ありげに答えた。
「衣だって知っているぞ、恋人や夫婦が寝屋を共にして秘め事を行うことは」
「その秘め事がどんなことかわかっているのか?」
「それは・・・情交を結ぶ・・性交するのだろう」
 恥ずかしそうにしながらもしっかりと言葉にする衣。
「知っているんだな」
「経験皆無、ただ女子の最初は痛みを激痛必至とは聞いたことがある」
「俺も良くわからないけど、人によってはかなり痛いらしいぞ」
 経験がないと、自分で言っていて少し空しくなるが京太郎だが、変に見栄をはっても後で失敗する怖さのほうが大きく感じた。
「痛いのは・・・嫌だ・・・」
 まだ見ぬ苦痛への恐れか、衣の表情は暗く言葉。
「わかっただろう、だから今日は、別々に・」
 京太郎が衣から離れようとした瞬間、衣はきゅっと京太郎の寝巻きの袖をつかむ。
「痛いのは確かに嫌いだ・・・だけどそれでも、衣は京太郎と仲を深めたいと・・心底願わずにはいられない・・・」
 恥ずかしそうに自分の心根を語る衣、そして最後に上目遣いで京太郎に問いかけた。
「駄目・・・か?」
 少女の必死の告白に、その可愛らしさに、京太郎の我慢が限界に達し、結果。
「衣ぉぉ!!」
「きゃぅ!?」
 京太郎は衣をベッドに押し倒し、そのまま衣の顔を覗き込む。
「ああっ、もう衣は可愛いな、そんな表情でそんな事を言われたら我慢できねぇよ」
「きょ、京太郎・・・?」
 京太郎の態度の急変振りに驚く衣だが、次の京太郎の言葉で表情が変わる。
「本当にしても・・・いいんだな?」
「・・・うん、互いに愛念できたと思えるほどに深めたい・・・京太郎」
「衣・・・」
 二人の距離が縮まり唇が重なる、唇が重ねるだけの簡単なキス・・・なのに。
「はぁぁ・・これが接吻、こんなに凄いのか・・・気持ちが溢れて胸が・・五体が満たされてゆく」
 衣は今にもとろけてしまいそうな表情で、不思議そうに自分の感情を語る。
「ああ、確かに気持ち良いな、でもこれは序の口だぞ、接吻だけでももっと凄いのがあるんだからな」
「これが序の口だど、接吻でもこれより凄いのがあるのか!?」
 京太郎に言われて愕然とする衣、そんな衣を見ていると京太郎の悪戯心に火がつく。
「怖いなら、止めるがどうする子供?」
「子供じゃない衣だ、ううっ、京太郎は意地悪だ」
 すぐさま反応した衣だったが、京太郎にからかわれた事に気付くと恥ずかしそうに顔を逸らす。
「悪いな、衣が可愛いからついからかいたくなって・・・」
 頭を撫ぜて衣のご機嫌をとりながら耳元で呟く京太郎。
「次はもっと凄いキス・・・接吻するぞ」
「もっと・・凄いの・・うっ!?」
 その言葉に衣の興味は掻き立てられて、顔を逸らすのを止めて元に戻すと、京太郎は再び衣と唇を重ねる・・だが、先ほどとは違い衣の口の中に京太郎の舌が侵入してきた。
「ふっ!?・・・う・・ん・・」
 突然の事態に驚いて固まる衣・・・だったが、次第に京太郎の舌を受け入れ迎えるように自分の舌をそれに絡める。
「ふっ・・ふふ・・・」
 衣の順応性を喜びながら京太郎は舌を絡める接吻を楽しみ、衣また同じく楽しむ・・・空気を吸うことすらわすれるほどに。
「はぁぁ・・はぁぁ・・・」
「ふぅぅ・・・はぁぁ・・はぁ・・」
 息か続かなくなりやがてどちらともなく離れた。
「これがぁぁ・・大人の接吻かぁ、物凄すぎて・・身魂が溶けてしまいそうだ」
「確かに凄いな、想像よりも何倍も・・・気持ちよかったぞ、でも大丈夫か、今日はここまでにしても良いんだぞ?」
 蕩けそうな表情の衣を見て、今度はからかうのではなく心配で訊ねる京太郎。
「心配・・無用・・・しよう京太郎」
「わかった、じゃあ脱がすぞ」
 衣の意思が変わらないのを確認した京太郎は、衣のネグリジェをゆっくりと脱がす。
「あっ・・・うっ・・」
 だが脱がされ終わった時に言葉を詰まらせて戸惑う衣は、自分の胸を手で覆い隠した。
「どうした?」
「その・・・京太郎に見られていると思うと、急に・・」
「恥ずかしいのか、風呂の時は平気だったのに?」
 風呂では隠そうとせず裸を見せつけようとしたのに、今になり羞恥心が出てきたのだろうか。
「そ、それもあるが、それだけではなく、男は原村ののかの様な立派な乳房が好きだと聞いたことがある、衣は子供では無いと思わないが・・・胸はののかに比べて貧弱、だから・・」
「もしかして、小さい事気にしているのか?」
「ああ・・・」
 照れながらしゅんと凹む衣を見て。
(ああ、もう可愛いな衣は・・・それに)
 実際は無用な心配なのだ、なぜならば京太郎のモノは既に・・・。
「安心しろ衣、そのな・・・」
 京太郎が寝巻きとトランクスを脱ぎ捨てると、そこには硬く大きくそそり立ったモノが、それを見た衣は目を丸くする。
「きょ、京太郎・・・それは・・な、なんなのだぁ!?」
「これはその・・あれだ、男の大事な部分って言うか、ペニス、男根、おちんちんとかマラとかって言えばわかるのか?」
 どれで言えば分かりやすいか、それがわからないので京太郎は知っている表現を適当に並べてみた。
「それが・・・男性器、おちん・・ちん・・か、こ、こんなに大きく腫上がってしてい、痛くはないのか?」
 初めて完全勃起したペニスを見た衣にとって、それは苦しそうに腫上がっているようにしか見えなかった、そのため心配そうに京太郎に訊ねた。
「う~ん、痛いというよりは苦しいかな、でもこれは衣のせいだからな」
「こ、衣のせいなのか、衣なにか悪いことを・・」
 からかい半分で言った京太郎の言葉に、戸惑い焦る衣、自分の思い人を不快にあるいは傷つけてしまったかもしれないと言う焦りからだろう。
「はぁ、あのな、男が女を前にして勃起する理由は一つだよ」
「勃起・・・それはその、つまり・・衣に性的興奮を感じてくれているのか?」
「ああ、別に胸が貧弱でも、衣の体と可愛い態度で興奮しているんだよ」
「そうか、衣で・・・・・ふふふ」
 安心したかと思うと、次は恥ずかしそうして頬を染めて、最後に嬉しそうに笑う衣。
「喜んでいるところ悪い、触っても良いか?」
「京太郎・・うん、触り放題好きにしろ」
 衣から許可を貰い、京太郎は衣の胸に触れる。
「ぷぅ・・く、くすぐったいぞ京太郎」
 どちらも慣れていないからか、最初衣にはくすぐったくしか感じられないようだ。
「少し我慢だ、だんだん良くなる・・らしい」
 京太郎も初めて触れる女性の肌に興奮を隠しえなかったが、突っ走ってしまいそうな自分をなんとか抑えて、痛みを与えないように優しく衣の胸をふにふにと揉む。
「うっ・・・あぅ・・へ、へんだぁぞ京太郎」
「それが、気持ち良いって事だ」
「これが・・ふあぁ、きもち・・いいっあふっ!?」
 初めて感覚に戸惑いながらも、京太郎を信じて身をゆだねる衣。
「衣の胸、小さいけど柔らかくて気持ち良いぞ」
「気にいって・・・あふっ、くれたかぁぁ!?」
「ああ、何時までも揉んでたくなるな、癖になりそうだ」
「よか・・ふあぁ・・った・」
 京太郎に褒められて、快楽に身を焦がしながら衣は嬉しそうに微笑んだ。
「さて、こっちの準備もしないと」
 胸を味わい、衣がだいぶ気持ちよくなったところで、京太郎の右手が衣の胸から離れ、下に向かいそのまま無毛の領域に・・。
「あっ、京太郎・・・そ、そこは・・ふあぁぁ!?」
 京太郎の指に、自分の大事な部分を撫ぜられて瞬間、衣は声を上げて体を震わせた。
(少し濡れているか、さっきのキスと愛撫で感じたのか・・・って無いか、たぶん衣が感じやすいんだろう)
 自分にはエッチの才能がある、と思うほど京太郎も自意識過剰では無いようで、衣の身体的及び精神的なものが大きいと考える。
「きょ、京太郎・・そこ弄られるのぉぉ・・・気持ちいけど、・・き、きたなくはないのか・・・?」
「大丈夫だよ、それ風呂に入っただろうさっき」
「そ・・そうふぁ・・」
 話しながらも指先を止めず、優しくわれめの周囲を撫ぜながら衣のわれめに軽く指を一本挿入してみる京太郎。
 くちゅ・・。
「ひゃぁ!、な、なんだぁぁ・・なにをしたんだぁ、京太郎・・」
「もしかしてここ触れたことないのか?」
 京太郎は挿入した指動かし、衣の膣を嬲りつつ訊ねる。
 くちゃ・・くちゃ・・。
「ひゃぁぁ!!、お風呂と・・・トイレぇぇ!・・の時くらいだ・・」
「そっか・・・自慰の経験も無いのか・・・」
 衣の答えに納得する京太郎、自慰の経験も無いのだろう、何物も侵入した事の無い衣の膣はきつく京太郎の指を締め付けていた。
(じ、自慰・・自分で慰める・・、確かそれは性的に・・・・なら、いま京太郎の触れているのは・・ころもの・・ち・つか・・?)
 くちゃ・・くちゃ・・くちゃ・・。
「ふあぁぁ!!、きょ・・たろう・・これは・・準備だろう・・」
「ああ、知っているんだよな」
「あっ・・ああ、確か・・その衣の膣に・・京太郎の男性器を・・」
 性交の知識を、ただたどしい言葉で説明しようとする衣。
「う~ん、膣じゃなくておま○こ、男性器じゃなくておちんちんって言ってみてくれるか?」
「おちんちんに・・おま○こ、そういう名称もあるのかか、何故か恥ずかしい気分になるな」
「でも、なんか衣がそう言ってくれると興奮するから、嬉しいな」
(は、恥ずかしいけど、京太郎が興奮して喜んでくれるな・・)
「わかった・・衣のおま○こに・・・京太郎のおちんちんを挿入するのか?」
 恥ずかしそうにしながらも、京太郎に言われた通りにする衣、そしてその思いと言葉が届いたのか京太郎のペニスはさらに硬く勃起すると同時に、我慢も限界だった。
「そろそろ挿入してもいいか?」
「き、京太郎のおちんちん、お、大きすぎないか・・そんなの衣のおま○こに入るのか?」
 改めて硬く勃起した京太郎のペニスを見て目を丸くする衣、衣からみればそれはただの凶器に見えて、とても自分の膣内に収まるとは想像できなかった。
「わからない、けど怖いなら止めるぞ」
「怖い、怖いけど・・・衣は京太郎との仲を深めたい、もっと京太郎と仲良くなりたい」
 まだ知らぬ恐怖に震えながら、衣の瞳には不安と期待、そして決意の色がにじみ出ていた。
「衣・・・衣の決意しっかり伝わった、挿入するぞ」
「う、うん、頼む京太郎、その・・激痛から絶叫してしまうこともあるかもしれない、なるべく耐えるが続け・うっ!?」
 悲痛な願いを語る衣の唇を、自分の唇で無理やり塞ぐ京太郎。
「わかっているから、ちゃんと最後までやるからな、どうしても駄目な時は『止めて』って言え、それ以外ならいくらでも続けるから」
「・・・わかった、衣も痛みが伴えば正直に言おう、だからしてくれるか京太郎?」
「もちろんだ、いくぞ」
「うん、京太郎、衣のおま○こに京太郎のおちんちんをいれてくれ」
 その誘い文句が最後になり、京太郎はペニスを衣のおま○こに押し当ててゆっくりと膣内に挿入した。
「ぐっ・・くぅ・・苦しい・・・」
 くちゃ・・くちゅ・・ぐちゅ・・。
 ゆっくりとゆっくりと衣の膣内に沈んでゆく京太郎のペニス、だが進むごとに衣の顔が苦痛にゆがむ。
「ぐっ・・ぐぅ!」
 京太郎もまた体と顔に力が入っていた、衣の膣内は京太郎の潜入を拒むかのようにきつすぎるほどきつく、一気に挿入するわけにも出来ず徐々に進めていくことしかできない。
 しかしまだ序盤で、しかもまだ先っぽが入ったかどうか・・・ようするに、まだこれからが苦痛も苦しみも快楽もこれからだ。
「・・うん?」
 京太郎は動きを止めた、ペニスの先になにやら当たる、拒むのは衣の膣内力だけではない、そう・・これは衣の処女膜だ。
「衣、これからは少し痛いぞ」
 届いているか否かは判断できないが、京太郎は衣の耳元で注意を促した後、力を入れて一気にペニスを押し込んだ。
 ズブッ!。
「いだぁぁ!!」
 処女膜を貫き衣の一気に置くまでペニスが到達した、衣は悲鳴を上げ表情は苦痛に歪み、それを証明するように衣と京太郎が繋がっている場所からは血がこぼれ出ていた。
「いたい・・よな、悪いな無茶して」
「もんだい・・ない、きょう・・たろう・・これで・・おわりはないのだろう?」
 痛みで目に涙を浮かべ、息を切らし苦しそうにしながらも、衣は続きを要求する。
「まあな、でも・・・」
「あうぅ・・」
 少しでも痛みを和らげようと、キスをしながら時間を稼ぐ京太郎。
「少しは痛いましになったか?」
「うん、それでわかった、京太郎のおちんちんは熱く大きくて自己主張が凄い・・」
 自分の下腹部を撫ぜながら、体験したことの無い感覚に戸惑っている衣。
「衣のおま○こも凄く熱くて、ペニスを締め付けてくれているな」
「それは、気持ち良いのか?」
「おう、気持ち良いぞ」
 気持ち良いという答えに満足げな笑みを浮かべる衣。
「そうか、でもまだ足りぬ、衣は知っているぞ、男が最高潮に達すると射精するのだろう?」
「ああ、沢山動かすと気持ちよくなって・・な」
(とりあえず・・やるとしたらゆっくりだけどな・・)
 いきなり激しくしたのでは衣の痛みを増すかもしれない、京太郎はそう考えていたのだが。
「ならば、衣のおま○こでもっと快楽を感じて欲しい、激しく動いて沢山射精してくれ」
 潤んだ瞳で頬を紅く染めながら願う衣を見て、京太郎のそんな考えは一気に吹き飛ぶ。
「うぉぉぉ!!」
 叫び声を上げたかと思うと・・。
「きょうた・・うぐぅ!?」
 ズブッズブッズブッ!!。
 京太郎は激しく腰を動かし、ペニスを衣のおま○こから引き抜いては押し込み、それを繰り返す。
「はげ・・あぐぅ!・・すぎるぞぉ・・きょうたろう・」
「わるい、衣があんまりにも可愛くて我慢できない!!」
(うっ、痛いけど、京太郎に可愛いって言われると・・け、堅忍してみせる!)
 謝りながらも京太郎は一切動きを止めず、抉りとるように押し込み引きずり出す。
 ズブッズブッジュブッッッ!!。
「ぎゅぅ・・きょうた・・ひゃぐ!!・・ろう、きもち・・」
「ああ、良いぞ、締め付けが凄すぎて気持ちよすぎて、もうすぐ射精しそうだぞ!」
「そ・・そうか・・いいか」
(少し苦しそうだな、ってこんなに激しく出し入れされれば苦しいか)
 衣が激痛に耐えていることは、京太郎の目にも見て取れたが、ここで止めれば折角ここまでやってきた衣の頑張りを無効にしてしまう、
それに京太郎自身、今止まり耐えるだけの精神も無い。
「衣!」
「なんだぁ・・ひゃぅ!あふぅ!」
 チュ・・チュ・・チュ。
(き、キス・・首にも!?)
 堅忍する衣の頬や首筋にキスをして、少しは痛みを紛らわせようとする京太郎。
「どうだ、少しは楽になったか?」
「あっ・・う、うん、京太郎に・・あはぁ!、せ・接吻されると楽になる・・」
 キスをされると心が暖かくなり、衣も痛みが少しずつ引いてくる気がした。
「そうか、じゃあ」
 チュ・・チュ・・・チュ。
「ひゃあぁあぐぅ・・あきゅ!」
 衣に何度もキスを繰り返す京太郎、キスされる度に少しずつ痛みが引いてくると感じる衣に、今度は別の感覚が襲い掛かる。
「あぅ・・あっく、な・・なんだぁこれはぁ!?」
「うん、どうした・・衣?」
 衣の声の変化に気付いた京太郎はキスを止めて、衣に状態を聞く。
「わ・・わからぬぅ・・理解不能ぅぅ!!、キスされていない・・お腹の奥がとても暖かくてぇぇぇ!!、こ、これは・・なんなのだ京太郎ぅぅ!!」
 自分の体に起こっている正体不明の感覚に、不安そうな顔を曇らせる衣。
(衣、まさか?)
 なんとなくだが京太郎には、今の衣の状態が理解できる気がした。
「な、なぁ衣・・うっ、お前まさか気持ちいいのか?」
「わ、わからぬぅ・・だが、暖かくて・・嫌じゃないぃぃ!」
 ペニスの動きに合わせて、表情をころころ変える衣を見て京太郎は確信した。
「そうか、衣もイキそうなのか・・・」
「い・・いくぅ!・・ど、どこにぃぃ!?」
「えっ~とな、絶頂に達するのがイクって言うんだ、わかるか?」
「頂点に達すると・・あくぅ!?・・つまりは・・射精みたいな・・ものか?」
「ああ、そうだ、俺も衣も気持ちよくてなるだ、衣も俺と一緒にイキたいよな!?」
 衣が感じていると思うと、京太郎の腰使いにも自然と力が入る。
 ズュブブッッッ!ズュブブブブブブ!!
「けんこうなぁぁ!!、きょうたろうのペニスぅぅぅぅ!!、すごい・・い・・いきたひぃ衣もいっしょに・・きょたろうとぉぉ!!・・いっしょにぃ・・」
 気持ちよさからか、だんだん呂律も怪しくなってきた衣の答えだが、それは確かに京太郎の耳に届き、さらに京太郎を興奮させて快楽の階段を一気に駆け上らせた。
「イクぞぉ、衣、衣ぉ!!」
「きょうたろうぅぅぅ!!いくぅぅぅぅぅ!!」
 ドクン!!ドクゥゥン!!ドクゥゥゥン!!
 京太郎が射精されると同時に、衣も絶頂に達した。
「あふひぃ!!しゃふねふれぇぇやけるぅぅぅぅ!!」
 大量の精液が吐き出されて衣の膣内が満たされる、だが絶頂のためピクピクと震える衣の膣内は、さらに精液を求めるように京太郎のペニスを締め上げる。
「くぅぅぅ!まだでるぞぉ!!」
 ドクゥゥゥン!!ドクゥゥゥン!!
「たい・・たいりょぅぅ!・・ころものなかぁ・・ぜんぶ・・そまるぅぅ!・・」
「はぁぁ・・・はぁ、ふぅぅ、大丈夫か・・衣」
「だ・・・いじょう・・ぶ・・だ・・きょう・・たろう・・は?」
 息も切れ切れ、初めての絶頂に、しかも体力のほとんどをもっていかれそうになったのに、少し苦しそうな表情をしながら衣は逆に京太郎の様子を気にしていた。
「俺はまあ平気だけど、とりあえず抜くぞ」
 男女による体力の差か、それとも京太郎が性行為に強いからか、どちらかはわからないが京太郎はすでに息も整え終えていた。
「そうか・・よかった・・・」
 京太郎が無事を確認して胸を撫で下ろして微笑む衣。
「気持ちよかったぞ、ありがとうな衣」
 チュ
 御礼を言いながらキスをする京太郎。
「ふふ・・・京太郎が喜んでくれるとは欣快の極み、衣も気持ちよかったぞ」
「痛いだけで終わらなくて、安心した」
 互いに気持ちよかった事を、再確認して京太郎も衣も嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「・・・そろそろ抜くな」
 未だ硬く、衣のおま○こに突き刺さったままのペニスをゆっくり引き抜く京太郎。
「あぅぅ・・・・うっ・・」
 敏感になっているため膣内が擦れて衣の体を快楽が走る、・・・そして抜けて数秒後に衣の膣内に収まりきらなかった精液が逆流してきた。
「うお・・、我ながらよくこんなに・・」
「すまない、折角京太郎が射精してくれたのに・・力が入らず溢れさせてしまった」
「そんなの一々気にするな、量が多いのはそれだけ気持ちよかったって事だから」
 落ち込む衣の頭を軽く撫ぜて慰める京太郎。
「そう言って貰えると、楽になると同時に嬉しくなる、優しいな京太郎は」
「全部本当の事だからな、でもこのままじゃシーツが汚れるから、拭こうか」
「そうだな、うっ・・足に力が入らない」
 激しい性行為からくる疲労と痺れで、衣は下半身に思うように力を入れられなかった。
「じゃあ、俺が代わりに拭くぞ」
 京太郎は衣の代わりに近くに置いてあったティッシュを数枚手にとり、溢れ出た精液をふき取り、更に溢れ出を防ぐために衣のおま○こにもティッシュ押し当てた。
「うっ・・何から何まですまないな京太郎」
「良いって、射精したのは俺だしな・・終わったかな?」
 もう溢れてこない事を確認して、京太郎は汚れたティッシュを丸めてゴミ箱に捨てた。
「綺麗にありが・・きょ、京太郎のおちんちん血が出ているけど、だ、大丈夫なのか?」
 お礼を言おうとした衣の視界に、京太郎のペニスに血がついているのが見えた。
「えっ、ああ、これは俺のじゃなくて衣の処女を貰った時についた血だ・・・ほれ」
 精液やら愛液やら破瓜の血を、ティッシュで拭き取り無事な事を証明しようとして、ペニスを衣に見せつける京太郎。
「怪我では無いのかそれなら良い、と、ところで京太郎はまだ満足できないのか?」
 ペニスに傷が無いことを確認して安心する衣、しかし次第に不安そうな表情に変わり京太郎に訊ねた。
「いや、凄い気持ちよくて満足したけど、なんでそんな事聴くんだ?」
「男が射精して満足すれば、おちんちんは小さく柔らかくなるはず、でも京太郎のおちんちんは硬くて大きいままだ、こ、衣に気を使って物足りないのではないか?」
「本当に満足しているって、でもまあ衣が魅力的だからどうしてもな・・」
「衣が魅力的だから、興奮して硬いままなのか?」
「そうだ、衣が魅力的過ぎるから満足しても、満足しきれないってとこかな」
「魅力的だからか・・・不思議だ、そう言われるとさきほどの不安が嘘のように消えてゆく、そんな暗い感情よりも、もっと衣を感じて欲しいと思う、京太郎もう一回しよう!」
 よほど京太郎の言葉が嬉しかったのか、もの凄くやる気を見せる衣だが、京太郎は首を縦には振らなかった。
「気持ちは凄く嬉しいけど・・・まだ足痺れているんじゃないか?」
「うっ、図星を射ている、その通りだが・・」
 衣自身、下半身はまだ思うように動かない状態であることは理解している、だが気持ちが逸り抑えきれない。
「京太郎知らないか、衣がおま○こ以外に京太郎を感じさせる方法を」
「う~~~ん、あるにはあるが」
 京太郎も歳相応の性的好奇心はあり、ネットや本で得た知識を記憶から引き出す。
(足は駄目だろ、素股もきついだろうな、アナルは準備がいるし、ぱいず・は絶対無理)
 衣の胸を見ながら、自分の愚かしい考えを否定する京太郎、最終的に上げたのは二つ。
「手か・口かな?」
「手と口、それはどうすれば良いんだ?」
(こんなこと教えてよかったのかな・・)
 と思いつつも、期待の眼差しを向ける衣を今更裏切るわけにもいかず仕方なく。
「まずは失礼して・・よっと、それで俺はこんなものかな・・・まずは握ってくれるか?」
 京太郎は衣を持ち上げて座らせて、ちょうど衣の顔の前にペニスが来るように自分の体勢を持ってゆく。
「握るとは・・こういう風にか?」
 衣は京太郎のペニスに右手を添えて・・・そして握る。
「それでそのまま前後に動かして扱くんだ」
「わ、わかった、始めるぞ」
 少し緊張しながら、京太郎の指示通り衣は右手を前後に動かしてペニスを扱き始めた。
 しゅ・・しゅ・・しゅ
 ゆっくりとした動きだが、ペニスには刺激があり京太郎は確かに快楽を感じた。
「おおっ、もう少し力を入れて、もうちょっと速くできるか」
「こうか?」
 恐る恐るだが、衣は京太郎の指示通りに握る手に力を入れて、スピードも上げる。
 しゅしゅしゅしゅしゅ
「うおっ・・気持ちいいぞ」
「・・喜んでいるな京太郎、よし、衣の手でもっと感じさせるぞ」
 京太郎の言葉に、衣は喜びやる気が上がりペニスを扱く手にも力が入る。
「ところで京太郎、さっき手と口と言っていたけど、口はどの様に使うんだ?」
「今手で扱いているだろう、さきっぽとかを舐めるんだ」
「そ、そんな行為が本当にあるのか・・?」
 予想外だったのか、驚いた衣の右手が止まる。
「あるんだけど、嫌なら別にしなくても良いんだぞ、今のままで気持ち良いし」
 いきなりペニスを舐めるのは抵抗があるのは京太郎にも分かっていて、決して無理強いはしない、衣も抵抗は否めないが・・・それでも。
「京太郎は・・その・・衣が京太郎のおちんちんを舐められると嬉しいか?」
 衣に聴かれて、衣がフェラチオをしているのを想像してみる京太郎。
 緊張した面持ちで口を近づけ、恐る恐るペニスに口付けして舐め上げるが、深い味に驚いて涙目になりながらも、それでも自分を喜ばせるために必死で続ける衣・・・。
「ごく・・良いな・・、衣のフェラチオしてくれたら、凄くそそられる」
 京太郎は思わず唾を飲み込み、そんな妄想に反応するようにペニスがピクッと動いた。
「フェラチオと言うのか・・・よし、衣はするぞフェラチオを」
 抵抗が無いわけではないが、京太郎の期待に満ちた目を見ていると、衣にふつふつと京太郎を喜ばせたいという意思が、その抵抗を上回った。
「良いのか?」
「二言無し、その・・痛んだら言って欲しい」
「わかった、じゃあしてくれるか」
 それが排泄器官だということを衣は知っている、だがそれよりも衣が気になっていたのはペニスが男の急所であると言うこと、
仮に傷つけてしまったらどうしよう、そんな考えが浮かんでいたが、京太郎のお願いで意を決する。
「う・・うん・・」
 京太郎の想像通り、緊張した面持ちそして恐る恐るペニスに口を近づけて一舐め。
「うっ!?」
「痛かったか!?」
「いや・・驚いただけだ、それに気持ち良いぞ」
 初めての感覚に驚いた京太郎だが、直ぐに笑顔で衣の頭を撫ぜる、それが衣のやる気を出させる。
「なら、もっと気持ちよくなってくれ!」
 れろれろれろ
 今度は恐れることも戸惑うことも無く、衣は舌を使い亀頭の先をれろれろと舐める。
「おおっ、これはかなり・・・下のさおの部分も頼む」
「さお・・ここか?」
 ぺろーーーん
 指示されて衣が舐めたのは裏筋の部分、舐められた瞬間、京太郎の体に電流の様な快楽が走る。
「うっ、いい、良いぞ衣!」
(褒めてくれた、京太郎が喜んでいる!)
 京太郎の表情と態度で、自分が喜ばせていると言う事をまじまじと感じる衣、それは同時に衣にも喜びを与えやる気をさらにかきたてた。
 ぺろーーーん・ぺろーーーん・・れろれろれろ
 裏筋や亀頭を舐め取り、ただ一心不乱にフェラチオをする衣、目で京太郎表情や仕草のチェックも忘れない。
「くぅ~~これはすぐに射精するかもな、先っぽを銜え込んでくれ!」
「うん、はむぅ」
 京太郎もそうだが衣また興奮状態で、亀頭を銜え込むと言うことに一切躊躇無く・・むしろ進んで、亀頭を銜え込んだ。
「うっ!、よ、よし、そのまま舌を使って舐めて、吸ったりしてくれ!」
「(こくん)」
 れろれろれろ・・ちゅゅゅ
 衣は軽く頷くと、銜え込んだままで舌を乱雑に動かして亀頭全体を舐めとり、吸い込んだりする。
「いいっ!!」
(苦いしそれに臭いが凄い、でも京太郎が感じてくれていると凄く嬉しい味だ・・)
 先走り汁の苦味も強い雄の臭いも、最初の戸惑いも嫌悪も無く、衣の中に溢れるのはただの喜びのみ。
(そうだ、両方すればもっと)
 れろれろれろ・・ちゅゅゅゅ
 思い立つと衣は直ぐに行動に移し、フェラチオをしながら右手でペニスを扱く。
「くっ、でるぅぅ!、のんでくれ衣ぉぉ!!」
(飲むって、なに・!?)
 衣がその言葉を理解する前に、射精が始まった。
 ドクゥゥゥン!!ドクゥゥゥン!!
(うっ・・おさえきれない!?)
 射精の勢いで衣の口からペニスが飛び出した、そしてそれでも射精は止まず。
 ドクゥゥン!ドクゥゥゥゥンン!!
 残りの精液は衣の顔や体に降り注いだ。
(すごい・・それにあつい・・これが京太郎の精液・・)
 初めて目撃した射精と精液の熱さに呆然とする衣。
「ふぅぅ・・気持ちよかった、って大丈夫だったか衣・・・口から垂れて・・」
「えっ・・うん!?」
 京太郎に声を掛けられて、衣は我を取り戻し半開きだった口を押さえ込む、そして思い出したのは京太郎が射精寸前に言った言葉。
(のむとは・・精液のことか)
 口を塞いだままで口内に射精された、精液を飲み込む衣。
 こくこく・・・と喉を鳴らして飲むが、粘り気が強く味も今まで口にした物とは違い臭いも強く、不味さ不快さが口内に広がり、吐きそうになるがそれを耐え切り衣は飲みきる。
「うっ・・ぷはぁぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
「衣大丈夫か、さっきは勢いで飲んでくれって言ったけど、別に飲まなくてもいいんだぞ」
 京太郎自身飲んだことはないが、美味しくない精液を衣が無理やり飲み込んだのは理解できた。
「はぁ・・そうなのか・・京太郎は自分の精液が飲まれても嬉しく無いか?」
「いや、そりゃああれだけ不味いくて臭いのを飲んでくれたら、それだけ俺のことが好きなんだなって・・・すっげぇ嬉しいけどよ」
 その言葉を聴いた瞬間、衣はさきほどまで感じていた不快感が消え去り、喜びが胸からあふれ出した。
「ならば良しだ、衣は京太郎を喜ばせたくてしたんだ、京太郎が喜んでくれたなら、それで良しだ」
「衣・・・気持ちよかったし、嬉しかったぞ、ありがとな」
 笑顔でお礼を言いながら京太郎は衣の頭を優しく撫ぜる。
「衣もうれしかったぞ・・これで・・衣と京太郎のなか・・は・・ふかまったな・」
 衣はにこにことしているが、少し口調がおかしくなっていた。
「そうだな」
「ふふ・・うれしい・・ぞ・・」
 ストン、と笑顔のままベッドに倒れこむ衣。
「衣!・・・って、あっ~疲れたのか」
「すぅ・・すぅ・・すぅ・・」
 笑顔のまま寝息をたてる衣、フェラチオで全ての性も根も使い果たしたのだろう。
「頑張ったもんな、ふぅ・・このまま静かに寝かせてやりたいけど」
 衣の全身は精液塗れ、このまま夜を明かせばどうなるか京太郎には想像もできない。

 京太郎は寝ている衣を起こさないように、ゆっくりと丁寧に精液を拭き取る。
「ふぅ・・・終わったな、しかし・・我ながら節操が無いな、はぁ」
 未だに硬いままの自分のペニスを見つめて、あきれ気味にため息をつく京太郎。
「どうするか・・一人でするのもちょっとな・・」
 さすがに京太郎も、寝ている衣を起こす気にはなれなかった。
「う~ん・・きょうたろう・・・」
「あっ、やべぇ起こしちまったか・・」
 失敗したかと思い衣の顔を覗き込む京太郎、しかし衣は寝息をたてたままだった。
「寝言か・・・しかし本当に可愛いな」
 京太郎は安心して胸を撫で下ろし、改めて衣の可愛らしさを噛み締めていると、次の寝言が聞こえてきた。
「ころもは・・きょうたろうが・・だいすきだ・・」
 それを聞いていると、京太郎の性欲も殺がれて何かをする気も無くなった。
「衣・・・俺も衣が大好きだ」
 そう言って京太郎は衣の頬にキスをして。
「おやすみ、衣」
 衣の横に寝転んで、衣と自分に布団を掛けて目を瞑った。

「うっ、う~~ん」
 差し込む日差しの眩しさで京太郎が目を覚ますと、見慣れない天井が目に飛び込んできた。
「うっ・・ここは・・」
「ここは衣の家だぞ、京太郎」
 京太郎は声が聞こえたほうに視線を向けると、可愛らしい生物が横になりながらにこにこの笑顔でこちらを見ていた。
「衣・・・あっ、そうか」
 ここが衣の家で、隣に寝ていた衣と自分が裸の事を認識すると、昨日のことが夢ではないと京太郎も理解した。
「おはよう京太郎・・」
「おはよう衣・・」
 互いにあいさつをし・・目覚めのキス。
「ふふ、なぁ京太郎お風呂に入らないか?」
 京太郎も衣も互いの汗やらなにやらで、体は汚れてべたべたしていた。
「そうだな、朝飯はまだだよな?」
「まだのはずだ」
「じゃあ一緒に入るか?」
「もちろんだ・・・でもその前に、もう一回」
 衣は京太郎に抱きつきながら顔を近づける。
「衣・・」
「京太郎・・・」
 チュ・・っと再びキスして、二人は幸せを噛み締めるのだった。

 同時刻
 ゲストルームの外では一が中の様子を見て、固まって立ち尽くしていた。
「なっ・・・!」
 叫び声を上げそうになった一は、なんとか手で口を塞いで押さえ込む。
(な、なに?、なんで衣が須賀君と抱き合ってキスしているの・・しかも裸で!?、えっ、なにスキンシップ?、
それとも・・まさかボクの予想が的中したって、あっ~ボクの目に狂いは無かったね・・・って、そうじゃないでしょう!)
 口を塞いだまま、頭の中でボケツッコミをする一。
(ここは注意するとか、でも衣すごく幸せそうだし、人の恋愛に口出しすべきじゃないよね、まずは透華に相談を・って、なんていえばいいんだ?、まさか朝声をかけにきたら、須賀君と衣が裸で抱き合ってキスしていたんだよね、って素直に・・・)
 透華に今の状況をありのままに話した状況を想像すると・・・。
『あら衣と須賀さんが裸でキスを・・、こここここ衣がははははは裸ぁぁぁ!?』
 顔面・・いや全身を真っ赤に染めて、ショックで気絶する透華が一の想像の中には居た。
(できない、できないよぉぉぉ、できるわけないよぉぉ!!、っていうかなんで須賀君の着替えを置いて、起こしにきただけなのにこんな目にあうのぉぉ!!、ボク何か悪いことした、小学生の時に事は反省したって神様ぁぁ!!)
 一は混乱していた、もう今までに無いほどに、しかしそれでも中から聞こえてくる音を聞き逃さなかった。
「・・それじゃあ、お風呂だお風呂に行くぞ」
「おお」
(危ない!)
 急いで物陰に隠れる一、その直後寝巻きを着た衣と京太郎が出てきた。
「そういえば着替えは・・と、おおもう洗い終わっているのか、さすがは龍門渕だな」
「衣は部屋から取ってくるから、先に風呂に入っていてくれ」
「ああ、先にまっているぞ」
 衣も京太郎も部屋の前から居なくなり、一が廊下に姿を現す。
「はぁぁ・・あっ、そういえば、須賀君に朝ごはんの事を知らせないと・・ここで待つか」
 大きなため息をつきながら、仕方なく部屋の前で京太郎と衣の帰りを待つ一であった。

 朝食後、透華の部屋にて。
「一・・衣と須賀さんの事ですけど」
「えっ、なななな、なにかな?」
 いきなり透華に聞かれて、一は今朝の光景を思い出し頬を染めて慌てる。
「どうしたんですの、そんなに慌てて」
「ううん、なんでもないよ・・あはは、それ須賀君と衣がどうかした?」
「いえ、今朝のお二人を見ているとなんと言えばいいのかしら、
凄く仲よさ気に見えて・・それは良いのですけど、もしかして須賀さんと衣は深い仲に・・」
ドキン!、透華の鋭い一言に一の心臓は爆発しそうに脈打った。
「って、そんな訳ありませんわよね、ほほほ」
「そ・・そうだよね、そんな訳ないよ・・うん、あはは」
(はぁ・・・透華、本当は大当たりなんだよ・・)
 口では笑いつつ、心でため息をつく一だった。
 
 同時刻、京太郎と衣は衣の部屋で二人で過ごしていた。
「それで衣、体は大丈夫なのか?」
 京太郎は膝の上に座っている衣に体調を聞く。
「う~ん、まだ京太郎のおちんちんが入っている様な感覚だ、それに少し歩きにくい」
「やっぱりか、辛くないか?」
「これは京太郎と仲が深まった証だからな、そう思えば辛くなど無い」
「なら良いんだけど」
 嫌な顔ではなく、笑顔で答える衣の頭を優しく撫ぜる京太郎。
「出かけられないのが少し残念だ、でも京太郎は一緒に居てくれるから、それだけで大満足だ」
「な~に、付き合い始めたばっかりだから、チャンスはいくらでもあるさ」
「そうだな、今日はこうしてのんびりと部屋で過ごそう、なぁ京太郎」
 そう言って前に回されている京太郎の腕に抱きつく衣。
「ああ」
「なぁ京太郎、衣と京太郎の関係を透華達に教えても良いか?」
「いいぞ龍門渕さん達は衣の大切な友達だからな」
「そうだ、透華達は大切な友達だ、だから京太郎の恋人になれた事もちゃんと教えたいし、言いたい、告白して寝屋を共に・」
「ちょっと、スットプ、衣ストップだ!」
 衣の口から出る言葉に、やばさを感じて慌てて止める京太郎。
「うん、どうした京太郎、何か間違いでもあったか?」
 突然止められた衣は不思議そうな首を傾げる。
「そうじゃない、そうじゃないが、もしかして寝屋でした何をしたか言う気か?」
「当然だ、ありのままを包み隠さずに話すぞ、何か不都合があるか?」
(不都合というか、普通はそんな事を・・・いや話す奴もいるか、クラスとかにも何人とヤッタとか話している男子も居るな、
それなら女性が話しても不思議じゃないか、でも・・)
 龍門渕メンバーに衣がそれについて話しているところを想像する京太郎。
(・・・なんとなくだが、あの龍門渕さんは怒りそうな気がする・・そうだ!)
「黙り込んでしまって、どうしたんだ京太郎?」
「あっ、いやほら、あれは秘め事だろう、それならあんまり大っぴらに話すことじゃない気がするんだが・・」
「おおっ、そうだったな秘め事は秘めてこそ、すまないな京太郎、つい嬉しくて事細かに説明してしまうところだったぞ」
「ああ、そうだな・・あはは」
(下手すると、キスや挿入からフェラチオの事まで話していたかもな・・・はぁ)
 感心しながら謝る衣の言葉を聴いて、京太郎は止めておいて本当によかったと思った。

 夕方になり、帰宅することになった京太郎は見送りを受けていた。
「お帰りになるなら正門からお帰りになれば宜しいのに」
「いや、あそこから出るのはちょっと・・・それにあんまり大人数も少し・・」
 今、京太郎達が居るのは裏門で見送ってくれるのは、衣と透華と一と歩にハギヨシの五人、
十数メートルはあろうかと言う正門にしかも大量の使用人の見送り付は、京太郎には少々耐え難いものがあった。
「えっ~と、美味しい食事をご馳走になった上に宿泊まで、何か何までお世話になりました」
「あら、お礼なんて宜しいのに、衣のお友達なのですからお気になさらず、いつでも来てくださって宜しくてよ」
「お気に召していただけたのでしたら光栄です、またのお越しをお待ちしております」
「はい、またのお越しくださいね」
「い・・いつでもきてね、須賀君・・」
 それぞれ見送りの言葉を口にするが、一だけは今朝の事を思い出してか微妙な雰囲気を醸し出していた。
 そして、最後は恋人である衣の番、一旦とは言え別れに少し残念そうな表情の衣。
「京太郎、今日はこれでさよならだが、また来てくれるか?」
「当たり前だろ、絶対会いに来るし、衣も来てもいいんだぞ、これ電話番号な」
 自分の携帯番号が書かれた紙を衣に手渡す京太郎、紙を受け取った衣も笑顔で答える。
「確かに・・受け取った、衣も会いに行くし、電話もするぞ」
「おう、まっているぞ、それじゃあそろそろ行くな」
 全員に挨拶を終えて、京太郎が帰ろうとすると。
「あっ、京太郎、忘れていたことがある」
 衣が突然声を上げた。
「あら、須賀さん何かお忘れですの?」
「えっ、いや、別にとくには・・・」
 一応、京太郎は自分の持ち物を調べてみるが、持ってきた物は全て揃っていた。
「違うぞ、物ではない・・・これだ」
 チュ・・。
 衣は京太郎に飛びついて唇を重ねた。
「なぁ・・なな・・」「えっ・・ええっ・・」
(あっ~やっちゃったか・・)
 突然の出来事に驚いて言葉も出ない透華と歩、一は今朝の事もあり声に出さず目の前の出来事を受け入れた、
ハギヨシはなんのリアクションも起こさない。
「こ、衣、いったい何を?」
「うん、恋人や夫婦が相手と別れる時は、こうやって接吻をするものだと聞いた事がある、それを今思い出したのでやってみた」
「えっ、ああ、そうか・・」
 衣が京太郎と離れると、透華も何が起こったのかを認識して衣に詰め寄った。
「こ、こここ衣、どういうことですの、いいいいきなりキスなんてぇ!?」
「おお、そうだ、聞いてくれ透華、一、歩、ハギヨシ」
とても健やか笑顔で楽しそうに、そして誇らしげに衣はその場に居る全員に宣言した。
「衣は京太郎と恋仲になったんだ!!」
「こ、こここここ、恋仲!?」「ええっ!?」「はぁ・・」
 透華と歩は驚き、一は短めのため息をついた。
「衣、ここ、恋仲って、その、あの、恋人って事ですわよね?」
「そうだ、衣は京太郎の恋人になったんだ」
「と言う訳です、よろしくお願いします」
 京太郎に抱きつきながら自慢げに話す衣と、覚悟を決めて頭を下げた京太郎。
「こいこいこいこい・・こいびと・・あはは・・はぁ」
「と、透華!?」
「お嬢様!?」
 ショックのあまり倒れこむ透華を受け止めたのはハギヨシ、そして慌てて駆け寄る一と歩。
「大丈夫、ショックが大きくて放心状態なだけです」
「どうしたんだ透華は?」
 何故透華が倒れこんだか分からず、不思議そうに見つめる衣。
「さ、さあな・・・」
 自分達が原因とは言えない京太郎は、同時にこの事態をどう収集するかと迷っていると。
「でも、これで衣と京太郎の仲は周知の事実となったな、改めてよろしく京太郎」
「ああ、改めてよろしくな衣・・大好きだぞ」
「衣も京太郎が大好きだ」
 どうにかなる、衣の太陽の様な笑みを見ていると京太郎はそう思えた。
    終わり。
最終更新:2012年03月01日 01:34